動画を作ると人生が変わる(7)~ドラマが起これば未来がやってくる

反転授業の研究の田原真人です。

10年前に動画を作り始めたことで、人生がどのように変わってきたのかを連載しています。

動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた
動画を作ると人生が変わる(2)~理解速度にシンクロさせる
動画を作ると人生が変わる(3)~学習環境を整える人になった
動画を作ると人生が変わる(4)~動かすと理解できる
動画を作ると人生が変わる(5)~コミュニケーションを改善する
動画を作ると人生が変わる(6)~多様性が学びに繋がる仕組み

動画を作りはじめると、生身の自分の存在意義が問われてきます。

自分のやっていたことの多くは、動画で置き換えられる。いや、むしろ、動画にしたほうがよかったりするという状況の中で、生身の自分がやるべきことは何なのかという問いが自然と生まれてくるのです。

「教師の仕事の中で、動画に代替されないことは何なのか?」

動画を作ることは、この本質的な問いを生み出すトリガーになります。

この問いが、あなたを別の次元へと連れて行ってくれます。

動画を作ると人生が変わるのです。

意識を向けると世界が広がっていく

僕は、最近、「意識をどこに向けるか」ということが大事だと考えるようになりました。

意識を向けると、世界のその部分が拡大していくのだということを実感しているからです。

人間は、意識を自分の内部に向けることもできれば、外部の世界に向けることもできます。

 

個人が社会の部品として組み込まれていくのではなく、個人と社会とが、お互いに活きを引き出すような関係になるためにはどうしたらよいかと、ずっと考えているのですが、最近は、個人の意識が、内部世界と外部世界とを循環することが大事なのではないかと思い始めました。

工業化社会の労働者を大量に作り出す教育は、テストによる序列化という仕組みを作り、アメとムチによって生徒の意識を外部世界に向けて来たのではないでしょうか?

大量生産、大量消費の社会は、人々の欲望にアクセスし、人々の意識を外部世界に没頭させてきたのではないでしょうか?

その結果、内部世界がしぼみ、同じような思考パターンを持った人が大量に生み出されるという状況が生まれているのではないかと思います。

そのような教育を受け、そのような社会で育ってきた自分にも、それは当てはまります。

意識を内部世界に向けること、つまり、「自分が、自分について考える」ということは、自己言及的な行為です。

自己言及のサイクルをぐるぐる回すと、差異が増幅されて拡大していきます。

つまり、意識を内部世界に向けていくと、個人が自然と多様化していくのです。

一方で、欲や怖れに対する反射的な反応には個人差はほとんどありません。外部から欲や怖れにアクセスされ、単純な反応を引き出されているうちに、同じインプットに対して、同じアウトプットを返していくような大量の人間が生まれてきます。

これは、人を外から操作するときに使われてきた方法であり、大量生産型の教育や、大衆操作にも利用されてきた方法です。

 

人間の欲望は、本来は、有限のものです。お腹がいっぱいになれば食欲が治まるように、普通は物理的な限界に達して減衰していきます。

しかし、テクノロジーの発展によって、欲望をバーチャルな世界へ移すことができるようになり、欲望を無限にかきたて、意識を常に外部に留めさせることができるようになってきました。

これは、とても大きな危険性を持っているのではないかと思います。

このような時代においては、人間の意識を内側に向けていくことを学ぶことが、かつてないほど重要になってきているのではないでしょうか。

生徒の意識を内部世界へ向け、自ら問いを持って学び、内部世界を拡大していくことを支援することが、現代の教師に求められている役割なのではないでしょうか。

動画を作成することで、教師が新たな役割の重要性に気づき、役割をシフトするのであれば、この連載のタイトルにあるように、「動画を作れば人生が変わる」のです。

教室の壁は、「檻」から「細胞膜」へと変化する

生徒を欲と怖れによって支配する仕組みが発動するためには、例えば、次のような条件が必要です。

1)外部と遮断し、文脈を固定する。

2)アメとムチによって、意識を常に外側に向け、疑問を持たずに競争させる。

教室が、支配の場であるときには、教室の壁は、生徒が逃げられないように閉じ込めておく檻の役割を果たします。

このような問題に気づいた教師たちは、生徒が自ら学ぶための場つくりを始めています。

そのような学びが起こるための条件は、以下のようなものになるかもしれません。

1)外部に開いていて、人も情報も行き交う。

2)問いを持つことが尊重され、お互いの自由な活動が認められる安心安全の場

このような場で、教師が、幅を持った文脈を作ると、生徒たちの活動が生まれてきます。

その活動に対して注意深く観察し、受容し、励ましていくと、活動量が上がっていき、相互の関係性の質も上がり、場を舞台としたドラマが展開するようになり、全体が一つの生き物のようになり、場に<いのち>が創発してきます。

場に<いのち>が生まれると、そこに展開するドラマが、生徒たちに多様な役割を与え、生徒たちの「活き」を引き出していきます。

単純ではない創造的な状況において、各自が何をやったらよいのかを考えることで、生徒の意識は内部と外部とを循環し、外部世界から刺激を受け取りながら、内部世界を拡大していきます。

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このとき、教室の壁は、外部と内部を緩やかに隔て、内部の化学反応の可能性を高める細胞膜のような役割をします。

細胞膜によって囲まれた空間の中で、場の<いのち>も、内部と外部との循環を起こしながら、<いのち>のドラマが展開していくのです。

まずは、私たちから体現していこう

反転授業の研究がスタートした2013年頃、頻繁に話題になっていたことがあります。

それは、

「自分たちが体現していないものは伝えられない」

ということです。

教室に愛を起点とした与贈循環を起こし、場の<いのち>を創発させたいのであれば、まずは、自分たちの学び場に、そのような循環を起こし、その体験から学んでいくことが大切なのではないかと思いました。

