専属コーチのブリッジ代表、田中力磨さんインタビュー

知識はインターネットで検索すれば手に入り、授業もYoutubeにどんどんアップされる時代に、教師の役割、存在価値はどのように変化していくのでしょうか?

変化の激しい社会の中で、知識はあっという間に陳腐化していきます。大切なのは、知識ではなく、学び続けることができるマインドセット。Growth Mindsetを身につけることではないでしょうか。

では、どのようにして生徒にGrowth MIndsetを身につけさせることができるのか?

専属コーチのブリッジ代表の田中力磨さんは、ご自身のアイデンティティを教師ではなく、コーチだと考えているそうです。コーチングとティーチングの割合は、多くても7:3で、段階的にコーチングの割合を増やしていき、最終的には、9:1くらいになるようにしているのだそうです。

僕は、田中さんの取り組みに、21世紀の教師の在り方の1つの可能性を感じ、インタビューさせていただくことにしました。

rikima

子育てをしたいと思っていた中学時代

田中さんが、教育に関心を持ったきっかけは何だったんですか?

中学生のときに「東京大学物語」が流行っていて、それを読んだときに、日本の教育って何なんだろうという疑問を感じていたのを覚えています。それで、漠然と、いい大学に行くとか、いい会社に就職するとかじゃなくて、地元で「子育てをしたい」って思っていたんです。

中学生のころに子育てしたいって思っていたとは驚きですね。その思いは、ずっと続いたのですか?

親が、一部上場企業に就職することが大事だという考えを持っていたんですが、自分は、そういう上昇志向はなくて、地元で就職したいと思っていたんです。それで、親に納得してもらうために、一部上場企業の内定をもらって、それを断って、地元に就職しました。

田中さんは、自分の価値観に対するこだわりがとても強い方だと思いました。まわりに流されず、自分の物差しで自分の行動を測ることができるというところが、すばらしいです。

パニック障害を発症し、職を転々と

地元の企業に就職してからはいかがでしたか?

社会人2年目にパニック障害を発症し、それをきっかけに退職することになりました。それから、職を転々とすることになりました。そうなってしまうと、学歴とか関係なくなってしまうんです。パニック障害で倒れて転職を繰り返しているということを伝えると、就職できないんです。

それは、大変な状況でしたね。そこから、どのようにして立ち直ったんですか?

学歴はなくなったけど、学力=学ぶ力は無くなっていないぞ!と思いました。それで、教える仕事を始めました。

就職活動というのは、社会における自分の「商品価値」を思い知らされるものだと思います。病気によって、外側から「商品価値の低さ」を突きつけられたときに、それに負けずに自分の価値を自分で定義した田中さんに感動しました。

予備校の教室長のときに感じた違和感

田中さんが、今の教育のあり方に疑問を感じたきっかけは?

僕は、以前、東進衛星予備校の教室長をやっていたことがあったんです。映像授業の補足をして教えていたら、「そういうことをするな」と言われて違和感を感じました。それが、人間だからこそできることがあるんじゃないかと思った最初のきっかけでした。

「教師」じゃなくて「コーチ」になったきっかけは?

自宅で塾をやるようになってから、半年前、「名もない小さな個人塾」の小澤淳先生の夏合宿に参加させていただく機会がありました。そこで、慶応大学の学生アルバイトが勉強を教えているのを見て、正直言って、教える力が僕よりもあるんですよね。それで、自分は勉強を教える人じゃなくてもいいんじゃないかと思ったんです。

小澤先生の夏合宿って、参加したいという塾関係者の人がたくさんいるんですけど、参加させてもらったのは僕だけだったので、小澤先生に、「勉強に対する指導力は高くないのに、なんで僕なんですか?」と質問したんです。

そしたら、小澤先生が、

「田中さんは、子どもたちの心の中に入っていく力がすごいんだよね。合宿3日間で子どもたちの見る目が変わったというところでは、敗北感を感じる」

ということをおっしゃってくれたんです。それが、すごくうれしくって、知識を教えるよりも、潜在的な力を引き出すほうが生きていく力を養うことができるというように強く思うようになりました。自分は、教師というよりも、コーチのほうがしっくりくると感じるようになりました。

自分自身で価値をつけていく覚悟

田中さんの塾「ブリッジ」では、どのようなやり方をしているのですか?

