反転授業導入を成功させるための2つのポイント

佐賀・武雄市で行われる「小中学生全員にタブレット端末を配布して反転授業を行う」という取り組みについて、肯定的な意見、否定的な意見とが飛び交っていますね。

今日は、このような取り組みがどうすればうまくいくのかを生態系とのアナロジーで考えてみたいと思います。

「小中学生一人ひとりにタブレット端末が配布される」というのは、生命システムでいうと、地球に隕石が落ちて粉塵が撒き上がり、気温が一気に下がる・・くらいの大きな環境の変化だと思います。

それまで地球に君臨していた恐竜は、環境の変化についていけず絶滅し、他の生物も絶滅と隣り合わせの状態で、必死に生きていく道を探っていたと思います。

最近のエピジェネティクスの研究から、環境ストレスによってDNAメチル化のパターンが変更されることが分かっていますから、突然変異率も上がったかもしれませんね。

生死をかけて、ありとあらゆる可能性を探り、その中でうまくいった遺伝子が拡散して共有され、環境の変化に適応していったのでしょう。

環境への適応速度は、2つの量によって決まります。

(a)突然変異率が高いこと

(b)遺伝子の拡散速度が大きいこと

 

体が大きい生き物は、一般的に寿命が長くなります。

世代交代の速度が遅いので、環境の変化についていきにくいのです。

恐竜が絶滅した理由のひとつは、世代交代の速度が遅く、環境に合わせて自分を変えていくことができなかったのでしょう。

一方で、体の小さい動物は寿命が短く、世代交代が速いため環境の変化についていきやすいです。

体の小さい哺乳類は、環境に適応するように自分をすばやく変化させ、今の繁栄を築いたのでしょう。

 

さて、反転授業の話に戻りましょう。

「タブレット端末を使って反転授業をする」という環境が設定されることで、「一斉授業」という恐竜が絶滅の危機にさらされます。

新しい環境に対応するためには、

(a)突然変異率が高いこと=現場で多様な試行錯誤ができること

(b)遺伝子の拡散速度が大きいこと=現場の成功例を全体でシェアできること

の2つが大切になってくるでしょう。

 

そう考えると、「反転授業」という枠をはめるのではなく、「一人一台タブレット端末があるという環境を生かして、これまでにはできなかった取り組みをしてください」という程度の自由を現場に与えたほうが、様々な創造的な取り組みが現場から生まれてくるのではないかと思います。

これについては、袖ヶ浦高校の情報コミュニケーション学科実践例がとても参考になります。

 

また、現場の成功例をシェアする仕組みについては、現在ではインターネットがありますから、Facebookのグループページや、SNSなどの利用が有効だと思います。

アメリカで反転授業が広まった背景には、Flipped Learning Network というSNSで、教師がノウハウをシェアしたということがあります。日本で反転授業が発展するためには、同様の取り組みが重要だと思います。

 

グループで情報をシェアするメリットは、成功例の拡散に留まりません。

アイディアを持ち寄り、お互いにアイディアを受粉しあうことによって、個々の知性を超えた「集合智」(Corrective Wisdom)を作り上げる可能性が生まれます。

反転授業の導入によって注目されてきたグループワークの目的の1つは、この集合智を生み出すスキルを磨くことです。

そのためには、教える側が、自らグループに参加し、集合智が生み出されるプロセスを体験し、その重要性を深く心に刻んでおくことが、きっと反転授業の取り組みにも役立つと思います。

 

また、生物進化のシミュレーションの研究が示唆しているのは、他種と共生的な関係を結び、ネットワーク化した種が生き残りやすいということです。

反転授業の一斉導入が成功するかどうかは、現場で自由に試行錯誤し、それをグループでシェアし、グループ内でアイディアを受粉しあって集合智を作り上げ、巨大な助け合いのネットワークを作るというプロセスをどれだけ高速で行うことができるかにかかっていると思います。

佐賀・武雄市の取り組みが注目されることによって、反転授業の成果が評価の目にさらされることになると思います。

失格の烙印を押される前に、明確な成果を築き上げる必要があります。

これは、時間との勝負になると思います。

 

Facebookグループ「反転授業の研究」には、反転授業の実践をしている先生方や、大学の研究者、出版社、編集者、ICT技術者、企業コンサル・・・など、様々な方々が集い、毎日、大量の投稿がされ、そこには、「集合智」と呼べるようなものが生まれつつあります。

今、日本で、「反転授業」についての最先端の情報が集まっている場所かもしれません。

僕は、反転授業に関しては、それを俯瞰してあれこれ言うポジションではなく、絶滅を身近に感じながら、生き残りをかけてもがいているプレーヤーの一人です。

生存戦略として、自らどんどん実践し、実践例をシェアできる場を作り、さらに、そこに集合智を生み出していきたいと思っています。

また、反転授業オンライン勉強会も、企画していきたいと思います。

実践されている方、実践を検討されている方、ぜひ、つながりましょう。

Facobookグループ「反転授業の研究」はこちら

※グループに参加希望の方は、田原までメッセージ下さい。

 

 

反転授業オンライン勉強会のお知らせ

先日、朝日新聞の一面で佐賀・武雄市での反転授業への取り組みが報道されるなど、反転授業についての関心が高まってきています。

自分も反転授業をやってみたいという学校や塾の先生も、たくさんいらっしゃるのではないかと思います。

しかし、日本で実践しているところはまだまだ少なく、身近なところで反転授業の実践をしている先生を見つけてお話を聞くチャンスは少ないのではないでしょうか。

Facebookグループ「反転授業の研究」には、反転授業に関心のある方が62名(9/29現在)おり、活発に情報交換、意見交換がされています。

その中には、反転授業を実践されている方も含まれています。

このFBグループは、9ヶ月前にスタートし、これまでに8回、オンラインで勉強会を行ってきました。

勉強会をスタートした頃は、実践例が少なく、主にアメリカの状況を調べたり、E-Learning教材の作り方について議論したりということが中心でした。

その中で、話題の中心になったのは、

「E-Learning教材の作り方は分かるが、教室で何をやればよいのかが見えてこない」

ということでした。

「反転授業で、教室で何をやるかを明らかにする」ということを課題とし、勉強会は一時中断しました。

その後、日本における反転授業の実践例も少しずつ報告されるようになってきました。

また、グループワークを授業の中心にすえた「アクティブラーニング」を以前から実践されている先生方がいらっしゃることも知りました。

そこで、反転授業オンライン勉強会を再開し、アクティブラーニングに取り組んでいらっしゃる先生に実践状況を報告していただき、それをベースにして、参加者でディスカッションしたいと思います。

反転授業では、教師の役割が「壇上から知識を教え込む」ことから、「生徒の横に立ちサポートする」ことに変化するというように言われますが、具体的にどのようにすればよいのか、通常の一斉講義しか経験したことがない人にとっては、イメージすることが難しいと思います。

グループワークを実践されている先生のお話をうかがい、直接質問したり、参加者同士でディスカッションしたりすることができる貴重なチャンスですので、ぜひ、ふるってご参加ください。

参加費は無料、参加資格は特にありません。

反転授業に取り組みたいとお考えの方には、非常に参考になる勉強会になると思います。

 

日時 : 10月7日(月) 22:00-23:00 (最大延長 23:30)

場所 : WizIQオンラインルーム (申し込みいただくと、招待URLが届きます)

内容 :

(1) 小林昭文さん 「反転授業で大事なのは、教師の役割の変更」

プロフィール

1952 年生(60) 熊本県出身、埼玉大学理工学部物理学科卒、県立越ヶ谷高校を定年退職。現在は河合塾教育研究開発機構研究員、日本教育大学院大学講師、河合塾コスモ名古屋講師。

著書『担任ができるコミュニケーション教育』(小林昭文著/ほんの森出版)など。

取材記事 「キャリアガイダンスNo47(リクルート)」

小林先生のブログ→授業研究AL&AL

(2) 横山北斗さん 「アクティブラーニングへの挑戦」

プロフィール

1984年生まれ。29歳。東京都出身。
東京大学 農学部 応用生命科学課程 生命工学専修 卒業
東京大学大学院 教育学研究科 学校教育高度化専攻 教職開発コース 修士課程修了
東京都の私立関東第一高等学校に数学科教員として勤務。3年目。

横山先生の2013年の実践はこちらにまとめられています。

横山先生のブログ→アクティブラーニング&反転授業はじめました

(3) 芝池宗克さん 「反転授業の実践」

プロフィール

近畿大学付属高校で3年前から数学の協同学習に取り組み、今年の春から全国に先駆けてiPadを用いた反転授業を実践。

芝池先生のブログ→反転授業の研究

(4)ディスカッション

無料申し込みはこちら(終了しました)

 

 

 

 

反転授業のポジション分析

反転授業には、様々な分析軸があると思います。

ひとつの軸は、授業の目標をどこに置くかです。

●創造力・問題解決力を伸ばす場合 → グループワーク中心

●基礎力重視・落ちこぼれ防止 → 学力別・個別サポート中心

ということになりますでしょうか。

もうひとつの軸は、営利か非営利かということになるかと思います。

営利企業の場合は、利益を上げることが目標になりますし、コストや集客も考えなくてはなりません。その中で、反転授業を導入するメリットを探っていくことになると思います。

一方、学校やNPO団体のような非営利団体では、純粋に学力が上がるとか、落ちこぼれが減るといったことが達成目標になると思います。

さらに、予習用の講義の作り方として、

・教師が自分で作成する
・営利・非営利団体が作成した動画講義、学習システムを利用する

といった分類もあると思います。

現在、反転授業を取り入れているところを、独断と偏見でポジションマップにまとめてみました。

 

 

武雄市については、まだ実像が見えてきませんが、「教え合い議論する授業ができる」と報道されていることから、やや創造力・問題解決力重視の位置に配置しています。

グループワークについても、「学びあい」の色合いが強い場合は、脱落者を出さないという意味が強まると思いますが、便宜上、上記のようにまとめました。

自分のところでも反転授業をやっているけど、マップに入っていない!という方は、田原までご連絡ください。

 

このように一言で「反転授業」と言っても、ほんとうに様々な取り組みがあるわけです。

ですから、「反転授業は、●●だ!」と言っても、ポジショニングマップのどこに位置する反転授業なのかによって、目指す方法も、手段も変わってくるので、議論の前提として、ポジショニングを確認することが生産的だと思います。

