大学の授業に第三の道を見つけたい!

こんにちは。田原です。

2月17日のオンライン勉強会では、「オープンでフラットな関係」というものが大きなテーマになっています。

これは、Facebookグループ「反転授業の研究」で掲げているビジョンとも重なるものです。

ですので、筒井洋一さんの問題提起を良い機会として、教育のあり方、グループのあり方、社会のあり方について、みなさんと一緒に考えていきたいです。

昨年オンライン講座「ファシリテーションスキル入門」を実施するときに、なぜ、ファシリテーションスキルが重要なのかということを突き詰めて考えました。

上下関係においては、上から下に情報が一方的に流れるので、ファシリテーションスキルなんか必要ないんですね。

下に位置づけられている人に求められているのは、黙って受け入れて、言われた通りに行動するだけですから。

ピラミッド型社会においては、少数の自由に意見を言える「上の人」と、その他大勢の「下の人」が生まれます。

「下の人」に、面白くなくて、苦痛なことをやらせるために賞罰システムを作り、行動をコントロールしているわけですね。

この構造は、多くの歪みを生み出してきたのではないでしょうか?

これは、社会だけではなく、その縮図である教室でも見られる構造だと思います。
 
様々なレベルの教室において、教師が生徒を賞罰システムによって管理する試みが行われ、その結果、生徒の主体的な学びが抑制されて、自律的に学べない生徒が生み出されてきたのではないでしょうか?

では、どうしたらよいのでしょうか?

教室において、教師がコントロールを手放して支援に回り、生徒の主体性を促していくことが重要だという共通認識が、「反転授業の研究」の中には生まれつつあります。

しかし、コントロールを手放しただけではうまくいかない場合が多いです。

生徒は、小学校から教育システムの中で身につけてきた「教室における正しい態度」を身につけているからです。

つまり、受動的に学ぶ態度を、学んできているのです。

その生徒に対して、どのように働きかけていくのか?

京都精華大学の筒井洋一さんの試みは、そのための大きなヒントになると思います。

以下は、筒井さんのメッセージです。

大学の授業に第三の道を見つけたい!

大学で授業する人って、授業支援をしている人って誰かわかりますか?

専任教員(特任教員、客員教員など)が授業するのは当たり前ですが、それ以外に学外の専門家が非常勤講師やゲスト講師という肩書きで授業をされています。いずれもその分野の豊富な経験と学識に基づく得がたい授業です。非常勤の方には、低額の講師料をお支払いして担当してもらっています。

特に、私学では、もし非常勤講師の授業がなければ、大学の授業が成り立たなくなるくらい学外の方に依存しています。大学の知というのは、すでにかなり学外の知に依存しているということです。

大学の授業では、直接の授業担当者ではないですが、正規職員以外にも授業補助者の役割も大きいです。ティーチングアシスタント(TA)、スチューデントアシスタント(SA)、教務助手・補佐などの授業支援スタッフです。機材管理やレポート・出欠管理などの業務に従事しています。大講義でも出席管理やレポート・コメントカードの提出が増えていますが、教員一人で管理できないので、ゼミ生や院生、卒業生などがこうしたスタッフになってもらっています。彼らは、教員の権限下で忠実に業務を遂行します。 

大学の授業においては、これら二つの役割が大きな働きをしていますが、私は第三の道がないかと思っています。すなわち、雇用関係でもなく、上下関係でもない道です。豊富な社会経験や専門的なスキルを持っている学外の方にボランティアで関わっていただくことで、これまでの授業とはかなり異なります。もちろん、あくまでもボランティア的な関わりで授業に意義を見いだしたら、何の見返りもなく協力してもらえるような関係です。私は、これを共感でつながる学びの信頼関係と呼んでいます。

ちょっと厚かましいと思われ、一見すると夢みたいな話のようですが、現在の社会を見ればそうしたこともあながち夢ではありません。これまで盤石であった企業の終身雇用制度や年功序列制度も形骸化しつつあり、インターネットの普及によって、小さな組織であっても大組織に負けない業績を残せたり、本務とは別の分野で専門的な知識や経験を活かすプロボノ的な働き方も広がってきています。もちろん、生活保障のための給与は依然重要ですが、同時に、お金がすべてという価値観ではない生き方が広がっています。

一方で、上下関係で秩序を維持しようとする方法も限界が見え、対等の立場で取り組む生き方も広がっています。大組織ではなくより小組織で、トップダウンではなくボトムアップへという流れです。

組織の内と外の壁をできるだけ下げてオープンにしていき、同時に、その関係もできるだけフラットにしていくこと。これが、未来の方向性だと思います。

私は、大学の授業で、このオープン、かつフラットな環境を創っていけばどのような変化があるのかに関心があります。ここ三年間、これを実証しようとしています。

そんなことばかり考えるのではなく、ちょっとはまともなことしろよ! といつも言われています。はい。でも、やっぱりちょっとだけでも未来を見たいのでやめることができないです。

みなさんにもそういうことってありませんか?

2月17日勉強会では、こうした実践について話していきたいと思います。

2月17日21時30分から行います。
詳しい内容&お申込みはこちら

大学の大講義において、教員は無力なのか?

田原真人です。こんにちは。

2月17日の反転授業オンライン勉強会でお話しして下さる京都精華大学の筒井洋一さんが、Facebookグループ「反転授業の研究」に連続投稿して、授業についての問題提起をしています。
 
とても根本的な問いかけなので、広くシェアして、皆さんと一緒に考えたいです。

【2月勉強会に向けて講師からみなさんへ1.】

2月勉強会の講師を務めさせて頂く京都精華大学の筒井 洋一です。
よろしくお願いいたします。

2月17日本番に向けて、自己紹介も兼ねながら、勉強会に関わる話題をアップさせて頂きます。

本日は、「大学の大講義において、教員は無力なのか?」です。

大学の授業の種類は、大学設置基準によって、「講義」、「実習」、「演習」、「実験」などに分けられますが、授業時間および予習復習時間の規定以外の明確な規定はありません。「なんとなく講義」、「なんとなく実習」などの区分けで実施されています。

その中でも、開講数の多さを考えると、「講義」が大学の授業の代表です。1970,80年代の大学の授業と言えば、何百人もの学生を階段教室に詰め込んで、教員がマイクで黒板相手に授業していました。今日ではさすがにぎゅうぎゅう詰めの授業はかなり減りましたし、教員が話しっぱなしではなく、コメントカードなどなんらかの学生の反応を求める姿勢が出てきています。

しかし、依然として変わらない光景があります。講義室前列には熱心にノートを取ったり、教員の話を聞いている学生がいる一方で、後列では居眠りをしたり、携帯電話を見ていたり、私語をしていたり、講義室を抜け出す学生もいます。たまに教員が大声で叱責すると一瞬は教員の方へ顔を向けますが、しばらくすると元の木阿弥。結局、教員は、あきらめてそのまま授業を続け、学生も元のままになります。

これは、学習意欲を持たない学生も、それを抑えることができない教員も悪いのですが、実は、この現状の方が教員・学生双方にとって当たり障りのない皮肉な現状となっています。

私は、これはまずいと思います。かといって、出席を厳しくしたり、学生を叱責したりという教員の強制力を使うのではなく、他の方法がないのかと試行錯誤してきました。

ここ二、三年でようやくわかってきたのは、学生自身が学びたいという気持ちに気づけば変わっていくということです。

どうすればいいのか?

方法はいくつかありますが、教員側の授業観や学生観を変えると、授業は変わります。いくつか例示します。

1.教員一人で大講義の学生全員をホールドすることは無理だ、という認識を持つことです。
2.大講義の中では、学生一人一人を孤立させないことです。
3.教員は、他人の力を借りることを好機と考えることです。

具体的な中身については勉強会でお話しするとしても、私が過去三年間実践した経験にもとづいてお話しします。

私の経験は大学の大講義にもとづいた話ですが、小講義でも、あるいは学校や塾の授業でも応用可能です。みなさんにとって何かビビッと来るように準備します。

それでは、2月17日(火)午後9時半にお目にかかりましょう。
以下から申し込んで頂けるとありがたいです。

教員一人ですべてを管理するのは無理だということを認めると、どんな可能性が生まれるのか?
 
他人の力を借りるという可能性が生まれるんですね。
 
しかも、他人と上下関係を築くのではなく、オープンでフラットな関係にすることで、学生も巻き込んだ主体的な学びの可能性が生まれます。
 
僕は、それを、京都精華大学まで行って見てきました。
 
皆さんも、僕が感じた衝撃を、ぜひ、体験してみてください。
 
勉強会の詳しい内容&申し込みはこちら

たとえ話で分かる!「ID理論を使って授業改善をしてみよう」

田原です。
 
2/23日から4週間で実施するオンライン講座「インストラクショナルデザイン(ID)の理論を使って授業改善をしてみよう」
 
ワークショップ型のオンライン講座は、日本でもまだまだ珍しいものなので、インストラクショナルデザインをオンラインで学び合いすると、どんなことができるようになるのか?
 
ちょっとイメージするが難しいという方もいらっしゃると思います。

そこで、「インストラクショナルデザイン(ID)の理論を使って授業改善をしてみよう」の講座のイメージを、たとえ話で伝えてみたいと思います。
 
それでは、たとえ話スタート!

★ID星からきたヨネシマンとアサダマン★
 
ユフさんは高校教師。
 
反転授業を導入して英語を教えています。
 
「今年の授業も終わり。来年、どうしよー。」
 
「アクティブラーニングに乗ってきた生徒と、そうでない生徒がいたんだよなー。どうすればいいのかな。」
 
ヨネシマン「IDの理論にヒントがあるかも。じぇじぇ!」
 
「あ!ヨネシマン」
 
「生徒にもっとやる気を出してもらいたいだよね。どうしたらいいのかなー。」 
 
ーーヨネシマンは、口からARCSモデルを取り出したーー
 
「なるほど。私の授業には、R(関連性)の部分が欠けていたのかもしれない。」
 
「でも、どうしたら、私の授業にRを組み込めるだろう??」
 
  
  
仲間たち「私はこうやってる。私はこうやってる。私はこうやってる・・・・・・・・・・・・・」
 
へぇーーー。いろんなやり方があるのね。仲間たちのやり方を見ていたら、自分のやり方を思いついちゃった。
 
でも、問題はそれだけじゃないのよね。
 
授業がうまくいったかどうか、いつも何となく、直感で判断していたんだけど、もっとちゃんと判断できないのかなー。
 
 
アサダマン「目標記述をやるといいよ。シュワ!」
  
「あ、アサダマンだ!」
 
「確かにそうね。目標がはっきりしていなかったから、うまくいったかどうかの判断もできなかったのね。だから改善もしにくいのね。」
 
ーーアサダマンは、ADDIEモデルをテレパシーで送ってきたーー
 
なるほど。改善していくための仕組みを作っておくわけね。
 
でも、実際に目標を記述しようと思ったら、どう書いていいかわからないんだけど。。
 
仲間たち「私はこうやってる。私はこうやってる。私はこうやってる・・・・・・・・・・・・・」
 
そうか。そうやればいいのか。やり方が分かってきた。
 
「じぇじぇ!」「シュワ!」
 
 
このようにして、ヨネシマン&アサダマン&仲間たちとの学びは4週間続き、ユフさんの授業は、どんどんブラッシュアップされていったのであった。
 
★たとえ話終了★

このたとえ話を作ったら、江藤由布さんが、これをビデオにしてくださいました。
 
とりあえず、これを見てください!!

ID講座一人芝居(2015-02-09 10.16) from eigotokka on Vimeo.

 

オンライン講座では、運営ボランティアも合わせて30-40名での学び合いを行います。
 
IDの理論を学び、専門家の米島さん、淺田さんが考えた問いを手掛かりに、自分の授業を振り返ります。
 
そのときに、一緒に学んでいる仲間の取り組みをMoodleのフォーラムですべて見ることができます。
 
5-6人のグループを作り、ワールドカフェ形式でメンバーを入れ替えながら、多くの人の考えを参考にしつつ、学んでいくことができます。
 
この「仲間たち」の存在が、あなたの学びを促進してくれると思います。
 
つまづいたときには、米島さん、淺田さんから適切なアドバイスをもらうことができます。
 
4週間で、授業を様々な角度から見直すことができ、いろんなアイディアが湧き、希望に溢れて新年度に向かうことができると思います。
 
詳しい内容はこちらをご覧ください。

第17回反転授業オンライン勉強会―筒井洋一さん(京都精華大学)

「反転授業の研究」の田原真人です。
 
反転授業やアクティブラーニングを導入する方の多くは、学習者の主体的な学びを引き出すことを目標にしているのではないでしょうか?
 
主体的な学びを引き出すためには、教師がコントロールを弱め、生徒が自由に活動する場を創る必要があります。
 
しかし、教師と生徒という小学校から続く固定化した役割は強固なものがあります。

どうしたら、生徒が枠組みから出て行動することを支援できるでしょうか?
 

この問題に対して、先進的な取り組みをしているのが、京都精華大学の筒井洋一さんです。
 
筒井さんの取り組みをうかがって衝撃を受け、昨年の12月には、実際に大学を訪問して、学生に交じって授業を受けてきました。

京都精華大学人文学部教授 筒井洋一さんにインタビュー

京都精華大学「情報メディア論」を見学して
 
今回の勉強会では、筒井さんにお話ししていただき、みんなで話し合いたいと思います。

事前にこちらの問題提起がされていますので、お読みください。

大学の大講義において、教員は無力なのか?
大学の授業に第三の道を見つけたい!
学外の人がどのように授業に関わるのか1—授業協力者(Creative Team:略称CT)という役割—
学外の人がどのように授業に関わるのか2 —見学者という役割—

日時:2/17(火) 21:30-23:00

場所:オンラインルーム WizIQ

参加費:無料

登壇者:筒井洋一さん(京都精華大学)

タイトル:授業をオープンにし、つながりをフラットにすると、何が変わるのか —協力者や見学者が学びを変える—
 
※第2部では、ビデオチャットを使ったグループワークを行いますので、ビデオチャットの用意をお願いします。ビデオチャットの用意をされていない方は、メインルームでテキストチャットによるグループワークとなります。

授業をオープンにし、つながりをフラットにすると、何が変わるのか —協力者や見学者が学びを変える—

筒井洋一さん(京都精華大学)

(内容)
 文部科学省が進める次期学習指導要領にアクティブラーニングが盛り込まれ、大学でも同様の動きが始まっています。これは、これまでの知識注入型の教育から、学習者による能動的な学習の大切さが認識されてきた証拠です。

 これまでの教育改革は、コンピュータやiPadなどの機材の導入、アクティブラーニングや反転授業などの教授法・教材・カリキュラムの改革などがおこなわれてきました。私もそれを取り入れていますし、とても意味のあることだと思います。

 しかし、私は、教育改革においては、できるだけ原点を大切にしたいと考えています。これまでいろいろの改革はありましたが、学習の原点である「授業=教員と学習者だけの閉鎖的な学習環境」には誰も手をつけませんでした。

 今回の問題提起では、そこを考えて見ようと思っています。もし授業をオープン、かつフラットにすれば、学習環境はどのように変化していくのでしょうか。未体験ゾーンへようこそです。

 もちろん、私のようなドラスティックな取り組みがすべてだとは思っていません。むしろ、みなさん自身の学習環境を一度見直してみるきっかけを提起できればと考えています。
 では、よろしく。

●問題提起の目的

教師と学習者の閉鎖的な学習空間を見直すことで、教育の未来を考える

●問題提起の目標

自らの学習空間を見直すことができる
教師や学習者の役割を見直すことができる
他の人(受講生でも、外部者でも)と授業について相談してみることができる

●ルームに分かれた後の話し合いのテーマ(案)
「自分の授業をオープン、またはフラットにするアイデアを考えて見よう」

お申し込み方法

(1)このページからお申し込みください

お申し込みはこちら

(2)自動返信メールに参加方法が書いてありますので、指示に従って参加してください。

※自動返信メールの内容

【入室準備】
Windowsの場合は、下記のページからデスクトップアプリをダウンロードしてインストールしてください。
http://www.wiziq.com/desktop

iPadからの参加の場合は、WizIQのアプリをインストールして下さい。

Macの場合は、ブラウザで直接ルームのURLにアクセスしてください。うまくつながらない場合は、ブラウザを変えてみてください。

自動返信メールに書いてあるルームのURLをクリックすると、「Launch Class」というボタンが現れますので、それをクリックしてください。

Screen Nameの記入を求められますので、お名前を入力してください。

【入室方法】

上記の準備を終えた後、自動返信メールに書いてあるURLをクリックすると、自動的にWebルームにつながります。
 

初めて参加する方は、以下の動画をご覧ください。

場の力を信じてコントロールを手放していくとドラマが起こる

田原です。こんにちは。

アウトプットを繰り返していくことのメリットの1つは、自分の中の整合性が高まっていくということだと思います。

バラバラだった考えが、アウトプットするたびにお互いにつながっていき、自分自身に対する説得力が増してきます。

ときには、考えがつながっていった結果として、内在していた矛盾が表面化してくるときもあります。

突き詰めて考えていった結果、こっちの発言と、あっちの発言は矛盾しているということに気づくのです。

矛盾を抱えた状態は苦しいので、矛盾を解消しようとして、考えや行動を変えることになります。

前回の「ファシリテーションスキル入門」のときに僕の心の中に生まれたは、まさにそういう矛盾であり、矛盾を解消するために「集客」という手法を手放すことになりました。

「ファシリテーションスキル入門」での気づき

もう少し詳しく説明します。

ファシリテーションについて学んでいくうちに、あることに気づきました。

ファシリテーションスキルとは、グループ間にフラットな関係を築き、メンバーが生き生きと活動できるようにして、そこから様々な価値を創発させるためのスキルだということに気づいたのです。

グループ内に権力関係があり、少数の人が他の人をコントロールしてしまうと自由な活動は抑制され、自己組織化は起こらなくなります。

ファシリテーションについて学び、アウトプットしていくうちに、自己組織化が起こるような場を作るためには、運営者が場の力を信じてコントロールを手放し、関係をフラットにしていくことが必要だということについて、本当の意味で腹落ちしました。

しかし、それは、僕の中に大きな矛盾を引き起こしました。

「ファシリテーションスキル入門」というオンライン講座を、いわゆるWebマーケティングの手法を使い、講座のメリットを書きたてて、販売していたからです。このような枠組みは、運営者側と受講者側の間に、教える側と教わる側という明確な区別を生み出してしまい、フラットな関係を築くことの妨げになっているのではないかと思ったのです。

ファシリテーションに対する理解が深まったことで、講座販売の手法との間の矛盾が生じ、身動きが取れなくなりました。

それで、そのことを正直に書き、申し込みページをすべて書き直しました。

それが、こちらです。 → 「ファシリテーションスキル入門」(講座は終了しています)

コントロールを手放したらドラマが生まれた

その結果、いろんな人からメッセージが届きました。

たくさんのアドバイスをもらいました。

江藤由布さんは、受講者なのに、講座紹介のビデオを作ってくれました。

講座は、過去最高の盛り上がりを見せ、脱落者ゼロを達成し、週末の雑談ルームは毎回大盛況。講座が終わってからは、OG・OBのFBグループが自発的に生まれました。
 
これは、僕にとって、全く予想を超えた出来事でした。そして、すべてが予定通りに進めようとして管理するよりも、コントロールを手放して、場を信じて、予定外の素敵なことが起こるほうが何倍も楽しく、学びが多いのだということを理解しました。

この経験を通して、これまでは、運営者である僕が、メンバーの主体的な活動を抑制していたのかもしれないと思い、これからやる講座は、できるだけ場の力を信じて運営していこうと決意しました。

教室との相似関係

講座の運営は、教室の運営と相似関係にあります。

教師が場の力を信じてコントロールを手放すことで、生徒が主体的に活動する余地が生まれるのです。

これが、反転授業やアクティブラーニングが成立するための非常に重要なポイントだと思います。

壇上の賢人から寄り添うガイド役へ

というキャッチフレーズは、壇上で生徒をコントロールしていた役割を手放し、生徒の主体的な活動を支援していくという役割の変化を表すものだと思います。

しかし、自分自身も感じていることですが、コントロールを手放すということは、なかなか難しいことです。

よい結果になるという保証がないからです。ついつい保証を求めてしまいたくなると、管理を強める誘惑に駆られます。

そんなときに役立つのは、体験をシェアすることではないでしょうか。

コントロールを手放しても、「いきあたりばっちり」で素敵な結末がやってくるということを信じられるようになれば、場の力を信じて任せることができるようになってくると思います。

「反転授業の研究」は、主体的な学びを実現するための方法を学び合う場です。

ですから、「反転授業の研究」が運営するオンライン講座は、場の力を信じてコントロールを手放し、ドラマを生み出していくようなものにしたいです。

そこでの体験をシェアすることが、教室で悪戦苦闘している教師に対するエールになると思います。

ドラマが始まった~運営ボランティアの導入

ファシリテーションスキル入門での素敵な体験を経て、「インストラクショナルデザイン(ID)の理論を使って授業改善してみよう」では、さらにもう一歩進める決意をしました。

それが、運営ボランティアの導入です。

運営者と受講者という関係を崩していくための切り札になると思っています。

運営ボランティアの導入については、京都精華大学の筒井洋一さんの情報メディア論で導入されている授業協力者(CT)を参考にしました。どのようにして授業をやっているのかを知りたくて、京都精華大学まで見学に行きました。

内発的動機に基づいて行動する人が加わることで、学生の主体的な行動が促進されていく様子を見て、これこそが僕たちの未来を切り開くものなのではないかと思いました。

それで、4-5人の運営ボランティアを募集しようと思い、これまでにオンライン講座を受講したことのある人のリストに一括メールを送りました。

誰か、手を挙げてくれるといいなーと思いながら、恐る恐る送信ボタンを押しました。

するとメールを送った後、1時間くらいのうちに、次々と「やります!」というメールが届き、あっという間に5人になり、募集を締め切るメールを送ることになりました。

しかし、その後、

「もう運営ボランティアは、締め切ってしまったのですね。」

「やりたかったけど、仕方がないですね。」

というような、残念そうなメッセージが何通も届き・・・・。

結局、人数を増やすことになり、9名のモチベーションがものすごく高い運営ボランティアと一緒に講座の企画をすることになりました。
 
運営ボランティアの方は、テーマによっては講師の役割を担うことができる実力を持った方たちで、こちらからお願いしようと思っても、これだけ力のある人たちを9人もボランティアで集めるのは不可能です。本当に貴重なことだと思います。

申し込みページを見ていただけると分かるのですが、講師と運営ボランティアを合わせると、

・高校教師
・日本語教師
・塾講師
・大学教員
・医療教育
・企業研修

など、様々な属性をカバーすることができています。これは、講座内容を決めていくときに、各属性の方のニーズを把握することができ、とても役立ちました。

「印刷できるチラシがあればいいのではないか」

というアイディアは、運営ボランティアの倉本龍さんから出てきたものです。職員室で同僚に紹介するときには、印刷したチラシがあったほうがよいという経験に根差したアイディアで、早速、採用することになりました。

(印刷用のチラシのダウンロードはこちら :自由に印刷して配布してください。)
  

ドラマは広がる~受講者が熱心に講座を広めてくれる

 
講座の告知をしてすぐに申し込んでくださったうちの一人が、薬剤師の松本梓さん。
 
好奇心と行動力に溢れた方で、ファシリテーションスキル入門に続いての受講となりました。
 
Facebookを眺めていたら、講座のことを熱心に紹介して下さっている投稿を発見。松本さんの投稿でした。
 

教えることは学ぶこと。
 
2014年、緩和ケア科ローテーター向けのレクチャーを担当するという幸運を頂きました。

初めは、
「私が医師に教える事なんて…(>人<;)」
と尻込みしていました。

けれど、毎回毎回ポジティブなフィードバックを頂き、改良を加えてより効果的に、より深い学びを、と探索していった結果、とても大きな成長を得られたことに気づきました。

びっくりです。

そして、私自身が何を提供したいと思っているかも、少しずつですが、見えてきたような気がします。

今年はさらにたくさんの医師が緩和ケア科をローテーションしてくださるそうで、私もレベルアップのためにこちらの講座に参加します(*^^*)

私の、オンライン講座との出会いは去年の「ファシリテーション入門講座」。

初めての本格的なファシリテーションの学びでしたが、素晴らしいサポート体制のお陰で、最大の学びを得る事ができました。

さらに、一緒に受講していた教育に情熱を燃やす素敵な先生方と繋がる事ができました。

自宅でも受講可能なオンライン講座。

今回は、医療教育にシュミレーション教育を導入されている先生も講師に立たれるということで、とても楽しみです☆

 
受講者の方が、自発的に講座を熱心に勧めてくれるというのは、素敵なことです。
 
講座の温度が、確実に上がってきました。

さらにドラマは続く~推薦文を書きたいという依頼が来た

昨年実施した「反転授業やりたい教師のための授業設計入門」の受講者である(有)ふぁいん代表の加藤久美子さんから、次のようなメッセージが届きました。

「IDの講座に受講生の声(推薦文)を書かせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」

推薦文というのは、一般的には、運営側がお願いして、場合によっては報酬を支払って書いてもらうものですよね。

加藤さん:「推薦文を書きたいけどよろしいですか。」

田原:「はい。お願いします。」

このやり取りは、まったく一般的ではありません。ファシリテーション入門のときの江藤さんのように、ここでは、とても素敵なことが起こっています。

今回の講座でも、すでにドラマは始まっています。

どんな結果になるのかは分かりませんが、「いきあたりばっちり」をだいぶ信じられるようになってきました。

きっと素敵な結末が待っていると思います。

加藤さんの推薦文を追加しました。講座紹介はこちら↓

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インストラクショナルデザイン(ID)の理論を使って授業改善してみよう

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なぜ、今、インストラクショナルデザインを学ぶのか?

こんにちは。Facebookグループ「反転授業の研究」を主宰しています田原真人(たはらまさと)です。

2012年にFacebookグループを立ち上げてから、教育分野における劇的な変化を肌で感じてきました。昨年1年間だけでも、次のような変化がありました。

  • 2014年、佐賀県の武雄市で、すべての小学校にタブレット端末を配布し、反転授業を実施。
  • 文科省が初等中等教育において「アクティブラーニング」を重視する方針を打ち出した。→中教審答申
  • わずか1年半で、「反転授業の研究」が2600人以上のグループになった。

今後、多くの学校で反転授業やアクティブラーニングの導入が進んでいくのではないかと思います。

でも、教師にはそれぞれ、今まで工夫を重ねてきた授業スタイルがあります。そこには、あなたの教育に対する思いが込められているはずです。それを変えることは簡単なことではないと思います。

だから、ゆっくり考えていきたいです。

キーワードは、「社会構造の変化」「本当に生徒の役に立つ教育」です。

この2つのキーワードが重要だということは、多くの方が納得して下さると思います。

社会構造の変化を踏まえて、これからの世界を生きる生徒にとって本当に役立つ授業とはどんなものなのかを、一緒に考えていきませんか?

この文を最後までお読みいただくと、私が、なぜ、反転授業を実践しているのか、なぜ、インストラクショナルデザインを学んでいるのかが分かっていただけると思います。

21世紀に羽ばたく子供たちに求められるスキルとは

まずは、社会構造の変化から考えていきましょう。

21世紀は変化の激しい社会だと言われています。急激にグローバル化が進み、それに伴い、社会構造が変化しています。

日本の社会構造は、工業化社会から知識基盤型社会へ移行しつつあり、「反復的な作業」「基礎知識のみが必要な作業」「肉体労働系の作業」といった仕事は、開発途上国へアウトソースされる割合が高まり低コスト化しています。

経済学者は、今の大学生が退職するまでの約50年間、「15種類以上」の仕事に就くだろうが、それらの仕事は「現在存在しない職種」であると述べています。現在、先進国で需要のある職種のうちトップ10に入っているものの多くは、2004年には存在しなかった仕事です。

仕事の内容や職種が常に変化し、今後、どのような種類の仕事が生まれるのか、そしてどのようなスキルが必要とされるのかを予測するのは難しくなっています。

このような社会構造の変化により、教育は、どのように変わることが求められているのでしょうか?

 

20世紀の日本は、終身雇用を土台とした工業化社会でした。このような社会で必要なのは、マニュアルに従って素早く正確に作業を行うスキルでした。

社会的要請と一致する形で、ほとんどの教室では一斉講義型の授業が行われ、教科書の内容を理解したり暗記し、正確にアウトプットできるように習得することに重点がおかれていました。

 

しかし、知識基盤型社会では、答が分からない問題に対して取り組む力が必要になります。

そのために必要なのは、批判的思考力をはたらかせて仮説を立て、それを検証すること。つまり、試行錯誤を繰り返しながら、問題解決していく力です。

多くの問題は個人では解決できないので、コミュニケーションを図りながらコラボレーションしていくことも必要になってきます。

このような知識基盤型社会で必要となってくるスキルは、21世紀型スキルとしてまとめられています。

21世紀型スキル

  • 批判的思考力(批評精神を持って考える力)と問題解決能力
  • コミュニケーションとコラボレーションの能力
  • 自立的に学習する力
  • ICT(情報通信テクノロジー)を確実に扱うことのできる能力・スキル
  • グローバルな認識と社会市民としての意識
  • 金融・経済に対する教養
  • 数学、科学、工学、言語や芸術といった分野への理解を深めること
  • 創造性

21世紀の授業が目指すもの

社会構造の変化を踏まえると、21世紀に生きる生徒に役立つ授業には、

「物事を批判的に捉えて仮説を立てて検証し、試行錯誤を通して問題解決方法を見つけていくスキルの養成」

「生徒が仲間とコミュニケ―ションをとり、協力していくスキルの養成」

などが入ってくると思います。

これらは、生徒が主体的に学んでこそ、身につけることができるスキルです。

でも、どうしたら、生徒は主体的に学ぶのでしょうか?

これは、なかなか難しい問題です。

教師が教壇から、「主体的になれ!」「失敗を恐れるな!」と声高に叫んだり、成績などの「アメとムチ」を使って教師がコントロールを強めたりしても、多くの場合、失敗します。逆に、生徒の主体性は抑圧されていき、失敗を恐れるようになってしまいます。

しかし、一方で、コントロールを弱めて放任すれば、一人で学ぶ力が十分に育っていない学習者は、学びそのものをあきらめてしまうでしょう。

教師の中には、この「管理と放任のジレンマ」に陥っている方も多いと思います。

私は、21世紀の授業は、管理と放任の中間領域に存在すると考えています。つまり、

生徒が主体的に学べるような学習環境を作り、生徒に適切な自由を与えて試行錯誤させる

ということなのではないかと思います。

  • インストラクショナルデザイン(ID)
    → 生徒が学べるような学習環境を作るのに役立つ理論
  • ファシリテーションスキル
    → 生徒に適切な自由を与えて試行錯誤させるのに役立つスキル

この2つは、21世紀の授業を支える土台なのです。

そして、この土台の上で、生徒の試行錯誤を支援していく授業スタイルが、アクティブラーニング型授業や反転授業です。

インストラクショナルデザインの知識は、21世紀へ羽ばたく子供たちを育成したいと願う教師の心強い味方なのです。

だから、私は、反転授業を実践し、インストラクショナルデザインやファシリテーションを学んでいるのです。

インストラクショナルデザイン(ID)の理論を使って授業改善する

「社会構造の変化」と「本当に生徒に役立つ授業」という2つのキーワードで考えたときに、生徒が主体的に学べるような環境作りが必要だという結論を得ました。

そのような学習環境を作るために、インストラクショナルデザインの知識を利用することができます。

このオンライン講座では、授業設計に役立つ7つのID理論を学びます。

  • ガニエ9教授事象
  • メーガー三つの質問
  • メリルの画面構成理論
  • メリル インストラクションの第一原理
  • ケラー ARCSモデル
  • ガニエ 学習成果の5分類
  • ADDIEモデル

1週間に、1つ、または、2つのID理論を学びます。そして、それらの理論をもとに、メイン講師の米島さんの出す問いを手掛かりにして、授業設計について考えていきます。

あなたの授業は、このうちのいくつに「Yes」と答えられますか?

  • 「あなたの単元、授業は構造化されていますか?」
  • 「あなたの単元、授業では到達目標が明示されていますか?」
  • 「学習者一人一人が目標に到達したかどうか判定するテストはありますか?」
  • 「学習内容は課題分析されていますか?」
  • 「あなたの単元、授業、教材など、それぞれの階層の教授単位ではフレームを用いていますか?」
  • 「あなたの単元、授業は現実の世界に応用できますか?」
  • 「あなたの授業、教材は学習の動機付けが考慮されていますか?」
  • 「あなたの授業では学習内容に応じた最適な学習形態、学習提供手段が選択されていますか?」
  • 「あなたの単元、授業はISDに準拠してデザインされていますか?」
  • 「またデザインプロセスにおける形成的評価はされていますか?」

もし、「No」がたくさんある場合は、この講座で授業を大きく改善できると思います。

これまでになかった新しいオンラインの学び方

本講座では、受講者と授業協力者の5-6名の混成グループをいくつか作ります。

問いに対応する課題をMoodleのフォーラムに提出し、グループ内で相互にコメントし合うことで、各理論についての理解を深め、さらに自分の授業との関連性への気づきを深めていきます。

Moodleのフォーラムを使った非同期のグループワークは、毎週メンバーをチェンジするワールドカフェ形式で行います。

また、週に1度、GoToMeetingのオンラインルームに集まってリアルタイムセッションを行い、それぞれが1週間で学んだことを共有します。

このときは、受講者が一人ずつビデオチャットで登場し、2分程度、その週に学んだことについてコメントしたり、講師に質問したりします。

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※写真は「AL型授業実践者のためのスキルアップ講座」のときのものです。

その他に、週に1度、オンラインの雑談部屋を開きます。まじめなリアルタイムセッションとは違って、雑談部屋は本音トークが飛び交います。授業実践に取り組む中で生まれる悩みを雑談部屋でシェアすることで、意外な解決策が見つかることもあります。

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※写真は「AL型授業実践者のためのスキルアップ講座」のときのものです。

様々な運営上の工夫を重ね、「反転授業の研究」が主催するオンライン講座は、2回連続で脱落者ゼロを達成しています。

オンラインであっても、「会っている」「参加している」という実感を感じることができるからかもしれません。

これまでの講座では、講座終了後も受講者同士の関係性が継続し、多くのコラボレーションや、オンラインの学習コミュニティが生まれています。

教師の主体的な学びが、生徒の主体的な学びを促す

私たち教師の多くは、20世紀型の授業を受けて育ってきました。

21世紀に対応できる子どもを育てるような授業をしたいと思えば、私たちは、体験したことのない授業スタイルを、試行錯誤しながら見つけていかなければならないのです。

しかし、視点を変えると、ここには大きな希望があります。

それは、「管理と放任のジレンマ」を乗り越えるための切り札でもあります。

「反転授業の研究」で多くの実践者に触れる中で見つかった重要な知見があります。

それは、

教師の主体的な学びが、生徒の主体的な学びを促す

ということです。

 

私たちは、教師が学ぶことのできる環境をFacebookに作り、2600人の多様な属性を持った仲間と日常的に学び合いを行っています。

そして、今回は、Facebookグループの有志により、21世紀の授業の土台となる知識であるインストラクショナルデザイン(ID)を学ぶ場を作りました。

 

せひ、あなた自身が、21世紀型スキルを発揮し、インストラクショナルデザインについて主体的に学んでください。

教師のあなたが、失敗を恐れずに新しい授業スタイルに取り組み、試行錯誤する姿こそが、あなたの生徒の主体的な学びを促すのです。

 

私たちがオンラインに構築する学習環境と、ファシリテーションのやり方について知ることも、あなたにとって役立つと思います。

講座が終わった後も、授業改善についての学びは続きます。

4週間の講座の後、あなたは、授業設計について気軽に相談し合える仲間とオンラインでつながっているはずです。

講座が終わった後は、ぜひ、あなたが中心になって、あなたの周りに「教師の学習コミュニティ」を作ってください。

オンラインでつながった仲間が、あなたをサポートしてくれると思います。

まとめ

  • 21世紀に生きる生徒にとって役立つ授業には、21世紀型スキルの養成が含まれる
  • 生徒の主体的な学びを支援するための授業としてアクティブラーニングや反転授業がある
  • アクティブラーニングや反転授業を実施するためには、生徒が主体的に学べる学習環境を作り、生徒に適切な自由を与えて試行錯誤させることが必要
  • 学習環境を作るのにインストラクショナルデザイン(ID)が役立つ
  • 教師の主体的な学びが、生徒の主体的な学びを促す
  • 教師の主体的な学びを促す学習コミュニティをオンライン上に作る
  • 教師が同僚と学習コミュニティを作ることを支援する

 

講師紹介

日本にISDを紹介し、数多くのISDデザイナーを育成!

yoneshima

パフォーマンス・インプルーブメント・アソシエイツ代表

米島博司

(プロフィール)

富山県出身。千葉県在住。 日本電気通信システム㈱入社後、海外向け電子交換機の保守運用、ソフトウェアに関するお客様向けトレーニングの開発、インストラクターを担当。1990年代初頭、NECインターナショナルトレーニング在職中にニュージーランドテレコム(当時)のお客様からISD(Instructional Systems Design)の存在を知る。 以降米国CEP社とライセンス契約により、CRI(Criterion-Referenced Instruction)、IMD(Instructional Module Development)のワークショップの教材の日本語化、ワークショップの開催などにより、国内の企業(本田技研工業、JR東日本、日立、ユニシス、リコー、他)にISDを紹介、技術指導を行い、 数多くのインストラクショナル・システムズ・デザイナーを育成してきた。 2012年9月にNECネッツエスアイ㈱退職後、フリーランスで教育システムの設計・開発アドヴァイザー、ISDの指導・ワークショップを行っている。 Certified Course Manager of CRI/IMD Workshop ソフトウェア技術者協会 幹事 教育分科会 世話人

(講師からのメッセージ)

ISDは教授システムデザインの基盤技術です。家を建てる時にまず設計図を描く、ソフトウェアシステムを作る時まず要求定義を明確にして基本設計書を書くという風に、何かを作る時には、その上流工程であるデザインがとても重要です。学習者という人間と、教材、教師、学習空間・時間などからなるこの学習システムは「もの」を作る以上に複雑な要素が絡み合っていますから、なおさらのこと設計、デザインが重要になるのです。従ってみなさんの授業をより魅力的で素敵な授業にしようとするならば、単に授業形態や学習の方法だけを考えるだけではなく、授業全体を俯瞰した上で色んな工夫や仕組みを活用するとより一層効果が上がるのです。

また、ISDは意外に奥が深く、学習しただけですぐにマスターできるものではありませんが、今回のワークショップは皆さんの授業をより一層魅力的で素敵なものにするためにそのとっかかり、糸口を掴んでもらうために、各方面の授業デザインの実践者の皆さんが学習支援者として加わり、受講者の皆さんとディスカッションを通じてより現実的なヒントを得てもらえるようみなさんをサポートしてくださいます。

医療者へのシミュレーション教育をIDで設計!

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自治医科大学 助教 淺田義和

(プロフィール)

東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻博士課程修了後、自治医科大学のメディカルシミュレーションセンターに勤務(現在に至る)。この頃の研究テーマは医療安全、ヒューマンエラー。 シミュレーションセンターでは、マネキン等を利用した医療者のシミュレーション教育に関して、その運用サポートや教育の改善・評価などに取り組む。この中で「いかにシミュレーション教育を効果的・効率的・魅力的に運用していくか」という点からISD(Instructional Systems Design)に惹かれ、熊本大学大学院教授システム学専攻の門を叩く。教育に興味を持ち始めたのはここから。 現在はシミュレーション教育の運営に加え、医学部を中心に、授業に対するeラーニングやeポートフォリオの導入についても携わっており、moodle等のシステム運用やFDを通じて、反転授業形式の教育実践にも取り組みはじめている。

大学院時代から興味を持ったマインドマップやワールドカフェなどの手法を授業に取り入れるなどの活動も行っている。著書に「ストレスフリーで効率アップ! EVERNOTEを便利に使う48の技(共著、技術評論社、2013年)」。

(メッセージ)

大きなリビングルームを想像してください。この中にはテーブルやソファ、テレビなど、様々な家具が置いてあります。今のままでも普通に生活することはできますが、より高機能なテレビ、座り心地の良いソファなどに入れ替えることで、より快適な生活ができるようになります。また、むやみやたらに家具を入れるのではなく、部屋全体のデザインを想像して、統一感のある物を揃えることで、住みやすさは倍増します。場合によっては、全体のデザインを見落としてしまうと、入れ替えた家具によって住みづらくなってしまうかもしれません。

この「リビングルーム」を「授業全体の枠組み」、「家具」を「教え方・使うテキスト・学習環境」と置き換えながら、もう一度読んで見てください。IDは、授業全体(リビングルーム)をいかに効果的・効率的・魅力的に(使いやすく、住みやすく、ずっと使い続けたく)デザインするか、というための方法論です。

今回のワークショップでは、ガニェの9教授事象やメーガーの三つの質問など、いわばIDにおける「パーツ」を1つずつ学んでいきます。個別のパーツだけでも知れば知るほど奥が深く、また使ってみることで効果を実感できるものとなっています。ですが、単に1つ1つのパーツを個別に利用するだけでなく、インストラクショナルデザインという大きな視点を持ってパーツを使うと、よりその効果は高まってきます。

各回の課題は少々濃密なものもありますが、講師側でも全力でサポートいたします。ぜひ、今回のワークショップを通じてIDの基本を学び、ご自身の授業・研修等に応用できるようにしてみてください!

オンラインでの学習コミュニティ創りに挑戦中!

tahara

オンライン教育プロデューサー 田原真人

(プロフィール)

早稲田大学理工学研究科物理学及び応用物理学専攻博士課程中退後、物理の予備校講師に。河合塾などで10年以上教える。『微積で楽しく高校物理が分かる本』など著書9冊。2004年から物理ネット予備校を立ち上げ、オンライン教育に取り組む。オンラインでの反転授業、ワールドカフェ、ワークショップなど、オンラインでの場創りに取り組んでいる。

(運営者からのメッセージ)

Facebookグループ「反転授業の研究」を主催し、反転授業の多くの実践者にインタビューをしてきました。その中で授業設計やファシリテーションを学ぶ重要性に気づき、オンラインのワークショップを実施してきました。学習コミュニティを広げていくために、オンラインワークショップの運営ノウハウも積極的に受講生の皆さんにシェアしていきたいと思います。この講座では、運営を担当していますので、ご不明な点があれば、田原までお問い合わせください。

授業協力者のみなさん

今回の講座では、はじめて、授業に協力してくれるボランティアを募集しました。この講座は、講師陣と授業協力者とが意見交換しながら作っています。授業協力者が入ることで、「教える側」「教わる側」という固定化した枠組が崩れ、講座にダイナミズムが生まれるのではないかと期待しています。

授業協力者の皆さんは、自らの成長を大切にするマインドセットを持っている方ばかりです。授業協力者の皆さんとの交流も、この講座の価値の1つだと思います。

江藤由布(近大附属高・教諭)
kuramoto
LEAFモデルで英語教育を変える、江藤由布です。LEAFとは、教科書に依存しない、生教材、オールイングリッシュ、アクティブラーニング、反転学習の頭文字をとったものです。こうした授業を運用するために、絶えず工夫を重ねています。単元などはありません。学習者が今、何のために学習していて、その結果どうした力が得られるのか。授業中は高度に活気ある状態を保ちつつ、いかに新しい事項を導入するか。さらに、他己評価を含め、どのように振り返りをするのか。全体をメタ認知して、それを次の学習や、生涯学習へどう接続させるか。常に走りながら考え、生徒に随時投げかけます。現在は、高校三年生受け持ちのため、卒業生もふくめたオンライン講座を平行して作っています。オンライン講座の場合は、相手の顔が見えにくいため、コンテンツの提示方法や、学びやすい順番、声かけなど、日々試行錯誤を重ねています。今回は、ボランティアスタッフとして関わっていますが、自分が壁に打ち当たりながら学んで来た事を、体系立てて学べるということで、ワクワクしています。みなさんとお会いするのを楽しみにしています。Let’s learn together!

LEAFモデルで英語教育を変える

小川靖子(日本語教師)
ogawa
運営ボランティアとして参加させていただく小川靖子です。現在、ソウルで日本語教師をしています。
オンライン講座ってどんな感じなんだろう、続けていけるかな・・・と不安や疑問を持っている方もいるかもしれません。実は、私も前回の「ファシリテーションスキル入門」を初めて受講するまではそんな思いを持っていました。講座の回数を重ねる中で、受講者のみなさんとつながり、響きあい、学びあうことに、PCの前でワクワクしながら座っている自分がいました。ISDやオンライン講座については、全くの初心者ですが、みなさんとともに学び、体温を感じることができる講座のために少しでもお手伝いができればと思っています。よろしくお願いします。

倉本龍(立命館守山中高・教諭)
kuramoto
ボランティアとして運営に参加させていただきます倉本です。
私は講師の方々とは違い、学習モデルによる授業の振り返りや授業設計などを最近始めた駆け出しの状態で、悩みながら分析・評価をしています。
みなさんと一緒にいっぱい悩んで、いっぱい学びたいと考えています。
よろしくお願いします。

ブログ キューリ.com 〜物理教育を通して自然哲学者を育成するための記録〜

近藤裕美子(日本語教師)
kondo
運営ボランティアとして参加させいたただく近藤裕美子です。
よろしくお願いいたします。

これまで日本語教育に関わってきましたが、学習者の主体的な学びをサポートし、コースや授業が学習者にとって充実した学びの場、時間になるよう日々試行錯誤しています。そのためには、全体像を見据えたコースや・授業のプランニングや設計図作りをしっかり行い、そして実施後は改善のための分析や振り返りが必要。教師研修を担当させていただく機会もありますが、それは研修でも同じです。

とわかっていても、一人で実践、一人で勉強していくのはなかなか難しく、日々の雑務につい流されがち…..。
しかしながら、前回参加した「ファシリテーション入門講座」では、オンライン上ですが、まるで対面で会っているような雰囲気の中、他の参加者のみなさんと一緒に学ぶ楽しみを味わいました。これまでの知識を整理したり、他の参加者とのやり取りの中で新しい視点やアイディアを得たりするとてもいい機会でした。

今回のISDをテーマにした講座でも、受講者の皆さんに、これを機会に体系的に学ぶ機会や、オンラインでの学習コミュニティーに参加する楽しみを味わう機会を持っていただきたいと思いますし、そのためのお手伝いができればと思っています。数週間ISDについて一緒にしっかり取り組んでみませんか。

福島毅(Link and Create 代表)
fukushima
授業デザインというと、シラバスや各授業での学習指導案を連想する方が多いかと思います。

しかし、授業デザインは、それらの基礎・基盤となる建物の設計図や工事の工程表にあたるものです。生徒の伸ばしたい学力や能力を想定し、生徒の実情を分析しながら、達成目的や目標から逆算して、何のために、何をどのようにやるかということをしっかりデザインしていきます。このことが多様で豊かな学びをもたらすと思います。

動画「どんぐり教員セミナー」でも授業デザインについて触れていますが、このオンライン講座は受講者がインタラクティブに学んでいける点で、魅力ある講座だと思っています。

松嶋渉(山口県立萩商工高等学校 情報デザイン科長)
matsushima01
運営ボランティアとして参加します松嶋渉です。
よろしくお願いいたします。
山口県で高校の教員をしています。
教科は商業で主に情報系(プログラミングやWebデザイン)を教えています。
AL型授業や反転授業に取り組んでおり、現在はキャリア教育とICTの活用、人的ネットワークを活かした授業も行っています。
昨年4月にIDのオンライン講座を受講しました。そこで学んだ多くのことは教材開発など今の教育実践にも活かされています。
今回はIDのオンライン講座を受講した経験を生かして運営側と受講者の橋渡しができるようにしていきたいと考えています。

横川淳(コムタス進学セミナー 物理・化学講師)
yokogawa
運営ボランティアとして参加させていただきます。ISDには全く明るくないので、知識の面では受講生の皆さんと同等(いやもっと低いかも)だと思います。これまでオンラインの「動画作成講座」でアシスタントを務めた経験や、「アクティブラーニング講座」「ファシリテーション講座」で受講生として積んだ経験を活かして、皆様との相互の学び合いが促進するようなアクションを心がけていきたいと思います。

ちなみに私が「授業設計」というものに興味を持った理由は、行き当たりばったりでの授業「改善」の効力に限界を感じ始めたからです。お陰様で、いわゆる「分かりやすい説明をしてくれる先生だ」という評価は一定数いただいているようなのですが、それは「その場での満足感を与えている」だけに過ぎないのではないか、だってその証拠に・・・(あれやこれや)・・・という悩みが特にここ2年ほど大きくなってきました。

それで、いろいろ模索をする過程で「そもそも、全くのあてずっぽうで模索すること自体がおかしいのではないか。模索する方法論があるのでは」という疑問を感じ、そんなとき知ったのがISDとか「授業デザイン」という考え方でした。今回のボランティア参加をきっかけとして、受講される皆さんと一緒に勉強していきたいです。よろしくお願いいたします。

ブログ: カガクのじかん

その他に2名の方が加わっています。

前回の受講者の方から推薦文をいただきました

2014年に実施した「反転授業をやりたい教師のための授業設計入門」の受講者の方から、推薦文をいただきました。

加藤久美子さん((有)ふぁいん代表)
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ID講座には、去年受講させていただきました。

以前は暇さえあれば毎日教材を作っていました。

学習者には学習者ごとの『学習における癖』があります。たとえば、Aさんに向いているものがBさんに喜んで使ってもらえるとは限りません。また、同じ効果があるとも限りません。ですから、大量に作らざるを得ないのでした。

その頃、自分は教材を作るということをだれにも教わってきていないのではないか・・・と気づきました。ただ、既存の教材を真似して、または、授業で必要になったものを『経験と勘』で作っていたにすぎません。

体系化され、理論的に納得がいき、もちろん効果があるものをさがし、IDにたどり着きました。現在は、ラーニングデザイナーになるべく、学習を続けています。
このID講座の良いところは、実習まで含むところ、そして、オンラインセッションでお互いにサポートしながら続けられるところです。実習が無ければただの座学に終わってしまいます。何事もアウトプットが大切です。

また、オンライン学習には『黙々と一人で孤独な学習』をイメージされる方が多いと思いますが、セッションや実習を通して講師と受講生だけでなく、受講生間のやり取りがあり、通常のセミナーより良い関係が築けました。

これは、大きな発見でした。

毎日コメントがついているか、わくわくしながらパソコンを起動させていたのを覚えています。

ID講座終了後は教材を作り替え、より効果的な授業を設計することができています。今年のID講座でも、同じようなわくわくする体験をされる方をお待ちしています。

倉本文子さん(日本語教師)
日本語教師という仕事を始めてかれこれ20年。
最近の外国からの若者達も様子がどんどん変わってきました。

電子辞書も使わずスマホ。板書せずに写真。文化の違う国に住み始めたのにとくに大きな感動も見せることがなく、でも、アニメやフィギアや村上春樹、ゲームで扱われる歴史上の人物にはものすごく詳しかったりもして、

今現在私が教室でしていることは、彼らにどう受け止められているのか。
ざわざわと不安を感じていたのかもしれません。

そこで、出会ったのが、インストラクショナルデザイン。
反転授業の研究主催でオンライン講座が始まると聞いて直感的に申し込みました。

必要なときに必要なものに出会うものだなと思います。

講師の先生方が根気強く、何度も、丁寧に説明してくださったこと。
夜のオンライン自習室で他の受講者とチャットでおしゃべりしながら宿題をしたこと。
オンラインでなければ出会うはずもなかった分野の方々とやりとりできたこと。

自分が授業で大切にしたいと思っていることや目指している成果を言葉や形にすることが、こんなにも難しいことだったのかと実感できたこと。

七転八倒の末それらがシステムになって現れてきたときの興奮。
自分の現場に具体的に落とし込んでいけると感じた喜びと新しい授業デザインで学生を迎える楽しみ。

このオンライン講座が提供してくれたインストラクショナルデザインの世界と未来型の学びは、私に多くの気づきとワクワク感と、自分の授業の新しい可能性を
見せてくれたと思っています。

お申込みいただいた皆さんの声

保坂敏子さん
IDの理論の知識だけでなく、実践的に「やってみる」ところに魅力を感じています。よろしくお願いします。

名越幸生さん
丁度4月からの新年度に、録りためた授業&講習の動画を活用した新しいタイプの授業&講習づくりを始めたいと考えていたので、闇雲に始めるのではなく、インストラクショナルデザインを学んで、必要なポイントを抑えた授業づくりをするためのスキルを身につけることができればと思い、申し込みしました。
どうぞ宜しくお願いします。

遠藤良仁さん
看護学部の教員をしています。
IDについては少し学習していましたが、
今回を機会に、もう一度しっかり学んでみたいと思っています。

塚原大輔さん
看護師の卒後教育(半年間)を担当しています。昨年までは当たり前のように講義を行っておりましたが、反転授業を知り衝撃を受けました。是非来年度の教育に導入したく参加を希望しました。また、IDを学び教育基盤を整えたいと思います。よろしくお願いいたします。

豊永亨輔さん
熊本の高校で生物を担当しています。物理の小林昭文先生の実践に触発されて6年ほど前からアクティブラーニング型授業に取り組んできました。悪戦苦闘の結果,何とか形にはなってきつつあります。しかし「もっと生徒に考えさせる要素を組み入れたい」という課題を感じています。IDの理論は学んだことがなく,今回のセッションで自分自身の今の課題を解決するヒントを得ることを期待しています。また,全国のAL型授業に取り組んでおられる先生方との交流も楽しみです。よろしくお願いします。

鈴木望さん
IDは公開セミナーで学んだ程度ですが、自身の授業にも応用したいと強く思っております。みなさまとのディスカッションを通して、その応用力をつけるためのヒントが得られればと思っております。

坂井裕紀さん
本講座からIDを学ぶと同時にe-learning におけるIDの可能性を考察するヒントを得たいと考えています。

松本一見さん
次の授業に活かせるように勉強したいと思います。どうぞよろしくお願いします。

早瀬郁子さん
インストラクショナルデザインの理論は、是非学習したいものだったので、とても楽しみにしています。

石野 祥子さん
4月から日本語学校に勤務することになったので申し込みました。学んだことを生かして、学習者第一の授業を作っていくことができればと思います。

安田明雄さん
こんにちは。神奈川県で高校の生物教員をしています。生徒が能動的に学習に取り組む授業を目指していますが、「管理と放任のジレ
ンマ」を感じています。不勉強のため、IDの理論のことを今回初めて伺いました。新年度に向けて新たな一歩にしたいと思います。

パソコンは不慣れですが、オンライン講座には初めての参加なので、とても楽しみにしています(同じくらい緊張もしています)。
宜しくお願い致します。

飯田路佳さん
こんにちは。自己流のことしかしてきませんでしたが、理論的な部分をきちんとしたいこと、この時期2,3月が最も時間的には余裕
があることで、決心しました。実は他の仕事量との配分でかなり不安もあります。けれども4月から新しく始まる科目もあるため、学生にイキイキとした学びを提供したいと考えており、「エイヤッ」と飛び込ませていただきました。まじめに取り組むつもりですが、かなり落ちこぼれになりそうな予感もしております。どうぞお手柔らかにお願い致します。

ワークショップ形式で学ぶオンライン講座

この講座は、動画講義、フォーラムセッション、Gotomeetingによるリアルタイムセッションを組み合わせて、4週間のオンライン・ワークショップ形式で行います。毎週、IDの理論を1-2つ学び、それをフレームワークとして各自の授業を見直していきます。

【事前準備】

「メーガー 三つの質問」「ケラー ARCSモデル」「ガニエ 9教授事象」について指定の資料を読み、
●わからない点
●自分の授業に役立ちそうな点と、それをどのように役立たせることができそうか
の二点について簡単なレポートを提出

【第1週】授業の構造化と目標明示

<チェック項目>

  • 授業(科目、単元)は構造化(課題分析)されているか?
  • 各学習単位の節目節目で、到達目標が明示され、到達したかどうかの判定があるか?

(1)教授・教材構造

「あなたの単元、授業は構造化されていますか?」

<ID理論>ガニエ 9教授事象

導  入 1.学習者の注意を喚起する
2.学習者に目標を知らせる
3.前提条件を思い出させる
情報提示 4.新しい事項を提示する
5.学習の指針を与える
学習活動 6.練習の機会をつくる
7.フィードバックを与える
まとめ 8.学習の成果を評価する
9.保持と転移を高める

(2)入り口と出口

「あなたの単元、授業では到達目標が明示されていますか?」
「学習者一人一人が目標に到達したかどうか判定するテストはありますか?」
「学習内容は課題分析されていますか?」

<ID理論>メーガー三つの質問

Where am I going? (どこへ行くのか?)到達目標の明示
How do I know when I get there?(たどりついたかどうかをどうやって知るのか?)判定テスト
How do I get there?(どうやってそこへ行くのか?)入り口から出口への学習プロセス

【第2週】学習単位の構成と題材の現実性

<チェック項目>

  • 授業の中の部分は、TASD構成になっているか?
  • 授業の内容、例示は現実の世界に関連をもっているか?

(1)教授のフレーム

「あなたの単元、授業、教材など、それぞれの階層の教授単位ではフレームを用いていますか?」

<ID理論>メリルの画面構成理論

Tell  一般原理、理論を解説する
Ask   一般原理、理論に関する知識を問う
Show  例示する
Do   やってみさせる

(2)学習と現実の接近

「あなたの単元、授業は現実の世界に応用できますか?」

<ID理論>メリル インストラクションの第一原理

1.現実に起こりそうな問題に挑戦する(Problem)
2.すでに知っている知識を動員する(Activation)
3.例示がある(Tell me でなく Show me)
4.応用するチャンスがある(Let me)
5.現場で活用し、振り返るチャンスがある(Integration)

【第3週】学習の動機付けと学習の提供手段・方法

<チェック項目>

  • 授業の各部分で動機付けの配慮がデザインされているか?
  • 授業の学習内容に応じた最適な学習形態、学習提供手段が選択されているか?

(1)学習の動機付け

「あなたの授業、教材は学習の動機付けが考慮されていますか?」

<ID理論>ケラー ARCSモデル
①注意(Attention)―学習者に興味を持たせる。
②関連性(Relevance)―学習者に「やりがい」を感じさせ、積極的に取り組めるようにする。
③自信(Confidence)―学習者に成功の機会を与え、自力で成功できるように思わせる。
④満足感(Satisfaction)―目標を達成した学習者を正当に評価し、満足感を与える。

(2)学習提供手段の選択

「あなたの授業では学習内容に応じた最適な学習形態、学習提供手段が選択されていますか?」

<ID理論>ガニエ 学習成果の5分類

1.知的技能(手続き的知識)
(弁別、概念分類、法則適用、問題解決)
2.言語情報(宣言的知識)
3.認知的方略(学習技能)
4.態度
5.運動技能

【第4週】ADDIE/ISDの重要性とまとめ

<チェック項目>

  • ISDを意識して授業がデザインされているか?

(1)授業デザインの標準化

「あなたの単元、授業はISDに準拠してデザインされていますか?」
「またデザインプロセスにおける形成的評価はされていますか?」

<ID理論>ADDIEモデル

Analyze(分析)
Design(設計)
Develop(開発)
Implement(実施)
Evaluate(評価)

(2)まとめ、これまでの振り返り

この講座を受講すると

  • インストラクショナルデザインの7つの理論を学ぶことができます。
  • インストラクショナルデザインのフレームを使って授業改善のヒントを見つけられます。
  • 講師、他の受講者、授業協力者から授業のヒントを得られます。
  • オンラインでの学び合いを体験することができます。
  • 授業設計について相談し合える仲間を作ることができます。

Q&A

Q Gotomeetingのリアルタイムセッションに参加できない日があるのですが大丈夫ですか?

A リアルタイムセッションは、翌日以降、録画動画が見れるようになりますので、そちらで確認していただくことができます。

Q パソコンが苦手ですが、サポートはしてくれますか?

A 運営の田原がテクニカルサポートを担当します。Moodleの使い方や、Gotomeetingの使い方の説明が分からないときは、いつでも相談してください。接続トラブルについても対応します。

Q 授業設計を学ぶのが初めてなのですが、申し込むことはできますか?

A この講座は、初心者を対象としていますので、大丈夫です。

Qリアルタイムセッションには、iPadから参加できますか?

A Gotomeetingは、iPadやiPhoneから参加可能です。あらかじめアプリをダウンロードしておく必要があります。詳しくは、こちらをご覧ください。

受講者へのプレゼント

toku1 「ISDの基礎」(米島博司著)


メイン講師の米島博司が執筆したISD(Instructional Systems Design)に基づき、授業設計を行うための手順を分かりやすく解説しているテキスト(PDFファイル)をダウンロードできるようになります。

toku2 オンラインワークショップをするためのノウハウ


ビデオチャットとLMSを連携させて、オンラインで勉強会やワークショップをやっている田原真人が、運営のノウハウを資料にまとめてプレゼントいたします。
様々なツールを実際に試した結果、分かったことや、リアルのワークショップとは違ったオンラインの難しさを解消するコツなど、あなたの活動を広げるのに役立つノウハウです。

お申込み

講座名:インストラクショナルデザインの理論を使って授業改善してみよう

申し込み締め切り:2015年2月20日(金)

定員:30名 (定員に達し次第、締め切ります)

開講期間:2月23日~3月24日

※約4週間の講座期間中にGoToMeetingによるリアルタイムセッションを5回行います。

リアルタイムセッションの日程:
2/23(月) オープニング
3/3(火)21:30-23:00 第1週振り返り
3/10(火)21:30-23:00 第2週振り返り
3/17(火)21:30-23:00 第3週振り返り
3/24(火)21:30-23:00 第4週振り返り&クロージング

受講料:30,240円(税込)

 

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第16回反転授業オンライン勉強会

第16回反転授業オンライン勉強会についてお知らせします。

かつては3人だった登壇者を2人に減らし、オンラインでビデオチャットを使ったグループワークを始めたわけですが、前回から登壇者を1人にしています。

一人にすることで、登壇者のやりたいイベントを一緒にやるという形になり、勉強会の形が毎回違ってきて、よりチャレンジングな試みになっています。

今回は、18歳の難波弘二さんが登場。
 
難波さんが行っている「生徒と教師が授業を考える対話の場」を、オンライン上に再現してみたいと思います。
 
いったいどんなことになるのでしょうか?

様々な課題が出てくると思いますが、リフレクションとフィードバックにより、多くのことを学べると思います。

日時:1/20(火) 21:30-23:00

場所:オンラインルーム WizIQ

参加費:無料

登壇者:難波弘二さん

タイトル:教える側、教わる側関係なく、授業評価をしよう

※ビデオチャットを使ったグループワークを行いますので、ビデオチャットの用意をお願いします。ビデオチャットの用意をされていない方は、メインルームでテキストチャットによるグループワークとなります。

教える側、教わる側関係なく、授業評価をしよう

難波弘二さん

(プロフィール)

「生徒と教師が授業を考える対話の場」主催者
2013年 私立岡山白陵高等学校 自主退学 (17歳)
2014年 Sydney Secondary College Blackwattle Bay Campus 自主退学 (18歳)
2014年 「生徒と教師が授業を考える対話の場」第一回開催
2度の高校中退の経験から、生徒の立場から教育を考えはじめる。
「先生と生徒両方の声を授業に届けるために、先生と生徒が一緒になって授業評価を行う」ことをテーマに「生徒と教師が授業を考える対話の場」をはじめ、さまざまな教育系ワークショップを企画。

(内容)

「教える側、教わる側関係なく、授業評価をしよう」をテーマに、「生徒と教師が授業を考える対話の場」http://7hproject.main.jp/wordpress/ のオンライン版を行います。

授業評価を先生だけですることはあるし、生徒だけですることもあります。しかし、先生と生徒が一緒に授業評価をすることはありません。

そこで、今回の勉強会では、5名程度の方に授業に関するアンケートに回答してもらい、回答していただいた方を「先生」、参加者を「生徒」と見立て、「先生」と「生徒」が一緒になって授業評価をするという形をとります。ここで、参加者はもちろん実際の生徒である必要はありません。あくまでも「生徒」に見立てて行うだけなので、どなたでもご参加いただけます。

多種多様な参加者の皆さんが、多種多様な視点から授業評価を行う。これによって、授業が思いもよらないカタチに変化する。今回の勉強会では、こんなことを目指します。

(1)勉強会のテーマ及びねらいを説明する
・上記のテーマについて説明し、勉強会のねらいを明確にします。

(2)グループに分かれて、「先生」と「生徒」が先生の授業内容を共有する
・グループに分かれて、アンケートに回答した「先生」が、参加者である「生徒」に対してアンケートをもとに自らの授業について説明します。

(3)グループで、「先生」と「生徒」が一緒になって授業評価を行う
・「先生」と「生徒」が一緒になって、授業に対してフィードバックを行います。

ここで重要なことは、フィードバックは授業内容に対して行うものであり、アンケートに回答した「先生」に対して行うものではないということです。よって、アンケートに回答した「先生」も授業に対してフィードバックを行います。これは「人物評価ではなく、あくまでも授業評価」というスタンスを守るために必要なことになります。

(4)グループでの授業評価の振り返りを行う
・グループで話し合ったことを全体でシェアします。

難波弘二さんのインタビュー記事はこちら

お申し込み方法

(1)このページからお申し込みください

お申し込みはこちら

(2)自動返信メールに参加方法が書いてありますので、指示に従って参加してください。

※自動返信メールの内容
【入室準備】
Windowsの場合は、下記のページからデスクトップアプリをダウンロードしてインストールしてください。
http://www.wiziq.com/desktop

iPadからの参加の場合は、WizIQのアプリをインストールして下さい。

Macの場合は、ブラウザで直接ルームのURLにアクセスしてください。うまくつながらない場合は、ブラウザを変えてみてください。

自動返信メールに書いてあるルームのURLをクリックすると、「Launch Class」というボタンが現れますので、それをクリックしてください。

Screen Nameの記入を求められますので、お名前を入力してください。

【入室方法】

上記の準備を終えた後、自動返信メールに書いてあるURLをクリックすると、自動的にWebルームにつながります。
 
初めて参加する方は、以下の動画をご覧ください。

都立両国高校を見学して(下)― 教師の主体的な学びが生徒の主体的な学びを促す

2014年1月18日に東京都立両国高校を見学してきました。

前記事では、山本崇雄さんの高1英語の授業見学のレポートを書きました。

都立両国高校を見学して(上)― フォークダンスのように生徒が動く英語の授業

前記事の最後に書きましたが、山本さんの授業の一番の魅力は、山本さん自身が失敗を恐れずに、新しいことに挑戦し続けていることなのではないかと思います。

挑戦しない教師が、生徒に挑戦を求めるのはダブルスタンダードになり、多くの場合、発言ではなく、行動から発せられるメッセージを受け取ることになります。

山本さんのような挑戦する教師の背中を見て、生徒は自ら挑戦しようという気持ちを抱くのではないかと思います。

しかし、一人で学び続けることは難しいです。

教師の主体的な学びを支えるコミュニティの存在こそ、生徒の主体的な学びを土台で支えるものなのではないかと思います。

日経新聞の記事で紹介されていた、両国高校の教師による勉強会「学び合い広場」こそが、両国高校の躍進を支える秘密なのではないかと思い、授業見学の後、何人かの先生にお話をうかがいました。

「学び合い広場」が始まったきっかけ

期末試験後で成績処理で忙しい時期であったのにもかかわらず、副校長の藤井英一さん、授業見学をさせていただいた山本崇雄さん(英語)の他に、布村奈緒子さん(英語)、山藤旅聞さん(生物)、沖奈保子さん(国語)、佐田山彩紀さん(化学)が、会議室に来てくださり、お話を聞かせてくださいました。

まず、最初に、両国高校は、何がきっかけで変わったのかということをうかがいました。

これについて、佐田山さんは、

中学校が新しくできて、中高一貫になったことが大きかったと思います。中学校の先生が加わったことで、新しい流れができました。

とおっしゃっていました。

中学校と高校という異なる「文化」が出会い、違いが学び合いのエネルギーになったという点が非常に興味深いです。

その中で、どのようにして「学び合い広場」が始まったのか?

これには、山本さんが回答してくれました。

都立足立高校定時制に移られた田口浩明先生の公民の授業を、廊下で通りかかったときに見て、面白そうだと思って、山藤さんを誘って見学させていただいたんです。田口先生の授業は、終わったときに生徒の中から自然と拍手が起こるような授業なんです。これはすごいと思い、田口先生から学ぼうということで勉強会がスタートしました。

個人として、アクティブラーニングや反転授業の先進的な取り組みをしている教師はいますが、管理職や周りの教員から理解を得られずに孤軍奮闘している場合が多いです。そのため、「反転授業の研究」は、そのような孤立している実践者がオンラインで繋がって、お互いに励まし合う場になっているのです。両国高校では、どうして、全教師の1/3を巻き込むような大きな動きに広がったのでしょうか?

その点を質問すると、参加して下さった方から口々に次のような声が上がりました。

副校長の藤井先生のおかげです。藤井先生のような管理職がいて、本当に助かっています。

両国高校のすべての教師がアクティブラーニングをやっているわけではありません。勉強会に参加している先生としていない先生との間に溝ができないように藤井先生が、うまく調整して下さっています。

その点を副校長の藤井さんにうかがうと、

両国高校の先生方は、アクティブラーニングやっている先生も、一斉講義をやっている先生も、どちらも生徒のことを考えて熱心に取り組まれているんですよ。

とのことでした。管理職として「学び合い広場」を許可するだけにとどまらず、藤井さん自身も「学び合い広場」に参加して一緒に学んでいるのだそうです。

田口さん、山本さん、山藤さんを核にして立ち上がった動きに、管理職の藤井さんが加わったことで多くの教師を巻き込む動きが生まれたのではないかと思いました。ムーブメントが起こるためには、最初に動き始めた人に対して、そこに加わっていく人が出て来るかどうかが大きな分かれ目になります。影響力のある藤井さんが率先して「学び合い広場」に参加したことが、非常に大きな役割を果たしたのではないかと思いました。

参考:TED ムーブメントの起こし方

教師の主体的な学びが生徒の主体的な学びを促す

反転授業について学んでいく中で得た大きな気づきは、「教師が学習者を信じてコントロールを手放し、安心安全の場を作って学習者に試行錯誤させること」が重要だということです。

新しいことにチャレンジすることは、必ず失敗を伴います。

その失敗を重要な学習のプロセスと捉えて肯定し、励まし、支援していくことで、成功と失敗を繰り返しながら自分で学ぶ方法を身につけていくのです。

さらに、試行錯誤の過程を、一緒に学ぶ仲間と共有すると、仲間の成功と失敗からも学べるようになるので、試行錯誤の質が上がります。

仲間と一緒に学ぶことの有効性を実感すると、仲間に貢献することができるようになります。そして、それは、自己効力感へと繋がっていきます。

このような環境を作ることができれば、クラスが、自分たちでどんどん学び進めていく学習コミュニティへと成長していくのではないでしょうか?

両国高校で、クラスがそのような学習コミュニティになっていることをうかがえる部分が日経新聞の記事の中にありました。

生徒が学び合う「場」作り――。山本はその仕組みを、次々と編み出している。昼休み、有志の生徒が教室に集まってくる。「チーム速単」と呼ばれる単語学習で、弁当を食べながら4人チームになって、単語の問題を出し合う。山本が教壇に立って教えるわけではない。ランダムなチーム編成を決めて、質問を出す人が交代するタイミングを指示する。

 また、生徒たちが学習のヒントを付箋に書いて、廊下に張り出す取り組みも始めた。独自の学習法や目標、生活習慣などを書き出していく。

 山本は「学年通信」で、生徒にこう呼びかけている。

 「みなさんは、それぞれの教科の大切なことに気づき始めている。それを惜しげもなく広げた時、誰かが救われます。誰かのために、付箋を増やしていこう」

では、どのようにすれば、クラスを学習コミュニティへと成長させていくことができるのか?

クラスの状況は刻一刻と変化していくので、教師は、その中で試行錯誤していく必要があります。

「反転授業の研究」に参加しているアクティブラーニングや反転授業の実践者から話を聞くと、うまくいかなかった話もたくさん出てきます。

「自分は生徒に考えさせたくてできるだけ教えないようにしているのに、生徒からちゃんと教えてほしいと言われた」

「考えがあってグループワークをやっているのに、生徒から、普通の一斉授業をやってほしいと言われた」

「隣の教室の先生から、うるさいから静かにしてほしいと文句を言われた」

「グループワークが単なるおしゃべりになってしまって、学習が進まなかった」

新しいことに挑戦している以上、うまくいかない状況が出てくるのは当たり前のことです。保護者からのクレームが来ることもあるでしょう。

重要な点は、それを試行錯誤として許容して、支援できる体制が学校にあるのかどうかだと思います。

両国高校の素晴らしい点は、管理職の藤井さんが、学校を教師にとっての安心安全の場にしているところだと思います。

会議室に集まってくださった先生方の様子から、教師の試行錯誤が、藤井さんによって守られ、応援されているということが伝わってきました。

生徒の集団であるクラスの1階層上のところに位置する教師集団が、安心安全の場になっているからこそ、教師の中から主体的な動きが生まれ、試行錯誤を共有して学び合う教師の学習コミュニティが生まれ、その教師たちがクラスに安心安全の場を作り、生徒の学習コミュニティが生まれているのです。

進学校の多くは、進学実績を上げることが学校としての目標の1つになっています。その結果、管理職が教師にノルマを課して管理し、プレッシャーを感じた教師が生徒を管理していくという管理の連鎖が起こりがちです。

しかし、管理職が管理を強めると、それに反比例して教師の主体性、自律性が下がり、それに伴って、生徒の主体性、自律性が下がっていくという負の連鎖が起こりやすくなります。

出題範囲が限られている大学入試では、生徒を管理し、入試に必要なことを教え込むことによって進学実績を上げることも可能です。

しかし、自ら学ぶ姿勢を身につけていない生徒は、外発的動機づけがなくなった瞬間から学ばなくなります。

※外発的動機づけ:アメとムチに代表されるように報酬によって外から動機づけること

変化の激しい21世紀は、多くの知識があっという間に陳腐化するため、新しいことを生涯学び続けていくマインドセットが必要になります。

自ら学んでいく姿勢は、21世紀を生きる若者にとっては、生きていくために必要なスキルなのです。

僕たちは、生まれたときから好奇心を持って世界を学んでいます。

生まれる前から学んでいるという説さえあります。

ですから、外発的動機づけによって阻害されなければ、僕たちは、本来、自ら学んでいくことのできる力を持った存在なのです。

それを信じて、コントロールを手放すと、管理のサイクルとは逆向きに主体性のサイクルが回りはじめます。

管理職が教師を信じてコントロールを手放して支援に回り、教師が生徒を信じてコントロールを手放して支援に回った結果、両国高校では素敵なことが起こっています。

これは、教育に関わる多くの人に勇気と希望を与える物語なのではないでしょうか。

2階の会議室から階段を降りて玄関へ向かう途中、藤井さんに「管理職が教師を管理している学校が多いと思いますが、両国高校は違いますね。」と言うと、藤井さんからは、次のような言葉が返ってきました。

両国の先生方は、僕なんかが何か言わなくたって、みんな生徒のために一生懸命やる先生ばっかりなんですよ。むしろ、忙しすぎてかわいそうなくらいなんです。だから、少しでも楽になったり、やりやすくなったりできたらいいなと思っているんですよ。

藤井さんのこの言葉が、両国高校の取り組みを象徴しているように感じました。

都立両国高校を見学して(上)― フォークダンスのように生徒が動く英語の授業

2014年12月18日、東京都立両国高校に授業見学に行ってきました。
 
そもそも、なぜ、両国高校に見学することになったのか?
 
そのきっかけは、日経新聞の取材記事でした。

都立両国、復活の舞台裏(上) 「教えない授業」の魔力

都立両国、復活の舞台裏(下) 受験は男女混合団体戦

実は、都立両国高校は、僕(田原)の母校なのですが、僕が在学時は、いわゆる都立の低迷時期。全科目で伝統的な一斉講義型の授業が行われていて、いくつかの例外はあったものの、授業に対しては「つまらなかった」という印象が残っています。理論物理学者になりたいと思って高校に入学したものの、高校での授業に失望して学習意欲が下がり、成績は低迷。高校卒業後に予備校に通って勉強の面白さに気づいて学習意欲が復活したという経験がありました。

記事を読んで、あの母校にいったい何が起こって、こんなすごいことになっているのか!という強烈な興味が湧いてきました。
 
次に感じたのが、両国高校の実績が、アクティブラーニングや反転授業の普及の起爆剤になるかもしれないということでした。
 
多くの高校は、アクティブラーニングを導入すると、進学実績を上げられなくなるんじゃないかという不安を感じていると思います。しかし、両国高校が、アクティブラーニングを導入した結果として、進学実績も上がったということになれば、アクティブラーニング導入へ向けて不安が取り除かれ、導入する高校が増えていくのではないかと思います。

そのためにも、両国高校で起こっていることを、自分の目で見て、確かめて記事にしたいと思いました。

フォークダンスのように生徒が動く英語の授業

授業見学をさせていただいたのは、山本崇雄さんの高校1年生の英語の授業。山本さんの授業は、日経新聞で次のように紹介されていました。

わずか50分の授業で、ペアやグループが次々に入れ替わっていく。1つの課題が終わると、生徒の組み合わせが変わる。50分で十数回の課題を与えるため、2回の授業でクラス全員と組むことになる。そして、クラスを団結させて、生徒同士が教え合う「場」に変えていく。「誰かのために学び、教える。そうすると理解の深さがまったく違ってくる」(山本)

いったいどのような授業なのかとワクワクしていると、山本さんとネイティブスピーカーの先生が教室に入ってきました。

山本さんが英語で短く挨拶をすると、いきなり授業がスタートしました。

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最初に行ったのは、『速読英単語』という市販の教材を使って、長文の内容理解と単語の発音確認。

まずは、長文の内容理解が、次のようにして始まりました。

(Step 1) ネイティブスピーカーが長文を1度読む。

(Step 2) となりの人とペアになりジャンケンをし、勝ったほうがメイントピックスを相手に英語で説明する。

(Step 3)チーンとベルが鳴り、説明する側と聞く側が交代する。

(Step 4) ネイティブスピーカーが長文をもう一度読んで発音を確認。

こんな感じで、向かい合って話をしていました。
 
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しかし、ここから、今まで見たことのない光景が展開しました。

まず、黒板に、見慣れない図とGBGB・・・の文字が。

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Gは「Girl」を表し、Bは「Boy」を表しています。

最初に女子が赤い矢印の向きに移動し、ペアが変わります。3分くらいすると、山本さんの声のもと、今度は男子が青い矢印の向きに移動しペアが変わります。

新しいペアになるときには、お互いに「Hello」と声を掛け合い、ペアが交代するときには「Thank you」とお礼を言い、和やかな雰囲気で進んでいきます。

これは、何かに似ている?

