iPadの達人!住ノ江修さんインタビュー

オンライン教育プロデューサーの田原真人です。

学校にiPadなどのタブレット端末が入ってくるようになり、個人でも所有している人が増えていますが、僕を含めて多くの人は、iPadのポテンシャルのうち、ほんのわずかしか引き出していないのではないでしょうか?

ホワイトボードアニメーションについて作り方を調べていたときに、住ノ江修さんのYoutube動画を見て、「iPadアプリだけでもできてしまうのか??」と驚きました。

それで、住ノ江さんがiPadで作成した動画などを見せてもらうと・・・・

驚きの動画の数々。

鼓動するメタルも。

iPadを使ったプロジェクションマッピングまで。

iPadが広げる予想をはるかに超えた驚きの世界がそこにありました。そこで、iPadの達人、賢明学院小学校ICT教育室長、住ノ江修さんにインタビューさせていただきました。

suminoe01

映画監督になりたかった大学時代

―― iPadで作られているものを拝見して、びっくりしているんですけど、すごいですよね。

オタクというか、マニアというか(笑)。初代iPadが発売されてから、iPadに関わることがありまして、もともと映画監督になりたいという気持ちがあったので、いじっているうちにどんどんはまっていって、iPadのおかげで、今の仕事にも就けているんです。

―― 映画監督になりたかった頃からiPadまでまっすぐ繋がってきたんですか?それとも、いろいろな紆余曲折があったのですか?

映画監督になりたい気持ちは、いったん落ち着いて、普通の大学生活を送りました。大学は、関西学院大学なんですけど、そこには、8mmフィルムを使った自主映画のサークルがあったんです。関西で自主映画で有名な私学といったら関学だったので、行ったんですよ。

―― へぇー、それは、全く知りませんでした。そこにアンテナが立っている人からすれば、「関学に入ったら自主映画やれる!」みたいなことになっていたんですね。

そんな感じがあったんです。親が専門学校じゃなくて大学へ行けという感じだったので、関学のすべての学部を受けて、商学部だけに補欠合格したんです。高校では、偏差値がクラスの中で低いほうで、先生も僕を見捨てていたんですけど、突貫で勉強したら、何とか転がり込めたんですね。

それで、映画を何年か撮ってました。

その他に、大阪に海遊館という水族館があるんですけど、そこで、夜だけ映画を上映する海遊館シアターというのがありましてそこで映写技師のバイトをしていました。もうお亡くなりになりましたけど、ジャック・マイヨールさんを描いたフリーダイビングの映画の「グランブルー」という映画のイベントで来ていただいたりしました。

転職を繰り返していたときにiPadに出会って人生が変わった

―― 映画を仕事にしようとは思わなかったのですか?

自分の映画の才能のなさに挫折しまして、普通のサラリーマンになることにしました。

新卒で通信事業者のツーカーホン関西に1995年に入社しました。ちょうど携帯の自由化が始まった年でした。同期はレベルの高い人ばかりで、大学もそうですけど、ラッキーで転がり込んだので、周囲についていけず落ちこぼれていきました。ツーカーホン関西で10年程勤めて逃げるように転職しました。

逃げの転職ですから上手くいくわけもなくその後、転職を何度も繰り返し社会的にドロップアウトしかけたんです。

―― その難しい状況から、どうやって抜け出したんですか?

そうこうしていると関西の大手塾に2010年にご縁があって、そこに教務課長として入りました。

その年、iPadが出たときで、印刷物とかイベントとかの管理が紙の手帳では追いつかないので他の人がiPadを使っているのを見て、「ええな!」となって、iPadを使い出しました。iPad関係のアプリは2000以上ダウンロードして、仕事の工程管理とかをしているうちに、iPadに詳しくなりました。ですがその職場で、3か月くらい多忙できちんと休みが取れない日が続いたりとかしまして、身体を壊す寸前まで働きづめの時期があったんです。

そのころ、関西にあるソフトバンクの大手代理店が、iPadの法人向けのコンサルや教育ができる人が欲しいということで、声をかけてくださって、そこで3年ほど、法人向けにいろんな業種に対してiPadってこんなことができますということをお伝えし提案営業をしていました。

医療系、教育関連、営業、流通関連、物流とか、幅広い業種に関わり業種別の分析をして、アプリや業務改善提案を行いまた導入セミナーをしてきました。3年間で大小合わせるとセミナーを200回以上やっていたと思います。

ソフトバンクさんの汐留の本社で100人規模のセミナーもやらせていただいたこともありました。

―― 教育分野には、どのような経緯で関わるようになったのですか?

