首都大学東京国際センター日本語講師の藤本かおるさんにインタビュー

8月26日の第12回反転授業オンライン勉強会で登壇される首都大学東京国際センター日本語講師の藤本かおるさんにお話をうかがいました。
 
藤本さんは、以前、反転授業の研究が主催して行った動画講義作成のオンライン講座に参加してくださり、そのときに、eLearningと日本語教育の両方について豊富な知識と経験のある方だという印象を持ちました。
 
2つの異なる分野の知識をどのようにして身につけてきたのか、その背景をうかがいました。

エジプトのカイロへアラビア語の語学留学

藤本さんは、高校生の頃、どのような職業につこうと思われていたのですか?

高校で進路を決める時、推薦で教職の取れる大学に進学するか、デザイナーを目指して専門学校に行くか、2つの進路を考えていました。親や先生は大学を勧めたい気持ちがあったと思うのですが、私の気持ちを優先し、専門学校へ進学することになりました。デザインと言っても色々あると思うのですが、私の場合はファッションが子どもの頃から好きだったことと、母が当時は今ほど知られていなかったブランドのバックを大事に使っている人で、長く使える服飾小物に興味があり、服飾のデザイナーではなく、靴やバックなどのデザイナーを目指して専門学校に入りました。 実は、子供の頃にずっとなりたかった職業は学校の先生だったんですよね。紆余曲折あって、「先生」と呼ばれる何かを教える仕事に就いているのが、自分でもおもしろいです。

そこから大学で教えるようになるまで、どのような道筋を辿ったのか全く想像がつきません。専門学校を卒業した後は、どうしたのですか?

企業に就職してOLをやっていました。当時はバブルが崩壊した直後で、とにかく売ってこいという感じでした。それに疑問を感じながら働いていたんですが、ある時働いて得た給料で、海外旅行に行きました。

どこの国に行ったんですか?

私たち年代だと、「王家の紋章」という漫画が人気で、エジプトに行きたい!と思っている女性は多い(多かった)と思うんです。子供の頃から、世界史(特に古代史)が大好きでエジプトはあこがれの土地だったというのもあるのですが、自分が大人になって初めの海外旅行の行き先に、ギリシャとエジプトのツアー旅行を選びました。ギリシャはともかく、たった数日のエジプトでの異文化体験のショックがすごかった!旅行から帰る時には、絶対にこの国に住もう!と決めていました(笑)。帰国後、早速アラビア語の勉強を始めて、資金を貯めて、3年以上を経てカイロに住み始めました。

旅行から帰るときに決めて、それから、アラビア語を0から勉強してエジプトのカイロに住んだんですか?すごい行動力ですね。それは、留学ですか?

はい。アラビア語の語学留学です。今から考えると、まだインターネットもほとんど普及していない時代(1995年にエジプトに行きましたので)によく探せたと思うのですが、日本からアラビア語の語学学校を探して、毎日通っていました。アラビア語は、いわゆる書き言葉(アラブ世界共通)であるフスハーとその国独特の方言であるアーンミーヤというのがあるのですが、午前中はフスハーを、午後はアーンミーヤをみっちり勉強していました。あれほど真面目に勉強に取り組んだのは人生でないくらいでしたね。

そのときアラビア語を勉強した経験は、今やっている日本語教育にも生きていますか?

エジプトの語学学校の学習も、いわゆる直説法、媒介語を使わない教授法でした。自分が直説法で語学を学んだ経験があるというのは、得難い経験だったと思います。まず、直説法での学習者のストレスが理解できる(笑)。先生も大変なんですけど、学習者も直説法で教わるのは大変なんですよね。色々推測しないとならないので。そしてその推測が、いつもいつも当たるわけじゃないし、最後までわからないこともあるんです。そういうのが頭ではなく経験としてわかっているので、学生の顔をよく見て、どうしてもわからないようだったら、英語がわかる学習者グループだったら英単語を言ってしまうとか、共通言語のないグループの場合だと、あえて深追いしないようにするとか、割り切って授業を進められたり、媒介語を使える環境なら使った方が効率がいいと思うのも、自分が直説法で勉強したことがあるからかも知れません。

確かに、外国語を直説法で学んだ経験は貴重ですね。カイロでは、どんな暮らしをしてたんですか?

