米ローレンスアカデミー高校マーク先生にインタビュー

2ヶ月ほど前、朝日新聞記者で『ルポMOOC革命』の著者である金成隆一さんからメールをいただきました。

メールには、著書の中で登場する米マサチューセッツ州、ローレンスアカデミー高校で数学とコンピューターサイエンスを教えているマーク先生が、日本でも反転授業が広まりつつあることを喜んでおり、「何か力になれることがあれば協力する」とおっしゃってくれているということでした。

マーク先生の連絡先を教えてもらい、インタビューさせていただくことにしました。

マーク先生が実践家として知られるようになったのは、反転授業のノウハウの詳細を自分のブログで公開し始めたことがきっかけでした。

FlippedMind.com

 

最初の授業ですること

たとえば、最初の日に何をするか?

マーク先生は、最初の日がとても重要だと言います。最初の日のあり方が、クラスのトーンを決定するし、この日に反転授業の概念を理解してもらわなければならないからです。

しかし、協働学習をした経験のない生徒も多く、どのようにして学んだらよいか分かりません。

そこで、生徒を3人ずつのグループに分けて、Rush Hourというゲームをやるのだそうです。

Rush Hourとは、このようなゲームです。

 

マークさんがこのゲームを好きな理由は、様々な難易度を設定でき、生徒がこれまでに解いたことのないような問題に出会うことができるからだそうです。

各グループのうち1人がゲームを解くための戦略を紙に書いていき、残りの二人がゲームをやるのだそうです。

そして、多くの問題に対して一般的に使えそうな戦略を見つけていくのだそうです。

マークさんに、Rush Hourをやる理由をうかがったところ2つあるという回答でした。

・数学的な思考を鍛えられる。

・協働作業をしながら一緒に考えることを経験できる。

今まで一方向的に教師に教わってきた生徒は、「学ぶ」=「教師から教わる」という思い込みがあり、それを「学ぶ」=「仲間と協力しながら自ら学ぶ」というように考え方を変えていくのは時間がかかるとおっしゃっていました。

「どうしてマーク先生は、何も教えてくれないの?」

と不平を言われたこともあると言って笑っていました。

 

動画講義を作る労力をどうするか

反転授業を実施するためには動画講義を作る必要があります。

マーク先生は、数学の教師8人で協力して、分担して動画講義を作ることで、それぞれの負担を減らしているのだそうです。

マーク先生が使っているツールは、Screen-O-Maticというスクリーンキャストソフト。

こんな感じの動画を作っています。

 

動画の長さは10分以内にするように心がけていて、できれば5分程度で作ることを目指しているとか。

現在では200本近くの動画がグループ内にストックされていて、お互いに利用しあっているそうです。

 

反転授業の準備は大変

マーク先生は、生徒中心の学習が授業でうまくいくようにいろいろな工夫をされています。

数学の授業では、一緒に問題を解いたり、プレゼンテーションをしたり、お互いに教えあったり、ゲームをしたりします。

だいたい1-2週間前から準備をするのだそうですが、かなりの時間と労力がかかるのだそうです。

普通に教えたほうが楽だと言っていました。

いつもうまくいくわけじゃないけど、いつも生徒中心の学習にすることにこだわっているそうです。

一番重要なのは、生徒の長所と短所を把握して、そこに必要なものをやることだと言っていました。

 

なぜ、生徒中心の学習にこだわるのか?

マーク先生と話したり、ブログ記事を読んだりすると、何度も 「Student-Centered State of Mind」という言葉が出てきます。

ブログのサブタイトルにもなっています。

マーク先生がなぜ生徒中心の考え方にこだわっているのかを質問してみました。

マーク先生の回答は、「協働学習をすると、一緒に学んだり、創造的に考えたりできる。その結果、人生において本質的なスキルを獲得できるんだ」というものでした。

グループの友達に教えることは、一番よい学び方で、難しい問題に協力しながら夢中になっているのを見るといつも驚かされるよとも言っていました。

このようなことが起こるためには、クラスの雰囲気がとても大事で、雰囲気ができると協働学習がどんどん進むということを強調していました。

 

まずは、1科目、1単元からはじめるべき

これから反転授業を始めようという先生に対するマーク先生のアドバイスは、「1科目、1単元から始めよう」ということ。

反転授業を行うためには、準備もスキルも必要になるので、最初から全部を反転させようと考えずに、小さなことからはじめたほうがよいとおっしゃっていました。

動画の作り方にはいろんなやり方があるけれど、一番シンプルなのは、Screen-O-Maticを使ってスクリーンキャストで講義を作ることだというのがマーク先生の意見。動画講義のクオリティを上げることに熱心になって、10分の動画を作るのに1時間もかけてしまったら授業の準備に時間がかかりすぎてしまうので、とにかくクオリティにはこだわらずに気軽に作ることが大切だとおっしゃっていました。

たしかに、Webで公開されているマーク先生たちのグループの授業動画は、手書き中心のシンプルなもの。

でも、教室でのアクティビティが生徒中心にデザインされていて、ワクワクするものであれば、これで十分機能すると思います。

 

デバイスやWifiの状況は?