そのソフトバンクの代理店から、今勤務している私立の賢明学院にiPadを200台納めていた経緯があって、今度新しく小学校にiPadを導入するので、先生方へ3日間の研修依頼を受けて研修を実施しました。その研修きっかけで、向こうからお誘いのお声をかけていただき移りました。

所属としては、賢明学院小学校のICT教育室で室長というのをやっているのですが、学校だけにいると、ノウハウが溜まっても、他に共有できないので、賢明学院小学校の中にある子会社に所属して、賢明に派遣されているという形にしてもらっています。週の3日~4日は賢明にいて、残りは、他の学校や会社に提案や営業を行っています。

元々、独立したいという気持ちがありましたので、今の形になっています。現場で培ったノウハウを蓄積してKeynoteで教材を作ったりとか、いろんな授業で事例を蓄積し、最近では大阪教育大学の学生さん向けにICT特別講義をやったりしています。

今、僕が実践蓄積してきたノウハウを共有しないともったいないなという気持ちがすごくありまして、社団法人を立ち上げて先生向けのICTのコーチングをするような場を創るのと、教育者を目指す大学生に対して講座をやってあげたいという思いがすごくあります。

今は、そのような活動をしながら、趣味と実益を兼ねて、映画が好きなので、コマ撮りをやったりしています。このようなことをiPadだけでできるんですよということを見せられるとインパクトがあるみたいです。

一点突破して道が開けると、すべての経験を生かせるようになる

―― 住ノ江さんのキャリア形成の流れは、面白いですね。計画していけないものですよね。突き進んでいくと、誰かが見つけてくれて導いてくれてという繰り返しですよね。

なんなんでしょうね。僕も最初のツーカーホン関西にいたら安定していたと思うんですけど、そこからドロップアウトして、職を転々としていて、すごく自分に自信がなかったんですね。ですがiPadに出会って、「これは、すごい」と思ったんです。僕みたいなシステム音痴の人間でも、ここまで可能性を広げて、人に語れるくらいになれるんですね。自分の生涯のパートナーに会ったような感じです。

これを、もっと極めていきたいと自然に思いソフトバンクの代理店の頃,営業の仕事を終えて、11時ころに家に戻ってきてから深夜2時、3時まで、翌日の訪問先のお客様へのiPad提案資料を作ったりとか、そういうことをやっているうちに、自分の引き出しがどんどん出来ていってiPadセミナーなど出来るようになってきました。

そうしているうちにいろんな方からお声をかけていただいて、ご縁が広がり、教育業界というやりがいのあるところに現在関わらせていただけるようになって、とてもありがたいと思っています。

―― 僕も、ドロップアウト組なので、分かりますね。僕の場合は、ゼロになってしまったときに、目の前のことにがむしゃらにやっていったら、手持ちの札が何枚か持てるようになってきて、その組み合わせでいろいろなことができるようになっていきました。反転授業と出会ったときは、今までやってきたことがすべて結びついてきた感覚があって、自分は、ここに来るためにいろんな経験を積んできたんじゃないのかという感覚がありました。住ノ江さんが、iPadと出会ったときも、そうだったんじゃないかなって思ったんですけど、いかがですか?