カイロでは、アパートを借りて、同じ語学学校に通っていた日本人女性達とシェアしていました。東京以外の場所で暮らすのも初めて、家族以外の人と暮らすのも初めて、初めてづくしでしたが、幸いシェアメイトとは本当にいい関係で、もめ事もなく楽しく過ごせました。今も友だちです。語学学校のメンバーも個性的で、英語圏外の欧州から来た人が多く、彼らと私たち日本人でよく一緒に遊んでいました。彼らと遊ぶことで、アラビア語だけじゃなくて本当に話せなかった英語も少し上達できたのがおまけみたいな感じです。 また、母親と文通みたいなことをしていたのも、いい思い出ですね。電話があまり好きじゃないこともあって、せっせとはがきを書いて送っていました。母からもよく返事が来ました。口では話せないいろんなことをお互いに書いたと思います。親のことも日本のことも、離れてみて初めてありがたいなと感じることができました。月並みですが、日本に対する評価は、海外に出て自分の中で高くなりました。まだまだ捨てたもんじゃないし、ポテンシャルの高い国だと思います。

エジプトでの生活が、藤本さんの意識や考え方のどのような影響を与えたんですか?

語学学校や友人のツテなどで知り合った日本人も欧州人も、大学生とか学校を出たての人はほとんどいなくて、20代半ば~30代の人もいました。専門や前職、アラビア語を学ぶ動機も様々で、枠にとらわれない多様な生き方というのが、何も珍しく自慢になることじゃないんだなということを知れたのは、よかったです。日本はまだまだ画一的な社会でしたし、エジプトに留学していたというと今も珍しがられます。そういう意味では、帰国後いわゆる外国かぶれの人にならないで済んだのは、いろんな人と出会ったからだと思っています。 また、エジプトというとイスラム国ですが、自分が住んでいたアパートの大家さんはコプト教徒というエジプト独特のキリスト教徒の家族でした。今は、コプト教徒の弾圧が目立ってきていますが、当時はそういう雰囲気はなく、宗教の多様性なども実感できましたね。イスラムに対しても、色々肌で感じることができ、自分なりの考えを持てるようにもなりました。

2年半暮らしたカイロから帰国したきっかけは何だったのですか?

アラビア語の語学学校に通っていて、自分の母語を教えるって面白い仕事だなと思ったんです。それで、日本語教師という仕事に興味を持ったんですが・・・。カイロに住んでいる間、冬場は観光ガイドの仕事をしていたんです。覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかと思いますが、1997年にエジプトのルクソールで60名の方が犠牲になる大きなテロがありました。日本人も何人か犠牲になりました。そのテロの日、私もテロがあったルクソールの西岸にいて、もう少し時間がずれていたらまさにテロに遭遇していたかも知れないという状況だったんです。テロがあったことで観光客も減り仕事も減ったこともあり、精神的にショックもあったので、思い切って日本語教師になるために帰国することにしました。日本語教師になるための研修を受けて資格を取ったのですが、海外で働くためには大卒の資格が必要だということが分かり、日本語教師として働きながら放送大学へ行くことにしました。専門学校の単位を生かして3年次編入しました。

語学教師をやるときに、自分が語学を学習した経験がとても役立つと思います。藤本さんの場合は、エジプトに行き、直説法でアラビア語を学ぶというとても珍しい経験をされたのが、のちに直説法で日本語を教えるときに役立ったというのがとても印象的でした。また、単に語学を学んだということだけでなく、多民族、他宗教の中で生活したことが、国際感覚を身に付ける上でも、留学生の気持ちを理解する上でも、非常に役立っているのではないかと思いました。

日本語教師として働きながら、放送大学で大卒資格取得

放送大学は脱落率が高く、学習者に強い意志がないと卒業するのは難しいと思うのですが、実際に学んでみていかがでしたか?

予定よりも卒業までに時間がかかってしまいました。放送大学で学ぶメリットとしては、やはり働きながら続けられる点と学費が安い、そしてそうそうたる先生の授業が準備されているという点じゃないかと思います。海外から戻って日本語養成講座を終えて、お金がなくても働きながら学べる大学というのは、ありがたかったです。私大の通信制の大学は、結構な学費ですから。 当時はまだネット配信はなくて、テレビとラジオとスクーリングだったわけですが、実は私、ほとんど放送授業を視聴しないで、ほぼテストだけで卒業してるんです。スクーリングも、専門学校の単位が生かせてほとんどとらなくてよかったので。どうも話を聞くと、放送授業を視聴しないで卒業する学生というのは少数ですがいるようですね。

放送授業を視聴しなかったのはどうしてですか?

なぜ放送授業を視聴しなかったかというと、まず、1時間授業を視聴できない、飽きてしまって。放送大学の授業を見ていただけるとわかるんですけど、動きがなく話し続ける先生も多いですし、本当に受け身でただ視聴するだけというのは、自分には全く合っていなかった。自分が、eLearningで双方向性というか、必ず生身の人が関わるという点にこだわりを持っているのは、この経験の影響もあるかと思っています。

僕も、放送大学の授業をテレビで見たことがありますが、教授が座って、単調な口調で話し続けているので、あれを1時間、集中して視聴するのは確かにつらいですよね。 日本語教師として、実際に仕事を始めてみて、カイロでイメージしていた通りでしたか?