 

また、「反転授業」という型に捉われる必要はないと思います。

目指すべきは、教育の改善であって、「反転授業」をやることではありません。

ICTという強力な道具を使い、目の前の教育問題を解決するための試行錯誤した結果、多様なやり方が出てくるのが当然だと思います。

その中には、反転授業にするのがよい場合もあるかもしれませんし、反転しないほうがよい場合もあると思います。

最適な結果を模索した結果、それが、反転授業と呼ばれているものと似ている

ということであれば、それをやればよいのだと思います。

 

今、教育にICTという道具が使えるようになり、教育の問題解決の大きな可能性が広がりました。

僕は、現場での試行錯誤、実践の中から生まれてくる知恵をシェアし、そこにアイディアを受粉して、さらによいやり方を見つけていくといったポジティブで創造的な活動を教師や塾ができるような空間をオンラインに作りたいと思っています。

1年ほど前にスタートしたFacobookグループ「反転授業の研究」には、すでに様々な実践をされている方々が集まり、情報交換を活発にしています。

反転授業についてのオンライン勉強会は、これまでに8回行いました。

10月7日と10月30日にも行います。

 

実践されている方、実践を検討されている方、ぜひ、つながりましょう。

 

Facobookグループ「反転授業の研究」はこちら

※グループに参加希望の方は、田原までメッセージ下さい。

反転授業で全員予習してこなかった場合の対策

反転授業では、授業に参加する前に、予習で自分で知識の習得を済ませておく必要があります。

これが、反転授業を導入するにあたって、大きなハードルになっていると思います。

生徒の学年や、学習意欲によっても大きく変わってくると思いますが、eboardの中村さんのレポートでも「大阪の偏差値が悪くない私立高校でも半数見てくればよいほう」という報告がありました。

僕が、オンライン反転授業をやったときに、最初にアンケートをとったら、30%くらいが予習してきていませんでしたが、これは、実は、かなりよい数字だということになるんですね。

そのときは、50%が予習動画を難しかったと答え、30%が予習してこなかったという状況だったので、ある程度、基本を確認しながら進めたのですが、予習をしっかりしてきた生徒からは、一部、不満の声もあがりました。

そこで感じたのは、「予習してきたほうが、授業を楽しめるという授業スタイルの確立」が大切だなと思ったのです。

現実的に予習してこない生徒が、一定数いるという状況を踏まえた上で、その割合が減っていくような仕組みづくりをするということです。

どういう方法があるか、考えたり、調べたりしていたら、とても参考になるブログ記事を見つけました。

カピバラ親子の2000日奮闘記

このブログ記事を見ると、どうやらクラスを3つに分けているようなんですよね。

1)理解できない生徒 → 教師が黒板で解説
2)ある程度できた生徒 → 個別学習で問題演習
3)できる生徒 → グループワーク

予習してこなかった生徒は、自動的に1)に振り分けられるということにしておけばよいだけなので、このやり方だと、予習してこなくても大きな問題にならなさそうです。

意欲のある生徒は、2)や3)に入りたいと思うことが予想されるので、自分のために2)や3)のグループに入ろうというモチベーションが出てくると思います。

一斉講義だと、だいたい中の下のレベルに合わせて講義を行うことが多いと思います。

特に公立小学・中学の場合は、生徒の学力のばらつきが大きいので、そうすると中の上より上の子にとっては退屈だし、一番下の層はそれでも分からないし、ということで、全体の30%くらいがちょうどよいレベルだと感じられるのだと思います。

それを解決する方法として、このようなやり方をすると、それぞれが自分にあった学習ができて、より効果が上がる可能性があります。

反転授業については、今、僕も含めて、現場でさまざまな試行錯誤がされている段階です。

いろんな問題点が噴出してきていますが、それを解決するための工夫もすごい勢いで生まれてきていると思います。

その情報をシェアして、拡散して、アイディアを受粉して、新しいものを作り出していくことができればいいなと思っています。

実践している先生方、ぜひ、情報を下さい。

 

■実践されている方、実践を検討されている方、ぜひ、つながりましょう。

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※グループに参加希望の方は、田原までメッセージ下さい。

小学生に反転授業は可能か?実践例から学ぶ

佐賀・武雄市で小学生・中学生にタブレット端末を配布して反転授業を行うということが決まり、それをめぐって様々な意見が飛び交っています。

Twitterでつぶやかれていることを見てみると、期待している、楽しみだという声もある一方で、反転授業を小学校で行うなんて言語道断という声もありました。

賛否両論あるのは当たり前ですから、議論が活発に行われて、理解が深まったり、よいアイディアが出てくればよいと思いますが、気になったのは、現場の声とか、実践例とかが圧倒的に少ないということでした。

頭で考えて「こうだ!」と言っても、多くの場合、実践してみると、考えもしなかったことが次々と出てきます。これは、僕がオンライン教育をはじめてから9年間で嫌というほど味わってきたことです。

予想通りにいったことなどほとんどなく、予想外のことが次々と起こって、そこから考えてもいなかった方向へ発展していく・・・この繰り返しでした。

ですから、小学生への反転授業の導入がどうなるかを考えるときに、実際にやってみたらどうだったのかという実践例を知りたいと思ったのです。

そんなとき、小学生・中学生・高校生を対象とした無料動画学習サイトeboardを運営している中村孝一さんに意見を伺う機会がありました。

eboardは、まさに日本語版カーンアカデミーとでも言えるようなサイトで、反転授業をやりたいと考えている皆さんには、とても有効なサイトです。

eboardはこちら

eboardの中村さんは、

「反転授業は、個別対応を可能にする可能性は持っていると思いますが、小学校から試験的にというのは、やり方がまずいと思います。」

「まず家で動画は見ないですね。うまくいかせられるかもしれないのに、やり方と前提が間違ってる気がします。」

とおっしゃっていたので、そのような意見を持つにいたったベースになる経験があるのかどうかをうかがったところ、次のようにお答えいただきました。

非常に示唆に富むコメントですので、こちらで紹介させていただきます。

—— 以下、中村さんのコメント ———–

2か月弱学校現場に入って、eboard導入を進めたので、そこでの経験が大きいですね。これが学習塾やNPOなら問題ないと思います。また反転授業そのものに、異を唱えているわけではないです。

①まず、海外事例と日本の公立校でやる場合との一番大きな違いは、学習指導要領だと思います。

いい悪いは別にして、日本の公立校では、学習指導要領をもとに、みんなが同じ授業を同じように受けます。それを前提にあらゆる仕組みが作られています。

たしかカーンのビデオであったようなやりとりですが、「ガブリエル、あなた2学年分は進み過ぎよ。他の子にも教えてあげて」的なことは日本の反転授業では起きないはずです、法律として。また現場の先生は、それを好ましく思いません。

反転授業の、特に学校・学級でやる場合のメリットは、学習の個別化だと、個人的には思っています。個別化することで、理解度や習熟度に合わせて学習ができる。ところが、現行制度はそれを許容してないんです。

さらに学習指導要領、特に学校の先生方の目標は、基礎・基本の力をつけることで、「動画で基礎をやって、応用を…」は求めていません。「なんとか卒業するまでに、中1くらいの英語は全員身につけていってほしい」が現状です。

②上記とも関連して、これは体験的なことですが、現場に行くと子どもの学習意欲は総じて低く、さらに意欲・学力にばらつきがあります。残念ながら宿題で動画を課しても、動画の質に関わらず見てこないと思います(半沢直樹を見てこいでも、実際難しいと思います)。反転授業を大阪で実施されている私立高校でも(偏差値は悪くないです)、半数見ればいいほうというのが現状だそうです。

見てこない子が一定数いた場合、結局同じことを授業でやるはめになります。結局反転しようにも、反転できない。学級や実施回によって見てくる子の割合が違う、理解度も違う。さらにこれが先生によっても、学校によっても違う。

そうなるなら、デジタル教材と映像授業はもっと別の形で効果的に使えます。家で動画を見て、学校で応用を…ではなく、補習として最初から最後まで動画とドリルをひたすら繰り返す時間がもうけられれば、基礎的な学力の強化を図るとか(これを今はeboardは放課後学習支援として進めています)。

—— ここまで ——-

eboardの中村さんは、現段階では数少ない「実際にやってみた人」です。

僕は、まずその声をよく聞いて、それをベースにして、何とかよい方法はないかということを考えたいと思います。

僕と同じように、実践例、現場の声を聞いてから考えたいという人には、中村さんの声は、非常に参考になると思います。

中村さん、貴重なコメントをありがとうございました。

eboardはこちら

 

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佐賀・武雄市が「反転授業」用にタブレット端末を配布することについての分析

佐賀県武雄市で、小中学生全員に1台ずつ配るタブレット端末で「反転授業」に取り組む方針を決めたという記事が朝日新聞デジタルに出ていました。

記事へのリンクはこちら

※会員限定の記事ですが、無料会員登録をすれば読むことができました。

まずは、新しい試みがスタートしたことを評価したいと思います。

ここで考えたいのは、

反転授業にiPadなどのタブレット端末は必要なのか

ということです。

結論から言えば、「反転授業による教育効果」という点から見れば、必ずしもタブレット端末は必要ないと思います。

今の時代、自宅にインターネットに接続できる端末(PC、タブレット、スマホなど)を持っていない人のほうが少ないですから、基本的には自分のものを使うことにして、持っていない人には安価な端末を購入してもらうという方法にすれば、導入コストが下がります。

小学生の場合、そもそも親のサポートが期待されているわけですから、親のPCを使って、親子で予習動画を見るということで事足りると思います。

グループワークを中心に据えたいということであれば、予習は動画でなくてもよいかもしれません。

アメリカで行われている「LTD=Learning Through Discussion」という手法は、本を読んでくることが前提で、それをベースにしてディスカッションするものです。ここでは、動画ではなく本、または、資料が予習のための素材です。動画に比べて口当たりは悪いですが、それによって鍛えられる部分もあります。

また、アクティブラーニングの小林先生などがやられているように、プロジェクターを使い、最初の10分くらいで知識の説明をして、その後、グループワークにするという方法もあります。この場合、生徒の予習状況が揃っていないという状況を避けることができるというメリットもあります。