こうして、反転授業の研究が主催するオンライン講座が始まったのです。

はじめてから3,4回目のときに、オンラインの場が安心安全の場になり、一体感が生まれました。

バラバラだった「私」が集まり、講座を通して「私たち」というグループが生まれたという実感がありました。

分からないことがあっても、場に助けを求めれば、誰かが助けてくれて進めるようになる互恵互助の関係が生まれ、幸福感が場に満ちるようになりました。

この体験を、次の講座、次の講座へと繋いでいくためにどうしたらよいかと考えた末、運営ボランティアという仕組みが生まれました。

オンライン講座を体験し、場の<いのち>の自己組織化を体験した人たちへ一括メールを送り、希望者は運営ボランティアとして参加できるようにしたのです。

怖れのサイクルが回ると、フリーライダーが大量に出たらどうしようという心配が生まれますが、愛を起点とした循環は、相手を信頼することから生まれるのです。

運営ボランティアという仕組みは、反転授業の研究のオンライン講座の大きな特徴となり、講座を提供する人と消費者という枠組みをぼやけさせ、役割を流動化させ、それぞれが自由に動き出しやすくなる状況を生み出しました。

今回の受講者は、未来の運営ボランティアであり、未来の運営者であり、未来の講師なのです。

そのような学びの循環に迎え入れていくというような気持ちで、オンライン講座の告知を行っています。

運営チームのメンバーは、毎回異なりますが、オンラインの場に生まれる<いのち>は、ずっと継続し続けているのです。

反転授業の森

すでに新しいドラマは始まっている

「iPad/iPhoneを使ったカンタン動画作成」の講座は、ICT教育を広める団体Sensei TIPSと、反転授業の研究とのコラボ講座ということで、プロジェクトがスタートしました。

コラボ講座は、3回目なのですが、運営チームの中にオンライン講座を体験していない人が含まれることや、運営チームの人間関係ができていないところからプロジェクトがスタートするので、非常に難しいところがあります。

しかし、異なる経験を持つ人が入ることで、新しい可能性が産み出されるというメリットもあります。

Zoomでミーティングを行い、運営チームのチームビルディングを進めていたときに、熊本震災が起こりました。

プロジェクトの活動に集中することが難しくなり、一度、活動を中断しました。

1カ月の中断の後、プロジェクトを再開したのですが、約20名の運営チーム自体も自己組織化的なプロセスで動いているので、動き出すまでに時間がかかります。

お互いに思いがうまくかみ合わず、各自が身動きが取れない状況になりました。

プロデューサー役の僕は、この身動きが取れない状況は、どこから生まれているのだろうかということを一晩寝ないで考えた末、場に対しての洞察を述べた15分ほどの動画を作成し、チームで共有しました。

それをきっかけに、各自が想っていることを外に出しはじめ、エネルギーが循環し始めました。

チーム内からいろんなアイディアが出てきて、それを次々に実行していきました。

運営チームの意図が明確になり、各メンバーが意図に沿って自由に動けるようになってきました。

そんな中で、1つのドラマが生まれました。

運営ボランティアとして参加していた川上政嗣さんが、資金面でも運営チームを支援したいという理由で、受講者に回ったのです。

運営チームで学ばせてもらいつつ、受講者として学べないかという提案でした。

川上さんに続いて、跡部弘美さんも、受講者の申し込みをしました。

同じような気持ちで、運営ボランティアに参加してくださっている人がたくさんいることを知りました。

2人の愛を起点とした行動が、運営チームの一体感を高め、講座に学びの渦を巻き起こしていくための核が生まれました。

この行動をきっかけに、運営ボランティアか受講者かの2択以外の選択肢を作ったほうがよいという議論が生まれました。

オンライン講座に受け継がれてきた場の<いのち>は、今回の場にも確かに受け継がれています。

 

未来は誰にも分かりません。

未来が不安定であることを怖れると、大きいものや強いものに頼り、安定を求めたくなります。

周りの行動を縛り、すべてを予定通りに進めたくなります。

しかし、生きているということは、常に不安定なのだということを認めて、不安定なまま、自分の<いのち>を創造の場に注ぎ込んでいくとドラマが生まれます。

このドラマは、参加者に生きがいを与え、予想を超えた素敵な未来をもたらしてくれます。

僕が、先の見えない状況の中でいつもつぶやいているのは、「結果を求めずに、ドラマを起こすことに集中せよ」ということです。

ドラマが起これば、未来がやってくるのです。

すでに、ドラマは始まっています。

あなたも、このドラマに加わりませんか?

申し込みの締め切りは、本日(6月3日)です。

「iPad/iPhoneで作るカンタン動画作成」

 

動画を作ると人生が変わる(6)~多様性が学びに繋がる仕組み

反転授業の研究の田原真人です。

10年前に動画を作り始めたことで、人生がどのように変わってきたのかを連載しています。

動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた
動画を作ると人生が変わる(2)~理解速度にシンクロさせる
動画を作ると人生が変わる(3)~学習環境を整える人になった
動画を作ると人生が変わる(4)~動かすと理解できる
動画を作ると人生が変わる(5)~コミュニケーションを改善する

教師がコントロールしている空間では、生徒は規範に従おうとします。

教師がコントロールを手放すと、はじめて、生徒は自分らしく振る舞うことができるようになります。

各自の自分らしい振る舞いが、自分と仲間の学びにどのように繋がっていくのを理解すると、学びの連鎖や循環が起こりはじめ、ドラマが展開していき、学習コミュニティが生まれていきます。

反転授業の研究のオンライン講座では、いつも上記のようなプロセスが起こるので、それが、自分が運営する物理ネット予備校(フィズヨビ)でも起こせるのか、試してみました。

多様な背景を持った受講者が集まった

5月に物理の学び方を学ぶための2週間の講習会「フィズヨビ講習会(第1期)」を行いました。

受講費は後払いで、受講者が自分が受け取った価値を自分で判断して決めて払うという形式を初めて採用しました。

集まった受講者は、

・東大を目指す高校生

・物理を得意になりたい高校生

・イギリスでインターナショナルバカロレアのコースで学んでいる高校生

・医者を目指している多郎生

・物理を高校で学ばなかった大学生

・働きながら医学部学士編入を目指す人

・医学部再受験のために勉強している社会人

・医学部再受験を目指す看護士

・新しい木造建築スタイルを確立するために大学に入り直そうとしている建築家

・高校時代に物理からドロップアウトしたのでリベンジしたい社会人

・元中学の理科教師

・物理を教える塾講師

・物理を教える高校教師

などなど

物理に対する理解度も、参加の動機も多様な中で、どのような学びを生み出すことができたのでしょうか?