自分が学んだカイロの語学学校やスペインの語学学校などと違って、予備校みたいだなと思いました。実際、学生のほとんどは日本語学校で日本語を学んでJLPTに合格して大学や専門学校への進学を目指しているので、仕方ないんですけど。

eLearningに関わるようになったのはいつごろからですか?

日本語教師養成講座で首都大学東京の先生の授業を受け、マルチメディア教材に興味を持ち、その先生のところで教材作成のアルバイトをしたのがきっかけです。仕事もその先生に紹介していただきました。ちょうどそのころ、eLearningが注目されはじめたころで、勤務していた日本語学校でもeLearningの教材開発をすることになったんです。私はマルチメディア教材作成のアルバイトをしていたため、その教材開発にも関わることになりました。 また、放送大学がWeb配信を始めることになり、その立ち上げにもアルバイトとして関わりました。教材作成やWeb配信に関わったことで、著作権の扱いなどの必要な知識を一通り学ぶことができました。

今、教える側にいる年代だと、僕も含めて、学習者としては、一斉講義型授業で学んだ経験しかない人が多いと思います。それに対して、藤本さんは、エジプト留学で直説法でアラビア語を学んだり、放送大学で遠隔学習を経験したりするなど、学習者としての多様な経験をお持ちです。学習者としての多様な経験が、日本語を教えたり、eLearningの教材開発をするとき、大きな強みになっているのではないかと思いました。

大学院でBlended Learningを研究

その後、大学院へ進学されたんですよね。

はい。教材作成のアルバイトでお世話になっていた先生がいる首都大学東京の修士課程に進学しました。大学院では、日本語教育とICTというテーマで研究をしました。すでに、仕事である日本語学校のeLearning教材の開発をしていて、放送大学の卒論もeLearningがテーマだったんです。

放送大学にも修士課程があると思いますが、首都大学東京を選んだ理由はどんなことだったのですか?

放送大にも修士課程はあるんですが、通信制の大変さは学部で身に染みたので、修士は通えるなら通いの方がいいと思いました。修士は学部ほど授業を取る必要はないので、常勤の仕事を辞めて非常勤になって、働きながら通いました。 通信制の学部から通いの大学院になって、通えるなら通いの方が色々楽だなと感じました。1つにはやはり孤独感がない。あと、課題等も実際に教室に通って発表しなければならないので、期日を守るのが容易で、そうそうドロップアウトもできないですから。

やはり、通信制は大変だったのですね。通信制で学んだからこそ、その弱点もよく理解されているんですね。 大学院での研究について教えてください。

eLearnngとビデオ会議室のBlended Learningをテーマにしていました。ネットの授業のメリットは場所を超えられることだと思います。たとえば、私はアラビア語を勉強していましたが、東京以外だとアラビア語の教室を見つけることが難しく、学ぶチャンスがありませんが、もし遠隔で学ぶことができれば、チャンスが広がります。 その一方で、動画を受け身で視聴するのはつらいということを、放送大学で学んだ経験から感じました。それで、遠隔のメリットを生かしつつ、生身の人間が関わる方法というのを模索した結果、eLearnngとビデオ会議室のBlended Learningというテーマに行きつきました。 eLearnngとビデオ会議室のBlended Learningは、今はやっていませんが、機会があればやりたいので、初級者のグループがいたらお声掛けください(笑)。

僕もeLearningをやっていて、受講者のモチベーションを上げて脱落率を減らすためにどうしたらいいかということを考えた結果、藤本さんと同じビデオ会議室の利用に行きついたんですが、そこに、何年も前に気づいて実践されていたとは、先見の明に驚きました。ビデオ会議システムのコストが下がり、個人でも気軽に使えるようになってきたので、藤本さんの研究してきたことが、今後生きてきそうですね。
 
Blended Learningの研究をやってみて、eLearningとリアルタイムの学習との違いについて、どのように考えられていますか?

eLearningは、知識のインプットをする学習に向いています。リピートできるのが大きなメリットです。一方、教室やビデオ会議室では、生徒が発音が正しいかどうかをチェックできることや、学習者の反応で教師が状況に応じた質問等をすることができます。語学は、瞬発力も大事ですから。教科書にないことも学ぶことができるのも大きいです。また、これが一番大きなメリットだと思いますが、人のぬくもりが学習を促進させるのだと思います。遠隔授業をやってみて、また学習者のアンケート等から、画面越しでも教師と学習者のラポールが形成されることを実感しました。

Blended Learningをやってみて、気づいたことはありますか?