そうだ、「フォークダンスだ!」

まさに、目まぐるしくペアが交代するフォークダンスのように授業が展開していくのです。

ワークの内容は、長文のメイントピックスの説明から、英単語に変わりましたが、ペアを次々と変えていく動きは変わりません。

英単語の勉強は、次のように進みました。

(Step 1)ジャンケンして英単語を読む側を決める。

(Step 2)『速読英単語』の指定のページの単語を発音して、相手に聞かせる。

(Step 3)チーンとベルが鳴って役割交代

(Step 4)ネイティブスピーカーが発音を確認

(Step 5)席を移動してペアを交代

単語が終わると、これまでに習ったことの復習として、黒板のスクリーンに文章や画像が表示され、それをペアに対して説明するという時間になりました。

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チーンとベルが鳴ると画面が切り替わり、次のチーンで説明する側と聞く側の役割が交代。

10秒くらいおきにチーンとなり、画面や役割が次々と交代していきます。

授業中は、スクリーンにタイマーが表示され、作業の残り時間が見えるようになっていました。
 
生徒同士が話すときには、BGMがかかり、山本さんが話すときにはBGMが切れるというようなメリハリもありました。

外から見ていても、生徒の頭の中が、真っ赤に活性化しているのが目に見えるような光景でした。

ここまで見ていて、大きな気づきがありました。

僕が中学から大学まで英語を学んできて、誰かに向かって英語を話す機会というのがほとんどなかったということです。単語を覚えるときには、部屋でぶつぶつと念仏のように唱えていた記憶があります。

でも、山本さんの授業では、英語を口に出すときには、いつも誰かに向かって語りかけているのです。自分の英語を聴く相手がいつもいるのです。これは、大きな違いだと思いました。

また、単語の発音を覚えるときには、最初にネイティブの発音を聞いて真似をするのではなく、自分で発音してみて、あとからネイティブの発音を聞くという順序になっていました。自分の発音が間違っていたという経験を通して学べるようになっているのかなと思いました。

それが可能になるために、間違ってもいいからアウトプットすることが普段から奨励されていて、生徒の間に浸透しているのではないかと思いました。

ここまでで約20分。

時計を見て、まだ20分しか経っていないのかと思いました。それほど密度が濃い時間が流れていたのです。

学び方を自分たちで選択するグループワーク

授業の後半は5-6人でのグループワークが始まりました。写真が並んでいるワークシートが配布されていて、それを見ながら説明できるようになるのがゴールだということを、繰り返し確認していました。

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その後、画面に次のようなものが表示されました。

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山本さんは、この中のどの方法を使って学ぶのかをグループで話し合って決めて、その方法を使ってグループで協力して練習するように指示しました。

これまでは、教師も生徒も英語しか使っていなかったのですが、相談のときになってはじめて生徒が日本語で話し始めました。

「どれにする?」

「もう一回やろう。たくさんやらないとうまくならないよ。」

などの声があちこちから聞こえてきて、生徒たちはやり方と役割を決めて、熱心に練習し始めました。

自分たちでやり方を選択するというのは、主体性を引き出すのに役立つ方法なのではないかと思いました。

僕が見て回った感じでは、英語の内容を絵に直していくという方法を取っているグループが多いように思いました。一人が英語を読むと、残りのメンバーがそれを自分なりに手際よく絵で表していく様子は見事でした。

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残り5分になったところで、再び机を戻してペアになり、パートナーに向かってグループで練習した成果を発表しました。写真を相手に見せながら、英語で説明していき、その後、役割を交代しました。お互いに2つの良かった点をフィードバックするということもしていました。

これを続けていたら間違いなく力がつくはず

僕が見学した日は、期末試験後で、普段の授業よりも10分間短い40分間の短縮授業でした。

しかし、授業の密度が濃いため、90分間の授業を見学したかのような疲労感がありました。

40分間のほとんどの時間、生徒がアウトプットし続ける英語の授業というのは、初めてでした。

これを何年間も続けていれば、間違いなく本当の英語力がつくはずだという実感がありました。

両国高校は、中高一貫になり、僕が見学した高校1年生のクラスは、中学から上がってきた生徒と、高校から入ってきた生徒が混じり合っているクラスでした。

高校から入ってきた生徒は、この授業についていけるのかという疑問が湧き、授業が終わった後に、山本さんに質問したところ、

「最初はもちろん戸惑いますが、中学から上がってきた生徒に引っ張られて、半年くらいすると完全についていけるようになります。」

とのことでした。

また、生徒が抵抗感なくアウトプットできるようにするために、どのような工夫をしているのかをうかがうと、

「授業の中で、できる、できないはほとんど見えません。分からなければ援助するのが当たり前の雰囲気ができてきています。また、授業で必ず失敗する場面を作っているので、間違えて当たり前という雰囲気も大事だと思います。」

という返事が返ってきました。

山本さんが、常に笑顔を絶やさずに前に立ち、生徒が間違えながら学んでいくのを見守っている様子を見て、教室が安心安全の場になっているからこそ、生徒が安心してトライアル・アンド・エラーをすることができるのだと感じました。

最後に、山本さんの次の一言が、僕の中に残りました。

「今まで、それぞれのやり方でマスターさせるということをやっていたんですが、今日初めて、生徒たちにやり方を選ばせることに挑戦したんです。」

生徒の主体的な学びを引き出すのは、教師の主体的な学びであることを、改めて確認することができました。

京都精華大学「情報メディア論」を見学して

なぜファシリテーションを学ぶのかを突き詰めて考えたときに、自分は、オープンでフラットな関係性を築き、ともに創造していくような活動をしたいからなのだと気づきました。

固定化された上下関係においては、意見は「命令」という形で上から下へ一方的に伝達されるのに対し、オープンでフラットな関係では、意見は双方向にやり取りされます。

しかし、その一方で、上下関係がある種の安定性を持つのに対し、役割をはっきりしていないフラットな関係では関係性が不安定になりやすくカオスが生まれやすくなります。

カオスを恐れると、権力を行使して場をコントロールしたくなり、フラットな関係は破れて、上下関係が生まれてしまいます。

権力を行使して場をコントロールするのではなく、カオスを恐れず、メンバーを信じてカオスの海を泳ぎきるのに必要なスキルが、ファシリテーションスキルなのです。

そのことに気づいたとき、「ファシリテーションスキル入門」という講座のフレームに対する疑いが生まれました。

講座の運営側と受講側との境界がくっきりと分かれ、運営側が受講するメリットを列挙しながら講座を販売するというフレームに対して疑問が生まれたのです。

そこで、オープンでフラットな関係を基本単位として繋がるアメーバ型社会というビジョンを掲げ、そのビジョンに共感する仲間を募る形に変更したところ、これまでにない手応えを感じることができました。

しかし、「講座販売」というフレームを手放したことで、全くの手さぐり状態となりました。そんなときに、京都精華大学の筒井洋一さんの「情報メディア論」の実践のことを知り、そこに大きなヒントがあるのではないかと直感し、2014年12月15日に京都精華大学を訪問し、授業見学をさせていただきました。

 

授業協力者(Creative Team : CT)による授業

筒井さんの授業の一番大きな特徴は、授業協力者(Creative Team : CT)という存在です。CTは、教員と対等な立場で協力して15週間の授業を作る無償のボランティアです。授業中に前に立って授業運営をするのは教員ではなくCTの役割です。筒井さんは、FacebookでCTを公募し、今期は、大学生や社会人からなる5名がCTとして活動しています。

15週間の授業を作り、運営するのは大変な労力です。それを無償で行うというのは、「労働の対価をお金でもらう」という常識に大きく反するものです。
 
CTが、「情報メディア論」においてどのような役割を果たしているのかを理解することができれば、自分のこれからの進むべき道が見えてくるのではないかという期待を持って、授業見学に向かいました。

教室に入ると、5-6人のメンバーから構成されるグループが3つできていました。最初に筒井さんが短くコメントした後、見学者が前に並び、一人ずつ簡単な自己紹介をしました。

その後、CTの一人が前に立ち、授業を始めました。

前半のテーマは、「アサーティブコミュニケーション」
 
・ノン・アサーティブ
・アサーティブ
・アグレッシブ

の3つの例をパワーポイントで説明した後、別のCT、学生、見学者に前に出てきてもらい、切符売り場での列への割り込みを例としたロールプレイを行いました。

学生が割り込みをする役をして、割り込まれた人が、黙って我慢するノン・アサーティブコミュニケーション、文句を言うアグレッシブコミュニケーション、相手に攻撃的にならずに、しかも言いたいことを伝えるアサーティブコミュニケーションの3つのパターンを行い、学生に感想を聞きました。

さらに、異なる3つの事例に対して各グループでアサーティブコミュニケーションをするためには、どうしたらよいかを話し合いました。

僕は、グループの1つに入って議論に参加しました。

そこでは、「ラーメン屋で注文したものと違うものが来たときに、どのようにアサーティブコミュニケーションをするのか」という課題について話し合っていました。
 
メンバーの一人から、「別の人に持って行ってしまったのか、作るのを間違えたのかによって、対応が違ってくる」という意見が出てきました。

「単に『これは頼んだものと違います』と言うと、申し訳ありませんといって作り直すことになるけど、それは、別の人が注文したものかもしれないし、作り直して長いこと待つくらいなら、違ったものを食べたほうがよい場合もある」という意見で、問題の構造が単純ではないことが、話し合いの中で見えてきて面白かったです。また、その中で、どのようなコミュニケーションを取れば、自分にとって最もよい状況になるのかを考えることは、非常に良いトレーニングになると思いました。

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後半は、グループで相談してショートムービーを製作するための作業を行いました。前の授業で、大まかなテーマをすでに決めてあり、授業では、メンバーの役割分担を決め、シナリオを具体的に決めていくことが求められていました。

リーダー、サブリーダー、撮影、広告、営業、シナリオ・・などのパートがあり、授業中に撮影についてのレクチャーが教室の後ろ側で行われ、撮影担当者がレクチャーを受けに行きました。その間に残ったメンバーは、シナリオ作成を進め、あとでお互いが分かったこと・決まったことを伝え合うという場面がありました。これは、ある種のジグソー法のようなものになっていて、グループ間のコミュニケーションを活性化させる効果をもたらしていました。

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これらの授業はすべてCTによって進められ、筒井さんは教室の後ろにいて、それを見守っているだけでした。

振り返りミーティングが熱い

授業が終わった後、別室のミーティングルームで振り返りをしました。参加したのは、筒井さん、CTのメンバー、見学者、学生4人でした。

一人ずつ順番に授業についての感想を述べていきました。学生からCTに率直な厳しめのフィードバックがあり、それを、CTが真剣な顔でメモしていくという光景がとても印象的でした。学生から率直な意見が出るということは、振り返りミーティングが安心安全の場になっている証拠なのではないかと思いました。

僕自身は、「授業デザインがよく考えられていると思った。また、見学者をもっと有効に利用してほしかった」というようなフィードバックをしました。

その後、学生から、Youtubeを使ったマーケティング方法についてのアドバイスを求められ、一緒に考えるという場面もありました。
 
授業をデザインし、その後、見学者や学生からフィードバックをもらうということを毎週繰り返すことで、CTは、大きな学びを得ていると思いました。

筒井さんは、「いろいろとうまくいかないことが出てきても、CTの皆さんは能力の高い人たちなんで、最後は、何とかしてくれると信じているんです。」と発言していました。その後も、何度か、筒井さんから「信じています」という言葉を聞きました。

内発的動機に基づいたLearningが、学生のLearningを促す

実際にCTが行う授業を見たときに頭に浮かんだのは、反転授業オンライン勉強会で杉森公一さんがおっしゃっていた「LearningがLearningを促す」「学ぶ教師からしか学べない」という言葉でした。

CTという存在は、金銭的な報酬を外から得ていないことで、自他ともに認める「内発的動機に基づいて学んでいる存在」なわけです。
 
そして、そのCTが、15週間でぐんぐん成長していくのを、授業に参加している学生は目の当たりにすることになります。

CTのLearningが、学生の主体的なLearningを促すわけです。
 
そうすると、学生の中から主体的な動きが少しずつ出てくるんですね。筒井さんはそれを見逃さずに、学生の主体性を引き出していき、学生という枠組みから出して挑戦させていきます。

筒井さんの代わりに、反転授業用のビデオを学生に作らせたり、CTの代わりに学生に授業を作らせたり、枠組みから出たがっている人を出してあげるんです。
 
そこから、いろいろなドラマが生まれ、ドラマの中で学生もCTも教員も学んでいくことになっているのだと思いました。

筒井さんの役割は、そのようなドラマが起こるような場を創ること。

カオスが起こっても、「最後はうまくいくと信じています」と言って、みんなに勇気を与えること。

自分自身が場創りをするようになり、筒井さんが果たしている役割の重要さを痛感しています。

少しだけ未来が見えてきた

ドラマが起こるためには、「内発的動機に基づき、自ら枠組みを出て行動する人」の存在が不可欠だということが見えてきました。このような存在は、周りに「枠組みを出ること」を促すことができるのです。

報酬による外発的動機づけは、場合によっては、内発的動機づけを弱めてしまうこともあるので、その人が本当に望んでいること、つまり、「成長したい」という欲求に応えていくことで報いるというやり方があるのではないかと思いました。

僕の中には、労働してもらったら報酬を支払わないと申し訳ないという固定観念がありましたが、その一方で、本当にやりたいことで、かけがえのない経験になると思えば、無報酬でも、お金を払ってでも労を惜しまずに行動する部分もあり、これらは、矛盾しているわけです。

お金をどのようにして得るのか、他人の労働に対してどのようにして報いるのか、という部分について思考が確実に一歩前進しました。

次回のオンラインワークショップでは、新しい試みをすることができそうです。

インターネットをフル活用して家庭学習をサポートする小川浩司さんにインタビュー

現在、インターネットには、様々な情報がアップロードされており、まさに「外付けの脳」のようになってきています。

このような時代には、これまでのように知識を蓄えるような学びではなく、必要に応じて必要なことを学べるように、学び方を学ぶのが重要だという声があちこちから聞こえるようになりました。

海外では、カーンアカデミーのように無料で学ぶことのできるサイトがあり、さらには、講義動画をYoutubeにアップロードし、広告費によって収入を得る教育Youtuberと呼ばれる教師たちもいます。

海外に比べるとまだまだ層は薄いですが、日本でも、「eboard」「とある男が授業をしてみた」「ふるやまんの算数塾」など、無料で使える良質の講義動画が増えてきました。

このように無料で自由に利用できる講義動画がオンライン上に存在することで、どのような学習がが可能になるのでしょうか?

IT会社に勤務する小川浩司さんは、小学校5年生の娘さんの家庭学習サポートにインターネットを上手に利用しています。

小川さんの取り組みは、少し未来の家庭学習のあり方を知るヒントになるのではないかと思い、インタビューさせていただくことにしました。

先へ進むよりも、理解を深める

小川さんは、「ebord」とか、「とある男が授業をしてみた」とか、「ふるやまんの算数塾」とかいろんな動画を使ってお子さんの勉強をサポートされていますよね。僕は、講義動画がYoutubeにアップされるようになると、それを使った家庭学習サポートが可能になると思っていたので、小川さんのお話をうかがったときに、これだ!と思いました。実際にやってみていかがですか?

娘の入学がきっかけで、家で子供の勉強を見るようになったのですが、はじめは、学校の授業の進度は気にせずに、子どもの理解の程度を見ながら家庭学習をするようになりました。

究極の個人授業ですね。

たとえば1年生の頃だと、「この子は足し算を理解したな」と思ったら、次に引き算を学習するといった感じです。

そうこうしているうちに、子どもに「学校のお勉強はどう?」って聞いたら、「つまんない」って言うんですよ。それで、ちょっとびっくりして、「なんで?」って聞いたら、学校の授業は内容がみんな分かっちゃうからつまんないっていうんですよね。

学校では、長い時間を過ごすわけで、授業がつまんないというのは娘にとってはつらいことだろうなと思って、そんなふうに意図したわけではないのですが学校の授業に先行するのはやめておこうと思ったんです。

それで、家庭学習は学校で習った「復習」ということにしたので、娘にとっては学校の授業で習うことが初めて学ぶことになりましたから、「内容がみんなわかってつまんない」という問題は解決したのですが、それはそれで、釈然としない、なんだかもったいないというか、もどかしいな、という気持ちなんですよね。

「反転授業の研究」に参加させていただくと、新しい勉強のスタイルというのがあることを知って、先生方もいろいろお考えになって、新しい取り組みを試みていらっしゃるから、きっと近い将来、学校での授業のスタイルも今と変わるでしょうから、今は過渡期なのかもしれないと思ってはいるのですが、今、娘が置かれている状況のことを考えると、学校に合わせてあげなくちゃいけないかなと思って、娘ではなく、学校にあわせてそのようにしているんですね。

動画授業を利用するようになったのはここ1・2年の事なんです。無料で動画授業を公開しているeboardを知ったり、反転授業の研究でお親しくさせていただいた、ふるやまんの算数塾の古山さんの授業動画を知ったりして、これはいいなと思って利用させていただいているんです。
古山さんにはとてもお世話になっているのですが、私が説明に窮するような算数の問題についてご相談すると、あっと言う間に解説動画を作ってくだるんで、とっても感謝しているんですが、娘は、ことさら自分のために作ってもらった解説動画だということもあって、なおのこと一生懸命に見たりしているんですよね。
自分が分らないことのために作ってもらった解説動画だからよくわかるのは当たり前なんですけど、わからなかったことがわかるというのは本当に楽しそうですね。

いま現在は、動画授業を見てはじめて理解するという使い方よりも、すでに理解していることの復習のほうが多いのですけど、それが未来の学習の姿なのかはわかりませんが、田原さんがイメージされているような学習スタイルだと思いますね。

僕も子供に動画を見せて勉強させていますが、動画を見ないで問題を解くんですよね。それで、分からなかったら動画を見るし、問題ができたら動画は見ないというケースが多いんですよ。小川さんのところはどうですか?

最近、古山さんとお話ししていて、いいなと思ったのは、「動画授業では、本質的な理解を伝えたい」とおっしゃっていたことなんですね。
解法を解説するという授業動画だと、田原さんがおっしゃったような、見ないで問題を解いたり、わからなけれは観るというような使い方になるかもしれませんね。
保護者が先生に期待することは、解法よりも、「なぜ・なに」の本質を教えていただきたいってことなんですね。
これは、動画授業にたいしても同じように思っています。
とくに、小学校で学ぶ内容には、それが大切だなって思うようになりました。

ついこの間も、ある動画をみつけて、それは小学3年生で習う単元のものだったのですが、とてもわかりやすいんですね。娘は今5年生なんではけど、娘にとってはもう学んだ内容なんですけど、今あらためてこれをみせたら、その本当の意味が理解できるだろうなと思うようないことがあったんですね。そのことを古山さんに伝えたら、算数は、文科省が定める学習指導要領にしたがってこの単元は3年生で教えるって決まっているけれども、実は各単元は有機的につながっているんだそうです。
だから、場合によっては、中学生が小学生の単元に戻って学ぶほうが理解が進むということもあるんですとおっしゃっていてなるほどと思いました。

これからは、きっと授業動画もそうですが、学習を支援するようなコンテンツがますます多くなるでしょうから、そのなかから適切なものを選ぶことは難しいことになるだろうなと思っています、そこになにかよいアイディアはないかななんて思っているところなんですね。

動画講義などを使うと、子どもの理解に合わせて進めていくことができます。そうすると、自然と学校の進度よりも家庭学習の進度が進むという状況が生まれてきます。しかし、「学校の授業がつまらない」という娘さんからの声が出てきて、小川さんはジレンマに陥ってしまったんですね。その中で、小川さんは、進度を早めるのではなく理解を深めるという選択をされました。動画は、自分で進めていくのに利用できるだけでなく、理解を深めていくのにも使えるというのは、重要な気付きであると思います。

大量の講義動画から適切な動画を見つける仕組みが必要になる

娘さんに見せる動画は、小川さんが見繕ってくるんですか?

はい、私が見繕っています。

ビッグデータ解析で自分の好みに合わせて動画を推薦していくようなリコメンデーションの仕組みがあったらいいですね、なんてことを古山さんとお話したことがあるんんです。少ない数のコンテンツだとビッグデータ解析にならないのですが、Youtubeに上がっているようなもっとたくさんの増えてビッグデータ解析をして、見合ったものを勧めていくようなことができたら面白いなと思っています。

おもしろいですね。ClassDoという教えたい人と学びたい人のマッチングをする教育サービスでは、AIが使われていて、関係のある講座がサイドバーに表示されるんですが、そういう仕組みに近いかもしれませんね。

高校生までの教育は、教育指導要綱に基づいて、単元ごとに区切られているから作りやすそうですね。例えば、小学校向けの動画で「くりあがり」で検索すると何人かの先生が作った「繰り上がりの足し算」の動画が出てきて、その中で子供に合ったものを選ぶんですが、そのときに、価格.comみたいにランキング化されているなかから選べると、利用者にとっては便利かななんて思ったりしています。先生方からすれば、選ばれることになるので大変かもしれませんね(笑)。教えることは1つのプロフェッショナルな技術だと思うので、教えるのが得意なな先生は、そのようになさってもいいんじゃないかなとも思うんですね。

そのアイディアは面白いですね。

自宅で動画授業を受講して、学校では仲間たちとディスカッションしたり、教え合ったりする反転授業のスタイルに移行してゆくとすれば、先生に求められる能力もきっと変わってゆくのでしょうね。ディスカッションをうまく導くファシリテーション能力だったり、教えることが上手な先生は動画授業の作成を行うとか、先生方も専門分化していくのかなというように思いますね。
反転授業の研究の中で、ある先生がおっしゃっていたのが印象に残っているのですが、たくさんの動画授業のなかからその子にあったものを選び出す、キュレーターのようなスキルも必要になるって。

今、インターナショナルスクールの高校生の勉強を手伝っているんですけど、英語の動画講義は大量にあるので、小川さんのおっしゃっているような状況になりつつあります。自分で学べる環境を作ってあげるために、大量の動画講義の中からちょうど合っているものを見繕って、シラバスに沿ってムードルに貼ってオリジナルのコースを作るんですけど、動画が多いから探すのが大変なんですよ。それが、Youtubeの検索よりも効率よくできるといいですよね。

今までは、この塾に入るとよいとか、そのカリキュラムに乗っかっていけばお勉強は大丈夫、という状況だったのですが、今後は、たくさんの選択肢のなかから、適切なものを選ぶ、なにか良い工夫を考えてゆかないと情報の海に溺れてしまう感じがしています。

小川さんが指摘して下さったように、コンテンツが豊富になってくると、次に必要になってくるのは、その中からユーザーに適したものを選び出して紹介するキュレーションということになるのかもしれません。また、子どもが安心して自分で探すことができる環境というものも必要かもしれません。

日々、娘さんの理解を助けるコンテンツを、Youtubeなどから探している小川さんのユーザー視点からの意見は、非常に説得力がありました。

ITを使えば、子どもの学習に伴走できる

動画を選ぶときの基準はあるんですか?

基準は、娘なんですよね。この子が面白いと興味を持つかなとか、いまの娘理解の程度に見合ったものかな、ということを基準で選んでいます。だから、すべての単元を動画授業で学ばせるわけではないですね。たとえば、娘はそろばんを習っていましたから「足し算の繰り上がり」は、全く問題ないけど、リットルとかデシリットルとかの量の単元はちゃんと理解していないな、量について解説している授業動画は無いかな?というような視点でさがして、見させたりしているんです。

小川さんのやっていることは、フルタイムで働いているお父さんが学習サポートをすることができる可能性を切り開いていると思います。世の父親の中には、忙しいということで育児とか教育支援を諦めている方もいらっしゃると思うんですけど、やりようによっては、手伝えて、喜びもある。それが、どうして可能になっているのかを教えてください。

もともと根底にあるのは、子育てって楽しいんだということ。その子育ても期間限定でその期日はまじかに迫っているという感覚でしょうかね。それと、私の子どもに生まれてくれてありがとうっていう感謝の気持ちも強くありますね。私たちの親の世代では、お父さんが仕事をして、お母さんが家事をしてという時代でしたよね、私の妻もフルタイムで働いていますので、わたしの子育ての関わりは、はじめは保育園に連れていくところからはじまりました。スーツを着て、抱っこをして保育園に連れていくのがすごく楽しかったですよね。

今でも小学校の途中まで送っていったりしていています。娘はパパもう来ないで一人で行けるからって嫌がっていますけど(笑)

それから、一緒に勉強をするようになって、今まで経験できなかったことができる、これってなんて楽しくて幸せなことなんだろうって思っています。家庭学習を子どもといっしょに親がすることをみなさんにもどうぞといっているのははそこにあるんですよ。
こんな楽しいことをやらないと損だよって。
時間が出来たらやろうなんて思っているうちに、タイムリミットはすぐ来てしまうよって。

育児って、そんなに長いことじゃないんですよ。赤ちゃんのときに夜泣きして抱っこしてノイローゼになるなんて話を聞くじやないですか。でも、それはほんの一瞬のことで、あとでやりたいと思ってもできませんものね。

小学校の勉強までなら、通常の教育を受けた親御さんだったらフォローできると思いますよ。でも、いきなり6年生の問題を説明してって言われるとつらいので、1年生のときから少しずつ関わっていくとよいですね。こんなに楽しいことがあるよっていう思いを伝えたいと思っているんですよ。

そんな家庭学習をしているうちに、たまたま私が娘のために作ったてづくりの問題が溜まってきたので、それをそのまま捨ててしまうのもなんだかもったいないな、こんなものでもお役立つご家庭があるのではないかなと思って、よろしければどうぞお使いくださいってサイトをつくって公開したのが「パパしゅく」の始まりでした。

小学生向け手作り問題集―パパしゅく

小川さんの場合は、ずっと娘さんの勉強を継続してみているからこそ、理解しているところやしていないところを把握することができ、それを補うためのコンテンツを探してくることができるんですね。このようなきめの細かいサポートは、親だからこそできることだと思います。そして、我が子の学習サポートをする楽しさを、もっと多くの人に知ってもらいたいということで「パパしゅく」で自作問題を公開するようになったという流れも素晴らしいですね。

これまでは、学習サポートと言えばTeachingしかなかったわけですけど、今は、動画などを使うことで、Coachingとキュレーションによって学習サポートができるわけです。これなら、仕事が忙しいお父さんでもできるし、お父さんの社会経験や情報収集力も生かせるんですね。

「パパしゅく」のタイムスケジュール

お仕事をしていて、そんなに時間がないと思いますが、「パパしゅく」は、どのようにしているんですか?

パパしゅくの問題自体は、印刷のたびに新しい問題が作成されるように工夫しているので、さっと印刷して使えるようになっているんですね。
つくる手作り問題も、計算練習が中心ですから、小学校では高度な計算なんてするわけではなく、足し算、引き算、掛け算、割り算が主ですから、表計算ソフト(Excel)で、かんたんなものを作る程度なので、これも時間はかかりませんでした。

パパの手作り問題がすべてではないんですよ、市販の問題集から、学校で習っている単元の部分を抜いて1日の分をセットしてファイルにしておいておくんです。これは、10日分くらい休みの日なんかにまとめてやっています。

仕事で遅くなるときもあるし、娘が家庭学習をしている時間に間に合うときもあるんですけど、パパはその丸付けをするという感じでやっています。
早く帰れた時に、娘の横に座って学習する様子を見ると、娘は煙たがりますけどね(笑)

時間帯は、夕食後、だいたい7時から9時くらいの2時間くらいをやっていますね。

市販の問題集は、断裁してスキャナで電子化したものを印刷して使っています。
いわゆる自炊ってやつですが、理解が充分でない単元があれば、同じ問題を再度解かせるためにそうしています。

少しずつとはいえ、毎日家庭学習をしていますから、1つの単元で問題数が足りなくなることが多いので、アマゾンで何種類かの問題集を買っておいて、休みの日のときに自炊して、印刷して、単元ごとに分けておいて、そこから組み合わせて、1日分のパパしゅく、として娘には渡しています。

データ化するところが、ITの分野で働かれている方の発想の気がしますけどね。

娘の通っているのは私立の小学校なので、あまり教科書を使わず、学校独自のプリントを使っているんですけど、必ずしもシステム化が進んでいるわけではないようで、切り貼りしたものを原版にしているんでしょうね、それをコピーしているようなんですね。データ化しておけば楽なのにな、なんて思いますね。

家庭学習だと、弟や妹でもいないかぎり、1回しか使わないので、電子化するメリットはたまにもう一度学習させたいという場合のためだけなのですが、学校では毎年使うのですからそんな工夫をすれば先生の作業だった楽になるのになって思ったりしますね。
改廃だって楽でしょうにね。

予備校講師をやっていたとき、解答プリントをスキャナで読み込んでデータベース化することで、労力が大幅に減って、ようやくプラスアルファの仕事ができるようになったんですよ。

算数は単元ごとに準備していますが、国語の家庭学習は市販の問題集が中心ですね、長文読解を1日一題するようにしています。漢字練習は、ネットで無料の練習用のプリントがあるので、娘の学年用の漢字練習プリントダウンロードして使っています。

ミックスするのは必要かもしれませんね。

娘はいま小学生ですが、私立の学校に入学したので、受験をしているんですよね。いわゆる「お受験」というやつですね。お受験の準備というのは、3歳から4歳くらいから始めるんですよ。わたしはその頃仕事が忙しかったので、妻にまかせっきりでしたけどね、娘はそのころから、毎日、家庭学習をしていましたので、それが、娘の当たり前になっているんです。「パパとママは会社にいってお仕事をしているよね。君のお仕事はパパしゅくをすることだよ。」って言っているので、家庭学習をするのが当たり前になっているんですね。だから、病気で熱でも出さないかぎり、しないという日はないですね。
なんだか、こんな話をすると、もうれつに勉強していて、さぞや成績も優秀だろうなんて思われるかもしれませんけど、成績に関しては全然そんなことは無いですね。
学習の内容をきちんと理解していれば、かならずしも100点である必要はないよって思っていて、お友達でわからない子がいて、君がわかることがあれば、教えてあげてね、そんなことが最も大切な事だよって言っているから、成績はクラスで中の上って程度です。

小川さんのお話をうかがって、仕事を通して身につけた「効率的な作業手順を見つける」という思考が、随所に見受けられました。今は、Scansnapのような安価で便利なドキュメントスキャナがあるので、本1冊をまるごとデータ化してしまうことは簡単です。これを休日にやっておけば、空いている時間を使って問題を選んでプリントアウトしておくことができます。ちょっとしたことのように見えますが、データ化することで、モノを持ち歩かずに済み、空いた時間を子供のサポートに使えるようになるんですね。

習慣化すれば、勉強するの当たり前になる

毎日2時間の勉強時間というのは、お子さんにとってはずっと続けているから当たり前という感覚になっているんですよね。以外と子供にとっては負担感はないですよね。ご飯食べるのとかと同じ日常のルーチンに入っているので。

通学が電車で片道1時間くらいかかるので、4時半くらいに帰ってくるんですよ。それで、二世帯住宅なんですが、おばあちゃんのところに行って夕食を食べてすこしのかんのんびりして。そうこうしていると、学校の宿題とパパしゅくをやりはじめて、9時ころまでに終わる感じです。その他に、ピアノやスイミングスクール、なんかにも楽しそうに通ってます、それでも自宅学習の時間は毎日2時間くらいは取れますね。

小川さんが宿題の丸付けをするんですか?

帰宅が間に合えば、私が丸付けしています。そうでなければ、子どもに自分で丸付けをお願いしています。理解の程度によってはフォローが必要なものは私が丸つけするようにしています。たとえば、国語の長文読解とか、算数は、あっこれ理解していないな、なんていうのは、回答をみるとわかりますから、フォローのためにも、私がチェックをしています。

自分で丸付けしてね、と娘にお願いしているのは、計算問題とか、都道府県の形を見て名前を書く問題とか、すでに覚えていて、定着のために反復練習しているようなものですね。

最近は、わたしがこれは娘に見せると良いなと思う、動画授業があると、手書きで
たとえば、
「ふるやまん先生のxxx授業動画を見てね」

なんて書いて、「よく分かりました」というチェックボックスを作って、動画をみたら娘にチェックをさせるなんてことをしています。
帰宅後や、翌日、どうだった?よくわかった?なんて会話しながら理解を確かめたりしています。いま娘が学んでいる単元や、すでに学び終えた単元でも、なるほど、この説明はよく分かるななんて思ったもので、娘に観させるとよいな、ためになるなと思うような動画があれば、それを観させるという感じですね。

動画を選ぶときの基準は、長すぎないものにしています。10分を超えるものは娘には集中するのが難しいだろうなと思って、短いものを選ぶようにしていますね。

お子さんが、すごく興味を持つというような、食いつくものというのは何かありますか? 

性格でしょうか、あまりそういうのがないんですよね。自分専用のiPadを持たせているので、動画授業を見たついでに、なんだかお勉強には関係のないものを見ているようですけど、それは楽しいみたいですね。アニメ動画なんかも見ているみたいですけど、やることやっていればどうぞお好きにということにしています。

家内はネット動画ということを少し気になるみたいですね。何を見ているか分からないからコンテンツフィルターをかけたほうが良いと言ったりしているんですけど、いつまでも親が制限できるものでなないので、娘には危険性だけ教えて、あとは本人に任せています。

興味あるのは、Youtubeのアニメ動画のようですね。
ゲームはあまり興味がないみたいですね。

習慣になっているから勉強をするのが当たり前というのももちろんありますが、勉強の時間が、親子の交流の時間になっているというのが、子どものモチベーションを上げることに大きな役割を果たしていると思いました。

英語とプログラミングを学ばせたい

学校の勉強の外に、中学生になったら、こんなことを勉強してほしいなという見通しはありますか?

会社の同僚と、今の子供達が社会に出たそのときは、きっとそうなっているだろうねとよく話していることがありますね。

きっと、その頃は、日本人とだけで仕事をしているなんて事はなく、世界中の優秀な人達と一緒に仕事をしているだろうねって。仕事をする場所だって日本かどうかも分からないねなんて話をしています。たまたま私の会社は、インドのIT会社の資本が入って、最近はオフィスにインドの人がどんどん増えているんです。

娘が社会にでるときは、付加価値の高い仕事がますます重要になっている、まっていてもお仕事は何もない、自分で課題を見つけて、問題を解決してゆくことが大事になるだろうなって思います。
そんな環境には、英語はコミュニケーションの手段として必須だろうなということも強く感じています。

それと、私は、ITの仕事をしているということもありますが、子供たちには、プログラミングの勉強してほしいなと思いますね。

30年ほど前は汎用機と呼ばれる大きなコンピューターに端末がつながっていたものがコンピュータシステムだったのでとても単純だったのですが、今のコンピュータシステムってインターネットでコンピューターどうしがつながっている、そのインターネット全てがコンピューターシステムって言えるわけですね。そのような環境での技術ってはどんどん専門分化しているのですね。だから、コンピュータシステム全体が分かる人なんていない、とても複雑になったなって感じているんです。でも、そんな複雑なコンピュータシステムも突き詰めてゆくと、プログラムに行き着くんですね、だから、初等教育の一部としてプログラミングを学ばせたたらいいなと思っています。でも、学校の教育現場では、まだそんなレベルではないんですよね。「情報」という授業はあるようですけど、娘に聞いてみると、たとえば、ワープロでカレンダー作るといった程度なんですね。せっかく最新のコンピューターが整然と置いてある教室があるのに、教えられる先生がいないからなんでしょうかね、プログラミングを学ぶことに使われないのは、とてももったいないと思いますね。

イギリスでは、コードを小学校で全員学ぶことになったんですよね。でも、日本だとそういう状況ではないですよね。

eboardの代表の中村さんとお話したときに、eboardは外部に委託して開発しているんですか、それともITに詳しい方が担当しているんですか、と聞いたら、全部自分で作っていると話されていてびっくりしたことがあるんですね。

中村さんは、システム開発に携わるお仕事をされてたそうで、なるほどと思いました。

その話のなかで特に印象的だったのは、いろいろな社会貢献の取り組みをしている人達と会う機会があって、素晴らしいと思えるアイディアを持っている人にも会うけれど、そのアイディアはITを活用すれば実現できるのになと思うことがよくあるのですが、その方は実現の手段を知らないためにできない、ずいぶんともったいないことだなと思うことがよくあると。

私はシステム開発の仕事をしていたので、アイディアをITを使って実現する手段はよくわかります。それがお仕事でしたので当然のことなのですが、そのような話を聞くと、たしかに手段がわからなければ、いくら良いアイディアがあっても実現できないことがあるなと改めて思ったわけですね。
ITがあれば、アイディアすべてを実現できるということではありませんが、今はITって大きなポテンシャルがありますよね。

子どもたちがいずれ社会に出て、なにか新しいことを始めようとしたときに、それを実現するための手段の一つとして、プログラグラムの事は知っておいてほしいなと思うのです。

僕は理工学部出身なんですけど、大学院まで理論物理をやってきて、科学計算のプログラムをフォートランで組んだりはしていましたけど、実際にモノを作った経験をほとんどせずに来てしまったんですよね。

物理を勉強してきて、テストで点数は取れるし、点数を取らせる方法も分かるから予備校で物理を教えることもできるんですけど、でも、自宅の配電盤を開けていじれと言われたらいじれないし、勉強してきたサイエンスの知識と現実の世界とがもっとリンクしたほうがいいんじゃないかなと感じているんです。

だから、子どもには、もうちょっと現実とリンクさせた形で学ばせたいなと思っていて、Maker Spaceみたいなところに一緒に行って、はんだ付けしたり、電子工作とかを、親子でやろうと思っているんですよ。  

私は、たまたま、ソフトウェアですけど、ものを作る仕事をしてきたので、ソフトウェアによる実現手段とかはわかるのですけど、その次というのは、ハードウェアも含めてソフトウェアかなという気がしますね。ベンチャーで面白いことをやり始めているところって、ソフトウェアだけでなくハードウェアも一緒にやっていますよね。アップルのスティーブジョブスなんてハードウェアもソフトウェアも一緒にデザインしていましたしね。

娘には、自分ができることから仕事から選ぶのではなく、自分がしたいことを仕事にできるようにさせてあげたい、そうさせてあげるのが親のつとめかなと思っています。

この間、サイエンスフェアに行ったときに、3Dプリンターで部品をプリントアウトして、組み立てるプロジェクトを紹介していたんですね。面白いものがたくさん出てきていますよね。個人レベルで面白いものができるんだということが分かって、商品を見たときに、どうやって作ったらいいのかイメージできるのと、消費者マインドで見るのとでは違ってくると思うんですよね。世界の見え方、かかわり方が。自分で何かを作って解決していくという世界観を子供とシェアしたいですね。

ソフトウェアの仕事をしていた立場から、今の日本を見ると、もったいないなと思うのは、日本人ってハードウェアはとても上手に作るのに、ソフトウェアが上手じゃないなと思うんですよね。

ハードウェアを動かすためにプログラミングする。自分が意図したとおりに、自分が作ったハードウェアが動いてくれるという経験をするというのは、ハードウェアづくりが上手な日本人にとって、これからとっても大切なんじゃないかなと思いますね。

日本はモノづくりが強いと言われていますけど、理系に進んでも、高校までにモノづくりの経験を学校でしないし、大学でも工学部に行かない限りは、モノづくりに触れないまま、大学卒業してしまったりするんですよね。

確かに、ハードウェアを作るという経験は、高校までにないですよね。大学に行って専門になればあるのかもしれませんけど。プログラミングも体系化されたものはないですね。IT企業の研修なんかには結構体系化されて良いものがあるので、そういうものが学校に入ってってもいいんじゃないかなと思うんですけどね。

これも反転授業の研究で知ったのですが、

米系のIT企業の日本法人が、高校生にシステム開発の講座を反転授業形式で行うという取り組み。「ウチの会社もこういうのいいんじゃないの?」って、CSR(企業の社会的責任)の担当者に伝えたんですよ。

そういう取り組みからでもいいから、学校の中にコンピューターの教育が入っていくといいなと思いますね。

去年、奈良女子大付属高校のサイエンス研究会とシンガポールの高校の情報のクラスを試しに繋いでみたんです。一緒にPythonでgoogleのアプリを作るというプロジェクトをやっていたんです。プログラミング教育を学校として力を入れているのはシンガポールのほうが進んでいるんですが、サイエンス研究会の生徒たちはかなりマニアな人が揃っているので、レベルも揃っていたみたいで、よかったみたいなんです。英語でのコミュニケーションも、間にプログラミングが入ることでスムーズになるみたいなんですよね。これは、いろいろ可能性がありそうだと思いました。

そうですか、まさに、私がいま置かれている環境も、そんな感じなんですよね。

インドの技術者たちといっしょになって1つのことを実現しなくちゃいけないということになると、英語は共通語としてとても重要ではありますが、いろいろあるコミュニケーションの手段のひとつなんだなって感じます。

目的が共有できれば、重要なのは、それを実現する新しいアイディアだったり、課題解決の力だったりします。

たとえば学校教育の英語って、どうしてもそれが目的になってしまうのは仕方がないことかもしれませんが、英語って目的でなく、手段なんだよねっていうことが伝えられる良い試みですね。

そんな風にえらそうに言ってますけど、不自由な英語が自由に操れるようになりたいってただいま必死にお勉強中なんですけどね(笑)。

その場合でいうと、プログラムができるということがゴールだから、英語は手段に過ぎなくて、いろんなことをあれこれしゃべってプログラムができればいいんですよね。そういう体験があると、語学に対するとらえ方が変わってきそうですよね。

最初に経験があって、あとで文法とかが分かってもいい気がします。最初は、どうしてもそれに縛られて萎縮しちゃいますよね。

ある共通の目的のために一緒にやるということがあって、言語の壁があるときには、それは、壁ではなくなるのかもしれないですね。いい経験ですよね。

あと、そういう経験ができるのはITがあるからだと思うんですよね。

うちの会社もオフィスツールを新しいものに変えたんですよ。そうすると、1つの文書を複数の人で作成することができる環境になったんですね。

今までだったら、バージョン管理しながら、ある程度の品質までつくりあげた文書を人に渡す、という仕事のしかただったのですが、、環境がわかることによって仕事のしかたも変わってくるんですね。

関係者がバソコンを持参して集まって、ああでもないこうでもないと言いながら1つの文書に皆が書き込んでゆく、1つのものを話をしながら作っていくco-workのスタイルになってくるんですよね。

ITを介して人と人がリアルタイムにつながってゆく、田原さんがシンガポールと日本をつないでプログラムをつくりあげたように、物理的な距離も超えて、海外の人とも co-workできるんですよね。

そういうことは、どんどんできてくるかなと感じていますね。

最近古山さんが動画授業を作って公開されると、それに合わせた問題を作って公開したりしているんです。

古山さんは大阪で、私は東京と、距離を超えてコラボレーションできるのは楽しいなと思います。今までだったら、大阪の古山先生の授業を受けるなどということは、うちの娘からすると生涯経験できなかったことだなって思ったりしますね。ITの良さですね。

仕事をバリバリしている親が家庭学習に関わるメリットの一つは、仕事を通して感じている時代感覚を、家庭学習に反映できる点なのではないかと思います。小川さんがインド資本のIT系の会社でされているような仕事の形態は、今後、どんどん広がっていくようなものだと思います。それを肌で感じながら、子どもの将来を考えて、必要なスキルを身につけさせていくということは、工夫次第でできることなんですね。その可能性を、小川さんがまさに切り開いているのだと思います。

インターネットを使って学ぶメリット

旧来の学び方に比べて、インターネットを使うメリットをどのようなときに感じますか?

同僚とよく話をするのは、インターネットができてから、知的なレベルはすごく上がったね、ということです。

今まで知りえなかった情報にリーチできたり、知らなかった価値観に触れられたりとか、知的なレベルがそれ以前に比べて圧倒的に上がっている気がします。

一時流行りましたよね、娘には調べた言葉を書き込んだ付箋を貼る「辞書引き学習」をさせているんですけど、最近は、少し躊躇しているんです。紙の辞書を引くことの意味とネットでの検索との違いはどうなのかということを考え始めて、答えが出せていないんです。

いままでは、娘が持っている小学生向けの辞書引いて、載っていなかったら、パパの辞書(広辞苑)をパパが引いてあげて説明するということをしていたのですが、最近はGoogle先生に聞きなさいって言っています。

インターネットの中にある情報って、質の高いものも低いもの玉石混淆ですよね、子どもって意外と賢くて、これは胡散臭いとか、これは信頼してよさそう、というのをちゃんと見極めるんですね、正しくない情報を真に受けるのではと心配するほど子供って愚かではないなって娘の様子をみて感じています。

実践を通して、情報リタラシーの力もついてきますよね。

娘が小学校2年生くらいのときに、学校の国語の宿題プリントに「雲海」という言葉が出てきたのですが、娘はわからず「これ何?」って聞いてきたものだから、例のごとくまずは辞書で調べなさいって言おうとしたんですけど、雲海を辞書調べて説明を読んでも見たこともない雲海は理解できないだろうなと思ったんですよ。

iPadで画像検索をしてごらんと言ったら、山の上から雲を見下ろしている写真が出てきたんですね。

それで、下からみると山に雲がかかっている時があるよね、でも頂上は顔をのぞかせている山ね。もしも、その頂上から下を見たら曇ってこういう風に見えるよね。これって、海みたいに見えない?

と言ったら、「あー!」と言って、言葉とイメージがつながったみたいなんですね。
いっぺんに漢字も覚えちゃいましたね。

そんなことをきっかけに、動画検索もするようになったんですよ。

やはり国語の宿題プリントに「こけし」の話が出てきたんですけど「どうやって作るか知ってる」なんて話になって「回っているろくろにつなげたこけしに、筆で書くんだよ」と説明してもピンと来ないので、youtubeで見たんですね、百聞は一見にしかずってやつですね、もちろんよくわかって面白いねーなんて話をしたんですね。
経験にまさるものは無いって言いますけど、それはそうだって思いますけど、そう簡単に山の頂上に行けるわけでもないし、そのとき幸運にも雲がかかるかなんてわからない、こけし作りの工房をちょっとお邪魔しますというわけにもいかない、インターネットがあっから理解ができたことだと思いますね。

インターネットの発展により、今までは不可能だったことが、いつの間にか可能になって来ています。その中の一つが、「フルタイムで働く親による家庭学習サポート」だということを、小川さんの事例は体現しています。

親子でいっしょに学ぶメリットはとても大きいです。

親が一生懸命学ぶ姿を見て、子どもは主体的に学ぶ姿勢を身につけるのです。

困ったら、助けてもらえる安心感があるから、頑張れるのです。

さらに、それは、親の社会経験を、子どもに伝える貴重な場でもあります。

小川さんの挑戦は、子どもの勉強をサポートしたいけれど、忙しいから無理だとあきらめていたお父さん、お母さんに、希望を与えるものかもしれません。

ドラマが起これば、未来がやってくる

田原です。こんにちは。
 
12/15-18で、京都、大阪、東京を周り、たくさんの方とお会いして来ました。
 
今まで、スカイプで対談させていただいた方に、実際に会って、リアルで話をうかがうと、問題意識はすでに共有しているので、いきなり本題から話し始めることができるのが、不思議です。
 
京都では、京都精華大学の筒井洋一さんと、home’s viの嘉村賢州さんにお会いする機会がありました。
 
お二人ともファシリテーターとして授業されたり、イベントされたり、しているわけですが、その二人が共通して発しているメッセージがあり、僕の意識も、その影響で変容しつつあります。

それは何かというと、
 
「過去から継続して未来へ続いているのではなく、過去とは不連続に、向こうから未来がやってくるという感覚」

僕は、これまで、「自己組織化」ということを掲げながら、過去の思考の延長線で未来を捉えていたと思います。

しかし、自己組織化というのは、言ってみれば、「相転移」ですから、変化前とは不連続に訪れる未来なわけです。
 
バラバラだったベクトルが、少しずつ揃ってきて、あるとき、バシバシバシーとベクトルが揃って強力な磁石になるようなものだと思います。

そういう未来が来ることを信じて、一人一人が自分のベクトルについて表現していき、周りの話を聞いていき、影響し合っていく。
 
そうしているうちに、それをどこか知らない人が見ていたりして、向こうからつながってくるというようなことも起こる。
 
みんなが一歩を踏み出して手を繋ぐことによって、ドラマが起こり、ストーリーがどんどん展開していく。

こういう一連の流れは、体験してみないと分からないです。
 
1年間、いろんな体験をしたおかげで、

「ドラマが起これば未来が来る」

ということを、だんだんと信じられるようになってきました。
 
筒井さんの授業や、嘉村さんの対話セッションは、まさに、ドラマを起こして、未来がやってくるのを待つというものだと思います。

そして、その体験を通して、未来がやってくることを信じられる人を育てていっているのだと思います。

未来がやってくることを信じられる人が、
未来を創る人ですね。

授業でアクティブラーニングを行う意味が、また、一つ見つかりました。

第15回反転授業オンライン勉強会のお知らせ

第15回反転授業オンライン勉強会についてお知らせします。

日時:12/28(日) 21:30-23:00

場所:オンラインルーム WizIQ

参加費:無料

登壇者:山崎進さん(北九州市立大学)

タイトル:変化の激しい時代に生き残れる工学部学生を育てる二つのアプローチ

※これまでは、第1部と第2部に分け、第1部では二人の方に25分ずつお話をしていただき、第2部ではビデオチャットによるグループワークという形式をとっておりました。

しかし、「もっとじっくり話を聞きたい」「もっとじっくりグループで話をしたい」というご要望があったので、登壇者を一人にし、グループワークの時間も長くすることにしました。

今回は、第1部と第2部に分けずに、途中で、sgMeetingというテキストベースのチャットミーティングのシステムを使い、グループワークを行います。

変化の激しい時代に生き残れる工学部学生を育てる二つのアプローチ

【プロフィール】

北九州市立大学でプログラミングを教えています,ティーチャープレナーを志す 山崎 進 です。ティーチャープレナー(Teacherpreneur: 教師事業家) とは,ビジネスにおけるアントレプレナー(起業家)と同じように,教育現場の最前線に立ちながら,あらゆる手を尽くして教えるリーダー的存在のことです。主に情報系科目へのインストラクショナル・デザイン (ID) による授業づくりをしています。私の授業は,一斉講義をほとんどしない,学生が手を動かして学ぶことが中心のスタイルが特徴です。反転授業は2012年度から,アクティブ・ラーニングは2013年度から実践し始めました。

【内容】

技術や社会が急速に変化する時代において,工学部の大学生に身につけさせたいことは何でしょう? 細かくは分野によって違いがありますが,大筋では次の3つは分野を超えた共通の願いとして合意できるのではないでしょうか。

1. 「とことん調べる」「旺盛な知的好奇心を持つ」といった主体的に学習する姿勢
2. 「最低限,基礎的な言葉・概念・原理を知っている」という基礎となる知識と技能
3. 「知っている基礎的な原理を組み合わせて応用する」「ものをつくれる」という基本的な応用技能

今回紹介する授業科目「コンピュータシステム」では,この願いを形にすべくデザインしました。最重要考察ポイントは「原理を理解するとはどういうことか?」です。この考察を元に,「直観的にイメージさせる」「専門用語を暗記させる」という2つの異なるアプローチを併用しました。オンライン勉強会では「コンピュータシステム」の授業づくりについて,「なぜそのようなデザインにしたのか」という観点を踏まえながら解説します。

ちなみにタイトルにある2つのアプローチとは「インストラクショナル・デザイン(授業設計)/アクティブ・ラーニング(能動学習)」「直観的にイメージさせる/専門用語を暗記させる」の2つの意味合いがあります。具体的にどんなアプローチなのか,包み隠さずお話ししますのでお楽しみに。

もう1つ,この勉強会を通じて語りたいのは,教師としてのキャリア,つまりこの科目の開発を通した私自身の成長の過程についてです。最初からこの境地に到達していたわけではなく,多くの悩みや紆余曲折,挫折を経ています。それを正直に伝えることで,みなさんが一歩踏み出す勇気になるのであればと願っています。

紹介動画

江藤由布さんによる紹介ビデオです。

山崎進さん紹介(2014-12-12 16.37) from eigotokka on Vimeo.

ギュンター知枝さんによる紹介ビデオです。

このような紹介ビデオを作ってくださる方、大募集中です!!

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Windowsの場合は、下記のページからデスクトップアプリをダウンロードしてインストールしてください。
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「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」の難波弘二さんにインタビュー

今回は、「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」というワークショップを主催している難波弘二さんにインタビューしました。

僕が難波さんのことを知ったのは、探究学舎の宝槻泰伸さんのFacebookの投稿記事を読んだのがきっかけでした。

それは、次のような投稿でした。ちょっと長いですが、宝槻さんの投稿を引用します。

先日、1通のメールが届いた。

「本を読みました。講演に登壇してください」

という主旨のメールで、色々と条件を伺っていると、知的好奇心をくすぐる授業をしてほしい。そしたら90分で15万円謝金を支払ってくれるという。

なかなか良い仕事じゃないか!と思って話を聞くことに。

相手はてっきり40・50のおじさんだと思っていたら、

なんとメールをくれたのは18歳の高校3年生!

しかも岡山県民で、今日の打ち合わせのために新幹線で来たのだとか!

色々と話を聞いていくと、全部自分の貯金をはたいてこのイベントをスタートさせようとしていると判明。交通費や会場費に僕の謝金なども含めたら完全赤字。そんなイベントをなぜやろうと思ったのか?

さらに話を聞いてみると、そこにあったのは強い想いでした。

以下、本人の自己紹介分です

—– ここから引用 —–

こんにちは、「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」代表の難波弘二と申します。

岡山県に住んでいる18歳です。18歳と言うと高校3年生の歳ですが、僕は高校には行っていません。正確に言うと、高校を2回中退しています。まず、地元岡山県の高校を中退し、その後オーストラリアの高校に転校しました。が、そこも数ヶ月で中退しました。そして、その後「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」という団体を立ち上げ、今に至ります。

もう少し詳しく過去を振り返っていきます。

まず、はじめに在籍していた岡山県の高校ですが、ここでは本当に良い友達に恵まれ、楽しい学校生活を過ごしました。本当に満足のいく学校生活だったと思います。ただし「授業」の時間を除いては。

学校行事、部活、友達には満足できましたが、学校にいる時間の大半を占める「授業」に対しては、大きな不満がありました。なかには心の底から「面白い!!!」と思える授業はありましたが、大半は「あー、時間もったいないな」と思う授業ばかりで、内職ばかりしていました。(今となっては、先生方に申し訳ないですが…) そして、「一日6時間近く授業を聞いて、面白い!!!と思えるのは、ほんの数十分。だったら、家で好きなことしてた方が5万倍有益でしょ。」生意気にも、そう考えていた僕は、次第に学校を休みがちになり、結局中退してしまいました。

そんなとき「海外の授業では、ディスカッションをメインで行う」という噂を耳にし、調べてみたところ、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどの高校ではそのようなスタイルで授業を行っていると分かり、「それなら絶対面白いだろう」と思い、オーストラリアの高校に進学することにしました。

しかし、いざ授業を受けてみると、「うん、確かにディスカッションはしてる。でも『みんなの国では、誕生日ってどうやって祝ってる?』とかディスカッションしてどうするの?」と思うような授業ばかりで、「授業のスタイルは好きだけど、内容が伴っていない。そんな授業受けても、英語ペラペラになるだけで、知識とか増えないでしょ。」と思うようになり、結局こちらも中退してしまいました。

このように、2つの異なる国の授業を経験し、そのどちらに対しても不満をもったことで、「授業を変えたい」という思いが人一倍強くなりました。

そして、現在「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」という団体を立ち上げ、「授業」を見直すイベントを企画しています。このイベントでは、「両者の視点から授業を考える」をコンセプトに、生徒と先生が「本音」で授業について対話を行い、お互いに歩み寄っていきます。では、なぜ生徒と先生がお互いに歩み寄らなければいけないのか。それは、授業はコミュニケーションだからです。コミュニケーションの基本は、お互いがお互いを知り、歩み寄ることであり、これなくして成立しません。しかし現状は、両者の間には大きな隔たりがあり、生徒は「もっと面白い授業してよ!」と思っているし、先生は「もっとちゃんと授業聞いてよ!」と思っています。これでは、授業がよくなるわけがない。そう考え、このイベントを企画しました。

以上が、僕の過去および現在になります。

最後に、僕の教育に対する思いを、僕の未来として述べて終わりにしたいと思います。

僕が理想とする教育。それは「生徒が自分の好きな分野で高いパフォーマンスを発揮する」そんな教育です。だから、授業は選択制にするべきだと思っています。しかし、授業選択制という、上っ面の「制度」をいくら取り繕ったところで、授業という「現場」を改善しなければ、この理想は絵に描いた餅になってしまいます。

だから、僕は授業を変えたい。授業を変え、現場を変え、そして教育を変えたい。それが、複雑に絡み合った教育問題を解決する一歩となると信じているから。

難波弘二

この投稿を読み、難波さんとはどんな人なんだろうかと興味がわき、インタビューをすることになったわけです。

「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」について

難波さんは、アクティブにいろんな人と会っていてすごいですね。

いえいえ、紹介していただいてるだけなので。(笑) 最初に宝槻さんに連絡を取ったんですが、そこからいろんな方を紹介していただいて、会っていただいてる感じです。

宝槻さんが最初だったんですね。

はい。イベントのゲストをお願いしたいと思ってメールを送りました。そしたら、宝槻さんはメールの文面から僕のことを40歳のおじさんだと思っていたらしくて、でも会ってみたら18歳だったということで面白がっていただいて、そこから、いろんな方を紹介していただきました。

ちょうど反転授業の勉強会で越境者というものが話題になっていたんです。教師と生徒がともに枠組みを出て手を結ぶところからLearningが始まるんだということがテーマになっていたら、ちょうど難波さんの話が出てきて、「あ、この人が越境者じゃん!」と思ったんですよ。笑 それで、背景をうかがってみたいと思ったんです。

なるほど。イベントの話をすると、僕のイベントのターゲットは先生と生徒の2者なんですけど、どちらかというと僕は先生のほうに重きを置いています。先生は学会とか研究会とかに出ていますが、そこに「生徒の声」が入らないのはおかしいと思って。学会とか研究会で得た知識をはじめて試す場が実際の授業ってリスキーすぎると思うんです。だから、それを実験する場をつくろうと。しかも実際の授業でも、フィードバックを得る場というのがたぶんあまりないんです。生徒が寝れば、「面白くない」というフィードバックですけど、そこそこの授業であれば、フィードバックってないんですよね。だから、学会で得た知識を使って授業をつくり、それをその場で生徒に評価してもらう場を生み出したいなと思いました。先生と生徒を集めて一緒に授業を作ればそういう場になるんじゃないかなと思って企画しました。

新しいなと思うのは、ただ対話するだけじゃなくて、フィードバックをするんですね。それは、おもしろいですね。

僕は、ぶっちゃけトークをしなければ先生と生徒との間にある「壁」は壊れないと思っているので、まずは垣根を無くして対話をすることが必要だと思っています。それに加えて、ただ対話するだけで終わらせずに、実際に授業を作ってみるというのがとても大事だと思っています。
というのも、たとえば、お母さんと子どもがお弁当についてただ対話しても仕方がないと思うんです。一緒にお弁当を作ってみてはじめて、歩み寄れると思うんですよ。子どものほうは、お母さんはこんなに苦労してお弁当を作っているんだなというのが分かるし、お母さんのほうは、子どもってこういうのが好きなんだなというのが分かると思うんですよ。これは、実際に一緒にお弁当を作らないと分からない。だから、これの先生と生徒版をしようと。ただ授業について対話をするだけでは意味がない。共に授業を作る、それによって対話が生まれるという流れが自然だと思っているんです。

授業は先生と生徒の接点ですもんね。それを一緒に作るという共通体験をして、その体験を一緒に振り返ることによってぶっちゃけトークがそこから始まるわけですね。
先生はいろんな学校から参加し、いろんな科目で教えていると思うんですが、ワークショップで作った授業はどうするんですか?

最後にはプレゼンをします。班分けについては、最初は教科ごとに班を分けようと思っていたんですが、十分な人数が集まらないので、5人一班みたいな感じで人数で班を分けようと考えています。そうすると、班の中にいろんな科目の人がいる状態になりますが、その中で、教科に関係のない授業の大枠を一緒に考えていき、最後にその大枠の中に自分の教科を落とし込んで、プレゼンを行うという方法を考えています。

班には先生と生徒がどちらもいるんですか?大枠は班で1つ作るんですか?

はい、先生と生徒どちらもいます。大枠は一人一人が作ります。一人一人が持ち寄った大枠を、班員でフィードバックを加えてブラッシュアップしていくイメージです。たとえば先生が大枠を作ったときに、班にいる生徒が、「いや、先生、それは絶対面白くないよ」とか、「そんな風に宿題出しても、生徒は絶対宿題してこないよ。」とか、生徒側の視点からダメ出しして、先生が自分の大枠についてうーんと考えるじゃないですか。逆に生徒が作った大枠に対して、先生から「実際に先生になってみると、そういうのをやるのは厳しいんだ」というダメ出しがあれば、生徒はそれを受け止めて改善する。そんな感じで班員同士でダメ出しをしていって、それぞれの大枠を考えていくんです。

なるほど。みんながそれぞれの大枠を作って、相互にダメ出しをしたりしてフィードバックを送って、それぞれが大枠を改善していくということなんですね。それはおもしろいですね。

ありがとうございます。ただ、これは、反転授業のグループとかで同じようなことができていることを考えると、イベントという非日常の場で授業にダメだしをしていく必要は、この先無くなるかもしれないと思っています。というのも、金曜とか土曜の放課後とかに「先生、来てよ」という形で生徒が先生を呼んで、生徒と先生が一つのクラスに集まって、その中で、「先生、あの授業こうしてよ。」「いや、それは難しいんだよ。」とかということになると思うんですよ。それの先取りという形で僕がやっているだけで、あと2-3年すれば、そういうことが普通になってくるんじゃないかと思います。

なるほど。実際にやってみると、先生にとっても生徒にとってもインパクトがあることだと思うんですよ。ある意味、すごく身近なのに断絶しているところだから、生徒からのダメ出しとかすごく面白そうですよね。分かっているようで分かっていないことってたくさんあると思うんですね。本当は先生にとって一番重要な情報で、目の前の生徒からとれる情報なのに、その情報を取らないで10年たっているというようなケースもあると思います。生徒からそういう情報を取れるんだということに気づいたら変わってくるかもしれませんね。

そうですね。そこに気づいて、生徒からのフィードバックを吸収していけば、必ず授業のクオリティーは上がりますね。

それは、僕の中で熱いテーマなので面白いですね。

はい。ただ、それだけやったとしても授業のクオリティーを上げるには十分ではないとも思っているんです。っていうのも、先生と対話をして授業の質を上げたいと考える生徒って、ピラミッドがあるとしたら上のほうの生徒だと思うんですよね。ヒエラルキーの上ってことです。何を基準に階層分けしてるかって言うと、授業や勉強に対する関心です。授業とか勉強に関心がある生徒しか、授業にフィードバックを与えようと思いませんよね。興味ない生徒は端から授業聞いてませんから。授業聞いてないとフィードバック与えられませんからね。だから、ヒエラルキーの下の生徒をどうにかしてボトムアップしないと、結局クラスにいる生徒皆が満足する授業には近づかないなと。まあ、ボトムアップっていう言葉あんまり好きじゃないんですけど。一応、便宜上ってことで。で、ボトムアップして、みんなに授業に興味を持ってもらって、みんなが積極的にフィードバックするのが理想かなと。
では、どうやってボトムアップさせるのかと。
それは「勉強に感動する非日常の場」を用意することだと思います。っていうのは、反転授業とかやるじゃないですか。でも、そういう授業っていう日常の場で生徒の内発的な動機を引き出すのって難しいと思うんですよ。少し勉強面白いって思ってる生徒を、もっと面白いって思わせるのはできるけど、全く面白いって思ってない生徒を、面白いかもって思わせるのは難しいかなと。1を2とか3にすることは可能だけど、0を1にするのは難しいってことですね。
でも、非日常の場なら0を1にすることが可能だと思うんです。たとえば安藤忠雄さんが、地中美術館で建築の話をして、建築とはなにかを喋って、そこに高校生が絡んで、やりとりして、ワークショップみたいにすれば、参加する高校生が100人だとしたら、そのうち10人くらいは建築って面白いなと思うんじゃないかなと。そうやって、非日常で0から1になったものを、授業という日常で2とか3に増やしていく。そんな風に、非日常と日常が手を取り合って、みんなが授業の方を向くようにすれば、自然と「こうした方が授業ぜったいおもしろくなる!」「いや、こういう方がおもしろい!」みたいな対話というかやりとりが生まれると思うんです。

難波さんのお話をうかがっていく中で、難波さんがどのようにして教育を変えようと思っているのかというストーリーが見えてきました。整理すると、次のようなストーリーになっているのだと思います。

(Step 1) 非日常のリアルの場で「本物」に出会うことで、勉強を全く面白いと思っていない人に「面白いかも」と思わせる。(0を1にする)

(Step 2) 生徒が先生に授業に対するフィードバックを送っていくことで授業を改善していく。(1を2,3・・にしていく)

Step1の「0を1にする」という部分について、さらに詳しく聞いてみました。

「夢」が果たす役割について

宝槻さんも、知的感動体験の重要性を言っていますよね。

はい。そこにはとても共感しますね。宝槻さんは「探究シネマ」で、動画を配信しているわけですが、あれは面白いですね。ただ、動画でコンテンツを配信するのは、限界があるとも思っていて。と言うのは、あれを見る人って限られますよね。数学に全く興味ないひとはおそらく見ないんじゃないかなと思います。それよりも、数学に少し興味がある人が見ることで、もっと数学に興味をもってもらうという流れなのではないかなと。さっきの話でいくと0を1にするのではなく、1を2とか3にする感じですね。だから、動画を配信することも大切だけど、それに加えて、たとえば、学校が地域に密着して、授業に地域の数学の達人を呼んでその人に話をしてもらうというような場も必要なんじゃないかと思うんです。さっき言った「非日常の場」を学校のなかにつくるってことですね。これなら、数学に全く興味ない生徒でも聞くことになりますから。動画で配信するよりもリーチがありますよね。遠くの生徒にも手が届くってことです。

松嶋渉さんのやっている萩LOVEハイスクールだと、地域の職人さんとか、地域で活躍している人のところに行くんですけど、あのようなイメージが近いんですか?

そうです、そうです。松嶋さんとお話しして、すごくインスピレーションを受けました。

僕は、そのへん、ちょっと迷っているところがあって、難波さんはどう思うかなというところに興味があるんです。最近、NPOカタリバの今村久美さんの記事を読んで、「夢」について考える機会がありました。

「自分の視野が狭いことに自覚的であった方がいい」――認定NPO法人カタリバ代表・今村久美さんインタビュー

僕の場合でいうと、ブルーバックスの本に影響されて物理を勉強したいと思って、それに牽引されて大学、大学院まで進んだんですが、うまくいかなくなって、バサッとそこで止まってしまったんですよね。今村さんも書いているように、夢というのは、過去の視野が狭かったときに描いていたものですよね。僕の場合は、中学生のときにブルーバックス読んで・・とかです。中学生のときは、他のいろんな職業のことを知らないで決めているんですよね。ダメになってからは、どうやって生きていったらいいんだろうと思って、バーッと横に広げて探す感じだったんですよね。それから20年くらいは、夢じゃなくて、そのときにこれやったらいいかなと思ったことを、いくつもやって、芽が出たところにリソースをつぎ込んでと行くという繰り返して、一歩進むと視界が変化して、また、種を撒いてという繰り返しで、あまり長期的な目標を立ててそれを目指していくという感じじゃなくなったんですよね。

夢で牽引していくと、成長して広がっていく視野を無視してしまうんじゃないかということも感じているんです。

夢で牽引していっていいんじゃないでしょうか。狭い視野のなかで夢を決めて、リソースを一気につぎ込んで行動すれば、視野が広がって新しいものが見えてくる。そして、そこにまたリソースをつぎ込んでいく、みたいな感じでいいのかなと個人的には思います。まさに、田原さんが今おっしゃった感じですね。これは最近僕が思ってることですが、よく「自分が一番やりたいことを見つける」とか言うじゃないですか。あれは嘘だと思うんです。そんなの見つかりませんよ。世の中にあることすべてを知れるなら、一番を決められるかもしれませんが、そんなことは無理じゃないですか。だから、今知っていることの中で面白そうなことにリソースをつぎ込めばいいと思います。ぼくは今、教育系に携わっているし、これからも携わっていきたいと思っていますが、これが一番やりたいことかというと分からないです。ただ、僕にとっての教育系が、田原さんでいう「物理が楽しいな」のように、面白いなと思えることなので、一歩を踏み出した感じです。それで失敗して夢が破れたときにどうなるのかというのは、そのときに考えればいい話で、いろんなことを先に知っておかなければいけないというのは、僕は間違いだと思ってます。

今、まさに枠組みを次々に突破し続けている難波さんらしい回答だと思いました。難波さんとのやり取りから気づいたのは、「夢」によって興味関心が狭まることもあれば、広がることもあるということです。もしかしたら「夢」という言葉を使わないほうがよいのかもしれません。

「既存のレールから選択する」ような場合は、自分が選択しなかったレールについては関心を失いがちで、興味関心の幅が狭くなっていきがちだと思います。しかし、今の難波さんや、現在の僕の状況は、「自分が思い描いている社会の実現のために道なき道を進む」というもので、そもそもレールがありません。この場合、あらゆるものからヒントを得ようとアンテナを張り巡らせているので、むしろ興味関心の幅はどんどん広がっていくわけです。

この2つを「夢」という言葉でくくるのではなく、区別していったほうが見えてくるものがあるということに気づかされました。

また、興味のない人が興味のあるものに出会うためには「非日常のリアルの場」が必要だという指摘も興味深いと思いました。

行動してみると、見えるものが変わってくる

行動を起こしてみて、いかがですか?

僕は、こういう風に行動を起こしたわけですけど、実はこれがはじめての企画なんです。こういう風に行動を起こすことによって、宝槻さんに出会って、宝槻さんから田原さんに出会って、田原さんから松嶋さんと出会って、いろいろな繋がりが広がってきたので、僕は行動してよかったなと思っています。視野もどんどん広がっています。だから、何か一つ面白いなと思ったら、それに向けて行動するほうが、いろんな選択肢を考えて迷うよりもいいと改めて実感しています。

反転授業のグループもそんな感じだったんですよ。僕はもともと河合塾の講師で、オンラインの予備校やっていて動画配信していて、今後、この仕事が成り立つだろうかと思って、友達を誘って、平日の夜、10人くらいでオンラインで細々ディスカッションしていたんですよ。そこから、あるきっかけがあって、1年くらいで2400にんくらいまで増えちゃってんですよ。僕は教育系の有名人じゃないから、それで集まってきたわけじゃなくて、面白そうだと思ってただやってみたら、いろんな物語が生まれてこうなってきたということなんですよね。だから、難波さんが言っていることは、よく分かりますよ。

このことを知っていると、ずいぶん違いますよね。やっていけば、予想していない何かがやってくるんじゃないかという予感がありますよね。

答が分からないものに対して、試行錯誤しながら進んでいくことを楽しめる人というのがイノベーターだと思います。難波さんは、間違いなくイノベーター精神に溢れた人だと思いました。そして、18歳にして、すでに、この楽しさを知ってしまい、どんどん行動しているので、これからの展開がとても楽しみですね。

日本の高校を中退してオーストラリアへ

メールのやり取りをしたときに、高校生のときに授業つまらなくて、でも古文の先生は面白くてということを書かれていましたが、それは、特別な感覚じゃないと思うんですよ。でも、宝槻さんや難波さんのように高校をやめてしまう人は少ないと思うんです。だから、普通の人よりも、そういうのが許せないという感覚が強いのかなと思ったんですけど、どうなんでしょうか?

ゆるせない感覚とか思いはみんなと同じなのかなと思いますね。友達の話を聞いていると、やっぱり同じようなことを感じているので。ただ、僕は、カッコツケシーなんですよ。高校辞めたらアウトローっぽくてかっこいいじゃないですか。振り返ってみるとそういう部分はあったと思いますね。中3のときにスティーブ・ジョブスに憧れて、スティーブ・ジョブスの言葉に「今日が人生の最後の日だったら、今からしようとしていることを本当にするか」というのがあるんですが、そういうのにも影響されました。もちろん答えはノーだったわけですが、それをただ思ったり、みんなに言ったりしているだけじゃなくて、やらないとかっこ悪いだろうと思って、実際に行動に移して、辞めちゃいました。

そこが、自分にとっての大事なストーリーになっていたんですね。

そうですね。まあ、プライドだと言えば、そうなんですけど。ていうか9割プライドですね。(笑)

それで、オーストラリアに行くじゃないですか。いろんな選択肢の中で、オーストラリアだったというのはどういう理由なんですか?

アメリカも選択肢としてあったんですけど、高校をやめたのが7月で、アメリカは9月からスタートで、オーストラリアは2月スタートだったんですよ。もしアメリカにいくと、高校入るまでが2カ月しかないじゃないですか。準備期間が2ヶ月じゃ辛いんじゃないかと思ってオーストラリアにしたんです。

オーストラリアに行くまでの半年はどんなことをしていたんですか。

オーストラリアの語学学校に行っていました。

高校辞めるまでは、オーストラリアについて調べていなかったんですよね。海外暮らしはその時が初めてですか?

そうですね。初めてでした。

高校はどうやって決めたんですか。

僕は公立を選んだんですけど、やっぱり私立は学費が高いんです。私立だと学費が払えないので公立を選びました。公立の中でどの学校にするかは雰囲気で選びました。公立はあまり学力差がないので。

2月からオーストラリアの高校に行ってみて、どうだったんですか。

最初は英語が分かりませんでした。語学学校だと非ネイティブ向けにやっているから、先生も加減して喋ってます。でも、生徒はそれに気づいてないんで、調子に乗るんですよ。英語わかる!って。僕もそうでした。でも、実際高校に入ってみると、先生ってネイティブに向けてしゃべるじゃないですか。だから、スラングも入るし、いろんな知識を前提にして喋るので、僕は全然わからなくて、めちゃくちゃへこんでいたんですよ。でも、2か月くらいしたら分かるようになってきて、内容が伴ってないと感じ出しました。それで、このままでいいのかなと思って、日本の高校と同じように辞めてしまいました。

ディスカッションとかアクティブラーニングのような授業形式をとっていても、扱っている内容がうすっぺらいって感じだったんですか?

そうですね。たとえば、Society And Cultureといって、名前は超カッコいいんですけど、実際受けてみると、それぞれの国ではどんなお祝いをしているのかを話し合うんですよ。そんなのどうでもいいじゃないですか。しかも、話し合うのは最初の3か月だけで、だんだん先生も面倒くさくなっちゃって、教科書を書き写せみたいな感じになっちゃって、一体どこの小学校…って授業になっちゃったんです。もちろん意欲がある先生もいますが、意欲がない先生が多かったですね。あとは、意欲があってもレベルが低くて内容が伴ってないとかもいました。

先生のレベル・意欲が低いんですか?それとも、生徒がやる気がないんですか?

どちらもですかね。ただ、レベルが低いことに関して言えば、これは文化的なものだと思っています。日本は高校でも内容を重視しますよね。ただ弁が立てばいいわけじゃなくて、難しいことを言えるのかということも重視されると思うんです。でも、オーストラリアの高校では、自分の意見を言えば、どんな意見でも丸ですよという雰囲気を感じますね。私立は知りませんが。そんな文化が根付いているので、内容があまり重視されないのかなと個人的には思います。先生が悪いとか、生徒が悪いとかというよりも、文化の違いですかね。ただ、これがアメリカになると話は別かもしれませんが。

アメリカとオーストラリアの違いかもしれませんが、MBAにおける戦略的な思考とか、会議を合理的にやるとかいうことになると、欧米のほうが日本よりも強いという印象があります。難波さんの考えでは、とにかく意見を言って理由を言う文化と関係していると思いますか。

関係してると思いますね。ただ、そういうMBAの戦略的思考とか、ロジカルシンキングとかって、アメリカとかイギリスとかの文化水準が高いところには浸透しているけれど、個人的には、オーストラリアにはあまり浸透していないのかなと感じます。私立高校や、大学はわかりませんが、少なくとも僕が通っていた公立高校で授業を受けた限りは、そのように感じました。

オーストラリアは資源もあるし、物価も高いし、雇用も守られている国ですもんね。オーストラリアでは、そんなに競争が厳しくなくて、そんなに頑張らなくても暮らしていける国だという印象がありますが、それでも上層部の優秀な人もいますよね。そういう人はプライベートスクールに行っているんですか?

はい。ほぼプライベートスクールだと思います。

どちらかというと、プライベートスクールに行かないような生徒が行く学校へ行ったら、「レベルが低い」ということになったということですかね。

そうですね。そこは、情報不足だったと思っています。もし、知っていたら、準備期間が2カ月であろうが、アメリカに行ったと思います。

オーストラリアに行ったから分かったこともありますよね。

あります、あります。一番大きかったのは、日本の高校に行っていては会うことがないような、たくさんの年上の方に会ってお話させてもらったことですね。

難波さんがスティーブ・ジョブスに憧れた部分というのは、「イノベーター」という部分だったのではないかと思います。イノベーターは、人が敷いたレールを進むのを嫌って、自分の感覚を頼りにして自分で道を作っていくわけです。レールの上を効率よく進むということをよしとする価値観に照らすと中退というのは「失敗」のように見えるわけですが、イノベーターの価値観に照らすと中退は、「レールから外れてイノベーターとしての一歩を踏み出す行為」というように意味が変わってくるわけです。このあたりが、とても面白いと思いました。

これからの時代のLearningの形

スティーブ・ジョブスからは、どんな影響を受けたのですか?

中3のときにスティーブジョブスに出会って、彼の考え方を知り、影響されて、大学に行かなくても成功する道があると気づいて、受験ベースの授業に対して反発するようになりました。

スティーブジョブスは、大学に行っていますよね。大学いかなくてもいいと思ったのは、どういうつながりになったんですか?

スティーブジョブスは、大学に行ったけど中退していて、大学で学んだ知識を使っているわけではないじゃないですか。大学を辞めてからもぐった授業で学んだことは使っていますが。それを考えると、大学に行かずに起業する道もあると思ったんです。

なるほど。僕のビジネスパートナーの一人に、イギリスに住んでいる20歳の女性がいるんです。彼女は、13歳のときに学校というものに我慢できなくなって辞めて、そのあと、一人でプログラミングの仕事をして生活費を稼いで、インターネットで独学で勉強して、起業してという経歴なんですね。僕と知り合ったときは18歳だったんですけど、40歳の僕よりもはるかに大きな視野で考えている部分があるし、すごくいろいろなことを知っているんですね。だから、彼女を通して、今は、インターネットを使って自分で学ぶことができる時代なんだということを確信したんです。

僕が大学院を中退した20年前は、大学を離れてから論文を調べようと思っても自由にアクセスできない状態で、「知が閉じ込められている」という感じがしたんです。
大学に所属していないと難しいんだなと思ったんです。でも10年後に、日経サイエンスのDIYバイオの特集記事を読んだんです。彼らは、インターネットのオークションで中古の遠心分離器なんか購入して、ガレージで実験して研究している人たちなんです。その記事を予備校の講師室で読んで、そういう時代が来たんだと思って興奮しましたね。自分も何か始めなくちゃと思いました。それで、ネットで論文を調べてみたら、昔はアクセスできなかったような論文にアクセスできるようになっていたんですね。時代は変わったと思いましたね。これからは、大学に頼らないでイノベーションを起こす人というのはサイエンスの分野でも出てくると思いますね。

そうなんですね。僕は、今田原さんがおっしゃったような、学校に頼らない学びが、これからのLearningの形だと思っていて、学校に頼らなくてもコンテンツは山ほど転がっているので、それを自分で探して、見つけて、勉強して、分からないところがあればフォーラムとかで質問し合っていけばいいと思います。それをみんなでシェアしたくなったら、学校に行くとか、あるいは、学校という存在がなくなって、近所にいるおじさんがファシリテーションするコミュニティができて、そこに質問しに行くとかになるんじゃないかと思います。
というのも、僕は、学校は、これから先何十年か何百年かしたら無くなるかもしれないと思っているんです。知識をつかもうと思えばつかめるので、学校という近代に確立した、上から与えて国民を画一化する教育システム自体がなくなってしまうんじゃないかと思っています。

反転授業というものを追及していくとそういうものにぶつかってしまうんですよね。上からコントロールしているピラミッド型の教育システムがあって、教師がその最前線にいるわけです。教室でシステム側に立つと生徒をピラミッド型の相似形でコントロールすることになるんですけど、教師が生徒の側に立って、その構造をひっくり返していくと、いろんなところが変わっていくという可能性があるんですよね。だって一番人数が多いところは最前線のところなんですから。

そこを変えていこうというムーブメントが生まれて、難波さんのような活動も出てきて、教室が変わっていき、教え込むのではなく、自分でLearningできるような力がついてくると、上からのコントロールがだんだん効かなくなるわけじゃないですか。その世代がじわじわ上がっていくと、メディアリタラシーもついてきて、プロパガンダ的なものも効かなくなってくるんじゃないかと思っていて、そこに希望を見出しているんですよ。

なるほど。しかも、最近地方創生がキーワードじゃないですか。地方に権力が降りていけば、そういうことがやりやすくなるんじゃないかなと。わからないことがあったら、ある分野に秀でた近所のおじさんがいるコミュニティに行って聞く。そんなコミュニティが広がっていって、最後の最後で学校という存在がなくなるかもしれないと思いますね。

学校に頼らないでも学べるという難波さんが、学校の代わりに考えているのが「コミュニティ」です。学校もコミュニティも人が集まっているという点では同じですが、集まり方、関係性が異なります。学校では「何を学ぶべきか」というものが決まっていて、場合によっては「どのように学ぶのか」というのも決まっています。学習者の自由度が低く、学習が義務のように感じられがちです。一方、コミュニティの場合は、主体的に「何かを学びたい」という気持ちを持っている人が集まり、グループ内で支援し合っていくというというボランティアベースの活動になると思います。自由度が大きいですが、うまく機能するためには工夫が必要かもしれません。

コミュニティによる相互の学習支援は、どのようにして実現できるのか、難波さんの考えをうかがいました。

コミュニティにおける学びあい

学校の存在がなくなったときに、「近所のおじさんに聞く」という言葉が、今、出てきましたよね。僕は、特に地方には、そんなに都合よくちょうどよい「近所のおじさん」はいないと思うんですよ。難波さんは、それについて、何か考えありますか?