物理の教師である私が何かを教えようと思っても、参加者が多様なので、全員が満足するような講義をすることは不可能です。

ですから、扱う力学の内容について、動画とPDFの資料を用意し、1週間に2問の問題を出し、参加者はそれを解いて写真に撮り、アップロードしていき、お互いにコメントしていくという形式を取りました。

この形式なら、受講者は自分のペースで学ぶことができ、自分の参加目的に応じた行動を取ることができます。

学び方の仕組みを共有したオープニングセッション

オープニングセッションでは、はじめに、私がコルブの経験学習サイクルについて説明しました。

kolb

実践 : まずやってみる

経験 : 何かしらの結果が出る

省察 : 振り返って気づきを得る

概念化 : 気づいたことを言語化して新しい実践に繋げる

一人で勉強していると、実践と経験の間を往復するだけになってしまうことが多いですが、グループで一緒に学び合うことで、他の人の考え方に触れることができ、省察と概念化をやりやすくなります。

実践と経験は、各自がマイペースで行う。

省察と概念化は、それぞれの実践からヒントを得て進める。

このように、個人でやることと、集まってやることとを整理したことで、講習会でやるべきことが明確になりました。

その後、「誰かの理解を助けようとして説明するときに、省察と概念化が起こる」と述べ、「助けを求める行為は、誰かに省察と概念化のチャンスを与えること」になるのだから、どんどん助けを求めていこうと呼びかけました。

そして、この学びのメカニズムをグループ全体が理解したときに、自分たちだけで学び合えるコミュニティが生まれるはずだから、それをゴールに設定しました。

導入として話したことは、こちらです。

ドロップアウトしかけた人たちの気づき

Moodleに問題をセットし、受講者がフォーラムに各自の解答をアップし始めました。

勉強が進んでいる人は、早速、問題の解答を作成してフォーラムにアップしましたが、物理の初心者は、当然ながら簡単にはできません。

毎日のように、メールでマインドセットについての話を送っていましたが、直感的にドロップアウトしかけている人が出ている気がして、急遽、Zoomで、お助けルームを開きました。

集まった人たちは、「できる人ばかりで、自分は間違った場所に来てしまったと思い、このままフェードアウトしようかと思いました」と言っていました。

そこで、どんなことを感じているのかを各自が話し、それを共有し、もう一度、学び合いのプロセスについて話し合い、「分からないを発信することが、自分だけじゃなく、周りにとっても役立つ」ということを確認し合いました。

1日1アクションを目標に、とにかく発信するという声が、受講者の中から出てきました。

1週目の振り返りセッションでは、

「中途半端なものを、中途半端なままで出す」

「途中で分からなくなったら、そこまでのものを出せば、誰かがヒントをくれる」

「不完全なものを出しても大丈夫という安心感が大切」

といった気づきを共有することができました。

ブレークアウトセッションで、コミュニケーションを十分にとったことも、学び合いをするための安心安全の場つくりに役立っていたと思います。

学びが爆発し始めた第2週

2週目に入り、受講者の活動量が一気に上がりました。

ドロップアウトし始めていた人が、不完全な解答を出し始めたことで、場がぐるぐる回り始めました。

教える、教わる、他の人の考えを参考にする、励ます、励まされる、提案する・・・

自分のどんなアクションが、他の人のどんな学びに繋がるのかが、だんだんと見えてきて、それぞれが、よさそうだと思うことを自由にやり始めたのです。

学びが勢いよくグルグルと循環し始めました。

他の人が考えたことにヒントを得て、別の人が図を描いてみる。

それを見た別の人が、さらに、発展させた考察をする。

そんな相乗効果が生まれてきました。

例えば、次のような問題を出しました。

A1

この問題に対して、外力Fを大きくしていったときに、作用線の様子がどのように移り変わっていくのかの考察し、図にまとめて整理する人が現れました。

その様子を見ていて、これをアニメーションで示せたら分かりやすいだろうなぁーと思ったので、先日、住ノ江さんに教わったやり方でKeynoteアニメーションを作り、受講者に示しました。

アニメーションにすると断片的な理解が統合され、理解が一気に深まるんです。

しかも、ちょうどよいタイミングで、ちょうどよいものを出すというのが大きなポイントだと思いました。

十分に疑問が熟しているときに、その疑問に答えるようなものを見せることができたときに、学びが深まるのだと思います。

そのためには、スピード感が大事で、手軽に思った通りのものを作ることができる必要があります。

受講者の反応を見て、ビジュアル教材の使い方をよく理解できました。

感動のフィナーレ

第2週の振り返りセッションは、豊かな収穫の場となりました。

第2週には、あきらかに不連続な変化が多くの受講者に起こりました。

不連続な変化は、「気づくこと」によって起こります。

気づくためのヒントが場に溢れていたからこそ、不連続な変化が起こりやすくなったのです。

そして、そのことをみんなが理解したからこそ、場にエネルギーを一緒に投げ込んでくれた仲間に対する感謝が溢れ、感動的なフィナーレになりました。

ブレークセッションでは、どのルームも笑い声が溢れ、楽しそうに話をしていました。

そして、ここで学んだことを生かして、この仲間で学びを続けていくことを確認し合っていました。

反転授業は「学び方を学ぶ」ためのもので、それがうまく機能すると、教師がいなくても、自分たちだけで学び合える状況になります。

教師にとっては、生徒が独立した学習者になることこそがゴールなのではないでしょうか。

多様な背景を持った参加者が集まり、その多様性が視点の多様さを生み出し、物事を多面的に見て気づくことができる豊かな場を生み出しました。

そして、違いが学び合いのエネルギーになり、多くの不連続な変化が起こりました。そして、みんながエンパワーされて元気になりました。

こんな場を創りたかったんだという実感がありました。

僕の中にも、作りたかった現実を出現させてくれた受講者に対する感謝が溢れました。

僕自身も「助けて」を言う

分かりやすい価値を掲げて、それを販売するというやり方では、このような場は生まれません。

人は、体験したことがないことをイメージするのが難しいのです。

だから、フィズヨビ講習会の価値を伝えることに、僕は、とても苦労しています。

そのことを正直に話し、価値を体験したみなさんの力を貸してほしいと伝えました。

多様性のある場での学びは、各自が受け取るものも様々なので、受講料を自分で決め、まだ、体験したことのない人に価値を伝えるという意図で、講習会に対して感じたことを書いて下さいとお願いしました。

参加者の方からいただいた感想の一部を紹介します。

◆hk246さん

学校ではできない理想的な学びができた、これに尽きます。年代や理解度、目指すものなど、置かれた環境がばらばらな人たちが集まって共に勉強し、助け合うことのできる場はそうそうないと思います。

分かる人が分かっていない人に教え、またみんなで同じ問題について「学び合い」をすることで共に理解が深まり、全体がレベルアップすることができているのだと感じました。

また、雰囲気もとても良かったため問題を解いてアップするだけでなく、質問したり答えたりし易かったです。

このような学習ができればと思っていたので、今回の講習はとても楽しく有意義なものとなりました。次回も参加させていただきたいと思います。ありがとうございました!

