富谷町立東向陽台小学校の佐藤靖泰教諭にスカイプインタビューしました
富谷町立東向陽台小学校の佐藤先生にスカイプでお話をうかがいました。
佐藤先生が反転授業を始めたのは2012年から。これは、僕が知っている限りでは日本で一番最初の取り組みです。
全く前例がない中で、どうして反転授業に取り組まれたのか、佐藤先生にうかがいました。
自分を表現するのが下手な子供たちを見て、何とかしなくてはならないと思った。
佐藤先生は、反転授業を導入する何年も前からグループワークを授業に取り入れていました。その理由は、子供たちが自分を表現するのが下手なことに危機感を感じたからということでした。
「これからの社会には、問題解決力が必要だから」といった回答を期待していた僕にとっては、佐藤先生の答は意外でした。佐藤先生は、昔の子供に比べて、今の子供のコミュニケーション力が落ちてきていることを感じていて、子供の様子を見ていて、授業の中で取り組む必要を感じるようになったのだそうです。自分たちで学びあうことを通して、どんな言い方をすれば伝わるか工夫したり、自分以外の考え方があることに気づいたりして、他者意識を自然と獲得していくことが必要だとおっしゃっていました。
ただ、45分の授業では十分に学びあいの時間を取ることができないと思っていたところ、東北学院大学を通して企業のサポートを受け、一人一台のタブレットを生徒に配布できるようになり、反転授業の実施に踏み切ったのだそうです。
「学びあいの時間を確保するためには、どこかを削らなくてはならない」
佐藤先生にとっては、45分の講義の中で削ることができるのが「講義」で、それを実現するためのツールがタブレット端末だったということでした。
また、佐藤先生は、すべての授業を反転授業にしているのではなく、算数の中の1つの単元だけを反転授業にしています。そのため、「学びあいの効果は、その単元に限定されるのではありませんか?」と質問されることが多いそうです。しかし、佐藤先生によると、反転授業を通して学んだ表現力や他者意識は、その単元に限定されることなく、子供たちの生活全体によい影響を与えているのだそうです。
反転授業に必要な教員のスキルとは?
佐藤先生の反転授業がうまくいく理由の1つは、佐藤先生のファシリテーションスキルの高さにあると思い、授業中に具体的にどのようなことをやっているのか聞いてみました。
佐藤先生がやっていることは、活動についてアドバイスすることと、分からない子をサポートすること。
言葉で言ってしまえば簡単ですが、子供の様子を見て、適切なタイミングで適切な声がけをするには、実際には経験が必要なのではないかと思いました。
佐藤先生も、教員研修などで子供の動き方の見方を身につける必要があるが、そのような研修の体制は十分ではないとおっしゃっていました。反転授業を実施するにあたって教師が必要なスキルを身につける場を作っていくことが必要だと感じました。
反転授業がうまくいく秘訣は「ノート作り」にあり!
佐藤先生の反転授業は、非常に効果的に機能しているように見えます。その秘訣がどこにあるのかうかがってみました。
まずは、予習についてうかがいました。
佐藤先生の授業では、「ノート作り」に重点が置かれます。生徒は、ノートの作り方を指示されていて、その指示に従って自宅で動画講義を見て、ノートを作ってきます。
「予習をしてくる=ノートを作ってくる」ということになっています。佐藤先生にうかがうと、特定の事情がなければ全員やってくるそうです。佐藤先生にお話をうかがっていてとても印象的だったのは、
「家庭学習と普段の勉強が1つのものにならないかと考えていた」
という言葉でした。反転授業の場合、家庭学習は、翌日の授業で活躍するための勉強なので、家庭学習と翌日の授業とが一体となって1つの勉強になります。佐藤先生は、それを強調するために、
「明日の授業で使うための武器を身につける」
ということを生徒に言っているそうです。
ノート作りを徹底させることには、他にもメリットがあります。
動画講義を見て、分かったことを自分の言葉でまとめるため、自分のオリジナルの考えを表現する経験を積むことになります。これは、表現する喜びにつながり、子供たちは、ノートを作るのが楽しくなってくるのだそうです。
ノート作りは、中学校や高校へ進んでも必要になってくる技術です。将来にわたって役立つ技術を、身につけさせることも狙いの1つだとおっしゃっていました。
2種類の動画講義の比較
佐藤先生は、1年目と2年目とで違ったタイプの動画講義を作成しています。スタジオ撮影動画とスクリーンキャストについて、その長所と短所とを比較していただきました。
1年目は東北学院大学の研究室に設置した電子黒板の前で授業をし、それをビデオで撮影するというやり方で講義を作成しました。
これは、普段の授業と近い感覚のため、講義をする側としては違和感なく撮影できたそうです。
電子黒板にはデジタル教科書を写し、生徒が持っている教科書と同じものを画面に映して説明したそうです。「教科書と同じものを表示して説明する」というのは重要なポイントのような気がするとおっしゃっていました。
また、小学生にとっては、先生の顔が写っていたほうがよいかもしれないとおっしゃっていました。
一方で、撮影機材や、撮影スタッフが必要になるため、動画講義を作成する労力は大きくなるのがデメリットのようです。
2年目はThinkBoardというスクリーンキャストのソフトを使って講義を作成しました。デジタル教科書をWindowsのタブレットPCに入れて背景に表示させ、そこにペンで書き込みながら講義を作成していきました。