それは、ほんまにそうです。僕は、ツーカーホン関西を出てから、塾が母体の会社に転職し社会人向けのICTとかWebデザインの専門学校で働いていたんです。入ったとたんに半年後に部門を閉めると聞かされ、システム会社に移ったんです。システム会社では、メーカーさんに人を派遣する形なんですけど、システムの考え方が身に着きました。家を買った直後に東京転勤になって戻ってこれないかもしれないって言われて、転職して、物流センターでデータベースはこうなっているんだって経験させてもらって、その後、先ほどのiPadに出会った関西大手塾に行きついたんですね。

肉体労働もしたし、いろんなところを転々としてきたんですけど、転職しだした年齢が33とか34とかなので、世間的に厳しいじゃないですか。

でも、どうしてそんな年齢で転職できたかということを分析すると、転職活動の面接前に面接を受ける業界のことを徹底的に調べて、この会社に入ったらこのようなことをしたいという具体的なプラン案や新商品の提案書を作成して行ったのが良かったようなんです。

ソフトバンクの代理店に入って法人営業をするときに、いろんな業種にiPadを提案する時にその転職活動時のいろんな業種を勉強していた経験がとても役立ちました。お客様のところにiPad提案に行ってる時にお客様から

「住ノ江さん、流通で働いていたの?」
「業界常識を何故知ってんの?」

という話になるんですよ。こんなそんなでいろんな業種にご縁をいただいて医療機関から開業医向けiPadセミナーのご依頼を受けたりしています。最近、医療系の法律が変わって、テレビ電話等による遠隔診療が認可されたらしいんですが、お医者さんとつながりのある商社さんから相談を受け、テレビ会議システムのZoomを紹介し遠隔医療実施の提案をしようとしてます。僕の頭の中では、海外に家族で住んでいる人で、現地医療受診が不安な方に遠隔で医療相談に乗ったりとか、過疎地の医療に役立てたりとか、いろんなことができそうだって思っています。

iPadから僕の世界がどんどん広がっています。田原さんと同じで、一本突き抜けると、道がバタバタっと開けていっていることを、今、すごく感じています。

―― 開けていくと、今まで使えていなかった中途半端なリソースも、組み合わせて使えるようになるんですよね。

そうそう。ジャンクかなって思っていたものが、価値を持ち始めるんですよね。

僕は、Youtubeの動画でコマ撮りやってますけど、それを見て、声をかけてくださる方がいたりします。

一生懸命やっていたものは、無駄にならずに、後で良い意味で繋がるんですよね。

仕組み作りの発想が、仕事に余裕と創造をもたらす

―― 住ノ江さんは、転職のときに、業界のことを分析して、普通の人がやらないレベルまで準備して行ったりしていたわけですよね。日常の業務も、大変だけど、あと一歩進めて、仕組みを作るところまでやれば、成果が大きく変わってきますよね。

僕も、予備校講師をはじめたときに、こんなに予習と授業に明け暮れていたら、いつまでたっても自由な時間が創れないと思いました。それで、一度解いた問題の解答プリントをスキャンして電子化し、テキストを作るための問題を2000題くらいTexで入力して、それらをデータベース管理しました。問題番号を並べてコンパイルすれば、予備校のテキストと解答プリントがプリントアウトされて、ほとんど予習しなくてよいという仕組みを作ったんです。データーベース化する過程で、副産物として、大学入試の物理の出題傾向や出題頻度、難易度が頭の中に入って、模試の問題なども難易度に合わせてすぐに作れるようになりました。それを5年目までにやったことで、時間的にも余裕ができて、本の執筆をしたり、フィズヨビを始めたりすることができたんです。そのときは大変ですけど、長期的に考えれば、仕組み作りをしたのが大きかったです。

その通りですよ。現場を見ていると、学校の先生って忙しいんですよね。保護者対応があったり、問題を起こした生徒への対応があったりとか。ただ、今まで、中小企業で仕事をしていて、業務改善をやっていて思ったのは、ちょっとがんばってエクセルで表を作るだけでも全然違いますよね。

ソフトバンクの代理店のとき、支店が東京、名古屋、関西にあって、誰が何台売って、粗利がなんぼだという日々の営業活動を電話で確認して、ボードに
書いていってたんです。部長が不動産出身の人で、ボードに書くことで実績に対する意識を持たせる意図だったんだと思います。でも、夕方の6時から6時半まで、毎日電話で実績を聞き合う作業が、年間にしたらどれだけ無駄な時間を使っているんだろうと思ったので、すべての人にグーグルのアカウントを取らせて、表を作って、個人が自分の成績を外出先からでもスマホ等で書き込んでもらい自動集約できるようにして、個人の成績や全体実績も自動的にグラフで出るようにする仕組みを2日くらいで作ったんです。