◆寺本さん

力学の理解が深まりました。質問をしたり、質問に答えたり、他の方の答案をみたり、他の方の議論を読んだりすることで、理解が深まったように感じます。

◆マッスルきたむらさん

建築関係の仕事をしている社会人のものです。

高校の時に物理は完全に落第し、物理からは目を背けて生きてきました。しかしながら、業界の構造自体も、新築から維持管理の時代へと変わって来はじめ、物理(特に力学)とは無縁ではいられなくなってきました。

そこで、今回一念発起し、物理の苦手意識をなんとかしたいという思いで、フィズヨビ講習会に参加しました。

しかしながら、勢いで参加はしてみたものの、参加メンバーが大学受験希望の方や物理の先生という強者ばかりでした。初回の時点で、「失敗した。場違いだった。」と思い、2回目からは不参加のつもりでいました。

しかし、2回目の前日に、ふと前回の動画を見なおしてみたら、「この講習会は、参加者が多様でバラバラあればあるほどサイクルが回りますよ」というメッセージがあり、「ひょっとしたら、自分の落第体験や引っかかっているところを共有できたらメッセージの意図がわかるかもしれない」と思い直し、しぶしぶながら参加しました。

参加してこの話を共有したら、「その気持ちや考え方わかる」と、とても暖かく受容してもらったことで、とても楽しくセッションを終えることができ、いつの間にか、物理の問題に向き合っている自分がいました。

それからは、少しずつ自分の不完全な解答をアップし、参加者のみなさんにフォローしてもらうことで、また次に進めるという好循環が生じました。

こうして3回目の直前になんとか、1題が完答できたことで、「もうこれで物理とも向き合える」という自信ができあがり、とても楽しい状態で終えることができました。

今後も、この繋がりが維持できる仕組みになっているので、挫折することがあっても助けてもらえるという安心感がこの講習会でできあがっていました。

とても画期的な講習会で、今はワクワク感でいっぱいです。ありがとうございました!

今後も、この講習会がさらに大きく進化していくを願っております。

「反転授業の研究」と「自分の場」を往復する

今回のフィズヨビ講習会を成功させることができたのは、「反転授業の研究」のオンライン講座の体験があったからです。

そこで様々なチャレンジを重ねながら学んできたことを生かし、さらに発展させてフィズヨビ講習会を実施しました。

僕だけでなく、多くの人が、「反転授業の研究」での学びを、各自が作っている学び場へ生かして発展させています。

そして、その体験を、「反転授業の研究」が運営するオンライン講座に持ち寄ってくれることにより、さらに進化しています。

各自が実践と経験を積み重ね、オンライン講座に集まって省察と概念化をすることで、お互いに気づきを深め合い、成長しているのです。

ここでも、個人での学びと、集まっての学びとの間の循環が生まれているのです。

信頼関係で繋がり、学び合うことのできる仲間は、何物にも代えがたいほど貴重なものです。

6月に実施するオンライン講座「iPad/iPhoneで作るカンタン動画作成」でも、多くのドラマが起こることでしょう。

僕達は、この学び合いの循環の中に、多くの人たちを誘うことができたらと思っています。

今回、新たな学びの仲間と出会うことができるのを心から楽しみにしています。

「iPad/iPhoneで作るカンタン動画作成」(6月3日申し込み締め切り)

動画を作ると人生が変わる(5)~コミュニケーションを改善する

反転授業の研究の田原真人です。

10年前に動画を作り始めたことで、人生がどのように変わってきたのかを連載しています。

動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた
動画を作ると人生が変わる(2)~理解速度にシンクロさせる
動画を作ると人生が変わる(3)~学習環境を整える人になった
動画を作ると人生が変わる(4)~動かすと理解できる

反転授業やアクティブラーニングに取り組むようになり、

一人だけがずっと話していて、他の人が黙っている

という状況って、不自然だなと感じるようになりました。

どうしてこの状況が生まれるかというと、教師の頭の中に知が局在しているからです。

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教師一人が話し、生徒が黙って聞いているときは、生徒のほうが教師の話す速さに理解の速さを合わせなければなりません。

10%くらいの生徒は、分かり切ったことを繰り返すのに飽き飽きしているかもしれませんね。

30%くらいの生徒は、教師が進むペースが速すぎてついていけなくなっているかもしれません。

このようなことが起こることを防ぐために、生徒をレベル別にクラス分けしたり、できる生徒が先へ進みすぎることを制限したりすることもあります。

このような問題は、教師が一方的に知識を教えるという方法が創り出しているものです。

では次に、動画を使って、教師の頭の中をコピーして増殖させてみましょう。すると、こんな感じになります。

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生徒は、それぞれ自分の理解度のペースに合わせて学ぶことができるようになります。

他の人に説明しようとすると、理解が深まり、学習定着率が高くなるので、教師は、学び合いが起こるような組み合わせを見つけて繋いでいきます。

話をしているのは教師だけでなく、生徒も教師も、同じように、必要に応じて話をしながら学んでいきます。

このような学び方の場合、生徒のレベルの違いや、理解の方法の違いは、問題になりません。

違いは学び合いのエネルギーになるからです。

教師の役割は、自分の中の分からなさや、中途半端さを表現して助けを求められるように、生徒のマインドセットを整えていくことになります。

動画は、関係性を良くしていくことに役立つ

教師が一方的に話し、生徒は動かずに聞いているという空間には、ある種の権力が働いています。

そのような権力は、信頼関係を築いていこうとするときにマイナスに働くのではないでしょうか。

呼吸をするときには、息を吸ったり、吐いたりをバランスよく繰り返します。息を吸ってばかりでは苦しくなります。

コミュニケーションも同じで、聴いたり、話したりをバランスよく繰り返すのが、一番楽で自然なのではないかと思います。

動画を使うと、そのような自然なコミュニケーションを通して学んでいく環境を作ることができるのです。

 