もちろん、何でも知ってるスーパーおじさんみたいな人はいないかもしれませんが、学生の頃数学を研究していた近所のおじさんだったり、先生ではないけど、高校からアメリカに行っていて英語がすごくできる主婦の方とかはいると思います。その人たちでコミュニティを作って、インターネットで質問しても分からないからどうしようかというときに、そういう近所のコミュニティへ質問しにいって解決することができるかもしれないと思うんです。

ストリートアカデミーというサービスがあって、教えたい・学びたいのマッチングをやっているんです。有名な人じゃなくてもいいから教えたい人、たとえばプログラミングができるというおじさんが場所を借りて教室を開いて、勉強したい人が集まって教えてもらうというものなんです。ここで一番難しいのが、ちょうどいいおじさんを探すという部分だから、そこのマッチングをインターネットでやろうというサービスなんですけど、難波さんのイメージは、そんな感じですか?

そうですね。コミュニティを探すのはインターネットを使うけれど、実際に会うのはリアルの世界ですね。ストリートアカデミーは僕のイメージに近いです。

なるほど。僕は、それは細かいニーズ同士のマッチングだから、都会ではやりやすいけど、田舎ではやりにくいんじゃないのと思っているんです。僕は、地方にいたから、ストリートアカデミーは東京だからできるんじゃないの!と思っていたんです。僕は、ロングテールのマッチングの部分にインターネットの可能性を感じていて、たとえば、こうやってビデオチャットでしゃべっていると、会っているかのように感じられますよね。だから、そういうオンラインのワークショップ型の学びに興味がわいたんです。それで、ストリートアカデミーのCEOに会いに行って、「オンライン化しましょうよー」って言ったんですよ。「デンマーク語を教えられる人が岡山にいたって、採算がとれるほど生徒を集めるのは難しいですよ」とか言って。日本全体からうすーく集めるから10人集まって教室が開けるんじゃないですか。リアルはリアルでいいけど、オンラインにも広げると可能性が広がりますよーって話をしてきたんです。ストリートアカデミーはリアルで会うということを大切にしているサービスなので、話すだけで終わったんですけどね。

ロングテールのマッチングこそが、主体的な学びが立ち上がってくる場なんじゃないかと思っているんですよ。

なるほど。ただ、アメリカとかでホームスクールが流行っていることを考えると、日本にもその流れがきて、学校に頼らない教育が流行れば、リアルの場でもマッチングできるくらいユーザー数は獲得できるのかなと思います。反転授業にしても海外発祥で、それを日本が輸入しているじゃないですか。だから、それと同じで、学校に頼らない教育も、日本が輸入して流行りだすのかなと。

いろんなサービスがアメリカから5年遅れで流行るというのはあって、いろんな人がそういうスキームでビジネスを立ち上げていると思うんですけど、僕は、もうちょっと内的な動機といか、やらなくちゃいけないという必然性があって動いているんですよ。反転授業のグループは自己組織化ということを合言葉に活動しているんですけど、ヒエラルキーを作らないということをグランドルールにしていて、全員が横並びで、さん呼びで呼び合うようにするからこそ、自己組織化が起こると思っているんです。それを、サイバースペースで横に広げていって、リアルでは出会えない人と横に繋いでいってコミュニティで学び合うということになっているんですよ。そして、これは、オンラインだからできるんですよ。

なるほど。確かにそれを考えると、最初はユーザー数が足りないので、オンラインから入らないとだめですね。

うわ、頭いいですね。問題の本質にスパッと気づきますね。

リアルの場でコミュニティができるかどうかは、ユーザー数の「密度」によるという認識は、難波さんと僕との間で共通していました。難波さんがおっしゃるように、アメリカでホームスクールなどのオルタナティブ教育が広まっていることを考えると、将来的には日本でもリアルの場で学び合いのコミュニティができてくる可能性はあると思います。

難波さんが「リアルの場」に強い思い入れがあるということも伝わってきました。難波さんは、人の心を動かすためにはリアルの場での体験が重要だと感じているのだと思います。それが、ワークショップやリアルの場のコミュニティといったアイディアへつながっているのだと思いました。

学校と市場原理

話しているうちに、今度は、難波さんから僕への質問が来ました。

田原さんは、学校というものの中に市場原理を入れないといけないと考えていますか?

市場原理というよりも、お金をどこからもらうかということなんですよね。お金を外からもらうということは、ある程度、その影響を受けることになりますよね。それよりは、学びたい人、ユーザーから直接お金をもらうほうが、グループを自律的に運営できるから自分にとってはいいんですよね。だから、グループの中で価値創出をして、その価値に比べれば安いという値段を設定して、払ってもらって、お金以上の満足感を感じてもらうようにする。そのほうが、自分たちの中で回しているから、システムを変えていく力というものにつながりやすいんじゃないかなと思っているんです。

なるほど。資金調達の部分で、スポンサーをたくさんつけてしまったり、株式公開すると面倒くさくなったりという話と似てるかもしれないですね。こっちで利益を出したほうが、自分の好きなようにやれるみたいな。そうなると、やはり学校が自分でどれだけのお金を生み出せるのかという部分は重要ですね。たとえば、部活動でコーチを呼びたくても、人件費がかかるので、仕方なく自分でやっている先生もいると思うので。
今思ったんですけど、キャリア教育の一環として生徒がプロダクトやサービスを作って売って、その売り上げの一部を学校がもらうことはできないでしょうか。課外学習とかでやれば面白いと思うんです。

それ面白いですね。キャリア教育についてなんですけど、ビジネスのスキルが、学校にない場合が多いんですよね。でも、松嶋さんのように先生の枠組をはみ出してしまっている先生って、実はたくさんいるんですよ。でも、大学出て、直接先生になってしまうと、ビジネスの経験をする機会がないですよね。今、実験的にやっているのは、スモールビジネスを立ち上げて、そこにボランティアで何人かの先生に入ってもらって、10人くらいのチームを作っているんです。ストロングポイントの分析やブレストから始めて、僕も仕事のノウハウを提供して、それでサポートしている方を収益化して生活できるようにするということにチャレンジしているんです。そうすると、キャリア教育をやるときのアイディアになったり、確信を持ってできるようになったりすると思うんですよね。先生にビジネスマインドが備わってくると、生徒と一緒に面白いことができるようになるじゃないですか。それは、もしかしたらプロダクトを作るということかもしれないし、別のことかもしれませんけど。

それ面白いですね。ビジネスマインドに限らず、先生と、先生が持ってないスキルを持った人が手をつなげば、可能性がどんどん広がりますね。松嶋さんからお話を伺っていても、松嶋さんは他の先生が持っていないスキルを持っていると感じました。松嶋さんが持っているKnowledgeの部分を他の先生にシェアしてもらえば、先生にできることの幅がどんどん広がっていきますね。

Learningの輪があって、教師のLearningの輪が回っていくと、生徒はそれに触発されてLearningが回っていくんですよね。教師のLearningをどうやって回すかというと、リアルの場ではなかなかリンクできないから、オンラインでリンクして学び合いによって教師のLearningを回していって、それに触発されて生徒のLearningが回っていくというイメージなんです。
でも、普通は、先生と生徒の輪は、離れていてギアが噛まないんですよ。だから、先生が生徒から批判されることを恐れずに枠をはみ出していって、生徒も生徒という枠から出て歩み寄っていかないと噛まないんですよね。筒井さんは、まさにそういう問題意識の最先端の方で、それを噛ませるためにCTを入れているんですよね。だから、筒井さんの授業は難波さんのやっていることと親和性が高いと思います。生徒側から仕掛けているという意味では、難波さんのほうがもっとラディカルかもしれませんけどね。

そうなんですね。今度、筒井さんのゼミにお邪魔させていただくことになったので、そのときにじっくりお話を伺ってみようと思います。

難波さんの面白いところは、学びを変えていく様々な方法を同時に考えているところです。コミュニティにおけるオルタナティブな学びについて考える一方で、学校をどのように変えていけるのかを考えて行動しているわけですね。

そして、自分自身が学校の枠組からはみ出していくのと同時に、教師にも枠組みを出ることを期待しているんですね。教師の枠組を超えて活動している松嶋さんとは、シンクロする部分があったのではないかと思いました。

「本物」だけが感動を与えられる

難波さんが考える教育の中で、重要な位置づけになっているのが、

(Step 1) 非日常のリアルの場で「本物」に出会うことで、勉強を全く面白いと思っていない人に「面白いかも」と思わせる。(0を1にする)

というところだと思います。「非日常の場」について、難波さんは話を続けました。

僕は、今少し迷っていることがあって。今度「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」というワークショップの初回をやるんですけど、その後、第2回、第3回をやる意味があるんだろうかと思って迷っているんです。もちろん、これは必要なことだとは思うけど、もっと前にやるべきことがあるという気持ちもあるんです。というのも、このワークショップに参加する生徒は、おそらく授業にとても関心がある、いわゆる意識高い高校生なんですよね。で、その一方で授業に全く興味がない高校生もいるわけです。そうすると、いくらこのワークショップを開いて、先生の授業のクオリティを高めたところで、授業の方を向いてない生徒がいるわけですよ。端から授業聞いてないっていう生徒が。であれば、このワークショップを開く前に、そのような生徒に向けて、勉強って面白いって思ってもらって、授業の方を向いてもらう方が先なんじゃないかと。つまり、さっき言った「非日常の場」をつくって、ボトムアップすることを優先すべきではないのかと思っているんです。

NPOカタリバのやっている活動は、難波さんが考えている「非日常の場」とターゲットが同じだと思うんですが、カタリバさんの活動についてはどう思っているんですか?

カタリバさんのやっていることは共感できます。ああいう風に生徒と対話することで、やりたいことはあるけど怖くて一歩を踏み出せない、という生徒が一歩を踏み出すことができるように手助けをするのは大事だと思います。ただ、自分の中に、やりたいことが本当にない生徒っていうのもいると思います。そんな生徒には、大学生と語り合うよりも、本物をを呼んできて、本物を見せた方が効果があると思います。それが「非日常の場」ですね。非日常の場でする具体的な活動は、たとえば、1時間目は安藤忠雄さんを呼んで建築に関するワークショップのようなものをするんです。そしたら、「建築って面白い」という生徒が出てくると思うんです。2時間目は数学で、数学者の岡潔のような大数学者を呼んで数学についてのワークショップをやりたいんです。3限目はそれの音楽バージョンで小澤征爾を呼んだり、本物を呼ぶんです。

安藤忠雄さんを呼んで、1年に1度、何とかして安藤さんのスケジュールを押さえて100人の前で話をしてもらったとするじゃないですか。その中の10人が建築面白いと思って心に火をつけたとしても、1年に10人ですよね。大学生ならたくさんいるから面で展開できるけど、安藤さんは一人しかいないから、人数的にはカタリバさんのほうがインパクトを与えられそうですよね。その辺は、どんな風に考えるんですか?

安藤忠雄さんは一人で、一年に一度しかできないかもしれないけど、隈研吾さんを呼ぶとか、他の建築家の方を呼べば、一年に何回も開催できると思いますね。もちろんマネタイズできることが前提ですが。

アプローチは、いろいろあってもいいですからね。火のつき方や、鍵の開け方もいろいろありますからね。
「本物」といったときに、数学だったら、学校の先生だって高校生が知らない面白いことをたくさん知っているはずじゃないですか。その向こうにフィールズ賞を取ったような数学者がいたとして、高校生に合わせて話をするとすると、どちらも変わらないような話をすることができるじゃないですか。でも、やっぱり、数学者じゃないとダメなんですかね。

ダメですね。やっぱり、誰が喋るかって大事です。高校生単純ですし。たとえば、先生でも、古文の先生が授業中に「源氏物語ってのは、すごい面白くてなー」と言うのと、物理の先生が「この前、源氏物語読んだんだけど、面白くって」って言うのは感じ方が違うと思うんです。言ってることは同じだけど、やっぱり物理の先生が言った方が「よし、オレも読もう」って生徒は思うと思います。だから、やっぱりフィールズ賞を取った人が訳の分からない難解な数学の話をしないと生徒は感動しないと思いますね。数学の先生が訳のわからない数学の話すると、7割くらいの生徒は寝ますね。(笑) これは、個人的な話ですが、この前読んだ本で、岡潔が小林秀雄に「今の数学というのはマスターを修了しないと数学という言語を習得できない。なのに、数学という言語が習得できないと、数学の本質がわからなんです。だから、マスター修了してない人が私がやっている研究見ても、何をしているのか分からないんですよ。それが、今の数学教育の問題点なんです。」と言っていて、そのあとに、岡潔が数学の研究の話をしているんですけど、全く分からないんです。ぼくマスター修了してませんから。だけど、カッコいいんですよ。うぁ、すごいなと思うんです。

じゃあ、たとえば、高校の先生が「僕が大学院生のときに可換環の研究していたんだ」とか言って、黒板に数式を書いても、難波さんはカッコいいと思わなくて、心が動かないんですね。

僕は数学って面白いなと感じているので、心が動くかもしれませんが、数学に全く興味がない生徒は心は動かないと思いますね。

難波さんの言っていることは、「憧れ」を行動の原動力にして0から1を作るということなのだと思います。実際、難波さん自身もスティーブ・ジョブスに憧れて、0から1が生まれたという体験があるわけです。ただ、僕自身は、そういう明確なロールモデルがいたわけではなかったので、正直、ピンと来ない部分もありました。また、遠い存在よりも、身近な存在のほうがリアリティがあって憧れを感じやすいというケースもあり、難波さんの意見と必ずしも一致しているわけではないのですが、著名人を呼んでワークショップを行えば、集客力もあるし、それによって心に火がつく人も出てくると思うので、難波さんが言っているようなことも起こるかもしれませんね。

難波さんが考える教師の役割の変化

難波さんの期待に応える授業では、教師は何をやったらよいんですか?

ファシリテーションですね。僕は、さっきも言ったように学校が将来的にはなくなって、それに伴って教師もいなくなって、近所のおじさんが取って代わると思っています。近所のおじさんがやるのが、ファシリテーションなので、教師=近所のおじさんとするなら、教師の役割はファシリテーションですかね。

ファシリテーターって、具体的に言うと、どんなことをやっている人っていうイメージを持っていますか?

例えば、アメトークの宮迫と蛍原みたいに、テレビのバラエティ番組のMCとかですね。ただ、ホンマでっか!TVの明石家さんまは違いますかね。

そこでやっているファシリテーターの機能って、どんなものなんですか?

主役はひな壇に座ってる芸人で、その芸人が気持ちよく喋れるように話をふったり、テーマから外れたことを喋っていると戻したりする役割ですね。あとは、たまに面白いことを自分で言って、場を盛り上げたり。明石家さんまは、自分が主役なところがあるので、少し違いますかね。

自分で勉強していて、こういう支援があったら助かるなというものとかありますか?僕は、結構あったんですよ。大学院生のときとか一人で研究していたんで。自分でやるということにプライドを感じてやっている一方で、限界を感じている部分もあったんです。

コンテンツを紹介してくれることですね。たとえば、高校生のときに哲学を勉強していたんですけど、哲学を専門にしていた先生が僕が入学する前に辞めちゃっていなかったんです。それで、何から読めばいいのかが分かんなかったんです。で、『ツァラトゥストラはかく語りき』とかから読み始めて一度挫折したんです。なので、入門書とかを教えてくれる人が必要でしたね。

それが、反転授業でいう「壇上の賢人」から「ガイド役」のガイド役っていう感じですかね。アクティブラーニングの教師の役割って、いくつかあるんですけど、質問による介入というのがあるんですよ。質問をすると考えるから、その人の考えに薪をくべて燃やすというイメージですね。あとは、人と人と繋げるというのもあります。AさんとBさんとを繋げるとちょうど化学反応が起きそうだというのを判断して繋げるんですね。更に、コンテンツと繋げるという役割もありますね。この人にとって必要な情報に繋げてあげる。また、この人に出会うとよさそうだという人にコネクションを利用して出会わせてあげるようにしてあげると、その人の学びのネットワークが広がっていくと思うんですよ。それは、目立たなくて、気づかれにくいんですけど、かなりスキルが必要なんですよ。

反転授業には2種類あるんですよ。1つは、完全習得型の反転授業で、こっちは、補習型なんですね。決められた教科書があって、その内容を習得させようとしても生徒の理解度にばらつきがあるから、動画講義などを利用して個別学習させて、先生はそれをサポートする考え方なんですよね。塾とかだとそういうやり方がすんなりはまると思うんです。

もう一つは、アクティブラーニング型の反転授業です。教育がこれじゃまずいだろうという考えがあって、それを変えようというのがアクティブラーニングなんですよ。もともと自分で考えることを求められてきていない生徒がいて、その人たちが自分たちで考えられるようなって、難波さんみたいに自分で考えて行動できるような人が出てくるようにするには、教え込んじゃだめだし、教え込まないでサポートするという難しいことをやっているんですね。でも、それをやらないとピラミッド型のヒエラルキーが変わっていかないでしょという問題意識を持っている人もいて、そういう先生は使命感を持ってやっていると思うんですよ。

だから、ある意味、そこをIT化できるかもしれないとは僕も思っていて、Learning SNSみたいなものがあって、ガイド的なものがSNSの中にあって、人工知能のようなシステムが組み込まれていて、アマゾンのおすすめ商品みたいに、それぞれの学習者におすすめのコンテンツを提示するようなシステムがあれば、ある程度、自分で学ぶということを支援できますよね。そういうSNSを作りたくてプロトタイプを作っているところなんですよ。

ただ、上位層は、そういうもので伸びていけるかもしれないけど、そうじゃない層は、難波さんも言っているように、人の手をかけないとうまくいかない部分があると思うんですよね。そういうノウハウを持っている人は少ないから、それをシェアして広げていこうとしているんですね。

その下位層というかボトムをアップさせることって永遠の課題じゃないですか。でも、それって、もしかしたら永遠に解決しないことなのかなとも思っています。さっきは、「非日常の場」をつくることでボトムアップできると言ったんですが、やはり元々解決しない問題なのかもしれないとも思っていて。というのは、世の中にヒエラルキーって絶対に生まれてしまうもので、ボトムは相対的に必ず存在してしまうのかもしれないと思っているんです。そう考えると、ボトムアップの必要性ってないのかなって思ったんですけど。

僕はそこに対してはラディカルな思想の持ち主で、研究していたのも自己組織化の原理です。これは、ボトムアップがどのように起こるのかという一般的なメカニズムなんです。ヒエラルキー構造を強めていく力があって、それに対してフラットにしていこうとする力もあって、0点か100点かということじゃなくて、その中で、20点だったり、40点だったりするということだと思うんですよ。

僕は、外から評価する立場じゃなく、教育については当事者なので、「20点ですね」と客観的に評価するよりも、それを25点にするために考えて行動していきたいんです。過去にヒエラルキーが常に存在していたからといって、インターネットのように過去にはなかったものも生まれているのだから、同じことになるとは限りませんよね。だから、過去の歴史で起こらなかったことが起こってもいいんじゃないのと思うんですよ。

なるほど、確かにインターネットには、そういう可能性があるかもしれませんね。今までの既成概念を覆す何かを生む可能性はありますね。

「教師という職業がなくなって、近所のおじさんが取って代わる」という刺激的な発言によって、僕も安全な場所から引っ張り出されてしまいました。(笑)これこそが、立場が異なる者同士が、対等な立場で話す醍醐味かもしれません。難波さんによって、すっかり本音を引き出されてしまいました。

キャリア教育について

今キャリア教育って色々あるじゃないですか。でも、たくさんありすぎて高校生は自分の必要な情報にアクセスしにくいと思うんですよね。だから、情報を整理してあげて、Yes-Noみたいな感じでチャートを辿っていくと必要な情報にたどり着けるようにしてあげて、それで、自分はカタリバに行くべきなのか、僕のやる「非日常の場」に行くべきなのか、あるいは、Life is Techに行くべきなのかということが分かれば便利だなと思うんです。

それは、イメージとしては、Webサイトでキャリア教育のポータルみたいなものがあればいいんですかね。

そうです、そうです。あとは、Webサイトもありだけど、学校へのコネクションができた後で、ホームルームでこういう活動があるので知らせて下さいというのもありだと思います。WebでやるとWebを認知することが必要じゃないですか。でも、学校で先生が全体に言ってくれれば、リーチが長くなりますよね。多くの生徒が認知できるようになります。

ということは、先生がアクセスするようなキャリア教育のポータルがあればいいということですか?

いえ、ICT教育ニュースに載せるよりは、SENSEI NOTEでシェアしたり、先生の知り合いの中でシェアしたりという感じで、個人的なシェアのほうが良いと思うんですね。

どちらかといと、コミュニティ内でシェアされるほうが伝わるということですかね。

そうですね。たとえば、反転授業の研究に登録している先生というのは意識が高いじゃないですか。生徒に何かしてあげたいという気持ちが強いので、やってくれる確率はあがりますよね。

理念とか、思いの部分を理解してもらった人じゃないと伝わらないですもんね。だから、コミュニティベースで思いの部分をシェアして伝えていくという感じですかね。

その通りです。

実際に難波さんと対話してみて、自分の「イノベーター」としてのアイデンティティが共感したり、ときには、自分の「教師」としてのアイデンティティが発動し、思わず「ファシリテーターって存在価値が見えにくいけど、重要なんだよー」などと主張してしまったり、いろいろな感情が動きました。生徒と教師が本音をぶつけ合うことで、今回の僕のように感情が動いて化学反応が起こるのではないでしょうか。自分自身が難波さんと本音で話す経験を通して、そのことを確信しました。

ワークショップ「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」終了後の感想

この対談の後、難波さんはワークショップを実施し、ワークショップの感想を送ってくださいました。

11/16にワークショップ「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」を開催しました。開催してみての感想と今後の方向性を書いていきます。
まず、開催してよかったと思ったのが、先生が生徒の声を聞く重要さと共に、生徒が先生の声を聞く重要さを実感したことです。先生にとって、生徒からのフィードバックが大切なことは自明ですが、生徒にとっての先生の声も欠かせません。先生が授業をする上で気をつけているポイントや、授業づくりの大変さを知ることで、生徒の授業を聞く姿勢は変わると思いました。このことがわかったのは、自分の中でとても大きかったです。

ただ、反省すべきところもあります。当初の目的は、「先生が自分の授業をブラッシュアップすること」および「生徒が自分の先生に授業案を提案して、先生の授業を改善すること」だったのですが、そこまで到達するには、たくさんのステップを踏まなければいけないことに気がつきました。先生だと、「そこで出た授業案をブラッシュアップする」→「それを参考にして、自分の授業のブラッシュアップする」となり、ステップをひとつ踏まなければいけません。また、生徒になると、「ワークショップで出た授業案をブラッシュアップする」→「その授業案を自分の先生に提案する」→「先生が授業を改善する」となるので、もうひとつステップが増えます。よって、このステップの数を減らすことが課題だと感じました。

では、この課題をどう解決するかというと、ある授業を提供している先生と、受けている生徒を対象にワークショップをすることになります。これが今後の方向性です。ある授業にお邪魔して、その先生と生徒で対話型ワークショップを開きます。そこで、お互いが日頃授業に対して感じている想いを伝え合います。もちろん、ここでは単なる感情のやりとりにならないように、第三者である僕や、ファシリテーション補助の方が介入することで、生徒からのフィードバックを客観的で生産的なものにしていきます。この発想は筒井さんからいただきました。日頃お互いが授業に対して感じていることを伝え合ったあとは、そのフィードバックをもとに、その場で授業をブラッシュアップしていきます。

今後は、このような活動をプロジェクトの一つとしてやっていきたいと考えています。

難波さんが主宰する「生徒と教師が本気で授業を考える7時間。」の公式HPはこちら

京都精華大学人文学部教授 筒井洋一さんにインタビュー

2014年8月にFacebookグループ内の告知で、授業協力者の募集をしていたのを見たのがきっかけで、筒井さんの授業にとても興味を持つようになりました。

【大学教育に関心のある社会人・大学院生・学生の方へ】 京都精華大学の授業「情報メディア論」を教員と一緒に創りませんか?  授業協力者募集です!

一部引用します。

授業をオープンにすると、学生の学びが深まります。

同大学人文学部専門科目「情報メディア論」の授業が9月から来年1月までおこなわれます。その授業を私と一緒に創っていただける授業協力者(Creative Team: 略称 CT)3?4名を募集します。CTとは、15週間、教員と同じ立場で、授業設計・準備・実施・検証する学外からのボランティアです。

授業期間は15週ですので、全期間一緒にできる方がありがたいですが、これは要相談です。報酬が伴わない、ボランティアでの参加となりますが、大学の授業を創る意欲、他人との協調性、最後まで愉しくやり抜く気持ち、そして何よりも学生と共に学ぶ気持ちがあれば、経歴は問いません。しかし、大学、NPO、企業などでの授業、ワークショップの企画運営の経験者が望ましいです。

(中略)

忘れてほしくないのは、CTは、教員の補助者ではありません。むしろ、学生と教員、そして見学者をつなぐ存在です。みなさんが中心になって授業を進めていってほしいと思います。実際に、授業時間の大半をCTが担当してきました。CTが学生の学びを支えるために、たえず寄り添う必要があります。けれども、教員以上に努力してもらったとしても、交通費や謝金などは出ません(すいません)。私とCTとのつながりは、金銭関係でも、また上下関係でもなく、互いの思いをつないでいく関係でありたいと思います。その意味で、CTは、個人の強さだけでなく、CT全員のチームワーク、CTと私とがチームとして取り組むことが何よりも成功の秘訣です。

筒井さんの「グループワーク概論」や「情報メディア論」は、Facebookなどで公募したボランティアと一緒に対等な立場で授業を作り、さらには見学者も授業に参加してもらうという他に例のないオープンな授業です。

授業風景については、こちらの動画をご覧ください。

このような外に開かれた授業が、いったいどのような背景から生まれてきたのか、とても興味が湧きました。

そこで筒井さんにインタビューを申し込み、お話を聞かせていただくことにしました。事前に筒井さんが書かれた論文や記事を拝見し、予備知識を得た上でインタビューさせていただきました。

社会や教育の先を見て適応しようと思った

筒井さんは、最初はドイツ外交史を研究されていて、途中から分野を変更しますよね。それは、どのようなきっかけがあったのですか?

大きなきっかけになったのが93年に大学設置基準が変わったことです。私は、教養部というところにいたのですが、91年にドイツから帰ってきて同僚の先生に「筒井さん、帰ってきて教養部があってよかったな。」と言われたのが衝撃的だったですね。国立大学というのは絶対首を切らないと思っていたのですが、そういうことはなくなるんだと思いました。

それで、強いられて何かをやってくださいと言われるよりは、これから社会や教育がどのように動いていくのかという先を見て、それに適応しようと思いました。

ドイツ外交史という専門分野は、明治以来からの歴史ある専門分野ですが画期的なイノベーションというのはない分野なんです。既にかつての巨人が調べつくした感じがあって、大きな貢献ができず、我々ができることと言えば、重箱の隅をつつくようなことだったので、そういう人生で一生過ごすのは嫌だなと思いました。

もちろん、たまたま大学院でそういう分野を選んでしまったからそれを続けるという人生も当然あると思いますけど、変えないでひたすら守っていくというのは、僕はできなかったです。

すごく共感します。僕も動画配信が2年くらいでダメになっていくだろうなと思って、それなら新しく生まれることを先頭に立ってやりたいと思ったのが反転授業に取り組み始めたのがきっかけでした。大学改革や教育改革へ取り組むようになったのはどのような理由だったのですか?

現状の大学教育や自分自身がやっていることが、このままじゃまずいなと思いました。

何百人もの生徒に対して90分しゃべれば義務は終わるわけだし、学生の試験の点数が悪ければさぼった学生が落ちればいいということなんですけど、それが、本当にいいのかなと思ったんです。

特に法学部や社会科学系というのは、大学経営の中では儲け頭なんです。たくさんの学生を大講義室に詰め込んで授業をするというのが、大学経営としてはやりやすいんです。だから、法学部や社会科学の研究者というのは、その仕組みに乗っかっているわけなんです。

そこで、大学教員は自分の説明なり、解釈なりを学生に説明して、分からなければ学生が悪いという感じでしたよね。

1980年代から90年代ですから、センター試験が始まって、大学の学力低下というのが盛んに言われたころでした。

それは、ちょうど僕が大学生になったころですね。笑 第1回のセンター試験を受験しましたから。

ちょっと学生が変わったなという気持ちがありましたが、それに対して大学があまりにも何もしていないなと感じていました。

大学改革に一番最初に取り組んだのは、教養部の大講義、200人くらいの政治学の授業でした。講義の途中(5週目くらい)でテーマを出してレポートを出してもらいました。1回目はたいしたレポートが出てこないんですよ。それで、簡単に添削して学生に返却したんです。論旨が一貫しているかとか、問題点を指摘しているかとか、10項目ぐらいチェック基準を作って、あなたはどの項目ができていませんねという形でチェックして返したんですよね。

それから1か月後に同じテーマで前よりもいいものを書きましょうということでやらせたら、やっぱり、よくなるんですよ。それで、これは、学生が悪いのではなく、少しきっかけをつかめば学生は十分に伸びるなと感じました。ここから、大学改革に興味を持ちました。

大講義の授業というのは、教員もそうですが、学生からしても苦痛ですよね。こちらも話し続けているけど、前の何列かの人だけが熱心で、それ以外の人は、ただノート取っているか、後ろのほうで寝ているかですから。この関係は、すごく居心地の悪い関係だなということを80年代の終わりからずっと思っていました。

僕は、大学の大講義の授業が苦手で、教員のせいにして授業から出て行ってしまった側だったんですけど、今のお話うかがって、あれは大学教員も辛かったんだなということが分かりました。

教員のほうも学生の学びを促進させないし、学生のほうも学ぼうとしないという共犯関係で成り立っているのが大学の大講義授業です。

筒井さん自身が、ドイツ外交史という分野を飛び出して新しい分野へ飛び込んでいった経験をお持ちだということが、とても印象的でした。その経験によって筒井さんの周りに次々と動きが産み出されるわけです。教養部の授業での気づきが大学改革へとつながっていきます。

大学改革として日本語の授業を提案する

大学改革として、具体的にどのようなことをされたのですか?

大学改革の1つとして、日本人学生向けの日本語の授業をしましょうという提案をしました。

93年に改革を始めて最初のプロジェクトを作るときに『言語表現科目』というのを提案したんです。法学部の教員が国語の提案をするんですから、非常に後ろめたい気持ちがありました。けれども、教員は、学生よりは文章を書いているし、学会などで発表していますから、学生よりは2,3歩前に行っているので、その分だけでも教えようということに賛同する教員を各学部から呼びかけて集めて、何とかやったんです。

今や、全国の8割くらいの大学が日本語表現法とかアカデミックライティングとかといった科目を持っているんですけど、当時はそんなことをやっているところはありませんでした。

それは、1年生向けの授業ですか?どうして日本語の授業をやろうと思ったんですか?

政治学の授業で何度かポイントを指摘すれば学生は伸びるというのが分かっていましたから、それを大学の1年次にきちっと学べば、専門の勉強にも役に立つと思いました。

工学部の先生は、卒論に取り組む前の、3年生後期とか4年生前期にやるといいなぁという話をしていました。理科系の先生はとても熱心で、学生の日本語を直すことを授業とは別にチェックしているという方が多かったんです。

提案は受け入れられたんですか?

科目は新設されたのですが、多くの教員からは袋叩きに合いましたね。留学生に日本語を教えるのは分かるけど、日本人に日本語を教えるというのは理解できないと言われました。特に文科系の教員からは袋叩きでしたね。

それが10年以上経つと市民権を得ているわけですから。

今はどこでも初年次教育をやろうという話になっていますけど、最初はそんな状況だったんですね。

学力が低いのは学生が悪いんだから自分で勉強しろという雰囲気でしたし、学問の府で日本語のスキルなんかを教えるというのは大学になじまないということもさんざん言われましたね。

教育学部の国語の先生とかは、自分たちに負担が来るんじゃないかと思って猛反発しました。

賛成したのは理科系の先生だけでした。

僕は教養部と、その後人文学部という文系学部にいたんですけど、僕の支持者はそこにはいなかったんですよ。

さらっとおっしゃっていましたが、「多くの教員から袋叩きにあいました」という状況の中で、プロジェクトを提案して進めていくというのは、並大抵のことではなかったと思います。筒井さんからお話をうかがっていると、話しぶりがとても穏やかなんですが、その中に「強さ」を感じました。誰もやっていないことを最初にやる人というのは、こういう「強さ」を持っているのだと納得しました。

インターネットとの出会い

筒井さんの活動の中でインターネットというものも大きな位置を占めていると思いますが、インターネットにはどうつながるんですか?

2001年まで在籍していた富山大学には5学部あって、そこに言語表現科目の担当教員がいたんです。当時は、その担当者たちに、会議を開きますとか、意見をくださいというときに、印刷した文書を学内使送便というもので送っていたんです。これは、箱に入れておくと一日に一回配達してくれるという制度だったんです。

でも、会議の日程調整を使送便を使ってやろうとすると、全然返事が返ってこないんです。一方で、Niftyユーザーの人からは、即日、メールで返事が返ってきました。事務処理の効率化のためにはパソコン通信やインターネットを使わないとやっていけないなと思いました。

それと、研究でイギリスに行ったときにNifty経由でアカウントを取得した環境保護団体グリーンピースのグリーンネットというパソコン通信があって、それを使っていろいろ調べることができたんです。

また、ドイツの大学図書館に文献検索に行くときに、以前ならば、30?40万円の旅費をかけて、ドイツに行って、現地の図書館でカード検索しなければならなかったのが、無料で検索できるようになりました。さらに、アメリカの議会図書館に何ドルか払えば雑誌論文をすぐにFAXで送ってくれました。以前は1ヶ月以上もかかっていたのが嘘のようでした。海外研究をやるものにとってインターネットというのは不可欠だなと思いました。

僕が修士の学生のときに、MOSICとかNetscapeとかが研究室に入ってきたんですよね。まさにその時期ですね。

94年の1月にNiftyサーブを使い始めてからはまりました。その年の秋にはインターネットを使って海外プロジェクトをやりたいという気持ちになってしまいました。自分の研究分野である、ドイツの大学の文科系の人といっしょにインターネットで授業をしたいなということが浮かんでしまったんです。1995年は戦後50年の時代でしたから、日独戦後50年の比較政治というテーマで、海外のメーリングリストに、パートナー大学募集と英語で出したんです。アメリカの大学だとすぐに見つかるけど、ドイツのパートナーを見つけるのに数ヶ月かかりましたが、結果的に三大学が希望してくれました。

当時、インターネットを使って授業をやるという取り組みをしている方はいたんですか?

文科系レベルで海外とつないでサイバーセミナーをやったのは、僕が一番初めだと思います。96年に日本経済新聞社の文科系ホームページコンテストで1位になったんです。その当時は、東大、京大、早稲田、慶応とかのトップ校は、まだ、インターネットのコンテストとかに乗り出していない時だったんです。何の脈略もなく、地方国立大学の富山大が突然1位になったんです。他大学は、大学生が一人か二人で勝手にゼミのホームページを立ち上げてコンテストに出たんだろうと思いますが、僕のところでは学生が30人くらい関わっていたんです。96年は何かを最初にやれば一位になれた時代でした。

海外と繋ぐと学生のモチベーションは上がるんですか?

95年の時代ですから、インターネットを使いたいけど、使える場所がないという学生が一杯いました。工学部のコンピューター室ではつながるんですけど、他学部生は使えない。そこで、人文学部の僕の実習室で24時間いつでも使えるし、メールサーバーやWebサーバーも立ち上げて自由に使えるという環境を作ったんですよ。そしたら、学生の中で「筒井の自主ゼミのところがインターネットを唯一使えるらしい」ということで集まってきたんです。

インターネットというだけでモチベーションが上がったんですね。

インターネットの実物は見たことがないという学生ばかりでした。でも、意欲があるんで2週間でブラインドタッチはマスターするし、Webサイトの立ち上げ(タグ打ちで)も1か月でマスターしていました。誰かが新しい発見をすると、みんながそれに飛びついて吸収して、それでまた新しい発見をしてというサイクルができていました。それを見ているのが楽しい時代でした。

学生が主体的に学んでいく場を作るということが、そのときにすでに始まっているんですね。

その時代だけ、富山大の僕の自主ゼミに行っている学生の就職先が急に大手になりましたね。面接でメールを使ってとか、ホームページを作ってとか、そういう話だけで、IT系は争って取りましたからね。

筒井さんの特徴の一つに先見性があると思います。常に先を見ていて、そこに向けて行動を起こしていくのです。インターネットを使ったサイバーセミナーも、まさに、その先見性が現れた例の1つだと思います。また、学生のやる気に火をつけて自由にやらせて伸ばすという現在の活動につながる芽が、この時期にすでに見られるというのも興味深いです。

カウンセリングとコーチングの経験が授業運営に生きている

筒井さんは、いつごろカウンセリング・コーチングを学ばれたんですか?

95年から2000年までサイバーセミナーをやって、eLearningの成果を上げたというのはあるんですけど、同時に当時のeLearningというのは物理的な接触がなくて、文字ベースとチャット、メーリングリストだけでしたから、5年もやると限界があるなと思いました。それで、やめたんです。それで、対面で能力を上げようと思ってコーチングの認定コーチの資格を取るために勉強したり、日本ファシリテーション協会に入ったりしました。あそこにいると、毎週、教科書にないワークを会員が作ってくるわけですから、いろんなことを学べました。

それまで、学生の面談とか得意じゃなかったんですけど、それをやり始めてからよくなりました。

でも、その時点では、大学教育と結びつけることは考えていませんでした。

コーチングを授業に結び付けようと思ったのは、ずっと後になってからです。

これは、そのときは役に立つのかどうか分からずにやっていたものが、10年以上たって役立つというのは、僕自身も経験していることですが、「偶然」というよりは「必然」なのではないかと感じています。つまり、筒井さんが様々なものにアンテナを伸ばし、挑戦してきたからこそ起こることなのだと思います。おそらくお話に出てきたもの以外にも、様々なものに挑戦されているはずです。そのような姿勢を長年続けていくと、ある意味、必然的に、様々なものが繋がってくるのではないかと思いました。

インターネットとボランティア活動

筒井さんのホームページを拝見するとNPOやNGOの活動というものも大きな位置を占めていると感じました。インターネットとの接点にも注目されていますよね。

もともと僕の国際関係論の研究の中にNGOというのが大きな位置を占めていましたから、理論的には全部わかっていたんですけど、インターネットと結びついたのは阪神大震災のときでした。

当時、富山にいましたけど、出身大学が神戸でしたのでいろいろ心配しましたけど、仕事があってなかなか現地へ行けないという状況だったんです。それで、富山にいてもネットワークを使って震災ボランティアみたいなことをできないかなと考えたんです。海外の政治学とかのメーリングリストに「阪神大震災という類を見ない大きな地震が起こって、私は500キロくらい離れた場所にいるんですけど、やれることは何かありますか」と出したら、アメリカのロス地震の経験とか、いっぱい投げてくれたんです。そういうところからヒントを得て活動をしました。海外からは、「神戸在住の人で安否が分からない人を探してくれ
という要望が多かったんです。亡くなっていたらすぐに死亡通知に乗りますが、生きているか行方不明かの確認が非常に難しいんですよね。それで、死亡者リスト、行方不明者リストを確認して、電話をかけて確認して、問い合わせのあった研究者に伝えたりしていました。

震災後の活動は、ボランティアとパソコン通信が結びついた日本最初のケースだったんです。僕もパソコン通信をやり始めたばかりのときだったので、ボランティアとインターネットを結びつけるというところに関心が生まれました。

僕は、東日本大震災のときに東北にいて、地震の後、ライフラインがすべて止まってしまったんですが、試しにイーモバイルを繋いでみたらつながって、原発事故のことを知ってびっくりしたんですよ。Wikipediaでチェルノブイリのことを調べたら300km離れたところでもホットスポットができていたので、念のため避難しようと思って、同僚にメールして避難経路の情報を得ました。それで、大阪まで一時避難したんです。仕事でネットを使うことに慣れていたので、避難する途中で、安否確認と避難経路の情報をシェアするためにスマホから捜査して掲示板を立ち上げたり、一括メールを送ったりしていました。あのときは、インターネットがあったおかげで本当に助かりましたね。

阪神大震災のときはインターネットはあるだけでしたけど、東日本大震災のときは、インターネットなしでは考えられなかったですよね。

東日本大震災の後、安全性はどうなるのか、日本がどのように変わっていくのか、その中で、自分や家族がどのように生きていくのかということを考えざるを得なくなって、ネットにかじりついて国内外の情報にアクセスするようになったんですが、その中でメディアの問題が自分の中で大問題になってきました。プロパガンダ的な情報が溢れる中で何を信用して動くのかということでメディアリタラシーが重要だと思い始めるきっかけになりました。

僕は、2001年に富山から京都に移ってきて京都精華大に赴任したんですけど、京都はコミュニティ・メディアが活発な街です。毎日新聞の京都支局だった、1928年に建てられたビルがあるんですけど、これを取り壊すという話が2000年の初めころに出たんです。それを保存しようという市民の運動があって、そのなかで、マスメディアと違うコミュニティメディアを自分たちで作ろうという人たちがいてNPOとして、わが国で初めてFMラジオ局が開局しました。東日本大震災のときもコミュニティメディアに関わっている人たちは、東北の小さな町のコミュニティメディアの立ち上げの手伝いに行っていました。マスメディアとは違うメディアというのはわりといつも近くにあるという感じですね。

なんかあったときは、マスメディアとは違うルートのものというのは、いつも気をつけるようにしています。

国際的なNGOのようなネットワークができることが社会変革に繋がっていくというイメージがあるんです。国境を超えてネットワークが広がって情報が直接やり取りされるなかで、相転移が起こっていくことを期待しているんです。

世界に対してシニカルに見るというのも大事なんだけども、僕は創り出すほうに興味があります。自分たちで創れば自分たちの魂がこもりますから。魂のこもったものを自分の周りに作っていくと、それが、最後に自分を守るなと常々思っています。自分たちが小さなところだけでやっていたものは、得てして内部の人たちだけで消費をしてしまうということになりますが、僕は、あれがものすごく嫌なんですね。

内部でやったものを外に出すということをいつも考えていますね。

内部に留めるのではなく、外に出していくことによってダイナミズムが生まれますよね。

大学の世界というのは、外に出すと批判を受けるんですよ。建前上は外に開くメリットというものは言われますけど、批判を受けるのは直接的には現場の自分たちですからね。

単純に批判を呼び込むというイメージもあるんですね。

だから、大学は、都合のよいことだけを発信するということを考えがちです。でも、本来は、良いものも悪いものも含めて発信して、向こうに判断をゆだねるものです。もちろん発信側には何かしらの意図がありますけど、それをどう判断するかは受け取る側ですから。よいものだけを出すと綺麗ですけど、でもそれは相手に伝えていないと思うんです。それをどう超えていくのかというのは、大学の中にいると悩むんですよね。まあ、僕は、やるところまでやっちゃいましたけど。笑

僕は、物理の講義をインターネットで販売しているのでWebマーケティングの手法を身につけています。それは、セールスポイントを相手に伝えるというものだから、見せたいものだけを見せるということなんです。

反転授業のオンラインの講座でも、なんとなくそのままマーケティングの手法を使っていたんですけど、ファシリテーションを学ぶ意味を突き詰めていたらマーケティングの手法を取ることに矛盾を感じて苦しくなってきました。フラットな関係を作っていくための手法を学ぶための講座の告知がフラットではないということに矛盾を感じて立ち行かなくなってしまったんです。それでビジネス的に失敗してもいいからオープンにして、本音のところを書いて出したんです。そしたら、グループのメンバーがいろいろアドバイスしてくれたりして、ダイナミズムが生まれました。

その経験を通して、筒井さんの授業を見直したときに、自分が考えていたようなことを、筒井さんが、もっと前からやっているということに気づいて、あらためて、すごいことをやっているということが分かったんです。

ボランティアと一緒に創る情報メディア論

筒井さんは、いつごろから授業を公開し始めたんですか?

7年前くらいまでは、大学改革とか大学教育で論文書いたり発表したり、研修会をしたりしていましたけど、自分の授業は公開しないタイプだったんですね。学会で発表するというのは、こういう成果が上がりましたということを発表します。研修会でもこういう方法がありますよというアドバイスをします。いいところだけを言いますよね。でも、実際に授業を見たら、不十分なところがいっぱいあるわけですよ。でも、研究者として発表するときには不十分なことは言わない。だから、授業公開して「論文と違うじゃないか」と言われるのが怖かったです。だから、人に授業公開すると、自分にデメリットがあるんじゃないかと思っていました。

最初から授業をオープンにしていたわけではなかったのですね。外に開いていくきっかけになったのは何だったのですか?

きっかけになったのは、キャリアデザインという授業を担当することになったことです。僕は、大学を卒業してそのまま研究者になったので、キャリアデザインの授業を僕はできないなと思ったんです。それで、ファシリテーショングラフィックの達人の女子学生とか、そのほか数人に声をかけてブレストをしたら、結構、よかったんですね。それで、他の人に相談をすると自分の授業がうまくできるという経験をしたんです。3?4年前からは、学生に聞くだけじゃなくて、見学に来てくださいということをやり始めたんです。見学者も最初は後ろにいてもらおうと思ったんですけど、見学者はキャリアカウンセラーだったり、グループワークの経験が豊富な人が多かったんです。それで、見てもらうよりも学生のグループの中に入ってもらうことにしたんです。彼らにとっても学生の中に入るほうが楽しかったんですね。学生に聞くのは、どの教員も聞けるんですけど、他の教員や職員には面子があって聞けないです。ですから、他大学のFD(Faculty Development)の職員をやっている知り合いにアイディアをもらうことにしました。これで、大学を超えてしまったなと思って、それなら、単にアドバイスを受けるだけじゃなくて、外部の人と一緒にやってみたらどうかと考えたんです。

なるほど。そういう段階があったんですね。それがさらに発展してCTになったんですか。

大学生が高校に行くという授業をずっとやっていまして、かつて高校生だった学生が高校生向けに授業をするというワークショップをやっていたんです。その中の学生に、今度、学外の人を呼んで一緒に大学の授業をやるんだけど手伝ってくれないかと頼んだら、やってくれることになりました。それから3月の終わりころにFacebookに手伝ってくれる人を募集したら、ものすごい反応があったんです。

募集を見たときに、これだけコミットするって、正直、負荷が大きくて大変そうだなと思ったんです。でも、だからこそ意識の高い人が来たんですね。

あと2人来たんですけど、彼らは後先考えていないんですよ。大学の授業を自分たちで作れるというのは面白そうだということだけで来ているんですよ。

一人の女性は、大学まで交通費5千円をかけて毎週やってきたんですよ。お金をもらえないで、交通費5千円払って大学の授業に参加するなんてそんなバカなことはないと親から怒られたと言っていました。

当初、Facebookに出して本当に集まるのかというのは不安だったんですけど、1週間で3人決まりました。それで、できてしまったんです。

15週の講座が終わった後、どうするかというのは全然考えていなくて、とりあえず15週やってみようということになりました。

実際にやったら、彼らは大変だったと思いますよ。でも、やりきってくれました。それだけ実力のある方ばかりだったということです。

今や、私にとって、彼らは家族のような存在です。

お金だけを動機づけにして動くというところを変えていかないと、社会システムの動きが変わらないという思いがあるんです。eboardの中村さんのように内発的動機に基づいて一人で大量の動画を作っていったりすると、損得とは違う部分で周りが動き始めて、そこから渦が広がっていって何かが起こるというのを見てきて、そこに希望を感じています。そういう動きを大切にしていかないとマーケティングを動かしているようなところの思う通りに人が動くような社会になってしまいます。筒井さんの授業のCTの方のように経済の原理で考えるとありえない動きをする方は、本当に貴重ですね。

そういう高いハードルを越えた人は、すごい意欲が高いです。遠いところから来る人は決心していますから、何とか楽しもうという気持ちがものすごい強いですね。

その熱が、授業にぐっとくるわけじゃないですか。それは、燃えますよね。

CTさんの個々の能力は間違いなく高いです。15週ボランティアで働くというわけですから中途半端な人は来ないです。能力は高いんです。でも、CT内のチーム作りは苦労します。3人とか5人とかの連携を短時間でやらないといけないですから。

筒井さんは、CTのチーム作りについて、放っておくんですか。ある程度、介入するんですか。

今年度前期まで、一年半は、毎週のコマシラバスを作ることと、CTのチームビルディングをやることを15週やり続けたんですけど、これは、大変です。そこで、後期は、シラバスはこちらで半分くらい作っておくことにしました。それで、チームビルディングに力を注いでもらうようにしました。

このように時期によって変化はありますが、CTのチーム作りについては、基本は待っています。介入はしないです。当事者間の中でどうするか。みんなが協力するための舞台を作るのが僕の仕事ですから。誰と誰を組み合わせるというのは絶対にしないですね。

それは、覚悟がいりますよね。責任は、筒井さんがとるわけじゃないですか。CTのメンバーも筒井さんに迷惑をかけられないという思いはありますよね。

それはありますね。最初は足並みそろわないんです。モジュール1(4週1モジュールの第一モジュールのこと)のときは学生も混沌、CTも混沌という状態です。でも、それで当たり前なんです。モジュール2になればCTもクオリティを上げないといけないので頑張ります。そこで、モジュール1の混沌をモジュール2に引きずるというのはなくなってきます。

あと、僕は、コーチングの経験があるので、待つというのに慣れているんです。カウンセリングモードでやろうと思うと、結構、待てるんです。自分で介入して、何か言ってよくなればいいですけど、よくなることはないです。

能力が高い人がいて、目標が決まっていれば、やれるんです。

筒井さんがやられているような、CT(Creative Team : 授業協力者)が入り、見学者も参加するような授業をされている方は他にもいらっしゃるのですか?

私が、授業を一緒にボランティアで創ってくれる人財=CT(授業協力者)という概念は、僕が作ったんです。本来、授業は、学習者と教育者の間でクローズしている世界ですから。そこに教員と対等な立場での第3者を入れるというのは僕以外考えていないと思います。

海外の事例も見ているんですけど、TAが優秀だというところはありますけど、それでも、それは教員のサポートチームなんです。僕の場合は、ある意味、CTに完全に委ねてしまいますから。そうするとカオスになって崩壊すると思う方が多いです。もちろん、小さなカオスは当然あるんですけど、結果的には、僕が一人でやるよりも彼らと一緒にやったほうがいいものが出るというのが2年間の確信なんです。

みなさんいろいろご心配をされるんですけど、心配して何もしないよりも、やってみると意外とうまくいくんです。

2年前に始めたんですが、その前の年に、もしかしたらうまくいくんじゃないかという予感があったんです。半年ごとにCTを入れ替えていくというのは、当時は考えてもいなかったですけどね。

ただ、半年やってみたら、「最初の半年がうまくいっても、それは、たまたま筒井とそのときのメンバーだからうまくいった
と言われるのがいやだったんですよ。2年続けましたから、さすがにたまたまうまくいったというのはもはや言われません。もちろん、まだ、筒井がやるからうまくいくと言われることはあるんですけどね。

大学には労働の対価として賃金をもらうという金銭関係で契約した非常勤講師とかゲスト講師がいます。また、ティーチングアシスタントとかスチューデントアシスタントは教員の補佐として上下関係で使う感じですよね。こういう人たちが専任教員を支えているんですよ。

僕は、金銭関係でも上下関係でもないお互いの対等な立場での共感とか思いとかで学びを作れないかと思って、CTをやり始めたんです。

教員と対等な立場で、教員と共感や思いで繋がっているCTという存在が、筒井さんの授業では大きな役割を果たすのですね。学生は、CTという役割と生まれてはじめて出会うわけなので、慣れ親しんだ学生としての行動パターンを取りにくくなるはずですし、高い意欲を持って参加しているCTの強い思いは、学生に影響を与え、学生の学びを促すのではないでしょうか。

枠を取ってやると学びが爆発する

情報メディア論は、これから、どうなっていくんですか?

反転授業は受講生全員が見るというのがなかなかうまくいかないです。ビデオを見て、対面の授業をやるというのがうまくいくときとうまくいかないときがありますね。

最初は、僕が予習用のビデオ授業に出ていたんですが、今は、学生に登場してもらっています。

教材自身を、あるいは、講義自身を学生がやったらどうかなと思っているんですよ。

しかも、そこに出演する学生は、必ずしも学習意欲が高い学生ばかりじゃなくて、授業に遅れてきて、知り合いのグループで固まっている学生ですよ。そういう学生にやってもらおうと思っています。

学生側から見ると、教員がビデオに出てもそんなに新鮮味がないんです。でも、そんなに授業に熱心でない学生がビデオに出たらどうかなと思ったんです。

確かにビデオに出ている学生は、前のほうに座っている雰囲気の学生じゃないですよね。

けれども、やらせたら、ものすごく彼は乗るんですよね。うまい! でも、彼が実感として語ったのが、「今回はビデオの長さとしては5分ですけど、10分話すとしたら大変だ。筒井さん、すごいことやっているね」ってほめられましたから。彼は、作る側のことを分かったんです。授業というのは受け身で受けるものではなく、実際にビデオに出てみたら、作る側が何をやっているのかというのを彼はわかったんです。

教師はこうあれ、学生はこうあれ、見学者はこうあれ、という漠然とした固定観念というのがある限り、学生は学生であり続けようとします。だから、枠を取ってやると学びが爆発するんじゃないかなと思います。

ただ、反転は本来予習用なので、予習するためには事前に学習しなくちゃいけないです。そこで、今回のビデオ収録は、自分たちが学んだことはメモでちゃんと説明できるということにすれば、学生ができるなと思いました。復習用としての反転です。

モジュール2からは、CTの発案で、メインファシリテーターとディレクターというCTの役割のうちのディレクターを学生と一緒にやろうということになっています。

学生にそのことを話したら、5?6人がやりたいと言ってきたので、学生が学生に教えるという授業をやることになりそうです。

学生の中には、枠を超えたいという学生がいるんです。それを、あなたは学生ですよと言って、枠に閉じ込めるんではなくて、ちょっと一緒にやってよ!と言ったら喜んでやってくれるわけですから。

学生の一部が枠から出ることで、学生の枠にとどまっている学生も刺激を受けるわけですよね。自分もあそこに行く可能性があるということに気づいてしまうわけですね。

今までこいつはダメなやつだと思っていた学生が、突然教師になってビデオに出てきたり、前に出て授業をやったりすると、学生同士の固定された関係が崩れますよね。それは面白いです。

筒井さんの授業では、CTが存在することによって、教員と学生の関係性が不安定になるのだと思いますが、学生にビデオを作らせたり、ディレクターをやらせたりすることで、どんどん境界がぼやけてくるわけです。そして、学生に固定化した役割を抜け出して学ぶことを促す状況が生まれるわけです。これは、責任者の筒井さんが、カオスを恐れずによい未来を信じてコントロールを手放すことができるからこそ産み出される状況だと思います。本当の意味でLearningが促される状況なのではないかと思います。

枠組みの外に出て活動する経験が、枠組みを変えていく

「反転授業の研究」の次のワークショップをどうしようかと迷っているんですよ。マーケティングの手法を使った「集客」という考え方には戻れないので、今回、江藤由布さんがしてくれたような、役割を越境して、境界を曖昧にしていくような動きを、次のワークショップのデザインに入れないと次に進めないと思っているんです。CTは大きなヒントになっています。

江藤さんには、もっと発想を出してもらって作り変えていくことができるんじゃないかなと思うんですよね。彼女と話していて、高校の教員という感じがしないんですよね。イノベーターが、たまたま高校の教員だった、そういう印象がありました。

彼女の才能をもっと引き出していけば、枠組み自体を変えるような展開になるんじゃないかなと思います。

アクティブラーニングと「反転授業の研究」に出会って人生変わったとおっしゃっていますから、人生が変わった者は、それに従ってさらに背中を押してあげないといけないですよね。

枠組を超えるという意味では、今、アーティストの杉岡一樹さんという方をサポートするプロジェクトというのをやっています。杉岡さんは、「反転授業の研究」のロゴを作ってくださった方です。そのプロジェクトにキャリア教育に興味のある教師を何人か誘ってボランティアをしてもらって、10人ぐらいのチームを作って収益化を目指しているんです。教師という枠組みを超えて活動したいという人は、僕の周りに結構多いんです。杉岡さんの生活がかかっているので、失敗できない状況の中で、ブレストして商品作ってスモールビジネスを立ち上げるという経験をシェアしています。オンラインでつながることで、枠組みを超えた活動をしやすくなっていますね。

人の価値というのは、その人が所属している組織とは関係ないところでどれだけ能力を発揮できるのかというところで決まるところがあると思うんです。

プロボノという考えは、人生の中で重要なことだと思います。僕の授業でも、CTや見学者は、みんなプロボノだと位置づけているんです。

※プロボノ(Pro bono):各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般。また、それに参加する専門家自身

学生の中には、単位を取らなくてはならないから授業を取るけど、単位と関係がないからやりませんとか、バイトだとお金が入るからやるけど、学外の研修セミナーではお金がもったいないから行きませんとかいうし、社会人でも、自分のドメインのところで本務だから力を入れるけど、それ以外のところは力を抜くというような人は多いと思うんです。でも、本務のところで発揮できる力が、本務以外のところでどれだけ発揮できるかということが重要なんじゃないかと思います。

これからは、安定的な職業に就ける可能性はどんどん狭まってきますからね。これからどんな職に就くのかというのも含めて、本務以外のところでどれだけできるのかということが大切になってくると思います。

僕のこの20年間の経験を振り返ってみると、河合塾の講師をやりながらネット予備校を立ち上げて、ネット予備校がメインになってから反転授業の研究を立ち上げて、というように、メインの仕事をやりながら別の仕事をやっていくことで、状況の変化になんとか対応できたという気がしています。横に可能性が広げていくことで、時代が変わっていっても、撒いた種のうちのどれかが成長していって自分を助けてくれるというのが実感です。

京都には、いくつかの仕事をしながら全体で収入を得るというような人がものすごくたくさんいるんです。

京都生まれで就職で東京に行きましたが、京都に戻ってきて、京都移住計画という団体をやっている友人がいます。

地方都市に移住しようという人が増えてきています。京都では都市部が空き家になっているので、そこに移住するだけじゃなくてコミュニティを作ろうという動きが生まれています。同じような動きは全国で生まれています。

そういうのを見ると、都会ほど給与は高くないけど、1つで専業でやるよりも、いくつかの仕事をすることで全体として収入を上げていくということを彼らは考えていますね。

嘉村賢州さんにインタビューをしたときにも京都でのコミュニティの話になったんですが、そのときは、もっとメンタルな部分にフォーカスしている感じがしたんです。でも移住ということだとちゃんと暮らしていけるかどうかということが関わってきますね。

それをやらないと地方は持たないです。これから世界の中で東京が下がっていくことを考えると、地方はもっと下がってくるわけですよね。地方に新しい人が入ってきて、協働していくようなことが起こってこないと持たないですね。

地方都市に移住する場合、価値観の転換があるんですか。

上昇志向は捨てないといけないですね。自分の周りを住みやすくする。自分たちの生活自体が快適になることを考えていくことになると思います。

東南アジアに行くと、食事できる場所がものすごくたくさんあるのを見るんです。どのお店もほとんど同じメニューで、差別化とかしていないので、「ウチはチャーシューが入っているよ」とか差別化すれば利益が出るのにと思ったんです。でも、よくよく見てみると、そういうものじゃなくて、コミュニティの中で食事を作る担当になっているという感じなんですよ。だからコミュニティの人が朝、昼、晩とそこに食べに来るので、宣伝も必要ないし、メニューを差別化する必要がないんですね。

家事の社会化というものがありますね。日本だと家の中で食事を作りますが、アジアだと家事が社会に出ているんですよね。日本のほうが特殊だというのを読んだことがありますね。

コミュニティという感覚があれば、価格競争ではなくて、コミュニティの共生のための消費活動が起こるんですよね。

おふくろの味というのは、そういうものですよね。その人にとっては特別なものだけど、他の人にとっては必ずしもうまいとは限らない。うまいまずいを超えたつながりがあるんです。

「オンライン講座を販売する」という構造ではなく、別の方法を考えるということは、価値観の大きな変更につながるものです。「反転授業の研究」のオンラインワークショップでは、「販売する」という論理を手放すことにより、「信頼をベースにつながるコミュニティ」が生まれました。これは、僕にとってとてもインパクトがある体験でした。この先は未体験ゾーンなので、どのように進んでいけばよいのか分からないのですが、筒井さんとお話ししているうちに、カオスを恐れずに進んでいけば、どこかよいところにたどり着くのではないかという楽観的な気持ちになりました。

常にカオスを恐れずに突き進んできた筒井さんから、前へ進む勇気をいただいたように思います。

「反転授業の研究」のロゴ制作物語

2012年にスタートした「反転授業の研究」は、2013年10月からメンバー数が急増し、今では2300名を超えるグループになりました。
 
グループの運営者として掲げたビジョンは次のようなものでした。

このグループは、テクノロジーを利用することによって学習者中心の学びを作り出していこうと考えている人が、対話を通してアイディアや理解を深めていこうというグループです。
 
多様性のあるメンバー間の対話により、自己組織化的に集合知を得ることを活動の目標にしています。
 
また、メンバーが協力し合って集合知を得ることを体験することにより、21世紀型スキルを磨くための自己研鑽の場でもあります。
 
「究極の反転授業」のような唯一の解を目指すのではなく、活発な対話が繰り広げられることによって、それを養分とした豊かな生態系が生まれ、「多様性のある森」が育った結果、それぞれにとって有益な果実が実るというイメージで運営しています。

ビジョンを掲げてから1年以上が経ち、グループのメンバーが、「反転授業の研究」について実際にどのように捉えていて、どこを目指していきたいのかを一緒に考えるきっかけにしたいと思い、「反転授業の研究」のロゴを作成することにしました。
 
ロゴを作成してくれるのはシンボルアーティストの杉岡一樹さん。

杉岡さんの「My Symbol Art」
 
コンセプチャル・アートが専門で、ビジョンや気持ちなど、目に見えないものを形にすることができます。
 
グループの中から出てきたコメントは、次のようなものでした。

・私にとってこのグループは、安心安全な場所、です。
 
・小中高大/公私/文理などの教育段階・分野にこだわらず,教育の改善,という目的を共有しているアットホームなグループ,という印象です.
 
・ヒエラルキーがないのがいいです。
 
・◯◯って何ですか?とか、◯◯ってどう思いますか?って投げかけると、ダ〜〜〜っと答えが返ってくるところが、「みんながお互いの“外付けの脳”」みたい(^ ^)
 
・「新しいことへの好奇心や探究心」「行動に移すエネルギー」「ゆるやかなつながり」「心地よさ、楽しさ、あたたかさ」などを感じます。
 
・疑問を聞き合える場。大人にとっての反転学習の場。お互いに偉そうにしないで、相手のことを考えて教え合える共学の場っというところかなと感じています。

これを受けて、杉岡さんから出てきたラフ案がこちら。

hanten00

杉岡さんのコメントです。

A案:メビウスの輪
先生と生徒が握手する場面をモチーフにしています。一幅の帯を半回転させてつなぐとメビウスの輪になります。
半回転はもちろん「反転」の比喩ですが、そうすることで表と裏がなくなりますから、教師と生徒の新しい関係を暗示することにもなります。
全体として、反転のイニシャルである「H」をかたどっています。

B案:タイチーマーク
もう少しくだけた感じのアイデアです。
半分づつの笑顔を反転させて組み合わせました。
ヒエラルキーがなく、アットーホームな感じはこちらの方が出ていると思います。

メビウスの輪というアイディアは、多くのメンバーの心を捉えたようです。ラフ案に触発されて、多くのコメントが寄せられました。一部を引用します。

・メビウスの場、いいですね。裏と表がなくなるとは、よく考えられましたね☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
・反転授業で学ぶ子どもが、家庭で家族に学校の様子や先生の話をしながら楽しく学ぶ様子をイメージします。学校と家庭、先生と子どもがつながっているからこそ反転授業なのだと感じます。先生と子どもがメビウスの輪で表裏なく繋がっているなんて、とてもすてきな姿だと思います。
 
・やっぱり杉岡さんはすごいなぁ。私はB案もいいかなと思っています。こういう丸形にするとバッジとかにすると、生徒や子どもは喜ぶかなぁと完全に子どもの発想ですが。どちらもかっこいいです。
 
・メビウスの輪というイメージはとてもしっくりきました。裏と表がなくなるというのは反転授業のフラットな学びにぴったりだと思いました。A案は教室での教師と生徒の関係、B案はこのグループのアットホームな雰囲気ですよね。これを見て、杉森さんが、「LearningがLearningを促す」という話をしていたのを思い出しました。FBグループで学んでいるLearningをしている教師だからこそ、教室で生徒のLearningを促すことができ、教室を常に開いた場所であり、ドラマが生まれる場所にできるのだと理解しました。そういう意味で、生徒と教師の輪があるのと同時に、教師の学び合いの輪があり、教師の学び合いの輪の回転が駆動力になって、そこにかみ合っている生徒と教師の輪が回っていくというイメージが生まれました。
 
・メビウスには裏表がない ∞に似ている。不思議さという魅力やつながる道といった連想があり、このグループにあっているように思いました。
 
・確かにデザイン的にはA案がしっくりきますね。メビウスの輪も。ただ、タイチーマークも捨てがたい。欲を言えば、裏表なく、そして陰も陽も合わせ持つようなマークが理想かと思いました。
 
・アットホームで盛りだくさん。いいとか悪いとか決めつけない。そして無限の可能性を秘めている…みたいな。
 
・みんなで一緒に探検している感覚がすごくあります。
 
・そうそう、なんか、冒険っぽいんですよ。探検隊の一員みたいな感覚。
 
・みんなで探検、その感覚はあります。田原さんのアメーバ型を目指すイメージとも重なります。

この他にも、たくさんのコメントがあり、みなさんがグループに感じているイメージが、だいぶ固まってきました。それを受けて、杉岡さんの第2案ができました。

hanten04

以下、杉岡さんのコメントです。

「メビウスの輪」というアイデアはかなりの方に賛同してもらえたようなので、それをベースに、いただいたご意見を反映させてみました。
いずれのシンボルも丸みを帯びた空間に納め、なごやかさを演出しています。色は暖色を考えているので、それも含めてアットホームな雰囲気にできるはずです。

左:タイチーマーク
タイチーマークにひかれるというご意見もあったため、その要素も取り込んでみました。メビウスの輪に表と裏がないことも、イメージしてもらいやすくなったと思います。

右:無限記号
「無限」というキーワードが何度か出てきたので、メビウスの輪の見せ方を変えて無限記号の形にしてみました。
フレームは家のイメージです。屋根が三角だと、「いかにも」な感じなのでアーチ型にしました。

メンバーのコメントが反映されて、ロゴが変化していくというのは、非常に面白いです。ロゴが発展していくのに比例して、コメントも盛り上がっていきました。

・ほほーっ 左はなんかサッカーボールみたいでもあり、なんか世界がつながるようなイメージがパーッと連想され、あったかい感じがしました。 右のはちょっと中世っぽいヨーロピアンな感じ。どちらも好きですが、あえていえば左に1票です。
 
・色がつくとまたイメージも変わるのだとも思いますが、左のほうが洗練された感じでデザインとして好きです。メビウスの輪がもうすこしそれとわかるとなお良いと思います。色がつくとメビウスの輪が浮き上がってよくわかるかな。
 
・私も左に一票。人が若干前かがみなのが、気持ちが寄り添っている感じだし、メビウスの輪の内側に人がいることで包み込まれているというか、くるまれているというか、そういう安心感も伝わってくるので。
 
・うわお!丸いのいいですねw 魚眼レンズみたいなかんじ?右はドームの感じがもっと出るといいなぁ
 
・右は、メビウスの輪に束縛されている感じがするのと、教室という枠に収まってしまう感じがします。左は、メビウスの輪を辿って教室の外側に出られる感じがしていい感じ。

圧倒的に左側が人気だったので、左側をベースにして、着色したものが出てきました。

hanten05

杉岡さんのコメントはこちら

前回、ほぼ全ての方のご意見がタイチーマーク案だったので、それをデータ化し、着色してみました。

しかし、太い枠組みが思わぬ反応を引き起こしました。

・おっとー 形になってきましたねー!!メビウスの帯に色が塗られることで、メビウスであることがよくわかります。
 
・紅白はおめでたくて良いですね。ただ、個人的には人物と背景が合ってない気がします。上下で色のコントラストが有るのは良いですね。
 
・オレンジが、安心安全の場をイメージさせる感じでいいですね。僕は、閉じた空間か開いた空間かというところにこだわりがあって、ラフを見たときは開いた空間という印象を持ったんですが、色を付けたら、黒枠が目立って、空間が閉じているような印象を受けました。この部分が、何とかなるとうれしいです。
 
・あたたかい色使いになりましたね。ラフのときはピンと来なかった柔らかさを感じました。メビウスの輪のつなぎ目の部分って、もうちょっと色が溶け合うような感じにしてはどうかと思ったりもするのですが・・・(裏表がないことを表す意匠だと思うんですが、現状だと何か切れ目があるようにも感じましたので)。
 
・開いた空間という概念は面白いというか重大ですね。なるほど・・・
 
・個人の感覚ですが、反転授業は、学校や教育の場だけではなく、家庭など学校の外でも、学びが継続するという面がありますし、外に開いているイメージが見えるとよろしいのではないでしょうか。

そして、枠組みがなくなることに。

hanten01

これに対するコメントです。

・この開放感は、うれしいです!
・おぉーーっ 開放的!
 
・確かに柔らかく解放された感じ
 
・いいですね。オレンジで象徴される安心安全の場によって学習者と教師とが一緒に学ぶというのを表し、さらに、FBグループの中でメンバーがフラットな関係で一緒に学び合うというのも表している気がします。メビウスの輪によって内側と外側とが緩やかに隔てられ、安心安全の場を維持しながらも、回転しながら外へ出ていける開放感があります。外へ出ていくときに180度回転するところが「反転」のイメージとも合いますね。メビウスの輪は、Learningを回すループと見ることができますね。シンプルな構造ですが、いろいろな要素を象徴していて、かなりしっくりきています。
 
・後は背後の赤と白のつなぎ目ではないでしょうか?どなたかが言っておられましたが、分かれ目がはっきりし過ぎているきらいがある様な気がしているのですが、、、
 
・境目がくっきりしていたら、棲み分けをかんじます。滑らかに繋がると融合を感じられるのではないかと感じています。

つなぎ目のところが問題になってきたため、それを解消する案が2つ出ました。

1つは、中間色を間に挟み「糊付け」しているイメージ

hanten02

もう1つは、グラデーションで融合させているもの。

hanten03

最後に出てきた3つの案の中からFBグループ内で投票して、ロゴを決定しました。
 
圧倒的多数の支持を得たのは3番目の案。若干の修正を行い、最終的には次のものになりました。

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動画で説明!反転授業オンライン勉強会の参加方法

「反転授業の研究」では、定期的に無料のオンライン勉強会を行っています。

はじめてオンライン勉強会に参加する方のために動画でのインストラクションを作りました。

動画では、次のことを解説しています。

(1)HPから申し込む

(2)自動返信メールが届く

(3)WindowsやiPadでの参加の方はアプリのインストール。(Macの方はブラウザで参加)

(4)開始時間30分前からルームに入れるようになる

(5)チャットボックスの使い方

では、動画をご覧ください。

勉強会が始まりますと、第1部では次の動画のように発表者が右上のビデオに登場し、参加者はテキストチャットでの参加になります。

第2部では、小グループに分かれてのグループワークとなります。ビデオチャットの準備をしている方は4-6人のグループに分かれ、別ルームに移動していただきます。テキストチャットの方は、メインルームに残り、司会者と一緒にワークをします。

反転授業オンライン勉強会のお申し込みはこちらから

金沢大学 大学教育・開発支援センター准教授 杉森公一さんにインタビュー

2014年11月3日に実施する反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル(2)」でお話しいただく、金沢大学 大学教育・開発支援センター准教授 杉森公一さんにインタビューさせていただきました。

支援してもらえなかった大学時代

杉森さんは、どんな学生だったのですか?

私は、大学時代に支援された経験がなかったと感じています。

サークルで楽器を吹いていて、学生実験中には眠りながらフラスコ割っていた学生なんです。留年ギリギリで卒業できて、専門科目に進む能力がなかったので、理科教育のコースに転向したんです。

大学の研究室に入って恩師に出会うまでは、大学からの支援というものを受けてこなかったんですね。

大学院で、よい指導者に出会ったんですね。

恩師の研究室は物理化学・計算化学を主にしていて、化学なのに実験ではなく計算というのはどういうわけか、不真面目な学生が行っても、割と受け入れてくれる土壌があったのではないかと思います。

恩師は二人いますけど、教授は教育担当の副学長になってしまって研究室は1年早く畳むことになってしまいます。当時助教授だったもう一人の恩師は教育研究科でも教えていて、博士課程は取れないけど、教師になるつもりだったら修士課程に進学できるよと言われたんです。

後から気づいたのですが、助教授は筑波大の一期生、教授は東京教育大時代からの教員でした。その研究室は、東京教育大とか高等教育師範学校のよいところを残したような温かさがあったと思います。

研究者であるだけでなく、教育者だったんですね。

その方たちの背中を見て、ようやく私は教育も研究も面白いなと思えるようになって、計算化学でも論文を書けるようになったんです。少人数で徒弟制のような状態だったので耳学で学んでいました。助教授からは、分かんないことは何回でも教えてあげる。分かんないと思うけど、何回でも私は言ってあげると言われて、プログラムの作り方とか、科学的な考え方とか、全部、傍で語ってもらって身につけられたように思います。

研究室に閉じこもらずに、実験室にずっと一緒にいて、寝食共にして、それで、やっと私は救われました。

支援をあまり受けてこなかった経験から、大学生のつまずきに対して、教員や職員が光を当ててあげるしか方法がないんじゃないかということを実体験から感じています。

私自身はできの悪い学生だったと思います。

なるほど。ぼくも大学生のときに支援されたという感覚が全くないんです。大学1年生の1学期で授業がつまらなくなってしまって、友達と自主ゼミをやって勉強していました。大学院に進んで研究するようになって一気に心に火がついたんです。これを振り返ってみると、受け身の勉強が大嫌いだったということだと思うんです。面白くないと思っているのにやり続けたくないという気持ちがありました。これは、ある意味、学ぶということに対する思いが強かったんじゃないかと思います。杉森さんはいかがでしたか?

大学への落胆は大きかったです。高校時代、村上陽一郎さんの『科学者とは何か』という本を読んで、学際的な科学とか、科学コミュニケーションとかを学びたかったんです。

だから1年生のときに学科を決めたくなかったんです。

選んだところが経過選択という、2年生になったら化学か物理か数学か地球科学かを選べるというところだったんです。

自分が化学に行きたかったというのは、化学からは薬学も農学も医療もどこにでも行けるからでした。そこで学際領域が学べると思ったんです。

でも、入った当初には数学クラスにいて、蛸壺の学問をひたすらやらされる感じだったんです。筑波大学は、教養課程がなくて、どの学部の科目も取ってよかったんですが、全然教養じゃないじゃんと思いました。たった一つだけ学際的な総合科目があって、医療と宗教と生物学とを一緒に学べるような科目だったんですが、僕のニーズを満たしたのは、その一科目だけでした。

僕も、同じような気持ちがありました。それで、文学部の授業を受けに行ったりしていました。広くいろいろなことを関連付けて学びたいのに、そういう場がなかったんですよね。

それで、僕は音楽に逃げて、自分で団体を作って、コンサートをするために、当時は電車も通っていなくて陸の孤島だったつくば市に音楽文化を根付かせようと思っていたんです。

そこで仲間作って広報したりとか、ポスター作ったりとか、ベルギーから音楽家招聘してみたりとかという活動をしたことは、自分にとっては大きな学びになりました。

同じですね。僕も、大学の授業が嫌になって野球とバイトに明け暮れていました。それにしても、音楽活動に対して、すごいアクティブに活動されていますよね。大学院では学びたいことを学べたのですか?

村上陽一郎の『科学者とは何か』との2回目の出会いというのは、理科教育に進んだときです。

科学教育というのは、科学哲学と科学史を含んでいまして、理科教師というのは、科学コミュニケーションにとっても近いんです。

やった!やっと学べた!と思って、恩師の助教授に聞いたら、「科学者の仕事というのは、教科書を書いたり、科学コミュニケーションとか、科学リテラシーも含まれるんです。科学リテラシーってとても大切なんで、僕も勉強したいんだよね。
同じ物理化学の分野でも、アトキンスは教科書書きで有名だし、藤永茂という人は、ロバートオッペンハイマーの評伝も書いているし、すごくファンなんだよね。」

こんな人たちっていいよねという話で盛り上がって、この人の言っている人はただの蛸壺の科学者の言っていることじゃないなと思いました。

いつか、科学・技術と社会みたいなことを教えて、その教えるフレームを利用して、理想の学びを一緒に作るような仕事をしたいなと思いました。

杉森さんのお話をうかがって、学ぶことに対する感受性がすごく強い人だなという印象を受けました。「こんなふうな学びをしたい」という気持ちが強いからこそ、それができないときの失望も大きかったし、適切に支援されたときの喜びと感謝も大きかったのではないかと思います。そして、その感受性が、今の活動にもつながっているように思いました。

医療福祉系の私大で教育に関わる

筑波大で理科教育を学んだあと、金沢大学に移るんですね。

金沢大学の大学院で計算化学を研究しました。

もともとは、冷房の効いた部屋にこもってキーボードを叩いているのが好きな人間なんです。ファシリテーションとかアクティブラーニングとは本来は縁がない。

そこから、どのような経緯で教育に関わるようになったのですか?

計算化学のポスドクをしながら収入を得る手段を探していたときに、研究室の先輩が近隣の医療福祉系の私大で助教授をしていて、そこのネットワークセンターの職員の仕事を紹介してくれました。非常勤だと聞いていたので研究室にいて、たまに行けばよいのかと思ったら、そうではなくて毎日来て、学校の200台のパソコンの面倒を見てほしいと言われたんです。私は専門が計算化学だったのでネットワーク管理とかもできるということでネットワークセンターの職員として採用されたんです。

ポスドクの役割と、ネットワークセンターの職員と、非常勤講師の3つを同時にやることになりました。

その研究室の先輩が、研究のスーパーバイザーになってくれて、すぐ近くでアドバイスを受けられる状況になりました。彼は、高校の教員の経験があり、教え方が非常にうまかったんです。

情報処理を教えるのも、ただEXCELの技術を教えるのではなくて、計算化学の観点でもってシミュレーションという考え方を教えるんですね。

たとえ福祉や介護という分野の学生であっても、問題解決の1つとして、アンケート分析の方法からEXCEL上のシミュレーションまでやれるという進んだカリキュラムを持っていました。

彼のカリキュラムのもとで、私はコンピューター教室の助手として後ろでついて個別の学習指導をしていたんです。一斉授業では40人の受講者の中で何人かは授業時間内だけではついていけないので、そういう学生の個別サポートをしていました。

講義のときには、上司のうまい教え方の講義を一言一句ノートにとっていたんです。3年間、授業研究をしていたんですね。

それは、すごい!