僕は、プログラマーじゃないので、単にエクセルの組み合わせみたいな感じで作ったんですね。そんなふうに業務改善できて思ったのは、人間って、頭ではこうやればよいと思っていても、忙しいから、結局やらない人が多いんだと。それで、新たな事に投資できる有意義な時間を無駄にしているんですよね。

―― そうなんですよね。忙しいけれど、もうちょっと頑張って仕組みを作るところまでやらないと、その忙しさがずっと続くわけですよね。

教育現場もそんな感じで、先生も忙しくて、資料をグーグルでも何でもいいからデータベースに入れて、共有フォーマットを作って、教材を作って入れておけば、学年が変わっても使えるわけじゃないですか。

それを、忙しいからしない。でも、僕は、3カ月死ぬ気で業務もやりながら改善やれば、劇的に仕事が変わるというのを、今まで経験で分かっているので、本当に良くしたいなって思っているんですね。

Keynoteで解説を小出しにして、生徒に思考させる時間を与える

―― 住ノ江さんは、Keynoteについてのセミナーなどを行っていますが、Keynoteを使うメリットは、どんなことなんですか?

よく僕がKeynoteを教育現場のICT事例で出している理由としては、思考させる間を与えられるからなんです。算数を例にあげると算数の教科書って、全部結果を書いてあるじゃないですか。見ると分かった気になるけど、考える過程を省いています。算数は紙芝居みたいに、次はどうなるだろうって考えさせること/間がすごく大事だと思います。それがKeynoteなら算数の問題や解説を小出しに表示でき思考の間を作れる事が出来るので算数の勉強にはKeynoteはとてもいいと思ったんです。

あと、教科書だと児童が下を向いてしまいますが、Keynoteを使用して授業で使用する際は教科書を閉じさせてKeynoteで作成した教材を見せます。そうすると先生は児童の顔を見て授業が出来て児童の表情で授業の理解度を把握できます。

またKeynoteのアニメーション機能を使用することにより、算数の図形とか、概念をアニメーション/動画で説明すれば児童の算数に対する理解がとても速
いというのが分かったんです。例えば、円の中心点があって、そこから距離の等しい点をどんどん繋いでいくと円になるというような事もアニメーションにして円になっていく段階をアニメーションで見せてあげると児童は教科書よりよく理解できるようなんです。学習における意識づけや、動機付けをする意味においても、Keynoteアニメーションによる段階的提示が大事なんだなって分かったんです。

それで、今、算数の教材を作っていて、学年ごと、単元ごとに整理していっているんですね。Keynoteで作っておくと、あとでアフレコで音声を入れられるので、反転授業用の動画コンテンツとしても成り立つんですよね。

それをやっているうちに、賢明だけでは、もったいないなって思うようになりました。このノウハウを、他の学校の先生にも提供していけば、先生は児童/生徒と向き合える時間がもっと増えていい授業が行えるじゃないですか。

今教育現場ではシステム会社から販売された学習ソフトに合わせての授業とか、タブレットを一人一台持たせて問題の送受信すればアクティブラーニングだってみたいな風潮が一部あるのですがもっと根本的なこと、ICTによって先生が生徒と向き合う時間を増やすための仕組み作り(共有電子教材作成など)の必要性を今、強く感じているんです。

直感的に使えるiPadが、新たな発想を生み出す

―― 住ノ江さんから見て、iPadは、何がすごいんですか?

