Bob Stilger著『未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう』が社会的変容への地図となる
「反転授業の研究」の田原真人です。
NPO法人home’s viの嘉村賢州さんがFacebookでこの本を紹介していたのを見て、直観的にこの本は読まねばならない本だと感じて手に取りました。
本を読み始めてすぐに、自分の直感は正しかったことが分かりました。
東日本大震災から4年、僕たちのグループ「反転授業の研究」で起こってきたことを、コミュニティ再生という視点から見直すことができました。
この本から得られた多くの気づきをまとめて、みなさんとシェアしたいと思います。
311後の世界に「反転授業の研究」は生まれた
本を読み始めて、「反転授業の研究」は、311後の世界に生まれた、新しい世界の創造を目指すコミュニティの中の1つだということに気づきました。
今まで、そのように捉えたことはありませんでしたが、311後の様々なコミュニティ再生の物語を読み、僕たちがやってきたこととの数多くの共通点を見出したことで、「僕たちの物語」を、もっと大きな枠組みのメタストーリーとの関係で捉えられるようになりました。
2011年の3月末、仙台で友人たちと食事をとりながら、自分の口から出てきた言葉を今でもはっきりと覚えています。
本当に残念なことだけど、311を境に世界は変わってしまった。311以前の世界は、もう存在していない。
そのことを認めて、今から何ができるのかを考えようと思う。
311以前に思い描いていた将来設計は、311以前の世界を前提に成り立っていたものだったので、世界が変化したことによってすべて放棄することになりました。
そして、未来が見えなくなってしまいました。
表面的には311以前と連続している世界が目の前にありましたが、世界を成り立たせていた土台が大きく揺らぎ、同じものを見ても、同じ解釈コードでそれを解釈することができなくなりました。
それから数年間は、経済的にも精神的にも、「未来へ繋がる何か」を探す日々が続きました。
誰かと話したいという欲求が、これまでにないほど高まりました。
そんな中で出会ったキーワードが「反転授業」でした。
そして、オンラインで繋がっていた友人たちに声をかけ、少人数でオンラインの読書会を始めたのです。
311がなければ、反転授業と出会っていなかったかもしれないし、仮にであったとしても自分から動いて読書会を始めようと思わなかったかもしれません。
未来が見えなくなって、未来を探しているときだったからこそ、自分から動いていかなければならないという気持ちが生まれ、行動につながったのだと思います。
311以前は、僕は、ほとんどリーダーシップを発揮するようなことはなく、集団から少し離れて自分のペースで安定した生活を送っていました。 自分が3000名を超えるコミュニティの主宰者になっている今の状況は、そのときの自分には全く想像ができなかったものです。
この本の中では、たくさんの「リーダーシップをとる普通の人」が登場します。
未来が見えなくなると、人はカオスの中に投げ込まれます。
そのときに、安定した日常の中では眠っていたものが呼び起こされ、未来を探して行動し始めるのではないでしょうか?
それは、僕にも起こったことだし、時代認識を共有する多くの人にも起こったことだと思います。
この本を読みながら、震災から4年たって、僕自身や、僕の周りで起こったことについて多くの経験が、言語化されないまま放置されていたことに気づきました。
そして、ボブさんの言葉を借りながら、少しずつ言語化されてきて、より大きな枠組みの中で現在地を知ることができました。
自己組織化のプロセス
ボブさんが、自分自身のコミュニティの仕事の原則をリストアップしていました。
●あらゆるコミュニティはリーダーに満ちている
●何であれ、コミュニティの中に答えはある
●誰も待たなくてよい。いま改善するための資源はすでにあるのだから
●明確な方向感覚が必要だ。エレガントで最小限のステップで進むために
●一度に一つずつ進める。歩むことで道を創りながら
●局地的な仕事は、世界の同種の仕事とつながれば社会的変容と深化する
このリストは、「反転授業の研究」が歩んできた2年間を思い浮かべると、うなづけることばかりです。
「反転授業の研究」に「多様性のある森を育てる」というビジョンを掲げ、どうやって自己組織化が起こるのかということを考えていたときに、「外部から有名な人を連れてきて話を聞くというようなことを当分やめよう」と思いました。
自分たちの学び合いを促進していこうとしているときに、外部の権威の存在が邪魔になると思ったのです。