教え方が人によって違う。学生がどの教え方で教わったのかによって、質問に対する答えが変わってくるんです。同じカリキュラム、同じ教科書を使っていても、教え方が違っていればつまずきのポイントも違う。

だから、私はオーダーメイドの質問対応をしなければならなかったんです。

50台PCがある教室の隣の準備室に朝から晩まで座っていますけども、ひっきりなしに学生が、課題が分かりませんと言ってくるわけです。たとえ教員がジョークも交えながらうまい教え方をしていたとしても質問が無くなることはありません。また、どんな教え方をしたかによって、質問への答え方が変わることにも気づいたんです。

講義ノートを取ったり、そこまで生徒を一生懸命観察したりするというのは、仕事の範囲を超えていますよね。

はじめは自分のためにやっていました。学生時代、少人数の補習塾で中学の理科と数学を教えた経験はあったんですが、大学での講義の経験がなかったので、講義録を取っておいて、ジョークのタイミングや言う順番、板書の取り方まですべてコピーしたんです。

まるっきりコピーしたら、私は自分で授業を準備する必要がなかったんです。

大学教員になったときって誰も教え方を教えてくれないんですね。ラッキーだったのは、コンピューター教室の助手だったので、ずっとその授業に張り付いていて、3-4種類の先生、カリキュラムをすべて3年間、講義録を取ることができたんです。

学生の個別支援も学べたし、講義の仕方も学べたんです。

そして、それでもついていけない学生の存在を発見しました。

聞いただけじゃ分からないという学生が何人もいるんです。でも、問いかけをしたり、隣で書いてあげると必ず分かるようになります。

ネットワークセンターの職員時代の杉森さんの行動は、完全に「普通じゃない」レベルだと思います。講義ノートには、ジョークを言うタイミングとか、そういったものまで書き込んでいたそうです。そして、その講義を受けた生徒の質問を一手に引き受けて対応していく中で、一斉講義型の授業の限界にも気づいていったわけですね。こういう直接体験が土台になっているからこそ、信念を持って進めるのではないかと思いました。

リメディアル教育

私立大学では何を教えていたんですか?

私は、コンピューター教室の職員でしたので、理学療法、作業療法、社会福祉といった保健系の学生に、一般教養でEXCELやパワーポイントなどを教えていました。

それに加えて、筑波大の大学院で理科教育を2年間学んでいたので、リメディアル教育を担当し、高校までに生物や化学を学ばずに大学へ入学してきた学生に生物や化学を教えていました。

医療系の職種なので生理学や解剖学といった専門科目を受けなくてはいけないんです。細胞について分かっていないのに、健康科学とか生理学とか難しいんですね。看護も同じ危険性を持っています。

理科総合が受験科目になって、物理を勉強していないのに工学部に入れるとか、いろんなゆがみが出てきたんですよね。

看護学部が売り手市場で、全国に200校以上あって、さらに増えると言われていますが、看護の現場って3年離職の割合がすごく高いんです。最近の新人看護師は打たれ弱くって、「本当は看護師になんかなりたくなかった」という気持ちを持ちながら働いて折れてしまうこともある。そういう話を聞くと、大学教育の罪ってあるなと思っているんです。

高校までの学びの充足率が大変低い。高校生物を学んできたとしても、大学教育の合格ラインである60点には届かない。

県内の高大連携セミナーに参加したことがありますが、高校の進路の先生と大学の入試担当者が「連携」ではなく「対決」しているんですね。大学側からは、「高校でちゃんと教えてきてくれないから、大学ではサポートが大変だ」という話が出てきて、それに対して高校の進路の先生からは、「我々は、大学入試に設定されている科目以外は十分な学習成果を出して送り出すことはできません。」という声が返ってきたんです。高校の赤点は30点だから、大学入試の科目に設定されていることで60点まで上げられるというお話でした。もっと言えば、履修さえしていれば単位をあげているわけです。その状況で、入試に設定していない科目まで高校が責任を負うのはおかしいと言っていました。

私は、それは、高校の教育者が言ってはいけない言葉だと思います。私はそれに噛みつきました。私はリメディアル教育の担当者で、高校で生物を履修してきたけど、受験科目としては使ってこなかったという生徒は、20点からスタートするんです。私はリメディアル教育によって、半年で、アクティブラーニング的なこともして、すべての学生に40点上乗せします。そこでやっと、高校4年生から大学1年生になることができます。

場合によっては、中学7年生の状態から大学1年生に引き上げるために、大学入学から半年でやらなければならない。これが、初年次教育とリメディアル教育に課せられた高いタスクなんですね。

いろんな教育の矛盾をそこが引き受けているんですね。

おっしゃる通りなんです。すべての大学が引き受けています。発達障害や学習障害の学生さんも増えているでしょう。学力テストだけで他の能力は問われずに入ってきます。それは、高校だけじゃなくて、小、中、高、大学で、その子の生き抜く力ということについての責任を互いに持ちあわなくてはいけないと思います。

そこから、アクティブラーニングということにつながるんです。

リメディアルでeLearningは有効だと思いますか?

私は一切導入していませんでした。当初は単位にはならなかったんですが必修化してもらいました。必修じゃないとどんどん生徒数が減って、対面であっても拘束力がなければ来ないです。導入科目としてカリキュラムに位置づけたことでようやくリメディアルの機能を果たすようになりました。

eLearningや、MOOCsなどは、「学ぶことは重要だ」という価値観を家庭などから受け取っている動機づけの高い学生にはプラスになると思いますが、動機づけの低い学生には、必ず対面のサポートが必要だと思います。その点で、反転授業におけるアクティブラーニングというのは同じ趣旨だと思います。

杉森さんは、学生時代に大学教育へ落胆し、その後、大学院に進んで救われたという経験があるからこそ、教育を変えなくてはならないという思いが強いのではないでしょうか。そして、大学教育のゆがみが一番大きく表れるリメディアル教育や初年次教育に接する中で、受験制度や大学教育に矛盾を感じるようになったのが次の展開へとつながっていきます。

FD(ファカルティ・ディベロップメント)に関心を持ち始めたきっかけ

FDには、どのようなきっかけで関わるようになったのですか?

勤務していた私立大学でFD委員になり、FDについて調べ始めたんです。そしたら、大学コンソーシアム石川という大学連合の組織があり、そこでビデオ会議をやったりしていることを知りました。金沢大学の大学教育開発・支援センターにFDを引っ張っている人がいるということを知り、FD研修会に毎回参加するようになったんです。1年間ずっと参加していたら、気がついたらレギュラーメンバーになっていたんです。

せっかく共同のFD研修会をやっていても、毎回5-6人で、毎回参加しているのは私一人でした。そのうち、客員研究員として来てくれと言われて、翌年には専任としてセンターに勤務することになりました。

それも普通のことじゃありませんね。

私は、自分の所属していた私立大学をよくするためにFD研修会に参加していた一人の参加者だったんですが、情報を集めようと思って熱心に取り組んでいたがゆえに、その大学を辞めることになってしまったんです。笑

金沢大学の大学院を出ていますので、6年たって教員として母校に戻ってきたという形になりました。

杉森さんは、自分自身の思いから行動しているからこそ、行動力がすごいんですね。石川に20校ある大学の中には、何十人ものFD委員がいたと思いますが、FD研修会に1年間参加し続けたのは杉森さんだけというのはすごいことです。そして、その行動力ゆえに、どんどん枠をはみ出していくんです。

金沢大学の大学教育開発・支援センターでFDを広める

それで、金沢大学の大学教育開発・支援センターに移ったんですね。共同のFD研修会に毎回参加していたのは杉森さんだけだったというのは、普通じゃないことだと思います。何が、杉森さんを動かしたんですか?

大学教育に構造的な問題があることに気づいたんです。

65歳の昔の教え方の教授について大学院を出た若手教員がいるとしますね。その人が、その教え方のまま大学教員になったとしたら、私はその人のことを若手とは思えないんです。66歳だと思います。

私立大学には、いろんな学生が来ます。その中には中退学生もたくさんいます。私がもっと早く気付けば救えたんじゃないかと思う学生がたくさんいるんです。そういった学生の顔を思い浮かべたとき、支援にあたる教員側の問題にも気づきます。なぜ、「66歳」の若手教員の考え方を変えることができなかったんだろうかと思ったんです。

65歳の教員の考え方を変えることは難しいと思うんです。でも、私が強い危機感を感じたのは、中堅の教員でも「学生が悪い」と言っていたことでした。当時は、大学進学率が急激に上がった時期だったので、毎年のように学生の変化が起こっていました。大学教員はFDには参加しているけど、全く太刀打ちならないという状況でした。

私学なので年配の教員もたくさんいますが、昔の教え方で学生たちが寝てて、そこに厳しい言葉を投げかけて、「お前たちなんでできないんだ。僕の頃はこんなんじゃなかったぞ。」って、当たり前ですよね。

昔の上位10%旧制中学、旧制高校の雰囲気をまとった教員に、あるいは大学進学率がいまほど高くなかった時代の教員に、平成20年代の学生たちが罵倒されるわけです。

そういう状況を見たときに、60歳以上の教員の方の中にも気づく方もいらっしゃいますけど、その方たちの考えを変えるのは難しいから若手を変えなくてはならない。そう思ったときに、実は若手も古い考え方を持っている。

この状態であと30年仕事をするのは無理だと思って、苦しくて苦しくて、いろんなものを探し始めたらアクティブラーニングに出会ったりとか、クリッカーやリフレクションペーパーで彼らが毎回どんなことを感じたのかを書いてもらう形成的な評価に出会いました。

それは、学びのハシゴの中で、抜けているところを埋める作業なんですね。スモールステップに分けて梯子の格(こ)を埋めていくことの大切さに気づきました。このように教えるということが、すべての学生が上っていけるようにするという教育哲学なのではないかと思ったのです。

学びのハシゴの段が抜け落ちている場合は、学生はどの段が抜け落ちているかも気が付かないし、誰にも教えてもらうことはない。でも、はしごは登れと言われています。そこで、懸垂の状態になっているんです。

それで、第一段目のはしごを私がリメディアル教育や初年次教育で埋める。二段目のはしごは彼ら自身が埋められるようにする。自分で埋められるようになれば、その上のはしごを自分で埋めていけるようになるんですね。教育工学の言葉で言えば、足場かけとフェーディングです。

教員の役割というのは、彼らに愛情を持って接して、誰しもが自ら梯子を登ることができる能力があるという期待をかけるんです。期待が伝わると登る動機づけになります。そのもとで、適切に梯子をかけてあげるということだと思うんです。

法政大学の児美川孝一郎先生の『キャリア教育のウソ』でいわれているように、3年以内の離職者がすごく多く、100人中41名しかストレーターがいないとか、他の報告では6万人の大学中退者がいて、その中の3万3千人は一生、非正規雇用であるとか、そういうことを思うと、中退の予防というよりは、すべての学習者に社会で生き抜くための力をつけさせる教育というのを大学でやらなければならないだろうと思います。

幼稚園、保育園からはじまって、小、中、高、大、社会へと梯子の連続性を埋めていくことが大事だと思います。教育接続の梯子が抜けているところをちゃんと埋めていくということが、教育者の使命、責任としてあるのではないかと思います。

杉森さんは、大学院で接した教育者としてのあり方を受け継ぎ、自分自身も教育者として取り組んでいるのだと思います。そして、リメディアル教育に関わったことで気づいた大学教育の構造的な問題に対して、持ち前の行動力でどんどん踏み込んでいき、問題解決の方法を探してFDへと行動のベクトルを向けていったのですね。

金沢大学での取り組み

金沢大学での取り組みについて教えてください。

私が取り組んでいる初年次教育は、近視眼的には卒業研究に必要な能力を身につけさせることを目標にしていますが、それは、すべての学生が社会に出てから発揮できる能力につながると考えています。

アメリカでは、大学でどう学ぶのかという導入教育がかなり先行しているそうなんですが、日本でも、この10年、スタディスキルを導入していこうという流れがあります。図書館の使い方、レポートの書き方などから導入していって、より高いレベルへ接続していくということが注目を浴びています。

その中でもアクティブラーニングというのは、有効な方法です。

初年次教育で、アカデミックスキルを身につけさせていくという枠組みで、反転授業やアクティブラーニングを実践していくというのは、いろいろな大学で始まっていますよね。

そうですね。私たちの大学では、アクティブラーニングの実践を、初年次教育から専門課程に広げていこうとしています。

専門課程であっても、議論を中心とした授業にしていこうとしています。これは、アメリカ型なんですが、講義、演習、ディスカッションのセットが週に3コマあって、それが4学期制の中に折りたたまれています。

日本の多くの大学は、半年で15週あって、ずっと一方通行の講義があって、最後に試験やレポートでお茶を濁すというパターンが多かったんですが、大学進学率が51%になった現在、ただ聞いているだけでは身に付かないということはもう分かっているので、すべての学生に教育資源を投入するのであれば、講義の後には必ず演習やディスカッションンが挟まれるべきだろうと思っています。

アメリカ型に偏りすぎではどうだろうかという懸念はあります。アメリカでは卒業研究を取れるのは2割程度なんだそうです。ベンチマーク、マイルストーン、キャップストーンと分かれていて、キャップストーンを取った人だけが卒業研究をすることができます。一方、日本の大学では、法学や医学などの一部の学部を除けば、全員が卒業研究をすることができます。これは、日本型の大学教育システムの大変優れたところです。アメリカの大学関係者に日本では卒業研究を全員がしていると言ったら驚かれます。

卒業研究が、究極の能動的な研究・学習ですから、それを、3,2,1年生に下ろしていきつつ、初年次教育でのアクティブラーニングを上にあげていって、その2つを結び付けていくというように考えています。

アメリカでは、優秀な学生を選抜して、そこに教授の研究指導というリソースをつぎ込むということなんですか?

そういうことですね。アメリカでは卒業研究と学位を切り離していて、卒業研究を取らなくても学位を取ることができます。

4年間の教育プログラムが制度として機能していて、卒業研究はプラスアルファという位置づけになっています

アメリカと日本ではシステムが違いすぎるので、アクティブラーニングだけに注目して、アメリカの教育プログラムをそのまま導入して、さらに全員に卒業研究をさせるということになれば、日本の大学教員は破たんしてしまいます。なので、日本型のアクティブラーニングの導入をゆっくり進めていく必要があると思います。

アクティブラーニングを導入することで、日本の大学教育はどのように変わると思いますか?

大学教員は、授業のやり方を知らないんですね。

目標があって、教育内容があって、評価があってという教育方法について、専門知識や技術を持っていないんです。

反転授業やアクティブラーニングというのは、それを導入することによって、大学教員が教育方法を学ぶ圧力になるんではないかと思っています。

講義型なら、ちゃんと教育方法を学んでいなくてもなんとなくできてしまいますが、アクティブラーニングは、そうはいかないですからね。

おっしゃる通りです。そこに学習観の転換があるわけですね。学習者中心主義、つまり、教員が何を伝えたかではなくて、学生が何を身につけたかに変わります。主語が教員から学生に変わるんですね。学生が何を身につけたかは、学習成果(Learning Outcomes)で示されます。Input重視から、Output重視、さらに、Outcomes重視というのが、大学教育の質保障のバズワードになっています。

Outcomesというのは能力なんです。つまり、学位プログラムとして、彼らがどのような能力を身につけたかということを真剣に考えようということなんです。

平成20年以降、大学は、学位授与の基本方針を学則上に定め公開することが義務づけられました。入学者受け入れの方針、教育課程編成の方針、学位授与の方針という入口、中身、出口の3つの方針を決めて外部に公開するようになりました。

学位授与の方針を公表して、学位を持っているということは、こういった能力を持っているということですよということを明確にしなさいということになったのです。

日本の大学教育についてどのように捉えていますか?

私の仮説ですが、大学教育は今までずっと効果をなしていなかったと考えています。

どの高校を出たか、どの大学に入ったかが重視されていて、大学卒業までに4年間、6年間何していたかと言われたら、「修飾」活動・・・つまり、サークル活動やバイトをこうしていましたということをアピールしますよね。2年生や3年生で就職活動を始めたら、何を学んだかといっても何もないわけです。だから、大学教育の中身って誰も注目してこなかったと思うんです。それで、FDも教員が何を教えたかということにフォーカスしていて、板書の書き方やパワーポイントの使い方を教えていたんです。アクティブラーニングはずっと注目されてこなかったんです。つまり、学習成果については、誰も注目していなかったんです。

学習成果に注目するようになって、アクティブラーニングに注目するようになったんです。

ただレポートやテストをしただけじゃ学習成果が分からないので活動をさせてみようか、アクティブラーニングをさせてみようかということが始まったんだと思います。アクティブラーニングは授業改善の1つの道具立てなんですね。

杉森さんは、金沢大学でどのような役割を担っているのですか?

私は2013年からFDを専任にしています。授業開講の義務はありません。「アクティブラーニング入門」という授業は、センターの裁量の中で研究の一環としてやっています。

うちの大学には1000人の大学教員がいて、それに対して5人の専任のFD教員がいます。専任のFD教員を、アメリカではファカルティ・ディベロッパー(FDer)といって、だいたい教員200人に一人の割合で必要だと言われています。これは、国立大学だからできるのであって、周辺の私立大学には、FDを専任でやっている教員は一人もいません。金沢大学で5人、富山大学で1人です。

大学に専任のFD教員が5人いるというのは、恵まれた環境ですよね。

FDerが5人いるセンターも、この10年、うまく機能していなかったんです。呼ばれたら行く、聞かれたら答えるという感じで、学部に所属していないので大学の教育改善に機能的に参加できなかったようです。蚊帳の外だったんです。でも10年たったらだんだん存在意義が出てきました。3年前から学習成果についての一斉アンケートを取れるようになって、ようやくPDCAサイクルが回り始めて、ようやくセンターが機能し始めました。

前述の大学コンソーシアム石川という大学連合には、大学、短大、高専を含めた20の高等教育機関と、すべての市町村の長が入っています。その組織の運営に私たちのセンターが協力しています。なので、私たちは県内20機関のFD活動も支えています。

日本の大学とアメリカの大学との教育システムの違いについて、とても参考になりました。全員に卒業研究をさせるという日本の教育の良い点と、授業設計がしっかりしていてアクティブラーニング型の授業が多く取り入れられているというアメリカの大学のよい点とを、バランスを取りながらゆっくりと融合させていくというお話に納得でした。

アクティブラーニング入門

杉森さんが担当している「アクティブラーニング入門」という授業について教えてください。

アクティブラーニング入門は、参加者が10人だけの講義でした。人文社会、教育、理工、医薬保健のバラバラの背景を持った1年生の授業でした。

彼らにバトンを渡して、「理想の大学教育を作ってください」という授業だったんです。

彼らに、3グループで理想の大学像を書いてもらいました。プレゼンもしてもらいました。

私が教育改革のシステムを提案して、文科省の大学教育再生加速プログラムに金沢大学が採択されたんですが、彼らの授業をしながらプログラムを考えていました。

私の書いていたプログラムは、FDをけん引していく教員の養成と、それを支える学生チューターの養成、さらに、アクティブラーニングを支える教室環境の整備といったことを書いていきました。

私が考えて書いたことよりも、彼ら学生が、反転授業やワールドカフェをやって、出てきたプレゼンのほうがよほど優れていて、「教育開発」というのは、教員開発と組織開発とカリキュラム開発からなるんですが、学生が抜けているんですね。

学生自身が自分たちで作ればいいんじゃないか。この指とまれで、いっしょに大学作ろうといったほうがよっぽど価値があることに気づかされます。

最終発表の中には、彼ら自身の言葉で、15分の講義があったら、そのあと、15分のグループ学習を入れて、90分を3分割してアクティブラーニングをしたい、そういうのを求めているという言葉が出てきました。

授業で反転授業も経験して、入試改革、高大接続、初年次教育について、新しい大学教育の姿が彼ら自身の言葉で出てきたんですね。彼らと私は大学を作りたい。

10人だからできるという話もありますが、大事なのはFDでの私のおかれているのと同じ状況に置くことです。授業では、私の状況と情報を彼らに伝えました。大学改革の必要性がありますよ。アクティブラーニングがなぜ求められているのか、私がFD研修会の講師として教員研修に年間15回とか20回とか各地のいろんな大学に行きますけども、そこで使った資料と全く同じものを彼らに示して、私が感じて提案しているような資料もすべてポータルにアップロードして情報に触れされる。そこで出てきた問いを中心に問いを深めて、また問いを深めて、彼ら自身でワールドカフェをしていってということをした結果、10人のFDerを作ることに成功しました。

それって、アクティブラーニングだと思うんです。

状況が学びを作るんだと思います。そういった学びをデザインすることがファシリテーションの力だと思います。授業デザインがあって、ゴールが決まっていないかもしれません。おぼろげなものは決まっているけど、何が出てくるかわからない。そこには、本物性がなければなりません。私が仮に本物のFDerか、FDerになろうとしている人間だったら、その熱意というか、授業の合間に出張ばかり行って、仲間つくりに出かけているんですけど、全国のFDの様子とか大学改革の様子とかを知って、私が成長している状態で学生と出会うことが大切なんだと思うんです。

本物の研究者しか、本物の教育はできないと思います。

本物の学ぶ価値を信じている者、新しいものを生み出すことに喜びを感じている者、研究を通して社会や世界を変えたいと思っている人に学ぶ研究室教育ができるんです。日本の教育というのは。そういう状況を作ることが何よりも大切だと思います。

強いられたアクティブラーニング。アクティブラーニングしなさいってカリキュラム設定すること。アクティブラーニングによって主体的な学習をしなさいという自己矛盾。これは、田原さんも感じられているように、アクティブラーニングを大学へ導入するときの違和感と一致すると思います。

杉森さんのアクティブラーニングの授業は、教員と学生が協力して「理想の大学教育」を探求するというアクティブラーニングになっているところが興味深いです。資料をシェアし、大学教育改革に真摯に取り組んでいる杉森さんの姿をそのまま見せ、さらに、学生に期待を込めた眼差しを送ることで、学生は、教わる側という役割から抜け出して、主体的に大学教育について真剣に考えるようになったのだと思いました。その結果、学生から出てきた結論は感動的です。アクティブラーニングの可能性の大きさを杉森さんのお話から感じることができました。

「越境」をテーマにする

学際的な学びや「越境」というのは、杉森さんにとっての重要なキーワードだと思います。その点から考えると、杉森さんが初年次教育に関わっているのも非常に納得がいきます。アクティブラーニング入門にも、その視点は入っているのですか?

はい。科学者と社会を結びつける2つのフレームの境界線を乗り越えるためにはどんな方法があるだろうか。市民と科学の対話の技法について3コマを使って考えました。

つまり科学と技術でどういった理想社会を作るのか、「市民」と「科学」の対話というところと、「学生」と「教師」の対話というところに、私はアナロジーを感じているんです。

これは、つまり、私がかつて受けたかった授業なんです。大学1年生のときにいろんなことを一緒に学べる教養で、こういう学際的な授業を受けたいという理想があって、その理想の授業を作りながら、彼らがいかにして理想の学び、理想の大学教育を作るのか、理想のアクティブラーニングをしたいというのをうまく出会わせることができたんです。

面白かったですね。

修士のときに取っていた10年前のノートをひっぱり出してきて、勉強をやり直しました。

私は科学史とか、科学技術史とか知らないんですよ。でも、趣味のように本を読んで勉強した形跡があったんです。それを見ると、当時の気持ち、学生のときにこんな授業があればいいなと思っていた気持ちを急に思い出して、その興奮を交えながら、反転授業をしたんです。

だから、楽しかったですねー。

大学教育に落胆をしたということと、科学・技術と社会について考えて、科学コミュニケーターやジャーナリストになりたかった自分もかつてはいたんです。

その10人の受講学生の中には、ジャーナリスト志望の者も、医師を志望してい者も、宇宙飛行士になるためにJAXAに行きたいという者も、NPO活動や地域の発展活動に行きたいという者も、教育者になりたいという者もいました。すごく多様な学生さんが集まっていたんです。彼らなりに越境を果たそうとする学生さんばかりだったんです。

授業は、私は音楽だと思っているんです。ライブです。

ライブでは、音楽家は伝えたい思いがあって手を伸ばす。聴き手も手を伸ばして結ばなければ伝わらない。

授業デザインやファシリテーションで私が大切にしているものは、教卓という舞台装置。
私は教卓を使わずに、教卓の前に立つのがメッセージなんです。

教卓はあったほうがいいんです。私は必ず教卓の学生側に立ってスライドは使うけども、机間巡視をしながら、顔と名前を覚えながら、クリッカーや、反転授業を使いながら、教卓の学生側に立っている。

そういうメッセージを持っているんだということを伝えます。

それで、「私はこのようなものを理想の学びだと思っているんですが、皆さんは、どういうものを理想の学びだと考えますか」という投げかけをしました。

そして、図書館のオープンカフェで最終発表をしたんです。

僕は、出張で最終発表は見れなかったんですが、そこには、教育改革担当の学長補佐と、センターの他の専任教員にファシリテートしてもらって、10年も20年も大学改革に関わっているような本物の人たちの前で、彼らの本物を発表してもらいました。

杉森さんのアクティブラーニングでは、杉森さんが最初に「伝統的な教師の役割」というものを超えて、学生に手を伸ばすんですね。そうすると、学生も「受動的に教わるという役割」から抜け出して、杉森さんの手をつかんでくれる。それぞれが枠組みを抜け出すことで、教員と学生の両方に学びが起こっていくのだということなんだということなんですね。そして、それが、「市民」と「科学」の対話のアナロジーになっているということは、「市民」も「科学者」も枠組みを超えたところで手を結んで対話することができれば、双方にとって自分自身の枠組を変化させるような本質的な学びが生まれるのではないかということをおっしゃっているのだと思います。このお話をうかがって、アクティブラーニングについての理解がとても深まりました。

ラーニングがラーニングを促す

杉森さんが、FDerとして成長し続ける姿を見せながら、アクティブラーニングをデザインして、一緒に成長することを促すというのは、とても印象的です。僕のやっている物理ネット予備校でも、反転授業についての気づきなどをメールマガジンに書いたりしているのですが、そこに対するレスポンスがものすごくあるんですよ。

それは、成長している姿に自分の成長を重ね合わせられるんだと思いますし、学ばない人に学ぶことはできないと思います。

学習する組織というものもありますし、人のつながり自体が学習を促すんではないでしょうか。ラーニングがラーニングを促すということです。

学習者のラーニングの二重ループの外側に、教育者のラーニングの二重ループもあると思うんです。私のようなFDerは、教育者のループのさらに外側にループを回す位置にいます。

僕は、大学院で自己組織化を研究していたんです。非線形の偏微分方程式を使ってアメーバの形態形成の数理シミュレーションをやっていました。ワールドカフェについて勉強したら、やったら知っている単語や概念が出てきて、すごく懐かしい気持ちがしたんです。

システム思考には、とてもなじみがあって、複雑な因果関係を捉えるときにはシステム全体を見て、どこが制御パラメータかを見ていくという発想は、非線形システムを扱っていた僕にとっては、当たり前のことだという感覚でした。

杉森さんが計算化学やっていたのと、目の前の80人じゃなくてもっと大きな影響を与えるところにいかなくちゃならないというのは、システム思考の話なんじゃないかと思いました。レバレッジの効くところを変えていかなくちゃいけないという発想は、計算化学をやっていた人っぽいなと思いました。

私は、その自己認識がなかったですね。私のここでの上司の一人に非線形の生命の振動現象を扱っている人がいるんですけど、たいへん近い分野かもしれません。

我々のセンターは、単なるFDセンターから脱却しようとしていまして、教育データでシステムを検証していこうと考えています。教育のビッグデータに我々は向かおうとしているんです。FDで、個々の教員を変える教育開発というのは限界が来た。私が気づいたことは、多くの教員にFD活動を広げたいということなんですけど、私たちの組織としては、次の展開がありまして、IR(Institutional Research)という大学の教育機関でどのようなことが行われているのかということをデータを元に戦略を立てていこうということを考えています。人的な資源とか、経営の資源とかをどこに重点配分するのかということを直感でやっていたらどうにもならないので、データを元にやろうということなんです。アメリカではそのような取り組みが進んでいて、例を挙げると、中退を減らそうしたときに、学生に多様性があり、ヒスパニック系とか黒人系の学生の中退率が高いので、それをどうやって抑制したらよいのかというのをデータで学習成果を測っていこうという活動が進んでいたりします。

日本の大学も学習成果を測っていこうという方向を向いていて、私は統計を教えていることもきっかけで、このセンターに採用されています。FDを知っていて、さらに統計ができるからということで呼ばれたんです。

授業改善をするFDを回すIRという位置づけです。

リメディアル教育とアクティブラーニングから始まって、それを回すギヤとしてFDがあります。そのFDを回すさらに外側のループとしてIRがあるんです。私はIRの専門家としてキャリアを切り直さなければならないという状況になっています。

真剣に問題に取り組んでいくと、次第に問題のメカニズムが明らかになって来て、最初に考えていたフレームでは解決できないことに気づいて、枠組を広げて、より本質的なところに移動していくということなんじゃないかなと思います。

私自身の表現では「越境」と読んでいます。私は3年ごとに分野が変わっているんです。化学、理科教育、計算化学、福祉工学、大学教育開発ときているんです。3年たったら人間の成長が止まっちゃうんじゃないかなと思っているんです。

導入期はがむしゃら。発展期は自分で独り立ち。応用期は支援に回る。

1年目、2年目で気づいたことを使って、3年目は、まわりの人を巻き込んで支援に回っていく。

4年目は、いつも、自分の組織をはみ出ちゃって、3年たったら、異端児になっちゃって、なんかそこにいられなくなるんですね。

成長したら、異端にならざるを得ないんじゃないかなって思うんです。

僕は5年くらいのペースですが、杉森さんは3年なんですね。成長のスピードがすごいですね。でも、やっていくと、自然とそうなりますよね。

5年というのも感覚的に分かります。3年たつと等速直線運動になって、でも、そのあと2年くらいはそれを回したいという気持ちもあります。私の場合は、もうちょっと回したいなと思っているときに、様々な事情で枠を出ることになってしまっています。

杉森さんは、最初は現場で生徒に対して授業改善をしていき、自分だけの授業改善だけでは限界があると感じてFDとして教師の授業改善の支援に回るようになり、さらに、FDが効果的に機能するための組織であるIRへ移動しようとしています。行動し続けていくことによって、枠組みを次々とはみ出して越境していき、問題解決のために、より大きな効果を生み出すところへと移動していくわけなんですが、お話をうかがっていると、その越境が、とても必然的なことだと感じました。

顔と名前を覚えると劇的に変わる

同じことを5年続けると苦しくなってくるんですよね。予備校講師をやり始めて最初の5年は授業改善の連続だったので楽しかったんですが、5年たつと飽和してきて、同じことを繰り返すのが辛くなってきました。

生徒は入れ替わるので、新鮮な気持ちで楽しんで授業を受けてくれるんですが、自分自身は同じことを繰り返している、ビデオテープを再生しているというような感覚が生まれてきました。

それで、講義のネット配信を始めて、新しいことに挑戦し始めたんです。

大学院で教えている数学教員の方で同じようなことをおっしゃっている方がいました。「私は3年教えてきて教え方はうまくなったかもしれない。でも、振り返ってみると、私はビデオで再生されているような気がする。」とおっしゃっていました。

そのときに、学生に声かけていますか?

学生の顔と名前を憶えていますか?

学生に伝わるということがどんなことかということに自覚ありますか?

と言ったら、「いや、ないです」とおっしゃっていて、自分がビデオ再生されているという感覚があるだけじゃなくて、学生に対する関心もあまりなかったんですね。

毎日、10名ずつ名前を覚えることから始めて、声かけるところから始めてみませんかってアドバイスしました。たぶん授業改善がスタートしていると思います。

数学者としてずっと歩んできて、突然教えるようになった。相手は大学院生。3年教えてきて次のステップは、学生への注目ということで、私が感じたような状況をもし感じてもらえるんだったら、眼差しを持ってもらったら、たぶん回っていくんじゃないかなと思います。

名前を覚えると劇的に変わりますよね。僕は予備校講師時代に数百人の生徒に物理を教えていたんですが、その数百人の名前を覚えたんですよ。問題演習のときに名前を見えるところに書いておいてね。覚えるからといって、演習しているときにずっと覚えていたんです。一生懸命、いろんな語呂合わせを考えて、顔と名前を一致させて覚えていたんです。名簿を見ないで、指しはじめると全然授業が変わるんです。

予備校では、普通は新幹線で校舎に来て、授業をやって、バーッと新幹線で帰っていくという関係性だから、ふつうは名前なんて憶えないんですよ。その中で、「この人は、自分に関心を持っていて、自分と関係を作ろうと思っているんだ」と思ってもらった段階で、本当に劇的に変わりますよね。

まだ、授業が下手だったころに質問の列ができるようになって、カリスマ講師じゃなくて、地味な物理の先生なのに、なぜか質問の列が廊下まではみ出して1時間半待ちとかになっていたりしたんです。

それで、僕のところに来て、「今日は寮でこんなことがあって・・」とか「田原先生はいとこと顔が似ている」とか言って、質問のついでに雑談をして帰っていくんですよ。

そういう関係性ができると、こちらが喋ったことが、相手の頭の中に入るんですよね。

私も、チームティーチングで入ったときに、すべての学生の授業に助手として入れるんですね。だから、全員の名前を憶えている教員は私一人だったんです。もちろん一斉講義でも100人の名前を憶えてというところがスタート地点になりました。

今、関係性という言葉がありましたけど、彼らは、アクティブラーニングの前に、他者を受容するということができていないんだと思っているんですね。

自分は自分。ネットの向こうに共感する人がいる。または、メールの向こうに共感する人がいて、対面ではない。他者というのは、教員も自分と異なる社会、教科書もそうなんです。字離れとか、学問離れとか、教科書離れ、読書離れ、マンガ離れが起こっているんです。テレビも見ないんですって、今は。情報はSNSで十分だと。そのときに、彼らを越境させる手段というのは、名前を呼ぶということなんでしょうね。あなたはそこにいると伝えるだけで、自分が発見されるんじゃないですかね。自分はここにいて承認欲求があるんだけど、誰も認めてくれない透明な存在である。その中で、教師が名前を呼ぶということが、いかに彼らの存在をはっきりとさせて、そのあとに、他者が受容されて、言っていることが内化するのだと思います。

ルーブリックを使うのも、ルーブリックの基準が学習者に内化されるから使うんですけど、反転授業のいいのは、一人一人に問いかけてくれているという錯覚があるわけです。eLearningは悪いと言いましたけど、反転授業のビデオはいいと思います。自分一人に問いかけられている気がしますから。

僕は、予備校講師を始めて3年くらいは、新しい物理教育を目指すということに気持ちが向いていて、生徒よりも自分の教え方に関心が向いていました。でも、あるときをきっかけに生徒とか、親とかに関心が向かい始め、祈るような気持ちで合格を願っている親と同じ気持ちになりました。同僚の予備校講師が、自分の息子が大学受験のときに「ここを最後、見直しておけ」というリストを作っても持たせているのを見て、僕にもできそうだと思って、出題予想を始めたんです。それまでは、「予想」なんていうものに批判的だったんですが、合格させてあげたいと思ったら、できることを何でもやろうと思いました。そこから、生徒と本気で関係性を作るようになりました。教師に受容的に認識されて、名前を呼ばれるということが、関係性を作る上で重要な一歩だったのだということを、お話をうかがって再認識しました。

反転授業について

僕が作った動画講義って、予備校講師時代に壇上からしゃべっていたことをそのまま動画にしたものなんです。でも、動画にしたら、それは、「教材」なんで、自分から切り離すことができて、生身の自分は、それを使ってアクティブラーニングをすることによって支援者に回れるようになりました。「分かるところは倍速で飛ばしてねーー」とか言いながら自分の動画を教材として使ってもらって、生身の自分は、ひたすら問いかけながら、彼らの主体的な学びを引き出すファシリテーションに徹することができるんですね。これをやるようになって、再び授業をするのが楽しくなりました。

アーロン・サムズさんの授業の様子が、同じような雰囲気でした。

ビデオ見てこなかった人のために教室でビデオを見ることができるようにしてあって、そのほかにアクティビティも用意していました。

彼は、高校化学の教員だったので、何人かはプロジェクトをやっていて、携帯電話の充電が切れるのが嫌だから太陽電池で水素を発生させておいて、夜中に水素を使って充電をさせたいという生徒がいて、「太陽光から燃料電池を作る」というプロジェクトをやっていたんです。

反転授業にすることでできた時間によって、学校内の研究プロジェクトを支援することができたとおっしゃっていました。

一斉授業をしていたときは、そんなことはできなかった。

難しい宿題を家で一人でやらせることはなんて無駄なんだろうか。それだったら、その難しい課題を一緒にやるようにしたほうが意味があるんじゃないだろうかと思います。

しゃべっている、アクティビティが多い者が一番学んでいる。それなら、講義をやっている者(=教師)が一番学んでいるわけであって、アクティビティの少ないただ聞いている者(=学生)は、全く学んでいない。学ぶときって、自分で手を動かすときに学ぶので、授業の確認をペアで、言葉や身振りや、書いたりとかしてやったほうが、アクティビティの量が多くなるので学びが深まると思います。

反転授業をやるようになって、生徒から、「90分間があっという間に過ぎた」「次の授業が楽しみでたまらない」という声が出てくるようになりました。授業が終わった後は、頭を使ったという実感があるようです。アクティビティが多いということは、学んでいるということであり、楽しいことなんだということなんだから、生徒のアクティビティが多くなるように授業をデザインしようというのが、反転授業の重要なポイントだと思います。

杉森さんは、越境をし続ける

杉森さんは、学際的に学びたいというところから理科教育や化学を選択し、さらに、専門化する前の初年次教育に関わり、教育の構造的な問題に気づいてFDやIRというようにどんどん活動の範囲を広げていっていますよね。でも、こうやって見てみると、背後で繋がっているように思います。

変な越境をしている気がしますね。

かつて私は80人とか200人とかの学生を伸ばすということを一生やりたかったんです。でもいまの私の目標は、100万人の18歳人口の全員を伸ばすことなんです。だから、それに関わるすべての若い教員の方を仲間としてネットワークを作って、小、中、高、大、全部含めて考えていきたいんです。ですから、教員開発だけじゃなく、教育開発へつなげていきたいんです。仮に金沢大学と石川県の大学連合の教育改革がこの5年でうまくいくならば、石川県の大学に進んでよかったと学生全員が思えるはずなんです。

私は、いつか小・中・高・大をつなぐNPOをやりたいんです。大学コンソーシアム石川という団体がありますが、さらにそれを広げて、学校コンソーシアムというようなものを作らなければいけないだろうなと思うんですね。

それにはかなりの資金を集めなければいけないでしょうが、大学だけで乗り越えられる問題ではないと思います。

私は、富山県出身なので、北陸をなくしてはいけないという思いがあります。

小学校がどんどんなくなり、高校も統廃合が進むで、北陸の大学をつぶすわけにはいかないんです。ですので、近隣の大学のFDのアドバイザーもしているんですけど、大変な状況です。

そこで学習の重要性とか、学習者を大切にするという文化が必ずしもないところで、一人一人説得をしながら、身を切りながらやっていると、もうちょっと違う枠組みでやらなければいけないんじゃないかなという思いも生まれています。

教育コンサルタントとか教育開発のファシリテーションにはまだまだ可能性があると思います。

大学だからとか、高校だからとか、教員だからとか、そういう話じゃなくて、私たちの地域を救うためには、私たちはどういう行動を取らなければならないのかって、答は見えているようなものなんですね。

3年もすると組織の器からあふれ出してしまって越境せざるを得なくなる杉森さんの行動力の源は何なのだろうかと考えてみました。それは、「夢」というような具体的なものではなく、もっと抽象的なものなのではないでしょうか。

それは、たとえば

「狭い枠組みに閉じこもるのではなく、そこから出て手を伸ばしてつながるのがよい」

といったような、「夢」よりも一段、抽象レベルが高いイメージを持っていて、そのイメージに従って判断しているのではないかと思いました。

蛸壺的な学びではなく学際的な総合科目を学びたいという学生時代、科学ジャーナリストやサイエンスコミュニケーターになりたいと考えたこと、音楽家と観客とがそれぞれ手を伸ばして作るライブ、専門科目ではなく専門家と市民を繋ぐ理科教育、薬学や農学ともつながる化学を選択、教師や生徒という役割をはみ出して手を結んで一緒に学ぶアクティブラーニング、組織の枠を超えて理想の学びを実現するために仲間を探していく活動・・・・というように、現実の選択肢の中で何を選ぶのかというときに、そのイメージが、杉森さんの方向性を定めているように感じました。 そして、一貫してある方向へ選択し続けることによって、杉森さんの活動がどんどん積み重なっていく様子をインタビューから読み取ることができました。

杉森さんの勢いは、ここで留まるはずはなく、これからも様々な境界を超えて越境し、理想の学びの実現のために活動の幅を広げていくはずです。今後の展開がとても楽しみです。

「将来やりたいことを動機づけにして学ぶ」ことについて

11/3の反転授業オンライン勉強会のテーマは、前回に引き続き、ファシリテーションです。
 
教育現場でのファシリテーションの目的は、生徒の主体的な学びを引き出すというところにあると思います。
 
主体的な学びということを考えたとき、思いつくのは、
 
(1)「やりたいことをやる」
  
(2)「夢をかなえるために頑張る」
 
といった言葉です。
 
先日、(1)について、幸福論との関係から考察したところ、多くのコメントをいただき、理解を深めることができました。
 
今回は、(2)について皆さんと考えたいと思います。
 
(2)については、 児美川 孝一郎さんが、『キャリア教育のウソ』の中で、とても重要な問題提起をしています。

夢や希望を持ってストレートに仕事に結びつく人はほとんどいない、そして、多くの人が人生の途中でキャリアチェンジをするという現状の中で、「夢をかなえるために頑張る」というような動機づけは、本当によいのかという疑問が湧いています。
 
また、「夢」というものを早い段階で持つことによって、それと関係のないものを、早い段階で捨ててしまうことのリスクもあるのではないかと思います。
 
さらに、自分の夢が、社会的に見てどのような意味があるのかを理解するためには、その夢をとりまく広い状況に対する理解が必要になってくると思います。
 
自分自身は、成功者と呼べる人生をここまで送ってきたわけではなく、どちらかというと挫折が多いキャリアだと思っていて、若いころは、順調にキャリアを築いていく同級生に比べて、自分の状況を残念に思っていましたが、今になって考えると、順調ではない人のほうが多数派で、予想外の状況の中でも、まわりを把握し、自分自身のできることを考え、やれることを見つけていく力を持つことが重要だと感じています。
 
試しに自分のキャリアを図で表したものと、Learning Treeを描いてみたのですが、自分のやってきたことを振り返って、一貫して夢を追いかけたというよりは、あちこちに根を張って、うまくいったところにリソースをつぎ込んで、そこを太くしていったという印象を持ちました。

life-tree

learning-tree
 
主体的な学び=あちこちに勢いよく根を張ること
 
と考えるほうが、「夢」で牽引するよりも、自分にとってはしっくりきます。
 
みなさんにとっては、いかがでしょうか?
 
反転授業オンライン勉強会「ファシリテーション(2)」は、11/3 21:30からです。
 
詳しい内容&お申し込みはこちら

主体的な学びと「幸せのメカニズム」の関係

工業化社会から知識基盤型社会へ社会構造が変化するに従い、決められたことを正確にこなす人材よりも、新しいことを生み出す創造性を持った人材が社会で求められるようになってきました。

それに伴い、チームワークや創造性を高める教育法として、アクティブラーニングや反転授業が注目されるようになってきています。

しかし、これは、あくまでも社会の要請です。つまり、「こんな人材になれば職を得ることができるから有利だよ。」という話です。

それはそれでよいのですが、視点が、学習者から遠く離れたところにあります。

僕は、そこに違和感を感じていて、もっと違ったフレームでアクティブラーニングや反転授業を考えたいと思っていました。

そのヒントは、インタビューの中にありました。

インタビューでであった主体的に生きる人たち

このブログでは、毎月、2-3人の方のインタビュー記事を掲載しています。

反転授業のオンライン勉強会でお話ししてくださる方が中心ですが、それ以外にもお話をうかがいたいと思った方にお願いしてインタビューさせていただいています。

インタビューを重ねるうちに、多くの方のお話に共通点があることに気づきました。

行動を突き動かす強い思いがあって、それに従って行動し続けているうちに疑問や矛盾を感じる場面に出会い、そこで問題意識がぐっと深まり、さらに高次の問題へ高い意欲を持って取り組んでいく・・・というパターン。

このパターンを、インタビューをさせていただいた多くの方の中に見出すことができました。

みなさん、とてもエネルギッシュで、そのエネルギーを支えているのは、自分のやっていることには意味があるという確信であるように思えました。

インタビューを通して、自分を前に進めていくエンジンの出力が高ければ、困難に出会っても、それを乗り越えていくことができるのだから、子どもや生徒にレールを敷くよりも、エンジンの出力を高めてあげるほうが重要なのではないかと思うようになりました。そのためには、主体的に学び行動する力を育てることが大切だと思い、アクティブラーニングや反転授業がそのために役立つと考えるようになりました。

「やりたいことを思いっきりやればよい」についての考察

インタビューさせていただいた方の話の中には、「やりたいことを思いっきりやればよい」という話も出てきました。これを抑制してしまうと、自分自身の感情や意欲のありかが分からなくなってしまい、主体性を発揮しにくくしてしまうからだと思います。

しかし、ここで疑問が生まれました。

「やりたいことであれば、何でもよいのか?」

「やりたいこと」には、様々なレベルがあり、それを一括りに「やりたいこと」とまとめてしまってよいのかと思ったのです。

そんなときに、鈴木利和さんのFacebookの投稿を見かけました。

ザッポス・ドットコムのCEOのトニー・シェイが、幸せの3原則として、次の3つを挙げているということが紹介されていました。

(1)快楽

(2)情熱

(3)崇高な目標

はじめは快楽を追い求めていたとしても、その中に情熱を注げるものが見つかって突き進んでいくうちに、自分の中のいろいろなものが繋がって、大きな目標が描けるようになり、自分のやっていることに意味を見出すことができ、確信を持って進めるようになるのではないかと思いました。

そこまでいくと、心の底から大きなエネルギーが湧き上がってきて、すごいパワーが出てくるのではないかと思います。

僕がインタビューした皆さんの多くは、まさに、そんな感じでした。

幸せのメカニズム

福島毅さんから、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 前野隆司さんのホームページを紹介していただきました。

「幸せのメカニズム-実践・幸福学入門」(講談社現代新書、2013年12月発売)の説明のページ

このページの中に、とても示唆に富むシステム図がありました。

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※画像は、こちらからお借りしています。

前野さんは、幸せの4つの因子として、

1)自己実現と成長

2)つながりと感謝

3)まえむきと楽観

4)独立とマイペース

を上げていて、これを実践することによって幸せの好循環ループが回るというように書いています。

このシステム図を見ながら、自分の子どもや生徒が、「不幸の悪循環ループ」や、「誤った幸せのループ」に陥ることなく、「幸せの好循環ループ」を回せるようになるにはどうしたらよいのかを考えました。

主体的に学ぶということの意味を、「社会から要請される人材」という視点ではなく、「子どもや生徒の幸せ」という視点から考えたのです。

そして、「やりたいことをやればいい」というだけで放置してしまっては、刹那的な快楽を求めて「不幸の悪循環ループ」に陥ってしまったり、金銭欲、物欲、名誉欲に囚われて「誤った幸せのループ」に陥ってしまったりする危険も十分にあると思いました。

その一方で、アクティブラーニングや反転授業を通して、幸せの4つの因子を体験を通して実感させることができれば、自分の大切な子どもや生徒を幸せの好循環ループのほうへ導いていけそうだというイメージが湧きました。

世の中には3S政策のように、大衆をコントロールするためのノウハウがあります。無防備にしていると「やりたいこと」が浸食され、「誤った幸せのループ」に引っ張り込まれて、様々な欲求を刺激されてコントロールされます。

3S政策・・・Screen(スクリーン=映画)、Sport(スポーツ=プロスポーツ)、Sex(セックス=性産業)を用いて大衆の関心を政治に向けさせないようにする愚民政策

今回、主体的な学びと幸せのメカニズムの関係について考察した結果、自分の子どもや生徒に、大衆コントロールに負けずに、主体的に生きて、幸せになってほしい、そのために、自分はガイド役としてのスキルを磨きたいという思いが高まってきました。

主体的に学ぶことが、どのように幸せにつながるのかという道筋が見えてきたことで、やるべきことがクリアになってきたように思います。

 

第14回反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル(2)」

第13回に引き続き、ファシリテーションをテーマにしてオンライン勉強会を行います。
 
ファシリテーションが必要になる場面は、とても幅広く、チームで学んだり、チームで働いたりする場面において、いつも必要になります。

ファシリテーションスキルの内容や学び方だけでなく、ファシリテーションスキルがどのような場面で役立つのかを知ることで、ゴールを見据えた授業デザインをすることができるようになるのではないでしょうか。

第14回の勉強会では、小河節生さんと、金沢大学 大学教育・開発支援センター准教授 杉森公一さんにお話しいただきます。

チャットボックスで、直接、登壇者に質問することができますので、ふるってご参加ください。

第2部では、3通りの方法でオンライングループワークに参加できます。

・ビデオチャット(大推奨)

・ボイスチャット(推奨)

・テキストチャット

ビデオチャット&ボイスチャットの方のみ小グループでのグループワークを行い、テキストチャットの方はメインルームに残って司会者とのセッションとなりますので、可能であれば、ビデオチャットでご参加ください。

ビデオチャット・ボイスチャットで参加の方は、Webカメラやヘッドセットをご用意ください。ノートPCの内蔵マイクで参加の方は、ハウリング防止のためヘッドフォンを着用ください。

※第1部だけの参加も可能です。

日時 : 11月3日(月) 21:30-23:15

テーマ:「ファシリテーションスキル(2)」

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:30-22:30

(1)「ビジネスにおけるファシリテーション力の活用」

小河節生さん

(2)「大学教師と学生を結ぶ教育開発のファシリテーション -大学組織・カリキュラム・授業・学習において」

金沢大学 大学教育・開発支援センター准教授 杉森公一さん

第2部 オンライングループワーク 22:30-23:15

講演者の発表内容は以下の通りです。

「ビジネスにおけるファシリテーション力の活用」

小河節生さん

(プロフィール)

大手輸送機器メーカーで欧米企業との共同開発・生産に従事し社内研修施設などで品質マネジメント講師、Six Sigma Blackbelt、Value Engineering Leader、問題解決講座のLearning Adviserを勤める。現在、転職し地域で社会人学生の学習支援活動を行っている。

(内容)

(1)自己紹介
(2)米英企業におけるチーム活動とファシリテーション
 ・航空エンジン事業:製品、顧客、市場、競合。
 ・米英国企業の戦略:RRSPという概念。
 ・シックスシグマというチーム活動-ファシリテーションがキー。
(3)Value Engineeringというチーム活動
 ・流れの説明
 ・機能展開図、ブレーンストーミングでのファシリテーション。
 ・VisionとStrategy (Coordinate Vector).
(4)リーダーシップとファシリテーション(チームビルディングの中で)
 ・基本的な概念。
 ・IBM,Toyota,Hondaの事例
 ・偏差値教育の弊害
(5)反転授業/Active Learningへ期待するもの
 ・アドラー心理学?
(6)オンライン大学院との関わり
 ・システムの紹介(学び方)、MBAの動機、LAの動機・役割。
(7)ファシリテーションで重要なこと
 ・ラポール、傾聴力。
(8)企業に於けるOJT(On the Job Training)とファシリテーション力について
(9)今の課題:智慧の車座。オンラインでのワークショップ
 
小河さんのインタビューはこちら

「大学教師と学生を結ぶ教育開発のファシリテーション -大学組織・カリキュラム・授業・学習において」

金沢大学 大学教育・開発支援センター 教育支援システム研究部門 准教授 杉森公一さん

(プロフィール)

金沢大学 大学教育・開発支援センター 教育支援システム研究部門 准教授。2002年筑波大学第一学群自然学類卒業。2004年筑波大学大学院修士課程教育研究科教科教育専攻修了。2007年金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了。2007年金城大学研究員。2010年金城大学医療健康学部助手。2011年同助教。2013年より現職。専門は計算量子化学,理科教育および大学教育開発。修士(教育学),博士(理学)。

(内容)

大学教員の教育上の資質・能力開発のために、大学ではファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development、FD)と総称される組織的な取り組みを進めることが法令上求められている。大学全入時代(大学進学のユニバーサル化)、工業社会から知識基盤社会への転換、ICT技術によって国境・時間の制約のないMOOCの台頭といった背景のもと、大学機関の社会的使命の重点は、研究から教育へ、そして教育から学習へと広がり続けている。FD活動を専従としている報告者(杉森)は、大学教員のための教育方法・教育支援方法・学習支援方法に関する講演・ワークショップの開催、ルーブリック・反転授業などの事例研究と啓発活動にあたっている。大学組織・カリキュラム・授業・学習などのさまざまな単位での教育学習活動の在り方を、教職員あるいは学生に問う活動は、広義のファシリテーションとも呼べるかもしれない。学習共同体としての大学をかたちづくるために、大学教師と大学教師、大学教師と学生を結ぶ教育開発のファシリテーションの試みを報告したい。
 
杉森さんのインタビューはこちら

第14回反転授業オンライン勉強会

日時 : 11月3日(月) 21:30-23:15

テーマ:「ファシリテーションスキル(2)」

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:30-22:30

第2部 グループワーク 22:30-23:15

第2部では、オンラインでグループディスカッションも行いますので、ビデオチャットの用意をお願いします。ビデオチャットができない場合は、ボイスチャットのみ、テキストチャットでの参加でも大丈夫です。※第1部のみの参加もOKです。

お申し込みはこちら

参加方法

(1)このページから申し込む。
お申し込みはこちら

(2)自動返信メールに参加方法が書いてあるので、指示に従って参加する。

※自動返信メールの内容
【入室準備】
Windowsの場合は、下記のページからデスクトップアプリをダウンロードしてインストールしてください。
http://www.wiziq.com/desktop

iPadからの参加の場合は、WizIQのアプリをインストールして下さい。

Macの場合は、ブラウザで直接ルームのURLにアクセスしてください。うまくつながらない場合は、ブラウザを変えてみてください。

自動返信メールに書いてあるルームのURLをクリックすると、「Launch Class」というボタンが現れますので、それをクリックしてください。

Screen Nameの記入を求められますので、お名前を入力してください。

【入室方法】

上記の準備を終えた後、自動返信メールに書いてあるURLをクリックすると、自動的にWebルームにつながります。
 
初めて参加する方は、以下の動画をご覧ください。
 

シンガポールでの強烈体験により「ガイド役」とは何かを知った

行動変容が起こるための条件は、どのようなものでしょうか?
 
僕は、このことについてきちんと勉強をしたことがないのですが、経験上、感じているのは、
 
 
強い体験+振り返りによる体験の言語化
 
 
なのではないかと思います。
 
 
僕が、「質問力をつけたい」と思って精進を始めるきっかけになったのは、シンガポールでのある経験でした。
 
 
 
Linkdinのワールドカフェコミュニティを主催しているAmy Lenzoさんのオンライン講座に参加したことがきっかけて、AmyさんとFacebookでつながりました。
 
 
シンガポール出張のときに、誰かワールドカフェホストの人と会って話を聞きたいと思い、Amyさんに紹介してくれるようにお願いしたところ、Samantha Tanさんという方を紹介してくださいました。
 
 
Samanthaさんは、国際的に有名なワールドカフェホストの一人で、主にボストンに住んでいるのでいるのですが、そのときは、ちょうど、シンガポールに戻ってきているとのことでした。
 
●Samanthaさんは、この方です。


 
 
早速、Facebookで紹介してもらい、連絡を取ったところ、
 
「では、家に来てください。家族と一緒にランチしましょう」
 
と誘って下さり、緊張しながらお宅を訪問しました。
 
 
すごい豪邸でした。
 
 
円卓にごちそうが並んでいました。
 
創発的な組織を作るコンサルのアメリカ人のハズバンドと、
世界を旅行してまわるのが趣味のSamantaさんのお母さん
Samantaさんの弟さんたちといっしょに円卓に座り、ランチをいただきました。
 
 
食事のときは、隣に座っていた組織コンサルのハズバンドと、自己組織化が起こる条件に付いて話をしました。
 
 
食事が終わり、リビングでSamanthaさんと二人で、コーヒーを飲みながらお話ししました。
 
 
お互いに、今、自分のやっていることや考えていることを話しているうちに、価値観に共通点があることが分かり、気持ちがリラックスしてきました。
 
Samanthaさんが醸し出している雰囲気が、僕をリラックスさせてくれたのだと思います。
  
  
話の中で、僕の発言
 
「日本の教育には、創造性を伸ばす部分が少ない」
 
に対し、Samanthaさんが、
 
「でも、日本のアニメはとてもクリエイティブでしょ。それは、どうしてなの?」
 
というように、次々と質問をしてきました。
 
その質問は、すぐに答えられるようなものは少なく、脳みそを総動員して考えないと答を出せないようなものがほとんどで、すごく頭と心を使っているという感覚がありました。

質問に答えていくたびに、思考が深まっていくような感覚がありました。
  
 
気がついたら2時間が過ぎていました。
 
 
対話の中で到達した結論は、僕自身にとってすごく納得できるものでした。
 
 
Samanthaさんに導かれて探求の旅に出て、目的を果たして帰ってきたような、心地よい疲れがありました。
 
 
帰りの飛行機の中で、Samanthaさんとの対話について振り返りました。
 
 
自分一人では、あの結論には到達できなかったし、あの納得感も得られなかったであろうと思いました。

Samanthaさんが、熱心に「私は知りたいの!」という光線を出して質問してくれたので、それに何とか答えようと脳みそをフル回転させ、1つ回答すると、それをさらに掘り下げるような質問が来て、またそれに回答し・・・という感じで、導かれるように自分で結論を見つけることができました。
 
 
結論は、教えてもらったのではなく、「自分で見つけた!」という実感がありました。
 
 
 
反転授業では、教師は「壇上の賢者から、ガイド役へ」と役割が変わると言われています。
 
 
この体験をするまでは、「ガイド役」というものに、どういう可能性があるのか気づいていませんでした。
 
 
しかし、この体験をしてから、高いスキルを持ったガイド役が、どれだけものすごい効果を生み出すことができるのだということが分かりました。
 
 
「ガイド役」という言葉を口に出したとき、心に浮かぶ映像が大きく変化しました。
 
 
「自分もSamanthaさんのように、相手の思考を増幅させることができる触媒の役割を果たせるようになりたい。」

強烈な体験が、このように言語化されたことが、僕の行動が変化する始まりになりました。

場とつながりラボhome’s viの代表理事、嘉村賢州さんにインタビュー

「反転授業の研究」の田原です。ファシリテーションを学んでいく中で、ファシリテーターとして活躍している方の考え方を知りたいと思うようになりました。そこで、場とつながりラボhome’s viの代表理事、嘉村賢州さんにインタビューさせていただきました。

嘉村さんにアクセスしたきっかけは、第2回反転授業オンライン勉強会で発表してくださったmanabiai schoolの杉山史哲さんのFBへの投稿を見たことでした。

投稿を引用します。

場創りの師匠(と勝手に思ってる)賢州さんが、新しい場創りの手法「マグネット・テーブル」を開発されました。

嘉村 賢州 さんの場創りの志向生とかなり近いものを感じている自分としては、これは使うしかない!と思っています。

ざっと見た感じだと、OSTより簡単に生成的な場ができそうな感じ。

おそらく、違いとしては、OSTはファシリテーターのbeing や語りが重要な要素になっているのに対し、この新しいマグネット・テーブルでは、その部分をルールで補うことによって、気軽に出来るようになっている…と思います。

OSTやりたいんだけど勇気が…という方にはピッタリ!

そしておそらく、OSTの場を創るのに十分な時間がない時にもこの手法が活かせるように思います。

学校現場でも使えそう。

僕は、杉山さんのことをかなり信用していて、その杉山さんが、”場創りの師匠(と勝手に思ってる)賢州さん”と呼ぶ嘉村さんに、ぜひ、お話をうかがってみたいと思いました。それで、その日のうちにアポを取り、インタビューさせていただくことになりました。

最初に、嘉村さんの現在の活動につながる流れをうかがいました。

チームやプロジェクトに参加した学生時代

嘉村さんが、場創りに関心を持ちはじめたきっかけは?

ずっと前から一部の人が話すんじゃなくて、全員が知恵を出し合って進めていくのが意味があるだろうというのが、頭の片隅に残っていました。

その後、京都大学に行って、大学の授業は一方通行でどんどん難易度が上がっていくためついていけなくなり、その一方で、人が知恵を出し合ってモノを作っていくプロジェクトベースの集まりというのが、すごく自分の中ではまっていきました。好奇心の赴くままに、いろんな団体、いろんなプロジェクトに出入りし始めたというのが原点です。

団体やプロジェクトに参加してみていかがでしたか?

そうすると、うまくいっているチームも、うまくいっていないチームもあるんです。ファシリテーションを学んでいて、やっているけどぎくしゃくしているチームもあれば、ファシリテーションなんか学んでいなくても、すごく仲良くて、普段ご飯食べて仲良くしているだけで、何も議論していないのに、イベントのときはすごいクオリティを発揮するチームとかあるんですね。

いいチームと悪いチームの違いって何なんだろうと探究するようになりました。自分自身もリーダーとして引っ張っていく機会も増えていく中で、場創り1つをとっても、チームによって全然違うということを認識していった学生時代だったんですよ。

僕も、今、ワークショップをやったり、プロジェクトチームで仕事をしたりしているんですが、うまくいったり、いかなかったりするのを経験して、その違いは何かというものにとても関心があります。嘉村さんの話に、重要なヒントがありそうだと感じました。

コミュニティで生まれた「魔法の時間」

学生のときからチームやプロジェクトに関わっていたのですね。

大学4年生のときに、せっかく出会った人たちが、より応援し合えるような関係を継続的に作れないかと考えるようになりました。プロジェクトベースの集まりというのは、関係性も深まるけど、解散すると散っていくんです。それで、コミュニティという概念と出会い始めました。

コミュニティを作るために京都に家を一軒借りました。2階に4人住むと4万円ずつ出し合うと16万円になるんで、京都だと一軒家借りられるんですね。その家の1階を24時間、365日開けっ放しにして、信頼する人を連れてきて、紹介で連れてこられた人は、2回目からはアポイントなしでいつでも来て使っていいよという一見さんお断りのコミュニティを作ったんですよ。リアルmixiっていう人もいました。ちょうどmixiが誕生するときと同時ぐらいに生まれたものだったので。5年くらいで1000人くらい訪れるようなコミュニティになりました。不思議なことに、その場で、初対面で集まっているはずなのに、信頼する人の紹介というものがあるだけで、初対面なのに夜には泣きながらしゃべっているというような深い時間が訪れたりするんです。僕らは、「魔法の時間」って呼んでいました。そういう表面的な会話じゃなくて、弱点とか、しっかりした意見じゃなくてあやふやな意見とか含めて、交わすことができるというのがすばらしいなと思いました。この「魔法の時間」のような対話が広がっていったら世の中変わるんじゃないかという思いが生まれました。その原点がコミュニティにありました。

これは、コミュニティを作るうえでとても参考になる話でした。信頼できる人の紹介という担保があることで、最初から心をオープンにできるというのはよく分かる気がします。そして、そのような場によって、人と人とが次々と繋がっていくということに大きな可能性があると思いました。

就職→ITベンチャー→街づくり

コミュニティの経験から次の展開が生まれるんですか?

はい。コミュニティで出会った仲間とITベンチャーを立ち上げました。実は、ITベンチャーを立ち上げつつ、一度、就職したんですよ。でも、結局、1年後にITベンチャーにジョインすることになりました。紹介制コミュニティーでどんどん出会いが広がったように、人生って縁のある人、価値観を同じにする人とか、共感する人との出会いが人生を豊かにすると思ったのんです。それで、縁のある人と出会い、深まる仕組みをITで実現できないかと思い、縁のある人と書いて、「京都サーチ縁人」というサービスをITベンチャーでやろうとしていました。

京都サーチ縁人はうまくいったんですか?

それが、1年でとん挫してしまったんです。そのときに自分がITでこれから生きていくのか、それとも他に再就職するのか、どうしようかと悩んだんですが、人のつながりが人生を豊かにするので、コミュニティとか対話とかで仕事していきたいなと思いました。

それで、紛争解決の技術などがヒントになるなと思って研究を始めました。2006年ごろにシアトルのペガサス・カンファレンスという「学習する組織」の世界大会に参加したりしました。そこには、ワールドカフェを作ったアニータ・ブラウンとかも来ていたりしていました。そんなことをやりながら、ワールドカフェとかOSTとか、絶対に地域で使えるはずだという確信を持つようになりました。

僕は京都が大好きなんですが、京都はしがらみが多い街なので、そのしがらみを対話によって超えられるんじゃないかと思って自主的に事業とかをやっていきました。そのうちに、京都市でもやりたいという声がかかって京都市未来まちづくり100人委員会という100人規模の集まりを毎月1回開催するということになっていきました。その頃は、ワールドカフェとかOSTで街づくりするという事例がほとんどありませんでした。横浜と京都がほぼ同じ時期に始まったところでした。その実績で、企業でもそういう対話が必要だということで声をかけていただいて、今は、地域とかNPOとか企業とかで対話の場を創らさせていただいています。

場創りというものを掲げて活動しているうちに、いろいろなものがどんどんつながって広がっている感じですね。

こういう道って、分かりやすいアンテナがあると、自動的に縁が縁を呼ぶという感じで広がっていくので面白いですよね。

人と人とがちゃんと繋がると、その繋がりが、新たなつながりを生み出してネットワークが広がっていくというのは、僕もこの1年間で経験しています。その経験を通して、人と人とを繋げるということにずっと取り組んできた嘉村さんの周りには、すごく豊かなネットワークができているはずだということを明確にイメージできました。

「魔法の時間」が生まれる条件とは

「魔法の時間」というのが、人と人とがどのようにして繋がるのかを考える上で、とても重要なヒントのような気がするんですが、そのような場が生まれる条件は、どのようなものだとお考えですか?

人間って面白くて、興味を持たれると興味を持つし、心開かれると心開くし、この順序が難しくて、いきなり初対面の人に夢を語れと言っても、夢って自分のアイデンティティなので、自分の夢は笑われてしまうとか思って話せなかったりするじゃないですか。

「安心・安全の場」ってよくファシリテーションでは言いますけど、弱さも含めて全部話しても大丈夫なんだという安心感をコミュニティに感じるかどうかというのが要素だと思います。

紹介制コミュニティーのときは、来た人が、自分が信頼する人が紹介する場だということで大丈夫だろうと感じたことで、うまくいったのだと思います。

嘉村さんの作ったコミュニティーでは、「信頼する人が媒介となっている」ということが、安全・安心の場を創る上で大きな要素になっています。アクティブ・ラーニングでも、「安全・安心の場」が重要になりますが、そこでは、グランドルールの存在と、生徒の可能性を信じて見守るファシリテーター役の教師の存在がカギになっているような気がします。どのようにして「安全・安心の場」を作ることができるのか、そのエッセンスについて考えていく上で、嘉村さんのお話は、大きな手掛かりになると思いました。

ゼロからつなげるときにはステップを踏む

紹介制コミュニティーじゃないときは、どのようにして「安心・安全の場」を作るのですか?

自分がゼロからファシリテーションを依頼されるときには、いきなりそこまで行けないんですよ。どうしても。そのときは、ステップを踏んでいます。

一番最初は共通項を見つける。同じ日本人とか、同じ映画が好きとか、共通項を見つけることで少し距離が近づきます。次に小さな共通体験をします。一緒に何かを作り上げるとか、プレゼンテーションを一緒に作るとか、料理を一緒に作るとか、共通体験をすることで深まっていきます。次に、考えていることとか強みとかを話していって違いを楽しむというか、自分とは違ういいところをもっているなというのが共有されていく段階へ進みます。最後に、それをさらに超えて、不完全さとか、悩みまでも吐き出すことになったら、全面の安心につながるので、かなり深いつながりになっていくと思います。

ただこれをデザインしすぎるのも違うと思っていて、対話の場がうまくつくられたら自然にそういうのが進んでいくと思うんですけど。

順序が違うと、うまく繋がれなかったりするんですか?

どうしても逆転できないというか、一番最初に違いをきかされても、自慢話にしか聞こえなかったりとか、嫉妬心が生まれたりとかもするので。異業種だったりとか、違う背景を持った人の集まりだったりとかだと、この加減が難しいところですね。

「ステップを踏む」という考え方は、自分の中に全くなかったものだったので、目からうろこでした。このように考えると、今すぐに繋がることができないように思える人でも、時間をかけてステップを踏んでいくことで、将来、繋がれるようになる可能性が生まれてきます。人と人とのつながりというものを平面で捉えるのではなく、時間軸も入れて立体的に捉えることによって、可能性が広がるのだという気づきがありました。

異なる属性の人同士で交流する難しさ

日本の社会って異質なものと交流するのが苦手だと思うんですよ。自分から心をオープンにして繋がっていくのが苦手で、マーケティングによって、消費傾向ごとにセグメント化されて、振り分けられた同じセグメントの人と表面的に付き合う傾向があると感じています。

金属の球を物理的にただ接触させてもくっつかないけど、表面を溶かして接触させると融合して強いつながりになるじゃないですか。人と人とのつながりも似たようなものだというイメージがあって、活性化エネルギーを超えてある種の化学反応が起こらないとつながらない気がしているんですよ。そして、その反応が起こる場を創るのがファシリテーターじゃないかなと思っているんです。

そうですね。産官学連携とか、異分野コミュニケーションとか、異分野融合とか、ずっとうたわれてきたんですが、ファシリテーターのようなものを軽視して、異業種交流会とかも設置し続けてきたのでうまく融合することができないことが多く、その結果、異業種交流会に行っても仕方がないとか、結局、異分野融合は無理なのねというあきらめモードに入っているところもありますしね。

ちょっともったいないですね。

異なる背景を持った人同士が相互理解に至ると、違いが創造に結び付き、お互いにとって大きなメリットが生まれると思います。でも、背景が違うため、簡単には相互理解へ至ることができず、むしろ反感などがうまれやすいです。そのためには、嘉村さんがおっしゃっているような「ステップを踏む」といったような工夫や仕掛けが必要になってくると思います。そこにファシリテーターが活躍する要素があるのだと思います。

「知的保留」という考え方

対話の結果、相互理解へ至るというのは感動的な体験だと思うんですが、それを体験したことのない人に伝えるのって難しいんですよ。たとえば合気道の技とか、外から見ていると「わざと投げられているんじゃないか」と思ったりするけど、実際に投げられてみてはじめてどんなものか分かったりするのと似ている気がするんです。でも、対話を広げていくためには、それを語っていく必要があると思います。嘉村さんは、どうやって対話の体験を伝えていますか?

未来を創り出す姿勢として大事な言葉がありまして、「知的保留」というのがあるんです。

合気道なんてないという人を「盲信」の反対で、「盲疑」というんですよ。

「盲信」も「盲疑」も思考停止状態を指すんですね。

すぐに信じてしまうものもそうですし、すぐに拒否するのも考えているようで考えていないんですよ。幽霊なんていないとか。そういう安易に結論を出さずに、あるかもないかも分からないというモヤモヤの状態で考え続けているという努力を「知的保留」っていうんですね。

知的保留をした上で、対話をしたりとか、活動したりすることこそが、現状を乗り越えて新しい未来を創っていく上で大事な姿勢だと言われています。

「知的保留」という考えがあるんですね。

ファシリテーション業界に、U理論というものがあります。U理論の前半戦は、ダウンロードの段階から脱出するところからいきます。人の話を聞くときに、人は自分の枠組みで話を聞くということを行ってしまうんですね。相手のことに耳を澄ましているときというのは、例えれば、洞窟の中で頭にサーチライトをつけて洞窟を探求しているようなもんですね。光を照らして、何か宝物はないかというような構えで聴くことが本当に必要な聴き方なんですけど、多くの人は、頭の上の懐中電灯を灯しているようで、プロジェクターで自分の聴きたいように物事を映していると表現されているんです。

洞窟に存在しないものを、自分で映し出してしまっていて、それを見ているということですね。

そうです。自分の聴きたいように聴いてしまいがちなんです。じゃなくて、自分のプロジェクターを手放して、本当にありのままで人の話を聞くと、本当の共感とか理解が生まれてくるんです。

そうしたときに、本当に人の話を聞くと、自分の中で混乱が起こるはずなんですよ。自分とは違う人生経験とか考え方してきた人の考えが目の前にあるので、混乱するはずなんです。

でも、多くの人は聴きたいように聴いているので、「あ、あのことね」とか、「本に書いてあったあのことを、目の前の人はしゃべっているね」とかいうようにグリッドに合わせて聴いてしまうので、混乱は起こらないんですね。

そういうダウンロードを手放した聴き方を続けていくと、カオスが生まれてくるんですよ。人の話も好奇心を持って聞けるようになるんですよ。相手がBという意見を持っていて、自分がAという意見を持っているときに、本当に好奇心を持つと、相手のBという考え方はどんなふうに生まれたんだろうという心の底からの好奇心が生まれてきます。そのような姿勢で聞いたときに、次に生まれるのが、自分の考え方ってどういう背景でどこから生まれてきたんだろうというように、自分の考えに対してもすごく好奇心が生まれてくるんですよ。

ダウンロードの聴き方をしているときは、基本的に自分の考え方は正しくて、相手は間違っているという形になっているんですね。そこを手放したときに、自分の考えって、実は、親の影響をうけているなとか、こういう経験をもとに生まれてきた考え方だなとか、そういうことに好奇心を持てるようになります。そうなると、自分の考えを手放せるようになってくるんですね。

相手の考えをしっかり聞いて、自分の考えを手放し始めると訳わかんなくなってくるんですよ。これが、カオスで、ファシリテーション用語では、Grown Zoneというんです。

その、もやもやして、わけのわからない状態でも、この先に何が必要なんだろうということを考え続けて、ちょっとあきらめに近い領域で、何が次だか分からないというときに、自分のこだわりを捨てた瞬間に、新しい未来が降ってくるという理論なんですね。

人間はどうしても、未知の世界に対しての地図を欲しがるというか、知識とか、戦略とかで、自分がどこへ行くかというのを確かめながら進んでいきたいもんだと思います。居心地が悪いんで。そこを確かめずに、委ねることによって未来というのが現れてくるんだというのがU理論の考えです。

なるほど。僕は、物理から生命科学へ移動して、生きている状態とは何かということを研究していたんですが、その中で一番感動的だと思ったのが、生き物がそれまで従っていたルールを手放して飛躍する瞬間なんですよ。そこに、機械とは違う生き物の本質を感じていました。たとえばテントウムシを手に這わせると「上向きに歩く」というルールに従って歩き続けるんです。ところが、指の先まで来るとそのルールが適用できなくなってきます。それでどうするかというと、しばらく足をバタバタさせるんです。それまでのルールから抜け出すために内部にカオスを自分で作り出しているように見えるんです。そして、カオスを経由して「飛ぶ」という別の行動へ移行するように見えます。これは、U理論ととても近いイメージです。

本当に生命にはヒントが盛りだくさんだと思います。教育とかでもカオスを避けがちで、もったいないですよね。

僕の恩師は「カオスには世界をサーチする力がある」と言っていました。僕は、結構、その言葉に救われたんですよ。

僕も、はじめて知的保留な生き方というのに触れたとき、自分に勇気をくれたというか。答を出すことが必ずしもいいこととは限らないというところは、ありがたかったですね。

嘉村さんのお話で出てきたU理論については、こちらが参考になります。

utheoryfirstview

※画像はこちらからお借りしました。

僕は、学び方には2通りあって、PDCAサイクルみたいに経験からのフィードバックによって改善、最適化していく学び方と、今までのやり方を手放して新しいやり方を探していくような学び方があると思っています。U理論は、後者の学び方についての理論です。慣れ親しんだやり方を手放し、未知のものを探すというのは恐怖心を感じるものなので、なかなか難しいことですが、それを乗り越えた成功経験を積み重ねることで、破壊と創造を繰り返しながら、よりよいものを求めていくことができるようになると思います。

古いものを手放して、新しいものを探している状況は、よりどころがない不安な状況ですが、そこに「知的保留」という肯定的な意味を与えることで、未知のものへの探究活動を後押しできるのだということを嘉村さんの話から感じ、感動しました。

カオスの中で道なき道を進んできた

一見すると、嘉村さんは、京都大学を出て、自分がこれだという道を見つけて、ここまで順調にやってきたように見えますが。

そんなに順風満帆でもないですからね。僕は発達障害的なものを抱えていて、ADHDなんですよ。社会人になってから分かったんですけどね。よく考えてみると、小学校のころから机がぐちゃぐちゃで、中から給食で残した腐ったパンが出てくるみたいな、いわゆる典型的な発達障害の症状があったりして、自分の中にコミュニケーションコンプレックスもすごく持っていました。

一回、就職したときも、グループワークは5段階で5くらいの成績を残してきたんですが、「ほうれんそう」があまりできなかったり、資料整理ができなくてつまづいたり、プレゼンがうまくできなくてつまづいたりだとか、そういう意味で、普通の人ができることができなかったので苦労もしました。

あとは、NPOを自分たちで経営しているので、ビジネスを回していく苦労はしてきたかなと思いますね。道なき道を作っていっているというか、前例のないところをやろうとしているので、そういう意味では、毎回毎回カオスの中にいるというか、勇気を持ってやってみるしかないという感じでした。真似るんだったら過去から学んでいくらでも方法論があると思いますけど、ファシリテーターを仕事にしている人自体がほとんどいませんでしたから。なぜ、ファシリテーションなんかにお金を払う必要があるのという時代でしたから。

今は、職業化したファシリテーターがだいぶ出てきて、心強いなと思っています。

新しいことに挑戦しているということは、過去の改善から学ぶことができず、未来から降ってくるものを直感によってつかみ取っていくことになります。そういう意味では、ファシリテーターを仕事にするということは、カオスの中で未来を探し続けるということなのだと思いました。それを自らが実践してきた嘉村さんだからこそ、カオス状態にある人のことを良く理解し、支援できるのではないかと思います。

嘉村さんが場創りで体験したかけがえのない経験

嘉村さんは、一貫して場創りに関わっていらっしゃいますが、なにが嘉村さんを場創りに駆り立てているんですか?