プレゼンをやるときに皆さんに言っているんですけど、僕は、もともとすごく口下手で、システムとかパソコンがすごく苦手で、はじめはひらがな打ちしかできなくて、会社に入った当時は、表も作れないので、先輩からいびられて泣いてたんですね。

そんな人間でも、直感的に使いこなすことができる、新たな発想が生まれるこのiPadというデバイスというのは、すごいと思うんです。

簡単で直感的にやれるというのが、iPadの凄さだと思います。

パソコンでPhotoshopというソフトを使うと、すごく機能が深くて、ちょっと背景とかを消したいというときでも、どこをいじったらいいのか分からなかったりするんですね。でもiPadとかだと、背景を消すだけのアプリが100円とか200円とかで売っていまして、そういうものを使うと、ど素人でも、パソコンがなくても、簡単にいろんなことができるんです。僕がYoutubeにいろんな動画を上げているのは、iPadだけでもこんなことができるんだよというのを見せたいからなんですね。

これは、仕事も人生も変えることができるすごいデバイスだと思うんですよ。

―― Photoshopなどが高機能なのに対して、iPadのアプリは、1つ1つは機能が限られていて、シンプルなものが多いですよね。

そうなんです。字幕を入れるだけのアプリとか、いらないものを消すだけのアプリとか、単機能のアプリも多いです。

機能が絞られていて、触ると直感的に勝手にできるんですね。そこが素晴らしいと思います。

―― 住ノ江さんは、iPadで何かをやろうとするときに、「このアプリとあのアプリを組み合わせればできるな」というような発想をするんですか?

アプリを2000個以上も落としているんで、何を使えばいいのかが分かるんです。

例えば、「アニメーションで動く絵本を作りたいんだけど、どうしたらいい?」と言われたら、「Keynoteを使ったアニメーションを作って、背景はこのアプリで作って・・・」というように、パパパッと繋いじゃうんですね。

そこに行きつくまでの過程では、こういうことがしたいというものがあると、それをできるアプリをいろいろ探して、発見していってたんです。そのときに、仕事でも趣味でも応用がすごく効くということに気付いたんです。iPadは、道具をどう使うかということを、いい意味で、考えさせてくれるんですね。

変な話ですけど、システム会社の人にiPadの使い方を教えに行ったことがあったんです。

名刺管理アプリの使い方、帳票をスキャンして枠を指定すると簡単にデジタル入力できるアプリの使い方とか、僕からすると当たり前のことなので、システム会社のSEとかPGとかの人ならみんな知っているだろと思いながら紹介すると「おぉ!」ってなるんですね。

それを見たときに思ったのは、知識と知恵というのは違っていて、うまいことコーディネートしたり、繋げ合わせたりする能力というのは、プログラマーがコードを打てるというのと違うんだなと思いました。

「住ノ江さんが、SEやPG上がりの人だからでしょう」と言われるんですけど、「僕は、前はパソコンも持っていないような人で、iPadだけでこれだけできるのは、僕がすごいんじゃなくて、iPadがすごいからなんです。」ということをセミナーでよく言っているんです。「だから、あなたにもできるんです」という説得力を持つことができるんです。

suminoe02

組み合わせて創り出す工夫は、特撮と同じ

―― 特撮って、効果を出すためにいろんな工夫をするじゃないですか?部品を組み合わせて、メタな情報を上手に創っていく感覚なんじゃないかなと思うんですけど、そういう感覚と、アプリを組み合わせて機能をコーディネートしていく感覚って近かったりしますか?

たぶん、そこはすごく一緒なんです。特撮で、こういう映像を作りたいけど、これだけの予算と、これだけの物しかない。じゃあ、それをどう使ったらいいねん。どうしたら、目指しているものに近いものを創れるんやということになるんです。昔の映画って、本当にそうやって作っていたと思うんです。

僕は、もともとは特撮映画監督になりたかったので、それが、iPadとリンクしているんでしょうね。

―― 面白いですね。僕も、そういう工夫がすごく好きで、よく「使い方の発明」という言葉を好んで使っているんです。開発するというレベルの発明じゃなくて、あるものをどう使うのというレベルで発明していく人もいると思っているんです。