それで、コミュニティの中で活動的な人に光を当ててオンライン勉強会のスピーカーになってもらうことにして、活動がより活発になるような仕組み作りをしていきました。誰もが一歩踏み出してリーダーシップを取れる状況を作り出していこう。最初からリーダーが存在するのではなく、誰もが一歩踏み出せばリーダーになるという状況が大事だと思ったのです。
それが、どこへ向かうのかは全く見えていませんでしたが、直感を信じて、少しずつ未来を創っていきました。
はじめはなんとなく始めたことが、やっていくうちに価値に気づくということもたくさんありました。
そのようなものの一つが勉強会のスピーカーを紹介するためにはじめたインタビューです。インタビューされた人が、もともと潜在的に持っていた力に気づき、力を発揮するようになるという経験をしたことで、インタビュー記事を書いて応援することに大きな価値を感じるようになりました。2年間で40本以上のインタビュー記事を書きました。
グループの運営にかかる費用も、グループ内のコラボレーションによる有料ワークショップから捻出できるようになりました。コミュニティ内の参画型の学びが価値を生み出せるようになり、「有名講師」が存在しなくても、受講者が集まるようになってきました。
まさに、コミュニティ内に答がありました。
自分たちの力を信じて、一歩一歩行動しながら未来を創っていったのが、よかったのです。
僕たちがこれからやることは、「反転授業の研究」の物語を語り、他のコミュニティの物語と繋がることかもしれません。
ボブさんの原則が正しいのなら、それは、さらに大きなうねりを生み出し、社会変革につながる道になることでしょう。
新しいパラダイムの創造
ボブさんが、東北地方で行った様々な対話の中で生まれた見解は、次のようなものでした。
東北地方にとっても、そして日本全体にとっても、古い価値観を復興するのではなく、新しいパラダイムを創造することが絶対に必要だ。
そして、新しいパラダイムの創造のために必要な5つの実践が述べられていました。
●静かにする。
●つながる。
●聴く。
●共感する。
●混乱しておく。
この中で、最も印象に残ったのは、「混乱しておく」ということ。本当の明瞭さが湧きおこるまでそのままでいるということが大切だということ。未来が見えないモヤモヤの中で、知的保留をしながら未来が訪れるのを待つことの重要性を感じ続ける日々だったので、「混乱しておく」という言葉には勇気づけられました。
ボブさんは、また、次のように言います。
持っているものを探せ。
これも、大変示唆に富む言葉です。
グループの中にはたくさんの知恵がバラバラに散在していて、使われるのを待っていると感じています。
それが行動として現れるためにコミュニケーションが必要で、お互いの状況を話して、お互いに貢献できそうなこと、協力できそうなことを見つけようとすると、散在していた知恵を使うことができるようになり、未来が見えてきます。
未来はどこかにあったのではなく、組み立てられていないジグソーパズルのように自分たちの中に散在していて、お互いがどんなピースを持っているのかを話し合うことで組み合わされて大きな絵を共有できるようになるのではないかと思います。
協力できるという実感は自信につながり、
手を挙げれば誰かが手伝ってくれるという安心感が行動への閾値を下げていきます。
そのような安心・安全な場が出来上がれば、次々にコラボレーションが起こり、未来を創る動きが加速し始めます。
未来を創るために必要なものは、自分たちの中にあったのだという実感があります。
ボブさんがコミュニティ再生のために使用する変容型シナリオ・プランニングやアート・オブ・ホスティングなどの手法に、大変興味が湧きました。これらは、僕たちのコミュニティが未来を見つけるために役立つものになると思います。
未来は相互に耳を傾けることで創られていく
ボブさんは、「未来は相互に耳を傾けることで創られていく」と言います。
これは、311以前に聞いても、まったくピンと来なかったでしょう。
なぜなら、311以前、僕は、人の話を聴くということをあまりしていなかったからです。
自分の頭から論理的に導き出された答に従って行動していたため、人の話を聴く必要性を感じていなかったのです。
しかし、311の後、論理を成り立たせる大前提が崩れたことで、本当に混乱しました。
何を信じて、どうやっていけばよいのかが分からなくなったのです。
だから、人の話に耳を傾けられるようになりました。
いろんな人から学びたいと思ったのです。
他の人が、どんなことを感じたり、考えたりしているのかを知りたいと思ったのです。
たくさんの人の話を聴いていくうちに、次のことに気がつきました。