魔法の時間みたいなものを味わって、そのあとファシリテーションをしていく中でかけがえのない経験を数多くしました。

たとえば、企業の部門長クラスで、上からも下からもプレッシャーを浴びているような人で、はじめは、管理職の役割としての発言はするけども、個人としての発言なんか出ないというような人だったんですけど、半年くらい一緒にやっていくうちに、残りの職場人生で若いやつらに何を残せるのかということを涙しながら語ったりするわけです。そういう人が本当に持っているやさしさだったりだとか、自分の命をどう使うかとか、そういうものが溢れるシーンを、いくつか見せていただいて、すごくかけがえのないところに自分は関わらせていただいているんだなと感じました。それが原動力になっていると思います。人間の本当の良さをまじかに見ることができる場所にいるなという感じがします。

なるほど。シンガポールでワールドカフェのホストの方の自宅に招待されたことがあって、そのとき、3時間くらい二人で対話をしたんです。いろいろな問いかけをされて、いっしょに考えていくうちに、自分に対してすごく整理されてクリアになってきました。後になってから、自分は、いろんなものを引き出してもらったというか、かけがえのないことをしてもらったなという感覚が生まれました。嘉村さんの場を体験した人も、そういう感覚を持っているのではないでしょうか。

海外のファシリテーターの皆さんは、そういう哲学を地でいっていて、本当に人を信じているなというファシリテーターの方にたくさん出会わせていただきました。本当にオープンで、本当に信じているなというのが伝わってきました。

日本にコーチングを持ってきた人の一人で、CTIを立ち上げた榎本英剛さんという方がいます。彼は、、本当に世界中の誰でも宝物にすべきものが眠っていると心の底から思えれば、コーチングのテクニックなんていらないんですよというようなことを言っています。

榎本さんは、今は、地域づくりに分野を移されているんですけど、そこでも同じことを言っています。地域を持続可能な地域に変えていくという世界的な動きがあって、トランジションタウンというんですが、その考え方は、地域の未来を創るのに必要なものは地域に眠っているので、安易に外部の人を呼んでこようとかせずに、地域の中にあると信じて地域づくりをすれば、絶対未来が生まれてくるというものなんです。

榎本さんが使うたとえで、このようなものがあります。

「今から皆さん、最寄りの駅に行くまでにお金が絶対に落ちていると信じて歩いてみてください。そしたら、必ず1円とか10円とか落ちていますから。でも、どうせ落ちていないと思って適当に歩いたら絶対に見つからないですよ。一回、絶対あると信じて歩いてみてください。絶対に見つかりますから。それと同じで、あると思い込んで接するのか、あるかもしれないないかもしれないと思って接するのかでは、全然違うよ」

これは、たぶん榎本さんが1000人以上コーチングやってきた中で、本当に一人一人が宝物ということと出会ってきたことから来ているたとえなんだと思いますね。体に人を信じることが落ちているので、そこまでいけるんだなと感じています。

僕自身も場創りに関しては、すごく数をこなさせていただいて、途中でトラブルが起こったりすることは当然あるんですけども、だいたいいい未来が生まれてくるというのを経験して、ようやく信じられるようになってきたというのがあります。

この話をうかがって感じたのは、教室にいる教師の存在も同じだということです。生徒の可能性を心から信じてそこにいるということが、様々なテクニックよりも重要なのだということを言われたような気がしました。

コントロールを手放して場にゆだねる

最近、場を信じるということの重要性を実感する体験がありました。ファシリテーションの有料講座の参加者を募集していたんですけど、今までは、マーケティングの手法に沿って募集していたんですが、メイン講師の福島毅さんの想いとか、自分の今の気持ちとかを考えていくうちに、「一方的に情報発信して販売する」という手法自体を変えていかなければならないんじゃないかと思って身動きが取れなくなったんですよ。ちょっとカオスになっちゃったんですね。それで、リスクは感じたんですけど、自分の考えをオープンにしてみたんです。

そしたら、いろいろなフィードバックが来て、運営側と受講者という境界があいまいになって、訳が分からなくなってきて、そのうちに、みんなが助けてくれて講座が成立するくらいの受講者が集まりました。フィードバックを受けて、毎日、申し込みページが更新されていくというのは、初めての経験でした。

すばらしいですね。まさにコントロールを手放して、リスクも取って、委ねた中で生まれたものですね。本当に素晴らしいですね。

勇気を出して、手放されたからこそ生まれたストーリーじゃないですか。それは、他の人にも勇気を与えるストーリーだと思います。

今のストーリーは、まさに、サイモンシネックのゴールデンサークルの話ですね。

アップルとか、ライト兄弟とか、マーチン・ルーサー・キングとか、成功しているリーダーは、考え方と表現方法に他の人とは全く違うものがあるという話です。

普通の企業は、分かりやすい差別化要因だったり、どんな機能があるかというところから語る。たとえば、うちのパソコンの性能は最新鋭のCPUを揃えていて、画面の解像度は素晴らしいですなんていう話から入っていくとか、うちの法律事務所は、こういうような専門家が集まっていて・・というような。機能で説明するというのが多いんだけども、ライト兄弟も、マーチン・ルーサー・キングもアップルも、何を信じているのかというところから語っている。Whyから考えよう。多くの企業はしゃべりやすく、言語化しやすいWhatから語るけども、卓越したリーダーは、言語化できないWhy、なぜそれをやりたいのか、なぜそれを信じるのか、何をそこに希望を見出しているのかというなぜから語るという話でした。

田原さんは、まさに今回、恐れを手放して、勇気を持って・・Whyって否定されると一番つらいところじゃないですか。違うと言われたらアイデンティティに関わるようなことを、勇気を持って信じていることをあいまいでもいいのでしゃべられたというので、共感が生まれて、まわりをも動かしたということだと思うんですよ。

それは、本当に素晴らしい一歩を踏み出されたなと思いますね。

そうおっしゃっていただけると、自分の中で確信のような感情が生まれてきますね。ちょうど同じ時期に、まったく考え方の背景が違う方同士がコミュニケーションを取っているところに間に入る機会があったんですね。同じ言葉を使っているのにお互いにほとんど言っていることが分からない状況で、ストレスが溜まってきて、「もうやめましょう!」みたいな感じになったんです。そのときに、今までだったら感情的になって、それで終わりにしていたような気がするんですが、たぶん、僕の中でいろんな変化があって、「これは、分かり合うためのチャンスだなー」という気持ちになったんです。それで、ストレスを感じた状況を共有して、その原因をみんなで考えることにしたら、分かり合えたような感覚が生まれました。これも、自分にとっては、インパクトがある経験でした。

原体験でそんなのを持っているのは、本当に素晴らしいですね。

すごくいいと思いますよ。知識から入ると逆効果ですからね。知識から入ると、ダウンロードで入ってしまうじゃないですか。いろんな反応が起こったときに、「ああ、あの本に書いてあったあの反応が起こった」というように場を捉えるわけじゃないですか。でも、それって、もしかしたら違うかもしれないというところとかも、全部、解釈されてしまいます。だから、まずは、実践ありきのほうがいいと思っています。

自分もファシリテーションとか、コーチングとかに興味あったんですけど、逆に変な影響を受けてしまうと思ったので、6-7年間は一切勉強しなかったんですよ。自分なりに試行錯誤して、どういう場がいいのか、どういう場が悪いのかというのを体感で試行錯誤して、それを、その後の5-6年で知識で整理していったという過程を踏みました。

今、知識がないと怖いからという理由で勉強から入ると、結構、間違った方向に行きやすいと思っています。コーチングでも、勉強から入った人のコーチングって、変に目標設定されちゃったりして、操作されている感じがするんですよ。人と人との純粋なやり取りがある中で、スパイスとしてのノウハウはありなんですけど、ノウハウで人って動くものじゃないですから。田原さんは、すごくいいプロセスを踏んでいられるなと思います。

今回の2つの例は、理屈ではなく、直感で動いたという感じなんですよ。

たぶんそうだと思いますよ。そのプロセスで、「本音出したら次動くだろうな」というもんじゃないじゃないですか。たぶん、これ伝えておかないと絶対に嫌だというような直感というか、そういうのに駆り立てられて、それで、これで理解してもらえなかったらしゃあないという手放しもあったりしながら、たぶん一歩進まれたと思うんですけど、それは、理屈で考えてもできるもんじゃないなと思います。

自分の体験を言語化して嘉村さんに語ったことで、改めて自分にとっての体験の意味が明確になりました。論理的に行動したほうがよいフェーズと、直感的に行動したほうがよいフェーズとがあり、その両方の使いどころが整理された気がしました。カオスから抜け出すときは、過去のデータから割り出された解は意味がないので、直感に従うべきだということを言語化できました。

人間的な成長を促すファシリテーション

今、教育分野では、一方向的に知識を与えるのではなく、生徒が主体的に学ぶ力を育もうという機運が高まって来ていて、アクティブラーニングや反転授業が注目されるようになってきています。その中で、教師には、ファシリテーション能力が求められてきています。嘉村さんは、教育について、どのように感じていますか?

教育は、本当に大事ですよね、基本的に知識詰め込みが多いじゃないですか。今の田原さんみたいに興味を持ったときの吸収率ってすごいと思うんですけど、今の学校教育って、好奇心が生まれる前に教え込んでしまっているので、知識面でも吸収率が悪いし、入っていかないですし、入ったところで自由自在に活用できる知識ではなくて、テストで点数を取れる知識になっていると思います。そういう意味で、考えてから知識を入れる、好奇心を持ってから知識を入れるというようなファシリテーションというのは意味があると思います。

そもそも、対話というものは、自分は何者なのかとか、自分はどうありたいのかとか、日々、自分のメンタルモデルを作り替えていくというものなので、学校教育が知的成長だけを扱うんだったらいいんですけどね。人間的な成長を扱うのであれば、ファシリテーションは不可欠だと思います。

ここで嘉村さんがおっしゃっている「人間的な成長」というのは、メンタルモデルを疑って変更する経験を通し、自分を成長させていけることだと思います。「テストでよい点数を取るのがよい」という1つのメンタルモデルに従って学校生活を送り続けることは、知的成長をすることは可能かもしれませんが、「メンタルモデルを作り替える」という体験をしないことの弊害も出てきます。アクティブラーニングや反転授業の役割として、「メンタルモデルを作り替える経験をさせる」というものが、対話の中から浮かび上がってきました。

一生懸命やっている人ほど考え方が変わるはず

僕は、ファシリテーションについて考えていったら、アメーバ―型社会のようなものにたどり着いたのですが、嘉村さんは、社会についてはどのように考えていますか?

社会のメンタルモデル自体を変えなくちゃいけないと思っています。この間、派遣村で有名になった湯浅誠さんという方と対談して文芸春秋に取り上げてもらったんですけど、考えがブレないことが強いリーダーだというメンタルモデル自体が今の社会の弊害の一つなんじゃないかという話をしていました。

本当にいいものや良い社会を作ろうと思ったり、よい理念を追いかけていたら、新しいものと出会うはずで、新しいものと出会えば変わるはずなんです。一生懸命やっている人ほど、考え方が変わるはずで、変わることを良しとしない限り、より安定、より平凡な方向へ行ってしまいます。ブレる人ほどいいと思います。僕は、マニフェストの政治が嫌いなんです。事前に結果を約束してからやるんじゃなくて、方向性とか問い、これを信じているんだけどなということを言って、後は、通った後、試行錯誤しますということじゃないといけないんじゃないでしょうか。こんな世界にしますということを詳細に書くマニフェストというのはちょっとおかしいんじゃないかと思っています。そのブレたらいけないメンタルモデルをまず変えないとダメだなーというように思って、そういう対談をしていたんですよ。

失敗が許されない世界というか、もっと社会実験ができる社会にしていかないと、どんどん衰退していきますよね。

過去の経験から生まれたものを改善するだけでは、限界がありますよね。

そうですよね。アインシュタインの言葉で「我々の直面する重要な問題は、その問題を作ったときと同じ考えのレベルでは解決することはできない」という言葉があります。

何か問題が起こったときには、その考え方だから問題が起こっているわけなので、考えの次元を上げないと、つまりメンタルモデルを変えないと解決しないんですよということだと思います。

いじめがおこったという学校があったとすると、いじめが起こってしまう何かを教えている学校のメンタルモデルがあって、それを根本的に変えない限り、誰かのせいにしたとしても変わりませんよね。

アインシュタインは、まさに、ニュートン力学の一様な空間、一様な時間という前提を疑って、それを覆すことによって矛盾を解決しました。僕が科学を勉強していてよかったと感じた瞬間は、カオス理論とかゲーデルの不完全性定理とか、ポパーの反証可能性とかに出会ったことで、1つの方法論を突き詰めていくと、内部に矛盾が生まれてきて、前提が問われ、それによって枠組みが広がっていくというプロセスの普遍性を学ぶことができました。自分の物理授業にも、公式暗記の学習法を手放し、原理からすべての法則を導いて解くという方法を学ぶということがテーマになっていますが、今回の対話により、それをもっと一般化して、「自分の前提を疑い、それを乗り越える」という要素を入れたいと思いました。

負の連鎖を対話によって少しずつ剥いでいく

ストリート系の友人と会話をしていたときに、その人が、社会を中心の輪の中にいる人と外側にいる人とに分けてイメージしていて、内側の人が本音を隠して生きているのに対して、ストリート系は外側で本音でつながっていると言っていたんですね。僕は、現状の社会では、全くその通りかもしれないと思いました。でも、それは、既存のシステムに認められている部分と、システムから排除されている部分とがあって、ストリート系とか、方向性は違うけどエロ妄想系とかを、システムから排除されているがゆえに本音として認識してしまいがちだという部分もあると思っているんですよ。だから、ある意味、システムによって「本音」が制約されてしまっていると思うんですよ。そういう制約を、対話によって乗り越えていけないかなと思っているんです。

たぶんそこでその人が本音を強調されるのが、本音を出して傷ついたりとかいう経験があって、まだそれを解消できていないからそこにいると思うんですよ。ストリートをやっていない人とは本音で関われないとか、関わる自信がないとか、そういうことがあって、そういうことを言ってしまっていると思うんですけど。

あらゆる人がそうだと思うんですよ。どっかで体験したトラウマとかがあって。

自分は社会起業家という立場にいるんですけどね、社会を変えていこうということで、一見、ポジティブなんですけど、結構、攻撃的なNPOとかもいっぱいあるんです。あれは、よくないものを変えるということをやっていることで、自分が安定したいということだという人もいるんですよ。教育も心の底から子供たちを応援するというのでやっている人もいれば、教育という教える側と教わる側の上下関係によって自分を安定させたいという部分もあると思うんです。そういう自分の持っている負の部分を安定させるために動いてしまうというのは、誰もが持っていると思うんですけど、その連鎖だと思うんですよ。

自分の子どものころに夢をかなえたかったけど親に反対されて挫折せざるを得なかった人が、大人になると、夢なんて持っても意味がないと思うので、部下が何か提案したときに否定的に行ってしまうとか、若者が夢を語ったときに「現実社会はそんな甘いもんじゃない」と言ってしまったりとか、いろんな負の連鎖が世の中に起こっていると思うんですけど、対話っていうのは、そういう負の連鎖を少しずつ剥いでいってくれる気がするんですよね。

一番最初に言ったような信頼関係で安全、安心の場ができたときには、自分の弱さとか悩みとかも言えるようになってくるんですね。そういうのを言っていくうちに、解放されていくと思います。

成長過程で背負ってきたいろんなトラウマとか挫折経験とかによって、純粋に人の役に立つとか、自分を生かすとか、人を信じてつながることの喜びとか、自分自身を生かすことの喜びとか、本来持っているものを発揮するのを邪魔していたものを取り除いていくのが対話の効果だと思っています。

じわじわと変化していくんですね。

漢方薬的ですよね。対話を経験していくとだんだん免疫力が上がるような感じです。対話の場を踏んでいけばいくほど、人のつながりに対する信頼感とか自分への信頼感が高まっていくというような効果があるかなと感じています。

ファシリテーションの中には構成的なプログラムをバシバシ!とやったり、ファシリテーターが引き出して!みたいな場創りをする人も結構いますけども、それは、わりと西洋医学的な感じですね。短期的にバーンと変えるという感じです。

それに対して、非構成的な場を信じて待とうというのは、わりと漢方薬的で、究極変わるのはあなたたちですよという感じです。

たまには緊急治療も必要なので、構成的な仕切り方では「何とか変えてみせましょう」というのも悪くなくて、それこそ西洋医学をやることも必要なこともあるのでいいんですけど、一人一人の主体性や気づく力を育むのは、非構成的な場だと思っているので、できれば信じて待つファシリテーションをやりたいというのはあります。

嘉村さんのお話をうかがって、対話が、社会や個人の心の中の様々な歪みを、少しずつ直していく力を持っていることがよく分かりました。それは、自分が体験していることとも一致することなので、とても説得力を持って心に響きました。

ファシリテーションの重要性にいち早く気づき、先頭を切って様々な試行錯誤を積んできた嘉村さんのお話から、学ぶことがたくさんありました。

嘉村さんが代表理事を務める「場とつながりラボ home’s vi」はこちらです。

登壇者紹介 小河節生さんにインタビュー

11月に実施する第14回反転授業オンライン勉強会でお話しされる小河節生さんにインタビューさせていただきました。

小河さんは、企業人としての経験が豊富なのに加えて、インターネットを通じたビデオオンデマンドの授業を提供しているビジネスブレイクスルー大学(BBT大学)でLearning Adviserをした経験をお持ちです。

教育関係者が多い「反転授業の研究」の中で、企業人としての経験が豊富な小河さんのお話は、アクティブラーニングとビジネスの現場とを結びつける上でも非常に参考になると思います。

グループワークに興味を持ったきっかけ

小河さんがグループワークに興味を持つようになったきっかけは?

会社での経験がきっかけです。

メーカーのA社に30年前に入社して、相手は、英国航空エンジンメーカR社とか米国G社とか相手に仕事をしていたら、彼らは非常に事業戦略をきちんと持った上で日本企業を相手にしてくるんですね。

彼らは、自分たちがいかに生き延びるのか、その(自分たちの利益を伸ばす)ために、日本をいかに利用するかという戦略で来るんです。

当時、1990年代ころは、日本も円が安く、日本人は勤勉だから仕事を任せても確実に期限までにやってくるので、うまく使える民族だなと思っていたんでしょうね。

当時の日本は、コスト競争力があり、日本人の年齢構成も若くバイタリティがありました。

安くて正確で速く仕事ができる。その割には、ビジネスにおいてはウブで利益よりも、仕事がもらえればいいやという人たちが多かったんです。

ですから、利幅の大きい稼げるところは欧米人がやって、勤勉にやらなきゃいけない現場の仕事とかを日本にやらせてやろうという感じで仕事を持ってきて、使われていたという感じでした。

やがては日本もだんだん円高になり、コスト競争力がなくなってきました。

じゃあ、利鞘の大きいところに行かなきゃいけないとなると、どうやって戦略的にそういうところに出ていかなければならないか、当時の経営者層は、そういうことが分からなかった。

経営戦略を立てる上でMBAを取っておかなきゃいけないなと思い始めたのが、90年代半ばでした。

欧米の企業の経営方法を学ぶ必要があると思ったのですね。それで、MBAを取りに行ったのですか?

当時、MBAを取ろうとしても、経営幹部には理解がなく、ビジネススクールに行きたいと言っても頭がおかしいと思われていました。それで、自分で通信制でMBAを取れるビジネススクールに通いました。そこで、問題解決力を理路整然とつけてもらえました。最初は基礎コースでしたので、状況をいかに情報収集して分析して問題点の根本を探ってどうやって解決していくのかということをやりました。

その前、2000年頃に米国航空エンジンメーカG社と仕事をした時に、チームワークで課題・問題の解決をするかを覚えました。それが、チームビルディング、チームの中のリーダーシップ、ファシリテーションというものの重要性を身をもって分かったという経験でした。

欧米は個人主義なんて、当時、言われていたんですけど、そうでもなかったです。チームで連携よく行動してくるというのを学びました。

米国航空エンジンメーカG社がやっていたシックス・シグマは、非常に優れたチーム活動で動いていまして、その中で、いかにしてチームを束ねて成果を出していくのかということを、よく学びました。

アメリカ人というのは、こんなにチーム力を生かしてやってくるというのは、驚きでした。

確かに欧米が個人主義で、日本はチームワークが得意というイメージがありましたが、違ったのですね。

80年代は、製造業を中心に日本のチームワークが有効で、Japan as No.1とか言われておだてられていたんですが、日本のいいところをアメリカが学びなおして、90年代になって反撃に来たという時期で、日本がJapan as No.1からひっくり返りかけていたころでした。そのときの日本を見ると、チームで活動できていなかったなと思います。

小河さんが、ご自身の経験から、ビジネスの現場ではチームワークが重要だということを感じて、グループワークについて学び始めたというのは、とても説得力がある話でした。製造業でグループワークがどのように行われているのか、さらに詳しくうかがいました。

アクティブラーニングは、ビジネスの現場でどのように役立つのか

仕事の現場で、グループワークはどのように利用されているんですか?

私は、今、A社から別の会社に転職して、ラーニングアドバイザーとか、地方の学生を集めて勉強会をやっているんですが、辞める直前に、バリューエンジニアリングという製品の品質とかコストを改善するためのグループワークをやっていました。

実際に製品の改良を、そのグループでやりました。

僕もそうなんですが、多くの教師は、グループワークが社会でどのように使われているのかぴんと来ないので、そういう話を教えていただけると、アクティブラーニングと仕事との関連性がイメージできるようになって助かります。

一般企業に勤めていないとぴんと来ないところもあるかもしれませんね。

私は、メーカー系の会社しか知らないですが、大手の製造業はグループワークで製品改良というのは、どこの会社でもやっていると思います。サービス業でやっているかどうかは、分かりません。

バリューエンジニアリングをやっているという企業、シックスシグマをやっている企業は、間違いなくグループワークを導入していると思います。

グループワークがうまくいくコツは?

グランドルールを作って、みなさんをその通りに従わせるというファシリテーターの役割が重要です。あるいは、リーダーとファシリテーターが一緒なら、リーダーがグランドルールを徹底するということだと思います。

自分勝手なことを言ったり、何も言わないという人はいますから、メンバー全員がグループワークに最初から適応するかと言ったら、それは無理だと思います。いかに話をうまく持っていくのかというのが、ファシリテーターやリーダーのスキルだと思います。

グループワークでは、ファシリテーターやリーダーの役割は、どのような役割を果たすのですか?

共通目標を見えるようにするのがファシリテーター、または、リーダーの役割だと思います。職場を改善したい、お客さんの満足度を50%から80%にしたいとか、メンバー全員に共通の目標を持たせるようにしていくのが重要ですね。私もファシリテーターとかリーダーの立場でものを言うと、自分のことではなくて、グループの共通の利益になるのは何かなというのをお互いに認識してもらって、「そうか、俺たち同じ船に乗っているんだね。じゃあ、こっちに向かって頑張ろうか」という風に持っていくんですね。そうすると、各自のやることというのがだんだん認識できるようになってきます。利己的でなく利他的でないといけないということです。

システム屋さんだったら、システムの改善をどうしたらよいかとか、モノづくりの作業工程を作る人だったら、現場に行って作業者がやりにくいところは何ですかねというのを聞いてくるようになるとか、そういう違いが出てくるかと思います。何したらよいかが、だんだんと分かってくるんです。

部門から代表が出てグループを作るのですか?

そうですね。部門ごとに分かれていることが多いので、設計者もいれば、営業の人もいる。資材調達の人もいる。実際に現場を持っている人もいる。アフターサービスもいるという状況で、お互いの組織の利害が中心になるのを、どうまとめていくかですね。

部分で最適化していたものを、組織全体で最適化する感じですか?

そうですね。サッカーで言ったら、スタンドプレーだけではだめなので、誰をおとりにして、誰がゴールを入れるのかといったチームワークですね。その辺が、90年代のアメリカ企業は、日本から学んで逆襲してきたわけですけど、いい成績を上げるためには、お互いの役目が分かって、連携して動けるというところがすごかったですね。最近は、アメリカ企業もまたおかしいですけどね。

大きな組織になると、多くの部門に分かれていて、それぞれの部門の利害と、組織全体の利害とが必ずしも一致しないときに、社内のステークホルダーが集まって、組織全体の利益を最大化するためにグループで話し合うというのは、とても分かりやすいお話でした。

欧米ではファシリテーターの地位が確立している

以前、シンガポールのワールドカフェホストの女性の自宅に招待してもらったことがあるんですが、彼女の夫は、アメリカのグループワークのトレーナーで、世界中を回ってトレーニングしているという人でした。豪邸に住んでいて、アメリカの会社では、グループワークが重要視されているんだなと感じました。

そうですね。IBMのCEOのルイス・ガースナーが、お菓子会社の社長から、IBMへ行って、業績が出せるというのは、コンピューターのことを知らなくても、まわりの人をまとめてIBMを立て直すことができたからでしょう。お菓子屋さんが、コンピューターの会社を立て直すことができるというのは、ファシリテーション力があって、ベクトルを揃えて、バラバラだったベクトルを一方向にしたらあれだけの業績が出るんですね。

アメリカと日本では、人材についての考え方が違うんですか?

アメリカでは、欲しいスキルのある人は、ドライにどこかから持ってきますね。引き抜いてくることもあるでしょうし、契約社員みたいな感じで持ってくることもあるでしょうし。今、その場にいる人を無理して育てようという感じは、あまりアメリカはないみたいですね。その分野で優れた人を連れてこようという感じですね。

ファシリテーターとしての経営者になるか、特定の分野、たとえば、プログラミングが優れているとか、何かの技術計算が得意な人だとか、マーケティングが得意な人だとか、特定な分野がすぐれた人になるかというのは、それぞれでしょうね。No1になれば、どちらでも非常に高いフィーがもらえると思いますけど。

どちらでも、自分が才能がありそうだというほうを磨いてくれればと思いますね。

私は専門じゃ無理だなと思うので、ファシリテーションの能力を磨いていこうかなと、まだ、この年で思っていますけど。

組織の中のベクトルを揃えることができれば業績が上がっていくということが共通認識になれば、そのためのスキルを持つファシリテーターの重要性も認識されるようになるのだと思います。現在の日本では、ファシリテーターの認知度はまだまだ低いと思いますが、今後、重要性が少しずつ認識されるようになってくるのではないかと思います。

逃げずに責任を取るのがリーダー

リーダーシップとファシリテーションの違いは何ですか?

ファシリテーション能力とリーダーシップの能力は、どちらも両方あるといいですね。

リーダーというのは、ビジョンがないといけないと思います。それを、自分で示しても良いですし、誰かからもらってきたものを示してもいいですけど、はっきり示さないとゴールが見えないですから。

リーダーとファシリテーターというのは、必ずしも一緒でなくても良いと思います。リーダーとしてビジョンを分かる人、グループをまとめあげる能力というのは、必ずしも一人の人が持っていないと思うので。

会社の経営を例に挙げると、昔のホンダだったら、本田宗一郎さんがリーダーで、「俺は、こんなバイクが作りたい、こんな空冷の車が作りたい」と言って、はっきりとしたリーダーシップを持つと。ただ、彼の場合は、すごく変わった頑固おやじだから、会社の経営はそんなに得意でないので、チームの和をまとめるのには、藤沢さんという方がファシリテーターとして組織を支えたんですね。

トヨタだったら、トヨタの本家の人と、大野耐一さんですかね。この二人がリーダーシップとファシリテーターを分担していると。

その組織をこうしていきたいんだよという強いビジョンを持つのがリーダーシップ。というように僕は理解しています。

後は、逃げないことですね。責任は、最後に取るということです。

うまくいかなかったら、それはお前らのせいだと言って・・そういう会社ありましたね。うまくいかなかったのは従業員のせいだって、そんなことを言っちゃだめですよ。

原発壊れちゃったのは、俺たちのせいじゃないって、それはリーダーシップじゃないですよ。

ビジョンを持って、逃げずに責任を取るのがリーダー。

チームを支えるためにはファシリテーターが、そうですね、野球で言ったらキャッチャーみたいな人が必要になるというイメージですね。

日本では、どうですか?

日本の場合だと、妬み嫉みのほうが多いのか、足を引っ張ることのほうが多いみたいですね。だから、全くしがらみのない外国人の経営者を連れてきて、その人にやらせるというのがパターンとしては多いですね。日本人でそれができる人というのはなかなか・・。

能力があっても、反感を買ってしまって周りが付いてこないというパターンが多いです。

それは、派閥の利害関係のほうが優先されてしまっているんですね。業績が悪化したりして危機感を感じる状態にならないと連携できないんですか?

不思議な日本人の精神構造だと思うんですけど、本当の危機になっても、ベクトルが揃えられないパターンがあります。光学機器メーカO社なんかもそうですね。派閥抗争を繰り広げて、結局、会社の業績が上がらないままということですね。不思議ですよね。

でも、倒産してしまったら、派閥とか意味がなくなるんですよね。それでも、派閥を手放せないというのはどこから来るんですか?

私の勝手な推測ですが、きちんと責任取っていないなと思います。自分の地位に安住することが優先。でも、そのまま行ったら沈没するという場合でも、どこかで誰かが助けてくれるという甘えがあるような気がします。

原発事故をやっても、だれも責任を取らないでみんな逃げちゃう。会社潰しても、私のせいじゃないといってみんな逃げちゃう。きちんと責任を取るということを教えていないという気がします。

小学生の時は、よく先生に「あなたの責任!廊下に立っていなさい」って怒られましたけど。そういうことは、それ以後、全然ないですものね。

僕たち団塊ジュニア世代の人は、偏差値教育のど真ん中で、テストの点数で振り分けられて、「あなたは理系、大学はこの辺、就職はこのあたり」って振り分けられていったという感覚があるんですよ。僕は、そこに強い反発があって、自分で選びたいと思っていたんですが、そのまま振り分けられていって、選んだという感覚がない人も多いと思います。それが、責任を感じないということと関係ありませんか?

それが、背景にあるかもしれませんね。

自分で選んだから、自分で責任を取るというのはあるでしょうね。

振り返って考えてみると、私は自分の人生を自分で決めていますね。最初に付きたかった仕事について、途中の転換も自分で決めていますもんね。

これが必要なんだという自分の気持ちに沿ってやっていますね。やれと言われたんならモチベーション低いんでしょうけど。

対話の中から、主体的に行動することと、責任感との関連性が見えてきました。アクティブラーニングによって主体的に行動する人を育成していくことは、同時に、責任感を持って行動する人を育てていくことにもつながるのではないかという思いが生まれました。

必要に応じて短期間で知識をローディングする

少し前に、TED動画で『Joi Ito: Want to innovate? Become a “now-ist”』というのを見たのですが、そこでは、高度に知識化する社会では、前もって学んでおくよりも、必要な時に学ぶスキルのほうが必要だと言っていました。必要な時には、学ぶ意味がはっきりしているので、一気に学べるんですよね。小河さんはいかがでしたか?

前もって学んだことで役立ったのは・・・

大学では工学部だったので、流体力学とか材料力学だとか習ったんですが、あまり役に立ったという記憶がないですね。

何が役に立ったのかというと、考えてみれば、グライダー部で学んだチームワークのほうが役に立ちましたね。

学校でやる基礎の学力って、あんまり役に立っていないなと。

実際にいついつまでにこういう成果を出さなくちゃいけないから基礎知識を勉強しなきゃといったほうがエネルギーの短期集中度は高いですね。

一時的にローディングするんで、そのときは専門家みたいに覚えているんですけど、あとは忘れますけどね。まあ、あとでまた、思い出すことはできますけど。

工学部で学んだことも、あまり役立たなかったと感じているのですね。

職場にもよりますけどね。いきなり空気力学の設計をやってというところなら、流体力学が役に立ったと思いますけど、私が行ったのは現場だったので、現場のおじちゃんたちをうまく動かすほうが中心でしたね。自分で飛行機を作れないんで。

だから、おじちゃんたちが気持ちよく、どうやって働いてくれるのかなということが関心でしたね。

モノを作る技量は、明らかに現場のほうが上ですから、教えることなんて何もなくて、教えてくださいです。

ただ、研究、設計部門の人に言わせると、大学でやってきたことというのは幼稚すぎちゃって、またそこにギャップがあって役に立たないって言っていましたね。

最先端の知識、技法は、短期で急速に覚えなくちゃいけないというところで同じですかね。ここまでの到達点をいつまでにやれというのがないと、しゃかりきになって勉強はできていないなという印象を受けます。

ここまでやらなきゃということになると、徹夜してでもやると。自分の経験や、まわりで起こっていることからすると、そちらのほうが多いと思います。

短期間でローディングして学ぶのに必要なスキルは?

手あたり次第文献を読んでみて、関係のありそうな文献を見つける嗅覚というのは必要かもしれません。全部読んでいたら終わりませんから。ぱっと目次を見て、中身をちらちらっと見て、これは関係ある、関係ないというのを選り分ける。そういうことですかね。インターネットができて本当に便利になりましたけど、紙の文献しかないときは大変でしたね。あの頃、取り寄せようと思ったら1?2週間、すぐに経っていました。

今は、速いですよね。

検索するとすぐに出てきて、有料でも電子データでもらえば、そんなにかからないですもんね。

たくさんの情報をパッと見て選り分けるというスキルは、必要だと思います。

それは、いつ身に付いたのですか?

会社に入ってからですね。1つのテーマに必要な資料をかき集めるというのは。

大学院に入ってから、指導教官と研究テーマが違ったので、資料調べから、仮説を立てて検証するところまで、全部一人でやっていたんですけど、今考えると、その経験がとても役立っています。

アクティブラーニングをやると、そういうのを自分でやらなくちゃいけないですもんね。自分のやろうとしているテーマに対してどんどん調べて、資料を集めてきて、必要なら実験してみるという考え、自分でそういうプランをしないといけないですね。そういうことが学べるということを考えても、教科、時間割を決められて、教科書が与えられて、それだけやっていればいいよじゃではない良さがありますよね。

そういう力こそが、社会に出てからは絶対役に立つと思うので。

社会の変化が速く、テクノロジーに関する知識があっという間に陳腐化してしまう時代には、将来に備えて知識を蓄えるよりも、必要に応じて知識をローディングするスキルを身につけるほうがよいということですね。それも、アクティブラーニングをやる意義の1つだということを、小河さんのお話によって気が付くことができました。

アクティブラーニングに期待していること

教育の場でアクティブラーニングを導入する必要性を、小河さんは、経験上、感じられているんですね。

受験最難関校出の部下を何人か持って、まわりに同じ大学出の人もたくさんいるんですけど、確かに教科書の知識で決められた試験を早く正確にやるのはできるんだけども、まず驚いたのは、自分の仕事のスケジュール、要するに、時間割を書きなさいというと書けないんですよね。「時間割は与えてくれるもんじゃないんですか」と、最難関校出てきた優秀な人が途方に暮れるという経験をしたんですよ。「えーー。自分で自分の時間割が作れないの!」って、これは驚きましたね。

この部下を持ったのは14ー5年前なんですけど、教育が、どこか違うんじゃないかと思いましたね。

いかに自分で学習していくという道を作るか、それをやる意味で、アクティブラーニングはしていかなくちゃいけないなと思います。いろんな社会の課題について、時間割を教えてください、教科書ないですか、と求める態度だと本当に困っちゃうんで。

僕の生徒で、興味のあることはすごく熱心にやるけど、興味のないことはさっぱりやらない生徒がいます。それは、すごく大事なんだけど、僕から見ると、捨ててしまっていることの中にも、彼の将来に役立ちそうなことがたくさんあるので、どうしようかなと思っています。

興味の持てるところから、周辺のところへの知識への拡大が必要だなと思います。飛行機の例を上げると、飛行機を作るために何が必要かなと思ったら、嫌いなこともやらなくちゃならないなというのがありまして、まず最初に、飛行機を作る会社に入ろうと思ったら、英語を分かんなくちゃだめだろうという話もありますしね。英語好きじゃありませんでしたけど、飛行機を作っている会社は欧米ですから、英語くらい分かるのは当たり前だよね。どうにかしなくちゃいけねぇかというのがありました。

やりたいことをするために、関連の勉強も必要というのも出てくると思いますね。やりたいことに引きずられて勉強しなくちゃいけないということもありましたから。

脳みその中でアドレナリンやドーパミンが出てくるような興味の持てることがあれば、それをコアに伸ばしてやるというのがいいのかなと思いますね。

そうですよね。でも、点数を取るための勉強をしていると、興味のあることが何かということが分からなくなってきますよね。

その辺の指導の仕方ですよね。中学高校になると同じような教科書が与えられて、同じように勉強するようになって、面白くないなということになっちゃうんで。興味の持てるコアの部分がどっかにいっちゃう。

アクティブラーニングをやる意味として、もう1つ出てきました。どうやって自分で学んでいく道を作っていくのかということです。脳からアドレナリンが出るような興味のあることをコアにして、そこから広げていくようにして、いろいろなものを関連付けていけば、生徒自身が、自分にとっての学ぶ意味を感じながら学んでくれるのかもしれません。

小河さんのここまでの話を整理すると、アクティブラーニングで学ぶ意味として、次の4つが出てきました。

・組織で仕事をするときにはグループワークが必要になること
・主体的に行動することで、責任感が生まれること
・必要に応じて知識をローディングするスキルを身に付けること
・自分で学んでいく道を作れるようになること

これらは、すべて小河さんの経験に根差したものなので、非常に説得力があると感じました。

BBT大学との関わり

小河さんは、ビジネスブレイクスルー大学(BBT大学)でLearning Adviserをした経験をお持ちですが、BBT大学とは、いつから関わっているのですか?

A社で働いていた当時、アメリカの人やドイツの人と会うと、ph.DかMBAを必ず持っていました。名刺を交換するとどちらかの学位を持っているんです。一方、我々日本人を見ると、誰も持っていない。これは、勝てんわと思いました。

それで、2005年からMBAコースに入りました。そこで入ったのは、大前研一さんがやっていた通信制の大学院でした。そこで遠隔教育を体験しました。仕事を中断して勉強させてもらえなかったので、夜とか休日に勉強しなければならないという状況でした。

Learning Adviserになったきっかけは?

社会人として、会社に言われなくても勝手に勉強するという仲間が通信制の大学院に50人くらい集まっていました。卒業してみると、同じような考えを持った人が結構いる。2009年に大学院だけじゃなく、4年生の大学も作りましたので、じゃあ、今度は指導する立場で、Learning Adviserでもやって恩返ししようかと思ってやることにしました。一人でも多く、戦略的な思考ができる人が増えていけば、日本も競争力が上がるんじゃないかと思ってやり始めました。

BBT大学では、学生はどのようにして学ぶのですか?

学生もビデオオンデマンドで勉強していますので、好きな時間に勉強しています。一斉授業というのは基本的にないです。2005年の段階から、「皆さんビデオを見てきてね」というやり方をしていました。ただし、ワークショップの形で集まって課題をやるような授業は今でもあまりないです。反転授業のベースが整っているので次のステージに行けるのですが、まだその機運できていないです。

Learning Adviserの役割は?

教授が授業を作りまして、学生は、疑問があれば、Air CampusというLMSに質問を書き込みます。それに対してLearning Adviserは、議論のきっかけとなるようなオンライン上でのファシリテートをします。「こういう質問が出ているけど、他の人たちはどう思う?」というような問いかけをしたりして、議論をしながら、新しい発見をするような指導をしています。

いきなり答は、わかっていても書かないようにしています。

LMS上でのファシリテーションというのも、一つのキーですね。

リアルで集まって学び合いをするという機会はあるのですか?

リアルで会うのは最初はなかったですね。3か月から半年、10―20時間のビデオがあって、それを見て、質問をします。それから、個人でやる課題もあります。設問があって、それに対してどういうデータを集めてきて、分析して、何がいるかというのを考えさせて、オンライン上で課題を提出させるというのもあります。

ただ、集まって、一つの課題を解いていくというのは、最近は必要性がようやく分かってきて、半年から1年のコースで1回か、2回くらいやりますね。

Learning Adviserとして採点したときに、オンラインだけで勉強した人の答案は、実際に会ってグループでディスカッションした人の答案に比べて差がありました。一人でビデオを見て独習して課題を出すというだけだと、差がつくなということを見てきています。

ですから、ワークショップをやるというのは重要だと思っています。

できれば、年に1―2回ワークショップをやりたくて、できれば、オンラインでやりたいです。というのも、生徒は日本全国どころか海外にも分散しているので、一カ所に会することは非常に難しいです。ですので、オンラインでディスカッションできればと思っています。

僕も物理ネット予備校で物理の動画講義をネット配信して、フォーラムのQ&Aでサポートして物理を教えるということを10年間やってきたので、動画配信のメリットを感じると同時に限界を感じています。そこから、ビデオ会議室システムを使ったアクティブラーニングと組み合わせる方法の試行錯誤を始めました。小河さんも非常に近い問題意識をお持ちで、リアルで集まってグループディスカッションをする場を作ったり、オンラインでグループディスカッションをすることを検討したり、様々なチャレンジをされています。

小河さんのやられているLMSでのオンラインでのファシリテーションというのは、リアルの場でのファシリテーションと比べて非言語的な情報がない分だけ、難しいものだと思いますが、そこで蓄えられたノウハウは、オンライン学習が増えていくこれからの時代に、役立つものではないかと思います。

小河さんの考えるファシリテーション

ファシリテーションで一番大切なことは何ですか?

ファシリテーションのテクニックについては、本とか現場体験をもとにやっているので、きれいにうまく説明できないですが、一番中心に来るのは傾聴力ですかね。

こちらの言いたいことを一方的に言っても、そっぽ向くだけですからね。相手の言いたいことを聞いてあげることが大切ですね。

私が若いころ、会社に入った時に感じたのは、上司ってのはいかに傾聴力がないかですもんね。一方的に指図するだけで、何か意見があって言おうものなら、10も20も反ってきて怒られるというパターンでしたから。

A社は、優秀な学生が入って来てはだめにしている会社だなんて陰口叩かれていましたから。いかに個々人の能力を伸ばすかということができていなかったか。まずは、聞いてあげることだと思います。

メンタルヘルスでも傾聴力ですけども、同じだなという感じしますね。

傾聴が、個人の能力を引き出すための第一歩なんですね。

そうだと思いますね。今、社会人を相手にしていると、人生の目標をみんな持っていないですね。7~8割が持っていないですね。とりあえず職は持っている。結婚して子供もいるけど、なんか人生の目標が違うんだよねという人がいっぱいいます。

これが自分の人生じゃないという人が結構いて、もっと他のことがやりたいはずだという人がいますね。

20代のオンラインの大学生でも、人生のビジョンがありませんという人がいっぱいいますね。おそらく潜在意識の中にやりたいことはあると思うんですけど、どうやって引き出したらよいのかなとよい方法を、今、検討中で、それらしい研究をしている人を二人ほど見つけました。

その人のやっているワークショップを受講してみようかと思っています。

いろんなしがらみで思考が規制されているので、意識の中にはあるんだけども表現できないものをいかにして引き出すのかというのが、私の課題で、今、勉強中です。

実際にやってみて、うまくひきだせたというケースもありますか?

そういうタイプの人を真剣に相手して5人くらい。一人くらいですね、やりたいことが見えてきたのは。対話していて、引き出せないのはまだまだ未熟だなと思っているんで、研究会などで習いに行こうかと思っています。

「反転授業の研究」のインタビューしていて、今やっていることのルーツを一緒に探っていくと、本人も意識していなかったようなつながりが見えてくるときがあったんですよ。はじめは、単に勉強会の発表者をみんなに紹介するためにインタビューしていたんですが、いろんな気づきがインタビューから生まれるので、これは、すごいと思って、モードが変わりました。

まさにそうだと思います。

加藤雅則さんという人がやっている「智慧の車座」が、僕がやりたいとしていることを補ってくれる優れたやり方のような気がして、これを直接、習ってみたいなと思っています。

うちの学生にやりたいと思って、今、整理中なんです。これで、自分がやりたいことが分かるというのが一人でも増えるかと思って、試してみたいと思っています。(このインタビューのあと試しに文献頼りに「智慧の車座」を開催。加藤さん直々のセミナーをH27年2月以降に開催する計画中。)

傾聴力の重要性は、僕自身も強烈に感じていたところだったので、小河さんから同じ言葉が出てきたことで、確信が強まりました。小河さんの学習者像はとてもポジティブで、「やりたいこと」が表面に現れていないとしても、潜在的なところには存在していて、それを一緒に考えていくことによって引き出すことができると信じているところがとても印象的でした。そして、引き出す能力を高めるために、小河さん自身が学び続けているのがすばらしいと感じました。

主体的に自分の人生を決めてきた

小河さんは、子どものころから飛行機のエンジニアになりたかったんですよね。その夢を抱くきっかけは何だったのですか?

子どものころにNHKのドラマで見た「あひるの学校」に出てきた芦田伸介が演じる飛行機のエンジニアがかっこいいなというのがきっかけだったんです。

それで飛行機作りたいなと思って、就職して30代くらいまではそれでよかったんですけど、だんだん会社の中の経営を見ていると、飛行機作るよりも、日本の会社の経営っておかしくないかなということで、意識付けが変わってきて、きちんとした経営をしなくてはだめだと思い始めました。日本の企業では、従業員が全然幸せじゃないよねと思ったんです。

そういう風になってしまうもともとの原因が、利益を欧米企業に搾取されていたりとか、経営自体がまずいんで、変なところにお金使っちゃていたりとかしていて、従業員が幸せになるためのお金の周りがよくなかったんですね。

福利厚生もひどかったですから。

そういうところをいかに直すか。まずは、利益を上げることが悪いという変な戦後教育があったんですけど、きちんと必要な利益を上げるような経営が必要だというところに意識付けが変わっちゃって、MBAのほうへ走っていたということなんです。

25年から30年前に、転換点がありました。

それで、経営に変えて、それからが長かったですね。

自分がいた会社も、このままでは経営不振になるだろうという危機感がありました。

その会社も、よいか悪いかは別にして、欧米型に変わって利益を出せる体質にはなったのでいいかなと思うんですけど、それを出てから、日本の働いていく人たちに、同じ間違いをせずに、いかに戦略を持って生きるかというのに寄与できるかなというのが、今のモチベーションです。

小河さんのように、自分のやりたいことをはっきりさせて、常に主体的に決めてきたという人のほうが珍しい気がするんですよ。

確かに、周りから変だと思われるのは、そこにあるんでしょうね。

だから、学生と話をしていて、「やりたいことないの?」「特にありません」と言われて、「変わった奴だな」と言うと「あなたのほうが変わっています」と言い返される羽目になりますからね。

その考えは、どこからきているんですか?

自分で選択するからには、自分で責任取れよということですよね。

それを、最初に言われたのはオヤジですね。「好きなことをやっていいよ。ただし、結果については自分の責任だよ。」と。

同じことを会社に入ってからも、最初の課長に言われましたね。

「自分の人生なんだから、やりたいことやりなさい。ただし、結果については自己責任だよ。」

同じことを言われましたね。そういうことを言ってくれる人がいるか、いないかもしれないですね。

ご両親が、小河さんをそのように育てたのですね。

親のいいつけが、「好きにやっていいよ」でした。

生まれたときに病気がちだったらしく、親が、生きているだけでもいいやと思ったと聞いています。無理に親の意向に沿わせなくてもいいやと思ったというのを、かなり大きくなってから聞きました。

あまり無理せずに好きなように生きてもらったらいいよという感じだったみたいです。

病気もせずに頑強な男の子だったら、もっとしごいたのになんて、冗談も言われました。

好きにやったという経験で、思い出すものはありますか?

学校の中では、小学校の5~6年生の担任の先生が、教科書を使わない人でしたね。自由に研究してきて、自由に調べて、好きなことを調べてこいという人でしたね。好きな本を読んではノートにまとめてということをやっていました。

それが小・中では印象に残っています。

あとは、特色のあることは、やっていないですね。昭和40年代ですから海外に行けるわけでもないし・・。

まだまだ日本は貧しかったですから。

アヒルの学校を見て、影響を受けたのは、いつごろですか?

小学校1―2年だったと思います。

その頃、思い描いた夢を、ずっと心の中に抱き続けるのはすごいですね。

だから、おかしいと言われるんですね。最初に飛行機に乗ったのは東京オリンピックの年なので幼稚園生のときでしたね。1964年ですね。あの印象が大きいのかもしれません。

東京に行ったら、たくさんの外国人がいて、飛行機に乗ってきたというインパクトが大きいのかもしれません。

それが続くんですよね。

他に興味があるものが出てこなかったということかもしれませんけど。

高校のころは、受験勉強がすきじゃなくて、勉強しませんでしたね。特定の教科で、なぜだろう、どうなっているんだろうと深掘りするようなことは好きでしたけども、暗記物はさっぱりやりませんでしたね。歴史なんて覚えませんでしたね。歴史で「なぜ、この人はこうしたんだろう」というのを調べるのは好きでしたけど、何年に何があったというのは、ほとんど暗記しようとしませんでした。

本を読んだり・・実際に乗り始めたのは大学ですね。グライダーに乗って空を飛び始めました。勉強しませんでしたね。笑

大学の中に航空部というグライダーに乗るクラブがあって、そこへ入って、そればっかり飛んでいたのを覚えています。

合宿費も高いんで、倹約したり、バイトに行って稼がなくちゃならなかったですね。

子どもに「好きなことをやれ」というのは、実際にはとても難しいことだと思います。でも、子どもの主体性を尊重することで、自分で道を作っていく力や、責任感が生まれるということを、小河さん自身が示しているように思いました。

主体性に火をつけるために必要なこと

小河さんと同じように、やらなくちゃならないからやるのではなく、やりたいからやるという人は、会社には、他にもいましたか?

A社に来る人は特殊ですね。入社する人のほとんどがロケットを作りたいですから。特殊な世界ですねあそこは。

ロケットに配属される人は少ししかいないんだから、みんなロケットはできないよということなんですけど。

中には、ガンダムが作りたいとかいう変な人もいましたね。現実にできると思っているのという感じで。そういうこだわりを持っている人も少しはいましたね。

でも、オンライン大学の学生に聞いてみると、自分の夢を持っているという人は極めて少ないですね。そのことが分かったのは、この4ー5年ですね。

他の人も、自分と同じように、こんなことをやりたいんだという夢を持っているんだと思っていたんです。それが違うというのを、この年になって悟りました。

主体的に学ぶために、どうやって心に火をつけることができるんでしょうか?

難しいですよね。

高校のころ、なんで学ばなくてはならないというのは、化学の先生が言ってくれたんです。

「君たち、こんな亀の子マークなど覚えて、何の役に立つかなと思うと思うけど、こういうことを学んでおかないと、知識のある悪意のある人に騙されるよ。」

「騙されないためには、勉強しておかないといけないよ。」

それは、あまり前向きじゃない動機ですけどね。

あとは、生きるために必要だという原始的な動機もありますね。高度に知識化された社会で生きるためには、勉強しておかなくちゃいけないよというのは、動機としてありますね。

最後に出てきた2つの教訓

・知識のある悪意のある人に騙されないために、自分で考える力をつける

・高度に知識化された社会で生きるための力を付ける

これらも、アクティブラーニングを考える際に、非常に重要なポイントだと思いました。

小河さんからお話をうかがい、アクティブラーニングをすること、主体的に学ぶことの意味が、これまで考えていたよりもたくさんあることに気づきました。そして、それが小河さんの経験に根差しているものであるところから、非常に説得力がありました。

「反転授業の研究」は、多様性のある森を育てることをコンセプトとして運営していますが、今回、インタビューさせていただいて、小河さんのように企業人として経験豊富な方がグループに加わっていることの恩恵を強く感じました。
勉強会でのお話が楽しみです。

第13回反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル」の振り返り

9月23日に実施した第13回反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル」には、多くの方が参加してくださいました。

福島毅さんが、ファシリテーションの概要をお話し下さったあと、溝上広樹さんがアクティブラーニングの授業実践におけるファシリテーションについて語ってくださり、参加者のみなさんは、それぞれ、感じることがあったようです。

参加者の皆さんの声をシェアすることによって、学びを立体的なものにし、理解を深めていきたいと思います。

【関連記事】

登壇者紹介 福島毅さん
熊本県立高校で生物を教える溝上広樹さんにインタビュー

第1部「ファシリテーションスキル」への感想

ファシリテーションに関して、いくつかの新しい試み、現状の修正点のアイデアをいただきました。早速明日の講義に適用してみます。ありがとうございました。
仕事の都合で途中からのオンライン参加となりました。
こういう機会を大切にしたいと思いました。
またの機会を楽しみにしております。
ファシリテーションについて少しイメージがわきました。
もう一度見直します。
反転授業に関してはまだ無知なところが多く、福島様、溝上様両名の発表がとても参考になりました。
ありがとうございました。
始めて参加いたしました。
スライドとチャットが凄い勢いで動いていくのに圧倒されましたが、とても参考になりました。
ただ、ファシリテーションについて、何となく分かったというレベルな気もするので、これからも勉強会に参加させて貰えたらなと思っています。
改めて、ファシリテーション、アクティブラーニングの(魅)力を感じました。お2人のお話、もっとゆっくり具体的に聞きたかったです。
とても内容が濃く、面白かったです。
後でビデオ等を見直します。そうでないと頭がパンパンです。ww
特にファシリテーションの内容は、アドラーの講師資格を持っているので、より身近に思えました。
溝上広樹先生のお話がとても参考になりました。
私も高校生物の中でアクティブラーニングや情報科学と倫理のような分野を取り扱うようにしていますが、その中での悩みを解決してくれるヒントが得られました。ありがとうございました。
貴重なお話を伺う機会を作ってくださいましてありがとうございました。残念ながら、今回は内容が濃すぎて(ついでに書けばチャットも魅力的過ぎて)殆ど頭に入りませんでした。後でゆっくり見直したいと思います。チャット欄にも書きましたが、25分でお話頂くのは無理がある内容が多いように感じます。何らかの形での反転学習の導入や、一回はお一人にしてゆっくりお話を伺えるようになるとありがたいな、と強く思いました。
溝上先生のお話は、授業実践だったので、自分の授業を今後どのようにしたら良いのかの示唆を得ることが出来ました。
すぐには活かせない諸事情も有りますが、忘れないようにします。|改めて動画を観直して、学びを整理したいです。
|宜しくお願いしますm(__)m
参考になりました。ありがとうございました。
ファシリテーションは日本ファシリテーション協会の研修に参加しています。教員はほとんどいなくて、とても刺激的です。企業は進んでいることを実感します。
初めてでしたので、流れについていくのが精いっぱいでした。
私は予備校の人間ですので、それとは異なる視点で指導をされている方の話を聞けたのは非常に面白かったのですが、なかなか内容がイメージできず、大変でした。
次回はもう少し勉強してから参加したいと思います。
21世紀型スキルに代表されるような力を学習者に提示するためにはファシリテーションを利用した授業が必要であるということを再確認できました。
ファシリテーションについてと、溝上先生の生物のアクティブラーニングについての報告が参考になりました。
短時間にエッセンスが詰まった講義はたいへん参考になりました。
プレゼンの量も多かったので、プレゼンに集中すると、質問コメントのテキストが負えなくなってしまいました。
あとで、じっくり観て、コメントできそうなところはフォローします。
ファシリテーションの基本を押さえることができました。教師に求められる4つの能力については、全く同感です。
生物のAL型授業は、自分も受けてみたいと思う内容で大変参考になりました。
発表の準備は結構時間を使いましたが、田原さんとのインタビューから今日の発表までを通して、自らとALを関連付けたり、振り返りを行ったりすることができて、それだけでも十分意味がありました。発表自体は、多少の緊張はありましたが、楽しかったです(笑)ありがとうございました!
福島さんの発表については、10月からの講座に参加させていただきますので、ゆっくり、しっかりと学ばせていただきます。
溝上さんの生物の授業は小林先生の影響が如実に現れていますが、あれを物理以外で実行するにはどうすればいいのか、を本当に悩んでいます。
是非、もっと話が聞きたいです。
ありがとうございました。
福嶋さんのファシリテーションについては何度か拝聴しているので復習になりました。溝上さんの実践体験はまた、新鮮でよかったです。柵の中で意見がどう走っていくかの絵が印象的でした。
福島さん、溝上さんそれぞれの持ち味が出たとても良い発表だったと思いました。福島さんの発表についてはもっと教えてもらいたいことがありました。後で資料見て動画見て確認したいと思います。
溝上さんの発表はAL型授業にした背景もはっきりと分かり、実践的な内容でとても参考になりました。こちらも後で資料見て振り返りたいと思います。
参加人数が多くテキストチャットが盛り上がったので、そちらを追いかけるのも大変でした。でもあれくらい活気があると参加者同士の学び合いもおきやすくよいと思いました。
人の動きの違いのパターンに本当にビックリしました。
私は、まず代表の方が話したらその人の話を一語一句聞きたいです。
自分に用事があるので。あと相手が誰に話しているのか方向を察知したら、それはちゃんと聞かなければいけない。そう考えるからです。
部門を深く学んでいる人には、ビデオ教材は頭にすでにある事であり、多分簡単すぎて、テキストを見るのは彼らにとっては退屈なんだろう。そう感じました。それから皆が善悪論の2軸で話しているとき、悲しくなりました。
計算に例えると、AとBは、それ自体で変化はしないので。
答えは別の所にあると思います。Cを探すやり方は、最初に「問い」がないと出て来ないと思います。Cはそもそも◎◎である。この場合のCは教育とは、もしくは平和とは。なので、出来ればそこから話し合いたい。
そんな風に感じました。

感じる話をしているとすれば、原理原則を
追わないと、答えは分析(WHAT)までで終わってしまうのではないか、
WHATの時点で何か行動を興せば、そのシステムは間違ったままではないだろうか。。。

チャットの勢いがものすごくて、プレゼンテーションと両方に集中するのに苦労しました。言われてみると、ファシリテーションとアドラー心理学には共通点が多いなと思いました。早稲田大学の向後先生が、教育工学とアドラー心理学と両方講演されているのも頷けると思いました。どんぐり教員セミナー、もう一度丁寧に見直そうと思いました。
アクティブラーニングの時に、グランドルールをきちんと伝えておくことは、リフレクションのためにも必要だということが良くわかりました。
私にとって今日の新しいキーワードは「LTD」です。
さっそく明日色々と調べてみようと思います。
毎回、こういう自分にとって新しいものに出会えるのもこの勉強会のいいところだと思います。*今日は推敲全くなしでベタッと書き込んでいます。すみません(^^;)
溝上さんの実践紹介が非常に具体的で、よく考えて計画して実行されているなということに深く感銘を受けました。まずは大きな「授業の狙い」→それを生徒の活動に落とし込むための「グランドルール」→それを実施するための諸介入・・・ということかと思いました。自分としては最低限、「考える」姿勢と「考えて解決策を見つける」という技術を何とか生徒に体験してほしいと思っていて、そのための一つの手段としてアクティブラーニングが使えるのでは、と思っています。ですが、まだ設計ができていない段階ですので、新年度には何か新しい一歩を踏み出したいと思いました。
録画を拝見させていただきました。
ありがとうございます。
ファシリテーション能力は今までも必要とされていたとは思いますが、それでも教師や生徒が持っていなくても大丈夫なものでもありました。
しかし、今後はそのスキルを身につけることが教師には必須になってくるだろうなと思いました。
大変有意義なセミナーでした。
両先生とも、説得力のある、濃い内容で嬉しかったです。

第2部 グループワークの感想

初めてツール使うので、ビデオ映らずで、音声だけ参加で残念。それと皆でツール調整に時間が意外にかかりました。
実際に会話した感想。。正直、各自言いたいことだけ言って終わった感じです。もう少し違いを顕著にだして、議論したかったような。。
でも、とてもよい企画で機構だと思います。お世話役の方は本当に大変かと思います。ありがとうございました。
同じ教科や同じ問題をかかえる先生と意見交換をしたかった。でも、明日からのエネルギーになりました。
私の勉強不足で、全く司会の役に立ちませんでした。せっかくの機会を無駄にさせたのではないかと、大変申し訳なく、残念です。

次、機会があればもう少し事前の準備をして、しっかりと行いたいと思います。

時間の関係で、課題の共有はできましたが、解決策の検討や提示までは到達できなかったかなと思います。その点がやや消化不良でした。
反転授業的に、先に質問(課題)を提示して、その解決策仮説を持ち寄って見たりするのもありかなと思います。
運営、いつも感謝しています。ありがとうございました。
いろいろ発言させていただき、ありがとうございました。
皆さんのご意見が参考になりました。
また参加したいです。
正直なところ時間が足りないという感想です。個人ごとの意見表明までで、議論までいかなかったのが残念です。次回は議論のウエイトを多くしてもらうと助かります。また、次回のインプットに本日の参加者の書き込みを使うと、発展的でよいと思います。このアンケートがインプットになると思いますが、テーマに対して、あらたにアンケートを実施するか、参加者は事前にレポートを提出し共有するなど、準備をすれば短時間でも意見交換ができるかもしれません。
全員がファシリテーター体験者でした。しかし、課題も多く、「問題解決型の場では思わぬ意見に振り回され、合意形成が難しい」「そもそも議論までいかない。みんなが本音を話してくれない」「お客さん相手のファシリテーションはうまくいくけど、部下との間の対立解消は難しい」などなどでした。また学力的な能力差が激しい集団でのファシリテーションはそもそも成立するのかといった疑問などもあり、議論が尽きない感じでした。やはりファシリテーターの在り方について問題意識は結構な人が持っているのだなあという感想です。
ファシリテーションスキルから、集団づくりに協議が進んだように思います。グループの作り方をどうすべきか考えさせられました。
本題から極端に外れてしまうことがあったので、開始時に共通理解としてのグラウンドルールを示しても良いのかなと思いました。しかしながら、短い時間でも多様な意見を伺えるのは貴重な機会で、新しい気づきもありました。
複数の高校の先生から出された、すでに構築された人間関係が円滑なコミュニケーションの障害になるという指摘が印象的でした。
大学でも、固定したグループでディスカッションを進めすぎるとそのような障害がでるので、できるだけ毎回別のメンバーになるように工夫します。ただし、グループでのディスカッションに慣れるまでは、コミュニケーションをとりやすい相手のほうが楽なので、導入仕立ての頃は友達同士でもいいと思っています。また、グループ型のALでは、学生(生徒)のコミュニケーションスキルも問われるので、それを高めるためのミニゲームも織り交ぜて、良いコミュニケーションについて考えさせるような機会も授業設計に組み込む必要があると思います。
最後にファシリテーションを務めていただいた田原さん、講師のみなさん、参加者のみなさんありがとうございました。
ボイスチャット参加の予定でしたが、ハード(ヘッドセット)の不具合でテキストにしました。発言はいろいろさせていただきました。
ID(ISD)、ファシリテーション、コーチング、カウンセリング(メンタルヘルス含)…学ぶべきことは多いと実感しています。

私は立命館の附属校にいます。授業内では「楽して点が取れる授業」が顧客満足度が高いのが現状です。「定期テスト(評定)」が内部進学をするための希望実現に対する最も大きなファクターだからです。保護者も「ここで何点取って…」と戦略立てに躍起になります。
「考えるのではなく、教えてくれる方がいい」の発想はこの点から出てくる場合が多いです。
企業人として、CSは大切です。長期的な学びより目の前の実利益になるポイントを…。いや、でも何とかしなければ!

ビデオ参加の人でそろえた方がやはり集中しやすくて良かったです。チャットの方にも気を使うのはやはり散漫になります。
傾聴力、対話力が使える環境になりましたが、時間切れで悩みを十分に聞けるまでにいたりませんでした。ファシリテーターは対話、議論の先を読むとか見越す力が必要なとあらためて気付きました。すると経験もないといけない訳ですね。
ルーム3でグループリーダーとして参加しました。
ちょっと司会者ぽくなってしまいもう少し自由な感じで話し合った方が良かったかな~と反省しています。私ばかりが質問してしまいました。
メンバーが多彩でとても興味深い人ばかりだったので、どんどん質問してしまいました。以前からよく知っているChieさんとはもうリラックスして質問してしまいました。ビデオチャットで何度も顔合わせしたりSNSで交流していると安心感があります。
参加者は、徳島大学ドイツ語講師のChieさん、マレーシアでメディア事業をしている中村さん、京都精華大学でゲーミフィケーションやファシリテーションを教えられているytsutsuiさんと私の4人でした。
2のファシリテーションの難しさで出て来た意見としては、どのタイミングで質問していいのか分からない、良い質問とは何かが分からない、学生の姿勢として授業は受け身が染み付いているのでファシリテーションをすることが難しい、いつも質の良いファシリテーションが出来ないなどがありました。
3のファシリテーションスキルを身につける事で日本がどう変わると思いますか?には、意見を出しやすい雰囲気が出来ると思う、などがありました。
私が参加者の背景についての質問を多くしたためにテーマについて議論が深まりませんでした。
もっとテーマについて話をしたほうが良かったかもしれませんが、私としてはビデオチャットは参加者の感想や意見をある程度自由に聞けた方が面白いかな、と思い今回はこのように進めました。
また次回メンバーが変わればやり方を変えてみたいと思っています。
ほとんど話せませんでしたが、参加された方々のキーワードが気になりました。ドイツは、私の憧れの場所で、日本が目指すべき所だと感じています。あの国のイメージは「生産論」と「真理」のバランスが取れている気がして好きなのです。全てはバランスが取れていないとシステムは絶対に崩れるはずなので、まず1番シンプルな三角形をスタートに、対話が始まると良いな。と考えました。私の中で、今の日本の教育システムは、
「感性」「理性」やはりこの2軸です。
本来システムは3角からなので、私はそこに「理性」「感性」「理性」
と問うています。日本の教育の鍵は「野生」にキーワードがあるんだ。
野生と感性は一緒にしてはいけない。そんな感じで思案中です。
精華大学の筒井さん(10年前からファシリテーション協会会員)中村さん(マレーシアのあの中村さん!)おなじみの松嶋さんという豪華メンバーで、もっといろいろお話がしたかったです。
全然時間が足りてない感じでした。
松嶋さんに結局司会していただいた形になってしまっても申し訳なかったです。それというのも、2人同時にしゃべるといきなり音の質が下がる印象だったので、なかなか自由につっこめなかったのです。ファシリテーションを自分でやる時のむずかしさは、毎回同じ質を保てない、学生が、聴く側にまわることに慣れきっていて、自分たちの力で正解を導き出すんだということになかなか気づかない、よい質問とはどんなものかがわからない、質問するタイミングが良くわからない、などが出ていました。日本がどう変わるか、は、もっと言いたいことが言いやすい雰囲気になるのではないか?と私は言いましたが、筒井さんなどの目で見ると、この10年間で学生のマインドセットやファシリテーションの手法の使い方も格段に進歩したと感じるとのことでした。
これは、今の学生は、(正しいファシリテーションが入れば)ずっとオープンに自分を表現できるが、それを私があまり感じられないのは、私のファシリテーション能力がまだまだだからなのかも(汗)

筒井さんがチャットボックスに貼ってくださっていたYouTubeの動画は、以前見たことがあり、江藤さんと、「いつか絶対に見学に行きたい!!!」と言っていたものだったので、お~~~~!ご本人だったのか!と感動しました。

*ちょっと今日は若干支離滅裂ですみません。色々と興奮さめやらずで(^^;)

福島さんのファシリテーションの「秘伝のたれ」とは?

田原です。こんにちは。
 
今回は、言葉で表すことが難しいことを伝えることに挑戦してみたいと思います。
 
みなさんは、
 
優秀なコーチ、
優秀なカウンセラー
優秀なファシリテーター
 
などと、対話したことがありますか?
 
僕は、彼らと対話した後、「心が大きな体験をした」という感覚がありました。
 
そして、そこで話したことが、ずっと心の中に残っていて、その影響で、自分の心が動くパターンが変化したという感覚がありました。
 
彼らから共通して感じたのは、
 
・自分を受け入れてくれているということ
・自分に興味を持ってくれているということ
 
これらによって、心の防御が外れてオープンになったときに、いろいろな質問・疑問について一生懸命、一緒に考えました。
 
そして、その問いに導かれるようにして、いっしょに見つけたものは、自分に行動パターンを変化させるほどのインパクトを、自分の心のメカニズムに与えたのです。
 
 
最初に経験したのは、ワールドカフェのファシリテーターであるシンガポール人のSamantha Tanさんの自宅にお邪魔したときです。
 
大きな円卓に座ってランチをごちそうになった後、ソファーに座りながら話をしました。
 
日本の教育のことや、自分自身がやっていることを話しているうちに、Samanthaさんから、いろいろな質問が投げかけられて、それについて考えたり、答えたりしているうちに、どんどん思考が深まっていく感覚がありました。
 
シンガポールからの帰りの飛行機の中で、自分がしてもらったことについて、ずっと考えていたのをよく覚えています。
 
 
このような「心の体験」が、オンラインでも起こるのかどうか。
 
それを試すために、小林昭文さんといっしょに、オンラインのアクション・ラーニングの実験を行いました。
 
ビデオ会議システムを使ったアクション・ラーニングで、「心の体験」ができるのか?

カウンセラーやファシリテーターの魔法が、オンラインでもかかるのか?

それを試してみたのです。
 
小林さんがコーチになり、チームでギュンター知枝さんの課題について、お互いに気づきを促す質問をするセッションを行いました。
 
その結果、やはり、「心が深い体験をする」ということが起こりました。

実験は成功でした。
 
オンラインでもできるという確信が生まれました。

 
 
前回行ったAL型授業のオンライン講座は、実験の成功を踏まえて、ビデオ会議システムとムードルでのフォーラムセッションをやる中で、アクション・ラーニングと同様の効果が生まれるように小林さんが設計しました。
 
 
講座を終了したあと、それが行動の変化につながった人が多かったことから、小林さんがオンラインに作った場が、力を発揮したのだと思いました。
 
 
このように、優れたファシリテーターは、場をデザインして、参加者に「心の体験」をさせることができます。
 
 
そして、それは、オンラインでも可能です。
 
 
今回の「ファシリテーションスキル入門」のメイン講師である福島毅さんも、また、優れたファシリテーターの一人です。
 

数多くの対話セッションや会議、ワークショップを運営している経験豊富な方です。
 
 
そして、前回のAL型講義のオンライン講座には、自ら、お金を払って、オンラインでの場創りについてのノウハウを学ぶほど、勉強熱心な方です。
 
 
だから、今回の「ファシリテーションスキル入門」で、福島さんがオンラインに作る場でも、参加者の気づく力が強まり、たくさんの「心の体験」が起こるのではないかと確信しています。
 
 
さらに、今回は、福島さんの合意形成に関する研究から生まれた、まさに「秘伝のたれ」ともいうべきノウハウも、参加者のみなさんに伝授します。
 
それは、
 
「合意形成が難しい場合のファシリテーションのやり方」
 
です。
 
 
それは、どんなものなのか福島さんに質問したのですが、
 
「口で説明しても、なかなか伝わらないものなんですよ。」
 
という回答が返ってきました。
 
 
ワークショップの第4週に合意形成が難しいテーマについて話し合ってもらい、その後、その経験を踏まえた振り返りを経て、福島さんから「秘伝のたれ」が伝授されます。 
 
 
僕自身は、この「秘伝のたれ」を理解することを、とても楽しみにしています。

きっと受講してよかったと思っていただけるようなものなのでは、ないかと思っています。(そうですよね。福島さん!)
 

本日(28日)24時が申し込みの締め切りです。
 
お申し込みはこちらから

ファシリテーションスキル入門の申し込みは本日24時まで

田原です。こんにちは。
 
今回、ファシリテーションスキル入門のオンライン講座の告知をして、とてもうれしかったのは、たくさんのフィードバックをいただけたことです。
 
講座に様々な都合で参加できない方も、応援のメールやメッセージを送ってくださり、それが、すごく力になりました。
 
講座にお申込みいただいた方からも、たくさんのメッセージをいただきました。
 
●江藤由布さん
 
ビデオでメッセージをいただきました。
 

 
●溝上広樹さん
 
田原さんの思いやアメーバ型組織に賛同します。さらに、ここに参加される福島さん、松嶋さんたちとも、また一緒に勉強したいと感じていました。

それでも、受講を決めるまでには正直なところ葛藤がありました。それは、主に2つの理由です。最大の理由は、時間の捻出です。
2学期からは、新しい授業形態にしたこともあって、まだ慣れないところもあり教材研究には追われています。夏休みとは余裕のレベル が全く違います。余裕を無くし、授業の質を低下させるわけにはい かないと思っています。しかしながら、ここについては具体的な学習方法や課題の内容が示されたことで、何とかなりそうだなという感覚が湧いてきました。理由の2つ目は、オンライン形態で演習を 行うとはいえ、ファシリテーションはやはり知識ではなくまさにスキル(技)という認識があったことです。
 
しかしながら、それもいわば逆説的に解消しました。それは、より良い学びになるかは、ひとつは自らの技を鍛錬し、どれだけこの学びのチームに貢献できたかどうかで決まるのではないかという思いです。
また、ファシグラを取り入れた授業を少なくとも今学期中には実施したいなと思っていたため、ホワイトボードミーティングについても自らの授業と関連づけをすることができました。 そして、最後の後押しは、松嶋さんの動画でした。ここでの学び、 新しい繋がり(出会い直し)は、まずは自らを豊かなものにしてくれることだろうということを、前回のAL講座から今までの自分を振り返り確信することができました。
 
本講座、たいへん楽しみにしています。どうぞよろしくお願いしま す。
 
●横川淳さん
 
生徒への質問の仕方(生徒がちゃんと「考える」ような質問)と、会議の運営の仕方(思っていることを出し合って、最後に議決したらその通りに行動するような会議運営)の両方の技術を向上させたくて、
受講することに決めました。
 
この度は貴重な場をご用意頂き感謝します。
どうぞよろしくお願いします。
 
●松本梓さん
 
はじめまして!病院勤務で薬剤師をしております。

「自分が受けたい医療を実現する」「私を育ててくれた医療業界に恩返しをする」ために、研修医、若手薬剤師、同世代の友人を対象 に積極的に教育にも関わって行きたいと考えていますし、実際に関 わる機会も増えてきます。
 
今回の経験を生かしてより深い学びの場を提供出来るようしっかりスキルを吸収したいと思います。
 
この度は貴重な場をご用意頂き感謝します。
どうぞよろしくお願いします。

●ヤシロエツコさん

ファシリテーターとなれるような知識を得る事により何か(内外ともに)を変えていかれたらと思っています。小さな会社を経営する上でも役立つ知識であると感じております。
 
●林 丈嗣さん
 
勉強しに来ました。
よろしくお願いします。
 
●小川靖子さん
 
オンラインでのこうした講座への参加は初めてですが、楽しみにしています。よろしくお願いします。
 
●中川耕治さん
 
講座の内容と、初体験の受講方法にワクワクしています。
よろしくお願いします。
 
●倉本龍さん
 
過去2回、途中でドロップアウトしてしまっています。
日曜日の夜は何かと用事が入ることが多い、 職場を移ったばっかりでバタバタしているなど複合的な要素がありましたが、業務が落ち着き、水曜の夜であれば大丈夫と思い、参加させていただきます。
よろしくお願いします。
 

皆さんの期待を感じて、講師も運営もモチベーションがすごく上がっています。

本日24時が申し込みの締め切りです。

お申し込みはこちらから
 
 
(追加)
 
江藤由布さんのアドバイスで、松嶋さんが講座紹介ビデオを作りました。
 
何度も取り直して、フィードバックをもらいながら、最終的に、このような形になりました。
 
僕たちも、みなさんのおかげで成長しています。
 
 
松嶋渉さんの講座紹介動画
 

 
 
(おまけ)
江藤さんが、講座をイメージできるような音楽つきイメージ動画を作ってくれました。感謝!
 

 
 
申し込み締め切りは本日24時です
 
お申し込みはこちらから

忙しくてファシリテーションを学ぶ時間が作れません

田原です。こんにちは。

ファシリテーションスキル入門について、たくさんのお問い合わせをいただいています。
 
その中で、一番多いのは、

「仕事が忙しいので、受講できるかどうか心配」
 
というものです。
 
夏休み中とは違って、授業が始まってしまったら、授業の準備や、様々な業務があって、いっぱいいっぱいの方もいらっしゃると思います。
 
実際、最初にお申込みいただいている方は、会社経営者など、教師以外の方で、時間に融通が効く方の割合がいつもよりも多いです。
 
受講してみたものの、ほとんど参加できなかったということだと、参加者にとっても、運営側にとってもよいことではないので、課題の量をはっきりさせて、判断できるようにしたほうがよいと思って、メイン講師の福島さんに、どのくらいの課題を課す予定なのか、うかがってみました。
 
 
Q.予習は、どのくらいの分量なのですか?

A.どんぐり教員セミナー、または、配布するパワポ資料を見て、関連する基本事項をおさらいするのが予習になります。

 見たことを一度、言語化しておくと頭に残りやすいので、
 
 「傾聴とは何ですか?」

 といった概念の確認などを課題に課す予定です。

 個人差はありますが、1週間につき30分程度の予習を課すつもりです。

Q.どんぐり教員セミナーやパワポ資料をスマホで見れば、隙間時間で予習を終えることができますね。

A.はい。昼食を食べているときとかにスマホで動画を見て、宿題に関するところを画面キャプチャしておいて、あとでMoodleに書き込むようにすれば、改めて別に予習時間を作らなくても大丈夫だと思います。

Q.復習は、どのくらいの時間ですか?

A.オンラインのセッションが終わった後に振り返りシートに記入してもらいます。これも個人差はありますが、15分くらいで終わる量にするつもりです。

Q.ということは、個人差はありますが、1週間で、講座に使う量は、30分の予習、90分のリアルタイムセッション、15分の振り返りシートということですか?

A.はい。それだけやれば参加義務を果たせます。あとは、余力に応じて、Moodleの相互コメントを書き込んだり、関連資料を読んだり、それは、個人の状況に応じてやってもらえればと思っています。

今回は、必ずやらなければならないという義務の部分を少なめにしています。
 

それは、多くの人に参加してもらいたいからです。
 

余力がある人には、それに応じて資料を提供したり、フォーラムで相互コメントして気づきを深め合ったりして、さらに学べるようにしています。
 
 
また、週に1回、松嶋ルームを開き、ビデオチャットでつながり、受講者同士での交流を深めることもやります。
 
 
前回のAL型授業のときは、ずっと4-5人の参加でしたが、最後のルームにはたくさんの人が集まり、3つのルームを開くことになりました。
 
 
AL型授業について興味のある人同士で、熱い話があちこちで繰り広げられ、宴会みたいになっていました。
 
 
僕は1時間ぐらいで抜けましたが、最後まで残っていた人たちは、なんと1時過ぎまで話していたとか。
 
 
それをきっかけとして、Facebookなどでつながって交流がはじまり、それぞれの活動を、お互いがエンパワーしています。
 
 
僕は、この状況をファシリテーションについても作りたいと思っています。
 
 
ファシリテーションスキルをオンラインで学んだ人たちは、そのあともFacebookなどで繋がって、いろいろな課題をシェアしながら、講座が終わっても学び合いを続けていくことでしょう。
 
 
それは、AL型授業スキルアップ講座が終わった後に起こっていることです。
 
 
もちろん、福島さん、松嶋さん、そして、田原も、皆さんと一緒に学び合いに加わります。
 
 
この講座は、そのような継続的な学び合いのチームを作るための場を提供するという意味もあるのです。
 
 
今日、Facebookの投稿を見ていたら、福島さんに会ったことのある人が、福島さんの印象を、

温和で知的、強い使命感を持っている人

と書いていました。これは、僕の福島さんへの印象と同じです。
 

声が大きい人が周りを従えていくのではなく、温和で知的、強い使命感を持っている人の周りに、自然に渦が広がるような社会にしたいです。

ファシリテーションスキルは、そのためのカギを握るものだと思っています。

本日(28日)24時が申し込みの締め切りです。

講座の詳細はこちら

松嶋渉さんにとってのファシリテーションを学ぶ意味

「反転授業の研究」の田原です。

10月1日から始まるオンライン講座「ファシリテーションスキル入門」の目的の一つは、ファシリテーションスキルを広めるためのコアチームを作ることです。

ファシリテーションスキルを身につけた人は、そのスキルを周りに伝えていくことができます。

その人を中心として、同僚やお子さん、生徒などのファシリテーションスキルが、高まっていくことでしょう。

チームのメンバーが直面する様々な課題を、チームでシェアして、みんなで解決策を探り、それを現場にフィードバックしていくことができれば、大きな力になると思います。

そのためには、参加者同士が、お互いによく知り合うことが必要だと思っています。

前回実施したAL型講座では、横山北斗さんによる「横山ルーム」が、メンバー間の親交に大きな役割を果たしました。

ビデオチャットでつないで、ほとんど居酒屋気分で、気楽に話すことで、親近感が増し、相互理解が深まりました。

今回の講座では、松嶋渉さんに、同じ役割をしてもらう予定です。

松嶋渉さんのインタビューはこちら

週1回開かれる「松嶋ルーム」で、日々感じているいろいろなことを気軽にシェアしながら、交流を深めたいと思います。

その松嶋さんに、ファシリテーションを学ぶ意味についてうかがっていますので、紹介します。

「でもこんなことやって何になるんですか?」

とか

「それは無理だと思います。難しいです」

そのようなネガティブな発言が会議やアクティブラーニング中にあった時、以前であればその発言に失望し、あまり相手にしたくないな、と思う自分がいました。

時にはカチンときて、相手を論破してやろうする自分もいました。

相手の事を悪く思う自分もいました。

しかし、今では少し違う捉え方が出来ています。

発言というのは、現象です。

その人の背景や考え方・思想・感情などとその場のやりとりとが混ざって
出て来る現象です。

・なぜその人はいまそういった発言をしたのか?
・その発言に対して自分はなぜこういう反応を感じるのか?
・いまのこの会議の目的は何なのか?
・相手にとって大切な事は何なのか?
・自分にとって大切な事は何なのか?
・お互いにとって大切な事は何なのか?
・どうすれば良い解決方法が得られるだろうか?