僕は、そっち系ですね。

―― 僕も、どちらかというとそっちが得意で、そこに喜びを感じるんですよ。ものを製作した人が意図しない使い方を見つけたときに「勝ったな」って思うんですよ。笑

分かる分かるーー。設計者の思惑を超えて、こんなことできんねん!というやつですよね。

―― そうそう。「自分が作ったものが、こんなところに使われているのか、何考えたんだこいつ!」みたいなことになったら面白いなって。

自分で工夫して、新しい使い方とか価値を発見するのって、楽しいじゃないですか。

むっちゃ楽しい!笑

僕も、Youtubeで上げている動画とかで、普通はアフターエフェクトとか、高いソフトを使ったらできることを、2個か3個のアプリを組み合わせて映像を作っていたりして、パソコンの詳しい人から、「これって、どうやって作ったん?」と聞かれたときに、「200円のアプリと300円のアプリを組み合わせて、背景をこれで変えたらできて・・・」と言ったら、「そういう発想があるんや?」と言われたんですよ。

それがうれしくて、王道じゃないけど、工夫して価値を見出すのが、すごい好きなんですよね。

―― ちょっとハッカーマインドですよね。みんながお金をかけて決められたとおりにやっているところを、安いアプリを組み合わせてショートカットできる道を探し出したことで、新しい価値を生み出していくということですからね。

suminoe04
\

自分が勉強したことが、他人の役に立つのがうれしい

サラリーマン時代に嫌だったのが、上司から言われた通りにやる人だったんです。それだと、責任転嫁もできるじゃないですか。上司に言われたからやったんですって。

営業時代も、上司から「俺の言う通りにしてたらいいんや」と言われると、「それは、検証しましたか?」とすぐに思ってしまって、独自のやり方をして営業の成績を上げて、上司から何も言われないようにしたりとか、していたんです。

やはり、見直すとか、新たな角度からやらないと、マンネリ化すると、よくてせいぜい現状維持、市場変化とか環境変化があると悪くなるだけじゃないですか。常に何かを良くすることを考えて、情報を入れて、自分は営業だからシステムのことは知らんでいいということじゃなくて、システムのフローチャートの考え方を営業に応用できるようにしたりとか、垣根を持たずにいろいろ繋げていくと、いろんなことがプラスになって、自分が勉強したことが、他人にお話するとお役に立てるのがうれしいんです。

―― 実際に、本当にいろんなところから相談を受けていますよね。

iPadのおかげでお医者さんから相談を受けたりとか、教育関係でセミナーをしたりとか、動画配信をする会社からも相談を受けたりとか、いろんなことに、お役に立てるのがうれしいですね。

面白かったのが、落語家のプロデュースしている方から相談受けたこともあるんです。それで、古典ネタじゃなくて、ギリシャ神話をネタにしてプラネタリウムの真ん中で落語をやりませんかって提案したりしました。

ものの角度とか組み合わせとかを工夫して、新しいものを創って、みんなが喜んでくれて、それを見て、自分がハッピーになりたいなという気持ちがあるんです。

suminoe05

学校の先生のICTに対する壁を破壊してあげたい

―― 住ノ江さんが、今、教育の分野でやりたいと思っているのは、どんなことですか?

僕は、学校の先生のICTに対する壁を破壊してあげたいんです。特別なものだとか、システムに詳しくないからできないとかではなくて、人間が使う道具であって、仕組みは難しいかもしれないけど、決まった流れで結果を出しているだけなので、お作法さえ覚えたら、応用が効きますよ。と伝えたいんです。

今日も、大阪教育大学に行って教育現場におけるICT事例紹介という特別講義をさせてもらって、学生からの講義感想アンケートを見てみると、多かったのが、大学ではこういうICTの授業がないということだったんです。

大学にiPadが100台くらいあるらしいんですが、ほとんど使われていないようなんです。iPadの起動とか、インターネットの使い方程度のものなんです。なのでiPadのいろんなアプリを応用して教材を作成したりとかの経験がないんですね。

先生になると、忙しすぎて新しいことをする余裕がないと思うので、教育大学の学習過程で、ICT機器の使い方だけではなくて、活用方法の講義/授業をしてあげたいなってすごく思うんです。

―― それは、教師が自分でICTを使った工夫できるようになる力をつけるということですか?