タブレット端末のメリットは、実は、自宅に持ち帰れるということではなく、学校にいるときに一人一台端末があるということにあるのだと思います。

自宅で使うということであれば、自宅のPCなどの端末を使えばよいわけですから。

学校にいるときに一人一台端末があるということはどういうメリットがあるかというと、個人の学習状況を確実に記録してデータ化できるということだと思います。

自宅で予習するように指示しても、やってこない人がいたりして、学習状況と推移を把握するためのきちんとしたデータが取りにくいです。

しかし、学校の教室で全員がタブレット端末を持っていて、授業の最後に教師が小テストを課したり、振り返りとしてアンケートを書かせたりすれば、確実にデータを蓄積することができます。

ただ、データの蓄積を目指すのであれば、スマホ端末のようなものを教室に常備しておいて、ユーザーIDでログインし、授業中はClickerなどとして使いつつ、最後のデータ取得を行い、授業が終わったら学校に戻すということでも事足りるのかもしれません。この場合、コストはかなり下がると思います。

佐賀・武雄市では、15年春までに小学生と中学生の全員にタブレットを配布するそうです。

4200台のタブレット端末から上がってくる学習データをデータベース分析して、教材開発やカリキュラム改善などにつなげていくという視点で見て、はじめて「タブレット端末」の導入という話のポイントが見えてくるのではないかと思います。

オンライン反転授業でグループワークを行いました

昨日、とうとうオンラインでグループワークをやることができました。

 

僕のオンライン反転講義は、

・動画講義で知識をインプットする。

・オンラインルームでアウトプット中心の活動を行い、「強い体験」を通して学ぶ。

ということを目指しています。

 

参加者の人数が増えても、効果的にアウトプット型の学習ができるのはグループワークです。

ですから、どうしてもオンラインでグループワークをやりたかったのです。

 

しかし、これを行うためには乗り越えなくてはならない壁がいくつかありました。

まず、どのようなシステムを使えば、オンラインでグループワークが可能になるのかということです。

グループワークを可能にするためには、Breakout Roomという機能がついたWeb会議システムを使う必要があります。

まずは、その調査を行いました。→ BreakOut Room機能が使えるWeb会議システム

 

その中で、導入コストが安く、クオリティがそこそこ高いWizIQというWeb教室を使うことにしました。

WizIQには、BreakOut Roomという機能が有り、教室内に小グループをいくつでも作ることができます。

オンライン反転授業を実施するにあたって、4名の方に協力してもらい、BreakOut Roomの機能テストを行いました。その結果を元に、グループワークをどのようにすれば実施できるか計画しました。

 

さて、いよいよ本番です。

授業のテーマは、「水面波の干渉」

前もってYoutubeに予習動画をUPしておき、参加者は動画を見てから参加するようにしてもらいました。

予習動画(23分)はこちら

 

 

授業では、基本的なことが分かっているかどうかを確認することからはじめました。

教師の僕が解くのではなく、参加者に答えてもらうようにしました。

そして、ときどき、

「じゃあ、●●さん、ホワイトボードに書いてみてください。」

というように、受講者を指名して、書いてもらいました。

これは、今回、はじめてやってみたのですが、おおむねうまくいきました。

他の人の解答に対して、チャットボックスに頻繁に書き込みが行われ、かなり活発にやりとりが生まれました。

他の人のコメントに、さらに、コメントがされるといった受講者間のやりとりもありました。

基本事項の確認が終わった後は、シミュレーション動画でイメージを確認しました。

スクリーンシェア機能を使って動きを見せようとしたのですが、動きがカクカクしてよく見えないということだったので、スナップショットをとり、画像をホワイトボードにUPして、そのスナップショットを見ながら説明しました。

シミュレーション動画は、後ほどYoutubeにUPして、受講者が見れるようにしました。

次に、いよいよグループワークです。

前もって、グループワークをするという話は、メールマガジンで伝えてあったので、

「楽しみです!」

といったコメントがチャットボックスに流れました。

 

グループワークを始める前に、態度目標と理解目標をホワイトボードに出しました。

————-

●態度目標

しゃべる(チャットに書き込む)
書く
説明する
質問する
チームで協力する
チームに貢献する
●内容目標(理解すること)

水面波の干渉の腹線と節線を自由に書けるようになること
反射板があるときの扱い方を理解すること
※最後にグループの解答を発表してもらいますので、
がんばってください!

———

グループワークにはセッティングが重要だということを、何人もの先生がおっしゃっていたので、小林先生の実践例を参考にして、目標を定めました。

また、最後に発表があるということを示すことで、作業を進めるモチベーションを高めることにしました。

 

今回は、参加者が36名だったので、6名ずつ6つのグループに分けることにしました。

受講者リストの上から6人をRoom1、次の6人をRoom2というように機械的に振り分けていき、その中の一人を適当に選択してRoom Leaderとしました。Room Leaderは、その部屋の人にマイク、ビデオ、ホワイトボードに使用許可を与えることができます。

BreakOut Roomをスタートすると、僕だけがMain Roomに残り、他の参加者は各ルームに振り分けられました。

受講者は、ルーム内の人としかチャットボックスを共有できないため、他のルームで何が起こっているか全くわかりません。これは、WizIQのBreakOut Roomの改善してほしい点です。

教師アカウントからは、全ルームにチャットを通してメッセージを送ることができます。そこで、Room Leaderにグループメンバーにホワイトボードの使用許可を与えるように指示しました。

誰もがはじめてだったので、どうやったらよいかわからずに戸惑うのではないかと思い、ルームを順番に確認しに回りました。2つのルームではホワイトボードの許可がうまくいっていなかったので、こちらで許可しました。

グループワークでは、あらかじめ用意していた問題に挑戦してもらいました。難易度は(1)(2)がやや難、(3)が難というレベルで、その前の解説を理解していれば、(1)(2)はなんとか解けるといった設定でした。

ルームを回っていると、チャットボックスでのやりとりが始まり、ホワイトボードへの書き込みが少しずつ始まりました。

問題の図をホワイトボードに出すのに苦労しているところもあり、次回は、こちらで画面に出せるように工夫しようと思いました。

グループワークは20分ほど行い、初めての環境に戸惑いながらも、何とかやりとりをして進めていこうという意欲が感じられました。

最後に、全員をMain Roomに戻して、簡単に解説して終了としました。

参加者には、振り返りとしてアンケートを書いてもらい、

【分かったこと・分からなかったこと】:

【どんな風に話し合えましたか。】:

【ライブ講義への感想】:

の3つを書いてもらいました。

参加者からのフィードバックはこちらで見ることができます。

 

オンラインでグループワークをやるということで、実際にグループワークを実践していらっしゃる先生方に声をかけて見学・参加していただきました。

早速、講義についての感想をブログに書いてくださいました。

小林先生のブログ

桑子先生のブログ

また、他の先生も、メッセージで講義への感想をフィードバックしてくださいました。

実際にグループワークをされている先生方のコメントは、グループワークをはじめてやった僕にとっては参考になるヒントがたくさん含まれていて、とても助かりました。

実践すると、その中で気づくことがたくさんあります。また、それを記録しておくことで、次に続く人がやりやすくなると思います。実際、今回のグループワークは、小林先生の実践例を参考にして、アレンジを加えたものです。

 

今回は、進行がスムーズに行かなかったところがありましたが、これは、すぐに改善できると思います。

それよりも、参加者の「熱」がすごかった。

これが、僕にとって、一番大きな気づきでした。

 

 

反転授業のデメリット

今日は、反転授業のデメリットについて考えてみたいと思います。

反転授業のデメリットを論じるときに、予習をしてこない生徒の対応をどうするかという話が出ることが多いのですが、それは、反転授業に限ったことではないので、反転授業のデメリットとして捉えるべきではないと僕は考えています。

たとえば、達成度別に振り分けて授業をするのであれば、予習をしていない生徒は、達成度が低いグループに振り分けられてサポートされることになります。

学力が低くて予習をしてこなかった生徒であれば、通常の授業よりも時間をかけてサポートできますし、モチベーションが低くて予習をしてこなかったのであれば、達成度別に分けるということが予習のモチベーションにつながるかもしれません。

また、アクティブラーニング型のグループワークをやる場合でも、グループに貢献したり、グループワークを楽しんだりしたいという気持ちが、予習のモチベーションを高めることも十分にありえると思います。

また、予習という形にせず、最初の10-15分間で知識の導入をし、その後、グループワークを行うという授業形式をとり、グループワークの状況を見て、知識の導入部分を予習にしていくというように、段階的に導入するという方法も現実的ではないかと思います。

というわけで、僕は、予習をしてこないケースの対応というのは、反転授業のデメリットだとは思っていないのですが、先日紹介した「反転授業の効果は試験の点で5%アップ…それが“大きな成功”と言える理由」という記事の英語版を読んでいて、おもしろいコメントを見つけました。

引用しますね。

—- ここから引用 —-

I’m not sure what is so innovative or new about “flipped” classrooms. Students need to be engaged with new material at least three times to gain competence. The traditional mode of study accomplishes this with (1) reading assignments, (2) in-class discussions , and then (3) review for examination. The only difference with the traditional mode and flipped classrooms seems to be online videos replacing books in the first step.
Are videos really a superior replacement for books? What will happen to reading skills?

—– 引用ここまで —-

これを理解するためは、背景を知る必要があります。

アメリカなどでは、グループワークやディスカッション、リサーチなどが教室で頻繁に行われます。

これは、学年が進むにつれて、よりその傾向が増してきます。

反転授業というのは、そういう土壌の中で生まれてきたやり方で、授業時間が減って、十分なグループワークの時間が取れないという状況で、知識の導入部分を予習にして、グループワークの時間を確保しようということで生まれてきたのです。

また、「本を自分で読んでこい」という形の予習を課すケースは、反転授業が生まれる以前から存在していたため、コメントのように、

「伝統的なやり方と反転授業の違いは、予習を読書にするか、動画にするかだけの違いで、たいした違いはない」

というような感想も出てくるのですね。

そして、「ビデオ講義は、本当に読書よりも優れているのか? 読書スキルはどうなるのか?」という疑問を呈して終わっています。

これは、とても面白い指摘だと思います。

ネットには膨大な情報があふれていますが、書籍からしか得られない情報もまだまだたくさんあり、また、書籍のほうが信頼できる情報が得られやすいという面もあります。

僕は、授業以外に読書スキルを上げる機会を作ればよいのではないかと思いますが、まだ、検討する余地がありそうなので、引き続き考えたいと思います。

 

 

 

「反転授業の効果は試験の点で5%アップ」について

2013年9月18日にTech ClunchにGregory Ferensteinが投稿した記事が、世界中の教育関係者に注目されている。

記事のタイトルは、

The Flipped Classroom Boosts Grades 5%. Why That’s As Big As We Can Expect.