また相手という「人」でなく「コト」にフォーカスすると別の見え方も出来てきます。

今ではそのように考え相手に対してニュートラルな気持ちで

「もう少し詳しく教えて下さい」

とか

「いまはそのように感じられているのですね」

など批判・禁止せずに承認・発問することが出来るようになり、相手自身に気づきを与える事が出来たり場を安心・安全に運営する事ができるようになりました。

このような考え方を身につけるためには、もちろんたくさんの経験が必要ですし、元々持っている資質も大きく関係してきます。

しかし単に体験的に習得しているだけでなくてその理論的裏付けも持っていれば自分のやっていることを客観視でき余裕を持って解決方法を模索していく事ができます。

ファシリテーションスキルである傾聴・承認・観察・メンタルモデルやメタ認知などを体得することで自分の活動の幅が広がっていると感じています。

松嶋さんの言葉は、1年前にの自分には、もしかしたら理解できなかったかもしれません。

僕は、まさに、「カチンと来て、論破してやろう」と思ってしまう傾向があったので。

ファシリテーションを学ぶことで、僕自身も松嶋さんと同じように、感情的で反射的な反応を、ひとまずやり過ごし、承認・発問へつなげることが少しずつできるようになってきました。

そして、その結果、以前の自分では、全くできなかったタイプのコミュニケーションが、少しずつですが取れるようになってきました。

その経験を振り返ってポジティブに捉えたことで、今、ファシリテーションをもっと学びたいという意欲が湧いています。

そして、同時にファシリテーションのスキルを多くの人に広げていきたいと思っています。

講座の申し込み締め切りまであと3日。
20名に達した段階で締め切ります。

ファシリテーションスキル入門

教師がファシリテーションを学ぶ意味

田原です。教師がファシリテーションを学ぶ意味について、自分の経験をもとに考えてみました。

私は、茨城県日立市という工場労働者が多くを占めるという環境で育ちました。中学校になると細かい校則がたくさんあり、それを守るように厳しい指導がされていました。一方で、部活内での上下関係や暴力、教師による体罰なども日常的で、ルールを守るということを、体に染み込まされたような感覚があります。
 
このような教育を受けると、「ルールを逸脱することを恐れる」「まず、ルールを参照して動く」という思考パターンが育ちやすいと思います。優等生であるほど、その傾向が強くなると思います。
 
40歳を超え、311を経験し、上から降ってくるルールについて批判的に検討し、必要であればルールを変えていくために行動を起こすことが必要だと感じるようになりました。
 
社会人として、自分の頭で考え、意見を表明し、行動しようとしたときに、自分が受けてきた教育、そこで刷り込まれた感情パターンが行動を妨げることに気づきました。
 
意見を表明することは、ときには周りとの違いを明確にすることにつながり、感情的な対立を生み出します。そのときに、その対立をどのように解消したらよいのか分からないため、対立が生まれるのを避け、行動を躊躇するという状況がありました。
 
考えてみれば、これまでは、その場のルール、または、暗黙のルールに従って行動してきたので、それらに反する行動をすることに抵抗感があり、また、ルールを根拠に批判されるような気がしたのです。そして、そのような形で対立した場合、どのように解消すればよいのかが分からないため、その恐れを解決することが難しかったのです。
 
そんなとき、ワールドカフェや対話と出会い、考えの違いを、対立ではなく、生成や創造に結び付けていく方法があることを知りました。
 
それらの方法を学び、ときには失敗をしながら、多くの人と対話を重ねていくことで、対立することに対する恐れが減り、プロジェクトを組んで創造的な仕事に取り組めるようになってきました。
 
今では、国境を超えたプロジェクトも行っています。
 
オープンマインドになることが、少しずつできるようになり、自分が自由であるという感覚を持つことができるようになってきました。
 
実際にプロジェクト型の仕事をするようになり、教育現場で言われている21世紀型スキルの必要性を、肌で感じることができました。
 
この経験を通し、10代、20代のうちに対話のスキルを身に付けることの重要性をヒシヒシと感じています。
 
私が、反転授業やアクティブラーニングに感じている可能性の1つは、生徒が、対立を恐れずに自分の意見を表現できるようになる点です。そのためには、安心安全の場を教師が作り、対立が起こったときに、それを対象化し、お互いが争うべき敵ではなく、対立の理由を探求して学びあう仲間になるという経験をさせる必要があると思います。
 
そのような経験を通して、生徒は、対立することを恐れる必要がないことを学び、対立を相手と協力して解決できた経験により自己効力感を増し、学ぶ意欲を強めていくのではないかと思います。
 
これは、共通のルールが存在しないグローバルな活動において、将来、非常に役立つ力になるはずです。
 
生徒に効果的に対話力をつけるためには、まず、教師自身が対話力を磨くこと、そして、生徒が対話力をつけることを支援する方法を学ぶことが重要だと思います。
 
つまり、ファシリテーションのスキルが必要になります。
 
反転授業に1年半前から関わってきて、様々な思考の断片が少しずつつながり、クリアになってきました。
 
多くの皆さんと、対話とファシリテーションについて、学びあいたいです。
 
皆さんの参加を心よりお待ちしています。
 
 
9月23日21時から反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル」お申し込みはこちら(どなたでも無料で参加できます)

熊本県立高校で生物を教える溝上広樹さんにインタビュー

熊本県立高校で生物を教えていらっしゃる溝上広樹さんは、授業をアクティブラーニング形式で実践されています。

溝上さんが、なぜ、アクティブラーニングを導入するようになったのか、背景を探ってみました。

子どものころから「先生になること」が、ずっと頭の中にあった

溝上さんは、子どものころは、何になりたかったのですか?

小、中くらいまでは先生になりたいと思っていました。高校に入ってからは柔道に打ち込んでいて勉強から離れていたんですが、ずっと先生というのは頭にありました。

大学に入ってからは、生物の研究を続けたいという気持ちも生まれてすごく迷いました。でも、いつか先生になりたいという気持ちがあって、結局、研究者にはならずに先生になりました。

溝上さんは、生物で博士号をお持ちじゃないですか。博士号とってから教師を選ぶ人って珍しいですよね。それは、研究者になろうか、教師になろうかと迷っていて、そこまで行ったという感じなんですか?

好きなことに出会ったんですよ。大学生になったときには、生物に幻滅したんです。生物を学べば自分が疑問に思っていたことが解けるのかと思っていたのですが、分子生物学が主流で、イメージしていたものと全然違いました。それで、文学部に転部しようかと思っていたりした時期もありました。ところが、大学3年生のときの授業で化学生態学というものに出会いました。これは、化学物質を使って植物や昆虫の関係を記述するものです。こういう学問があることを知って、とても興味を持ちました。でも、熊本大学には化学生態学を専門にしている先生がいなかったんです。それで、植物生理学の先生に相談したところ、「ウチは分析はできるから、やりたいならやってもいいよ」と言われたので、自分で勉強しながら研究しました。昆虫を専門にしている先生のところに行ったりとか、学会とかに行って勉強して、自分で主体的に勉強していたので楽しかったです。

自分のテーマで分からないところがあったので、それを形にするまでは研究したいなと思い、納得する形まで続けたらドクターまでやることになりました。

指導教官の指導なしで、自分で研究して、博士号を取ったんですね。すごい!研究は、納得できるところまでやることができたんですね。

そうですね。1つクリアできたかなという感じです。

中学の教員免許も取っていたし、そのときも塾の先生をバイトで続けていて、教員というのはずっと頭の中にありました。

僕の場合は、大学3年生のときにカオス理論に心打たれて、これを研究したいと思い、指導教官が提示したテーマを断って形態形成とか自己組織化というテーマへ進みました。それで、指導教官の指導を受けられなくなって(笑)、ドクターを中退するまでほとんど指導なしで続けたんです。その一方で、大学院のとき、中学と高校で数学の非常勤講師をやって、生活費と学費を稼いでいました。教育と関わりを持ちながら生物を研究していた点が同じで、とても親近感を持ちました。

そうですね。近いですね。

僕も経験したのでよく分かるのですが、大学院で指導を受けずに一人で研究して博士号を取るということは、自分のやりたいことと、アカデミックの世界で起こっていることの両方について考えたり調べたりしながら、制限時間内に成果を出さなくてはならないので、とても大変なことです。かなり主体的に動かないと不可能です。その主体性がどのように育まれたのかを知ることが、溝上さんを理解する鍵になると思いました。

小学3,4年生のときに受けたアクティブラーニング型授業

お話をうかがうと、溝上さんの場合は、先生という職業がずっと心の中にあり続けたと思うんですよね。それだけ、先生になりたいと思うようになったきっかけは何だったのですか?

小学校3,4年生のときの担任の先生の授業がとても印象的で、それが原点になっています。

当時そんな言葉があったかどうか分かりませんが、アクティブラーニングをやっていました。社会が専門の先生で、グループで話し合ったりして、みんなが一生懸命発言しながら授業が進んでいくというものでした。毎日、学校がすごく楽しかったですね。

すごいですね。2年間アクティブラーニング型の授業を受けたという経験が、ずっと溝上さんに影響を与えているんですね。主体的に学ぶのが楽しいという経験は、大学院時代に自分でどんどん学んでいったということにも影響しているんですか?

間違いなく影響していますね。

そうなんですね。アクティブラーニング型の授業を受けるという経験が、人生に与える影響って、すごく大きいんだということを溝上さんの例から感じて、やっぱり、AL型授業をやることは重要だと、改めて思いました。

確かにそうですね。その小学校の先生とは、今も交流があるので、当時、何を下敷きにしてあのような授業をされていたのか聞いてみたいですね。

当時、AL型授業をされていた先生は、他にもいたんですか?

いなかったと思います。自分でどんどん研究授業を組んで、他の先生が見学に来ていました。

実際にAL型授業をやるようになると分かりますが、背景知識とか、思想とかがないとできないですよね。

自分がやるようになって、改めて、あの先生は、相当研究されていたんだろうなと思いますね。

今、溝上さんの授業を受けている生徒も、溝上さんのAL型授業から衝撃を受けて、それが将来につながっていくということも出てくるんじゃないですか。

そうなるとうれしいですね。

溝上さんの話は、AL型授業をされている方に大きな希望を与えるものだと思います。小学生の時に受けた2年間のAL型授業が、溝上さんの学ぶ態度に影響を与え、それが、主体的に学び、主体的に働くという生き方につながっているのですね。今、私たちが取り組んでいるAL型授業が、生徒の将来にどのように役立つのか、溝上さんの例からはっきりとイメージすることができました。

アクティブラーニングを始めたきっかけ

溝上さんは、高校の教員になって何年目ですか?

6年目になります。

最初に先生になったころは、どんな授業をされていたんですか?

普通のone wayの授業をしていました。結構、クラスを鎮めるのが大事という感じで、静かに、でも、寝せないように、いかに授業をするか。それを目指して頑張っていました。

ただ、一番最初の研究授業では、班別学習をして、発表し、クラスのフィードバックをもらって自己効力感を向上させようというようなことをやりました。

今から考えると、下敷きにしたものがなく、自己流だったので、いろいろ問題があるんですけど、そういうのがやりたかったという気持ちは当時もありました。

一斉講義型の授業をしていて、どんなことが課題だと感じていましたか?

そのときは、本当に力がついているのかなということを心配していました。進級しなくちゃいけない子とかは、最後はクラスに残らせて、一緒に覚えさせて、点数を取らせて進級させていたんですが、卒業後は、そういうのは全部忘れているんだろうし、
その子も、形だけで卒業したんじゃないかということを思っているんじゃないかと思うんですよ。それが、本当に良かったんだろうかと思うことがあります。

あとは、はじめて1年から3年まで担任を持ったときの経験がきっかけになりました。その学校が閉校する学校だったので、広いところからいろいろなレベルの子が集まっていて、進級ギリギリの子もいれば、国公立大学に入りたいという子もいて、その子たちをうまく授業内で交流させられなかったという後悔が残りました。それが、自分の中に引っかかっていたんです。

アクティブラーニングに授業スタイルを切り替えたのはいつからですか?

去年の2学期からです。

何がきっかけでアクティブラーニングに取り組むことになったのですか?

キャリアガイダンスに載っていた小林昭文先生の記事を読んで、これはすごいなと思ったことです。ちょうど夏休みだったので勉強しました。アクティブラーニングというキーワードでは情報があまり出てこなかったんですが、協同学習だとやっている方がいらっしゃったので、調べて勉強しました。それから、小林先生のブログをチェックするようになり、秋に小林先生が熊本で知り合いの先生に会うという情報をブログから得て、小林先生にメールを送りました。

「どなたが実践されているのですか?私に教えてください」

とお願いしました。そしたら、小林先生から学校の職員室に電話がかかってきて、夜の食事会に同席してお話をさせていただきました。そこからが本格的なスタートです。

僕も小林先生にメールしたのが、アクティブラーニングのスタートだったんですよ(笑)。

小林先生は、すごいですね。

日本全国を回って、いろんな人を繋いでいますからね。すごいですよね。

キャリアガイダンスの小林先生の記事を読んだ教師というのはたくさんいたと思うんですけど、実際に小林先生にメールしたり、行動を起こしたり、AL型授業を始めたりという方は、全体からするとほんのわずかだと思います。行動を起こそうと思ったのは、どんな気持ちだったんですか?

これは、大変そうだけど、実践してみたいなという気持ちがありました。あと、面識がない方にコンタクトを取ることは、大学院生のときによくやっていたので、行動を起こしやすかったというのはあったと思います。

One Wayの授業をしながら感じていた課題を、アクティブラーニングが解決できそうだと思った後の溝上さんの行動の速さに感動しました。そして、そのような積極的に動いて学ぶという態度は、大学院生のときに主体的に学んだ経験によって養われていたということが、非常に重要な意味を持つように思いました。

小林先生の記事を読んで、ここからスタートすればいいと思った

お話をうかがって、溝上さんにとっては、教師のイメージの原型みたいなものって、小学校3,4年生のときの担任の先生なんじゃないかと思うんですが、小林先生の授業は、それと近いと感じましたか?

そうですね。それと近かったんだと思いますね。

とうことは、そういうイメージの原型はあったけど、最初のころの溝上さんの授業は、そのイメージとダイレクトに繋がっていなかったわけですよね。でも、小林先生の授業のことを知ったときに、「これだ!」と思ったというのは面白いですね。

たぶん生徒主体型の授業をしたかったんですけど、何をとっかかりにしたらいいのか分からない状況だったんです。でも、小林先生の記事を読んだときに、ここからスタートすればいいんだと思いました。

それで、アクティブラーニングとか協同学習とかを勉強し始めて、いろんな先生方とつながって、今に至ります。

研究をしているときには、うまく言葉や形にはできないモヤモヤしたものを頭の中にいつも置いておくと、あるとき、それにピッタリのものが見つかって、「これだ!!」と思うことが何度かありました。そういう経験を持っていると、時間をかけてアイディアを熟成していくことができるのではないかと思います。溝上さんがアクティブラーニングと出会うことができたのも、モヤモヤとしたイメージをずっと持ち続けていたからではないでしょうか。

溝上さんの授業の枠組み

授業の枠組みは、小林先生の枠組みを下敷きにして始めたのですか?

下敷きにしたんですが、生物と物理とでは教科の特性が違って、完全に下敷きにすることはできませんでした。小林先生のように、問題をいきなり与えてやらせるスタイルというのは難しいと思いました。それで、ずっとあえいでいました。

それで、とりあえず探求型に近い授業をやっていました。記述をさせたり、考えさせる問題をだしたりしていました。そういう形で迷いながらやっていたんですが、今年の4月に学校が代わり、悩んでいたところを夏休みにAL型授業のオンライン講座で勉強することができたという感じです。

アクティブラーニングをやってみて、生徒の反応はいかがですか?

クラス40人いて、その中で一人二人は、今までのやり方がいいとか、話したくないとかいう子もいますけど、全般的に悪くはないです。多くの子は、ただ聞くだけじゃなくて、友達と話したり、学び合いしたりというのをしたいと思っているようです。

新任校では、知識も入れなくちゃならないし、アクティブラーニングもやりたいということで、1学期は、知識を入れるところは一斉講義型にして、探求型の学習をアクティブラーニングでやっていたということですか?

そうですね。あとは、問題演習をさせるときに、確認で話し合いをさせたりしていました。

夏休みに、小林先生がメイン講師でAL型授業実践者のためのスキルアップ講座をオンラインでやりましたよね。あのときに、溝上さんが、「授業のやり方が分かった!」という感じになって、感謝の気持ちを表すためということで、みんなにコメントして回っていたじゃないですか。あのとき、何が「分かった」のですか?

生物の授業の中で、小林先生のように問題を解かせて話し合わせるようなことをやるのは難しかったので、理解が深まっていくような活動をどこでさせるかなというところで、すごく悩んでいたんですけど、教科書の内容理解を話し合わせればいいんだなというところがつかめたんです。

どうして教科書の内容理解に着目したのですか?

生物の問題を解くのは、一度勉強しておけば、一問一答式でどんどん答えられるのがほとんどなんですが、教科書の内容理解は、子どもたちが考えたりとか、内容を理解できない子がいたりとかしていたので、ここに学び合いが起こるなとひらめきました。授業の一番中身になる部分のアイディアが湧いたので、うれしかったです。

新しい授業の枠組みで、もう何度か授業を行っているのですか?

1週間やったところです。

感触はどうですか?

やってみて気がついたのは、学年によって任せることができる量が変わってくるということです。3年生は、こちらが解説をしなくても子どもたちだけで結構やれるんですが、2年生に同じようにやると、「先生の解説がほしい」とかいう言葉が出てきます。
安心安全の場を作るということもあるので、不安にさせないように、もうちょっとこちらで説明するようにしました。1年生の場合は、任せられる量がさらに少なくて、そういう調整が必要だなと思いました。

夏にひらめいたことは、うまくいきそうなんですね。

そうですね。

溝上さんの授業についての姿勢は、すごく「研究」と近いように感じました。ある仮説を立てて授業を行い、その結果を分析、考察して、課題を洗い出して、それを解決するための方法を、粘り強く考えていくわけです。そして、他の人の話をたくさん聞いている中でひらめいたんですね。こういう瞬間は、授業を実践する者にとって、一番快感を感じるところだと思います。

「科学者になる」について

小林先生は、「科学者になる」ということを大目標においていますが、溝上さんの場合は、目標をどのように設定しているんですか?

夏休みに講座を受けて、学習目標をちゃんと立てないといけないなと思って、協同学習の中で、「メンバーの力と心を合わせて、自分とチームのために一生懸命頑張る」というような目標を与えています。もう1つは、小林先生の「科学者になる」という目標に対応するものなんですが、自分の中で反芻していて、これは、どういう意味なんだろうかって思っていたんです。本当に科学者になるわけじゃないんだけど、どういうことなんだろうと考えていました。それで、「科学者の視点とスキルを手に入れる」ということだと解釈しました。それで、たとえば、「自分は子どもを病院に連れて行ったときにこんなことがあって、よかったよ。」という話をしたりしています。

あれは、どういう意味なんでしょうね。

科学者になるというのは、考えてみると深いなと思います。答が決まっていないのを、みんなで話し合いながら探求していくのも科学かなと思ったりして。この部分は、自分でもうまく説明できないので伝えていないんですけど。

最近、キャリア教育についての本を読んだりして勉強していたんですよ。小林先生が、「教科の中のキャリア教育」ということをブログに書かれていたのを読んで、「キャリア教育」について考えたいと思ったんです。将来なりたいものを見つけて、それを目指して学習意欲を高めるというのはイメージしやすいけど、そんなに単純なものかなと思っていたら、児美川孝一郎さんの『キャリア教育のウソ』を読んで、変動が激しい社会においては、なりたいもののために学ぶというのはリスクが大きいので、好奇心を持って、いろいろチャレンジする態度を育てるほうがよいのではないかと思い始めました。自分自身の働き方を考えてみても、予定通りに行ったというよりは、いつも種を5-10個くらい撒いておいて、芽が出たものにリソースをつぎ込むという感じです。これは、研究をやっていたときにやっていたことと似ているんですよ。研究をしていたときも、テーマになりそうなものをいつも探していて、自分なりの仮説を立てて、行けそうだと思ったら時間と労力を注ぎ込むという感じでしたから。それで、もしかしたら、知識基盤型社会に適応するためには、科学者としての態度が必要なのかもしれないと、つい最近、ひらめいたんです。

それ、授業で使えそうです(笑)。

溝上さんの場合は、小学生のときにAL型授業を経験したことをきっかけに、自分から主体的に学ぶ楽しさに目覚めたことが大きかったのだと思います。そして、大学院のときに仮説と検証を繰り返し、積極的に動き回って情報を集めて、自分で突破していくスキルと自信を身に付けたのではないでしょうか。まさに、溝上さん自身が、「科学者としての態度」を身に付けたのだと思います。その結果、博士号も取得し、教師になってからも積極的に新しい授業に取り組んで、小林先生にアクセスしたり、オンライン講座に参加したりというように積極的に動き、そこからの刺激を取り入れてどんどん授業を進化させています。僕は、溝上さんのような方は、研究者になっても成功しただろうし、他の仕事をしても成功できると思います。また、この先、時代が変化して、教師の役割が変わっても、そこで新しいやり方を見つけていけると思います。小林先生の「科学者になる」という禅問答のお題の答が、溝上さんという具体例を通して、理解できてきたように思いました。

ファシリテーションについて

ファシリテーションについてもうかがっていいですか?アクティブラーニングをやっている授業中は、どんなことを考えているんですか?

チームで解決する力とか、自分で解決する力をつけさせたいなと思っているので、必要以上に介入しないようにしています。できるだけ内容には介入しないようにしています。学習に参加していないような子に対しては、個別に介入していますが、できるだけ、話が終わった後に全体にフィードバックするようにしています。

今は、グランドルールを確認させるような介入をしようと思っています。

小林先生のやり方だと、質問による介入によって主体性を引き出すような感じじゃないですか。溝上さんは、質問による介入についてはどのように考えていますか?

難しいですよね。迷っています。最初は、質問による介入をしまくっていたんですが、できれば、それも含めてチームの中でどうにかしてほしいなという気持ちが生まれてきました。高校の授業は週に3-4回あるので、生徒と結構関われるんですね。それを考えると、長いスパンで見て、チームでどうにか解決できるようになっていってほしいなと思って、介入の量を減らしています。ただ、必要に応じて質問による介入はしていかなくちゃなとも思っていて、全然介入していないわけではないです。

僕も、同じところで迷っていますね。質問を出すことによって、理解を深めたいという気持ちもあるんですよね。でも、独立した学習者ということを考えると、そういう疑問も自分で出してほしいという部分もあるじゃないですか。長いスパンで見られるのであれば、そういうところも見守っていくというのもあるかもしれませんね。

話し合いをするときに、押さえてほしい内容というのをプリントにまとめているんですが、疑問形式で与えているんですよ。「恒常性とは何ですか?」みたいな感じで。

ある意味、プリントが質問による介入の役割を果たしているんですね。

それをイメージして作っているんですが、今のところは、子どもたちが、自分が説明するのにいっぱいいっぱいで、うまく活用できていないですね。

ただ、段階を踏んで、最終的にはジグソー法も外したいと思っているんです。自分たちで自由にやれるようになってほしいなと思っているんです。

子どもたちの話し合いのスキルが上がってきて、ジグソー法を外しても、うまく話し合えるようになってきてほしいということですね。

そういうイメージです。最初はかっちり形を決めてやらせて、その中で力をつけていって、最終的には、その方法を取らなくてもできるようになってほしいなという思いがあります。

AL型授業の枠組みというものがきっちり決まっているのではなく、生徒の発達段階によって、強い枠組みから弱い枠組みへとだんだん枠組みを減らして自由を与えていくという考え方は、とても参考になりました。「学年によって任せることができる量が変わってくる」という話も少し前に出ていましたが、これも同じ考えに則っていると思いました。生徒の状況をよく観察しているという印象を受けました。

教室環境について

ブログで、理科室の机の位置を2時間かけて移動したと書いていましたが、配置を変えるとずいぶん変わるんですか?

はい。変わりましたね。グループにしたときの距離が近いので、話し合いがしやすくなりました。心理的な距離と物理的な距離は相関があるという話を聞いて、そうかもしれないなと思って机を動かしました。あと、あの形にすると個人で活動するときに周りと離れて視界に入らないんですよ。個人活動も集中してやれるんですよ。だから、個人でやるときとグループでやるときの切り替えが、あの形だとすごくしやすくて、予想以上に効果あるなと思っています。

ファシリテーションってグループ活動を行う上の支援一般じゃないですか。プリントとか机の配置とか、いろいろ含まれると思うんですよ。他に何かきをつけていることはありますか?

温度管理ですね。理科室はクーラーが入っていないので、準備室のドアを開けて、冷気をあらかじめ入れておくんですよ。学びやすい環境を作ってあげたいなと思っています。

あとは、教科通信です。リフレクションカードであがってきたコメントや疑問、気づきを全体で共有したり、グラウンドルールの意味などを説明したりするためのツールとして毎週1回発行しています。

今、『教育研修ファシリテーター』という本を読んでいて、ファシリテーターは、照明やカーテンの開閉、空調、BGMなどにも注意を払わなくてはならないというところが出てきて、目からうろこだったのですが、溝上さんからも温度調節の話が出てきたので、印象が強まりました。

溝上さんが興味を持っていること

溝上さんが、今、興味を持って学んでいることは何ですか?

実は、反転授業ですね。

動画とかは?

実は、作ってQRコードで上げたりしています。反転授業の研究で一緒の横山北斗さんと松嶋渉さんにやり方を教えてもらいました。

その動画は、どのように使っているんですか?

全員がスマホを持っているわけではないので、授業の進行で必要なところには使えないのですが、理解が難しいところを解説してあげています。

サプリメント的に、使っているんですね。

そうですね。今のところは、授業でガッツリ使うというわけにはいかないんです。

教えた生徒が、将来、こうなってほしいというのは?

生物を受けている子たちは、ニュースとか情報とかを自分で判断できるようになってほしいです。ちゃんと考えられるような子になってほしいです。

好奇心が強く、いろいろなことにチャレンジする溝上さんが、反転授業に興味を持たれたのは、必然的なことだったかもしれません。新しいツールが手に入ることによって、可能性が広がり、アイディアも膨らむはずです。溝上さんから、今後、どのようなアイディアが生まれてくるのか、とても楽しみです。

9月23日21:30から実施する反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル」で、溝上さんが登壇します。

詳しい内容はこちら

コーチングにおける傾聴の重要性

田原です。
こんにちは。
 
僕は、高校野球のコーチを5年ほどやっていたことがあるんですが、ある程度、教えていくと壁にぶつかるんです。
 
バットを長く持つとか短く持つとか、足を上げるとか上げないとか、そういう一つ一つの動作には、その子なりのこだわりがあるので、こちらから見て、欠点を直そうと思って上から、こうしろああしろと言うと、そのときは、「はい!」といって変えるんですが、すぐに元に戻してしまいます。
 
これは、コーチをやっているときに感じていた悩みでした。
 
みなさんも、同じような経験ありませんか?
 

 
あるとき、練習後に、思い立って生徒からいろいろと話を聞いてみると、僕が考えていなかったようなことを、考えていたりするわけです。
 
「短く持つとバットが手から滑りそうだから、長く持っている」
  
「足を上げないで打っていたらタイミングが取れなかったのが、上げたら取れるようになったから、これだと思った」
 
とか、生徒なりのこだわりがありました。

それに対して、
 
「なるほどねぇーー」
 
と話を聞くと、そのことによって、関係性が変わってきて、こっちのアドバイスも聞いてくれるようになりました。
 
 
田原コーチは、自分の言っていることも分かった上でアドバイスしているんだというように思ってくれたようでした。
 
 
相手の気持ちをいったん受け止めるということが、コーチングをする上で、とても大切だということを感じた体験でした。
 
まあ、これは、たまたまうまくいった例で、指導に失敗したケースもたくさんあります。
 
 
今日、ご紹介する福島さんの動画では、「傾聴」がテーマです。
 
この動画を見て、野球のコーチ時代のことを思い出しました。
 
動画をきっかけに、自分のこれまでの体験を振り返り、言語化すると、何をやったらよいのかがはっきりしてきます。
 
こちらの動画、ファシリテーション・コーチングスキルを学ぶ上で、とても参考になります。 

どんぐり教員セミナー「傾聴とは」
 

 
 
9/23に反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル」を実施します。
詳しい内容&お申し込みはこちら
 
10/1からオンライン講座「ファシリテーションスキル入門」を実施。福島毅さんをメイン講師に迎え、1か月間のオンラインワークショップを行います。
詳しい内容&お申し込みはこちら

ファシリテーション・コーチングとは

田原です。こんにちは。

9月と10月は、ファシリテーションをテーマに学んでいききます。

第13回の勉強会でお話しくださる福島毅さんが、どんぐり教員セミナーという教員向けの研修動画シリーズを作成されていますので、それを参考にしながら、ファシリテーションスキルについて基礎から学んでいきたいと思います。

本日、参考にする動画はこちらです。

「ファシリテーション・コーチングとは」

授業を行うためのスキルとして、次のようなものがあります。

1)授業デザイン

2)授業つくりの基礎
 ・教材準備
 ・指示や説明
 ・ICT機器活用など

3)ファシリテーションやコーチング
・対生徒、生徒間のコミュニケーション
・対話や双方向の学習アプローチ
・能力発見・開発

反転授業やアクティブラーニングでは、生徒間のコミュニケーションが授業に入ってきますので、それがスムーズに行われるように支援する必要があります。

また、生徒の主体性を引き出すために、どのように働きかけたらよいのかを知っておく必要があります。

教師の役割が、壇上の賢人から寄り添うガイド役へと変わることで、必要とされるスキルが変わってくるのです。

そのときに必要となるのが、ファシリテーション・コーチングスキルということになると思います。

福島さんは、動画の中で、現在、生徒に求められている能力について、OECDのキー・コンピテンシーや、21世紀型スキル、文部科学省の「生きる力」企業からの要請などを例に挙げて説明されています。

そこでは、生徒がコミュニケーションスキルを伸ばすことの重要性が強調されています。

では、生徒のコミュニケーションスキルを伸ばすために、教員にはどのような能力や姿勢が必要とされるのでしょうか?

福島さんは、次の4つを挙げています。

1)コミュニケーション

2)ファシリテーション→「集団の場をつくり支援」

3)コーチング→「相手の良さ、潜在能力を引き出す」

4)リフレクション→「自分の行動・考えを内省し、将来に生かす」

詳しくは、福島さんのどんぐり教員セミナーをご覧ください。

9月23日(火)21:30より、ファシリテーションスキルをテーマにオンライン勉強会(無料)を行います。
 
ファシリテーションに興味のある方は、参加してください。
 
詳しくはこちら

第13回反転授業オンライン勉強会「ファシリテーションスキル」

反転授業やアクティブラーニングでは、教室活動において、生徒が主体的、能動的に学ぶことが重要になってきます。

そのために、教師は、どのような働きかけをしたらよいのでしょうか?

一斉講義型の授業とは違ったスキルが必要になってきます。

生徒がグループ活動を円滑に行うことを支援するスキル、つまり、ファシリテーションスキルが必要になってくるのです。

反転授業やアクティブラーニングでは、「壇上の賢人から、学習者に寄り添う導き手」に変化します。しかし、教師の多くは、そのためのトレーニングを受けていません。

ファシリテーションスキルとはどういうものなのか?

そのスキルが、教室で具体的にどのように使われるのか?

2回シリーズで学んでいきたいと思います。

第13回の勉強会では、Link and Create代表の福島毅さんと、熊本県立高校生物教諭 溝上広樹さんにお話しいただきます。

チャットボックスで、直接、登壇者に質問することができますので、ふるってご参加ください。

第2部では、3通りの方法でオンライングループワークに参加できます。

・ビデオチャット(大推奨)

・ボイスチャット(推奨)

・テキストチャット

今回は、ビデオチャット&ボイスチャットの方のみ小グループでのグループワークを行い、テキストチャットの方はメインルームに残って司会者とのセッションとなります。

ビデオチャット・ボイスチャットで参加の方は、Webカメラやヘッドセットをご用意ください。ノートPCの内蔵マイクで参加の方は、ハウリング防止のためヘッドフォンを着用ください。

※第1部だけの参加も可能です。

日時 : 9月23日(火) 21:30-23:15

テーマ:「ファシリテーションスキル」

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:30-22:30

(1)「”生きる力・生きた授業”につながるファシリテーションについて考えてみましょう」

Link and Create代表 福島毅さん

(2)「高校生物におけるアクティブラーニングの実践」

熊本県立高校 生物担当 溝上広樹さん

第2部 オンライングループワーク 22:30-23:15

講演者の発表内容は以下の通りです。

「”生きる力・生きた授業”につながるファシリテーションについて考えてみましょう」

Link and Create代表 福島毅さん

(プロフィール)

ワークショップデザイナー、Link and Create 代表、一般社団法人 子供の成長を環境を考える会理事、柏まちなかカレッジ 副学長、NOBフューチャーセンターディレクター・特任スタッフ、カードリーディングマスター、気象予報士・防災士。
ブログ”教育のとびら”、”異星人思考法”、”日本と世界の新しい提案”主宰。

大学・大学院で地球物理学(特に地震学)を専攻。

日立製作所で2年間システムエンジニアをした後、千葉県立高校教諭として23年間勤務。

そののち、2013年4月より独立し、教員研修や学校改革など教育系の仕事や各種ワークショップのデザインや実践などを行っている。

高校教諭時代は、行徳高校情報コースの立ち上げや行徳地震前兆観測プロジェクト、東葛高校リベラルアーツプログラムなどを主導した。

現在は、複雑化する社会の問題解決や持続可能な地球にするためのデザイン、これからの人間のありようや成長などに興味を持ち、これらに関するワークショップやプライベートセッション(カウンセリング、コーチング)なども行っている。2014年2月より、”どんぐり教員セミナー”の動画をYou tubeで配信。スマホで見られる無料5分動画の制作に力を入れている。

趣味はスピリチュアルな探求やカードリーディング・クリスタルボウル演奏など。

著書に、「イントラネット100のアイデア(正高社)2000年」「教科「情報」実習へのフライト(日本文教出版社)2001年」

(内容)

アクティブラーニングの基盤として注目されているファシリテーション。またビジネスでもファシリテーター的なリーダーシップが世界的に注目されています。授業が双方向になるほどに、学び手である生徒と先生の間のコミュニケーションは緻密にデザインされたものに傾いてきます。そこで必要な技術基盤がファシリテーションです。誰かの名人芸を真似ればファシリテーションがうまくなるわけではありません。ファシリテーションの必要性やエッセンスを理解した上で、個人のスキルの守破離が進んでいくはずです。今回は世界や日本の方向性とファシリテーションの関係を大局的にとらえたのち、ファシリテーターとしての教師・企業人の在り方などのお話をさせていただきます。

「高校生物におけるアクティブラーニングの実践」

熊本県立高校 生物担当 溝上広樹さん

(プロフィール)

・ 熊本県立高校に勤務 生物担当 教職員歴6年目
・ 熊本大学大学院博士課程(理学)修了後(専門 化学生態学)、県立高校の教諭へ
・ 昨年度、アクティブラーニングに関する学習会を、地元有志で始める

(内容)

より良い学びのある場をどのように設定していくと良いのでしょうか?いわゆる講義型授業をアクティブラーニング型授業に切り変えると、授業構成はもちろんですが、教員に求められる態度や生徒観、場の設定についても変化や新しい工夫が必要となります。その1つにファシリテーターとしての役割があると考えています。

私自身は小林昭文さんとの出会いをきっかけに、2013年9月から本格的にアクティブラーニング型授業に取り組み始めました。さらに、今年9月からは「AL型授業スキルアップ講座」等で得た学びや気づきをもとに授業スタイルの変更を行いました。グラウンドルールや介入、広い意味での「場の設定」について、どのようなことを意図し、また期待しているのかお伝えします。さらに、生徒の反応とそれに対する調整といった試行錯誤の過程についても、自らの実践を振り返りご報告します。授業実践を通して気づいたことや、これからの課題をお話しすることで、みなさんと考えを深め、意見交換を行うきっかけになればと考えています。

第13回反転授業オンライン勉強会

日時 : 9月23日(火) 21:30-23:15

テーマ:「ファシリテーションスキル」

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:30-22:30

第2部 グループワーク 22:30-23:15

第2部では、オンラインでグループディスカッションも行いますので、ビデオチャットの用意をお願いします。ビデオチャットができない場合は、ボイスチャットのみ、テキストチャットでの参加でも大丈夫です。※第1部のみの参加もOKです。

お申し込みはこちら

参加方法

 
(1)このページから申し込む。
  お申し込みはこちら
 
(2)自動返信メールに参加方法が書いてあるので、指示に従って参加する。
 
※自動返信メールの内容
【入室準備】
Windowsの場合は、下記のページからデスクトップアプリをダウンロードしてインストールしてください。
http://www.wiziq.com/desktop
 
iPadからの参加の場合は、WizIQのアプリをインストールして下さい。
 
Macの場合は、ブラウザで直接ルームのURLにアクセスしてください。うまくつながらない場合は、ブラウザを変えてみてください。
 
オンライン勉強会への参加の仕方を、画像つきで詳しく説明したページを作りましたので、参加する前にこちらをご覧下さい。

 
ルームのURLをクリックすると、「Launch Class」というボタンが現れますので、それをクリックしてください。
 
Screen Nameの記入を求められますので、お名前を入力してください。
 
【入室方法】
 
上記の準備を終えた後、自動返信メールに書いてあるURLをクリックすると、自動的にWebルームにつながります。

「とある男が授業をしてみた」で授業を無料配信する教育Youtuber葉一さんにインタビュー

Youtubeに動画をアップロードし、その広告収入で生計を立てている人たちのことをYoutuberと言います。ゲームや商品紹介などの動画をアップしている人が多いのですが、その中に授業動画を大量にアップロードしている「教育Youtuber」と名乗る異色のYoutuberがいます。

それが、「とある男が授業をしてみた」というサイトを運営する葉一(はいち)さんです。

葉一さんの動画講義は、その分かりやすさと、丁寧な作りによって多くの支持者を集め、多くの生徒が、葉一さんの動画を使って勉強しています。Youtubeのコメント欄には、

めっちゃわかりやすいです!
ほんと助かります!(^-^)

数学が苦手な私にゎホントに助かります…
ストップしたり、わかるまで何度も聞けるのが嬉しいです!

テスト前の勉強で使わせていただきました!ありがとうございます!ほんとに助かります

すごく、わかりやすいです!
これからも、出してください!
いまから、もう一度この動画を見て、勉強してみます!
本当にありがとうございます!

といった感謝のコメントがずらっと並んでいます。

いったいなぜ、葉一さんは、このような活動を始めたのでしょうか?

インタビューさせていただきました。

動画講義を作り始めたきっかけ

動画講義を作り始めたきっかけは?

大学を卒業してから個別指導の塾講師をやっていたんですよ。個別指導塾は集団塾と比べると月謝が高いんです。話を聞いていると、塾に通わせたくても月謝が高くて通わせられないという方が本当にたくさんいらっしゃったんです。勉強から目をそむけてしまっている子もいましたけど、できるようになりたいのに塾に行けないという子もたくさん見てきたんです。それで、何かできないかなと思っていたんです。

ちょうどその頃、Youtubeを見るのが好きだったんで、ここで勉強を配信したらどうかなと思ったんです。無料で何回でも見れるじゃないですか。そしたら、月謝が高くて塾に行けない子でも、好きな時に好きなだけ、子供の意志だけで授業を見ることができるので、そういう子たちの役に立てるんじゃないかと思ったところから始まったんです。

それは、いつごろですか?

2012年の㋅1日から始めました。

そのころは、講義を無料でUPしているという人はいなかったんじゃないですか?

なかったですね。当時アップされていたのは、ほとんどが塾とか教材の紹介で、サンプルがYoutubeにアップされていて、もっと見たかったらこちらへどうぞと誘導するようなものでした。子供たちに対して、「この科目は全部あるよ」というものを作ってあげたかったんです。じゃあ、やろうということで始めました。

簡単に「じゃあ、やろうということで始めました」とおっしゃっていましたが、誰もやっていないことを始めるというのは、とても大きなエネルギーを必要とします。葉一さんの「子供たちのために役立ちたい」という思いの強さが行動の推進力になっているのだと思いました。

主役は板書。自分なんかどうでもいいから邪魔したくない。

動画の作り方には、いろいろな選択肢があったと思いますが、葉一さんの場合は、ホワイトボードに手書きで書いて録画していますよね。あれは、何を使って録画しているのですか?

あれは、普通のホームビデオです。

その形式を選んだ理由は何だったんですか?

黒板がよかったんですけど、黒板を使うとすると、場所を借りなくちゃならなくなるのでお金がかかるじゃないですか。今は、Youtuberとして収入も出てきましたけど、初めて最初の1年間は無収入でやっていたのでお金がかからない方法を考えました。ホワイトボードなら家でできるなと思いました。手書きにしている理由は、とにかく無機質なものにしたくなかったからです。そこには、こだわりました。

なるほど。でも、葉一さんの場合は、自分自身が画面に出てきて、顔を出して、「葉一です。こんにちは。」とか、やらないじゃないですか。無機質にはしたくないけど、自分は登場しないという立ち位置ですよね。そこには、どのような考えがあるのですか?

動画を配信するときに、主役は自分ではなくて板書だと思っているんです。自分なんかどうでもいいんです。板書がちゃんと見やすくなる状態を作りたいし、邪魔になりたくないんですね。「ちょっと見えないんだけどー」という状態を動画の中で極力減らしたいんです。それで、登場しないようにしています。

それって、葉一さんにとっては普通のことかもしれないですけど、自分を商品にしている多くの塾講師や予備校講師にとっては、難しいことですよね。葉一さんは、サイトの名前も「とある男が・・」としているじゃないですか。サイト名も、同様の考えに基づいているんですか?

そうですね。

僕なんか、「田原の物理」ですからね。真逆のスタンスでやっていますね(笑)。

もろですね(笑)。

教師が物理的にも立場的にも「上」に立って教えるというスタンスとは、正反対何ですよね。「下」から支える動画という感じですよね。

そうですね。

最初に「自己ブランディング」みたいな考えに慣れた視点から見ると、葉一さんの動画は、どこがよいか分かりませんでした。でも、みんながすごい高評価なので、これは、評価ポイントが違うんだなと思って、自分の視点を外して学習者の視点から見直してみると、板書がよみやすいとか、講師が板書を隠さないように気を付けているとか、声が聞きやすいとか、口調がやさしいとか、いろいろなところに細やかに気配りして、丁寧に動画を作っているというところが評価ポイントになってきて、良さが見えてきました。

Youtubeにアップした動画は、どのように使われているのか

実際に動画をUPしてみて、葉一さんが想定していたような使われ方がされているんですか?

予想外だったのは、学生じゃない方が見てくれていることですね。社会人の方もいます。すごく多いのは、20-30代の女性で、看護師試験を受ける方ですね。海外在住の日本人の方も見てくださっていますね。このあたりは、ものすごい予想外でしたね。

ネットで配信すると、これが起こるんですよね。僕のフィズヨビでも、高校生をターゲットにして始めたのに、実際は、受講生の半数が社会人ですからね。子供たちは、どんな使い方をしていますか?

いろいろな使い方をしていますね。この動画で先に勉強してから学校で勉強している人もいるし、学校や塾で分からなかったところの動画を探して、補填として見ておこうという使い方をしている人もいます。教科書を全部網羅しているので、そういう使い方も可能になっています。

両親が葉一さんの動画を探してきて勧めるケースが多いんですか?それとも、子供が自分で見つけるんですか?

子供自身が検索して見つける場合もありますし、親御さんが見つけてきて、子供さんに見てみなさいというケースもあります。最近は、子供同士の口コミが増えてきましたし、親御さん同士の口コミも増えてきましたね。あと、「塾の先生や学校の先生から聞きました。」というケースも出てきました。

先生からも推薦があるってすごいですよね。僕も、先週、学校の先生に勧めておきましたよ。公立の中学校とかだと学級内での学力格差が大きいということだったので、「とある男が授業をしてみた」とかeboardとかのことを教えて、「家で見てごらん」って勧めてみたらどうでしょうかと話しました。

ありがとうございます~。

ここにオンラインで講義配信をする可能性の1つが見えていると思います。ある特定のターゲットに向けて講義を作ったとしても、オンラインで公開すると、全く想定していなかった属性の人がその講義を利用するようになります。向こうから探してきてくれて使ってくれるのです。これは、僕の運営している物理ネット予備校でも起こっていることですし、Khan Academyでも起こっていることです。つまり、教育サービスのターゲットにならないロングテール層に、学びのチャンスが生まれているんですね。

動画を使って学べるようにするための工夫

実際にリアルの場で教えるのと動画の違いは、どんな風に感じられていますか?

動画のメリットは、何回でも同じことを繰り返せることですね。これは、教える側にとってもメリットだと思っています。個別指導をやっていたとき、勉強が苦手な子が多く、同じ説明を何回もしなくちゃならないことが多いんです。二日前に教えたことを、きれいに忘れているなんてことがザラにあるんですよ。これって、動画にして繰り返し見てもらっても同じなんじゃないかと思っていました。

あとは、好きなところで止めたり、戻したりして、自分のペースで学べるのもメリットですね。

動画の長さって、どのくらいにしているんですか?

基本的には15分以内です。人の集中力が続くのは15分って、よく言われているので、15分以内で作るようにしています。

動画で配信するときは、生徒のモチベーションの管理って難しいと思うんですよ。そこに対して、アプローチしたりしていますか?

一時期、すごく悩んでいたんですが、結論としては、リアルほどのモチベーションの管理は望んじゃいけないと割り切りました。ただ、できることは2つあると思っています。1つは、メールで子供たちの相談に乗って気持ちを軽くしてあげるということです。やり取りの中で、「頑張ろうと思います」となってくれる子も多いです。もう1つは、純粋に「この授業は分かりやすい」と思わせることです。それができれば、絶対、モチベーションが上がると思います。だから、全部の動画を丁寧に作っています。

今ぐらい知名度が出てきたら、相談に応えるって大変じゃないですか?

超~大変です(笑)。以前は100%返していたんですが、今は、30-40%しか返せなくて。それでも、1日2時間とか相談メールに返信していたりするんですよ。相談に関しては、勇気を振り絞って書いてくれた子が多いので、できるだけ返しています。体が1つしかないので、ぎりぎりですけどね。

メールの文面を見ると、どんな思いでメールしてきたかって分かるじゃないですか。それは、なかなか無視できないですよね。

そうなんですよね。中には「自分で考えなよ!」と突き放したくなるメールもありますが、中には、本当に重い相談もあったりするんですよ。そういうのは無視できないですね。そういうときは、睡眠時間を削ってでも返しますね。

僕がすごいなと思うのは、重い相談をメールで送るというのは、「この人だったら受け止めてくれそうだ」というふうに思っているわけじゃないですか。授業で顔を出しているわけでもないし、今は、「はいちのだらだラジオ」をやっていますけど、それまでは、授業動画を見ているだけじゃないですか。その関係性の中で、「この人に相談してみよう」と思われるというのは、なぜなんですか。

「はいちのだらだラジオ」は、去年の年末から始めて、40回以上やってきて、その中で、自分が悩んでいる姿とかも全部話すんですよ。こういうことに悩んでいて、こういう壁にぶち当たっている。子供たちに、「悩みながらでも立ち止まらないで頑張っていけば、何か変わるんだよ。」ということを、自分の姿で見せたいんです。これは、動画活動の方針の1つになっているんです。たぶんですけど、ラジオを作るようになってから、人間味のところが伝わりやすくなった気がしています。

僕は、自分の人間味をネットで表現するのにメルマガを使っているんですが、声のほうが、圧倒的に感情が伝わりやすいと思いました。葉一さんは、関係性として、絶対に上に立たず、横とか斜め上にいる感じなのです。「僕もおんなじなんだよ。頑張っているんだよ。」という感じが、活動全体からにじみ出てくるんですね。

横とか斜め上の立ち位置を取る理由

生徒の上に立たないって、先生属性になると難しくなるじゃないですか。ついつい上に立って教えてしまいたくなる場合が多いと思うんです。どういうことを考えて、その立ち位置にいるんですか?

塾講師をやっていたときに、先生にはいろんな色があって、自分にはこのスタンスが一番合っていると思いました。上から言うよりも、ちょっと斜め上というか、横っていうか。励ますときには斜め上ですが、基本的には横にいて話を聞いてやりたいスタンスです。これが、自分にとって一番心地よいスタンスなんです。

でも、このスタンスを取っていると、結構、叩かれるんですよ。

え?叩かれるんですか?

結構、言われますよ。動画の中で、最後に「見ていただいて、ありがとうございました。」で必ず終わるんですけど、「先生が、ありがとうございますというのはおかしくないですか」とか言われたりしますね。先生は上の立場と思っていらっしゃる方は、そういう意見なんだと思うんですけど、自分は、なんで感謝を言うのかというのも、こだわりがあって言っていることなんです。まあ、そのこだわりを伝えたところで、けんかになっちゃうんですけど。

「先生がありがとうというのはおかしい」というのは、教育のパラダイムシフトのポイントだと思うんですよ。僕が予備校講師のときには、カリスマ性をまとえなかったタイプなんですけど(笑)、立場的に、教壇というステージに立って、マイクを付けて70人とかに向かって一方的に90分間話すわけですよね。そのときには、構造上、上に立たざるを得なかったんですよね。でも、動画にしたことで、生身の自分がそこから降りられたんですよ。授業はもう動画にしてしまっているから、ある意味、自分と切り離して、生徒が学習するための素材として、もう一人の自分がそれを使うという感じなんです。今は、Web教室に受講生を集めてオンラインで反転授業をやっているんですが、そこでは、完全にファシリテーション役で、とにかく生徒がアウトプットできる場を作ってモチベーションアップすることに集中できるんです。それをやるようになって、背負っていたものを全部おろして、学習者が勉強できるように裏方に徹することができるようになったんですよ。関係性も、上じゃなくて、斜め上とか、横に降りてくることができました。僕にとっては、こっちのほうが、居心地がいいし、楽しいんですよ。

葉一さんの活動を見ていると、コンセプトがすごくブレずにはっきりしているから、すべての活動がつながっているんですよね。「とある男」というサイトのタイトルも、動画に自分が登場しないことも、動画の最後に感謝を述べることも、ラジオも、すべて一本の線の上に乗っているんですよね。これが、メッセージがきっちり伝わっている理由の一つなんじゃないかと思いました。

コラボレーションについて

知名度も上がってくると、コラボレーションの誘いとか来ませんか?

今は、来ますね。

現状では、一人でサイトを運営しているじゃないですか?コラボレーションについては、どのように考えていらっしゃいますか?

基本的に、受けるものは受けるというスタンスです。今年の自分の方針が、「知名度を上げる」ということなんです。コラボしたら、知名度は上がるじゃないですか。なので、体が足りる範囲であれば、コラボはしています。いろいろな塾で使っていただいたりしています。

eboardさんとか、manaveeさんとか、コンセプトが近い活動も出てきていると思いますが、葉一さんは、それらの動きに対して、どんな印象を持っていますか?

目指しているところは、似ていると思います。教育格差や地域格差を両者とも出されているので、気持ちとしては、お互い頑張りましょうという感じです。

良質の動画講義をインプットのための素材として使い、リアルの場にいる先生がコーチ役として勉強をサポートするという方法は、今後、大きな可能性があると思います。そのような可能性を、葉一さんの動画が生み出していると思います。

葉一さんが考える日本の教育の姿

「はいちのだらだラジオ」で、いつか情熱大陸に出たいと話していましたが、情熱大陸についてうかがっていいですか(笑)?今やっていることのモチベーションって何なんですか?

今、この瞬間、がんばれるのは、毎日もらえる子供たちからもらえるコメントですね。それがなければ、絶対に心が折れてやめてますもん。

あとは、情熱大陸もそうですけど、何年かあとに、教育がこう変わっていてほしいというコンセプトがあって、日本がそうなっている姿を妄想すると頑張れます。変えていかなければならないと本気で思っています。

葉一さんが考えている何年か後に変わっていなければならないという日本の姿って、どのようなものなのですか?

現在は、公教育や塾というお金を払って学ぶという二本柱で支えていると思います。でも、これからは、それじゃ成り立たないですし、今でもすでに崩壊気味だと思います。manaveeさんとか、eboardさんとかもそうですけど、無料で子供たちが選んでできる教育という3本目の柱が立たなければならないということを本気で思っています。manaveeさんとか、eboardさんとかは、団体になっていますよね。団体を作るというのはハードルが高いと思うんです。自分もそう思っていたんです。その点、自分がやっている教育Youtuberというのは、好きなときに始められますし、日本のトップYoutuberのHikakinさんのおかげで、Youtuberという言葉もだいぶ浸透してきたので、2020年までに、子供たちが、「お前、誰の授業見てんの?」「俺、あの人見てんだけど。分かりやすいよ」みたいな会話が普通にされているような世の中にしていたいんです。そのためには、教育Youtuberで生計が成り立つんだということを、モデルとして自分が見せないといけないと思っています。

教育Youtuberのロールモデルとしての自覚があって、教育Youtuberという存在をムーブメントとして増やしていこうということなんですね。

はい。そうなんです。ゲームとかそういうジャンルだけじゃなくて、教育という真面目な分野でもやっていけるということを見せれると思うんですよ。Youtubeに詳しい方とお話ししたときに、ゲームや商品紹介に比べて、教育という真面目な分野だということで、Youtubeのほうで広告の収益率が高く設定されているらしいんです。それで、再生回数の割に収益が高くなるということになっているみたいなんです。

子供たちからはお金をもらわないで生計を立てるというのが葉一さんのコンセプトなので、広告モデルということになるんですね。

そうですね。

広告モデル以外で、第3の柱というコンセプトを維持したまま、収益化するというアイディアはありますか?

それは、すごく模索しています。塾で使っていただくというところが少しずつ出てきて、そういうところからも多少は収益も上がってきています。でも、できれば、Youtubeだけでも、ここまで行けるんだよというところを見せたいです。

Youtuberという制約の中でも、これだけできるんだというところを見せることで、Youtubeに講義動画をUPしていこうという人が増えればということですね。

そうですね。あとは、実際に先生になろうという人も出てきていて、そういうことを言ってくれたりするので、うれしいですね。教育が全体として盛り上がっていくといいですよね。

教育Youtuberって、今、他にもいるんですか?

教育Youtuberという名前を作ったのは自分なのですけど(笑)、教育関係では、ほぼ、皆無だと思います。

葉一さんには、教育に対して明確なコンセプトとビジョンがあって、様々な活動がそのコンセプトに沿って行われています。教育の第3の柱を実現するために、教育Youtuberを増やしたい、そのために、教育Youtuberで生計を立てられることを示したいというように、いろいろなことがコンセプトに沿って一本の線でつながってきます。このようなブレない姿勢ですべてが貫かれていることが、葉一さんの活動の特徴だと思いました。

講演会を開いて、子供たちと交流したい!

知名度が上げるという目標も、教育Youtuberという存在を増やして、教育の第3の柱を作っていこうという目標につながっているんですね。

そうですね。あとは、講演会とかをやりたいんですよ。子供たちとリアルにつながってみたいんです。たとえば、ある県に行って、その近くに住んでいる動画を見てくれている子供たちと会って、勉強じゃなくてもいいんですけど、交流をするというのをすごくしたいんです。そのためには、知名度が上がらないと、その県に行っても二人とかしか集まらなかったりしたら、できないじゃないですか。だから、ある程度の知名度がほしいと思っています。

それが、たとえば1-2年後の目標として、Webのミーティングルームに集まってもらって、そういう交流をするというのはどうですか?

Webのミーティングルームは使ったことがないんですよね。できますかね。

30人でも100人でも集まれますよ。今度、説明しますね。

「とある男が授業をしてみた」の知名度は、確実に上がってきています。Facebookグループで聞いてみたところ、子供に見せて勉強させているという親御さんからのコメントが多数ありました。動画は作った分だけ蓄積していきますし、口コミでも広がっていきます。一方で「動画を使って学ぶ」という学び方も広がってきているので、相乗効果が起こり、近いうちに閾値を超えて一気に広がる可能性が十分にあると思います。

自分にとって教育というのは恩返しなんです。

葉一さんもその一人だと思うんですが、内発的動機で立ち上がってくる人ってすごいなと思うんですよ。そのモチベーションは、どこから来るんですか。

自分にとって、教育というのは恩返しなんですよ。恩返しっていうのは一生かけてするものなので、死ぬまでやっていくだけですね。自分にとってはモチベーションが切れるということはないです。

そういうものが、教育を変えていく力の核になっていく気がするんですよ。

自分よりも分かりやすい授業ができる人って、何人もいると思うんですよ。ただ、動機がそこにあって、子供たちのためにというモチベーションが高いという点では、こういう仕事をしている人の中で絶対に負けないと思っているんです。そこで負けちゃったら、ダメなんです。だから、これからも続けて頑張っていきます。

「恩返し」というのは、葉一さんの活動の根底にあるものだと思うんですが、それには、どのような意味が込められているんですか?

自分は、中学生のときにいじめを受けていて、人間不信になりました。それで、鬱状態みたいになってしまっていたんです。高校のとき、ある数学の先生と出会って、その影響で自分が変わることができたので、これはすごいと思って、自分も教師になるために教育学部に進みました。

教育実習に行ったときに、授業中だったのに屋上に女の子3人がいたんですよ。普段は、そういうときに声をかけられないんですが、そのときは、普通に声をかけに行ったんです。そしたら、彼女らは、保健室登校している子たちで、そのうちの一人は、自殺未遂をして、数ケ月前まで入院していたんですね。話していくうちに、自分のある部分とシンクロしたのかもしれないんですが、この子たちのために教育実習の2週間を使おうと思ったんです。

それで、単位がとれるギリギリまで授業出ましたけど、あとはずっとサボって、その子たちと話をしていたんですよ。

自殺未遂をしていた子は、親御さんが開業医の方で、すごくお忙しい方だったんです。あるときに、お母さんのご飯を最近食べたことがないというので、朝4時に起きて、その子に弁当を作ることにしたんです。おいしくなかったんですけど(笑)。それを食べてくれて、すごく喜んでくれたんです。それをきっかけに、お母さんが気づいてくれて、すごく久しぶりにお弁当を作ってくれたんです。そのあと、その子がお弁当を作ってくれたりとかしたんですね。それで、お別れするときに、「もう自殺未遂しないから。絶対、私、生きていくから。」って言ってくれたときに、自分が人のためになるんだということが分かって、自分の中ですごく変わったんですよ。自分も、実は、自殺未遂とかをしていたので、そこから、自分も自殺未遂をしなくなって、ぐだぐたしていた自分がそこで死んだんです。

あの出会いがなければ、今、こうやって頑張っていられないですし、もしかしたら生きていないかもしれないので、あのときもらったきかっけは、一生かけても返さなければならないと思っています。その子たちは、もう成人しているんですけど、教育というのが一番好きだから、今、勉強している子たちに恩返ししたいというのが、今の自分のモチベーションです。

そういう背景があって、葉一さんからは、言葉や表情の一つ一つから、強さというか、覚悟というものを感じるんでしょうね。すごく穏やかそうな方なのに、ある種の迫力があるんですよね。

そうですね。そこに関しては、腹はくくっていますね。

葉一さんにインタビューさせていただいて気がついたのは、一見すると穏やかそうな雰囲気を醸し出しているんですが、ときどき、ものすごいオーラを出してくることです。これは、何なんだろうと思いながらお話をうかがっていたのですが、最後までお話をうかがって、それが「覚悟」から生まれるものなのだということが分かりました。

第3の柱を立てることが恩返しになるというゆるぎない覚悟があって、すべての行動がそこから導き出されているんですね。だからこそ、「とある男が・・」というタイトルも、動画に自分が登場しないことも、動画の最後に感謝を述べることも、教育Youtuberと名乗ることも、すべてが目標に向かって見事につながっているのです。これには、本当に感動しました。

葉一さんが引き起こすムーブメントに「反転授業の研究」も、何かしらの形で関わっていくことになると思います。

[参考リンク]
とある男が授業をしてみた
はいちのだらだラジオ

※葉一さんにコラボレーションや仕事の依頼で連絡を取りたい方は、こちらのアドレスにメールを送ってくださいとのことです。haichi_4_leaf@yahoo.co.jp

千葉市公立中学校学校教諭 篠崎伸子さんにインタビュー

篠崎さんは、中学生の英語の授業にタブレット端末(iPad)を導入し、アクティブラーニングをやったり、プレゼンテーションをさせたりする授業を展開しています。

また一方で、マレーシアやスリランカの先生と連携して、国際交流学習を行った経験をお持ちです。

篠崎さんが、ICTを使い、このようなエキサイティングな授業をしようと思った背景を知りたくて、篠崎さんにお話をうかがいました。

英語教師になったきっかけ

篠崎さんが英語教師になろうと思ったきっかけは?

子ども時代、漫画ばかり描いて完全に落ちこぼれでしたので勉強がわからない気持ちがよくわかります。どんな子どもでもきっかけさえあれば学び、変わることができると信じています。
また、英語に関しては、中学2年で3人称単数の動詞にsがつくことすら知らない状態でした。中学校を卒業するころ、初めて自分の年齢に近い外国人と話せてから世界が変わりました。その日から英語を話せるようになりたくてラジオ英会話等で学びました。

篠崎さんが教師になった最初のころは、どんな授業をされていたのですか?

とにかく楽しければ、勉強するということをモットーにひたすら楽しく勉強をすることを求めていました。若さと勢いで、比較級・最上級を学ぶときは腕相撲大会をしたり、ALTとも様々なゲームをつくりました。

そのときに、どんな課題を感じていらっしゃいましたか?

きちんと系統だてて学ばせていない。きちんとした学力を身につけさせる必要があると感じていました。

勉強ができなかった自分が大きく変わったという経験から、「どんな子供でもきっかけがあれば学び、変わることができる」という信念を持って取り組まれているところが、篠崎さんの活動の核になっているように思いました。

マッピングを授業に導入

マッピングを導入したきっかけは?

生徒指導が困難な学校にいて、大切なのはどんな環境、どんな子どもにも教えられる技量が必要だと感じました。授業が命で、どんなにまわりが大変でも教科学習ができる教師になりたいと考え、伝統校に異動し英語に関わる仕事なら何でも引き受けて勉強しようと誓いました。実際は、行った先でも生徒指導が大変な時期に研究を引き受けることになりました。生徒指導が困難な中で、すべての生徒を座らせて1時間もたせられる唯一の方法が、手書きのマッピングでした。
手書きと言うのは、ICTが苦手だったのと、時間がない中でフリーハンドで描けて、何にでも応用できる便利な手法だったからです。

具体的には、どのような授業をされたのですか?

下位から上位まで、様々なレベルの子どもたちに英語の読解文をさせるのは至難の業です。そんな時に、絵や写真を入れて吹き出しに入れるセリフを教科書から読解して書かせたり、スピーチを書くためにマッピングをさせました。
すると、できない子は日本語で単語を並べ、できる子は英語でマッピングし、それぞれが絵を描くように自由に取り組めました。

マッピングを導入していかがでしたか?

1時間座って活動ができるようになりました。文字だけのプリントでは取り組まない生徒が取組めるようになったのはメリットでした。攻撃的で勉強をせずに教室を出てしまう生徒がいたのですが、ある日、アフガニスタンで裸で座っている子どもの写真をみてどんな環境かを想像して
吹き出しマッピングに取組ませたところ、とても真剣に取り組みました。自分の小さい妹とダブらせてみていたようで、心配している様子が伝わりました。アルファベットすら書けないその子が、メッセージの欄にNever give up!と大きく書いたのを見て感動しました。
マッピングは思考を引き出したり整理したりそれぞれのレベルとペースで取り組めるのがよいと思いました。

「どんな子供でもきっかけがあれば学び、変わることができる」という篠崎さんの信念が、生徒指導が難しい状況でも、子供の可能性を信じて英語の授業を成立させようという試みにつながり、マッピングというやり方にたどり着いたとのですね。マッピングを導入したメリットとして、それぞれのレベルとペースで取り組め、授業に参加できない生徒を作らなくて済むとという点を上げたところが、篠崎さんらしいと思いました。

※篠崎さんのマッピングの活用についての論文をこちらで読むことができます。「表現力を高める「書くこと」の活動 ―マッピングを活用して― 」

eJournalPlusを使った取り組み

その後、eJournalPlusを授業で使うことになるのですよね。導入するきっかけは、どのようなことだったのですか?

上記のマッピングを活用したライティング活動を研究として市で発表したところ、翌年に千葉県総合教育センターからコンピュータでマッピングをしませんか、という話をいただきました。5年前ICTは本当に苦手で、携帯のメールすら打てなかったのですが、県総セの協力を受けて授業を展開することにしました。

当時、望月俊男(専修大)先生らによってeJournalPlusというWindows用のソフトが開発され、それを活用したときの学習効果の研究がされていました。ソフトを起動すると、画面の左側に文章が表示されます。そこから、文章をコピー&ペーストで右側に抜き出してナレッジマップを作ることができます。また、ナレッジマップをもとに文章作ることができます。それまでにやってきたマッピングをPCでできるのはすごいと思いました。このソフトは、思考力・判断力・表現力を育成するためのツールで、国語の学力を上げることは確認できていたのですが、英語ではまだ活用されていなかったので、英語の授業でも学力を上げることができるのか検証することになりました。

※eJournalPlusの詳細はこちらをご覧ください。

実際にeJournalPlusを使ってみていかがでしたか?

教科書なら英文の素材が限られていますが、ICTなら素材をいくらでも取り込めるのが大きなメリットだと思いました。このソフトを使うと文
の構成が分かるようになるんです。英文を書くのを助けるために表現集を作ってカテゴリから選べるようにしました。それを右側のレポートエリアにコピー&ペーストするだけでマップを作っていくことができるので、3文くらいしか書けなかった生徒が20文も書けるようになりました。これには、驚きました。

さらに、eJournalPlusにはコメント機能がついているので、他の人が書いた文章にお互いにコメントしていくようにしました。読んでいいなと思ったところはアンダーラインを引き、分からないところには質問をコメントするようにしたところ、Twitterのようにコメントがどんどん続いたりして、生徒が夢中になって取り組みました。

ICTの補助によって、表現できなかったことが表現できるようになり、お互いにコメントしあうという活動が学習意欲を高めたんですね。すごく面白いです。このとき、PCは何台使用していたんですか?

1台のPCを教室に持ち込み、時間を計って生徒が交代で使ってローテーションしました。限られた時間で友達の書いたものを急いで読み、コメントを書き込むので、読む文章の量が増えました。わたしの中では、eJournalPlusは最強のソフトで、私の授業の土台になっています。

※篠崎さんは、eJournalPlusを活用した授業実践が認められ、Microsoft教職員ICT実践活用コンテストで優秀賞を取られました。→リンク

※篠崎さんのeJournalPlusを活用した実践報告をこちらで読むことができます。

「いいと思ったところにアンダーラインを引き、分からないところに質問をする」というやり方は、先日行った小林昭文さんのAL型授業スキルアップ講座でも紹介されていました。安心・安全な場を確保しつつ、お互いにフィードバックを行うことができるやり方として、とても有効だと感じました。

eJournalPlusを導入して授業を行っても、篠崎さんの視点は全くぶれていないのがとても印象的でした。できなかった子が、ICTの補助をきっかけとして学べた、変われたというところに篠崎さんは着目しているんですね。そして、それが、新しいことを学びながら取り入れていく原動力になっているのだと思いました。

iPadを使った授業実践を始める

タブレット端末(iPad)を授業に導入されたきっかけは?

千葉市長期研修生として平成25年度の1年間、千葉大学の藤川研究室にお世話になることになりました。そこで20台のiPadとwifiモデム(WiMAX)を使わせてもらうことになり、自分のクラスでiPadを使った研究授業を行いました。

iPadを授業に使ってみて、どのように感じましたか?

iPadは、eJournalPlusが使えないし、「書く」という作業にはあまり向いていないと思いました。でも、ビデオを簡単に取れるとか、操作が簡単だとか、iPadならではの良さもあると思いました。

どのような授業をされたのですか?

中学3年生の4クラスを対象にして、「日本文化紹介」をテーマにしたポスターセッションの授業を行いました。プレゼンテーションとスピーチの練習にiPadのビデオを使用しました。
授業は5回行い、1回目の授業では、日本文化紹介に必要な言い回し、感情表現を学び、外国の人から見た日本の印象などを聞き取れるようにしました。2回目の授業では、ペアで相手に質問し、相手のことを紹介しました。第3回目は、日本のアニメ紹介をグループで行いました。第4回目は、ポスターセッション準備をしました。インターネットに接続したタブレット端末で発表内容を調べ、写真を取り入れ、書き込みをするなどして、ロイロノートというアプリを使って聞き手に分かりやすいプレゼンテーション資料を作成するようにしました。このとき、練習の様子をビデオに撮って振り返ることで、プレゼンテーションの技術を改善していくようにしました。5回目の授業が日本文化紹介についてのポスターセッションです。ポスターセッションは、次のように3ステップで行いました。
1)ポスターセッション(タブレット)
2) Q&A 発表グループが質問し、聞き手は英語で答える。
3)シェア 聞き手が感想を英語で述べ発表者がそれに答える。

外国の人から見た日本の印象の聞きとりは、どのようにして行ったのですか?

千葉大のEnglish Houseで留学生にインタビューして動画を作っています。複数の学生から、出身国、日本に来て驚いたこと、将来の夢、などパターンを決めてインタビューをし、ロイロノートにまとめ、自分のFB英語サイトに必要なインタビューをアップして使っています。
https://www.facebook.com/groups/528411697209748/

これを主にリスニング教材として使っています。ベールを被っているイスラムの学生が出てきた時は、宗教や文化の違いについても触れることができます。

マッピングにずっと取り組んできた篠崎さんが、ロイロノートを活用するのは、とてもよく分かります。あれも、いわばマッピングのアプリですよね。授業内で生徒同士のビデオ撮影は、どのように行ったのですか?

毎時間、授業の最後10分の中で、「1分間」の英語でスピーチを行い、ビデオに収録し、仲間と振り
返りをするという活動をしました。ビデオで撮るとよく分かるので表現力が伸びます。プレゼンの5つの要素である1)アイコンタクト、2)声の大きさ、3)態度、4)ハート、5)ゼスチャー、に注意を払わせて、生徒同士でお互いに気づいたことをフィードバックしながら練習させたところ、人前でも堂々と話せるようになってきました。

ビデオで撮るというのは、スピーキングやプレゼンのスキルを上げるのにとても効果があるんですね。マッピングが書くことを目的にしていたのに対し、今回は、話すことやコミュニケーションを取ることがテーマになっていると思いますが、このような授業をしようと思った理由はどんなことだったのですか?

私がとても影響を受けた本で、『SPEAKING OF SPEECH』という本があります。この本で学んだことが、ずっと私の中にあって、授業でやってみようと思いました。

実際にやってみて気づいたことはありましたか?

タブレット端末を使った語学の授業として大阪大学の岩居弘樹先生の先行研究がありました。(参考リンク

岩居先生のドイツ語の授業では、ドラゴンディクテーションを使って発音練習をしていたので、私の授業でも挑戦してみたんです。しかし、これが大失敗。わたしの授業ではクラスにiPadが20台だったので二人で1台を共有するという形だったのですが、これだとパートナーのことが気になってしまい「まちがうのが嫌」という意識が生まれてしまいました。また、英語を思ったよりもちゃんと拾ってくれないんです。また、WiMAXだけだと接続が弱いと感じました。Wifi環境で、一人一台じゃないと難しいということが、実際にやってみて分かりました。

手書き→PC→iPadと道具が変わっても、篠崎さんがマッピングという手法を使い続けているのが、とても印象的でした。マッピングは英文を作ることを助けるだけでなく、思考をまとめることもでき、そのまま、プレゼンの原稿にもなるので、非常に効果的だと思いました。

※篠崎さんのタブレット端末の活用についての論文をこちらこちらで読むことができます。

国際交流学習に取り組む

篠崎さんは、前任校で国際交流学習に取り組んでいました。海外の教室と連携して勉強することによって、どのようなことが起こるのかうかがってみました。

国際交流学習に興味を持つようになったきっかけは?

東大とマイクロソフトが開発したeJournalPlusを使った縁で、マイクロソフトのグローバルフォーラムに参加することができたのです。タイでアジアの先生方と5日間、ポスターセッション、ワークショップ、学校参観などを通し交流しました。それまでアジアの方と接することが少なかったのですが、どの先生も片言でも英語を通じさせよう情熱、また思いやりに魅了されました。となりのスリランカブースの先生方は、私が日本からきて一人でポスターを設置しているのを見て手伝ってくれたり、甘い手作りのお菓子をくれたりしました(笑)。
さらにワシントンDCで今度は世界中の国の代表の先生方と5日間交流をもちました。授業の概念が全く異なる国が多くあり驚きの連続でした。
その出会いから、facebook Skype等で交流が始まりました。

海外の取り組みとして、どんなものが紹介されていたんですか?

グローバルフォーラムでは、各国代表の先生方の様々な取り組みを学び合い教育の多様性を感じました。中でも、Willie Smits氏のDeforest Action projectに感銘を受けました。インドネシアの森は焼き畑で自然破壊が進む中、氏はオラウータンを保護し自然に返すために以下のような活動を行いました。他国の学校・生徒に参加してもらい、それぞれの国からそれぞれの生徒が衛星からネット上で分割された自分の土地を管理します。観察し、自然の生態、人々がなぜ焼き畑をするのか、その解決策を考えました。実際に生徒たちは、インドネシアの森のフルーツでジュース工場をつくれば商品を保存、出荷できそれで生計を立てられるのではないかと提案しました。現地に住む人たちに呼びかけ、日本で言うJA(農協)のような組織がつくられ、子どもたちが設計まで考えたジュース工場がつくられました。結果として、現地の人たちもこれにより生計が立てられ焼き畑をせずに、自然が取り戻されました。これを聞いて、ICTとは子どもたちを国を越えて教育に巻き込み、共に考え、行動にうつさせる力があることを実感しました。
https://www.facebook.com/deforestaction
http://dfa.tigweb.org/
その他にも、マレーシア、オーストラリア等ではKoduのようなゲーミフィケーションとプログラミングを兼ねた授業を展開しており、それらを通して国際交流をしていました。子どもたちの思考力がかなり身につく、生徒の動きがドラマチックにかわるよ、という話でした。http://www.kodugamelab.com/
他にもヨーロッパの国で、科学の授業で、殺人事件をグループで検証する授業などがあり、21世紀スキルを重視する教育に、教育の根本的なとらえ方の違いを感じました。

国際交流学習をどのようにして授業に取り入れたのですか?

マレーシアとスリランカの先生と協力して行いました。個人情報の管理等が厳しく、生徒の顔を出すようなSkypeは市として望ましくないとのことから、アジアの先生方のFBのクラスページをクラスで見せたりしています。Skypeはテキストチャットのみ使いました。
また、イラストが得意な生徒がアニメを描いてマレーシアの学校に送ったりしました。

アジアの国と交流している理由は?

時差が少なく、英語は第2外国語であるもの同志、構えずに会話がしやすく、また身近に感じます。

生徒に変化が生まれましたか?

生徒のプレゼンテーション能力が向上したのと、ICTがあると生徒が、自分から活動しようとします。

意識や学習意欲、将来の目標などの点で、生徒に変化はありましたか?