はじめは自宅で作成したそうですが、「授業をしている臨場感」が生まれず、言葉のイントネーションがおかしくなってしまったり、テンションがあがらなかったりしたので、教室の教壇で作成することにしたら、うまく作れるようになったそうです。
僕も、自宅でThinkBoardで物理の講義を作るときに、テンションを高めて、教室にいるかのような気持ちになってから講義を作っていたので、佐藤先生のお話にとても共感しました。
スクリーンキャストの場合は、先生の顔は画面に表示されませんが、その分、課題に集中しやすいというメリットがあるのではないかとおっしゃっていました。また、機材などを必要とせず、簡単に作れて、自分で編集できるのも長所だとのことでした。
どちらも動画講義の長さは5分程度で、1単元を説明するとちょうどそのくらいの長さになるとのことでした。
教室でタブレットを使う意外なメリット
反転授業においてタブレット端末は、「予習動画を見るためのもの」という位置づけになりがちですが、佐藤先生の授業では、教室での活動にも大活躍しています。
タブレット端末を導入する前は、大きな画用紙やホワイトボードに字を書かせて、作業が終わったら黒板に並べていたそうです。この場合、出来上がったものしか見ることができませんでしたが、タブレットで作業をすると、作業中の画面が電子黒板にリアルタイムで表示されるので、作業の途中が教師も、生徒同士も見えるのだそうです。
これが、実は、非常によい効果を与えていて、他の生徒の思考が見えるので、自分の考えと比較しやすかったり、自分の考えを整理する助けになるのだそうです。この話をうかがって、アクティブラーニングの小林先生が、授業中に「立ち歩き」を奨励しているのを思い出しました。グループワークにおいては、他の人のやり方を見て学ぶというのが非常に重要な要素であるようです。その行動がタブレット端末を使うことによって、「全員の作業を一目でリアルタイムに見ることができる」ようになるため、強力にサポートされているのです。
また、作業が終わったときには、「おわり」と画面に書くように指示しているのだそうです。これは、佐藤先生のほうで終わったかどうかを確認したいという理由ではじめたそうですが、生徒は、他のグループよりもはやく「おわり」と書きたいということで、競って作業を進めるようになり、予想外の効果を上げているということでした。これと全く同じことが、僕のやっている物理ネット予備校のオンライン反転授業でもおこっているので、実践者として同じ気づきを共有できたうれしさがありました。
「他の人の作業を見る」というのは、僕が子供のころには「カンニング」と言われ、奨励されるどころか禁止されていた行為でした。友達がやっているのを見ようとすると、「見るなよー!カンニングだぞー!」と言われ、自分だけで考えてやらなくてはならないという習慣がついてしまっていたように思います。他の人を見て作業をすることで、なぜ力が付くのかという素朴な疑問を佐藤先生にぶつけてみました。
佐藤先生は、「そのときは見たけど、そのおかげで次に自分で解けたらそれでいい。社会では、そうやってお互いに真似しあいながらやっているのが普通。
子供の学びだけが閉じ込められていて、人のを見ちゃいけないというのがおかしい。」とおっしゃっていました。この言葉には、はっとさせられました。
親御さんからの理解を得るためにしたこと
1年目が終わったときにとったアンケートでは、親御さんからマイナスの声はほとんどなかったそうです。
タブレット端末は、普段は充電器付き保管庫で保管していて、反転授業を実施するときだけ、自宅に持ち帰ります。その「自宅に持ち帰るスタイル」について、学級だよりや保護者会、家庭訪問などで説明して理解を得るようにしたそうです。
親御さんの意見としては、「タブレットを使うのは当たり前になる時代に先んじてやってくれるのはありがたい」というものが多く、一部、「五感を使うのも大事だからご配慮ください。」「目が悪くなるんじゃないか」「壊すんじゃないか」といった心配の声が聞かれたそうです。
僕が予想していた「家庭学習の負担が増える」といったことに対する危惧は、実際にはほとんど聞かれなかったようです。家庭学習時間に対するアンケートでは、反転授業実施前に比べて学習時間が1.5倍に増えたそうですが、これは、ポジティブに受け止められているようです。
また、2年間で1台もタブレット端末が壊れていないということにも驚きました。これは、佐藤先生も驚いたとおっしゃっていました。端末の破損を防ぐためにしたことは、高価なものであり、勉強に使う大事なものということを最初に言い聞かせたことと、バッグにキーホルダーをつけてよいことにし、自分のものという意識を高めたことの2つだそうです。それにしても、1台も壊れていないというのは驚きです。
実践者の言葉は、ヒントの宝庫
佐藤先生に1時間40分にわたりお話をうかがい、たくさんの「予想外」の言葉をうかがうことができました。
また、他の実践者の方との共通点を見出すことができ、改めて重要なポイントがどこなのかを認識することもできました。
反転授業は、まだまだ始まったばかりです。先頭を切って実践されている佐藤先生の言葉には、たくさんのヒントがちりばめられていると思います。
今回は、それをできるだけそのまま記事にすることを心がけました。
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