(日本語版はこちら)

 

反転授業(Flipped Classroom)を使用した結果、テストの点数が5%上昇したという内容の記事で、ICTをに関わる人にとっては非常に勇気付けられる結果である。

しかし、記事を詳しく読んでみると、いくつか疑問がある。

まず、5%という数字が、どのような条件で比較研究された結果なのかが記事からはよく分からない。

原典をあたってみようとしたが、「Academic Medicine誌とThe American Journal of Pharmaceutical Educationに載る予定」ということで、Gregory Ferensteinが、発表前の研究を研究者から説明されてこの記事を書いたということのようだ。

記事には、研究論文の投稿先がAcademic Medicine誌とThe American Journal of Pharmaceutical Educationという薬学教育系の雑誌であることと、「薬学部の学生の場合、反転授業を受けた者の方が講義型の学生よりもやや結果が良かった。」とあるので、5%という数字は、薬学部の学生に対して行った調査ということのようだが、その後、高校生や大学生へのタブレットの普及率の話が続き、比較研究の条件がはっきりしない。大学生向けの授業ということであれば、教授が動画講義やパワーポイントを使ったスクリーンキャスト動画などを作り、予習としてあらかじめ受講させておき、教室での活動をディスかションや実習中心にしたということであろうか。

 

記事中で、Gregory Ferenstein氏は、しきりに「5%というのはすごい」と強調するのだが、その数字が出てきた背景が分からない以上、5%という数字だけを取り上げて評価することは、現段階では難しい。研究発表が公開されるのを待ち、改めて検討したいと思う。

 

さて、5%という数字を除けば、オンラインと対面教育を組み合わせたほうが、オンラインだけ、または、講義だけよりも学習効果があるということは、以前から言われていることである。

その根拠となったのが、2009年に出されたアメリカの教育省の研究結果である。

現在は、2010年に改定された報告書を見ることができる。

これは、アメリカ政府がオンライン教育に予算を使うべきかどうかを調べるために、オンライン教育の学習効果を調査したもので、K-12(幼稚園から高校生まで)を対象に、2002-2005年に行われた調査を中心に分析し、さらに、2007-2009年の調査を考慮したとある。

この報告書は、反転授業の推進をサポートする証拠のように扱われているのだが、この報告書では、「反転授業(Flipped Class)」という言葉は、一度も使われておらず、あくまでもオンライン学習の学習効果を調べているというものだということである。

この報告書についての東大の山内教授の記事を引用する。

—- ここから引用 —-

報告書のExecutive Summaryから主要な知見を引用します。

・対面状況よりも、一部または全てオンライン学習を受講した学生の方が成績が高い。
・オンラインと対面を組み合わせた教授は、対面だけ、オンラインだけよりも効果が高い。
・オンラインが対面よりも効果が高い理由は、学習時間が延びたからである。
・効果は内容や学習者の特性に依存しない。

—- 引用ここまで —-

注意すべきは、これらの研究報告の元になるデータは、Khan Academyなどの現在のEdTechを用いたものではなく、一時代前の「オンライン教育」を用いた結果だということだ。

現在のEdTechをフル活用した反転授業が、旧来の講義型の授業に比べてどれだけの学習効果を上げるのかを示した報告書を、僕はまだ見たことがない。

だからこそ、Gregory Ferenstein氏の記事にある研究の条件を正確に知りたいのであり、論文の公開を冷静に待ちたいと思う。

 

 

 

 

 

日本で反転授業を成功させるためには

約1年前、反転授業のことを知りました。

そのとき、僕の心をひきつけたのは、アメリカの教育省が、

「E-Learningだけよりも、教室での授業だけよりも、2つをミックスした混合授業のほうが効果が上がる」

という研究結果を発表したという情報でした。

 

ネット予備校を9年間続けてきて、さらなる発展の可能性を探していた僕にとって、「動画講義にに教室でのアクティビティを追加する」ということが、発展への道に見えたのです。

 

そこで、アメリカでの実践例をe-bookで調べたり、Khan Academyの創始者のサルマン・カーンのTED動画を見たりして、Flipped Classroomをどうやって日本に輸入するのかを、あれこれ考えました。

 

一人だけで考えるのではなく、様々な角度からディスカッションしたいと思い、Facebookに「反転授業の研究」というグループを立ち上げ、メンバーを募り、8回にわたって勉強会をしました。

 

メンバーの多くは、E-Learningに関わっていたり、教材開発に関わっていたりしていて、E-Learningの部分については、理解がかなり深まりました。また、SNSやゲーミフィケーションなど、動画講義を組み合わせる概念についても、理解が深まりました。しかし、肝心の教室で何をやるかという部分については、

「アメリカと日本では、いろいろ環境とか背景が違うからねー。そのまま持ち込んでもうまくいかないよねー。」

という感じで、行き詰った感がありました。

 

そこで、一度、勉強会を中断しました。

 

数週間前に、グループワークについて調べていて、アクティブラーニングのことを知りました。

僕が不勉強で知らなかっただけで、ずっと以前から日本でグループワークを実践されている方々がいらっしゃったのです。

アクティブラーニングの普及活動をされている小林先生や、高校で実践されている何人かの先生にお会いしたり、オンラインでお話をうかがったりするうちに、日本で反転授業が成功するとしたら、アクティブラーニングを土台にし、グループワークの時間を確保するための補助として、必要とあればIT技術を使うという方向性がよいのではないかと強く感じるようになりました。

 

iPadなどなかった頃に、プロジェクターを使って最初の10分で簡潔に説明を終え、残り時間をグループワークに充てるなど、現場では様々な工夫がされてきたのです。

それらは、日本の環境を踏まえた上で、工夫して、実践されてきたものです。

アメリカから実践例を学ぶよりも、アクティブラーニングの先生方がどんな実践をされてきたのかを学ぶほうが、直接的に役に立つと思いました。

 

何人かの先生からお話をうかがって、一番大切なのは、教師のスキルの変化だと思いました。

これまでのような「講義スキル」ではなく、教材や学習をオーガナイズしたり、グループワークがうまくいくように運営したりというスキルが必要になると思います。

そして、日本でこれらのスキルを持っているのは、アクティブラーニングを実践している先生方なのではないかと思います。

 

反転授業を日本で成功させるための一番うまくいきそうな方法は、E-Learningの教材作成、または、教材使用のノウハウを学び、さらに、アクティブラーニングの実践例からグループワークを効果的に行うファシリテーションスキルを学ぶという方法のように思います。

E-Learningに9年間取り組んできた僕は、これから、アクティブラーニングについて実践しながら学びたいと思っています。

 

 

カンニング禁止はテストのルールであって勉強のルールではない

小学生時代からペーパーテストに慣らされて育った僕は、

カンニング=不当に点数を取ること

というイメージを強烈に刷り込まれています。

 

テスト開始前に、先生が言う、「机を離して!」という言葉が、今でも耳に残っています。

 

でも、社会に出てみると、他の人の作ったものを分析して参考にするとか、真似をして作ってみるとか、本当に大切なスキルです。

ペーパーテスト以外では、「カンニング=他の人の知恵を盗むこと」は、奨励されるべきことで、そのスキルはなんとしてでも鍛えなくてはならないものだと思います。

 

反転授業では、クラス運営のやり方によっては、教室でグループ学習をすることになります。

各グループに分かれて、相談しながら問題を解いたりします。

アクティブラーニングの小林先生が実践されているグループ学習では、「立ち歩き」ということが奨励されているそうです。

これは、グループ内で相談しても問題が解けなかったら、他のグループの様子を見に行ってよいということです。

これって、言ってみれば「カンニング」ですよね。

カンニングが、堂々と先生によって奨励されているわけです。

 

グループ学習の目的は、グループごとの競争じゃないんです。

その時間に、自分たちが深く内容を理解することが目的です。

問題を解けたかどうかを上から評価されるのではなく、教科書を調べたり、近くの様子を見にいったりして、理解するためにいろんなことをして取り組む・・。

これって、社会に出てから、大人がやっていることじゃないですか。

 

「立ち歩き」のことを知ったとき、グループ学習は、本当に社会に出てから役立つ学習法だと確信しました。

深いな~ グループ学習! って感動しました。

 

感動は、行動の変容をもたらします。

僕のこれからの行動のベクトルが、感動したことをきっかけにグループ学習に向きました。

 

 

 

反転授業と生徒の多様性についての考察

授業形態と学習者の多様性との関係について、非常に詳しい分析記事を見つけましたので、トラックバックしました。

トラックバック元の記事はこちら

 

こちらの記事では、

一斉授業 - 多様性に対応しないがコストが安い

少人数学習 - 多様性に対応できるが、コストが高い

という対立軸を取り、その間に、コストがそれほど高くなく、多様性にある程度対応できる方法として、添削授業やオンライン授業、少人数学習、反転授業を配置しています。

 

コストと多様性のトレードオフで考えるという視点は、私にはなかったのでとても興味深いと思いました。

記事に触発されて、いろいろと考えてみた結果、気づいたことがあったので、それを書きたいと思います。

 

1つは、現状の日本の教育システムの肯定が記事の前提になっているということです。

教育の目標が、「効率的な知識の習得、情報処理能力の獲得」ということであれば、向くべき方向性が決まっていて、「多様性」といった場合、それは、いわゆる「進度の多様性」「レベルの多様性」ということになる場合が多いと思います。

同じ方向を向いているベクトルの長さや位置が違うというようなイメージです。

そして、それらを効率よく伸ばしていくにはどうしたらよいか・・・という発想の中で、オンラインで予習させて、達成度ごとに振り分けてサポートしていくというような授業スタイルも提案されているのだと思います。

 

一方、アクティブラーニングやプロジェクト型学習の場合は、ベクトルの方向性の違いを重要視していると思います。日本の今の教育のあり方を変えていこうというラディカルな試みだと思います。