遠隔の対面授業の授業データを分析したところ、学生間で何かお互いに話す、その後に正しい答え出てくるということがよくありました。つまりは、彼らがお互いに話していた内容は学習に関することで、教えあいの結果、教師に正しい答えを返すことができているということです。教師として、学生の母語で私語されると何を話しているか気になります。私はそれに瞬時に反応して私語している学生に何かしらのアクションを起こして私語を止めるのがうまい方だと思うんですけど(それで私語をしない学生に褒められたことがあります)、私語ってなんだろうと思ってからは、クラス授業の私語にすぐに反応しないよう自制して(笑)、多少様子を見るようにしています。

これは、非常に興味深いお話でした。授業力のある教師は場を強力にコントロールできます。対面授業における藤本さんの授業は、私語を上手に止めさせたりすることができることから、きっと、教師のパワーが教室の隅々まで行き届いていたのだと思います。しかし、遠隔にすることで、どうしても、教室の場を完全にコントロールしきれない状況が生まれ、学生が「私語」をするようになりました。藤本さんの対面授業では起こらない状況が生まれたわけです。藤本さんのすばらしいところは、この状況を考察し、「教師がコントロールを弱めることで、生徒が自律性、主体性を発揮することができるようになる」という気づきを生んだところです。そして、その気づきを対面授業にもフィードバックして、場のコントロールを意図的に弱め、学生の主体性を引き出すことを始めたところです。気づき→考察→深い理解→行動 という思考活動をここに見ることができ、感動しました。

個人がeLearningをできる時代が到来

大学院で学んだことは、日本語教師としての活動にも変化を与えましたか?

少し前までは、eLearningの教材制作は高価で個人の手におえない制約がある時代でしたので、日本語教育とeLearningとが別々の活動になっていたんです。数年前から個人でもeLearningができる時代になり、NPOで作文添削のeLearningの企画を立ち上げました。

NPOでの活動について、もう少し詳しく教えてください。

NPO日本語教育研究所(http://www.npo-nikken.com/)は、結構前から団体としては存在していて、NPOになってすぐくらいに、国立国語研究所の仕事で声をかけてもらったのが最初です。国立国語研究所で、韓国の高校などで日本語を教えている先生の研修みたいなのがあり、それにICT利用をからめたいので、そういうことがわかる人を探していて私に声がかかったということだったと思います(うろ覚え)。その当時の理事のお1人が国立国語研究所の方でICTに詳しく、これから研究所でもそういうことを取り入れた方がいいということで、非常勤の研究員になり、HPを作ったり、作文添削のeLearningの企画を立ち上げたりしました。 研究所の活動内容は、色々あるので、HPをご覧ください。

藤本さんに見せていただいたHPは、表にパスワード認証をかけたリンクが並べてあるシンプルなものでした。でも、実際、使い方によってはそれで十分だと思います。必要以上に完成度を上げないことが、取り組みへのハードルを下げる上で重要だともおっしゃっていました。

大学で日本語を教え始める

大学で日本語を教え始めたきかっけは、どのようなことだったのですか?

自分が所属する大学で日本語クラスが増えるということで、恩師から声をかけてもらい、オーバードクターだったこともあり、博士課程後期を単位満了退学して非常勤となりました。私大でも教えていますが、こちらは知り合いの日本語の先生から声をかけていただいいてクラスを持たせてもらっています。 日本語教師のキャリアマップの1つに、大学の非常勤講師がゴールというのがあると思います。理由は、やっぱり時給がいいからだと思います。

日本語学校で教えるのと、大学で教えるのとでは、何か違いを感じますか?

大学で日本語を学ぶ学生も色々な属性があるのですが、首都大の場合は、交換留学生が主になります。彼らの場合滞在期間が半年から1年と短いこともあり、日本語も勉強するけれども日本での生活そのものが留学目的になっています。交換留学生が多い大学の場合、学生管理は結構楽じゃないかと思います。いわゆる地下に潜る(いなくなっちゃう)学生はまずいません。 学部留学生の場合は、東南アジアの学生さんが多く日本語学校と似たところがあります。バイトが忙しくて勉学がおろそかになるという・・・。ただ、日本語学校で勉強していた学生が全て大学に進学できるわけではなく、大学受験で選別されてきている分、大学の学部で学んでいる留学生はどんな大学でも日本語学校よりは勉強の習慣が出来ていると思います。日本語学校の場合は、それこそ国でろくに学校に通っていなかったような人もいたりして、勉強の仕方がわからない人なんかもいます。