2015年に反転授業の産みの親であるジョナサン・バーグマンさんにインタビューを行いました。

彼が言っていたことで、とても印象的な言葉がありました。

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それは、私がバーグマン氏に、「今の活動のゴールはどこにあるのか」と質問したときの返事でした。

私は、ゴールがあるかって分かりません。ただ、一つだけシンプルなゴールがあります。子どもたちは、このやり方で本当に学ぶことができるということです。それと、このやり方は、先生と子どもたちの関係をよくします。もし、ゴールがあるとすれば、人々の関係をよくしたいということです。生徒と先生、生徒同士、先生同士。他にゴールはないと思います。

一方的な関係性には歪みがあります。

動画を使うと、コミュニケーションを改善し、教師や生徒の関係性を改善しながら、よく学んでいける環境を作ることができる可能性が生まれます。

私は、ここに大きな可能性を感じています。

 

 

動画を作ると人生が変わる(4)~動かすと理解できる

反転授業の研究の田原真人です。

10年前に動画を作り始めたことで、人生がどのように変わってきたのかを連載しています。

動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた
動画を作ると人生が変わる(2)~理解速度にシンクロさせる
動画を作ると人生が変わる(3)~学習環境を整える人になった

講義動画を作り、受講生がマイペースで学べる環境づくりを進めていくうちに、自分を取り巻く環境に変化が生まれました。

様々なソフトが販売されるようになり、動画を作る方法にバリエーションが生まれてきました。

ThinkBoardは、「リアルでやっている授業をバーチャルでもできる」ソフトなんです。

でも、もしかしたら、リアルではできなかったような学びをバーチャルならできるのではないかと思い始めました。

物理シミュレーションを動画にする

最初に考えたのは、物理実験をオンラインでやれないかということでした。

Youtubeに「物理エンジンで●●してみた」という動画シリーズが上がっていて、すごく興味深かったのです。

こういう仮説を立てて検証するような学びをするために物理エンジンを使えないかと考え、様々な可能性を探りました。

スウェーデンの教育ソフトであるPhunやAlgodooなどで、物理の問題集に出てくるような設定を再現してみようとしたりしました。

しかし、「軽くて伸びない糸」が、これらのソフトにはないためうまくいきませんでした。

さらに探していくうちに、アメリカの会社が作っているInteractive Physicsというソフトに出会いました。

これは、なかなかの優れもので、運動している物質のv-tグラフを同時に示すことができたり、リアルタイムで変化する速度や力をベクトルで表示できたり、重心から見た光景を表示できたりします。

つまり、リアルの実験では見えないものまで見えるようにしてくれるのです。

リアルの実験の臨場感にはかないませんが、リアルではできないことができるのが物理シミュレーションだと思いました。

ここにも、リアルの代替ではないバーチャルがあったのです。

これはすごいと思い、アメリカの会社に問い合わせ、日本からも購入できるようにしてもらいました。→ Interactive Physics

自著『日本一詳しい物理基礎・物理の解き方』に含まれている力学の問題設定をすべてInteractive Physicsで作り、読者が運動をイメージで捉えやすくしました。

シミュレーションをやってみると、問題設定にない状況が再現されるので、物理現象の全体像が見えてきます。

力学以外のシミュレーションも使いたいと思って調べたところ、コロラド大学がPhET Interactive SimulationsというWebサイトを作っていて、そこに大量のシミュレーションがあり、無料で使用できることが分かりました。

特に電気回路のシミュレーションは優れもので、自由に回路を組み立て、コンデンサーやコイルにどのように電流が流れるのかを見ることができるのです。

説明がしにくかったことを、電気回路のシミュレーションを組み立て、それをカムタジアスタジオなどのスクリーンキャストソフトで録画して動画にして説明すると、一発で理解してくれました。また、リンク先を紹介して、自分でも回路を組み立てて学ぶように勧めました。

動かすことで分かりやすくなるのは物理だけじゃない

2015年に「パソコンで作る!カンタン動画作成」というオンライン講座を実施しました。

そこに30名以上が集まり、白板ソフトでアニメーションを作り、カムタジアスタジオで録画するという方法で動きのある動画を作成しました。

その体験は、僕にとって衝撃でした。

物理や数学の概念獲得に「動き」が役立つのはイメージできていたのです。

しかし、ありとあらゆる科目で、「動き」が理解に役立つのだということを体験し、それまでの常識が崩壊しました。

例えば、これは、講座を受講した内橋朋子さんが作成した古典の敬語を説明する動画です。

教師の工夫次第で、いろいろな分野で「分かりやすさ」を改善できるのだということに気づきました。

また、一度作成してしまえば、生徒がいつでも視聴することができるようになるので、「敬語については、この動画を見てごらん」と指示することで、その場で対面で説明する時間がなくても、生徒の理解を助けることができるようになるのです。

思考の制約が外れる

動く教材を作成するようになり、今まで、黒板やホワイトボードに手書きで書いて授業をするという制約に、思考も制約されていたことに気づきました。

道具が変われば、アイディアも次々と湧いてきます。

アイディアが湧いてきたときに、簡単にそれを形にできる方法を知っていて、そのときに10分くらいの作業で動画を作っていくようにすると、いつの間にか積み重なっていき、1年もすれば、生徒の理解を助けるライブラリができあがり、そのライブラリは、教師の分身として休まずに働いてくれる心強い味方になります。

動く教材を作ってみると、言葉で説明しても理解できなかったのに、視覚的に説明するとすぐに理解できる生徒が存在することにも気づくようになります。

それを見て、今までの授業は、言語的な理解が強い生徒に有利で、視覚的な理解が優位な生徒には不利だったのかもしれないと思うようにもなりました。

動く教材を作って動画化することで、様々な個性を持った生徒が、自分に合った学び方を選択することができるようになればと思います。

動く教材を作る方法は、いろいろありますので、いくつかの方法を試してみて、自分にとってやりやすい方法を確立するのがお勧めです。

長く続けるコツは、隙間時間にカンタンに作れること。

日常生活の中に、上手に動画作成の時間を組み込んでみてください。

 

 