参考記事

教育改革実践家 藤原和博氏「アイディアを豊かにし、イノベーションを起こすには?~情報編集力による付加価値創造とリーダーシップ」

アクティブラーニング 小林先生「学校パイプライン説」からの一連の記事

 

僕が、これらの授業形式を通してやりたいと思っているのは、多様性を生み出していけるような力を育てることです。

そこでは、多様なメンバーが意見やアイディアを述べ、他人の意見を参考にして、そこにアイディアを受粉していくような活動が期待されています。僕は、ここに、これまで日本でやってきた「知識を効率よく身につける情報処理型の学習」を超える何かを見出したいと思っているのです。

トラックバック元の記事を読んで、なるほどと思ったのと同時に、ちょっと心がもやもやしました。

そのもやもやを明確にしていく中で、考えが整理されてきたように思います。

 

 

 

反転授業事例研究-桑子先生のアクティブラーニングの実践例

反転授業の授業計画を作るときに、一番難しいのは教室で何をやるかだと思います。

考えられるのは、

1)達成度テストを行い、テストの結果別に演習&サポートを行う。

2)アクティブラーニングなどのグループワークを行う。

ということになるでしょうか。

調べてみると、この2つを組み合わせて、基礎的な理解ができていない生徒はサポートし、一定レベルを超えた生徒はグループワークをするという方法を取っているところもあるようです。

1)については、授業の状況をイメージしやすく、スムーズに導入することができると思いますが、動画講義をしっかり作りこむ必要が出てきて教師の負担が大きくなる可能性はあります。

私は、2)に大きな可能性を感じているのですが、グループワークを行うということは、多くの教師にとって未経験のことであり、どんなふうにしてやったらよいのか分からないということが多いと思います。

ですから、実際に実践している先生方が、具体的にやり方や、成功例・失敗例を紹介してくれると非常に参考になります。

物理を教えていらっしゃる桑子先生のサイトでは、アクティブラーニングの実践例が詳しく具体的に紹介されていて、非常に参考になります。

グループワークに取り組んでみようという方は必見のサイトです。

明日から中・高で!アクティブラーニングの実践方法

シミュレーション教育利用オンライン研究会

シミュレーションの教育利用に関心がある方を対象に、オンライン研究会を行いたいと思います。

日時 : 2013年10月19日 22:00-23:30

参加費 : 無料

場所 : WizIQのオンラインルーム (お申し込みいただいた方に、招待URLをお送りします。)

運営 : 田原真人(物理ネット予備校)

内容 :

IT技術の発展により、様々な教育用シミュレーションが開発されています。

シミュレーションを例に取ると、次のように分類できます。

(1)実験装置が固定され、パラメーターだけを操作できる自由度が小さいもの

(2)実験装置を、簡単に設定できる、比較的自由度の大きいもの

(3)プログラミングにより、自ら製作するもの

 

また、授業でのシミュレーションの導入方法としては、次の2つの方法が考えられると思います。

(1)教師がシミュレーションを作成し、映像を生徒に見せ、現象のイメージをつかませる。

(2)生徒が自分でシミュレーションを製作、または、操作し、発見的に学ぶ。

 

このようにシミュレーションの教育利用といっても、さまざまな種類、使い方、スタンスがあり、それぞれの場合においてノウハウがまだ十分に蓄積していない状況です。

このオンライン研究会では、シミュレーションの教育利用を実践している方に実践例を紹介してもらい、それを元に、意見やアイディアを出し合いたいと思います。

ディスカッションの中から、有益なアイディアが生まれてくることを期待しています。

登壇者:

遠藤理平さん 「HTML5がもたらす科学コミュニケーションの可能性」

(プロフィール)

有限会社 FIELD AND NETWORK 代表取締役, 特定非営利活動法人 natural science 代表理事

1978年生まれ。仙台在住。博士(理学)。WEB技術の魅力に取りつかれ大学院在学中の2005年に起業後、独学でWeb関連技術の習得に励む。各種物理現象を仮想3次元空間中で再現する仮想物理実験室の構築を、HTML5を用いて実現することを当面の目標に現在活動中。

遠藤さんのWebサイト→Natural Science

遠藤さんのプレゼンテーション用コンテンツ

遠藤さんの著書

(内容)

1990年、欧州合同素粒子原子核研究機構(CERN)にて研究者同士の文献共有を目的として登場した HTML は、20年の歳月の中で通信技術の進歩とともに、劇的な進化を遂げてきています。2012年に登場した最新版であるHTML5、従来のホームページ記述言語から、アプリケーション開発言語として、飛躍的に活躍の場を広げつつあります。

 HTML5の最大の魅力は、各種実行環境に応じてプログラミング言語やユーザインターフェースを個別に用意する必要があった従来のネイティブアプリケーションに対して、スマートフォン、タブレット型PCなどの様々なデバイス上で、OSの違いをも超えてプログラムが動作するマルチプラットフォームがウェブブラウザを利用することで実現できていることです。
 またHTML5は、グラフィックスが非常に強化された結果、非常に精密でインタラクティブな2次元グラフや3次元グラフィックスを比較的簡単に実装することができ、仮想的な物理実験室をウェブブラウザ内で構築することもできます
 本講演では、昨今の教材のデジタル化の流れに対して、HTML5が物理教育や科学コミュニケーションに対してどのような役割を果たすことができるのかという点についての提案を行います。

三澤信也さん 「物理の授業へのシミュレーション利用の実践例」

(プロフィール)
 長野県伊那北高等学校にて物理を担当しています(物理を教えるようになって7年目です)
 三澤さんのHPはこちら→大学入試攻略の部屋
(内容)
 Interactive Physicsによるシミュレーションを、高校の物理の授業の中でどのように活用しているか、その実践例を報告させていただきます。

坂本保代さん 「楽しくつくろう!簡単シミュレーション」

(プロフィール)
 川崎市麻生区の小中学12校のICT支援員と高校の教員補助、  現在、山野美容芸術短期大学 現代美容福祉専攻1年在学中、稲城市・稲城こども体験塾2013「動く絵本を作ろう」講師 および㈱マイクロブレイン取締役
 坂本さんのWebサイト→ 白板ソフト ひらめきを忘れない
(内容)
簡単に作れるシュミレーションの作成を動画にて説明いたします。
先生は魔法使い?子供達同士の「学びあい」で活用出来れば、学びの選択が広がります。

 

 

オンライン研究会への無料申し込みはこちら

 

 

ワールドカフェと反転授業

反転授業のノウハウは、大きく分けて2つになると思います。

・E-Learning教材の作成ノウハウ

・グループワークのノウハウ

グループワークのノウハウとしては、次のものが参考になると考えています。

・アクティブラーニング

・ワールドカフェ

・ホールシステムアプローチ

アクティブラーニングが教育現場で使われる手法なのに対し、ワールドカフェやホールシステムアプローチは会社や組織などで使われる手法です。

今回は、ワールドカフェについて書いてみたいと思います。

以下の書籍を参考にし、著者の香取一昭さんにスカイプでお話をうかがいました。

 

 

ワールドカフェとは何か? World Cafe.netから引用します。

—- ここから引用 —

「知識や知恵は、機能的な会議室の中で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる『カフェ』のような空間でこそ創発される」という考えに基づいた話し合いの手法です。

□本物のカフェのようにリラックスした雰囲気の中で、テーマに集中した対話を行います。

□自分の意見を否定されず、尊重されるという安全な場で、相手の意見を聞き、つながりを意識しながら自分の意見を伝えることにより生まれる場の一体感を味わえます。

□メンバーの組み合わせを変えながら、4~5人単位の小グループで話し合いを続けることにより、あたかも参加者全員が話し合っているような効果が得られます。

□参加者数は12人から、1,000人以上でも実施可能です。

—- ここまで —-

具体的には、次のような手順で行います。

・模造紙などを貼ったテーブルを用意し、グループに分かれてテーマに沿った自由な会話をします。

・模造紙には、会話に関係することを自由に落書きしていきます。

・決められた時間が来たら、一人(テーブルホスト)を残して、他のグループへ移動しメンバーチェンジします。

・新しいグループでは、最初にテーブルホストが落書きを見ながら、どのような話がされたかを簡単に説明します。

・各メンバーの話や、テーブルの落書きから連想されるアイディアに受粉するように話を続けていきます。

・決められた時間が来たら、一人(テーブルホスト)を残して、再度、他のグループへ移動しメンバーチェンジし、同じことを繰り返します。

・数ラウンドやったあと、元のグループに戻り、再び1ラウンド会話します。

・全体セッションを行い、気づきを共有します。

 

とても印象的だったのは、ワールドカフェをやることで、個人と組織のベクトルが一致して一体感が生まれるということでした。

書籍を読んだり、お話をうかがったりする前は、会話の創造性という部分に興味があったのですが、実際にやられている話をうかがうと、個人間の関係性がよくなり、組織のあり方が変化するということが中心で、組織に整体治療や漢方治療を施すようなイメージに近いと感じました。

企業研修などだけでなく、「運動会を成功させるためには」というようなテーマで、学校のクラスでワールドカフェを行っても面白いかもしれません。

 

今回、ワールドカフェの本を読んで得た気づきは、グループワーク自体にグループの関係性をよくしていく効果があるのかもしれないということでした。

反転授業を導入し、頻繁にグループワークをするようになると、クラスのさまざまなメンバーと会話する機会が増えてくると思います。そのことが、クラスの一体感を生み出したり、関係性の向上につながったりするのではないかと思いました。

実際にグループワークを導入されている先生方に、このことは聞いてみたいと思います。

 

 