そして反転授業の実践へ

反転授業をはじめたきっかけについて教えてください。

ずっとeLearningに関わってきて、自分が関わっているeLearningと自分の授業活動が結びついていないことが気になっていました。最近になり個人がeLearningを気軽にできる時代になったので、大学の授業でやってみようと思いました。でも、大学の授業って教員がチームになってカリキュラムを担当していることが多いので、教材の選択や授業のやり方に自由度が少ないことが多いんです。私が担当しているクラスでも初級0と呼ばれるクラスでは導入が難しかったのですが、初級-中級のクラスならできそうだったので、そのクラスでやってみることにしました。

大学の講義でも、そんな制約があるんですね。具体的には、どのような方法で反転授業をされているのですか?

手軽な方法で動画作成をしたいと思い、どの方法を選ぼうか迷っていたところ、ちょうど、反転授業のグループでExplain Everythingを使った動画作成講座が始まったので、それに参加して、Explain Everythingで教材を作ってみました。その後、eLearningの世界の友人が教材作成ソフトとログ管理のシステムを無料で使わせてくれることになり、こちらを利用して動画を配信しています。 学生はあらかじめ説明動画を見てきて、教室ではドリルをやるところから始まります。動画を使うことで文法の説明時間を減らしアウトプットを増やすのが狙いです。教科書が決められているという制約の中で何ができるかということを考えてやっています。

反転授業を実際にやってみていかがですか?

例えば授業中の言い回しとか、くせとか、コンテンツを作っている時に、普段自分ではなかなか気が付かない点やどのように話せばわかりやすいかなーとか、結構細かい点に注意しています。コンテンツを作ると必ず自分で視聴して確認しないとならないので、自己振り返りの機会が増えますね。それから、割と瞬発力があるのか、学生の一挙一動足に「何?」って反応してしまうタイプなのですが、それをがまんして、学習者の次の出方を観察するようになりました。これは逆パターンの先生もいるかもしれないですね。 それから、やはり学生が事前に教材を見ているかどうかを確認する行程は必要だと感じています。全員が動画を見て来るというのが理想ですが、そうそう理想通りになりません。今回は誰が見て誰が見て来ていないか、それをきちんと把握して授業をする必要があると思います。

自分の作った動画を見ると、自分の癖に嫌でも気が付きますよね。また、視聴ログが取れるということも、学生の学習状況を把握する上で必要だということですね。 反転授業の実践は、藤本さんに何か変化をもたらしましたか?

ある程度の年数授業をしていると、それがルティーンになっていないでしょうか。もちろん、自分の授業を改善したいと日々思っているのですが、それこそ日々の業務に追われてなかなかじっくり考えることができない。でも、反転授業を行うことで、自分の授業を見つめなおさざるを得ない。また、コンテンツを作る際に、もう一度学習項目(例えば私の授業の場合、文法項目について)の見直のために、これまで教えていたことでも、再度勉強しなおしたり調べなおしたりしますよね。手間がかかるんですけど、そうすることによって自分の学びも促進され、これまでと違う教え方の視点が見えてきたのが面白いと思いました。 普段授業で説明していることって、覚えているようで逐一覚えているわけじゃないと思います。それを文字化したりナレーションとして入れるためには、なんというか、体で覚えている「いつも」のことを話すのではだめで、いったんそれを取り下げてまな板の上に乗せて、素材として吟味する時間が必要だと思います。そうすることで、同じ内容を教えるとしても、じゃあクラスではこういうことをしたらどうだろうか。これはやってみたことないけど、できるかもしれないとか、教案を作り直しているだけでは、気が付かないことに気が付ける気がします。

ビデオ会議での実践によって得た気づきから、対面授業で主体性を引き出すためにコントロールを弱めるという行動が生まれたように、反転授業という新しい手法に取り組むことで、今までのやり方が解体され、授業改善への気づきが生まれてきます。藤本さんは、気づく力が強い方なので、動画作成したり、授業構成を変えたりすることで、きっと多くの気づきが生まれているのではないでしょうか。
 
 
また、今回、藤本さんにインタビューさせていただいて強く感じたことは、自分の内なる声に従って選択することの重要性です。常にそのように選択することによって、バラバラに見えたものが、時間をかけてゆっくりと統合されてくるのだということを、藤本さんのキャリア形成をうかがって感じました。
 
勉強会で、藤本さんが、どのようなお話をしてくださるのか楽しみです。
 
反転授業オンライン勉強会は、8/26(火)の夜に行います。 詳しくはこちらをご覧ください。

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