日本の高校で反転授業をやろうとすると、必ず話題になるのがインターネット接続環境とデバイスの問題。

マーク先生の高校ではどのようになっているのかをうかがいました。

マーク先生が勤務しているローレンスアカデミー高校は、私立高校で1クラス最大16名までの少人数制の教育がなされています。

公立高校に比べて学費が高いこともあり、比較的裕福な家庭の子どもが通っているため、デバイスを持っていない生徒はいないそうです。

高校生がノートパソコンを学校に持っていくのが当たり前で、学校がWifiフリーなのも当たり前。

逆に、「日本は貧しい国じゃないのに、高校生はノートパソコンを買うことができないのですか?」と質問されました。

日本では、高校での勉強にPCを使うことが前提になっていないので、50%くらいの生徒がPCを持っているかもしれないけれど、それは、学習のためではなくホビーのために使っていると答えると、「え??それじゃ、ノートやレポートやプレゼンテーションの資料はどうやって作るの?」とさらなる質問が。

レポートやプレゼンテーションが課されることは少ないし、普段は紙のノートに手書きで書いていると答えました。

経済的な理由で購入できないわけではないのに、高校生がノートパソコンを持っていないということが、全くの想定外だという様子でした。

それで、経済的にあまり恵まれていない公立高校の状況を説明してくれました。そこでは、家庭にインターネット接続がなかったり、ノートパソコンを持っていなかったりする生徒がいるので、学校に貸し出し用のPCがあり、それを借りてレポートを作成したり、放課後、予習動画を見たりしているとのことでした。

反転授業をやる前に、高校生ならノートパソコンを学校に持っていくのが普通で、日常的にネットで検索したり、レポートを作ったり、パワポ資料を作ったり、学校のLMSにアクセスしたり・・・という前提があり、それらの利用方法の1つとして生徒中心の学習をデザインしたい人が反転授業に取り組んでいるのだということが良くわかりました。

 

ノウハウの共有はオンラインで

マーク先生は、同じ学校の実践者仲間とディスカッションするだけでなく、反転授業の実践者によるSNS「Flipped Learning Network」でもノウハウをシェアしているそうです。

僕も、このSNSに入っていますが、実践者による具体的な取り組みや、悩みが共有されていて、多くの実践者の助けになっています。

日本でも、Facebookグループ「反転授業の研究」に1500名以上が集まり、また、5月から新しく反転授業実践のためのSNS「反転授業の森」が立ち上がります。

これからも、情報交換をしながら、一緒に発展していこうと約束してインタビューを終えました。

スカイプでお話をうかがった時間はトータルで1時間半。

熱くなってしゃべりだすと止まらないマーク先生から、生徒中心の学びに対する情熱をひしひしと感じたインタビューでした。

 

 

反転授業関連の情報収集に役立つハッシュタグ一覧

Twitterのハッシュタグ検索は、海外の情報検索に非常に便利です。

Twitterの検索窓に、#●●● とハッシュタグを打ち込んで検索すれば、ハッシュタグをつけてつぶやいているツィートが出てきます。

僕は、HootSuiteというアプリを使っていて、検索結果のストリームを保存してチェックしています。

反転授業関連で、僕がチェックしているのは、
‪#‎flipped‬ ‪#‎fliplearning‬ ‪#‎Flipclass‬

elearningでは、
‪#‎elearning‬ ‪#‎edtech‬

Twitterは、情報収集に非常に役立つツールです。他にも役立つハッシュタグがあれば、ぜひ、教えてください。

iTunes UのFlipping classroom

田原です。

1年ほど前に反転授業に興味を持ち、さまざまな角度から情報を入れてきました。

アメリカで実際にどのように取り組んでいるのかを知りたくて、調べた資料の中でとても参考になったのが、iTunesのFlipping classroomです。

当事、僕が知りたかったのは、

教室で何をやるか

ということ。

皆さんが知りたいのも、これではありませんか?

ふだんから講義をされている方からすると、「自宅で予習するための動画教材を作る」というのは、それほど難しくないし、イメージしやすいと思います。

反転授業の肝は、予習して教室に集まったところで何をするかということ。

これは、今までやってこなかったことなので、教師側もなかなかイメージしにくいんです。

このebookを読んで、だいぶ教室でやることがイメージできるようになりました。

簡単に取り入れやすいのは、

(1)理解度別に振り分けて演習をやらせ、教師は見て回って、サポートする。

というやり方だと思います。予習動画+確認問題という形で宿題を出しておいて、確認問題の出来によって3通りくらいのレベル別の演習問題をやらせるということにすると、生徒の理解度に合わせた演習をさせることができるので、適切なチャレンジができるかもしれません。

また、一斉授業をやらなくてすむので、生徒の様子を見て、アドバイスする時間を授業中に作ることが出来ます。

予備校で、授業の次の日に、演習の授業をすることがあったのですが、つまづいている生徒に隣で説明するというやり方は、かゆいところに手が届く感じで、とても効果的でした。

他に、ebookで紹介されていた方法としては、

(2)Challenge Based Learning (CBL)

がありました。これは、日本では、なじみが薄いのですが、欧米の学校や、インターナショナルスクールなどでは「プロジェクト型学習」が普通に行われているという背景があるので、違和感なくできるのだと思います。

方法としては、まず、クラスで1つのチャレンジを決めます。

たとえば、「酸性雨の問題を解決する方法」とか、「駅前の自転車置き場の混雑を解決する方法」とか、そんなやつです。

チャレンジをみんなで投稿するWebサイトも海外には存在します。

チャレンジを決めたら、その問題に関する基礎知識を学び、解決方法をグループでディスカッションします。

この際、基礎知識を学ぶ部分を動画講義で自宅でやってきて、解決方法をディスカッションすることを教室でやるということになると思います。

ここでは、「グループで議論して、解決策を決める」ということが、非常に大きな学びになっているんですね。

日本では、他人と一緒に相談して、問題解決をしていくという、生きていく上で非常に重要なスキルを学校で教わらないという現状があります。

学校で、このような取り組みがなされない理由については、よく分かりませんが、「時間がないから」という理由であれば、動画講義を取り入れることによって時間を捻出することが可能になるので、取り入れる可能性が生まれるかもしれません。

みなさんは、どのように思われますか?

この記事についてのご意見をお待ちしています。