今まで、将来は緒方貞子さんのように国際社会で貢献できるようになりたいという生徒がいたり、スリランカの学校から奈良公園について教えてほしいと言われて調べたり、靴も十分でない生徒が自分たちで学校をつくる様子を見せたり、他国、特にアジアの国が身近に感じられるようになったようです。
私自身、20年以上この仕事をしていますが、ALTはアメリカ、オーストラリア、イギリスなどスタンダードな英語しか触れてきませんでした。アジアは時差も少なく、リアルな国際交流をするにはよいのではないかと考えています。

篠崎さんに、国際交流学習のパートナーを見つける方法を教えていただきました。

Skype in Classroomにアクセスすると、国際交流学習に関心のある様々な国の先生とつながることができます。また、国際交流学習に関するFBグループを立ち上げていますので、関心のある方はアクセスしてみてください。→ 国際交流学習の研究

篠崎さんのすばらしいところは、「どんな生徒でも学べる、変われる」という信念に基づいて、授業を工夫するために篠崎さん自身が学び続けているところだと思います。苦手意識があるというICTに取り組んだり、大学院に研究しに行ったり、海外の教室とつないだりと、篠崎さんが意欲的に学び、世界が広がる度に授業が変化し、さらに工夫するために学ぶというサイクルが出来上がっているのです。そのサイクルを長年にわたって回し続けた結果、学びと経験が何層にも積み重なって、今の授業が出来上がっているのだと思いました。また、篠崎さんのように、教師が失敗を恐れずに挑戦する姿を見せることが、何よりも、その背中を見ている生徒にとって重要な学びになっているのではないかと思います。そして、このサイクルは、今も回り続けているので、今後の篠崎さんの授業改善にも目が離せません。

生徒間の学力差が大きかったり、生徒指導上の問題があって授業をすることが難しいと感じている教師にとって、落ちこぼれを作らずに、生徒のレベルやペースに応じて取り組める篠崎さんの取り組みは、非常に参考になるのではないかと思いました。

第12回反転授業オンライン勉強会「はじめての反転授業&アクティブラーニング実践」の振り返り

8月26日に実施した第12回反転授業オンライン勉強会「はじめての反転授業&アクティブラーニング実践」には、第1部に65名、第2部に34名の方が参加してくださいました。

藤本かおるさん、ギュンター知枝さんのお二人が、実際に実践してみて感じたことを率直に語ってくださり、参加者のみなさんは、それぞれ、感じることがあったようです。

参加者の皆さんの声をシェアすることによって、学びを立体的なものにし、理解を深めていきたいと思います。

【関連記事】

第12回反転授業オンライン勉強会「はじめての反転授業&アクティブラーニング実践」

首都大学東京国際センター日本語講師の藤本かおるさんにインタビュー

徳島大学共通教育センター ドイツ語非常勤講師 ギュンター知枝さんにインタビュー

第1部「はじめての反転授業&アクティブラーニング実践」への感想

 

クリエイティブライティング
アウトプット中心の進行が効果的だということがわかりました。
初めての参加なのですが、今回参加することで、受け手の思いを体験することができました。
初めて参加しましたが、大変参考になりました。現場の苦労が良くわかりました。時代は動いています。このような勉強会は有意義だと思います。
きれるお話でワクワクしました。
参考にさせていただきたいと思います。
途中から参加でしたので、もっと詳しく聞きたかったです。
教員といいながら、教育学の訓練をまったく受けておりませんので、多数の新しい言葉、仕組み、概念の提示があり本当に参考になりました。ちょっと本質を外れるかもしれませんがWisIQ自体にも非常に興味を持ちました。今回提示していただいたものをきっかけにさっそく自己学習を進めてみようと思います。何よりも教育者の先輩であるみなさんが試行錯誤されている姿勢に心が動きました。ありがとうございました。
藤本かおるさんの反転授業についてで、実践するにはどのような課題があるか、どう解決されているかがわかり、勉強になりました。大規模な学校でなくても、または学校全体でなくても、ひとりの先生でもやろうと思えば、実践できるのだとわかりました。ご苦労は多いかと思いますが、今後も頑張って続けていただきたいと思います。
両先生とも貴重な経験を話してくださり、ありがとうございました。
反転授業という授業形態を選択し、実際の場でそれを実行するためのノウハウやハードルは、学生であり、教育に関わる専攻ではない私にとっても興味深い話であったと思います。
特に大学内で使われているmoodleであったりのサービスは、反転授業に有効なのだと分かり、この手のシステムはこれからの教育で中心になってくるだろうと思いました。そのため、このような教育システムの研究をするのもおもしろいだろうなと感じられました。
・「勢い」という言葉が出てきましたが、とにかくできることをやってみるというお話に力を頂きました。
・著作権、動画の配信方法について知りたいと思いました。
・言語をなんのために学習するか?という問いに、自分を表現するためという答えを見て、感動でした。知的障害があって支援の必要な子どもにとって「リアルな学習」とは何かを考えさせられました。でも、今日のお話のお答えと同じでした。
藤本先生のアクティブラーニングの実践されていることにいくつか参考になるところがありました。動画の長さは10分以内とか、説明するときには多少噛んでもよい など。著作権の話は、これからのアクティブラーニングを実践していくうえでの課題であることに改めて認識しました。ギュンダー先生については、「ドイツ語をいかにして教えるか」という熱意はすごく感じましたが、アクティブラーニングについて、はあんまり語っていないように思えました。

今回初めて勉強会に参加させてもらいました。また機会があれば、第2部にも参加したいと思っています。今日はありがとうございました。

藤本さんのお話を伺って、著作権問題をどのようにクリアするかが課題だと感じました。今後勉強会でも取り上げていただきたいです。

ギュンターさんが「ドイツ語を学ぶことの喜び」をクラスの中に作り出そうとしている姿勢に心打たれました。6 Words Writingや文集作りは自分のクラスでもやってみたいと思います。

語学教育という、私にとっては未知の世界の話でしたが、私の行っている工学教育と共通する点があると感じました。反転授業の布教?をしていると、「私の分野には向かない」とおっしゃる方が少なからず居らっしゃいます。本学でも語学教育の方が、そのようなことをおっしゃっていましたが、そんなことはない、という想いを新たにしました。

藤本さんのご講演では、やはり著作権の問題が引っかかりました。FBの反転授業の研究のポストへのコメントとして、丁度この勉強会中に望月陽一郎さんが著作権35条に対するガイドラインのリンクを張られていました。このガイドラインをどのようにとらえるべきなのか、きちんとした法律の専門家を交えて勉強会を開く必要がある、と強く感じました。著作権法を変えてもらうべく、政治家に相談する必要も出てくるかもしれません。反転授業やMOOCといった新しい教育方法が日本で根付けるかどうかは、著作権の問題をクリアできるか否かにかかってくる、ような気がします。

http://jbpa.or.jp/pdf/guideline/act_article35_guideline.pdf

ギュンターさんの「書くために
表現方法(単語や文法)を 学ぶ」は素晴らしいですね.仕事柄学生たちが書いた論文(日本語、英語)を時折校正します。言うなれば「(実際の文章を)書かせて学ばせる」ことに相当していますが、文法の知識もなく、語彙も少ない学生が書いた論文を校正するのは本当に大変です。そういう視点の言語教育を自分でも受けたかったですし、今の学生たちにも受けさせたい、と強く思います。

長くなるのでやめますが、お二人とも素晴らしいご講演ありがとうございました。これからも益々のご活躍をお祈り申し上げます。

途中から参加し、さらに海外の図書館を通じて接続していたために動画やチャットを上手くフォローできませんでした。コースコーディネーターについてのご指摘など深く同意致します。ロゴスウェアはぜひ使ってみたいと思います。その他にもいろいろと勉強になりました。
ギュンターさんのご報告もいろいろと参考になりました。私もドイツ語を教えておりますので、英語とは異なった難しいところなど、よく分かる気が致します。Quizletの利用など、いろいろと学ばせていただきたいと思います。参考資料として挙げられた文献も読んでみたいと思います。貴重なご報告、どうもありがとうございます。
反転授業における動画作成上の課題として著作権があり、どこまでがグレーなのかが良くわからないので、取り掛かるのに二の足を踏みそうです。
また、チームティーチングである以上、こうした新しい試みを始めるのもかなり難しそうです。日本語教師の多くは主婦が多く、IT系には不慣れな教師が多いのも事実です。まずは自分だけが担当する科目だけでやってみるしかなさそうですね。以前は教える技術・腕を上げようとしていましたが、最近は学習者の質が変わってきたこともあり、どうやって彼らをやる気にさせるか?その方法は?ということに焦点が移ってきて、アクティブ・ラーニング、主体的な学びを引き起こす方法、教育心理学などに興味が湧いています。CMの「やる気スイッチ」が押せるような授業にするためにはどうしたらいいのか・・・そちらについても反転授業と共に勉強していきます。この度はありがとうございました。
すいません
とても眠くてこの時間はつらいです。もう少し早い時間が次回はお願いしたいです
1人15分ぐらいだと集中しやすいです間5分休憩で2人目のとかどうでしょうか。
15分-30分でぐらいでまとめられる気がします
藤本先生のお話は具体的で分かりやすかったです。ギュンター先生のお話は、途中で寝落ちしてしまいました。あとでもう一度見直したいと思います。
反転授業における実践に即した様々な知識を吸収出来ました。改めて、PDFなども参考に学習させて頂きます。初参加でしたが、ぐいぐいと引き込まれました。
予備知識を田原さんから流してもらいましたが、改めて本人からのまとめを見て、発見がありました。ギュンターさんのパワポのイラストの効果とか。いろいろヒントがありました。ありがとうございました。
非常に盛りだくさんな内容で刺激的でした。
皆さんのチャットの盛り上がりにとても驚きました。私も時々オンラインセミナーやりますが、なかなかここまで盛り上げられません^^;

著作権の問題はとても共感しました。
動画をどこにどのようにあげるのかといったようなことも、先生にとって意外とハードルが高いのだと感じました。

お二人とも準備大変だったと思います。お疲れ様でした。

藤本さんのお話は試行錯誤の過程がよく分かり、また何が課題かもはっきりして参考になりました。効果として全体の学習量が上がっていることは反転授業のメリットを示しているのではないかと思いました。

Chieさんの話は、生徒から好評だった授業内容を変えてでも、本当の学びを生徒に届けたいという真摯な気持ちが伝わってきました。
チャットにも書きましたが、教師としての成長が授業に反映され、生徒に本質的な学びを伝える工夫が感じられました。Chieさんご自身が学習者として優れているため出来ることだと感じました。取り組みだけでなく姿勢を見習いたいと思いました。

ありがとうございました。

お話されたお二人とも、実体験に基づいたリアルな報告でとても刺激になりました。悩んでいるのは自分だけではないと励まされました。

私自身も今、授業で使える動画教材に興味があるので、著作権の問題はもっと詳しく知りたいと思いました。チャットボックスにも出ていましたが、ガイドラインの整備が待たれるところです。なにが正しいのか、分からないことが多すぎて、結局ハードルが高くなっている気がします…。

著作権に関しては非常に関心が高い部分で、今後ガイドラインのようなものが見えてくることを期待しています。また、ギュンターさんのお話では、これまでの授業の変遷に沿って話をして頂き分かりやすかったです。さまざまな段階で実践されている方にとって参考になったと思いました。学問は「ものごとを表現するツール」という考え方は(科学を専攻していたため)以前から持っていましたが、それを授業内にまで浸透できていなかったことに気付きました。
ありがとうございました。

第一部は、どこから入ればいいのかがわからず、うろうろしてしまいました。以前、オンライン勉強会に参加させていただいたときは、すぐに入室できた覚えがあるのですが、私、何か見落としていたでしょうか…。

藤本さんの発表は、おなじ大学で教えていることもあり、共感ができました。特に人間関係の難しさが…高校などで教えている友人に聞いても、このような人間関係の難しさはないようなので、これは大学に特有のものなのか?と思っていましたが、藤本さんのところも似た感じなのかなと勝手に思ってしまいました。あと、反転をするなら、学生が見たということが履歴に残るようにしたほうがいいなと思いました。

ギュンターさんの発表は、「ツール」というところまではわかったのですが、その後のクリエイティブ・ラーニング等、実際の教室活動や学生の運用場面で、どの程度「ツール」として使えているのかが見えづらかったです。ドイツ語検定○級レベル(は英検で言うところの○級くらいです)という感じの説明があるとよかったかなと思いました。

藤本かおるさんの授業では、日本語の文法をある程度習得してから、反転を始めていること。外国人は日本語を書くことが苦手なので、書かせてから話す活動をさせている。また、ギュンターさんがドイツ語を学ぶ上でも、文法を学んでから6 words story、リストポエムなど書かせる活動をして話させるようにされていて共通点を感じました。私も中学生に英語を教えるので、中学1年生から文法を学んで書いてから話すという流れに共感しました。サイボウズLiveなど試してみたいと思いました。ありがとうございました。
前半は聞く事が出来なかったがギュンター先生のドイツ語の作文を授業に導入している事は印象深かった。
チャットでも活発にインターラクティブな授業となり、大変良かったと思います。
両先生のご経験を具体的にお話いただき、非常に貴重な時間を過ごすことができたと感じております。特に、中心となって授業を進める立場にない場合に、どのように授業の変革を進めるかという部分は参考になりました。学生に対する真摯な姿勢、授業をより良くしようというお気持ちが感じられ、勇気をいただいたような気がいたします。
今回は語学教育に関するお話でしたが、語学はツールであるという視点に立ち、段階を追って工夫を重ねられた点も興味深く聴かせていただきました。私は看護に関わる技術を教える立場におりますが、教員・学生ともに技術を習得することが目的となってしまいがちです。限られた時間の中で一歩進んだ授業を展開するために、反転授業やアクティブラーニングは武器になると確信いたしました。
私は教員経験が浅く、反転授業についても勉強を始めたばかりです。オンライン勉強会に初めて参加させていただきましたが、新しいキーワード(インストラクショナルデザイン、オンライン質問会議、Quizlet等々)を沢山得られた点も有意義でした。
今回は第1部のみ参加させていただきましたが、次回はぜひグループワークにも参加させていただきたいと存じます。この度は勉強会に参加させていただき、誠にありがとうございました。
自分に引き寄せて考えやすいプレゼンの流れや内容で話してくださったので、聞きながら自分の実践や問題、課題について振り返ったり自身に問いかけたりする瞬間が多く、それがお話のポイントすべてで起こったことがとても印象的な勉強会となりました。

1講師としての地道で勇気のある試行錯誤がお二人のお話の共通のテーマであり、私自身に日々つきつけられているテーマであるからだと思います。

日々の雑務に忙殺され、周囲の協力が思うように得られない状況が続いたりして、なんとなく後回しにしてたことに気付かされました。
そして、自分の実践のプライオリティが上がりました。

ありがとうございました!

まず、田原さん、語学教育における反転授業&アクティブラーニング実践という素晴らしい企画をありがとうございました。

経歴もとても興味深い藤本さん、ギュンターさんのお話は大変刺激になりました。ありがとうございました。

藤本さん
私も同じ日本語教育に携わっているので、日本語教師と同じぐらいe-learningに取り組んで来たという藤本さんの反転授業の実践は説得力があると同時に、共感する部分多かったです。日本語教育/日本語教師を対象としたFB groupでお話をされても、学べることが多い内容だったと思います。

動画コンテンツの作成自体も課題ですが、教室での活動をどう変えていくかも課題となるということを再認識しました。また、作り込んでしまいたい気持ちを抑えることの重要性についての指摘、コンテンツ作成で気をつけるべき5点などは参考になりました。著作権についてははっきりしない部分があるということもわかりました。

私はニュージーランドの高校でも日本語を教えた経験があり、日本の高校同様、一つのクラスは一人で担当するのですが、大学ではチームティーチングが一般的のようで、当初は多少戸惑いました。私の大学でもチームティーチングをしているので、反転授業に限らず、担当スタッフの賛同を得ることが重要なので、いいチームであることが成功の鍵ですね。

ギュンターさん
ギュンターさんの第一スライドの『大学の教授の多くは授業を「必要悪」だと思っている?』というのに失笑、納得してしまいました。
(私は日本の高校の英語教員、ニュージーランドの高校の日本語教員を経て大学の教員となったので、授業に時間をかけ過ぎて研究がおろそかになりがちです。)

短期間でドイツ語を習得されたように、ドイツ語を教えることについてもすごい勢いで学んで教え方を発展させて来たという印象を持ちました。

「言語はツールである」というのは全く同感です。従来の文型積み重ね型の教え方は「知っていればいつか役に立つから学んでおこう」、「今言いたいことはその文型が出て来る中級まで待ってね」という前提に立っていると言えます。コミュニカティブアプローチのロールプレイやシュミレーションも「偽物」の中に入るかもしれません。実践共同体(Community of Practice)での十全参加への過程を学習とする状況的学習観(situated learning)が注目を集めたのも自然な流れだったと思います。この学習観は、引用されたサルマンカーンの「全ての学習内容はつながっている」にも関係しているかもしれません。

お二人のこれからのご活躍を楽しみにしています。

アクティブ・ラーニングの必要性は既に強く感じているので,共感することばかりでした。身近なところに題材をとり,生徒の興味を引きつけることが大切だと感じました。
動画作成において「凝りすぎない」ということは、その通りだと思いました。動画はあくまでも教材作成の一部であり、通常の授業準備や他の校務に支障をきたすと本末転倒だと思います。持続性を持たせるためにも大切な視点だと思いました。
また、生徒に対して事前のトレーニングやオリエンテーションなどが必要であるということを確認できてよかったです。
著作権については、今後学ぶ必要があると思いました。
お二人とも、笑い声のたえない授業が想像できました。かおるさんは、e-learningの基盤ががっつりあるのがよくわかりました。EEに出会って「とうとうこの時代が来たか」というのが印象的でした。私はプロではないのに、日本語を教えなければならず、四苦八苦しているので、アドバイスいただけたらな、と思いました。一方、Chieさんは、芸術の基盤があって、いつも授業を愉しくするにはどうしたらいいか考えているのがよくわかりました。お二人とも実践の考え方に私と共通するところも多々あり、勉強になりました。ありがとうございました。
今回は、日本語教育におけるFTということで、大変興味深く参加させていただきました。
これから分野別(日本語教育、英語教育、物理等)に部会などができれば面白いですね。
ありがとうございました。
「反転の森」から動画を視聴しました。
今まで授業に使ってきたpptを利用して反転授業を始めようと思っている自分にとって、まさに知りたいことがたくさんとりあげられて、大変参考になりました。藤本さんのお話からは教科書の例文の著作権や視聴ログなどのヒントをいただきましたし、お二人の「とにかくやってみたら」というアドバイスにも勇気づけられました。
「すべての学習内容は物事や自分を表現するためにある」というギュンターさんのお話にも共感を覚えました。それを根本に据えて授業をデザインしていきたいです。
藤本さん、Chieさんの取り組みがよくわかってよかった。藤木さんは教材作りで結構苦労されている様子でした。反転の森や反転授業のFBページから解決策を拾い出されるとよいのではと感じます。
Chieさんの講義を聞いてまた外国語をやらないとと感じます。
自宅で参加ができる、このオンライン勉強会は大変ありがたいです。iPadの接続に不具合があって、途中で確認できない時間帯がありましたが、事前のインタビュー記事などの助けもあって、お二方のお話ともに大変参考になりました。
特にギュンターさんの、これまでの過程での段階的な説明が説得力があって、悩みやジレンマにも大いに共感しました。
今年度の後半から少しずつ反転授業的な内容を取り入れていきたいと思っており、これからも勉強させていただきます。
 藤本さん、ギュンターさん、共に実践者なので、お話の内容が具体的で、分り良かったです。
藤本さんのお話について一言。
紹介の対象になったのは、日本語能力試験(JLPT)のN3レベルのクラスで、媒介語は日本語とのことでしたが、N3以下のレベル、特にN5(当初の日本語運用能力はゼロ)レベルの動画を作成する場合、媒介語に学習者の母語を使わざるを得ないと考えます。(私は初級日本語独習用CDを作成したことがありますが、心ならずも学生の母語を媒介語として使わざるを得ませんでした)。
少なくとも、日本国内における日本語教育では、JLPT/N5でも最初から「日本語を日本語で」が原則になっていると思われます。それを、反転授業では英語ないし学習者の母語を媒介語として使うのは一歩後退なのではないのかと思えます。
藤本さんと田原さんの対談で藤本さんは入門レベルを反転で行なうのには問題があるという趣旨のことをおっしゃっていらっしゃったと記憶していますが、媒介語のことを念頭にそうおっしゃったのでしょうか。
* * * * *
(この機会に簡単に自己紹介いたします。私は伊国ボローニャ大学で45年間、主に日本語教育に携わり、2009年秋に定年退官。その後今日まで非常勤で実質同じことをしてきましたが、健康上の理由で来る10月末日をもって全面的に引退します。従って、もう教えるクラスはありませんが、反転授業をイタリアの大学に導入する一助にとこの先も頑張るつもりです。イタリアの大学HPでflippedを少し検索してみましたが、何も出て来ませんから、この国の大学教師たちは未だに眠りこけているようです[私も去る5月半ばに知ったばかりですが]。MOOCはローマ大、ヴェネツィア大で出て来ました。
なお、私は去る7月に読売教育賞 外国語教育部門 優秀賞を受けましたが、受賞対象の実践CLILが反転授業に一脈通じるところがあるのを知り、反転授業に興味を抱き、田原グループに参加した次第なのです。よろしくお願いいたします)。以上
途中からの参加でしたが、内容は大体把握しました。
トライしてみたいこともありました。入室に戸惑ってしまい、スムースに入室できたらいいなと感じます。
 藤本さんの反転授業実践のお話で印象に残ったのは「著作権」です。
動画コンテンツを作る際のテクニックや、セキュリティがかけられる配信システム(パスワードで視聴制限がかけられるもの)は、具体的な対策として参考になります。
さらに、他の実践者にもアンケートをとって、具体的な対策を皆さんはどのようにしているのかを知りたいです。ギュンター知枝さんが、ドイツ語=使うあてのないもの・「必要悪」をなぜ教えているのか?という自問から出発し、ドイツ語でのクリエイティブ・ライティングを学生たちがサイボウズLiveに投稿する迄に至った経緯を、興味深く拝見いたしました。
学んだもののアウトプットを、藤本さんは「個人化作文」、そしてギュンターさんが「クリエイティブ・ライティング」という形で実施していることは、学生に学んだものを定着させたい・学ぶことを喜びに変えたいという、教師であるお二人の意欲と工夫が感じられました。
日本語教育機関に属しているわけではなく、個人で顧客を取って教えている私には、反転授業「的」なものはできても、なかなか世間で行われているとおりの反転授業ができなかったので、とても気になっていました。
今回は、教育機関で反転授業がどう行われているのか、その運営方法と困難点などについてお聞きしたかったので、それがわかって大変ありがたかったです。
著作権については、今までも勉強してはきましたが、もうその知識では足りないことを痛感しました。
そこはこれからさらに多くの人と情報を共有していきたいです。
すばらしい機会をありがとうございました。

藤本さんの発表をきっかけに、著作権についての関心が高まり、動画作成をするときの著作権の問題をどうするかという探究テーマが生まれました。デジタルコンテンツの著作権について詳しい方を探して勉強しようということになり、教育用デジタル著作物の権利処理調整コンソーシアム設立研究会の設立に取り組んでいる皆さんもグループに加わっていただけることになりました。

ギュンターさんの「自分を表現するためのツールとして学ぶ」というお話は、ドイツ語という範疇を超え、様々な学びに共通する枠組みだと思います。そのため、多くの人に授業について考えるきっかけを与えてくれたのではないかと思います。

第2部 グループワークの感想

グループワークでは、

・やりたいことを妨げる壁は何か。
・壁を乗り越えるためにできることは何か。

という2つの問いについて、6つのグループに分かれて話していただきました。

ルームの参加者が3名と少ないのでちょっと残念でしたが、話はできました。
5から6名ほどでグループをつくってほしいとおもいました。
テキストと映像とは話にくいので、できればビデオチームとテキストチームとわけたほうがいいとおもいます。
次回は当日リーダをあらかじめきめておいたほうがよろしいかとおもいます、
他の先生の実践のお話から、新たな視点に気付くことができました。やはり、反転授業はコンテンツを作る側の技術的な問題、学習者側のモチベーションをどう維持するか、など、まだまだ課題があると感じました。国内の学習者で、身近にネイティブの先生がいれば、「なぜあえてオンライン?」と、バーチャル学習にあまり興味を示さない学生がいるのも事実です。
全くの初心者を受け入れて頂き、メンバーの皆さまに感謝です。それぞれの課題と通じる点や、現状の課題などを教えて頂き、有意義でした。ありがとうございました!
 少し時間が短く、残念でした。skypeで利用していたWEBカメラが紛失してしまい、急きょ別のものを利用したためビデオまでできず残念でした。前回、テキストしかできなかったから1歩前進と考えます。何もつけずに素の藤本さんを初めて見て最初わかりませんでした。動画講座?の活躍がすごかったですから頭から離れません。
グループに割り振ってもらった時にflashのクラッシュでフリーズしてしまい、ご迷惑をおかけしました。

スキルの差や地域や学校の方針などにまだまだばらつきがあるのだなと感じました。

やはりビデオで発信するというのはよいアウトプットになりますね。完結に言いたいことを言わねばと思い、頭が整理されると感じました。
非常に反転授業の勉強にもなりました。反転授業用のオンラインのクラウドコンテンツのプラットフォームを企画していたのですが、色々課題があり頓挫してしまっておりました。ですが、こちらに参加してまたちょっとやる気が出てきました(笑)!
グループリーダーとして参加させてもらいました。
全員がビデオチャットで参加となり進行は大変やりやすかったです。
皆さんの課題や解決方法を聞いて、共通する部分が多くもっと掘り下げて話を伺いたいところでした。
詳しくは後ほどレポートにまとめて「反転授業の森」に投稿しておきます。
最初私ともうお一方のふたりだけでした。
しかも私はテキストのみの参加だったので、もうお一方の塚本さんは大変やりにくかったのではないかと思います。しかしリードしてくださり助かりました。結局最後3名のみで、すこしさみしかったですが、違う環境に身を置く方々のお話が聞けてよかったです。ありがとうございました。
私のルームは、テキストチャット1名と静観者1名で、実質一対一となりましたが、まだまだ話を伺いたいなという気持ちになりました。やはり情報量を考えるとビデオもしくはボイスは有効だと感じました。
初めての参加でしたので、どのようにすればいいかわからず戸惑いました。また、時間の関係でとにかく打ち込む、ということでしたので、話の流れが見えにくくなりましたので(「はい」だけだと、何に対する返事なのかわかりませんし)、テキストチャットでは工夫が必要だなと思いました。

久しぶりのオンライン勉強会で、操作に手間取ったところも多かったのですが、最後まで参加できてよかったです。ありがとうございました。

少人数で話ができてとてもよかったです。経験がおありの先生から、IT企業の方もいて、短時間でしたがもっともっと話がしたいと思いました。声がハウリングして聞き取りにくいところがありました。やはりマイクとヘッドホンなど用意したほうがいいのでしょうか。初心者のようで恥ずかしいのですが、これに関しても田原さんにアドバイスいただけると助かります。また、本日出てきたアプリなども説明がいただけると助かります。ありがとうございました。初めて、ビデオチャットができました。よかったです。
ハウリング、音周りがあり、慎重に視聴しながら参加した。職場で導入したいが、周りの理解が・・・・との話は我々の活動を大きくし、反転学習の認知度を上げなければ、と感じ入った言葉だった。より高い生産性を上げるよう日々精進しなければならないと思いました。
ハウリング、音周りがあり、慎重に視聴しながら参加した。職場で導入したいが、周りの理解が・・・・との話は我々の活動を大きくし、反転学習の認知度を上げなければ、と感じ入った言葉だった。より高い生産性を上げるよう日々精進しなければならないと思いました。
藤本先生がリードしてくれた事もあり、反転授業を進める際の問題点や懸念する点などを本音でみなさんが語ってくれて、良い議論になったと思います。
ただ、音声が人によってよく聞こえたり、聞こえにくかったりしました。自分自身の音声も、聞き取りにくい事があったようです。
ビデオチャットの参加、初めてしてみました。タイミングはメッセージ
チャットより、ずっとつかみやすく話しやすかったです。ギュンターさんとchumakoさんと話しましたが、3人共同じ語学の
教室での実践について話し合えたので、お互いの問題点や対処の方法がイメージしやすく刺激のある時間になったと思います。
参加できなかったので,まとめを拝見しました。参加者の声の中で,ここまで成績があがったのは驚き,と書いてあり,とても興味を持ちました。軌道に乗るまでは成績が一時的に下がることもやむを得ないと思っていたので,驚きです。私自身は,前期の間,アクティブ・ラーニングを取り入れて,より生徒に考えさせ,参加させる授業を心がけてきたのですが,生徒・保護者から「分からない,きちんと教えて欲しい」と強い反発を受け,後期の授業展開に悩んでいます。
テキストでのグループワークとなりましたが、最終的にメンバーが8人ということで、他の方の意見をインプットすることが難しかったように思います。ビデオチャットだとその点は改善されると思うのですが、グループワークの時間(30分??)を考えると、ここでも適正人数は5~6人なのかなと思いました。
一部の方は、途切れ途切れになっていました。各家庭が職場へのネットの通信速度が遅いのでしょう。事前にダウン、アップの速度を測ってビデオにするかボイスにするかテキストチャットにするか決めるとよさそうです。
チャットがオールでしたが、特定の方とできたら尚よかったと思います。Vキューブさんには突っ込んだ質問をしたかったので。ww

グループワークについては、ビデオ・ボイス・テキストチャットという3通りの参加の仕方とグループ分けの仕方をどうするかなど、今後、試行錯誤をしていく必要があると思います。

行動しながら、皆さんの声を参考にしつつ、いろいろなことを試していきたいと思います。

勉強会の録画動画は、「反転授業の森」で公開しています。無料で登録できますので、興味のある方は会員登録してご覧ください。

 

『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』がついに発売!

田原です。こんにちは。
 
 
探究学舎代表の宝槻泰伸さんの書籍が、本日から発売になります。
 

「反転授業の研究」では、たくさんの出会いがあり、たくさんのコラボが生まれています。
 
 
この本にも、このグループでの出会いが関係しています。
 
 
反転授業の1つのテーマである「主体的な学び」を引き起こすために、生徒にどのようにして働きかければよいのか?
 
 
これを勉強会のテーマにしたいと思ったとき、真っ先に頭に浮かんだのが、探究学舎の宝槻さんのことでした。
 
 
宝槻さんがFacebookグループに参加され、自己紹介を投稿したときから、その活動に興味があり、HPを見て感想を送ったり、FBメッセージでやり取りしたりしていました。
 
 
それで、2014年4月23日に実施した第8回反転授業オンライン勉強会「探究型学習と学習意欲」で登壇していただくことにしました。

そのときのインタビュー記事はこちら

オンラインで交流しているうちに、一度、お会いしてみたくなり、東京、高円寺の喫茶店で会いました。
 
 
高円寺に現れた探究学舎の塾長、宝槻泰伸さんは、白いシャツを身にまとい、とても精悍な雰囲気の方でした。
 
 
早速、コーヒーを飲みながら、探究型学習について話し始めました。
 
 
僕が知りたかったのは、そもそもどうして宝槻さんが、探究型学習というものに目をつけたのかということでした。
 
 
宝槻さんが高校を中退して、NHKスペシャルや映画を見て勉強し、京都大学へ合格したという異色の経歴の持ち主だということを知っていたので、そこに探究型学習や学習意欲を理解するヒントがあると思ったのです。

一方、宝槻さんは、探究型学習のノウハウをどうやって広めていこうか試行錯誤している状態でした。
 
 
Webを使って10年以上ネット予備校を運営し、反転授業のFacebookグループを大きくしてきた経験が、もしかしたら宝槻さんに役立つかもしれないと思いました。
 

宝槻さんとの会話は、とてもエキサイティングで、コーヒーを飲むのを忘れるほど熱中しました。
 
 
僕の質問

「宝槻さんや、2人の弟さんが、高校へ行かずに、探究型の学習をして、3人とも京都大学に合格したというところに、大きなヒントがあると思うんですが、それは、どういうことだったんですか?」
 
宝槻さん

「実は、それには秘密があって・・・ウチには強烈なオヤジがいて・・」
 
 
それは、驚くべき内容でした。
 

宝槻さんが語ったのは、心に火をつけるための超具体的な方法でした。
 
 
宝槻さんのオヤジさんは、3人の息子をはじめ、たくさんの子供の心に火をつけ、知的感動体験をさせることを通して自ら学ぶ力をつけ、その結果として、難関大へ合格させていたのでした。
 
 
そのとき、宝槻さんは、探求学習に使用できる動画「TanQ Cinema」を、どのように広めていくのかということを考えていたのですが、僕から見ると、コンテンツよりも、宝槻さん自身が身を持って体験した探究型学習のノウハウのほうが、魅力的に見えました。

また、学校に任せっきりにせず、親が子供の教育に関わっていくという考え方にもとても共感しました。
 
 
それで、その感想を宝槻さんにフィードバックしました。

「宝槻さん、その話、本当にすごいですよ。それを、Webで物語として書きませんか?」

「探究型学習の重要性に気づいている人は、まだまだ少数派なので、地域限定でやるよりも、Webで日本全国を対象にしたほうがいいですよ。」

「日本全国に薄く広く分布している人たちにメッセージを送って、ネットワークを作りましょうよ!」
 
 
僕は、興奮して早口でしゃべりまくりました。

共感によるネットワークを作るために、「物語」が大きな力を発揮することを、「eboard物語」のクラウドファンディング企画で実感していたので、宝槻さんに物語を書くメリットについて熱弁をふるいました。

 
その後、「オヤジさんの果たした役割」について、二人で思考の抽象度を上げていきました。
 
 
特に重要だと思った要素は、次の4つ。

 
・「オヤジ」は、発達段階に合わせて「心に火をつけるコンテンツ」を配置する。

・子供は、「オヤジ」の勧めるものだから面白いはずだという信頼を担保にコンテンツに取り組む。

・「オヤジ」は、子供が楽しんでコンテンツに取り組めるような仕組み作りをする。

・知的感動体験を通して、子供は自分で学ぶ力をつける・

話しているうちに、情報発信をしていくターゲットが見えてきました。

田原「ターゲットは、」

宝槻さん「親ですね!」

対話の中で、二人のアイディアを混ぜ合わせて、化学反応がバチバチ起こった結果、解が見つかりました。
 
 
Teachingを親がするのは難しくても、Coachingなら十分にできます。
 

Webに魅力的なコンテンツが溢れている現在、家庭学習の可能性が、大きく広がっていることを、僕自身も実感していたので、時代を大きく先取りしている宝槻さんの学習体験とノウハウに、大きな価値があると感じました。
 
 
家庭学習に革命が起こるかもしれないという思いが生まれて、ワクワクしました。
 
 
子供と信頼関係にある親が、世界に存在するコンテンツを子供に紹介し、子供の心に火をつけ、知的感動体験を通して自ら学ぶ力を育てる。

ここでの、子供と親の役割は、反転授業における生徒と教師のやり方と重なります。

「壇上の賢人からガイド役へ」のガイド役になるためのノウハウを宝槻さんは、たっぷりと蓄えていたのです。

 
話しているうちに、2人とも、深い納得感に包まれました。
 
 
この後の、宝槻さんの行動は、ものすごかったです。

まさに、火がついたような行動力を見せました。

 
宝槻さんは、早速、Story.JPにオヤジさんの物語を書き始めました。
  
 
『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』

これが、あっという間にStory.JPで殿堂入りに。

さらに、東洋経済でインタビューされることに。

高校も塾も行かずに合格! 京大3兄弟の秘密

宝槻さんの勢いは止まりません。

「探究ダイアログ」をスタートし、各地を回って、保護者と探究型学習についての対話を始めました。

そして、ついに書籍化の話が・・・・。
 

喫茶店で会ったのが4月のはじめ。

Story.JPで話題になっていたのが5月。

その後、執筆をスタートして8月に出版。

宝槻さんの周りを、時間がものすごいスピードで流れ始めました。

反転授業やアクティブラーニングは、主体的な学びをどうやって導くのかが大きなテーマになると思います。

宝槻さんの物語は、どうやったら学習意欲に点火することができるのかを示す、非常に参考になる事例になっています。

本日から発売です。(僕も早速、購入しました!)

反転授業は、教師を成長させる

田原です。
こんにちは。
 
 
子供のころには、身の回りにたくさんの「未体験ゾーン」がありました。
 
・一人で駄菓子屋で買い食いすること
・一人でバスに乗ること 
・裏山の山道がどこへつながっているのか確かめること
 
などなど。
  
 
それらの「未体験ゾーン」に足を踏み入れるときは、本当にどきどきしたものです。
 
そして、「未体験ゾーン」を制覇するたびに世界が広がるのを実感していました。
 
 
大人になるにつれて、「未体験ゾーン」は減っていきます。
  
そして、なじみのある世界の内部で同じことを繰り返す生活になりがちです。
 
 
同じことを繰り返していると、スキルはどんどん上がっていきますが、その一方で生活はどんどんルーチンワークになっていき、行動が無意識化に沈んでいきます。
 
僕が予備校講師として物理の授業をやっていたときは、大教室でマイクをつけて、多いときは50人~70人の前で授業をしていました。
 
予備校講師になりたてで授業が下手だったころ、つまり、職場という未体験ゾーンに入りたてのころは、何とかうまくなろうと必死で、いろんなことを吸収していました。
 
しかし、5年もすると授業改善も一段落し、同じ授業を繰り返すようになってきました。
 
教室に入ってテキストを開くと、自動的に口から言葉が出てくるようになりました。
 
本当に録音された音声を再生するように、出てくるんです。
 
ちょっとこれはまずいんじゃないかと思い、危機感を感じて、他のことにも挑戦しようと思いました。
  
 
その後、

授業のネット配信を始めたり、
河合塾マナビスのDVD授業作成をしたり、
 
別のことに挑戦して、授業に対する視点を変えることで、興味を維持しつつ、少しずつさらに授業を改善することができました。
 
しかし、それも、さらに5年が過ぎるころには飽和し、再びルーチンワークに・・・。

 
ところが、反転授業のことを知り、AL型に変えたことで、授業に対する意欲が、再び燃え上がってきました。
 
受講者が中心となる授業なので、同じテーマで授業をしても、そこで起こることは、毎回、違ったものになります。
 
まさに、「ライブ」なんですね。
 
だから、AL型だと授業をする側も楽しいし、もっと改善してみようと意欲がわいてきます。
 
これは、一斉講義をやっていたときとの大きな違いです。
 
 
ルーチンワークから抜け出して、好奇心の扉を開くためには、意識的に自分に刺激を与えて、日常に亀裂を入れて「未体験ゾーン」に踏み込んでいく必要があると感じています。
 
自分とは別世界の人と交流するのも良いかもしれませんし、今までとは違うやり方に挑戦することでもよいかもしれません。
 
 
8/26の勉強会でお話しくださる藤本かおるさんは、10年以上、二足のわらじを履く生活を送っていたそうです。

日本語教師として働きながら、放送大学で学んだり、
日本語教師として働きながら、大学院で研究したり、
 
このように複数のことを同時にやっていると、活動が相互に影響しあって気づきが生まれやすくなり、ルーチンワークに陥りにくくなるのではないかと思いました。
  
 
先日、藤本さんにインタビューしたときに、とても面白い話がありました。
 
藤本さんは、日本語教師として授業をしているときに、生徒の私語を止めさせるのがすごく上手だったのだそうです。
 
授業力があって、クラスをコントロールする力がある先生の特徴だと思います。
 
その頃、藤本さんは日本語教師と大学院生の二束のわらじを履いていて、大学院ではeLearningとビデオ会議システムを使った遠隔のBlended Learningの研究をしていました。
 
それで、対面の授業と同じ授業を遠隔でインドと台湾の学生に行ったのです。
 
  
そこで、何が起こったか?
 
ビデオ会議で授業を行うことで、藤本さんのコントロール力が弱まり、生徒の私語が増えたのだそうです。
 
しゃべっている内容は遠隔授業では聞き取ることができず、また、聞き取れたとしても、藤本さんには理解できない母語でしゃべっていたりするので、内容は分からないのですが、となり同士でしゃべっていることが多かったのだそうです。
 
対面の授業であれば、藤本さんは巧みにクラスをコントロールしてそれをやめさせたことでしょう。
 
しかし、それをよくよく観察してみると、いわゆる「私語」ではなく、分からないことを相談して、教えあっているようで、となりとしゃべった後、回答が出てくることが多かったのだそうです。
 
 
遠隔授業によって、教師のコントロール力が弱まったことで、生徒の自律的な学習が生まれたことに気づいた藤本さんは、対面授業でも、「私語」への対応を変えていったのだそうです。
 
大学院での研究で生まれた気づきを、日本語教師としての授業に生かしたんですね。
 
現在、反転授業に取り組まれている藤本さんは、反転授業実践を通して、自分のルーチン化した教え方を振り返り、改善できるという感覚を得ているそうです。
 

「反転授業は、教師を成長させる」というのは、これまで、あまり論じられてこなかった視点ですね。
 
遠隔教育についての藤本さんの研究は、こちらで読むことができます。
  
藤本さんのインタビューも合わせてお読みください。
 
 
藤本さんがお話しくださる第12回反転授業オンライン勉強会は、8/26日の21:45からです。
 
詳しくはこちら

飛躍するためには、一度しゃがむ必要がある

田原です。
こんにちは。
 
ある一つのやり方を続けていると、次第に改善されてきて、やがて、これ以上改善できないところまで到達します。
 
そこから、さらに発展させていくためにはどうしたらよいでしょうか?
 
 
スポーツを経験したことのある方は、
 
「もっとうまくなるために、今やっていることを壊す」
 
という経験をしたことがあるのではないでしょうか?
 
 
慣れ親しんだフォームを大改造し、新しいフォームを身に着けようとすると、一時的にパフォーマンスが下がります。
 
これまで無意識にできていたこともできなくなってしまいます。
 
自分がどんな動きをすればよいのか分からなくなってしまったりします。

 
僕は、小学生から高校まで硬式野球をやっていて、大学生のときには、母校の硬式野球部のコーチをし、大学院生のときには、非常勤講師をしていた高校の硬式野球部で助監督を5年間やっていました。
 
 
助監督時代に、バッティングピッチャーとしてたくさんの球数を投げ込んでいたら、肩を痛めてしまって満足に投げられなくなりました。
 
 
どういう投げ方をしたら、痛みを感じずに投げられるのか、プロの投げ方と自分の投げ方を見比べたりしているうちに、根本的に腕の使い方が違うことに気づき、投げ方を根本的に
変えることにしました。
 
 
それまでは、自分がどうやって投げているのかなんて意識していなかったんですが、そのとき、はじめて、「投げる」という動作について考えました。
 
 
投げ方を変えたばかりのときは、球に力が乗らずに、情けないボールしか投げられなかったのですが、続けているうちに、軸足から、背骨、肩、肘、指先と力が順に伝わる感覚が出てきました。
 
 
これは、肩を痛める前には感じたことのない感覚でした。
 
 
そして、シートバッティングに登板して、生徒相手に、力を込めて投げた外角低めのストレート。
 
 
指にボールがかかり、今までになかった感触が。
 
バッターはピクリとも動かずに、ボールは糸を引いてキャッチャーミットに。
 
このボールが、僕の野球人生の中で最高のボールでした。
 
 
これは、怪我をきっかけにして、今までのやり方を根本的に変えたことにより、より高い別の山に登ることができたとのだと思います。
 
 
 
 
さて、一斉講義型の授業から、AL型授業や、反転授業に取り組もうとすると、

「授業とは、いったい何をするところだったのか?」
 
「自分は授業を通して、何を実現したいのか?」
 
などと考える必要が生じ、悩んでしまう人もいると思います。
 
 
一斉講義型の授業スキルが高い方は、AL型にすることで、一時的には授業がうまくいかなくなるということもあると思います。
 
 
しかし、それは、より高い山に登るために必要なことなのではないでしょうか?
 
 
8月26日にお話しくださるギュンター知枝さんは、生徒から人気があった一斉型の授業からAL型に変更しました。
 
AL型に変更したことで、様々な悩みや迷いが生まれたのだそうです。 
 
 
その悩みや迷いに対して、正面から思考を深めていった結果、自分の考えが整理されて、

「大学でドイツ語を学ぶのは、言語を、自分を表現するツールとして 使うことを学ぶためである」
 
という結論に達し、霧が晴れたような気持ちになり、AL型授業を行うための軸が固まったのだそうです。
 
 
ギュンターさんの思考が整理される最後の瞬間は、小林さんが実験的に実施したオンラインのアクションラーニングでした。
 
セッションが終わったときの、ギュンターさんの晴れやかな顔が、とても印象的でした。

ギュンターさんが、どのような道筋で考えて結論に至ったのか、「知の冒険」のストーリーを、ぜひ、聞いてみてください。

第12回反転授業オンライン勉強会

首都大学東京国際センター日本語講師の藤本かおるさんにインタビュー

8月26日の第12回反転授業オンライン勉強会で登壇される首都大学東京国際センター日本語講師の藤本かおるさんにお話をうかがいました。
 
藤本さんは、以前、反転授業の研究が主催して行った動画講義作成のオンライン講座に参加してくださり、そのときに、eLearningと日本語教育の両方について豊富な知識と経験のある方だという印象を持ちました。
 
2つの異なる分野の知識をどのようにして身につけてきたのか、その背景をうかがいました。

エジプトのカイロへアラビア語の語学留学

藤本さんは、高校生の頃、どのような職業につこうと思われていたのですか?

高校で進路を決める時、推薦で教職の取れる大学に進学するか、デザイナーを目指して専門学校に行くか、2つの進路を考えていました。親や先生は大学を勧めたい気持ちがあったと思うのですが、私の気持ちを優先し、専門学校へ進学することになりました。デザインと言っても色々あると思うのですが、私の場合はファッションが子どもの頃から好きだったことと、母が当時は今ほど知られていなかったブランドのバックを大事に使っている人で、長く使える服飾小物に興味があり、服飾のデザイナーではなく、靴やバックなどのデザイナーを目指して専門学校に入りました。 実は、子供の頃にずっとなりたかった職業は学校の先生だったんですよね。紆余曲折あって、「先生」と呼ばれる何かを教える仕事に就いているのが、自分でもおもしろいです。

そこから大学で教えるようになるまで、どのような道筋を辿ったのか全く想像がつきません。専門学校を卒業した後は、どうしたのですか?

企業に就職してOLをやっていました。当時はバブルが崩壊した直後で、とにかく売ってこいという感じでした。それに疑問を感じながら働いていたんですが、ある時働いて得た給料で、海外旅行に行きました。

どこの国に行ったんですか?

私たち年代だと、「王家の紋章」という漫画が人気で、エジプトに行きたい!と思っている女性は多い(多かった)と思うんです。子供の頃から、世界史(特に古代史)が大好きでエジプトはあこがれの土地だったというのもあるのですが、自分が大人になって初めの海外旅行の行き先に、ギリシャとエジプトのツアー旅行を選びました。ギリシャはともかく、たった数日のエジプトでの異文化体験のショックがすごかった!旅行から帰る時には、絶対にこの国に住もう!と決めていました(笑)。帰国後、早速アラビア語の勉強を始めて、資金を貯めて、3年以上を経てカイロに住み始めました。

旅行から帰るときに決めて、それから、アラビア語を0から勉強してエジプトのカイロに住んだんですか?すごい行動力ですね。それは、留学ですか?

はい。アラビア語の語学留学です。今から考えると、まだインターネットもほとんど普及していない時代(1995年にエジプトに行きましたので)によく探せたと思うのですが、日本からアラビア語の語学学校を探して、毎日通っていました。アラビア語は、いわゆる書き言葉(アラブ世界共通)であるフスハーとその国独特の方言であるアーンミーヤというのがあるのですが、午前中はフスハーを、午後はアーンミーヤをみっちり勉強していました。あれほど真面目に勉強に取り組んだのは人生でないくらいでしたね。

そのときアラビア語を勉強した経験は、今やっている日本語教育にも生きていますか?

エジプトの語学学校の学習も、いわゆる直説法、媒介語を使わない教授法でした。自分が直説法で語学を学んだ経験があるというのは、得難い経験だったと思います。まず、直説法での学習者のストレスが理解できる(笑)。先生も大変なんですけど、学習者も直説法で教わるのは大変なんですよね。色々推測しないとならないので。そしてその推測が、いつもいつも当たるわけじゃないし、最後までわからないこともあるんです。そういうのが頭ではなく経験としてわかっているので、学生の顔をよく見て、どうしてもわからないようだったら、英語がわかる学習者グループだったら英単語を言ってしまうとか、共通言語のないグループの場合だと、あえて深追いしないようにするとか、割り切って授業を進められたり、媒介語を使える環境なら使った方が効率がいいと思うのも、自分が直説法で勉強したことがあるからかも知れません。

確かに、外国語を直説法で学んだ経験は貴重ですね。カイロでは、どんな暮らしをしてたんですか?

カイロでは、アパートを借りて、同じ語学学校に通っていた日本人女性達とシェアしていました。東京以外の場所で暮らすのも初めて、家族以外の人と暮らすのも初めて、初めてづくしでしたが、幸いシェアメイトとは本当にいい関係で、もめ事もなく楽しく過ごせました。今も友だちです。語学学校のメンバーも個性的で、英語圏外の欧州から来た人が多く、彼らと私たち日本人でよく一緒に遊んでいました。彼らと遊ぶことで、アラビア語だけじゃなくて本当に話せなかった英語も少し上達できたのがおまけみたいな感じです。 また、母親と文通みたいなことをしていたのも、いい思い出ですね。電話があまり好きじゃないこともあって、せっせとはがきを書いて送っていました。母からもよく返事が来ました。口では話せないいろんなことをお互いに書いたと思います。親のことも日本のことも、離れてみて初めてありがたいなと感じることができました。月並みですが、日本に対する評価は、海外に出て自分の中で高くなりました。まだまだ捨てたもんじゃないし、ポテンシャルの高い国だと思います。

エジプトでの生活が、藤本さんの意識や考え方のどのような影響を与えたんですか?

語学学校や友人のツテなどで知り合った日本人も欧州人も、大学生とか学校を出たての人はほとんどいなくて、20代半ば~30代の人もいました。専門や前職、アラビア語を学ぶ動機も様々で、枠にとらわれない多様な生き方というのが、何も珍しく自慢になることじゃないんだなということを知れたのは、よかったです。日本はまだまだ画一的な社会でしたし、エジプトに留学していたというと今も珍しがられます。そういう意味では、帰国後いわゆる外国かぶれの人にならないで済んだのは、いろんな人と出会ったからだと思っています。 また、エジプトというとイスラム国ですが、自分が住んでいたアパートの大家さんはコプト教徒というエジプト独特のキリスト教徒の家族でした。今は、コプト教徒の弾圧が目立ってきていますが、当時はそういう雰囲気はなく、宗教の多様性なども実感できましたね。イスラムに対しても、色々肌で感じることができ、自分なりの考えを持てるようにもなりました。

2年半暮らしたカイロから帰国したきっかけは何だったのですか?

アラビア語の語学学校に通っていて、自分の母語を教えるって面白い仕事だなと思ったんです。それで、日本語教師という仕事に興味を持ったんですが・・・。カイロに住んでいる間、冬場は観光ガイドの仕事をしていたんです。覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかと思いますが、1997年にエジプトのルクソールで60名の方が犠牲になる大きなテロがありました。日本人も何人か犠牲になりました。そのテロの日、私もテロがあったルクソールの西岸にいて、もう少し時間がずれていたらまさにテロに遭遇していたかも知れないという状況だったんです。テロがあったことで観光客も減り仕事も減ったこともあり、精神的にショックもあったので、思い切って日本語教師になるために帰国することにしました。日本語教師になるための研修を受けて資格を取ったのですが、海外で働くためには大卒の資格が必要だということが分かり、日本語教師として働きながら放送大学へ行くことにしました。専門学校の単位を生かして3年次編入しました。

語学教師をやるときに、自分が語学を学習した経験がとても役立つと思います。藤本さんの場合は、エジプトに行き、直説法でアラビア語を学ぶというとても珍しい経験をされたのが、のちに直説法で日本語を教えるときに役立ったというのがとても印象的でした。また、単に語学を学んだということだけでなく、多民族、他宗教の中で生活したことが、国際感覚を身に付ける上でも、留学生の気持ちを理解する上でも、非常に役立っているのではないかと思いました。

日本語教師として働きながら、放送大学で大卒資格取得

放送大学は脱落率が高く、学習者に強い意志がないと卒業するのは難しいと思うのですが、実際に学んでみていかがでしたか?

予定よりも卒業までに時間がかかってしまいました。放送大学で学ぶメリットとしては、やはり働きながら続けられる点と学費が安い、そしてそうそうたる先生の授業が準備されているという点じゃないかと思います。海外から戻って日本語養成講座を終えて、お金がなくても働きながら学べる大学というのは、ありがたかったです。私大の通信制の大学は、結構な学費ですから。 当時はまだネット配信はなくて、テレビとラジオとスクーリングだったわけですが、実は私、ほとんど放送授業を視聴しないで、ほぼテストだけで卒業してるんです。スクーリングも、専門学校の単位が生かせてほとんどとらなくてよかったので。どうも話を聞くと、放送授業を視聴しないで卒業する学生というのは少数ですがいるようですね。

放送授業を視聴しなかったのはどうしてですか?

なぜ放送授業を視聴しなかったかというと、まず、1時間授業を視聴できない、飽きてしまって。放送大学の授業を見ていただけるとわかるんですけど、動きがなく話し続ける先生も多いですし、本当に受け身でただ視聴するだけというのは、自分には全く合っていなかった。自分が、eLearningで双方向性というか、必ず生身の人が関わるという点にこだわりを持っているのは、この経験の影響もあるかと思っています。

僕も、放送大学の授業をテレビで見たことがありますが、教授が座って、単調な口調で話し続けているので、あれを1時間、集中して視聴するのは確かにつらいですよね。 日本語教師として、実際に仕事を始めてみて、カイロでイメージしていた通りでしたか?

自分が学んだカイロの語学学校やスペインの語学学校などと違って、予備校みたいだなと思いました。実際、学生のほとんどは日本語学校で日本語を学んでJLPTに合格して大学や専門学校への進学を目指しているので、仕方ないんですけど。

eLearningに関わるようになったのはいつごろからですか?

日本語教師養成講座で首都大学東京の先生の授業を受け、マルチメディア教材に興味を持ち、その先生のところで教材作成のアルバイトをしたのがきっかけです。仕事もその先生に紹介していただきました。ちょうどそのころ、eLearningが注目されはじめたころで、勤務していた日本語学校でもeLearningの教材開発をすることになったんです。私はマルチメディア教材作成のアルバイトをしていたため、その教材開発にも関わることになりました。 また、放送大学がWeb配信を始めることになり、その立ち上げにもアルバイトとして関わりました。教材作成やWeb配信に関わったことで、著作権の扱いなどの必要な知識を一通り学ぶことができました。

今、教える側にいる年代だと、僕も含めて、学習者としては、一斉講義型授業で学んだ経験しかない人が多いと思います。それに対して、藤本さんは、エジプト留学で直説法でアラビア語を学んだり、放送大学で遠隔学習を経験したりするなど、学習者としての多様な経験をお持ちです。学習者としての多様な経験が、日本語を教えたり、eLearningの教材開発をするとき、大きな強みになっているのではないかと思いました。

大学院でBlended Learningを研究

その後、大学院へ進学されたんですよね。

はい。教材作成のアルバイトでお世話になっていた先生がいる首都大学東京の修士課程に進学しました。大学院では、日本語教育とICTというテーマで研究をしました。すでに、仕事である日本語学校のeLearning教材の開発をしていて、放送大学の卒論もeLearningがテーマだったんです。

放送大学にも修士課程があると思いますが、首都大学東京を選んだ理由はどんなことだったのですか?

放送大にも修士課程はあるんですが、通信制の大変さは学部で身に染みたので、修士は通えるなら通いの方がいいと思いました。修士は学部ほど授業を取る必要はないので、常勤の仕事を辞めて非常勤になって、働きながら通いました。 通信制の学部から通いの大学院になって、通えるなら通いの方が色々楽だなと感じました。1つにはやはり孤独感がない。あと、課題等も実際に教室に通って発表しなければならないので、期日を守るのが容易で、そうそうドロップアウトもできないですから。

やはり、通信制は大変だったのですね。通信制で学んだからこそ、その弱点もよく理解されているんですね。 大学院での研究について教えてください。

eLearnngとビデオ会議室のBlended Learningをテーマにしていました。ネットの授業のメリットは場所を超えられることだと思います。たとえば、私はアラビア語を勉強していましたが、東京以外だとアラビア語の教室を見つけることが難しく、学ぶチャンスがありませんが、もし遠隔で学ぶことができれば、チャンスが広がります。 その一方で、動画を受け身で視聴するのはつらいということを、放送大学で学んだ経験から感じました。それで、遠隔のメリットを生かしつつ、生身の人間が関わる方法というのを模索した結果、eLearnngとビデオ会議室のBlended Learningというテーマに行きつきました。 eLearnngとビデオ会議室のBlended Learningは、今はやっていませんが、機会があればやりたいので、初級者のグループがいたらお声掛けください(笑)。

僕もeLearningをやっていて、受講者のモチベーションを上げて脱落率を減らすためにどうしたらいいかということを考えた結果、藤本さんと同じビデオ会議室の利用に行きついたんですが、そこに、何年も前に気づいて実践されていたとは、先見の明に驚きました。ビデオ会議システムのコストが下がり、個人でも気軽に使えるようになってきたので、藤本さんの研究してきたことが、今後生きてきそうですね。
 
Blended Learningの研究をやってみて、eLearningとリアルタイムの学習との違いについて、どのように考えられていますか?

eLearningは、知識のインプットをする学習に向いています。リピートできるのが大きなメリットです。一方、教室やビデオ会議室では、生徒が発音が正しいかどうかをチェックできることや、学習者の反応で教師が状況に応じた質問等をすることができます。語学は、瞬発力も大事ですから。教科書にないことも学ぶことができるのも大きいです。また、これが一番大きなメリットだと思いますが、人のぬくもりが学習を促進させるのだと思います。遠隔授業をやってみて、また学習者のアンケート等から、画面越しでも教師と学習者のラポールが形成されることを実感しました。

Blended Learningをやってみて、気づいたことはありますか?

遠隔の対面授業の授業データを分析したところ、学生間で何かお互いに話す、その後に正しい答え出てくるということがよくありました。つまりは、彼らがお互いに話していた内容は学習に関することで、教えあいの結果、教師に正しい答えを返すことができているということです。教師として、学生の母語で私語されると何を話しているか気になります。私はそれに瞬時に反応して私語している学生に何かしらのアクションを起こして私語を止めるのがうまい方だと思うんですけど(それで私語をしない学生に褒められたことがあります)、私語ってなんだろうと思ってからは、クラス授業の私語にすぐに反応しないよう自制して(笑)、多少様子を見るようにしています。

これは、非常に興味深いお話でした。授業力のある教師は場を強力にコントロールできます。対面授業における藤本さんの授業は、私語を上手に止めさせたりすることができることから、きっと、教師のパワーが教室の隅々まで行き届いていたのだと思います。しかし、遠隔にすることで、どうしても、教室の場を完全にコントロールしきれない状況が生まれ、学生が「私語」をするようになりました。藤本さんの対面授業では起こらない状況が生まれたわけです。藤本さんのすばらしいところは、この状況を考察し、「教師がコントロールを弱めることで、生徒が自律性、主体性を発揮することができるようになる」という気づきを生んだところです。そして、その気づきを対面授業にもフィードバックして、場のコントロールを意図的に弱め、学生の主体性を引き出すことを始めたところです。気づき→考察→深い理解→行動 という思考活動をここに見ることができ、感動しました。

個人がeLearningをできる時代が到来

大学院で学んだことは、日本語教師としての活動にも変化を与えましたか?

少し前までは、eLearningの教材制作は高価で個人の手におえない制約がある時代でしたので、日本語教育とeLearningとが別々の活動になっていたんです。数年前から個人でもeLearningができる時代になり、NPOで作文添削のeLearningの企画を立ち上げました。

NPOでの活動について、もう少し詳しく教えてください。

NPO日本語教育研究所(http://www.npo-nikken.com/)は、結構前から団体としては存在していて、NPOになってすぐくらいに、国立国語研究所の仕事で声をかけてもらったのが最初です。国立国語研究所で、韓国の高校などで日本語を教えている先生の研修みたいなのがあり、それにICT利用をからめたいので、そういうことがわかる人を探していて私に声がかかったということだったと思います(うろ覚え)。その当時の理事のお1人が国立国語研究所の方でICTに詳しく、これから研究所でもそういうことを取り入れた方がいいということで、非常勤の研究員になり、HPを作ったり、作文添削のeLearningの企画を立ち上げたりしました。 研究所の活動内容は、色々あるので、HPをご覧ください。

藤本さんに見せていただいたHPは、表にパスワード認証をかけたリンクが並べてあるシンプルなものでした。でも、実際、使い方によってはそれで十分だと思います。必要以上に完成度を上げないことが、取り組みへのハードルを下げる上で重要だともおっしゃっていました。

大学で日本語を教え始める

大学で日本語を教え始めたきかっけは、どのようなことだったのですか?

自分が所属する大学で日本語クラスが増えるということで、恩師から声をかけてもらい、オーバードクターだったこともあり、博士課程後期を単位満了退学して非常勤となりました。私大でも教えていますが、こちらは知り合いの日本語の先生から声をかけていただいいてクラスを持たせてもらっています。 日本語教師のキャリアマップの1つに、大学の非常勤講師がゴールというのがあると思います。理由は、やっぱり時給がいいからだと思います。

日本語学校で教えるのと、大学で教えるのとでは、何か違いを感じますか?

大学で日本語を学ぶ学生も色々な属性があるのですが、首都大の場合は、交換留学生が主になります。彼らの場合滞在期間が半年から1年と短いこともあり、日本語も勉強するけれども日本での生活そのものが留学目的になっています。交換留学生が多い大学の場合、学生管理は結構楽じゃないかと思います。いわゆる地下に潜る(いなくなっちゃう)学生はまずいません。 学部留学生の場合は、東南アジアの学生さんが多く日本語学校と似たところがあります。バイトが忙しくて勉学がおろそかになるという・・・。ただ、日本語学校で勉強していた学生が全て大学に進学できるわけではなく、大学受験で選別されてきている分、大学の学部で学んでいる留学生はどんな大学でも日本語学校よりは勉強の習慣が出来ていると思います。日本語学校の場合は、それこそ国でろくに学校に通っていなかったような人もいたりして、勉強の仕方がわからない人なんかもいます。

そして反転授業の実践へ

反転授業をはじめたきっかけについて教えてください。

ずっとeLearningに関わってきて、自分が関わっているeLearningと自分の授業活動が結びついていないことが気になっていました。最近になり個人がeLearningを気軽にできる時代になったので、大学の授業でやってみようと思いました。でも、大学の授業って教員がチームになってカリキュラムを担当していることが多いので、教材の選択や授業のやり方に自由度が少ないことが多いんです。私が担当しているクラスでも初級0と呼ばれるクラスでは導入が難しかったのですが、初級-中級のクラスならできそうだったので、そのクラスでやってみることにしました。

大学の講義でも、そんな制約があるんですね。具体的には、どのような方法で反転授業をされているのですか?

手軽な方法で動画作成をしたいと思い、どの方法を選ぼうか迷っていたところ、ちょうど、反転授業のグループでExplain Everythingを使った動画作成講座が始まったので、それに参加して、Explain Everythingで教材を作ってみました。その後、eLearningの世界の友人が教材作成ソフトとログ管理のシステムを無料で使わせてくれることになり、こちらを利用して動画を配信しています。 学生はあらかじめ説明動画を見てきて、教室ではドリルをやるところから始まります。動画を使うことで文法の説明時間を減らしアウトプットを増やすのが狙いです。教科書が決められているという制約の中で何ができるかということを考えてやっています。

反転授業を実際にやってみていかがですか?

例えば授業中の言い回しとか、くせとか、コンテンツを作っている時に、普段自分ではなかなか気が付かない点やどのように話せばわかりやすいかなーとか、結構細かい点に注意しています。コンテンツを作ると必ず自分で視聴して確認しないとならないので、自己振り返りの機会が増えますね。それから、割と瞬発力があるのか、学生の一挙一動足に「何?」って反応してしまうタイプなのですが、それをがまんして、学習者の次の出方を観察するようになりました。これは逆パターンの先生もいるかもしれないですね。 それから、やはり学生が事前に教材を見ているかどうかを確認する行程は必要だと感じています。全員が動画を見て来るというのが理想ですが、そうそう理想通りになりません。今回は誰が見て誰が見て来ていないか、それをきちんと把握して授業をする必要があると思います。

自分の作った動画を見ると、自分の癖に嫌でも気が付きますよね。また、視聴ログが取れるということも、学生の学習状況を把握する上で必要だということですね。 反転授業の実践は、藤本さんに何か変化をもたらしましたか?

ある程度の年数授業をしていると、それがルティーンになっていないでしょうか。もちろん、自分の授業を改善したいと日々思っているのですが、それこそ日々の業務に追われてなかなかじっくり考えることができない。でも、反転授業を行うことで、自分の授業を見つめなおさざるを得ない。また、コンテンツを作る際に、もう一度学習項目(例えば私の授業の場合、文法項目について)の見直のために、これまで教えていたことでも、再度勉強しなおしたり調べなおしたりしますよね。手間がかかるんですけど、そうすることによって自分の学びも促進され、これまでと違う教え方の視点が見えてきたのが面白いと思いました。 普段授業で説明していることって、覚えているようで逐一覚えているわけじゃないと思います。それを文字化したりナレーションとして入れるためには、なんというか、体で覚えている「いつも」のことを話すのではだめで、いったんそれを取り下げてまな板の上に乗せて、素材として吟味する時間が必要だと思います。そうすることで、同じ内容を教えるとしても、じゃあクラスではこういうことをしたらどうだろうか。これはやってみたことないけど、できるかもしれないとか、教案を作り直しているだけでは、気が付かないことに気が付ける気がします。

ビデオ会議での実践によって得た気づきから、対面授業で主体性を引き出すためにコントロールを弱めるという行動が生まれたように、反転授業という新しい手法に取り組むことで、今までのやり方が解体され、授業改善への気づきが生まれてきます。藤本さんは、気づく力が強い方なので、動画作成したり、授業構成を変えたりすることで、きっと多くの気づきが生まれているのではないでしょうか。
 
 
また、今回、藤本さんにインタビューさせていただいて強く感じたことは、自分の内なる声に従って選択することの重要性です。常にそのように選択することによって、バラバラに見えたものが、時間をかけてゆっくりと統合されてくるのだということを、藤本さんのキャリア形成をうかがって感じました。
 
勉強会で、藤本さんが、どのようなお話をしてくださるのか楽しみです。
 
反転授業オンライン勉強会は、8/26(火)の夜に行います。 詳しくはこちらをご覧ください。

徳島大学共通教育センター ドイツ語非常勤講師 ギュンター知枝さんにインタビュー

8月26日(火)の第12回反転授業オンライン勉強会でお話しいただくギュンター知枝さんにインタビューさせていただきました。  
 
 
ギュンターさんは、2011年から徳島大学でドイツ語を教え始め、1年ほど前にドイツ語教員養成講座を受講しはじめたことをきっかけに、授業設計やプロジェクト型学習などに興味を持ち始め、授業改善に取り組み始めました。
 
 
しかし、それらを自分のドイツ語教育の実践にどのように生かしたらよいのだろうかと悩む日々が続いていたのだそうです。
 
 
最近になり、考えが整理されると、霞が晴れたように進むべき道が見えてきて、プロジェクト型の授業、アクティブラーニング型の授業をスタートすることができたのだそうです。
 
 
ギュンターさんが、どのようにして考え、行動に至ったのかを順を追って伺いました。

どうやってドイツ語をマスターしたか

ギュンターさんがドイツ語をマスターしたプロセスを教えてください。

私は音大で声楽を学んでいて、指導教官がドイツリートが専門だったんです。それで、2年間、大学でドイツ語を学んだのですが、そのときは、ドイツ語はほとんどできず、ドイツ語の歌詞も呪文のように覚えて歌っていたし、ドイツ語で言えることといったら、「私の名前は知枝です。」「これは、私の右手です。」とか、その程度でした。

え!そのくらいのドイツ語レベルで、ドイツに留学することにしたのですか?

はい。まわりも無謀だと言っていましたが、行けば何とかなるだろうと思って、ドイツに旅立ちました。

実際にドイツに住み始めてどうでしたか?

はじめはドイツ語の語学学校の初級コースに通いました。同じようなレベルの同級生と刺激し合いながら勉強していくうちに、2カ月でメキメキとしゃべれるようになりました。それで、一度、語学学校をやめて2か月くらい生活していたのですが、やっぱり、もう少し学校に通おうと思い、さらに2か月間、今度は中級コースに通いました。結局、学校でドイツ語を学んだのはこの4か月間だけで、あとは、生活の中で身につけました。

ほとんどしゃべることができない状況でドイツに渡ったというのは、驚きでした。でも、その一方で、その状況になれば、しゃべれるようになるという自信が、ギュンターさんの中にあったのではないかと思います。語学習得について、ギュンターさんがどのように考えているのか伺いました。

語学習得のポイント

ドイツ語や英語を学んだ経験を通して、ギュンターさんは、語学習得のポイントがどこにあると思いますか?

私は、しゃべれるようになることと、読み書きは、別の技術だと思います。いくら読み書きをトレーニングしてもしゃべれるようにならないし、逆に、しゃべるトレーニングだけをしても読み書きができるようになりません。だから、両方やらないといけないと思います。日本だと読み書きに重点が置かれていて、しゃべるトレーニングが少ないです。私は、英語を学ぶときも、ドイツ語を学ぶときも、使っていくほうが楽しいので、しゃべったり、映画を見たりして身につけていって、後から、単語や文法を学んで、そういう綴りだったのか、そういうルールだったのかと気づくということが多かったです。

読み書きから入ったのではなく、しゃべることから入ったんですね。

英語とドイツ語についてはそうです。ただ、最近、フランス語を始めて、これは、フランス語検定を取ることを目指して、読み書き中心で勉強しました。それで、4級を取ったんですが、4級をとってもフランス語はしゃべれないんです。だから、やっぱり、しゃべることと読み書きは別なんだと再認識しました。

これには、納得しました。僕も、大学院まで進んで、英語で物理の論文を毎日のように読んでいたんですが、海外旅行に行くと、情けないくらい英語が口から出ませんでした。これじゃまずいと思って、スカイプ英会話から始めて、とにかくしゃべるトレーニングをするようにしたら、少しずつしゃべれるようになりました。

学習モードに入ることが大事

ドイツ語は暮らしの中で身につけて行ったとのことですが、どんな様子だったのですか?

最初は、家にいて、チャイムが鳴ったり、電話が鳴ったりするのが恐怖でした。対面なら、まだ、何とかなるんですが、電話だと相手の様子が分からないので、コミュニケーションが難しかったです。こちらから電話しなくてはならないときは、紙に書いておいて、それを一気に読み上げたりしていました。言えることが増えると、生活の快適度が増えるという感じだったので、毎日が猛勉強でした。 ドイツでは、「言わない」=「考えていない」と思われるので、最初は、子ども扱いでした。言えるようになってくると、だんだんと大人扱いされるようになってきました。

ドイツ語を使わないと生きていけないという環境だと、脳が学習モードに入るんでしょうね。

そうですね。ドイツでは、毎日が戦いでしたから、必死で学んでいたんだと思います。

リアルで臨場感のある場の中で、心の底から、その言葉をしゃべれるようになりたいと思うことが、言葉をしゃべれる、つまり、語学をツールとして使えるようになるためには必要だというのは、とても説得力がありました。

語学を教え始めたきっかけ

ギュンターさんが、語学を教え始めたきっかけについて伺いました。

ギュンターさんが「教える」ということを始めたのはいつからですか?

ドイツに滞在中に日本語講座を担当しないかと言われ、始めたのが最初です。絵を描いたり、身振り手振りを使って説明するのが好きだったので、向いているかもしれないと思いました。

最初に教えたのは日本語だったんですね。ドイツ語を教え始めたのはいつですか?

ドイツに6年住んだ後、日本に帰国して、ドイツ語の通訳や翻訳をやったりしていました。一般企業に就職して会社員をやる傍らで、ドイツ語の市民講座をやらないかと頼まれ、週に1回、ドイツ語を教え始めました。

それは、どんなクラスだったんですか?

受講者のレベルや目的がバラバラだったので、大変でした。私が住んでいた町は、ドイツのリューネブルグ市と姉妹都市で、使節団が隔年で日本とドイツを行き来していたため、国際交流の担当者の方が勉強していたりしました。他にも留学準備のためだったり、生涯学習の1つとして学んでいたり、いろいろでした。

それだけバラバラだと教えにくかったんじゃないですか?

最初は、テキストを使って教えようとしていたんですが、しっかりカリキュラムを作ってしまうと、途中から入ってこれなくなってしまうということもあり、途中からはワープロでプリントを自作して教えていました。受講者にちょっとはドイツ語をしゃべれるようになってほしいと思っていて、1つの方針を貫くというよりは、みんなの希望にできるだけ応えたいと思って、やっていました。これは、はじめはよかったんですが、続けていくうちに、教える側も学ぶ側も方針がないことで何をやったらよいのかが分からなくなるという面もありました。

そのころは、クラスでドイツ語を教えることにどんな印象をお持ちでしたか?

正直、個別指導で教えたり、通訳、翻訳をしたりするほうが楽しいと思っていました。

ギュンターさんは、とてもサービス精神が旺盛な方なので、このころは、要望に応えるという形で授業をされていたようです。

大学でドイツ語を教えはじめる

ギュンターさんが、ドイツ語を大学で教えることになったきっかけは?

徳島大学でドイツ語の非常勤をやっていた夫が、英語の常勤になることになり、ドイツ語の講座を担当する講師を募集することになりました。通訳や翻訳を続けてきたので、それが実績としてカウントされ、非常勤講師として採用されました。

はじめて大学でドイツ語を教えることになり、どのようなことを考えたのですか?

はじめは、市民講座でやっていたやり方を、そのままやってみようと思いました。学生に寝られるのは嫌だったので、文法の表を歌にして歌わせたり、前置詞をぬいぐるみを使って説明したりしました。学生にドイツ語を嫌いになってほしくないという思いがあり、ドイツの話をしたり、ドイツの動画を見せたりもしました。

そんなふうに楽しく教えてくれたら、学生はついてきたんじゃないですか?

そのときは、学生も楽しんでくれていたみたいで、特に授業改善しようとか、考えていませんでした。

AL型授業をはじめたきっかけ

ギュンターさんが、プロジェクト型授業や、AL型授業に興味を持ち始めたきっかけは、何だったのですか?

いくつかあります。1つは、学生の人数が、それまで最大でも18名だったのですが、今年から一気に37名に増えることになり、今までのやり方を変える必要があると思ったこと。もう1つは、ドイツ語教員養成講座を受講しはじめたことです。

ドイツ語教員養成講座とは、どのようなものなのですか?

ドイツ語教育の歴史と理論を学び、きちんとした理論に則った教案を自分で作成できることを目標とした講座です。東京、大阪、九州の会場をネットでつないで、講師の先生は、その3つの会場のどこかで授業をし、他の会場からはオンラインで受講する形です。授業では必ず宿題が課され、提出すると添削されて戻ってきます。そして、次の授業の前半で宿題についての話し合いや発表があり、後半に講義があるというやり方です。課題をやってから話し合いをするので、話し合いが深まります。

講座で学んだことを、授業に取り入れたんですか?

はい。課題のために仮のものを作るのが嫌だったので、実際に授業で使えるものを課題として作り、それを使いました。そのため、ただの知識として学ぶのではなく、使うことを意識して学ぶことができました。その結果、読みたい本がどんどん出てきて、本を読んで出てきたことをネットで調べていたらFacebookグループを見つけました。本と講座とFacebookグループで、世界がどんどん広がっていきました。

学びモードになったんですね。講座で学んだことで、ギュンターさんの意識に変化は起こりましたか?

大きく変わりました。たとえば、インストラクショナルデザイン(ID)のことを知って、その通りにやったらどうなるかということを考えたりしました。でも、逆に、悩みも生まれました。

授業に対する悩みをどのように解決したか

どんな悩みが生まれたんですか?

何を目的にドイツ語を学ばせるのかというところで、悩んでしまいました。私は、語学の研究者になるのでなければ、語学自体を深めるのではなく、使ってこそ意味があると考えています。語学がツールであるということを、学生が分かるような教え方をしたいと思いました。でも、どうやったら、ドイツ語をツールとして学んでくれるのかが分かりませんでした。たとえば、天気予報などを素材として使っても、自分自身がしらじらしいと思ってしまいます。ドイツ語教員養成講座の講師の方も、「練習のための練習では、学習者は気づくよ」とおっしゃっていて、本当にその通りだと思いました。それで、リアルな体験の中でドイツ語を使わせて学ばせたいと思ったんですが、英語と違い、ドイツ語は初めて学ぶのでストックが少なく、表現力が乏しいせいでできることが限られてしまうのです。

その悩みは、どのようにして解決したんですか?

悩みを解決するきっかけは、英語のクリエイティブライティングの講座を受講したことでした。アメリカ人の小説家の方がやっている講座で、6個の単語だけで作る小説とか、リストで作るポエムとか、絵や写真に物語をつけるとか、そういうことをやるんです。英語力が乏しくても、表現を楽しむことができるということを経験し、これならドイツ語でもできるんじゃないかと思いました。

なるほど。リアルの場というと、「買い物の設定」とか、「飛行場でのやりとり」とか、実際にありそうな状況をイメージしてしまいがちですが、それは、「しらじらしいもの」であって、自分にとって本当に表現したいことをドイツ語で表現することが「リアル」ということなんですね。

そうなんです。書きたいことが最初にあって、次に、それに必要な文章や単語を学ぶというのが「リアル」だと思います。ドイツ語だと単語数が少ないのでプレゼンなどをやらせるのは難しいですが、単語数が少なくても「リアル」なことをできるんだというのが大きな気づきでした。

具体的には、どのように進めているのですか?

最初の授業では、図書館に行って好きな画像をプリントアウトし、それに日本語で物語をつけます。そして、それをドイツ語にしてサイボウズライブに投稿してもらうことを宿題にします。次の授業までに私が間違えそうな項目を書いておいて4人グル―プでチェックさせます。たとえば、「最初の文字は大文字になっていますか?」「名詞の格変化はできていますか?」といったことについて、グループ内でお互いにチェックします。実際にやると、翻訳マシンでドイツ語に直した人もいたりして、そういう人は、どれが名詞でどれが動詞かなども分からなかったりするので、自分の書いた文章の単語を調べてアップさせることを宿題にしています。

学生の反応はどうですか?

熱心な学生は、もう4回も書き直していたりして、どんどん進めています。今までは、やる気のある学生と、そうでない学生がいたときに、やる気のある学生に対してフォローできていなかったのですが、サイボウズライブを導入したことで、やる気のある学生が自分でどんどんやれるのでいいですね。

学生の学習意欲を高めるための工夫は、何かされていますか?