動画を作ると人生が変わる(3)~学習環境を整える人になった

反転授業の研究の田原真人です。

10年前に動画を作り始めたことで、人生がどのように変わってきたのかを連載しています。

動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた

動画を作ると人生が変わる(2)~理解速度にシンクロさせる

動画講義が、「リアルの代替ではないバーチャル」であり、受講者が倍速再生や一時停止を使いながら、自分の理解のペースに合わせて動画で学んでいるのを見て、2008年頃には、僕のマインドは大きくシフトしました。

動画で学べるのであれば、教師が同じ授業を繰り返すよりも、動画でいいじゃないかと思ったのです。

僕は、教室で教えるのがとても好きで、生徒たちの注目を浴びて「教師を演じる」ことに快感を感じていましたが、それは、今後、動画に置き換わっていくことになるのだということを実感したのです。

そして、次の時代の教師の役割は、学習環境を整えることになると思いました。

通常、生徒が学んでいく流れは、次のようなものだと思います。

(Step 1) 教師の授業を聴き、内容を理解する。

(Step 2)   問題を解き、理解度を確かめる。

(Step 3)  分からないことがあれば、教師に質問する。

(Step 4)  繰り返し練習して定着させる。

このような学んでいく流れの中の、どこをITによって代替可能なのだろうかということを考えるようになりました。

そして、もしかしたら、代替以上のプラスの効果を生み出す方法はないだろうかと考えたのです。

教える仕事をしている人なら、誰もが感じていることだと思いますが、生徒から来る質問の多くは同じものです。

それは、ある意味、自分の教え方の分かりにくさを反映しているものなので、それをフィードバックとして、教師は説明の仕方を改善しているのだと思います。

でも、誰にでも分かりやすい説明というものは存在しないし、すべてを「説明の改善」で解決できるわけではありません。

だから、「講義動画」+「Q&A」という組み合わせで学べるようにしたらどうかなと思ったのです。

Q&Aと講義動画を紐づけておいて、分からないことがあれば、その講義に関連付けられているQ&Aを読んで、それで解決しなかったらQ&Aに新規投稿して回答してもらう。

このようにすれば、効率よく学べる学習環境が整えられると思ったのです。

この試みは、結構、うまくいって、今、学んでいる受講生は、「動画講義+10年分のQ&A」という学習環境で学んでいます。

自分では疑問に感じなかったことを、他の人の質問を読むことで気がつくことができ、理解が深まるという体験が語られています。

10年前の受講生の質問が、今、学んでいる人の役に立ったりしているのです。

断片的な情報が、適切に蓄積され、使えるように配置されることで、全体として価値を持ってくるという側面に気づくことができました。

動画を作り始めたことで、自己イメージを教師から、学習環境を整える人へシフトすることができたのです。

 

 

動画を作ると人生が変わる(2)~理解速度にシンクロさせる

田原です。

10年前に動画を作り始めたことで、人生がどのように変わってきたのかを連載しています。

動画を作ると人生が変わる(1)はこちら

予備校講師だった僕にとって、講義は、ノウハウのすべてを詰め込んだ「商品」でした。

生徒の関心を惹きつけ、笑わせ、楽しませ、理解させ、問題を解けるようにし、成績を上げるという物理の講義。

その商品を売ることによって対価を得ていたのです。

講義のすべてを動画にしたときに、実は、半信半疑でした。

生の空間だからこそ、自分の講義は光を放つことができるのではないか。

動画にすると、講義のパワーが半減してしまうのではないか。

そんなことを思ったのです。

しかし、PCレターの開発者の三上さんとのやり取りから、今まで考えたこともなかった新しい可能性を感じることができ、動画にすることに対して気持ちがポジティブになりました。

リアルの代替じゃないバーチャルを目指す

PCレター(現在のThinkBoard)を開発したのは、北海道の浦河町という小さい街に住み、電気屋を営む三上博正さん。

不便な田舎に住んでいても、都会に負けない教育を受けられるようにしたいということでPCレターを開発したのです。

その三上さんがこだわっていたのが、

リアルの代替じゃないバーチャル

という言葉でした。

三上さんは、「リアルが一番いいのだけど、仕方がないからバーチャルで!」という扱いが、たぶん我慢ならなかったのだと思います。

リアルとバーチャルは別物。

臨場感ではリアルには叶わないかもしれないが、別の部分でリアルよりも優れた部分を作れば、リアルの代替じゃないバーチャルを作れる。

それが、三上さんの信念でした。

そして、それを象徴する機能が、倍速再生でした。

僕は、倍速再生には、最初は懐疑的でした。

自分の講義は、話す速さとか、間合いとか、そういうものも考えて作っていると思っていたので、それが、ピヨピヨと倍速再生されるのが嫌だったのです。

だから、最初は、倍速再生可能に設定していませんでした。

でも、三上さんの信念に押されて、渋々、倍速再生可能な講義ファイルを作りました。

受講者の反応は、僕の予想を裏切るものでした。

ほぼすべての受講者が、倍速再生で講義を視聴し始めたのです。

受講者は、次のような動画視聴法を編み出しました。

1)最初から2倍速で通して見て、全体像を把握する。

2)2度目も2倍速で視聴し、分からないところは等速に戻し、一時停止したり、繰り返して再生したりする。

3)3度目は、4倍速で視聴し、例題などの前で止めて、紙に書いてやってみる。

こんな感じで勉強すると、90分の動画講義であっても集中力が途切れずに、どんどん学べるというのです。

「リアルの代替でないバーチャル」は、確かに存在するということを実感しました。

その年、受講者とのオフ会に出席すると、参加者から「田原先生のしゃべりが遅く感じる。2倍速じゃない田原先生には違和感がある」と言われました。それほど、倍速再生が与えたインパクトは大きいものでした。

理解の速度と再生速度をシンクロさせる

僕の動画講義は、予備校の90分の授業をそのまま動画にしたので、90分~120分と長いです。

その後、「長い動画は集中力が持たないから、長くても15分までにしたほうがよい」ということが言われるようになりました。

それも一理ありますが、知識が細切れになってしまうデメリットもあります。

90分間で、部分と全体とが響きあって理解が深まる構成というものもあったりするので、長い動画には、長い動画なりのメリットもあります。

そもそも、なぜ、集中力が15分しか持たないのでしょうか?

面白い本なら1時間でも2時間でも読みふけることができるのに、動画だと15分で集中力が切れるのはなぜなんでしょうか?