反転授業形式のオンラインライブ講義「電気振動・交流ゼミ」

田原です。

2013年8月23日22:00-23:30で、反転授業形式のオンラインライブ講義を行いましたので、ご報告します。

僕の運営している物理ネット予備校では、受講者が全国に分散しているため、リアルの教室に集まることができないため、反転授業を従来の方法で導入することができません。

そこで、リアルの教室の代わりに、WizIQなどのオンラインルームでアクティビティをやっています。

オンライン反転授業を行うための準備としては、次のことを行いました。

(1)受講者は、ThinkBoardで作成した予習動画80分を事前に受講する。

Macやスマホでも見れるように、ThinkBoardファイルをmp4動画に変換し、Youtubeにもアップしておく。

(2)オンラインルームWizIQのライブクラスを作成し、URLを参加者にメールで送り、決められた時間にログインしてもらう。

(3)WizIQのオンラインホワイトボードは、少し書きにくいので、解答などはあらかじめ作っておいて、アップロードしておく。

(4)物理現象の動きを示すシミュレーション動画も作成し、Youtubeにアップしておく。

今回は、物理ネット予備校の有料会員約500名の中から、希望者のみが参加しました。

予習動画のダウンロード数は70ほど。ライブ講義への参加は40名ほどでした。

授業の最初にWizIQのリアルタイムアンケートで「予習動画について」の質問をしたところ、

1)簡単だった 25%

2)難しかった 40%

3)見ていない 35%

という結果になりました。

「難しかった」と「見ていない」とをあわせて75%ほどだったので、アンケートを見て、基本を確認しながら授業を進めていくことにしました。

また、アンケートの結果を全員で共有したことにより、難しいと感じたのが自分以外にもたくさんいたことで安心感を感じたという効果もあったと思います。

WizIQのアンケート機能は、授業中に選択式の問題を出して、理解度を確かめるのにも使え、非常に便利です。

授業では、アイコンを頻繁に使用しました。

分かった : 親指を立てたアイコン

問題を解き終わった : 顔のアイコン

といった感じに決め、説明した後、

「分かりましたか?分かったら、親指のアイコンをお願いします。」

というように言うと、理解度が、その都度、確かめられます。

また、問題出して、

「解き終わったら、顔のアイコンを出してください」

というと、ほとんどの人が解き終わったタイミングで、解答を言うことが出きます。

このようなアイコンの使い方は、やっているうちに自然とルール化されてきたものです。

今回のライブ講義で、試してみたことがあります。

それは、受講者からの質問に私が解答するのではなく、みんなで考えるという試みです。

これは、非常に盛り上がりましたし、講義の後のアンケートでも、このことに言及しているものが多かったので、強い印象を与えたのだと思います。

オンラインでは、なかなかグループワークというものが難しいのですが、部分的にであってもそのような要素を入れていくことは大切だと思いました。

ライブ講義に関する受講者の感想はこちら

 

最後には、YoutubeにUPしておいた電気回路のシミュレーション動画を 、ルーム内に読み込んでみんなで視聴し、計算とイメージとが一致しているのかどうかを確認しました。

最後に映像で見るというのは、ライブ講義を始めてから実践しているものですが、理解を深めるために非常に効果があると思います。

教育に使える物理シミュレーションの情報はこちらにまとめてあります。

 

今回の授業は、予習をしてきていない受講者が35%おり、ある程度レベルを下げて授業をすることになりました。

そのため、予習を完璧にしてきている生徒にとってはもの足りない授業になったという側面もありました。

予習講義の受講率を上げること、受講者のレベルのばらつきに対して配慮することが、今回見つかった課題です。

反転授業とアクティブラーニング

先日、インターネットで検索をしていて、能動的学習(アクティブラーニング)というものの存在を知りました。

これは、生徒が一方的に受身になって授業を受けるのではなく、グループワークなどを中心にして、生徒が積極的に取り組むように授業を行うというものです。

調べているうちに、7年前から物理のアクティブラーニングを実践されてきた小林昭文先生のブログにぶつかりました。

私と同じ物理をどのようにして、アクティブラーニングという方法で教えてきたのか非常に興味がわき、メールを送り、スカイプでお話をうかがいました。

小林先生のお話や、紹介していただいた資料などを読むと、アクティブラーニングと反転授業は、知識の伝達をどのように行うかということのバリエーションの違いに過ぎず、生徒の活動、アウトプットを中心に据えるというコアの部分では同じであることが分かりました。

ですので、小林先生をはじめ、アクティブラーニングを実践されてきた方々の経験は、オンラインで反転授業の実践をはじめたばかりの私にとって、非常に参考になります。

小林先生からいただいた資料の中に、「ほんの数分でもアクティブラーニングの要素を授業に入れると大きな違いが生まれる」というような部分があり、早速、オンライン反転授業に取り入れました。(その結果は次の記事で)

予備校講師として「物理の講義」というものを追及してきた私にとって、アクティブラーニングや反転授業の運営方法は180度、考え方を転換する必要があります。

それは、とてもエキサイティングであり、毎回、さまざまな気づきがあります。

アクティブラーニングについては、引き続き、勉強していきたいと思います。

 

 

反転授業関連の情報収集に役立つハッシュタグ一覧

Twitterのハッシュタグ検索は、海外の情報検索に非常に便利です。

Twitterの検索窓に、#●●● とハッシュタグを打ち込んで検索すれば、ハッシュタグをつけてつぶやいているツィートが出てきます。

僕は、HootSuiteというアプリを使っていて、検索結果のストリームを保存してチェックしています。

反転授業関連で、僕がチェックしているのは、
‪#‎flipped‬ ‪#‎fliplearning‬ ‪#‎Flipclass‬

elearningでは、
‪#‎elearning‬ ‪#‎edtech‬

Twitterは、情報収集に非常に役立つツールです。他にも役立つハッシュタグがあれば、ぜひ、教えてください。

動画講義を簡単に作れるiPadアプリ

反転授業をやる場合には、予習用のeLearning教材が必要になります。

Khan Academyをはじめ、豊富な動画コンテンツがYoutubeにアップされている英語圏の学校とは違い、日本の場合はそのようなインフラがまだまだ少ないです。

※ちなみに、小学生、中学生が使える動画コンテンツライブラリとして、現在、お勧めなのはeboardです。

そのため、日本で反転授業を導入しようとする場合、教師が自分で動画講義を作る必要が出てきます。

しかし、教師の仕事は忙しく、動画講義を作っている時間なんかないという方が多いと思います。

そこで、「いかに短時間で、かんたんに動画講義を作るか」がポイントになってくると思います。

一番簡単な方法は、iPadアプリで動画講義を作る方法です。

反転授業に使われている動画講義作成用のiPadアプリを2つご紹介します。

 

Show me

Educreations Interactive Whiteboard

 

どちらも、iPadで画像をキャプチャーし、それを背景として手書きで文字を書きながら音声を録音するスクリーンキャストソフトです。

音声と手書き文字がリアルタイプで録画されます。

早速インストールして試してみたところ、

画面キャプチャー→講義録画→アップロード

までの流れがスムーズでした。

欠点としては、指を使って文字を書くのが、実際にやってみると結構、書きにくかったです。細かい文字を書くのは難しいと思いました。ただ、iPadで使えるスタイラスペンというものがあるようなので、これを使えば解決できるのかもしれません。

日本人の教師ユーザーが増えてくれば、各アプリの専用サイトで動画講義をシェアすることが出来ますので、自分で作らずに、他の教師が作ったものを選んで使うということも、将来的にはできるようになるかもしれません。

今後に期待です。

教室での支配者から「動画講義+学習環境の整備」へのパラダイムシフト

前の記事で、現状では、塾こそ「反転授業」を取り入れるのに適しているのではないかと書きました。

その背景にあるのは、10年以上の予備校講師としての経験です。

5年くらい経つと、授業の改善サイクルがある程度飽和し、授業自体が、毎年、同じことの繰り返しになってくるのです。

それなら、自分の講義を動画化してしまおうと考えたのが、9年前に物理ネット予備校をスタートしたきっかけの一つでした。

当事、僕は、「生講義」というものに非常にこだわりを持っていて、生徒の心をつかみながら、講義をすることがとても好きでした。

また、自分の生講義についてもある程度の自信がありました。

しかし、実際に動画化してみると、生徒は、僕の講義を等速と2倍速とを組み合わせながら、繰り返し繰り返し聴いていて、1回しか聞けない講義よりも、そっちのほうが効果が高いようなのです。

「オフ会であった受講生からも、「いつも2倍速で聴いているので、等速の先生には違和感があります!」

なんて言われたりしました。

教室で一人だけ自由にしゃべる権利を与えられ、教室の空気を支配するのはある種の快感があります。

でも、それを手放してみると、動画講義でも同じくらい、いや、実はそれ以上の効果を生み出すことが分かりました。

Khan Academyのサルマン・カーン氏も、スカイプで直接教えるよりも、Youtubeの動画のほうがありがたがられたという話をTed動画で話していましたが、その話は、僕にとっては、本当に実感を伴ってよく分かります。

時間の空いた僕は、生徒にとって学習がよりよく進むための環境づくりに時間を作れるようになりました。

このような仕組みを作ったことで、たった一人で、3つのネット予備校を運営し、合計600人以上の受講生を抱えても、それほど忙しくならずにすごすことができ、さらに、受講生の学習効果も十分に上げられるようになったのです。

実際、僕は、1年間に2冊のペースで本を執筆していますが、おそらく通常の運営方法で、講義もサポートもしていたら、とっくの昔に生活がパンクしてしまい、本を執筆するどころではなかったと思います。

動画講義+学習環境を整える

という体制をとり、教育を合理化したことによって、すべてが可能になりました。

最近、僕がはじめたのは、再びリアルタイムを導入することです。

ただし、旧来のように、授業で知識を与えるためにリアルタイム講義をするのではありません。

動画講義で知識を与えておいて、反転授業形式で、しかもオンラインでリアルタイムの講義をするというのが、今年の僕の新しい取り組みです。

明日(8月11日)、そのオンラインのライブ講義がありますので、反転授業に興味のある方は、ぜひ、のぞきにきてください。

 

反転授業形式で行うオンライン・ライブ講義

 

塾のほうが反転授業を導入しやすい!