6個の単語だけで作る小説、リストで作るポエム、写真に物語をつける、という3つの課題のうち、それぞれが一番出来の良いと思う1つを選んでもらい、それを文集という形でまとめるということにしました。学生もやる気を出しているようです。他に、ドイツのギムナジウムで日本語を勉強しているクラスと連携して、クリスマスカードを送り合うというイベントも予定しています。

ギュンターさんにとっての「リアル」は、学生が本当に表現したいという気持ちで何かを表現するということです。それをしないと語学がツールにならないという考えが生まれる背景には、ギュンターさんが語学習得をしたときの経験が大きく関係していると思いました。

1年間で終わる第2外国語の授業で、学生に何かを表現させることは難しい、しかし、気持ちと結びついていない「しらじらしいこと」をさせたくはない、というジレンマの中で、クリエイティブライティングの講座に出会ったことで、思考が一本の線になり、授業の方向性が定まったというのは、アンテナを張り巡らせながら、考え続けていたからこそ訪れた瞬間だったのではないかと思いました。

授業の根本部分が固まったギュンターさんが、これから、どんなワクワクする授業を展開していくのか、とても楽しみです。

ギュンターさんがお話ししてくださる反転授業オンライン勉強会は、8/26(火)の夜に行います。

詳しくはこちらをご覧ください。

第12回反転授業オンライン勉強会「はじめての反転授業&アクティブラーニング実践」

日本において、反転授業は、2012-2013年から、一部の先進的な教育機関で導入されるようになりました。

2014年に入ると、実践者が一気に増え、各地で実践されるようになってきました。

今、まさに、実践の輪が広がりつつある段階だと思います。

つまり、日本には、実践をはじめたばかり、または、これから実践をはじめようと考えている方がたくさんいるはずです。

第12回の勉強会では、実践を始めるようとするときに、どのような壁にぶつかるのか、それを、どうやって乗り越えたのかということを、首都大学東京国際センター日本語講師の藤本かおるさんと、徳島大学共通教育センタードイツ語非常勤講師のギュンター知枝さんにお話しいただきます。

チャットボックスで、直接、登壇者に質問することができますので、ふるってご参加ください。

第2部では、3通りの方法でオンライングループワークに参加できます。

・ビデオチャット(大推奨)

・ボイスチャット(推奨)

・テキストチャット

ビデオチャット・ボイスチャットで参加の方は、Webカメラやヘッドセットをご用意ください。ノートPCの内蔵マイクで参加の方は、ハウリング防止のためヘッドフォンを着用ください。

※第1部だけの参加も可能です。

日時 : 8月26日(火) 21:45-23:30

テーマ:「はじめての反転授業&アクティブラーニング実践」

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:45-22:45

(1)「とにかくやってみよう!初めての反転授業」

首都大学東京国際センター 日本語講師 藤本かおるさん

(2)「アクティブラーニングにチャレンジ中です!一非常勤講師の取り組み。きっかけから行動までの流れ」

徳島大学共通教育センター ドイツ語非常勤講師 ギュンター知枝さん

第2部 オンライングループワーク 22:45-23:30

講演者の発表内容は以下の通りです。

「とにかくやってみよう!初めての反転授業」

首都大学東京国際センター 日本語講師 藤本かおるさん

(プロフィール)

20代後半の海外遊学を経て、日本語教師の道へ。教師をする傍ら、デジタルコンテンツeラーニング開発と運営をライフワークとし、いくつかのコースを企画立ち上げ運営して行く中で、eラーニングコースとして独立したものではなく、教室活動の中でもデジタルコンテンツを活用したいと考えるようになる。

海外とつないでの遠隔対面授業の実践を経て、反転授業を知り、一語学講師として「とにかくやってみよう!」と反転授業を始めたばかり。
 
藤本かおるさんのインタビューはこちら
 
(内容)
 
これから「反転授業」をやってみたいと思っているITに強くない先生にとって、どんな難しさがあるでしょうか。いくつかのハードルがあると思います。最初に考えるのは、どうやって事前学習用の動画コンテンツを作るのか、という点ではないかと思います。では、動画コンテンツを作った後、どうやって学生に配信するのか。著作権、セキュリティは?と、始める前のハードルの高さに、躊躇する先生も多いでしょう。
 
 今回は、一語学講師が、大学のサポートなしでどうやって反転授業に取り組み、どのような問題点や難しさがあったか、まず、授業運営上の問題についてお話いたします。また、実際に反転授業を行った結果、語学講師としてどのような内的変化があったのか、自己振り返りに関してもお話をしたいと思います。
 
 

「アクティブラーニングにチャレンジ中です!一非常勤講師の取り組み。きっかけから行動までの流れ」

徳島大学共通教育センター ドイツ語非常勤講師 ギュンター知枝さん

(プロフィール)

1988年京都市立芸術大学 音楽学部卒業(声楽専攻)その後大学院進学をめざしてドイツに留学するが、受験準備中に出会った地元ドイツ人(現夫)と1989年に結婚して出産、そのまま1995年までドイツに滞在。ドイツ在住中に翻訳・通訳のアルバイト、自治体の文化講座での日本語講座を担当したことなどを通じて語学への興味が深まる。 1995年どうしても日本で暮らしてみたい夫に説得されて家族で帰国。帰国後は、派遣社員などとして一般企業に勤務する傍ら、大分県竹田市、徳島県鳴門市の姉妹都市交流の通訳・翻訳・都市紹介DVDのドイツ語吹き替え、徳島県がドイツのニーダーザクセン州と友好提携する過程での通訳などのほか、市の国際交流協会主催の成人むけドイツ語講座、大学生の個人留学前のドイツ語指導など、細々とドイツ語に関わる仕事を続ける。2011年秋より徳島大学共通教育センター ドイツ語非常勤講師として勤務中。2013年10月に独文学会、ドイツ語教育部会、ゲーテインスティテュートの3団体が主催する「ドイツ語教員養成・研修講座」に参加したのをきっかけに教授法に興味を持ち、同じころに反転授業の研究FBグループに出会って今に至る。
 
ギュンター知枝さんのインタビューはこちら
 
(内容)
 
<第一段階>
「そもそも大学でドイツ語を学ぶ意味とはなんだろう?」大学で教え始めてからずっと、この疑問が原因でモヤモヤした気持ちが続いていました。
しかし私の周りには、この問いの答えを知っていそうな人はいませんでした。
 
<第二段階>
「ドイツ語教員養成・研修講座」に参加し、同じ時期に「反転授業の研究FBグループ」に出会い、そこからワールドカフェやアクティブ・ラーニングなどにも興味を持って教育関係の本や記事を次々に読むようになりました。また、インストラクショナル・デザインを知り、学習にはまずたどり着くべき状態(目標)があって、そこから逆算して授業を組み立てるということも知りました。
いろいろあわせて考えるうちに、答えに関するヒントをえることができました。
「言語はツールである」
 
<第三段階>
「言語はツールである」という考え方を自分の授業に取り入れるとしたら、今のままの授業ではいけないだろう。学生をアクティブに学ばせるためには、時間の確保のために授業の一部分を授業の外に出す必要がある。
そこでWeb単語帳を利用して、一部の学習を家庭での予習にまわすことにしました。
授業でも、おもちゃのお金を使って銀行窓口でのやり取りをする、などリアルなシチュエーションを模した内容を取り入れました。
 
<第四段階>
それでも「言語をツールとしているっぽい教材」はフェイクに過ぎない。自分がフェイクだと感じていることを学生に、いかにも生教材であるかのように提示するのは抵抗がある。
これが新しい悩みでした。
 
<第五段階>
ところが、TEDのサルマン・カーン氏の話をYoutubeで観たり、彼の本を読んだりして、「全ての学習内容はつながっている。むりやり教科という枠にくくって切り離して教えているだけだ」という主張を聞いているうちに、この「つながっている」の意味の一つは、数学も音楽も絵画もそして「言語も(自分を表現する)ツールである」であることに気が付きました。
今までは、何のためのツールか、というイメージが抜けていたのです。
 
<第六段階>
授業で具体的にどんなことを表現するツールとして言語をツールにするか、で「クリエイティブ・ライティング」が浮かびました。
自分の書きたいことがまずあって、そのために表現方法(単語や文法)を学ぶ。100%リアルです。
チャレンジのモチベーションを高めるために一年の最後に一人一人の作品を載せた文集を発行することにしました。
ここまで具体的なイメージが湧いても、まだ足踏みしている自分がいました。
 
<第七段階>
ドイツ語教員養成・研修講座の先生が「私はプロジェクト型授業に失敗したことがある(でもそこから多くを学んだ)」と教えてくださったことと、小林先生のアクション・ラーニングに参加して、私の悩みをみなさんの質問で整理していただいたことで、一歩を踏み出す決心がつきました。
 
<現在>
「大学でドイツ語を学ぶのは、言語を、自分を表現するツールとして使うことを学ぶためである」
これを体現する授業を目指して
1.Web掲示板への投稿、授業内にグループワークで校正で進める「クリエイティブ・ライティング」(実行中)
2.ドイツのギムナジウムの日本語学習者との交流(企画中)
の2つに取り組んでいるところです。
 
 

第12回反転授業オンライン勉強会

 

日時 : 8月26日(火) 21:45-23:30

テーマ:「はじめての反転授業&アクティブラーニング実践」

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:45-22:45

第2部 グループワーク 22:45-23:30

第2部では、オンラインでグループディスカッションも行いますので、ビデオチャットの用意をお願いします。ビデオチャットができない場合は、ボイスチャットのみ、テキストチャットでの参加でも大丈夫です。※第1部のみの参加もOKです。

お申し込みはこちら

第11回反転授業オンライン勉強会を振り返って

7月28日に実施した第11回反転授業オンライン勉強会では、山梨大学教授の塙雅典さんと、近大附属高校英語教諭の江藤由布さんが、お話ししてくださいました。

【関連記事】

お二人とも、アクティブラーニングを実践するための時間を確保するために動画を取り入れており、反転授業を実践することにより成績が上昇していることをデータを元に示してくださいました。

勉強会には、50名以上の方が参加してくださり、チャットボックスの書き込みも活発で、非常に盛り上がりました。

勉強会の録画動画は、「反転授業の森」の研究レポートのコーナーで公開していますので、参加できなかった方は、そちらをご覧ください。

勉強会に参加してくださった皆さんの感想はこちらです。

第1部:登壇者の発表に対する感想

短時間でしたが、実践例を紹介していただきモチベーションがかなりアップしました。これからもよろしくお願いします。
実践環境が違っても、参考になるところが非常に多かった。授業設計者としても、自分が学ぶという立場でも主体的に学ぶ意欲が高まった。
とても参考になりました。
本校でも本年度中に反転授業を取り入れる予定です。まったくイメージがないまま、進むに進んでいません。担当になりましたが苦悩しています。いろいろと参考にさせていただきます。
初めてでしたが、とてもわかりやすくご説明を頂き安心して受けることができました。
先生方のご講演、大変勉強になりました。
実際に反転授業を取り入れられているからこその
次点の気づき、課題、成果、これからの視点等
目からうろこの内容でした。
ご紹介いただいたアプリを試してみたいと思います。また、不具合にも素早く田原様にご対応いただき助かりました。
このたびは参加させて頂き誠にありがとうございました。
お二方のお話を聞いて、とても刺激的でした。
教師の立ち位置、仕掛けを考えるきっかけになりました。
ありがとうございました。
塙先生のも江藤先生のも後半から音声・画像とも固まって、わからなくなりました。残念です。
充実したセッションでした。
わかりやすくまとめられたスライド、サクサクとすすめられる先生の力量はもちろん、授業の様子が手にとるように理解できました。ぜひ自分も挑戦してみたいと思いました。
ありがとうございました。
説明を聞くだけではなくて、チャットでコメントを入れられるのが良かったです。
企業研修でも取り入れられたらなあと思いました。
予習してきてもらうことが大切ですが、それは対面授業の進め方にかかってくるのだと思いました。
初めて、英語の先生のAL型授業の実践報告を知ることができました。私は数学の担当ですが、うんうんとうなづくことが多く、自分の今の活動に勇気が持てました。塙先生のお話もそうですが、一緒に取り組む人がいるのは心強いですね。
江藤先生には授業でのファシリテーション力(介入)についていろいろと伺いたいです。
ありがとうございました。
今日は、具体的なデータを提示していただきながら、具体的な実践例を見せて頂きとても勉強になりました。なかなかファシリテーションスキル、しかけ、プリントやICTなどのツールの効果的な使い方など、勉強すべきことがたくさんあります。そこで、このように実際に見せていただいて興味深かったです。
近畿大学には実際に「ICTオープンスクール」に参加させていただいて、実際に生徒がipadを上手に使いながら自分たちで自分たちの学習の可能性を発展させていっているのを間近で見て、とても刺激を受けました。
生徒たちは教員が上手にファシリテートすれば、気持ちよく伸びていくものなのだと思います。お互いに楽しく、モチベーションを高めながら、学べるのが本当に理想です。そのために、いろいろ研究しなければと思います。
私は高校で英語を教えていますので、ぜひ江藤先生の授業を参考にさせていただきたいです。
ipadのアプリこんなに使っていることに、まず驚きました。
生徒のモチベーションを意識しながらALを実践しているからこそ、結果が出ていると感じました。反転授業は、先生のファシリテーション能力も重要なこともわかりました。とても勉強になりました。
実践例にみならず、その効果まで数値化されたものを拝見することができ、改めて反転授業とALの効果の高さを実感しました。
また、主体的学び、表現力や論理的思考能力の育成と従来の知識学習をそれぞれどのように位置付けて考える必要があるのか思い悩んでおりましたが、それぞれ別々に考えるのでは無く、新しい学びが従来の知識学習を押し上げると考えるのが良いと思えました。
塙さんの教育情報分析が、精緻で大変な驚きをもって受け取りました。日本での反転授業の萌芽の時代を感じます。協調学習の手法が、しっかり取り入れられているところです。
PCの調子が悪く、途中から参加になりました。
途中から参加し、推進している方々の職場には、協力体制と学習環境が整っているのだと感じました。
当方小学校勤務で、今年度は理科専科なのですが、個人ベースで取り組もうとすると、どうしても無理が生じてきます。(宿題の出し方など、各学級担任の考えがまるで違うのです…)まずは各担任の負担にならないように、紙ベース(予習プリントや教科書など)での予習からスタートし。授業では関わり合いを重視してみたいと思いました。
最後の方の参加になってしまい、申し訳ありません。
しかし、最後の少しだけでしたが、とても興味深い内容でした。
アクティブラーニングについて、もう少し知りたかったです。
江藤さんのおはなしをうかが高校の授業が変わりつつある、ということがわかりました。高校の教育が変わるということは、大学の教育も変わらなきゃいけない、ということ。益々緊張感を持って取り組みを継続しなければならない、と感じました。
反転授業の実践家で成績のエビデンスとして残してくる方が増えて来たなぁという感じです。可能性を感じました。
反転授業を実践されている先生方からの生のお話しを聞くことが出来て勉強になりました。対面授業の構成が大事なんだと感じました。
参加できず残念でしたが、事前資料が非常に充実しており、資料だけでも大変勉強になります。ありがとうございます。node chairとホワイトボードを使って、アクティブに活動している様子がよくわかりました。
反転授業の内容を理解することができました。いろいろな取り組み、導入手順があると思いますが、日本の教育現場で増えていけばいいなと思います。
やってみないとわかりません。とにかく変化を起こすことが大事だと感じました。
コンフォートゾーンにいてはだめですね。
お二方とも、データや教案等具体的な内容でプレゼンしていただきよくわかりました。
反転授業の可能性をエビデンスとして見せていただきました。説得力かありました。教師もチームを作って取り組まなければならないことを感じました。
実際に反転授業をされている方のお話は説得力がありました。成績UPの報告はとても嬉しい成果だと思います。
2件とも、成績が上がっていたようで、大変驚きました。
塙さんの講演では、音声同期スクリンキャプチャを使ったビデオ風講義の紹介があり、取り入れやすい内容だと思いました。
江藤さんの講演では、こんなにもうまくいくのか!?と驚いたのと同時に、もう少し授業の進め方を詳しく知りたいなと思いました。レポートの内容やマインドマップをどのように利用しているか?、アプリをどのように利用しているか?など。
質実剛健な実践内容と、説得力のあるデータに、非常に圧倒されました。塙さんも江藤さんも、徐々に取り組むメンバーを増やしておられるのが非常にすごいことだなと思いました。
自分が短大などで情報処理の講師をしていたこともあり、塙さんの説明にはあまり新しいことは見つけられませんでしたが、江藤さんの説明には驚かされました。やはり私立の学校だからと、たくさんの先生方とのコラボがあってのことであろうと思いましたが、自分も特に語学学習の重要性を実感していましたので、それを実行しているということで、だいぶ勇気づけられました。
二つの事例とも,かなり強烈な事例で印象的でした。トップランナーはこのくらいの実績を上げているものなのだなと思いました。とともに,でも私自身が取り組んでいることもまったく遠いわけではない,もう少しで届きそうで届かないところまでは来ている,という自信も得られました。

とくに塙さんの事例は工学教育なのでさらに詳しく知りたいと思いました。一番の関心事は,どうやって周りに広げるのか。今まさに,私がその部分で模索しているので,助言をいただけたら,と思いました。

塙先生、江藤先生ともに要領よく活動内容と成果を説明いただけてわかりやすかったです。塙先生の講義では成果が統計的に処理されていてこれほど顕著に変わるとは驚きでした。また、各講師が成績の分布で評価されることは非常に重要です。江藤先生の授業は高校生にここまでやるかという内容でありこちらも驚きでした。是非生徒さんにあって、よければ採用したいぐらいに感じました。
緊張して何をしゃべったか覚えていません。でも、随時テキストチャットが入って愉しかったです。塙さんのところはチームとして機能しているのがすごいですね。
塙先生,江藤先生のお話は,両方とも大変参考になりました.
お話に出て来たツールもですが,「完璧を求めない」とか「必要無駄」「螺旋階段」(無駄に思えることでも,一歩ずつ進める)といった取組姿勢に勇気づけられました.欲を言うと,アクティブラーニングや反転を既に実践しているので,もう少し深い話や質疑応答ができたらよかったと感じました.
塙さんの、①予習してきたことは再度説明しない、②予習動画よりも、対面の授業設計が大切、という点が印象に残りました。

江藤さんは、iPadアプリを駆使して、授業実践をされており、正直、ショックでした。江藤さんの実践の中で、シンプルマインドマップを使われていましたが、マインドマップを授業の中で使うためには、手軽にマインドマップを描く必要があるので、その点を工夫してみようと思いました。※たとえば、インターネット上で使える、iMind Mupなど。

音声と画像が塙先生のときも、江藤先生のときも後半から固まってしまい、内容をよく追うことができず残念でした。ただものすごく先進的な取り組みをされているのだという印象だけ強く残り、焦燥感が募りました。
高校の反転授業の様子がよく分かりました。
江藤さんの授業の取り組みを「AL型授業スキルアップ講座」で知って、さらに詳しく学びたかったため非常に良い機会となりました。螺旋階段のイメージは、ファシリテーションのイメージとも一致するなと思いました。

余談ですが、前回の横山ルームが重かったようで、テザリングの3日間の使用制限を一気に超えてしまい、学校やコンビニでの接続を試みながらの参加でした。すべてキチンと見れなかったのが残念でしたが、コツも分かったので次は大丈夫だと思います。

今回はネットの接続が悪く、塙先生の講義が途中で聞こえなくなりましたが、*対面授業に重点をおく *ビデオは完璧じゃなくて良い というポイントはパイロットで反転授業を試してみて、同感です。さらに、塙先生と江藤先生のお二人がBloom’s Taxonomyを引用していらっしゃいましたが、これから反転授業を実践していく上で大変参考になりました。
山梨大学の取り組み、実践的でよかったです。
反転学習での内容は、授業では解説しない。
教師がファシリテーターの役割ができないと学力の向上は見られない。
教師の指導力が必要である。ということを実感しました。
江藤さんは、アプリを有効活用されていたこと、生徒に多くの負荷を与えつつ、生徒が楽しんで積極的に学んでいる様子が伺えました。
まさにwin winの関係だと思いました。アクティブラーニングをしていると消極的な生徒ではいられなくなる。ということも印象的でした。
今まで反転授業の具体的事例は武雄市のものしか知りませんでした。
他にも様々なところで実施が成され成果が上がっていることを知りとても有意義でした。
特に江藤さんの事例はビックリしました。あれだけクリエイティブな教師の方がいらっしゃるというのは素直に驚きました。
お二人のお話とも熱量が高くて素晴らしかったです。

塙先生のお話では山梨大学の教員の前向きさとチーム力の高さに感動しました。学長のトップダウンというのもあるでしょうが、チームリーダーである塙先生の熱意が大きいのではないか感じました。
以前東京で塙先生と少しだけお話しさせてもらったのですが、やはり情熱家だという印象を持ちました。見習いたいです。

江藤先生のお話も大変感動しました。
学習力を高めれば偏差値はついてくる、というのもその通りですし、何よりも江藤先生のぶれない一貫性のある信念みたいなモノに感動しました。iPadアプリについても勉強になりました。これから資料見て自分で確認してみようと思います。

お二人のお話を伺って、こういう先生に自分もなりたいと思いました。自分なりに考えて実践はしていますが、まだまだ未熟だと痛感させられました。大変刺激的で勇気と元気のもらえました。ありがとうございました。

塙先生のお話は息子を寝かしつけていたので、半分くらいしか聞けていません。データの出方に驚きです。トップダウンを組織化、さらには同僚性が鍵だと強く感じました。

江藤先生のお話については、英語特化クラス以外がどうなっているのかの方が気になります。モチベーションの低い集団にアクティブラーニングでどのように意欲を引き出させるかが現在とても知りたいです。
勤務校ではネット環境や端末の有無など、インフラが整わない生徒もいるのが難しいですが、アプリ等試してみたいと考えます。

一部のみの参加でしたが、お二人ともきちんと結果を出しているので説得力がありました。flipped classroomやActive learningを実施できる環境も整っている印象を受けました。Active learningがうまく機能してこそのflipped classroomなのだということも、よく理解できました。さて、そこで私には何ができるのか?まず、同志を募ろうか?ちょっと考えてみます。できることから始めます。
塙先生の試み、大変興味深く拝見しました。成績向上のデータなどもあり、ぜひFCに取り組んでみたいと思います。
大学ではあまり乗り気でない先生もいらっしゃるなど、本学でも同様の雰囲気がありますが、トップが塙先生たちの取り組みを支援しているというのがうらやましくもあります。
 東京大学の山内先生は反転授業を「完全習得学習型」と「高次能力学習型」の2種類に分けていらっしゃいますが、今回のオンライン勉強会でのお二人のお話は、それぞれの典型のように思いました。

対面部分の授業は、前者はチューターリングが中心ですが、塙さんはお話の中で、受講者数が多くTA/SAの助けを借りるのが重要と仰っていました。また、山梨大学の先生が授業をるんるん気分で実施とか、楽しく授業をしたとか書かれているのを見ると、以前の楽しくない講義をつい想像してしまい、先生が楽しく、学生も成績アップなら文句なしかなとも思いました。^^

さらに、後者は協調学習が中心となり、江藤さんがiPadアプリを上手に利用して生徒たちのモチベーションを維持しながら、成績アップにつなげ、何よりも生徒たちが変わっていく様が心に残りました。

そして、どちらも対面授業の部分が重要であり、教師の力量(授業技術・授業構成等)が問われることになりますね。ICTはそのためのお手伝いとして利活用すべきだし、せざるを得ないと思います。

最後に蛇足ですが、ALの思考構造を生む方法で、Unlock,Unlearn=心の鍵を外すことが大切で、「無知=知識の欠如ではない。頭の中が知識で一杯で新しい事を取り入れられないこと」と江藤さんが仰っていましたが、これは以前読んだ「経験学習 入門」の中で、『アンラーニング:時代遅れになった知識を捨て去ること(ヘドバーグ:組織学習の概念)』、
『アンラーニング=「学びほぐし」:一度固まった知識の塊をほぐし、必要のないものを捨て、知識を編み直す作業。』と定義づけられていました。

山梨大学で反転授業が広まりつつあるのは、学長のリーダーシップもさることながら、実際に受講する学生や講義する先生の立場に立ち、受け容れ易い設計にしたことが大きいのではないかと感じました。
うちの大学の先生方にも試してもらえそうな気がします。
ただ、先生の習熟度によって効果が異なるとすると、それなりのトレーニングや経験が必要でしょうし、その負担感をどう解消するかは導入に向けた課題になりそうな気がしました。
近大付属高の事例については、この学校で英語を学びたい!と思いました。LEAFとそのモデルプラン、学習力のピラミッドモデルは大変参考になりました。
塙さん

大学での取り組み非常に興味深く拝見させていただきました。ALを取り入れるために、その時間の確保のためにFCを取り入れるというのは、武雄市での事例を同じですので、よく理解できました。
動画が完璧でなくてもいい、講義内で先生が授業をすることはない。という2点は反転授業を行う上でとても大事なことだと思いました。生徒が主体的に学ぶ姿勢をつくり、それを活かす場をつくっていくというのがALの基本的な姿勢になると感じました。
さまざまなデータを見せていただきながら、前年度の比較をされているということをされていましたので、とても分かりやすかったです。これを5年ぐらいデータをとると、もっと面白いものが見えてきそうですね。
実際のテストがどのようなものであるのか(演習で正解があるものなのか、それともプロジェクト学習のように、正解がなくレポートで点数をつけるのか)がわからなかったので、教えていただけると嬉しいです。
もし、演習で正解をつけるのであれば、それもオンライン化して、ALによって、身につける主体性のある学びから新たな力というか表現力や実践力のような授業にすると面白いんではないかと思います(ハードルが高いのは承知の上での意見です)。
このような実践例をオープンにしていただく機会というのはなかなかありませんので、大変勉強になりました。ありがとうございました。

江藤さん
LEAFモデルはとても面白かったです。江藤さんの取り組みによって、生徒自身に勉強に対するパラダイムシフトが起こっているのが良く分かりました。勉強は「教えてもらうもの」ということからの脱却。「学ぶもの」というものに積極的に取り組むことによって、江藤さんの求める(生涯)学習力が生徒にも伝わり、実際に力も身についているんだなと感じました。
出産や子育てを機に、ICTを利用しながら、生徒との信頼関係をつくって、授業を構築していく姿勢は、パワフルでエネルギッシュでみていてワクワクしていました。学校の先生方も巻き込んでワークショップをしているということを聞いて、もっともっといろいろなアイデアがでてそれが生徒や先生に還元されて、新しい教育の形が生まれていくのではないかと期待しています。

お二人の話をきいて、共通することは、自分で勉強できる部分は自分で勉強させる。ただし、それは完璧を求めるのではなく、質問があればそれをきちんと発表できる場を授業の中でつくっているということです。それはALではとても大事なことで、質問があるから、議論が活発になるし、また新しい気づきや発見もあるんだと再認識しました。

武雄での実践でもそうですが、予習をしてくるということは、安心感と次の授業までにどんなことを考えておけばいいのかという準備ができるので、議論が活発になったり、参加しやすくなるということが考えられます。

では、反転授業のコンテンツをどのようにして準備するのか、授業案をどのようにして考えるのか、そのようなことをまた反転授業のグループの中で共有しあえると、グループの価値も高まっていくのではないかと思いました。

勉強会お疲れさまでした。いつも時間が合わず参加できませんでしたが、このような形で見ることができて大変参考になりありがたいです。
塙さんのお話では、生徒たちの成績の変化がとても分かりやすかったです。反転すると成績のいい生徒と悪い生徒の差が開くのではないか?という記事をどこかで見ましたが、そんなことは無い、と言い切れるいい資料だと思います。
私が自分の塾で教えているのは小中学生ですが、学校の授業の内容を忘れてしまっている子が大半で、授業は大事だからしっかり聴くようにと口を酸っぱくして言っているのですが、通り過ぎていってしまうものはどうにもできないという感じなのかな、と思っておりました。
塙先生の実践では、学生が授業の内容をしっかりと把握しているのではないかと思いました。繰り返し見られるという動画のよいところが生きているのではないでしょうか。
江藤先生のお話では、「あえて効率の良い方法を選ばない」という表現が印象に残っています。日本の英語教育の目指すところが彼女の授業にある気がしました。
とてもよかったです。ありがとうございました。

 

第2部:グループワークへの感想

 

誠実な進行をいただきまして、十分な情報交換をさせていただきました。ありがとうございました。
違う角度でいろいろな意見を聞くことができて良かったです。
今後もこういう機会を持ちたいです。
ありがとうございました。
ボイスで参加したかったのですが、なぜかうまく音声が入らず・・・ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした・・・。

少人数でしたので、非常に話しやすかったです。
皆さんとの情報交換、大変参考になりました。
ファシリテータの横山様、ありがとうございました!!

私のファシリテーションがうまくなくて、皆さんのご意見をうまく集められなかったと反省しています。テキストチャットだと時間がかかるので難しいですね。せめてボイスチャット、できればビデオチャットでやりたいところです。
音声がエコーしたりマイクマークに斜線が入ったりして、テキストチャットをメインに情報交換しました。

部分的にでもいいから、反転授業をいれていきたいことや、とにかくやってみることが大事だという皆さんの考えに共感しました。

色々な背景の方とやり取りして意見を聞くことが出来ました。塙先生と直接やり取りできたのが良かったです。運がよいです(笑)。色々と参考になる話や、気づきを得ることが出来ました。
盛んなディスカッションがなされていそうで、参加できず残念でした。
ビデオが後で見れるといいなぁと思いました。(ALの講座のように)
はじめてチャットで会話をしました。
テキストを打つのに時間がかかってしまいました(反省)。
有意義な対話ができたと思います。
もっと時間がほしかったです。
いろいろな立場の方と意見交換ができ有意義でした。
あっという間に時間が過ぎました。
ネットでグループワークができるとは感激しました。反転とアクティブラーニングの組み合わせも面白いですが、多くの学校では反転ができる生徒の家庭環境が整いません。特に、公立の困難校では、タブレットやパソコンのない家が多く、家で勉強する習慣もありません。その中で反転授業が進んでいくことは、経済による教育格差が広がるおそれもあります。
音声の聞こえが悪かったのですが、途中からチャットでの参加になりました。反転授業のメリットをこれから取り入れたいと思いました。ありがとうございました。
予習やアクティブラーニングをやるような生徒にするにはどうしたらよいのか?、成功されている先生方はどのような道を辿られたのか?(失敗も含めて)というのがグループの中で話題になりました。
時間が足りず、深い議論まではできませんでしたが、他の方の意見で新しい発見もあり、有意義な時間でした。
ありがとうございました。
ビデオは私ともう1名、テキストが4名でした。いや~~ファシリテーションということの難しさをヒシヒシと感じた20分間でした。また、「もう1名」の方の音声が私には途切れ途切れで聞こえていたので、もしかすると私の声も他の皆さんには途切れながら聞こえていたかもしれません。

ALをしようとしたらクレームにあって頓挫中の人
ALに興味はあるが実践していない人(私)
反転+ALをしている人
反転せずにALをしている人
ときどき反転している人(私)
塾の人
学校の人
が入り交じっていたので、もっとうまく話をつないでいけたらもっと盛り上がったのでは・・・と少々悔やんでいます(汗)しかし貴重な経験をさせていただきました。

最初から全員、テキストでやるべきでした。音声のエコーがひどくて誰もちゃんと話すことができませんでした。そんなやりとりで半分の時間が取られました。ヘッドフォンを使っていないどなたかのスピーカーをそのマイクが拾ってしまっていたんでしょうね。これは難しい問題ですね。。。
ディスカッションはスムーズにはいきませんでした。しかし,気づきも多く得られました。

反転授業の最大のメリット:授業に使える時間が「倍」になること
アクティブ・ラーニングの最大のメリット:深く学べること

私が反転授業,アクティブ・ラーニングについて,一番知りたいことは,どうやって周りに広げるか。

テキストだけの人が参加しきれなくて可哀想でした。逆にビデオ参加の私はしゃべり過ぎでした。
予習がほぼ100%やってくるようなるまでに苦労してきた裏話や秘訣を知りたいという声が何人かからありました。また、Whiteboardのメリットと使い方について更に詳しく知りたいという声も私とChieさんからあり。
最後に、とにかく江藤先生凄い。見学に行きたいです。
難しかったです。爆音の人、途切れる人、聞こえない人。さらに全員全く別の背景で、想像もつかず。アワワ!と。ファシリテータースキルを磨かないといけませんね。
システムのせいか,円滑にはボイスチャットができませんでしたが,それでも皆さんと意見を相互的に交換する事ができて良かったです.
テキストチャットだと会話の流れが分断されたりしてしまいますが,全体での振り返りの際にグループリーダーが最後に見事にまとめて下さって助かりました.
感想を言い合っただけでした。実際司会進行は難しいので、不満は感じませんが、これは慣れていないと、すぐにはなかなかできませんね。
すでに実践に取り組まれておられる方々との意識の差を感じました。中に入りたいがそうするにはどうしたらいいのだろうと入口迷っている者が、中に入ってすでに新しい次元でものを考えておられる方とご一緒するのは勉強にはなりますが、最後まで中への入り方が分からず取り残された感だけつのりました。ExplainEverythingをつかってますとさらりと言われても正直きつかったです。初歩の人はどこから始めたらいいのでしょう。田原さんおしえてください。
皆さん、テキストチャットでの参加でしたので、ぎろんとまでは至りませんでしたがあ、情報の共有は出来たと思います。
さまざまな実践をされている方が集まっており、短い時間ですが貴重な機会となりました。やはり皆さんそれぞれ苦労もされているんだなと思いました。仲間と頑張りたいと思います。
全然違う分野の人たちで話合うことにもメリットはあると思いますが、次回またグループワークに参加できるとしたら、同分野(自分の場合、言語教師)の方々の体験談や感想、意見などを聞いてみたいです。
最初のトピックはやや話し辛かったです。メリットといっても既出のものしか思い浮かばず。個人的には今後の課題の方に興味がありました。
とぎれとぎれだったのは、私のWiFiの接続状況が悪かったかもしれません。
反転授業もそうなのですが、インフラ整備が難しい中、反転授業をしなくても主体的に学ばせる方法は何だろうと考えていました。(話の流れとは関係がありませんが…)

徹底してCritical Thinking Skillsを身につけることで、その辺りはIBのThinking Of Knowledgeをしっかり研究する必要があるかなと考えています。

初めての経験で、始まる前は逃げ出したくなりました(笑)。
テキストで参加しましたが、ipadでの入力は厳しかったです。入力しながら直接話がしたいと思いました。やはり参加してみるものですね。
次回はビデオかボイスで参加します!

 

ディスカッションの続きは、Facebookで!

今回、お話しいただいた、塙さん、江藤さんをはじめ、多くの教育に関心のあるみなさんが、Facebookグループ「反転授業の研究」で交流しています。

限られた時間内でのやりとりで交流できなかったと感じたら、ぜひ、続きをFacebookグループでやりましょう。

すでに2000名を超えるメンバーが活発に意見や情報のやり取りをしています。

Facebookグループ「反転授業の研究」はこちら

 

登壇者紹介:山梨大学教授 塙雅典さんにインタビュー

7月28日(月)に実施する反転授業オンライン勉強会でお話しいただく山梨大学教授,塙雅典さんにインタビューしました.

山梨大学がアクティブ・ラーニングに取り組むようになった背景には,文部科学省が大学にアクティブ・ラーニングを導入することを奨励しているという現状があります.

文部科学省のHPで公開されている平成24年3月7日に実施された「大学教育部会(第11回)の審議のまとめについて」を見ると,次のように主体的な学びやアクティブ・ラーニングについての言及が非常に目立ちます.

主体的な学びやアクティブ・ラーニングに関する部分を引用します.

●大学の教員は教育に比較的多くの時間を割くようになっており,改善のための様々な工夫も進んできている.にもかかわらず,国民,企業そして学生自身の学士課程教育に対する評価は総じて低い状況にある.これには種々の要因が関係しているが,特に,高校までの受け身の勉強とは質的に異なる主体的な学びのための学修時間が今日においても少ないという大きな問題がある.
高等教育の課題が学生数等の「量」から教育の「質」へと転換しているユニバーサル段階において,また,我が国が激しさを増す社会変化に直面する中で,今まさにこの状況を踏まえた学士課程教育の質的転換への早急かつ効果的な取組が求められている.

●現在,我が国の大学の教員の一学期当たりの担当授業時数は8コマ程度と比較的多く,かつ,教員の勤務時間における教育に関する時間の割合は増加している.また,ナンバリングによる体系的なカリキュラムの編成や学生が予習するための工程表としての授業計画(シラバス)などによる学修時間の伴う質の高い教育を展開している大学もある.また,グループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワークなどによる課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)に取組み,成果をあげる大学も出てきている.これらは,国際的通用性が問われる知識基盤社会,グローバル社会における高等教育において,日本型の学士課程教育モデルとしてさらにその発展,展開を図ることが期待される.

●高校までの勉強から大学教育の本質である主体的な学修へと知的に跳躍すべく,学生同士が切磋琢磨し,刺激を受け合いながら知的に成長することができるよう,課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)といった学生の思考や表現を引き出しその知性を鍛える双方向の授業を中心とした質の高いものへと学士課程教育の質を転換する必要がある.

このように、文部科学省は、アクティブ・ラーニングの導入を、かなり強力に大学に求めています。これを踏まえて,山梨大学がどのような取り組みをしているのか,塙さんにうかがいました.

反転授業を導入したきっかけ

山梨大学が反転授業を導入したきっかけは何だったのですか?

文部科学省としては,アクティブ・ラーニングをやりたいということでいろんな予算をつけるわけです.そこで,大学側としては,予算獲得のためにもアクティブ・ラーニングを導入したい.でも,現場は動かない.工学部の現場では,教科書のまとまった内容を教える必要があるのでアクティブ・ラーニングに時間を割いている余裕はないと思っているわけです.そんな中,企画担当の理事が文部科学省の予算を取りにいくためのプロジェクトを立ち上げることになり,私が呼ばれてアクティブ・ラーニングの部分をやってくれと頼まれました.そこで,少人数で集まって試行錯誤が始まりました.

ICTオンラインの記事では,XEROXさんとの共同研究と書いていたのですが,それがきっかけではなかったのですね.

XEROXさんとのお付き合いも始まったのも文部科学省への予算申請とほぼ同時です.プロジェクトがスタートした後,XEROXさんと共同研究することになり,最初は授業をビデオ撮影するところから始めました.でも,ビデオだと編集とかが面倒なので,XEROXさんが社内用に使っていたスクリーンキャスト形式のシステムを試しに使わせてもらったら使いやすかったので,それを使わせてもらっています.

反転授業ではなく,アクティブ・ラーニングを導入するのが目的だったということなんですね.

はい.反転授業は,あくまでも,授業でアクティブ・ラーニングをするための手段だと考えています.

東京国際大学教授の河村一樹さんにお話をうかがったときは,改革はトップダウンでないと難しいという意見が出ていました.山梨大学の場合は、企画担当の理事の発案で,まさしくトップダウンでプロジェクトがスタートしたため,アクティブ・ラーニングを推進するためのチームができました.

チームで試行錯誤をシェアしながらアクティブ・ラーニングや反転授業の実践を進めていくことができる点は、トップダウン式で改革するメリットの1つだと思いました。

塙さんが,授業に対して感じていた問題意識

反転授業を始める前は,塙さんはどのような授業をされていたんですか?

アクティブ・ラーニングのようなことはやっていませんでしたが,授業は何とかしたいと思っていました.教室をまわって学生を指したりして,学生が寝ないようにしていました.でも,どうも学生が生き生きしていないんですね.この状況が嫌でした.

なるほど.では,アクティブ・ラーニングとの親和性は高かったのですね.

そうだと思います.それに,新しいことをやるのは嫌いじゃないし,せっかくアクティブ・ラーニングをやるなら,ちゃんとやって成果をだそうと思いました.学生同士が話し合いをしたり,分からないときは質問したりするような教室にしたいと思っています.

このような改革をしていく上で,プロジェクトメンバーの人選というものはとても重要だと思います. 塙さんは、企画担当理事の一本釣りでプロジェクトメンバーになることを頼まれたそうです. 塙さんにお話をうかがって,教育に対する熱意と、チームで連携しながらアイディアを形にしていくリーダーシップにあふれている方だという印象を受けました.

山梨大学の実践

山梨大学では,どのような取り組みが始まったのですか.

学内で呼びかけて,いっしょに反転授業をやってくれる人を集めました.これまでに反転授業の試行に取り組んでくれた教員は6名ですが,今年の後期からは二倍以上に増える予定です.

実際にやってみていかがでしたか?

資料を見ていただけると分かるように,ほとんどの授業で成績分布が完全習得型に近い形になりました.ただ,1つのクラスではうまくいきませんでした.他の5人は10年以上,授業をやった経験がある教員だったのですが,その方は,初めて授業を担当される方でした.ITに強い方なので動画講義はしっかりしたものを作られていたのですが,生徒が動画を見て予習してこなかったときに,もう一度,対面授業で講義をしてしまい,生徒がさらに予習してこないという状況になりました.その点を指摘して改善したら,成績分布もだいぶ改善しました.

※資料は、「反転授業オンライン勉強会」の中で公開します。

一斉講義型の授業経験がないと,アクティブ・ラーニング型の授業をやるのが難しいという話をよく聞きます. 学生がどのようなことに疑問を持つか, どんなところで間違いやすいかなどを想定した上で,それを自分たちで気づいて解決できるような仕掛けを作っていかなければならないからだと思います.また,「場づくり」にも、学生とのコミュニケーションや関係性が大きく関わってきます.経験の少ない教員が,どのようにしてアクティブ・ラーニングを実践していくのか,また,それをサポートしていくのかという点も,今後の課題になりそうだと思いました.

日本教育工学会での発表

この成績データは,どちらかで発表したのですか?

昨年9月の日本教育工学学会第29回全国大会で発表しました.私たちは教育工学については素人なので,「このような結果が出ましたがどうですか?」ということで意見をうかがいに行きました.2013年に実践した最新のデータを発表しました.

反応はどうでしたか?

質問の嵐でした.いろんな質問がありましたが,「反転授業が増えたら学生の負担が増えて,成り立たなくなるのではないか」というものがありました.現状では,確かにそのような可能性があります.しかし,大学の授業というのは予習2時間,授業2時間,復習2時間の合計6時間の勉強が想定されています.1,2年生に単位が集中していて,3,4年生ではほとんど授業がないという現状では,全科目で反転授業を実施すればうまくいかなくなりますが,4年間に124単位を分散させれば,本来の形である予習2時間,授業2時間,復習2時間を実践させることができます.

反転授業の効果を示す成績データを取っているところは少ないですよね.

私の知っているところでは,成績データをとっているところは他には知りません.また,反転授業に取り組んでいる大学は山梨大学のほかに,早稲田大学,島根大学,東京国際大学などがありますが,熱意のある教員が個人でやっているところが多く,組織的にやっているところは他には知りません.

反転授業を導入を検討している大学にとって,山梨大学の成績分布のデータは,とても参考になると思います.反転授業を実践した6名のうち5名で,完全習得型の分布に近い分布に移行したというのは大きなインパクトがあります.このようなはっきりしたデータを出したのは,日本では初めてだとのことで,反転授業やアクティブ・ラーニングの導入を加速するものになるのではないかと思います.

反転授業の課題

実際に反転授業をやってみて,どのようなところに課題を感じていますか?

今は,XEROXさんが提供してくれているPCをサーバーとして使っていますが,本来であれば,ちゃんとしたサーバーが必要で,それには,予算が必要になってきます.

反転授業をやるには,予算が必要だということですね.

私たちは,他の大学の教員でも実践できるような「こういうやり方をするといいよ」という形を提案したいと思っています.簡単に実践できる環境とノウハウを用意しないと普及しません.Screen-O-Maticなどのフリーソフトを使ってYoutubeやGooge Driveにアップロードする方法もあるのですが,それだと著作権の問題が出てきてしまいます.教科書の図などをスライドに載せることができなくなり,立ち行かなくなります.最低でも,学内にサーバーがあり,学内登録ユーザーしかアクセスできないような仕組みがあることが必要になります.その上で,国内で開発したソフトをオープンソースで配布することができれば普及しやすくなると思っていますが,それには,予算が必要なんです.

トップダウン式で改革を行う場合は、環境整備などがやりやすくなると思いますが、山梨大学では、現状では予算獲得ができておらず、それがネックになっているようです。大学へ大規模に導入されるためには、大学の枠を超えて利用できる使いやすいビデオ講座制作システムの開発や、学内サーバーやLMSの整備へ予算を投入する必要があることが、お話をうかがってよく分かりました。

それ以外には,何か課題はありますか?

実際にやってみて,教室での授業設計がポイントだと思いました.しかし,私たちは授業設計については素人なので,授業設計の専門家がサポートする体制があればと思っています.アクティブ・ラーニングのやり方については悩んでいますね.勉強会をやって様々な手法を学んでいるのですが,それを取り入れる段階で疑問が尽きません.ペアワーク,グループワーク,質問セッション,プレゼンなど,それぞれの効果が類型化できていないので,どの授業でどれを使うか,時間配分をどうするかなどで迷います.

塙さんの授業は,どのようなデザインになっているのですか.

基本的な流れは,1)動画のポイントと疑問点をPingPongで回答してシェア,2)質問がなくなるまで質疑応答を繰り返す,3)問題を自力で解く 4)周囲とシェアしてグループで解く 5)できたところは発表 6)最後に今日の授業のポイントをPingPongで回答,という感じです.演習する問題内容に応じて,時間配分をどうするのか,質問を使うセッションにしたらよいのかなど迷います.これらを類型化して黄金パターンを作りたいのですが,まだできていません.

僕のWizIQを使ったオンラインのライブ講義では,チャットボックスを使ってやり取りをするのですが,チャットボックスへの書き込みだと抵抗感が少なくて,活発にアウトプットが出てくると感じています.PingPongを使うと,同じようなことが起こりますか?

PingPongへはスマホやPCからアクセスしているのですが,このようなシステムを使うと学生は回答しやすくなりますね.質問に対してPingPongで回答させると短い回答が返ってくるので,質問者にマイクを渡して詳しく説明させたりすると,活発な質疑応答のセッションができます.

科目や生徒が違えば,最適な授業設計も自ずと変わってくると思います.定型化されたアクティブ・ラーニングのひな形というものが必ずしもうまくいくとは限らず,教員には,ひな形を土台に試行錯誤しながら最適な形を見出していくスキルが必要になってくるのではないかと思いました.同時に,授業設計の専門家のサポート体制も,今後は重要になってくるのではないかと思いました.

チームワークの重要性を気づかせる

アクティブ・ラーニングの中にはグループワークもあると思います.僕自身は,ずっと一人で仕事をすることが多かったのですが,Facebookグループの活動を始めてからチームで仕事をする楽しさや,一人じゃできないことができることの面白さに目覚めて,いろいろなことをチームでやるようになりました.チームで仕事をするメリットを体験をしたことがきっかけで行動が変わったのですが,山梨大学の反転授業で行っているグループワークは,学生たちにチームワークの重要性を感じさせる場になっているのですか?

反転授業とは離れるのですが,私の担当する実験科目内でエンジニアリングデザイン実践というプロジェクトベースドラーニングを実施しています.電気電子工学科の学生と言っても,電子工作をしたことがない人がほとんどなんです.それで,8-9人のチームを組み,実際に動くものを作らせます.仕事を分担しないとできないようなものを作らせるんです.授業のレポートの最後に書かせる感想を見ると,「自分一人ではできなかった」「動くようなものができるとは思わなかった」というような感想が多いです.これは,チームワークの重要性を体験するものになっていると思います.

「主体的な学び」を育成するために、1つの授業だけでなく,4年間のカリキュラム全体で連携していくことが重要だと感じました.1-3年生のうちに,プロジェクトベースドラーニングやアクティブ・ラーニングで学び,調査,協働,発表などのスキルを身に着けてから,卒業研究に取り組むという流れができるのが理想的なのではないかという印象を持ちました.

◆学ぶ意欲への影響

僕が物理ネット予備校にアクティブ・ラーニングの要素を取り入れようと思った理由は,動画講義だけだと続けられる人はどんどん進めるけど,続けられない人もいるというところに課題を感じていたからなんです.定期的に集まってアウトプットする場を持つことで,お互いに刺激しあって学習意欲を高めてもらうことが目的でした.反転授業には,学習意欲を高めるという側面もあると思いますが,反転授業を実施して,学生の学ぶ意欲は変わりましたか?

反転授業をきっかけに大学院進学を目指すようになった学生がいます.彼は,もともと勉強をやる気がなくて,最低限の単位を取って卒業して就職しようと考えていたのですが,グループワークで自分が意見をちゃんと言えたことで自信がついて,もっと勉強したいと思うようになり,進路を大学院進学に変えました.

反転授業をきっかけに,学習意欲が高まったのですね..

はい.ただ,そうならない生徒もいるので,それが彼特有の現象なのか,もっと一般化できるものなのか,これから検証していくことが必要だと思います.

アクティブ・ラーニングやプロジェクトベースドラーニングは,うまく機能すると体験の強度がとても多くなります.それを行動変容につなげていくことができれば,大学院進学を決めた学生のような例が増えてくるかもしれません.ヒントになるのは、デジタルハリウッド大学教授の佐藤昌宏さんのEffective Learning Lab(ELラボ)での研究結果“人はポストラーニングにおいて行動変容する”です.また,アクティブラーニングの実践で有名な小林昭文さんも,授業後の振り返りの重要性を述べています.(「体験」→「振り返り」→「気づき」を得られる模擬授業体験)振り返りを行って,体験を自分の言葉で語り、その中で生まれた気づきが,自己イメージを変化させていき,その結果として行動が変化していくというプロセスをアクティブ・ラーニングと組み合わせていくことに可能性を感じています.

塙さんは,工学部の研究者らしく,大学で反転授業を実践するうえで課題のを明快に切り分けて,それぞれの課題を浮き彫りにしてくださいました.現段階では,このように課題をはっきりさせることが非常に有益だと思います.明らかになった課題をシェアして,どのようにしたら解決できるのか,アイディアを出し合って一緒に考えていきたいと思います.

7月28日(月) 21:45-23:30で実施する第11回反転授業オンライン勉強会「反転授業の実践報告」で,塙さんがお話ししてくださいます.

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近大附属高校 英語教諭 江藤由布さんにインタビュー

7月28日(月)の反転授業オンライン勉強会で登壇してくださる江藤由布さんにインタビューさせていただきました。
 
※江藤由布さんのブログ All Englishの授業アイデア[iPad,反転授業,Active Learning]

江藤さんは、日本人の両親を持ち、海外に長く住んだ経験がないにもかかわらず、日本語と英語の両方を自由に操るバイリンガルです。

江藤さん自身が、どのような英語教育を受け、2つの言語を自由に使えるようになったのか、最初に質問しました。

3歳から母親がはじめたオリジナルの英語教育

江藤さんは、どのようにして英語を学んできたのですか?

私の場合はかなり特殊な環境でした。両親が英語が苦手だったので、子供には英語を話せるようになってもらいたいと思っていたようです。

大学教授の父の仕事の関係で、3歳のときに9か月間、アメリカに住みました。母は英語が苦手だったのですが、子供に英語をマスターさせるためには、まず自分ができなければならないということで、アメリカの大学に入学して勉強しました。

日本に戻ってきたころには、日常的なことは英語で不自由なく話せるようになっていました。

3歳児で英語が喋れるようになっても、そのあと、英語を続けないと消えてしまうと思います。また、ボキャブラリーを増やしていかないと年齢相応の英語を話せるようにならないと思います。日本に戻ってからは、どのように勉強したのですか?

母が全くのオリジナルのやり方で英語教育をやりました。テレビは英語でしか見ていませんでした。当時は『セサミストリート』とか『奥様は魔女』とか、海外のテレビドラマの音声多重放送をやっていたので、それを英語で見ていました。また、大量の読書を課せられました。英語の歌のカラオケセットもありました。その結果、小3のときに英検2級を取りました。

徹底していますね。海外駐在とかで子供のときに英語が喋れたという人は多いと思いますが、帰国してから、日本で英語力を伸ばしていくのは並大抵のことではないと思います。ちょっと普通じゃないレベルですよね。まわりに同じようなことをやっていた人はいなかったんじゃないですか。

はい。母は孤独だったと思います。かなり厳しく仕込んでいたので、祖父母が止めに入ったりするほどでした。私は母も英語も嫌いでしたね。

それは、ずっと続いたのですか?

12歳まではつきっきりで、みっちり仕込まれました。小学3年生のときに英検2級を取ったら、ある程度、基礎ができたということで、宿題が課される形になりました。中学から地元の英語学校に行ったんですが、まわりの子がやる気をなくしてやめてしまってクラスが消滅するということが2回続けてありました。母への反発心もあって、12歳から16歳まで英語を勉強しなくなったんですが、16歳で短期留学してから、火がついたように猛烈に勉強し始めました。

朝起きたら英字新聞の一面を読んで、電車の中で『時事英語研究』という雑誌を読んで、暇な時間には英語でDictationをして、1時間100ページのペースで読書をしていました。

短期留学のときに、何があったんですか?

人生観が変わったのだと思います。人のためじゃなくて、自分のために勉強するんだということが分かったんだと思います。

英語の早期教育に対する不安は、主に2つあると思います。1つは母語の習得に悪影響を与えるのではないかということで、もう一つは、英語に限りませんが、親子関係や自立に関わる問題です。

日本に住みながら江藤さん以上に子供に英語を学ばせるのは難しく、江藤さんに母語の問題が全く生じていないことから、母語の習得への影響については、日本に住んで日本の学校教育を受けている場合は、心配する必要がないと思いました。

親子関係や自立に関わる問題は、慎重に考える必要があると思います。僕は子供のころから硬式野球をやっていたので、まわりには子供に野球の英才教育をしている親がたくさんいました。自我が芽生える前は、英才教育でスキルがどんどん伸びるんですが、自我が芽生えてくるにつれて、野球を嫌いになってしまってやめてしまうというという例をいくつも見ました。江藤さんの場合も同様の危機があったと思いますが、短期留学をきっかけに、自分のために勉強するということに気づき、子供のときに鍛えられたスキルを土台として利用して、英語力を自分の人生のために役立てていったというお話は、自立の物語としても、とても参考になりました。

江藤さんの教育実践

江藤さんが教育の分野に進もうと思ったきっかけは、何だったのですか?

私は小・中・高と学校の枠にはまらないところがあって、一斉講義で、座って黙々と勉強するというのが苦手だったんですよ。読書と自由研究しかしなかったような子供でした。大学の講義もつまらなくて、体育会系のアーチェリー部に入って部活に明け暮れていました。そんな私の様子を見て、父が「お前は会社員は向いていない。起業するか教員になれ。」と言ったので、高校の教員になることにしました。

子供のときからご自身は一斉講義が苦手だったとのことですが、教員になってどのような授業をはじめたのですか?

うちの高校は、4月に教科書をポンと渡されて、「明日から授業しなさい」で終わりなんですよ。他の先生の授業を見せてもらったりとか、学ぶ機会が全くないんです。最初の3年間は、新聞、小説、ラジオなど教科書以外のコンテンツを積極的に使って授業をしていました。

でも、その後、担任を持つようになったら責任が出てきて、偏差値を上げるためには単語、文法、訳読をやるのが効果的なんじゃないかと思い、3年間のサイクルを3回、それをやりました。3回目のサイクルのときに思った以上に進学実績が出て、単語、文法、訳読で大学入試まで持っていく方法は、だいたい確立したように思いました。

それをやりながら、「こんなくだらないことをやって、生徒はよくついてくるな」という葛藤が常にありました。

・・なるほど。

一方で、文化祭や総合学習には、ひときわ力を入れていました。たとえば、文化祭では大学の経営学部とコラボして会社を起業するというワークショップをやったり、総合学習で地震の研究をしたりしました。グループワークやアクティブラーニングを取り入れて英語と他の科目を融合させた取り組みをしました。これは、CLIL(Content and Language Integrated Learning:クリル)と呼ばれているものだということを後から知りました。英語の授業でたまった鬱憤を、こっちで晴らしていました。

CLIL参考リンク

アクティブラーニング&反転授業を始める

反転授業は、どのようなきっかけで始めることになったのですか?

3年間のサイクルを3回やった後、英語特化という特別クラスが初めて立ち上がり、それを担当することになりました。そして、2012年の末にiPadが導入されることになりました。その頃にYoutubeでアーロン・サムズさんの動画を見てFlipped Classroomのことを知り、自分がやりたいアクティブラーニングをやろうと思ったら、Flipped Learningで実現できるかもしれないと思いました。英語で情報を仕入れていたので、そのときは、「反転授業」という名前は知りませんでした。

アクティブラーニングで有名な小林昭文さんも、江藤さんと同じように、はじめは一斉講義型の授業をしていて、キャリア教育でアクティブラーニングをしていたそうです。その後、教科教育でもアクティブラーニングをできないかということで物理の授業にアクティブラーニングを導入したそうなのですが、そのときには、キャリア教育での経験が役に立ったそうです。江藤さんの場合も、総合学習や文化祭でアクティブラーニングを実践していた経験が、英語の授業にアクティブラーニングを導入するときに役立ったのではないかと思いました。

英語で情報をキャッチしている人は、日本語で情報をキャッチしている人とは情報収集力が違いますね。

10倍以上は違うと思います。主にTwitterで情報を仕入れているのですが、日本語だけで情報仕入れている人より10倍は情報を入れられていると思います。

江藤さんには遠く及びませんが、僕も英語で情報を入手するようになり、情報収集力が上がり、異なる見方に触れられるようになりました。インターネット後の世界では、かつてと英語を学ぶ意味が違ってきていることを実感しています。江藤さんの実践も、英語での情報収集力が土台になっていると思います。

反転授業を始めたのはいつからですか?

2012年12月から始めました。サイバーキャンパスが導入されることになっていましたが、最初からちゃんと動くかどうか分からなかったので、はじめは、生徒が持っているスマホを使って始められるようにしました。今は、iPadを使ってやっています。

江藤さんの試みは、同僚の先生からはどのように捉えられていますか?

最近、同僚の先生から、「江藤さん、iPad使って授業しているよね。どうやっているか教えてくれる?」と聞かれて、一緒にワークショップをやることになりました。とりあえずは、Show meというスクリーンキャストのアプリを使ってビデオを作ることから始めています。うちの学校では、そういうことは今まで一度もありませんでしたので、教師同士の学び合いの動きが生まれてきたことはとても面白いです。

英語特化では、どのような授業をされているのですか?

英語特化は週6単位の授業です。それを3分割しています。最初の2コマは教科書ベース、次の2コマはOxfordのSkills for Successという本を使い、最後の2コマはセンター演習に充てています。総合学習とロングホームワークの2コマは、1コマを英語の多読、もう1コマのうちの20分は英単語、残りの30分は自由に使っています。

単語は、ブルームのラーニングモデルの第1段階の暗記に相当します。私は生徒にいつも「学習力をつけなさい」と言っています。暗記と理解は自分でやるものだから自分でやらせています。生徒が自分で単語帳を選んで買ってきて20分間で自分で確認テストをしてパーセンテージだけ報告させています。

多読も本来は自分でやるものだけど、英語の多読を一人でやるのはつらいので、週に1時間は時間を共有しようということにしています。iPadの多読のアプリを使い、授業が始まるとiPadで読み始め、最後に1行程度でどんな話だったのかをまとめ、読んだページ数を報告してもらっています。

教科書ベースの2コマについては、訳読は全くしません。4日間(週に2コマなので2週間)で1サイクルするように設計しています。

1日目の授業では、生徒は予習で、単語調べ、内容理解、Edmodeでの正誤問題をやってきます。最初の授業では正誤問題の根拠を問うところから始め、発音をやり、内容の解説をします。

2日目の授業では、生徒は予習で、simplemind+というアプリを使い、教科書の内容についてのマインドマップを作って、私にメールで送ります。それと同時にPagesというワープロアプリを使って写真入りのまとめを作って授業に持ってきます。教室では、それを手にしながら英語でディスカッションします。英語でディスカッションするのは英語力がついてきた私のクラスでもすごく難しいのですが、マインドマップがあることで自信を持って自分の言いたいことを伝えることができます。ディスカッションした内容はA3の紙にまとめておきます。

3日目の授業では、A3の紙にまとめた内容をプレゼンテーションに仕立てていきます。授業の前半でプレゼン内容を決め、後半で発表して評価していきます。

4日目はテストです。私が難しいところについてShow meで解説ビデオを作っておき、生徒はそれを見てテスト対策をしてきます。授業の前半でテストを行い、後半、解説をします。

センター演習については、手とり足とりやるようなものではないのですが、近畿大学に推薦で上がる生徒はマーク模試の成績が重要視されるためやっています。ただし、生徒には、試験対策というのは筋トレみたいなものなのだから自分でやりなさいと言っています。生徒が勝手に40分間で問題演習して自己採点し、質問があれば私が答えるという授業形態です。

Skills for Successの授業は、教科書ベースの2コマと似たような流れで、プレゼンテーションのところが、エッセーのライティングに変わります。エッセーの添削にはShowbieというアプリを使っています。生徒ごとの共有フォルダを作り、生徒が課題をフォルダに入れる、教師が共有します。生徒が作ったエッセーに注釈をテキストでも画像でも音声でもPDFでもつけることができるのでとても便利です。

アクティブラーニングがふんだんに取り入れられていて、欧米の授業みたいですね。

先日、小林先生のブログを読んでいたら、「アクティブラーニングをやる先生は自分が経験したことのない授業をやることになる」と書いてありました。それを読んで気が付いたのは、私の場合は、ずっとアクティブラーニングのような学び方が頭の中にあったということです。夏休みにずっと顕微鏡観察をしていたり、自分で何かを調べたりしていました。こういうのが本当の学びなんだと思っていて、、それを授業に取り入れたら、後からアクティブラーニングという名前がついていたことを知ったという感じなんです。

江藤流アクティブラーニングは、どのようにできたのか?

この授業デザインは、どのようにしてできあがったのですか?

アクティブラーニングが絶対に力がつくと思ったきっかけは、アメリカに半年間行った経験でした。アメリカはそもそもアクティブラーニングの基礎がある国です。英語表現の授業でこのようなものがありました。先生が袋いっぱいのレモンを持ってきて、1つ1つのレモンについて詳細に英語で描写して紙に書きました。そのあと、紙を見てどのレモンについての描写なのかを当てるということをやりました。

アメリカでは、アクティブラーニングの土台があって、その先に反転授業が来ていますよね。

アメリカでは、もともとアクティブラーニングが主体で一斉講義の部分が少ないので、反転して講義を外に押し出したらアクティブラーニングだけになるじゃないかと思いました。一方、日本では、アクティブラーニングをやっているところが少ないので、講義を外に押し出してしまったら何が残るんだろうかと、最初に反転授業のことを知ったときに思いました。

反転授業の導入を考えるときに、アクティブラーニングの導入があって、その中で必然性が生まれて講義部分を少しずつオンライン化していくというのは自然なステップだと思いますが、一斉講義型から突然、反転授業に切り替えると、動画講義とアクティブラーニングという2つの未知のものに同時に取り組まなくてはならなくなるので難しいかもしれません。

その他に授業デザインの参考にしていることはありますか?

私がベースにしているのはアプリなんです。「こんな面白いアプリがある。どうやって使ってやろうか」というところから入るんですよ。今、アバターにしゃべらせるアプリを英作文の授業に使っているんですが、「アバターのアプリを見つけた→これを何かに使えないか→やる気をなくしている生徒のサポートに使おう→英作文の教材作成」というように頭が動いています。

江藤さんにとって、反転授業にするメリットは、アクティブラーニングの時間を確保できることの他に何かありますか?

私の授業で外せないのは、アクティブラーニングとオールイングリッシュです。オールイングリッシュにも反転授業は効果的です。文法の授業をオールイングリッシュでやると、分からない内容を英語で解説されて、分からないところがあっても質問も英語でしろと言われるので生徒にはきつかったみたいです。でも、解説ビデオを作ったらだいぶ楽になったようです。解説ビデオも基本的には英語で解説しています。

ビデオにすることで、分からないところは何回も聞き直すことができるという安心感が生まれるのだと思いました。また、必ず聞き取って理解しなくてはならない内容を分かるまで繰り返して聞くということが、とてもよいトレーニングにもなるのではないかと思いました。英語で文法の解説を行うということは、文法を理解することと、リスニング力の強化の一石二鳥で、非常に効果的だと感じました。

江藤さんがオールイングリッシュで授業をやり始めたきっかけは?

千里高校の授業を見学に行ったのがきっかけです。そこで、オールイングリッシュで授業をやっているのを見て、自分もできるんじゃないかと思って始めました。やってみると、オールイングリッシュにしたほうがはるかに効率が良かったです。日本語で説明すると間に挟まるものがあるんですが英語だと直接伝わるし、生徒がリスニングの練習をしなくても済むのもメリットです。以前はリスニング教材を購入してCDを聞かせていたりしたのですが、そういうのが要らなくなりました。オールイングリッシュにしてからリスニング力が伸びて、前回のマーク模試のリスニングでは、うちのクラスが校内でずばぬけて1番でした。

アクティブラーニングによって何が変わったのか

英語を学ぶ意味が10年前に比べて変わってきたんじゃないかと思うんですよ。江藤さんは、今、英語を学ぶ意味はどのようなことになると思いますか?

グローバル市民としての英語という要素が大きいと思います。うちのクラスは英語を結構使いこなせるんですけど発音が悪いんですよ。今は、アメリカ英語をきれいに発音するという時代は終わって、自分から英語で発信できなくては意味がないと思います。発音が悪くても語彙が少なくてもいいから、臆せずに自分から伝えていけることが英語を学ぶ一番の目的に変わってきているんじゃないかと思います。

そのためには、授業をどのようなものでなくてはならないと思いますか?

私はブルームのラーニングモデルの4以上のことがなければ意味がないと思っていて、生徒にできるレベルでアプリなどを使って噛み砕いてあげて4以上のことをやれるようにしています。それをやるためには、生徒の心のロックを外すのが大切だと思っています。英語で発信することに対するロックを外したり、今までやってきた英語の学び方に対するロックを外したりすることが必要です。生徒は中学生までプリント穴埋め学習を中心にやってきていますから、覚えて、受動的に理解するところまでしかできないんです。記憶、理解、適応を反転で外に置いて、授業で分析、評価、創造をすると、生徒が自らと記憶、理解、適応をやるようになってくるんですよ。それが、学習力の向上につながるのではないかと思います。


《参考》ブルームの思考スキルの6段階

1.【記憶】 適切な知識を、長期的記憶の中から「検索」し、「認識」し、「想起」するスキル
2.【理解】 口頭・文書・図表によるメッセージから意味を組み立てる、「解釈」「例証」「分類」「要約」「推測」「比較」「説明」のスキル
3.【適用】 ある手順を利用(ないし遂行)する、「実行」あるいは「適合」のスキル
4.【分析】 対象を構成要素に分解し、要素同士の関係や、全体の構造・目的を理解する、「区別」「整理」「帰属」のスキル
5.【評価】 基準や標準に基づいて判断する、「照合」「批評」のスキル
6.【創造】 要素を組み合わせて一貫性のある(ないし機能する)全体を形作る;あるいは要素から新しいパターンや構造を再構成する、「生成」「計画」「創作」のスキル

これは、アクティブラーニングの本質かもしれませんね。分析、評価、創造というエキサイティングな活動を体験することによって、そのために必要な基礎スキルの重要性を生徒は自分で身に染みて感じることができ、基礎スキルを身につける必要性をメタ認知することができるんですよね。

そうなんですよ。以前は、単語の小テストを3年間やり、16点未満はやり直しのワークシートを10回書いて出すというようなやり方をし、文法も同じようにやっていました。今年はそうではなく、単語の勉強は生徒まかせだし、文法も1回に数十ページ自分でやってこさせて、合格最低点は満点にして、生徒の自主性に任せています。そうすると、生徒からすれば、言われてやるものじゃなくて自分のためにやるという意識が生まれてきています。ディスカッションやプレゼンで自分の言いたいことを表現するために必要だし、英文サイトを読むときに単語力のなさを思い知らされるので、必要性を自分で感じて勉強するようになります。

なるほど。そうすると、生徒は、江藤さんから「自立した学習者」になることを、常にうながされるんですね。

そうなんです。去年持ったクラスのほうが学力的には全然上だったんですが、そのクラスでは一部の成績の良い生徒は発言力がありましたが、隅のほうでじっとしている生徒もいたんです。でも、今年のクラスでは、成績に関わらず、ほとんど全員が一歩前に出て発言できるようになりました。学習だけじゃなく、生活スタイルが変わりつつあるような気がします。学習面でも伸びが大きいです。

成果も出てきて、これからが楽しみですね。

「反転授業の研究」とかWebの情報とかで勉強して、だんだんアクティブラーニングのシステム的なところが自分の中で理解できてきたので、今度1年生を持ったら、さらにブレークできそうな気がしています。

江藤さんがアクティブラーニングを実践をする中で、気づいたことはありますか?

今回やってみてブレークスルーだと感じたのは、生徒自身が「これじゃだめだ!」と気がついて、自ら1つ上のレベルを目指し出したところが驚きでした。時間制限とか見ている人とかがいるほうが生徒は燃えるんだそうです。最初は発表させればいいんじゃないかと思っていたんですが、もっと上の課題を課すことで生徒が変わる可能性があるということに気づきました。

実践者の方にお話をうかがうと、行動変容は振り返りのときに起こるという話がいろんなところで出てくるんですよ。江藤さんのところでも、生徒自身が「これじゃだめだ!」と思ったことが、行動変容につながるのが面白いですね。

一度、プレゼンがすごく悪かったときがあったんです。それで、Edmodeにプレゼンのビデオをを投稿して、生徒に分析をさせました。(1)ついやってしまうこと(出来ていないこと)(tend to Do)、(2)できること(Can do)、(3)もっとよくできるところ(Should do)、という項目を作って、勝手にDCS分析という名前を作って、生徒にレポートで出させました。それを元にしてルーブリックを作りました。それが、たまたま、振り返りになっていたかもしれません。

江藤さんのお話をうかがって、アクティブラーニングの本質は、「燃える場」というところにあるということが再確認できました。「燃える場」が楽しいからこそ、そこで活躍したいという気持ちが生まれ、そのために基礎スキルが必要であることに自ら気づき、自分の意志で基礎スキルを磨き始めるという学習サイクルが生まれるのだと思います。

生徒が自分から気づくためには、手とり足とりサポートするのをやめ、生徒に任せるということも重要なポイントだと思いました。

江藤さんは、直感と嗅覚、英語での情報収集力を頼りに、学びが面白くなる方向を見つけ出していく能力がすごく高く、さらに、それを実現していく行動力もあり、すばらしいと思いました。

江藤さんがお話ししてくださる反転授業オンライン勉強会は、7/28(月)の夜に行います。

詳しくはこちらをご覧ください

第11回反転授業オンライン勉強会「反転授業の実践報告」

2014年に入り、反転授業やアクティブラーニング型授業の実践者が増えてきました。

それぞれが工夫をしながら、試行錯誤を重ねている段階ですので、お互いの実践を報告しあい、それをもとに対談を行ってフィードバックをすることで、お互いに実践を磨いていきたいと考えています。

今回は、まず、ICTオンラインでも紹介された山梨大学教授の塙さんに、反転授業によって成績分布がどのように変化したのかを、データを元にお話しいただきます。

次に、iPadを生徒に一人一台配布している近大附属高校で、オールイングリッシュでアクティブ・ラーニング型授業を実践している江藤由布さんに、動画などで授業風景をご紹介いただきながら、お話をうかがいます。

チャットボックスで、直接、登壇者に質問することができますので、ふるってご参加ください。

第2部では、ビデオチャット・ボイスチャット・テキストチャットなどでオンライングループワークを行いますので、Webカメラとヘッドセットをお持ちの方はご用意ください。
※第1部だけの参加も可能です。

テーマ 「反転授業の実践報告」

日時 : 7月28日(月) 21:45-23:30

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:45-22:45

「大学工学教育における 反転授業の組織的な試行」

山梨大学教授 塙雅典さん

「iPadアプリ発、生徒の創造性を育む授業へ」

近大附属高等学校 英語教諭 江藤由布さん

第2部 オンライングループワーク 22:45-23:30

講演者の発表内容は以下の通りです。

「大学工学教育における 反転授業の組織的な試行」

山梨大学教授 塙雅典さん

【プロフィール】

1990埼玉大学・工卒.1995同大大学院博士課程了.博士(学術).1995山梨大学・助手.2002同大・助教授.2014同大・教授.電子情報通信学会,日本教育工学会,IEEE, OSA各会員.現在,主として光ファイバ通信システムおよび光信号処理分野の研究に従事するかたわら,反転授業を核にしたアクティブ・ラーニングの大学教育への導入実践に取り組んでいる.

【内容】

山梨大学では富士ゼロックス株式会社と共同で,1年半にわたって複数の工学部専門教育科目において反転授業を組織的に試行した結果,例外もあるものの,多くの科目において以下の顕著な教育効果が見られた.
-学習時間の増加
-学生の授業への関与の増加
-学生間のインタラクションの活性化
-学生自身による主観的な達成度の上昇
-成績の大幅な上昇(下位層・上位層ともに改善)
最も大切なことは対面授業の設計と運営である.教員に求められる活動が大きく変わる.アクティブ・ラーニングこそが鍵.
塙雅典さんインタビュー
参考リンク:「反転授業は“必然”だった」――国内先駆者が明かす成功のカギ

「iPadアプリ発、生徒の創造性を育む授業へ」

近大附属高等学校 英語教諭 江藤由布さん

【プロフィール】

英語教諭。幼少から読書と自由研究しかせず、日本の公教育に疑問を持ちつつ育つ。16歳でアメリカへ短期留学した際、アクティブラーニングに出会い、自分の求めていた教育だと確信する。大阪外国語大学英語科卒業後、近畿大学附属高校に勤務する。2005年から三年間、近畿大学理工学部大学院にて、広島、九州、大阪をオンラインでつなぎ、同時中継でITを使った英語の講義を行う。その後結婚、出産を経て、復帰。ワークライフバランスを重視し、完全予習前提、学び合いを取り入れた授業を行い、補習を廃止、かえって大きな成果が出る。2011年、英語特化コース受け持ちを機に、アクティブラーニング、生教材、オールイングリッシュの使用を全面的にスタート。2012年12月、翌年からのiPad導入を見据え、Showmeを使用した反転授業を始める。2013年夏、次男出産のための二学期間の産休のため、オンラインでの授業サポートを強化。2014年4月、復帰を機にアクティブラーニングとiPad利用の授業モデル、LEAFを確立させる。

【キーワード】

LEAF, Serendipity, unlock-unlearn, iPad

【内容】

LEAF
反転授業の前提条件としてLive materials, all English, Active Learningがありました。できるだけLive(authentic)な素材を通して学び、生徒同士の議論も含めて全て英語で行い、ディスカッションやスピーチ、プレゼンテーションを授業で行うには、一斉講義を動画で押し出すのが近道でした。その実践例をいくつかご紹介します。

Unlock,Unlearn
心の鍵を外し、新たな学びの環境を導入する。一斉講義型の学習方法 に慣れた生徒にLEAFをどのように浸透させて行ったかを振り返ります。また、かつての生徒と比較してどのような変化が生まれたかもお話しします。

Serendipity
iPadの導入や、アプリのダウンロードで終わるのではなく、アプリを中心にした授業デザインを考えます。その発想方法と、発想を豊かにする生活習慣についてお話しします。

江藤さんのインタビュー記事はこちら

第11回反転授業オンライン勉強会「反転授業の実践報告」

テーマ 「反転授業の実践報告」

日時 : 7月28日(月) 21:45-23:30

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:45-22:45

第2部 グループワーク 22:45-23:30

第2部では、オンラインでグループディスカッションも行いますので、ビデオチャットの用意をお願いします。ビデオチャットができない場合は、ボイスチャットのみ、テキストチャットでの参加でも大丈夫です。※第1部のみの参加もOKです。

お申し込みはこちら

※登壇者の塙さんから事前配布資料があります。反転授業の実施前後で学習効果がどのように変化したのかが分かるデータです。お申込みいただくとダウンロードできるようになります。

【AL型授業スキルアップ講座にお申込みいただいた方の声(3)】

講座に参加してくださる皆さんの声をご紹介します。
 
●山口県立萩商工高等学校 教諭 松嶋渉さん
 
私がこの講座に期待することは、2つりあります。
 
 
1つは、AL型授業の第一人者である小林先生のAL型授業のノウハウを少しでも習得出来るのではないか、ということ。
 
 
2つめは、この講座を受けるメンバーと継続的に協力体制が作れるのではないか、ということです。
 
 
1つめについては、7月最初に小林先生のオンラインでのアクションラーニングに参加させていただき、大変興味深く取り組めたので、今回の講座についての期待がさらに膨らみました。学習者が主体的に授業に取り組むヒントが必ずこの中から得られるのではないか、と思っています。
 
 
2つめについては、自分の教育実践現場以外で信頼できるメンバーを持つことは大切だと思います。このような有料講座に申し込む方は、それだけ教育実践に対するモチベーションが高く信頼出来る方が多いのではないかと考えています。無料ではなく有料だからこそメンバーが選別されて良いチームが出来るのではないかと考えています。
 
 
困ったり悩んだりした時に、外に目を向けることで問題が解決することがあります。余裕がないから外に目が向かないのではなく、外に目を向けないから余裕がない、ことが多いのではないでしょうか。
 
 
自分の教育実践を他の人に評価してもらいフィードバックを受けたり、逆にフィードバックしてあげることでお互いの授業改善が出来る
のではないか、と期待しております。

—*—*—*—

申し込み締め切りは明日(20日)24時!

「AL型授業実践のためのスキルアップ講座」の詳細はこちら

※20名限定です。

教師に迫られる選択!あなたはどこに立つのか?

田原です。
こんにちは。
 
 
40歳を超えて、時間は有限だという思いが強まってきました。
1年、1年をとても貴重なものだと感じています。
 
 
新しいものに挑戦し、その体験を言語化し、大急ぎで自分の思考の抽象度を高めていく必要性を感じています。
 
 
物事を深く理解しないと、効果的な行動を起こすことができないからです。
 
 
様々な決断を下すときに、準備ができている状態にしておきたいからです。
 
 
反転授業に関わるようになってから、教育について掘り下げて考えるようになりました。
 
 
正直言って、予備校講師として講義だけをしていたころは、受験という枠組みありきで考えていたのですが、FBグループでいろいろな方の考え方に触れ、視野を広げることができました。
 
 
その中で、自分なりに問題点のありかが見えてきました。
 
 
それは、教師が「学習者の立場に立つのかどうか」ということです。
 
 
もう少し詳しく説明しますね。
 
 
教育には、
 
(1)国からの要請に応える
(2)社会からの要請に応える
(3)学習者に生きていく力をつける
 
という3つの側面があると思います。
 
 
教師は、これらの間に挟まれた存在だと思います。
 
 
国や社会には、それぞれ望ましい人間像があり、それに従ってカリキュラムが組まれたり、人材として受け入れたりしています。
 
 
教師は、様々な制約と要望、期待の中で、生徒を教育し、送り出しています。
 
 
この3つが矛盾なく結びついているときには、教師は難しい選択を迫られることなく仕事に邁進することができます。
 
 
しかし、現在のように、これらに矛盾や対立が生まれると、教育に携わる者は、選択を迫られることになると思います。
 
 
反転授業に取り組むようになり、上記のようなフレームで考えるようになって悶々としていたときに、小林先生のブログに出会いました。

 
アクティブラーニングや反転授業を行うというのはどのような意味があるのか?
 
「Guide on the side」とは、どのような立場に立つということか?

 
 
抱えていた疑問に、これほど正面から回答してくれているものは、他にはありませんでした。
 
 
夢中になって、ブログ記事を読み漁りました。
 
 
長いのですが、ぜひ、皆さんにも読んでいただきたいので、連載記事を引用します。

(1)授業改善に関する「理論武装」のススメ

(2)根本は「工業化社会」から「知識基盤社会」への変化

(3)「明治維新」「第二次世界大戦敗戦」に匹敵する大転換点?!

(4)工業化社会の特徴

(5)1%のリーダーと99%のフォロアーを育成する工業化社会の学校システム

(6)「学校パイプライン説」と「ヒドゥンカリキュラム」

(7)学校パイプライン説

(8)ヒドゥンカリキュラム

(9)「学校パイプライン」と「ヒドゥンカリキュラム」が全部悪いわけではない。

(10)新学習指導要領と「学校システム」のダブルバインド

(11)キャリア教育等と学校システムのダブルバインド

(12)これまでの学校改革は全て「授業以外」?

(13)授業改善こそ、学校改革・教育改革の本丸

(14)授業を変えると「やりがい」が見えてくる

 
約1年前、このブログ記事を読み、小林さんにメールを送り、スカイプで話をしました。
 
 
そして、第1回反転授業オンライン勉強会を実施することになりました。
 
 
すべては、このブログ記事を読んで、反転授業を行うという意味を深く認識したことから始まった気がします。
 
 
小林さんの実践を広げる手伝いをしたいと思い、オンライン講座を構想しました。
 
 
構想から1年たち、あのときの思いがようやく形になりました。
 
 
来週から、AL型授業実践スキルアップ講座がスタートします。
 
 
自分が望む「教育のあり方」が実現するように、最初は少ない人数でも、同じ方向を向いている方たちと気持ちを揃えて壁を押していきたいと思います。
 

申し込み締め切りは明日(20日)24時!

「AL型授業実践のためのスキルアップ講座」の詳細はこちら

※20名限定です。

★お知らせ

AL型授業実践スキルアップ講座の申込者、または、申し込みを検討している方へ

明日(20日)の22:00-22:30でWebルームGotomeetingの接続テストを行います。
講座についての質問も、そのときに受け付けます。

明日22時にPCからこちらのURLにアクセスしてください。
https://global.gotomeeting.com/meeting/join/423146405

※自動的にアプリがインストールされ、ルームに接続されます。

AL型授業スキルアップ講座にお申込みいただいた方の声 part 2

AL型授業スキルアップ講座は、次のように進んでいきます。
 
第1週「自己紹介」 
 
お互いの実践の相互理解を目指します。

自分の実践についての説明を事前にレポートとして提出してもらい、Moodle上で共有します。
 
それを参照しながら、リアルタイムセッションで質問を通して、理解を深めていきます。
 
さらに、Moodle上でグループになり、相互に質問しあったりしながら、理解を深めていきます。
 
事前レポート→リアルタイムセッション→Moodleでグループワークという流れは、毎週同じです。
 
第2週「授業の枠組み」 
 
それぞれの要素がどのような意味を持つのかを考えます。
 
AL型の授業設計を行う場合、最初は、他の方の実践を真似するところから始めるかもしれません。
 
しかし、そこから改善していくためには、各要素がどのような意味を持ち、働きをするのかを理解する必要があります。
  
参加者のみなさんの気づきを共有しながら、理解を深めていくことになります。
 
第3週「授業の不安」
 
AL型授業は、ある意味、コントロールを手放します。
一斉講義型に比べて、多種多様な問題が出る可能性があります。実践される方は、そのような未知の問題に対する不安を抱えつつ、実践されているのではないでしょうか。
 
その不安を参加者でシェアし、豊富な経験を持つ小林さんをガイド役にして、みんなで不安を解消していきましょう。
 
第4週「授業の意義づけ」
 
工業化社会から知識基盤型社会へ移行する時代において、AL型授業を実践する意義はどこにあるのでしょうか。
 
自分の実践の価値を深く感じることができると、それが使命感につながり、行動に推進力を生み出すことができると思います。
 
 
 
このような内容を、チーム学習していきます。
 
チーム学習では、どんなメンバーと一緒に学ぶのかも重要になってくると思います。
 
すでにお申込みいただいている方のコメントを紹介します。
 
 
●溝上広樹さん

高校生物でアクティブラーニング型授業に、取り組んでいます。
現在、リフレクションカードによる生徒の声を取り入れながら改善を行っており、授業の流れについては、少しずつ見えてきました。
 
しかしながら、学科によって極端に学力などが異なるクラスにどのように対応するかという点で苦労しています。
 
また、本教科においてどうすれば、もっと生徒たちに力を付けられるかという点でもまだ深める必要があります。
 
現在、熊本でアクティブラーニングに関する学習会を立ち上げましたが、これから実践する先生が大多数です。今回の講座を通して、すでに実践をされている先生方と繋がり、自らの授業の質を高めるとともに、地元のアクティブラーニング型授業のさらなる盛り上がりに貢献したいと考えています。どうぞよろしくお願いします。

 
 
●豊永亨輔さん

高校で生物を担当しています。小林先生が物理で実践されたアクティブラーニングを生物で実現すべく試行錯誤しながら日々取り組んでいます。
 
講師の先生方からの示唆や、参加されている受講生の方々との情報交換やディスカッションを通してさらにステップアップしたいと考えています。よろしくお願いします。

 
 
申し込み締め切りまであと3日!(7/20締め切り)
 
「AL型授業実践のためのスキルアップ講座」の詳細はこちら

※20名限定です。