ということを考えていて気がついたことがあります。

動画の速度が、理解の速度よりも早い → ついていけないのでストレスを感じる。

動画の速度が、理解の速度よりも遅い → まどろっこしくなって飽きてしまう。

対面だと、話している速度と、理解の速度にずれがあっても、結構、耐えられるんだと思います。

でも、動画だと、耐えられる幅が小さくなるので、15分くらいが限界・・・・・。

ということなんじゃないかなと考えています。

しかし、もし、動画の再生速度を自分で自由に変更できて、自分の理解の速度に合わせることができたら、ストレスを感じることなく動画講義を受講できるようになります。これが、フィズヨビ生に起こっていることです。

動画の再生速度と、理解速度とをシンクロさせることが、とても重要なのです。

そして、そのようにして学ぶことができる動画講義は、リアルの講義の代替ではなく、新しい価値を生み出しているのです。

 

 

動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた

反転授業の研究の田原真人です。

オンライン講座の運営チームでやり取りをしている中で出てきたのが、

「動画が作れるようになると人生が変わる」

という言葉でした。

一瞬、「人生が変わるは、大げさだろう!」と思ったのですが、僕自身の人生が大きくシフトしたきっかけが、10年前に動画が作れるようになったことでしたので、自分が、どのように動画作成に関わってきて、それによって、どのように人生が変化してきたのかを振り返りつつ、連載していきたいと思います。

様々な種類の動画を作成してきましたので、いろいろな動画の作り方のメリットやデメリットを比較し、みなさんが自分に合った作り方を見つけるためのガイドにもなればと思います。

予備校の物理の授業をネット配信

今から11年前の2005年4月。

当時、河合塾で物理を教えていた僕は、自分の物理講義をネットで配信できないかなと考えました。

その理由は2つ。

・自分が改善を重ねてきた教え方を、もっと多くの人に知ってもらいたい

・ずっと同じことを繰り返し授業をしているのだから、動画でいいのではないかと思った。

予備校では、50-70人ほどの教室で、一斉講義型の授業をしていましたが、ある程度、教え方が固まってくると、同じ授業を繰り返すことになるのです。あるとき、まるで自分が授業を行う機械であるかのような錯覚を覚えました。

まずは、受講してくれる人がいるのかどうかを知りたいと思い、まぐまぐから『たのしい≪たとえ話≫で直感的に分かる物理の考え方』というメールマガジンを発行しました。

このメールマガジンが、大好評で、最終的には3500人ほどの読者を獲得し、まぐまぐで殿堂入りのメルマガとなりました。

そこでは、このようなたとえ話を配信していました。

>>究極の「先割れスプーン」探し

それまで教室の中で話していたことをアレンジしてメールマガジンで配信していた結果、大きな反響があり、物理をネットで勉強したい人がたくさんいて、その目的も多様なのだということに驚きました。

それで、メルマガ読者向けに物理講義をネット配信することにしました。

でも、当時は、iPadもなかったし、簡単に講義動画を作ることができるツールがなかったんです。

それで、ひたすら自分が授業で話している内容をテキストに打ち込み、図を挿入し、Latexで組版してPDFファイルにして配布しました。

>>第2講 運動方程式

このようなものを、全範囲について合計50講作りました。

1つの講義を作るのに要する時間は、4-6時間。

朝から夜まで予備校で授業をしていましたので、PDF講義を作成する時間は、主に深夜でした。

先に受講料をいただいて、毎週配信ということに決めたので、50週間に渡り、睡眠不足の日々が続きました。

仕事を終えて家に戻ってくると11時。ちょっと休んで12時から3時までPDF講義作成・・・。

そういう日が、週に何度もありました。

30代の体力が余っている時期だったからこそできたことですね。

この講義で学んで、成績がすごく上がったという高校生や、受験生が出てきました。

東大に合格した人も出てきました。

受講者からのフィードバックがたくさん届くので、それに励まされて、なんとか50週間やりぬきました。

今までは、教室で教えなければならないと思っていた自分の思い込みが崩壊し、工夫次第でオンラインで学べる環境を作ることができることに気づきました。

動画講義との出会い

PDF講義を20講くらいまで作ったときに、受講生の方から、

「田原先生、このソフトで講義を作ったらどうでしょうか?」

と勧められたのが、PCレター(現在はThinkBoard)というソフトでした。

教えてもらったWebサイトを訪問してサンプル講義を見てみると、PCの画面をホワイトボード代わりにして、教師が音声で説明しながら手書きの文字を書き込んでいきます。

今でこそ、カーンアカデミーなどでおなじみとなった形式ですが、2005年当時は、そのようなものを見たことがなかったので、興奮しました。

これを使えば、PDF講義ではなく、予備校でやっている講義をそのまま配信できると思ったのです。

それで、PDF講義の受講者に相談しました。

「PDF講義から、PCレター講義に切り替えるのはどうでしょうか?」

PDFに比べて、PCレターのほうが情報量も表現力も圧倒的に上なので、喜んで賛成してくれると思ったのですが、

「PDFファイルを印刷して、電車の中で読みながら勉強しているので、パソコンでしか見れないPCレターだと困ります。」

「私はMacなので、PCレターが見れないので、PDF講義のほうがよいです。」

というような声が返ってきて、結局、50講分を最後まで作り終えてからPCレター講義を作ることにしました。

PDF講義の場合は、予備校の90分の授業の内容を半分くらいに減らして作成していたのですが、完成までにかかる時間は4-6時間。

ところが、PCレターの場合は、講義でしゃべるのと同じことをどんどん話しながら、黒板に書くのと同じようにペンタブレットで画面に書いていけばよいので、90分講義を作成するのに要する時間が120分くらいです。

作業光景は、こんな感じ。

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作った講義動画は、このようなものです。

※ThinkBoard形式をmp4に変換し、youtubeにアップロードしてあります。

このやり方に変えて、講義作成に要する時間が、大幅に減りました。

それから何年間も、キャリーバックにノートPCとタブレットを入れ、宿泊先のビジネスホテルで、夜、動画講義を作り続ける毎日を送りました。

当時、僕以外に、毎晩毎晩、動画講義を作っている人は世界中にもほとんどいなかったと思います。

サルマン・カーン氏がカーンアカデミーを始めるのよりも前でしたから。

このようにして、予備校講師として一番脂が乗っている時期の講義を、すべて動画講義として保存することができました。

フィズヨビの受講生はどんどん増え、毎年400名ほどが、僕の動画講義で物理を学んでくれるようになりました。

動画が自分の分身として働いてくれるようになり、自由な時間が生まれたことで、生身の自分は、次のステップへ進むことができるようになりました。

動画講義作成が、僕の人生を大きく変えたのです。

しかし、それは、同時に別のジレンマを生み出すことになりました。

(2)へ続く

 