自分で活用できる応用力と、事例をうまいこと組み合わせてあげて、ステレオタイプではなくて、広く考えて活用できるようになってほしいんですよね。

例えば、異業種のiPad活用方法も、授業のヒントになるよねというような感じで、システムと授業をうまいこと融合させてあげて、先生も楽に、生徒も楽しくなるような授業をやるお手伝いを、むっちゃしたいなって思っているんです。

―― iPadを使って、いろんな角度から見るとか、いくつかの物をリンクさせて応用していくこととか、学校に今までなかったような種類の学びを入れていける可能性もありそうですね。

僕は、落ちこぼれだったので、僕ができるんだったら他の人もできますよというのが、言えるんです。僕が営業で自信を持てたのは、対面恐怖症で、説明下手で、理解も遅かったんですよ。友だちで10のうち3を聞いたら理解する子もいるのに、僕は10のものを何回も繰り返して説明してもらわないと無理だったんです。

理解が遅い僕が分かるような伝え方、教え方ができたら、誰でも分かるということじゃないですか。

頭の賢い人は、それが、逆にできないですよね。理解が遅い人間だからこそ、本当に誰でも分かる伝え方の理論が構築できるじゃないですか。

それが、僕の武器だと分かったんです。そのおかげでどの業種に行っても、専門用語とかじゃなく、たとえ話をしながら、身近な例で話すことによって、いろんな業界で僕の説明を受け入れていただいたんです。

そういう部分と、直感的に触れて、組み合わせによっては、1が10にも100にもなる可能性を秘めているiPadと、すごく相性がよかったんかなって思いますね。

―― 理解が遅いって、鵜呑みにしないということともつながっていますよね。生徒とかでも、すぐに分かったというけど、浅く理解して、表面的に処理してしまう生徒と、いちいち突っかかって時間がかかるんだけど、身体に染み込ませていく感じだったりする生徒がいて、後者は、時間がかかるけど、身に着けたものを、いろんな風に応用できるようになったりするんですよね。でも、学校現場では、時間内に理解することが求められるので、ゆっくり深く理解したい生徒をサポートできるといいですね。

僕が、よくジグソーパズルに例えるんですよ。ある程度のところを埋めていくと、急に全体像が見えて、一気に埋まるときがありますよね。

システムが分からないと言っているお客さんに「焦らんでいいですよ。やれることからやっていくうちに全体像が見えてきます。焦って、分かったという人ほど伸びないんです。ゆっくり考えながらパズルを埋めていくと、急に景色が変わりますから」という話をいつもするんです。

僕みたいな不器用な人で、あきらめている人が、iPadやったら、仕事も人生も変えられるんだって伝えたいんです。

僕が、iPadで、これだけいろんなことができているんですから、ちょっと見方を変えるだけ、できないという思い込みを外すだけで、絶対変わりますからということを言うと、みなさんの認識が変わってくるのが楽しいです。

―― 転職たくさんしているけど、その経験を生かしていない人もいますよね。住ノ江さんの場合は、様々な経験を、全部自分の中で繋げて一枚の絵にしていっているところがとても印象的です。

嫌な経験も、いい経験も、すべて自分を助けてくれているなというのは思いますね。

僕は、すべてが先生と言うのは、変な話ですけど、物流センターで働いていた女性の方が、パートなので言われたことしかしないんですけど、物流って無駄を省いて出荷を早めるために、作業工程を常に見直していきます。そこの考えや過程が素晴らしいんです。

考え方とか細かい技とかを教えていただいて、時間内に押さえるとか、出荷ミスをしないためのチェック体制であるとか、すごいんですね。僕は、4大出ているとか、有名企業に就職したというプライドがあってせいで、その物流の仕事をしているときは、はじめとても辛かったんです。でも、みんな先生だなって思えた時に、物流のパートの女性からも学べるし、お医者さんからも学べるし、教師からも学べるし、営業とか建材屋さんからも学べるし、すべてのことから吸収できるんだなって思いました。そういうことが、今、一気につながってきて、自分の中のパズルが埋まりだしている感じがあるんです。