自分の判断を保留して、好奇心を持って人の話を深く聴き、自分の感じたことを素直にフィードバックしていくと、相手の中で暗黙知だった部分が言語化され、物語化されていくことを支援できるのです。そして、それは相互に起こることなので、僕自身の暗黙知も言語化されていき、形式知として他人と共有できるようになりました。
対話を重ねることによって、何をすればいいのかが明瞭になり、誰と協力すればいいのかが見えてきました。
まさに、「未来は相互に耳を傾けることで創られていく」ということを実感しました。
自分らしさが他者とのつながりから生じる
この本を読んでいると、心を大きく動かす宝物のような言葉に頻繁に出会います。
旧世界では、既存のヒエラルキー構造のポジション争いをするための競争を行っていて、その競争で勝利することが、成功の定義とされていたのではないでしょうか。そこでは、自分らしさとは、競争に勝つために集めたアイテムやトロフィーによって他者と差別化することによって手に入れるものだと考えられていたと思います。
しかし、その世界が成り立たなくなることをリアルに感じ、自分たちのコミュニティの中から共創(Co-Creation)によって未来を作り出していこうとするとき、自分らしさの捉え方が180度変わります。
ボブさんの言葉は、そのことを鋭く言い当てています。
これまで何度も、人々が自分の「色」を見出す必要性について話すのを僕は聞いてきた。それは他者から自分を切り離す手段としてではない。むしろもっと、信頼できるつながりの手段としてだ。世界は時に言葉ではとらえにくいパラドックスに満ちている。自他の区別や自己完結への欲求を手放すことができたとき、我々は我々自身のユニークな自己に出会うことがある。自分らしさというものが、他者とのつながりの中から生じるのだ。
この言葉に感銘を受けて、次の記事を書きました。 → Co-Creation(共創)によって自分を輝かせる「森」を作る
並列する旧いものと新しいもの
ボブさんは、災害後の社会は、次の典型的な三段階を通ることが多いと言います。
1)緊急事態と救出
2)レジリエンス
3)長い道のり
「反転授業の研究」は、レジリエンスの段階で生まれました。
人々が集まりはじめ、変化を起こすためにそれぞれの知識や資源を持ち寄り利用する。誰もが参画する
ボブさんは、2013年末から2014年はじめにこのような動きが日本各地で生まれていたと言います。僕たちも、まさにそのような動きの中で生まれてきた活動の一つだったのだと思います。
ボブさんがこの本の中で示してくれた図が、僕たちの現在地を把握するのにとても役立ちました。
20世紀のパラダイムはピークを過ぎて下り坂に入ったときに311が起こりました。
それをきっかけに旧世界のパラダイムに別れを告げた人たちが現れ、お互いに磁石で引き寄せられるように集まりはじめ、新しいことを始めました。僕も、まさにその中の一人でした。
オープンでフラットな関係を土台にして「多様性をもった森」を育て、そこでの実りを収穫して分かち合っていくことをビジョンに掲げたところ、毎月、100名以上を超える人たちがグループに参加してくれるようになりました。その増加のペースは今でも止まっておらず、増え続けています。
そこでの体験を通して、「共創するためにはどうすればいいのか」という知恵が、少しずつ蓄積して、共有されてきました。
個々のビジョンが共鳴して、共有ビジョンに近いものが生まれつつあります。
僕たちのコミュニティは、ボブさんの図でいうと、旧パラダイムと新パラダイムの間の橋が架かる手前の状況にいるのではないかと思います。
未来を創ろうとしている皆さん、繋がりましょう!
この本を読んで、僕たちがやってきたことを大きな流れの中の1つとして位置づけることができました。
そして、同じようなビジョンを持って自己組織化している多くのまだ出会っていないコミュニティが存在するということに気づきました。
それらと出会うために、「反転授業の研究」の物語を語っていきます。
→ 「反転授業の研究」の物語はこちらから順に読むことができます。
他のコミュニティの物語も聴きたいです。
コミュニティ同士が出会うことで、次のレベルの自己組織化が起こり、それが社会変容へと繋がっていくという道筋が、ボブさんのおかげではっきりと見えました。
ボブさんの本は、日本に散在している新しい未来を創るコミュニティに地図を与え、それらを結び付けるものになるはずです。
未来を創るために動いているみなさん、繋がりましょう。
ボブさんの声も、ぜひ、聞いてみてください。
TEDxTokyo スティルガー、バーニグ 15/15/10 日本語
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