現在、日本で反転授業を導入している学校は、ごく少数であると思います。

数少ない導入例

近畿大付属高校「反転授業研究会」

 

富谷町立東向陽台小学校の取り組み

その理由は、反転授業を実施するためのインフラを整えるのが難しいからという理由に尽きると思います。

モデル校として選ばれた少数の学校に特別に予算が下り、生徒全員にiPadなどのタブレットが配布され、電子黒板と、iPadの情報を集約して表示するサポートシステムが導入されてはじめて「反転授業」というものが可能になる・・・・・と思われています。

実際、これだけのインフラを揃えるのは大変なので、反転授業を導入できない!ということになるのだと思います。

しかし、塾の場合は、状況がまったく異ります。

特によい先生を確保するのが難しい個人塾などでは、反転授業のほうがはるかに効率的だし、学習効果を上げることができます。

その理由は次のとおりです。

個人塾の場合、たいていの場合、一番講義力があるのは塾長です。

塾長の個性、カリスマ性、キャラクターでなりたっているところも多いと思います。

しかし、塾長は一人しかいないので、塾長が担当できるコマ数によって塾の規模が大きく制約されてしまいます。

そこでどうするかというと、塾長の講義を動画化するのです。

特別な撮影スキルや機材がなくても大丈夫。ScreenCast形式で十分です。

ScreenCastとは、Khan Academyなどでも使われている方法で、先生の顔は画面に登場せず、画面をホワイトボードに見立てて、しゃべりながら手書きでどんどん書いていき、それが音声と一緒に保存され動画になる形式です。

私は、9年前からこの形式を使っていて、数百時間に及ぶ動画講義を作成しています。

動画と違って、自分が映らないので、寝巻きのまま、コタツに座って講義をどんどん作ることができます。

そうやって作った動画講義が、塾長の分身となり、塾生に講義をします。

動画を作るまでは大変ですが、一度作ってしまえば、次の年からは、塾長は自由に使える時間が増えるのです。

その時間を、反転授業に使います。

反転授業であれば、違うレベル、もしかしたら、違う教科の生徒を、同時に見ることもできます。

生徒のレベルに合わせた問題、課題をやらせながら、躓いている生徒をサポートしていけばよいのです。

また、教え子などがアルバイトでサポートしてくれれば、「塾長の動画講義+教え子のアルバイトによる反転授業」という形で十分効果を上げながら回っていくでしょう。

塾長は、塾のマネージメント、塾生のサポートに十分な時間を割けるようになります。

 

「うちの塾には、自宅にPCがない子もいるので・・」

 

と考える経営者の方もいると思いますが、それは、まったく問題ありません。

私は、かつて、地方の塾で反転授業的なやり方で物理を教えたことがありますが、その塾では、自宅にパソコンがない人のためにノートパソコン2台を塾に設置し、予約表を作って交代で受講していました。

今、ノートパソコンなど安価で購入できます。

塾長の時間を節約し、塾の効率を上げるための投資と考えれば、安いものだと思います。

 

いかがでしょうか。

 

この記事を来て、ピンときた方は、ぜひ、ご連絡ください。

より具体的なアドバイスをすることができると思います。

お問い合わせはこちら

 

田原

 

 

 

 

反転授業だと親が学習をサポートできる

「第3回 反転授業の勉強会」のときにディスカッションの中で出てきてはっとさせられたのが、

反転授業だと、親が学習をサポートできる

という点でした。

一般的な復習形式の宿題と違って、動画講義を見て学ぶ宿題は、親子で一緒に見て、必要に応じてアドバイスすることができます。

ノートなどを作るときでも、内容をシェアできているので、作り方などについてアドバイスすることが出来ます。

 

子供の教育を、学校にまかせっきりにするのではなく、親が見につけてきた様々なノウハウを子供に伝授する場を持つことは、非常に重要だと思います。

このようなことは、場合によっては子供の自立心を奪う行為だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、子供の成長を願い、教室で子供が活躍して、自信を持てるようにサポートするという立場をとっていれば、それは、むしろ子供の自立心を高める行為になると僕は思います。

オンラインで完結する反転授業

反転授業研究会の記事「iPad  または iPad mini?」へのトラックバックです。

トラックバック元の記事はこちら

 

物理ネット予備校の田原です。

フィズヨビに反転授業を導入するにあたって、通常の教室に導入する場合との違いがあるなと思いました。

「iPadなどのタブレットを生徒全員が持っている」ということを導入の前提とすると、今の日本の現状では、かなり大きな制約になると思います。

僕の知っているアメリカ系のインターでは、中学生以上は学校側からiPadを支給しているので、そこで反転授業をやっているかどうかは分かりませんが、教師がやりたいと思えば、簡単に実現する土台が出来ています。

フィズヨビの場合は、「ネット予備校」ですから、アクセスしてくれる段階ですでに全員がネットにつながるPCを持っていることが保障されています。

ですので、「全員がタブレットPCを持っている」というような条件に制約されずに済みます。

ただ、高校などと違って、参加者が全国に分散しているため、「教室に集まる」というのが難しいのです。

それを解決するのが、WizIQなどのオンラインルームです。

反転授業を「E-Learning+リアルのハイブリッド授業」と捉えてしまうと、僕のやっていることは反転授業とは呼べなくなるのですが、

「動画講義で予習し、知識をインプット+リアルタイムで集まり、知識をアウトプット」というように捉えれば、すべてをオンラインで完結させることが出来ます。

オンラインルームでは、シミュレーション動画を見せたりすることも簡単ですし、チャットボックスに参加者がどんどん書き込んでくれるため、リアルの教室では見ることが出来ない「生徒の頭の中」をリアルタイムで見ながら、授業を進めていくことが出来ます。

受講者にアウトプットを促すための授業は、これまでの一斉授業とはやり方が根本的に異なるため、現在、試行錯誤中です。

8月11日(日)22:00から「単振動ゼミ」の無料ライブ講義を行います。

シミュレーション動画を使うなど、研究授業の色合いが強い講義になると思います。

ICTを利用した教育に興味のある方にとっては、かなりおもしろい試みだと思います。

ぜひ気軽に見に来てください。

「単振動ゼミ」

 

iTunes UのFlipping classroom

田原です。

1年ほど前に反転授業に興味を持ち、さまざまな角度から情報を入れてきました。

アメリカで実際にどのように取り組んでいるのかを知りたくて、調べた資料の中でとても参考になったのが、iTunesのFlipping classroomです。

当事、僕が知りたかったのは、

教室で何をやるか

ということ。

皆さんが知りたいのも、これではありませんか?

ふだんから講義をされている方からすると、「自宅で予習するための動画教材を作る」というのは、それほど難しくないし、イメージしやすいと思います。

反転授業の肝は、予習して教室に集まったところで何をするかということ。

これは、今までやってこなかったことなので、教師側もなかなかイメージしにくいんです。

このebookを読んで、だいぶ教室でやることがイメージできるようになりました。

簡単に取り入れやすいのは、

(1)理解度別に振り分けて演習をやらせ、教師は見て回って、サポートする。

というやり方だと思います。予習動画+確認問題という形で宿題を出しておいて、確認問題の出来によって3通りくらいのレベル別の演習問題をやらせるということにすると、生徒の理解度に合わせた演習をさせることができるので、適切なチャレンジができるかもしれません。

また、一斉授業をやらなくてすむので、生徒の様子を見て、アドバイスする時間を授業中に作ることが出来ます。

予備校で、授業の次の日に、演習の授業をすることがあったのですが、つまづいている生徒に隣で説明するというやり方は、かゆいところに手が届く感じで、とても効果的でした。

他に、ebookで紹介されていた方法としては、

(2)Challenge Based Learning (CBL)

がありました。これは、日本では、なじみが薄いのですが、欧米の学校や、インターナショナルスクールなどでは「プロジェクト型学習」が普通に行われているという背景があるので、違和感なくできるのだと思います。

方法としては、まず、クラスで1つのチャレンジを決めます。

たとえば、「酸性雨の問題を解決する方法」とか、「駅前の自転車置き場の混雑を解決する方法」とか、そんなやつです。

チャレンジをみんなで投稿するWebサイトも海外には存在します。

チャレンジを決めたら、その問題に関する基礎知識を学び、解決方法をグループでディスカッションします。

この際、基礎知識を学ぶ部分を動画講義で自宅でやってきて、解決方法をディスカッションすることを教室でやるということになると思います。

ここでは、「グループで議論して、解決策を決める」ということが、非常に大きな学びになっているんですね。

日本では、他人と一緒に相談して、問題解決をしていくという、生きていく上で非常に重要なスキルを学校で教わらないという現状があります。

学校で、このような取り組みがなされない理由については、よく分かりませんが、「時間がないから」という理由であれば、動画講義を取り入れることによって時間を捻出することが可能になるので、取り入れる可能性が生まれるかもしれません。

みなさんは、どのように思われますか?

この記事についてのご意見をお待ちしています。

動画講義作成について

反転授業研究会の中西先生のブログへのトラックバックです。

トラックバック先の記事はこちら

 

この記事を読み、今後、動画講義を作ってみたいという方も増えてくると思い、僕がやってきた環境について書こうと思いました。

僕がオンラインで講義配信をはじめたのは2004年です。

あっという間に9年間が過ぎました。

そのころは、ScreenCastという言葉も知らず、講義配信をする方法を試行錯誤していました。

その中で出会ったのが、

ThinkBoard (そのころは、PCレターという名前でした)

物理ネット予備校の講義は、今でもこのソフトを使って製作されています。ソフトはWindows用のものなのですが、動画変換コンバーターがあるので、必要に応じてmp4ファイルに変換して配布しています。

ソフトの使い勝手は非常によく、文字を書くときに字が遅れたり、切れたりしないのでストレスを感じずに講義を作ることができます。

僕の場合は、WacomのIntuos 3というペンタブレットをつなぎ、ヘッドセット(USBタイプ)を接続して、しゃべりながら講義を作成しています。

人によっては、画面に直接各タイプのほうが使いやすいかもしれませんが、慣れてしまえば、ペンタブレットで違和感を感じなくなります。

Intuos 3は、大きいので、持ち歩いて使い方を説明するような場合などは、Bambooシリーズを使っています。こちらでも問題なく使用できます。

 

ThinkBoardの欠点は、動画変換に時間がかかることです。

僕の場合、反転授業用の予習動画ではなく、予備校の授業全体をそのまま講義ファイルとして作成しているので、1講義の長さが60分~120分と日上位長いです。それを変換するときには、やはり60分以上かかることが多いです。

その点、最初から動画で作成してしまえば、変換にかかる時間を短くできるので、手軽に動画作成できると思います。

ただ、一方で、ThinkBoardの使いやすい点は、編集機能が非常に強力だというところです。

講義をモジュール化しておいて、使いまわすこともできます。

ただ、その際、音声レベルにばらつきがあると、講義として聞きにくいことになるので、編集するときにmp3gainというフリーソフトを使って、音声レベルを平滑化するようにしています。