少数定員制にして、ほとんど毎日、親御さんに連絡します。めちゃくちゃしっかり、最初に話しますね。

それで、僕は、最初に勉強を取り上げるんです。

「損するのは自分だし、好きにしなー」

って感じで。無理にしろとは絶対に言わないです。子どもたちは、仕方なしにやっているけど、3か月くらいたつと自分でやり始めます。具体的にプランを立てて、親御さんと連携してやります。

親御さんも巻き込んでいくんですね。

はい。それが重要で、親御さんと、子どもと、コーチの3者が連携しないで、1つでも欠けるとうまく回らないので、親御さんに、「このように接してください」とか、お願いしています。

主体的な学びを促すためには、環境を整えて、待つことが大切だと思います。田中さんは、簡単に「3か月」とおっしゃっていましたが、それだけの期間、子どもを信じて待つのは、結構、信念が必要だと思います。

承認のサイクルが回る

最近、承認って本当に大切なことだと思っているんです。自分の良さは、自分ではなかなか分からないので、他人が承認してくれてはじめて気がつくことができますよね。それに気づいてから、本当に「いいな」と思ったことは、素直に表現して相手に伝えようと思っているんです。

お話をうかがって、田中さんの場合、小澤先生に「子どもの心の中に入っていく力」を承認されたことが大きかったと思いました。そして、承認される力を感じたことが、子どもたちを承認していく力にもつながっていると思うんですけど、いかがですか?

本当にそうですね。僕の場合、小澤先生に承認されたことでやっていける自信が湧きました。

子どもを承認する場合、単純な承認じゃダメだと思っています。子どもは、本気か口先だけけ敏感に察しますから。だから、感情をストレートに出すようにしています。生身の人間対人間という関係にします。

田中さんが、東進衛星予備校で感じた違和感の正体は、ここにあったのではないでしょうか。生身の人間対人間という関係が、子どもが育つために必要だという思いが、ビデオで知識を一方向にインストールする学び方に対する違和感につながり、そして、今のコーチという関わり方へ繋がっているのではないかと思いました。

コーチとして子どもを育てるというのは、植物を育てるのに似ているように思います。積極的に何かを施すのではなく、環境を整えて、自分で成長していくのを注意深く見守って、よい兆候を見つけて承認していくというプロセスなのではないかと思います。田中さんの「ブリッジ」では、まさにそういうことが行われているのではないかと思いました。

子育てについて

中学時代から「子育てがしたい」と思っていた田中さんですが、実際に子育てをするようになっていかがですか?

それは、自分の子どもについてですか?それとも、生徒についてですか?

たぶん、どちらにも共通しているものがあるんですよね。

はい。そうですね。笑

僕は、自分で考えて努力できること。自分でやろうと思ったときに頑張れる自分づくりというものを大切にしています。

何かあったときに戻ってこれる芯を作るということですね。

それは、田中さん自身の経験に根差した信念ですよね。田中さん自身が強く信じていることだから、きっと伝わるんですね。

僕は、学歴社会自体は否定していないんですけど、スポーツと同じで勉強に向き不向きはあると思っています。僕の生徒で、チックを持っていて学校にほとんど行っていなかった子がいるんです。最初は15分の勉強もしんどかったんですけど、だんだんと勉強が続けられるようになって、今では平気で10時間くらい勉強できるようになったんです。それで、「苦手なことを、こんなにできるのはすごい」と褒めました。苦手なことにこんなに取り組めるんだったら、将来、絶対に困難があっても生きていけるんじゃないかと思いました。

結果ではなく、取り組み方の変化をほめたんですね。でも、10時間も勉強できるようになったら、結果も出てきますよね。

はい。当然、成績も伸びるんです。元々の志望校よりもよいところに行こうと思ったら行ける状況になったので、「どうする?」と聞いたら、

「最初に志望していたところに行きたい」

と言うので、自分が伝えたかったことが、この子には伝わっているなと思いました。

田中さんは、何を伝えたかったんですか?

世間の評価ではなく、自分自身で価値をつけていく人間になる覚悟を持つということです。

コーチというのは、Beingの果たす役割が大きいと思います。「言っていること」ではなく、その人が信じていること、行動していることが、相手に影響を与えるからです。田中さんは、自分が心底信じていることをストレートに相手に伝えるので、それが相手の心に届くんだなと思いました。

田中さんのお話をうかがう前は、時代の変化により、教師の役割がティーチングからコーチングへ移っていくことで、新しい知識やテクニックを身につけていくというようなイメージをぼんやりと持っていました。でも、そういうことではなく、教師が自分の生き方を振り返り、それを正直に伝えていくということ。つまり、原点に立ち返るようなことなんだなと思いました。

田中さんの家には、生徒がよく泊まりに来るんだそうです。親から「今日、うちの子、泊めてやってくれませんか?」と頼まれることもあるんだとか。お話をうかがって、田中さんから養分をたっぷりと吸って子どもたちが成長していく姿が、思い浮かびました。

キミの力を磨く場所。専属コーチのブリッジ代表・田中力磨のブログ

 

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