―― そういう雰囲気が、外に発散されている感じがあります。
Youtubeに出している動画とか、しゃべっている感じとか、いろんなところから幅と厚みを感じるんです。アウトプットしているものを見れば、そういうのって分かりますよね。氷山の一角を見たときに、水面下にどれだけ大きい塊があるんだろうかという予想がつきますよね。

今、ぐぉーーって来ている人が、非言語的に発散している何かがあって、本人もそれにワクワクしているような雰囲気を、住ノ江さんから感じるんですよね。

自分の中で、iPadでこんなに人生も仕事も変えられるくらいの可能性があって、ICTに関しては学校の改革もできるし、授業形態も変えられると思っていて、そういういろんなアイディアが溢れるくらいあるんですけど、それを目に見える形にして、誰でもできるようにしていく作業を早急にしたいなって思っているんです。

それはしなくちゃいけないけど、一方で、iPadでプロジェクションマッピングをしたり、舞台演出をしたりとか、Zoomとタブレットを使って、不登校の子どもたちが勉強する場を創ってあげて、勉強って面白いんやで、Keynoteで作った教材とZoomを使えばできますよね。その子たちが感じている「私なんかには無理」という思い込みをバリバリっと剥がしてあげるお手伝いができるかなという可能性が見えてきたんです。

―― アイディアを実現するために考えていることはありますか?

今度、中山涼一先生と平野貴美江先生とで、一般社団法人を立ち上げようと言っています。

ICTの教員向けの資格認定みたいなものを作って、教員を目指す人たちに対しても教育体制を作って、私学に対しても、定額で契約をして、学校の先生がZoomで僕に質問できるようにするとかして、全国の学校を繋いでいって、教員を目指す方もサポートできる体制ができたらいいなって思っています。

SenSei Tips

教育を変えるっていうような偉そうなことは言えないんですけど、働きやすい環境を作るということはできると思います。例えば教材も共有しないで、大きなわら半紙に貼って、毎回作って、赴任先が変わるたびにリセットされていたものを、データベース化できたら、教師の時間の損失を押さえることができるし、勉強が得意じゃない不器用な子が、動画とかで勉強を面白いって思えるようになることのお手伝いができるんじゃないかって思っているんです。

インタビューを終えて

住ノ江さんは、様々なものを縦横無尽に直観によって結び付け、その組み合わせによって価値を創り出すのが、とても得意な人なんだなという印象を受けました。

それは、決められたことを効率よく処理していくことを求められる学校教育や、大企業においては、相性がよくなかったため、秘められた能力を発揮しきれていない状態だったかもしれません。

しかし、iPadという非常に相性のよい道具と出会ったことで、住ノ江さんの能力が外側へ表出していく道筋ができ、人生が開けていきました。

頭の中にストックされている2000個以上のアプリを、縦横無尽に結び付けて、様々な価値を生み出していくのは、住ノ江さんの独壇場です。

興味深いのは、iPadという大きな強みができたことで、それと他の経験とを結び付けて、新たな価値を生み出していることです。これまでの様々な経験も「アプリ」のように頭の中でチャンク化され、

iPad+(様々な経験)=新しい価値

というように価値創造に利用できるようになり、仕事を広げているのです。iPadという大きな強みが生まれたことで、住ノ江さんの「結び付けて価値を生み出す」という能力が、より広い分野で生かせるようになっているのです。そして、住ノ江さん自身が実感されているからこそ、「すべてが先生」という言葉が出てくるのだと思います。

僕が印象に残ったのは、住ノ江さんが、自分の体験を分かち合いたいという気持ちを持たれているところです。秘めた能力が、1つのことをきっかけで表出していった経験が、多くの子どもたちの役に立つのではないかと考えているところが、ICT教育に携わっている原動力になっているところが素晴らしいと思いました。

住ノ江さんのように繋げて価値を生み出す人は、繋げられる要素が増えるほど、指数関数的に生み出せる価値が増えていきます。ジグソーパズルが埋まってきて、大きな絵が見えてきたという住ノ江さんの今後の活動が、とても楽しみです。

 

 

コメントは受け付けていません。

サブコンテンツ

このページの先頭へ