田原

現在の教室・教育で感じている限界や問題点は何か

第2回の「反転授業の勉強会」は、「現在の教室・教育で感じている限界や問題点は何か」というテーマで議論しました。

それについての感想を書きたいと思います。

反転授業の場合、教室での活動に先立って、生徒に予習をしてくることが求められます。

生徒の学習に対するモチベーションにばらつきがあるので、予習してこない生徒が多い場合、この方法は有効に機能するのだろうかという意見がメンバーから多数出ました。

Flipped Class Networkという教師のSNSに投稿されている記事の中にも、「自分のクラスでFlipped Classをやるのは無理だと思う。たぶん予習をしてこないから」というような書き込みもいくつか見られました。

多くの課題が与えられて、それをこなせないということで、逆にモチベーションが下がってしまうというケースもあるかもしれません。

でも、すべてパーフェクトな方法というものはないので、他の方法との比較で、どちらがメリットがあるかと考えることが重要だと思います。

「できる生徒は退屈、できない生徒は十分なサポートがされないという状況で一斉授業が進む」という現状に比べて、「何人かの生徒が予習をしてこないが、多くの生徒は予習をしてきて、教室内で自分にあった活動をすることができる」という状況のほうが好ましいのではないかと思います。

教室で、達成度別に課題を与えたり、グループワークをする場合、予習をしてきた生徒はグループの中で活躍することができ、グループ内で承認欲求が満たされることになるでしょう。これは、学習のモチベーションを高めるし、予習してこない生徒に対しても、準備して参加したいと思わせる方向に働くのではないでしょうか。

反転授業について、

「できる子には導入できるが、できない子には導入できない」

という話になることが多いそうです。

もしかしたら、そうかもしれませんが、クラスのレベルがある程度そろっているのであれば、予習動画のレベルを調整することで対応できそうな気もします。

できる子 → 教室ではディスカッションや、発展的な学習

できない子 → 教室では、個別につまづいているところをサポート

というように、教室の役割は変わってくると思いますが、予習動画と達成度テストを通して、一度、できる箇所とできない箇所を分類すれば、効率よくつまづいているところを教室でサポートできる可能性があると思います。

最初からうまくいかなくても、達成感や、グループ内での承認などを感じられるような仕組みを作り、少しずつモチベーションを高めていくような工夫をしていくことが、ポイントになりそうだと感じました。

 

E-Learning教材に教師の「顔」は必要か

E-Learningのための教材を作る場合、3つの場合があると思う。

1)動画講義

2)ScreenCast(PCの画面を録画したもの)

3)Webプログラム

Webプログラムは、開発に時間と労力がかかりすぎるので、とりあえず、ここでは、考察の対象外とし、動画講義とScreenCastを比較したいと思う。

動画講義形式は、東進衛星予備校や、河合塾マナビスなど大手予備校が採用している形式である。

最初は、予備校の教室での授業をそのまま録画していたが、最近は、生徒のいないスタジオで撮影する場合が多い。

私も河合塾マナビスの講座を担当したことがあるが、3つのカメラが3面の黒板の前に固定されており、それらを切り替えながら撮影していた。動画の撮影技術と編集技術を持った人が必要で、機材の運搬や、スタジオ(教室)の確保などコストはかかるが、教師側としては、普段やっているのとほとんど同じことをやればよいので教材作成にかかる負担は少ない。

一方、ScreenCast形式は、PCにペンタブレットとマイクセットをつないで、机に座って教材を作成することが可能である。Kahn Academyの講義も、この形式で作られている。

私は、物理ネット予備校の全講義をThinkBoardというソフトを使って製作しているが、そのほとんどは、自宅の机に座って作成したものである。講座作成に要するコストと労力はかなり低くなる。

自分の姿が生徒に見えないので、ジェスチャーを使った説明などができなくなるのは少し不便で、普段の授業とまったく同じようにするというわけにはいかないが、背景に問題や図を表示させて、そこに書き込んでいくということができる点は、黒板よりも便利である。これは、問題の解説などのときには、非常に便利だ。

ここまでは、教師側の立場から述べてきたが、講義を使って勉強する生徒側の立場では、どちらがよいのだろうか。

「反転授業の研究」という勉強会では、教師の顔があったほうが、教師に親しみが沸くという意見があった。

誰しも経験があると思うが、先生が嫌いになったり、先生に反感を持ったりすると、その先生が教えている教科を勉強する気がなくなってしまったりすることがある。先生に対してよい印象を持つ、さらには、信頼関係を構築するということは、学習効果を上げる上で重要な要素であろう。

また、ScreenCast形式で講義DVDを作っていたら、「眠くなる」という読者からの意見があったため、講師の顔の動画を丸くくり貫いて表示させるようにしたアルス工房の参考書の例も興味深かった。

乗用車のフロントを顔に似せていることからも分かるように、人間は「顔」を、無意識的に重要なものと見なす傾向がある。顔は注意を引き付ける効果を持つのだ。

では、顔を講義に出していない講座は、生徒の注意を引き付けられないのだろうか。

また、生徒からの共感や好意を受け取ることができず、信頼関係を結ぶことができないのだろうか。

私は、それは、別のもので総合的に補うことができると考えている。

教師のキャラ、価値観などが、情報として十分に示されていて、あらかじめ教師に共感と好意を持っている場合は、講義に顔があるかどうかは問題ではなくなるであろう。

むしろ、その場合は、画面が見やすい、集中しやすい、倍速再生が使えるなど、ScreenCastのメリットが出てくるのではないだろうか。

教育において、生徒と教師との間に好意的な関係性が結ばれることが、教育効果によい影響を与えるのは、おそらく間違いない。

だから、好意的な関係性、信頼関係が結ばれることが重要で、顔は、そのために役立つひとつの要素であるが、不可欠なものではないということではないだろうか。

十分な「共感空間」が構築されている場合は、あえて講義の中に「顔」を持ち込む必要はないが、限定された接触機会の中で共感や好意を得るためには講義中に「顔」を出すことは有効な手段であろう。

(田原真人)

反転授業(Flipped Classroom)の概要

New York Timesは、反転授業(Flipped Classroom)に利用することのできるコンテンツを配布しており、さらに、それを使った学習方法の提案を行っている。

New York Timesの記事をベースに、反転授業(Flipped Classroom)の概要をまとめた。

 

反転授業(Flipped Classroom)とは、

【自宅】 動画やE-Learning教材などの教育コンテンツを用いて学習する。

【教室】 教師のサポートの下で、仲間との共同作業により、発展的学習、練習、研究を行う。

という教育法である。

 

旧来のやり方は、

【教室】 教師が講義を行い、知識を与える。

【自宅】 反復練習などを行う。

というものであり、反転授業が旧来の教育法と違うことは、「教室での学習」と「自宅での学習」の順番をひっくり返してしまったことである。

 

教師は、反転授業のための予習用教材を、動画、podcast、パワーポイントのようなITテクノロジーを用いて自分で作成する場合もあるが、Webから入手できる教材を利用する場合もある。

自分で教材を作るときに役立つサイト

  • Teacher Tube ・・・Youtubeに似た動画投稿サイト。教育系に特化している。
  • Show Me app ・・・ iPadアプリ「ShowMe Interactive Whiteboard」によって簡単にコンテンツを作成し、アップできる。しゃべりながらiPadに手書きで文字を書き込んでいき、それらをすべて保存することができる。
  • voice recording tool ・・・Vocaroo, Audio Pal, Voki などの音声コンテンツ作成サイトが紹介されている
  • Screencastle・・・PCの画面動画を録画し、Webにアップすることができるサイト。「screencast」というキーワードで調べると、同様のツールが出てくる。

既存のコンテンツを利用するのに便利なサイト

  • Vi Hart ・・・ノートへ手書きを動画で撮影しているもの。内容は数学。学校のカリキュラムに沿ったものというよりも、数学の面白さを追求している。英語のスクリプトもあり。運営者は、現在、Khan Academyのスタッフとして働いている。
  • Khan Academy・・・3800以上のビデオがあり、小学生から大学生まで学ぶことが出来る。ビルゲイツ財団が出資している非営利団体で、Khan氏がすべての講義動画を作成している。1つの動画は10~15分くらい。学習の進度や順番が分かるようにシステムが作られており、反転授業に利用しやすいような工夫がされている。
  • Teaching Channel・・・教師が教え方を改善するのに役立つ動画を中心に、数百個アップされている。
  • Youtube EDU・・・Youtubeにアップされている大量の教育系ビデオ講義がまとめられているページ
  • Openculture.com・・・大学が公開している無料講義のまとめサイト。講義をそのまま録画、録音したものが多いため、1つのコンテンツの録画時間が長い。語学系のコンテンツも充実している。

生徒にとってのメリット

  • 自分のペースで勉強できる。
  • いつでも、何度でも復習できる。

教師にとってのメリット

  • 生徒の理解度やスキルにばらつきがあるクラスで教えるときに、個別サポートに時間を使うことができる。
  • 教師の役割が「Sage on the stage (舞台の上の賢人)」から「Guide on the side」へ変化する。
  • 同じ説明を繰り返す代わりに、それをビデオで撮影してしまい、エネルギーを個別指導に当てることができる。

反転授業の運営について、教師間で多くの情報が共有されている。

  • Flipped Classroom

 

スタンフォード大学における反転授業の導入状況

  • 3つのコンピューターサイエンスのクラスをオンラインで受講できるようにした。
  • 最初の4週間で、30万人の生徒が申し込みがあり、講義動画は、100万view、提出された宿題の数は、10万人分
  • この成功から学んだこと
  1. ビデオ講義が、生徒を引き込むこと。
  2. 短いコンテンツのほうが、長い(1時間以上)コンテンツより、集中力が維持できるという点でよいこと。
  3. 才能のある学生は、自分で先へ進むことができるので飽きずにすむこと。
  4. 受動的にビデオを見るだけでは不十分で、練習や宿題を課すことが学習に不可欠であること。(単に評価するだけではなく、考え方を思い出したり、文脈に応じて当てはめたりして、理解を深めることが重要)
  5. テストによって、その単元をマスターした生徒が、教師の指導スケジュールに合わせて足踏みすることなく、先へ進むことができること。

 

参考サイト

Five Way to Flip Classroom with the New York Times

The Flipped Class Network