「反転授業」は子どもの「教育を受ける権利」を脅かすのか?

尾木ママの「反転授業批判」について という記事を書いたので、他に尾木さんの意見についてどのようなことが言われているのかを検索してみたら、次の記事を見つけました。

弁護士ドットコムの

尾木ママが批判する武雄市の「反転授業」 子どもの「教育を受ける権利」は大丈夫?

という記事です。

教育を受ける権利とは、公教育においてはすべての生徒が十分な学習機会を得る権利があるという意味だと思います。

それを踏まえて、南山弁護士は次のように述べています。

—- ここから引用 —-

「公立の小学校は、多種多様な家庭環境・意欲・学力の生徒が集まる公教育の場ですから、なかには自宅予習をこなすのが難しい生徒もいます。また、今回の武雄市のケースでは市が無償でiPadを配るようですが、自宅学習用の端末の費用が家庭の負担になる場合は、端末を持つことができない児童も出てくる可能性もあります。

もし、教室での授業において、そうした児童への配慮が一切なされなければ、児童は応用的な授業に全くついていけず、結果的に学びの機会を奪われることになりかねません。

つまり、反転授業を取り入れるのであれば、予習していない児童にも配慮した授業の進め方、教室外予習の支援による家庭の負担軽減、魅力的でわかりやすい自宅予習用コンテンツと端末の提供、といった創意工夫が必要となります」

小学校における公教育という観点からすれば、様々な事情で「予習できない児童」の存在を無視するわけにはいかないだろう。

—- 引用ここまで —-

ネット接続環境が整っていない、端末がそろわないという問題は、別のテーマになりますので、「多種多様な家庭環境、意欲、学力の生徒が集まる公教育の場」で、どのようにすれば、すべての生徒の学習効果を上げていくことができるのかということを考えてみたいと思います。

南山弁護士の発言を読んで気になった点があります。

それは、現状の分析がなされていないという点です。

一斉授業が中心の現状における課題を分析し、その解決策に「反転授業」がなり得るのかどうか。

一斉授業中心の現状と、反転授業を導入したケースとを比較して、どちらが多くの生徒の学習を助けられるのか。

そのような比較をせずに、反転授業の問題点を論じても、問題点が明確にならないのではないかと思います。

 

僕自身は、中学、高校、予備校などで一斉型授業を15年間やってきました。授業を面白くして、効果を上げるためにいろいろな工夫をしてきましたし、成果も上げてきました。

しかし、「多種多様な家庭環境、意欲、学力の生徒が集まる公教育の場」で一斉型授業をするのは難しいと感じています。

この場合、教師はどこに照準を合わせて授業をやらなくてはならなくなるのかと考えると、おそらく、平均よりやや下のレベルに合わせて授業を行うことになるケースが多いと思います。

その結果、一斉型授業のペースと理解の速さがちょうど一致している少数の生徒以外には、効果的な学びが起こらないことになります。

半数以上の生徒にとっては「遅すぎて飽きてしまう」授業であり、何人かの生徒にとっては「速すぎて理解できない」授業になります。

このデメリットを補うために、反転授業などの非一斉型授業をミックスしていくことが考えられているのです。

一斉型授業、非一斉型授業のメリットとデメリットについては、福島毅さんのどんぐり教員セミナーが参考になります。

また、現状で、かなりの割合の生徒が授業から落ちこぼれているという報告があります。(分かりやすい資料が見つかれば、後で引用します)

現在、すでに学びの機会を失っている生徒がたくさんいるのです。

「物理的な意味で教室にいる」という点では、学びの機会を得ているように思えるかもしれませんが、授業がすっかり意味不明なものになってしまった生徒にとって、それは、学びの機会を得ているといえるでしょうか。

この問題を解決するために、とても重要な視点があります。

それが、キャロルの時間モデルです。

心理学者のジョン・B・キャロルは、以下のように述べています。

「すべての学習者は、その人にとって必要とされる時間をかければ、すべての学習課題を達成できる」

キャロルは、学習における生徒の個人差は、到達できる難易度の差ではなく、学び終えるのに必要な時間の差であると考えたのです。

キャロルの時間モデルに基づくと、一斉授業という制度が、

  ・授業時間内に学び終えることができる生徒=学力が高い生徒

  ・学び終えるのに時間がかかる生徒=学力が低い生徒

という差異を生み出している可能性があります。

しかし、これまでは学力が低いと見なされていた生徒であっても、十分な学習時間を与えることができれば、学習課題を達成できるかもしれません。

それを可能にするのが、何回でも繰り返し見て、理解できるまで反復することができる動画講義などの独学可能教材なのです。
現在の一斉講義型の学習は、「学習時間」を均等にすることによって、「学習効果」に差異を生み出してきました。

しかし、発想を逆転して、「学習時間」「学習方法」などを多様化すれば、「学習効果」を均等にすることが可能なのです。

どちらのほうが、多くの生徒に学習機会を与える方法だと言えるでしょうか?

反転授業は始まったばかりで、導入や実施に多くの課題があります。

しかし、現在の一斉講義型の学習にも、上記のような課題があるのです。

その課題を解決するためのヒントがある以上、具体的な実施方法を試行錯誤しながら改善し、多くの生徒に本当の意味で学習機会を与えられるような方法を見つけたいと思っています。

 

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