 

動画講義で学ぶ方法(6)~知識ではなく学び方を教える~

「反転授業の研究」の田原真人です。

はじめてインターネットに触ったことを今でもはっきり覚えています。

大学4年生のときに研究室で先輩がインターネットというものがあるということを教えてくれて、MOSAICという今は存在しないブラウザで大学のホームページにアクセスしました。

研究室の研究案内などを読みながら、すごい時代になったんだなと思いました。

でも、そのとき、自分がその20年後に、サーバー上に動画講義をアップロードして配信するネット予備校を運営したり、Web会議室システムを使ったダイアログをやったり、Youtubeを使って学ぶ方法をアドバイスしたり・・・そんなことをするなんて、全く予想できませんでした。

当時は、Youtubeも、Web会議室システムも存在していませんでしたから、予想することは不可能です。

今から20年後は、どんな社会になっているのでしょうか?
 
20年前に現在の社会の様子を予想できなかったように、これから20年後を予想することは非常に難しいです。

量子コンピューターや、人工知能、再生医療などに革新的な進歩があって、社会の様子が大きく変化してしまうかもしれません。

今、10歳の子どもが30歳になったときの社会を予想できない状況で、子どもたちに何を教えていったらよいのでしょうか?

社会の変化が小さいのであれば、その社会に対する「成功マニュアル」を作り、それを身につけさせていくということも有効かもしれません。

しかし、様々な知識があっという間に陳腐化してしまう変化の大きな時代には、「成功マニュアル」もすぐに使い物にならなくなってしまいます。

また、情報はどんどん増える一方なので、学校で教えられるのは、それらのほんの一部ということになります。

学校を出ても、各自が自分で学び続けることが必要になってくるのです。

魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教える

という考え方が重要になってくるのだと思います。

学び方を教えることの可能性

インターナショナルスクールに通うS君の数学のサポートをし始めてしばらくたったとき、別の友人から相談を受けました。

IBカリキュラムのインターナショナルに通っている高校3年生の息子のFが、化学が苦手で困っている。イギリスの大学の医学部に行かせたいので、なんとかしたいんだけど、どうしたらよいか分からないので、助けてほしい。

IBカリキュラムの化学は、ギブスの自由エネルギーやエンタルピーなども登場し、日本の高校化学の範囲を超えた内容を含んでいて難しいです。

スケジュールの関係で月に1度くらいしかサポートできないという条件でしたが、「自分で学べるようにする」ということをサポートできるかもしれないと思い、引き受けました。

最初にF君に状況を聞くと、

化学の先生の授業が分かりにくくてついていけない。質問に行ったら、それは教科書に書いてあると言われて回答してもらえなかった。

IBカリキュラムの化学を教えてくれる塾の先生や、家庭教師の先生を見つけることが難しい。

とのこと。

それで、どうやってこの課題を解決しようと思っているのかを質問すると、

I don’t know.

という返事が。

それで、まずはじめに、IBカリキュラムの化学の動画講義をYoutubeにアップロードしている先生がいるかどうか、Youtubeで検索するところから始めました。すると、幸運なことに、すべての内容をアップしている先生を発見!

F君に、「Youtubeにアップしているような先生は、やる気のある先生ばかりだから、分かりやすく説明してくれる可能性が高いよ。」と伝え、Moodleに「IB Chemistry」というコースを作り、その先生の講義を並べていきました。

自分で学べる環境を作ったことで、F君は動画を見ながら勉強を進められるようになりました。

1か月に1度のセッションで、F君は僕に動画を見ても分からないところを質問します。たいていの場合、僕も分かりません。それで、いっしょにYoutubeを使って検索します。

光合成の反応が複雑すぎて覚えられない。→ アニメーションと歌で光合成のプロセスを説明している動画を発見!

有機化学の反応で電子がどのように遷移するのか分からない。→ 電子の遷移を詳しく説明しているインド人教師の動画を発見!

といったように、探していくと、たいてい何かを見つけることができるものです。

そして、一緒に探した後に、「今日は一緒にやったけど、F君一人でもできるよね。」と言うようにしていました。

それまでは、音楽やスポーツを見ることだけに使っていたYoutubeが問題解決のために使えることに気づき、F君は、次第に自分だけでも学べるようになってきました。

1か月に1度しかサポートできないということで、知識を教えることをあきらめ、学び方を教えることに集中した結果、「化学を分かりやすく教えてくれる先生がいない」と思っていたのが、「世界中の化学の先生に教えてもらえる」ことに気づいたのです。

魚を与えることができないから、魚の獲り方を教えることにしたのです。

21世紀型スキルを教えられるのか?

変化の激しい21世紀を生きるのに必要なスキルとして、21世紀型スキルというものが言われています。

国際団体である「21世紀型スキル効果測定プロジェクト」(ACT21s)は、21世紀型スキルを次の4つのカテゴリーに分類しています。

(1)思考の方法……創造性と革新性、批判的思考・問題解決・意思決定、学習能力・メタ認知
(2)仕事の方法……コミュニケーション、コラボレーション(チームワーク)
(3)学習ツール……情報リテラシー、ICT(情報通信技術)リテラシー
(4)社会生活……市民性(地域および地球規模)、生活と職業、個人的責任および社会的責任(文化的差異の認識および受容能力を含む)

子どもたちには、このようなスキルを身につけていってほしい。しかし、ここに大きな問題があります。

それを伝える大人は、20世紀型の教育を受け、20世紀型の工業化社会の中にどっぷりとつかって生きてきたわけです。

僕自身、団塊ジュニア世代ですから、受験競争の一番激しかった時代に学生時代を過ごし、その後、予備校講師として仕事をしてきたため、チームでコラボレーションをするような機会はほとんどありませんでした。異文化と接する機会もほとんど持たずに40代へ突入しました。

21世紀型スキルを身につけていない大人が、21世紀型スキルを子どもたちに身につけさせることができるのだろうか?

「反転授業の研究」を初めて、しばらくたったときに、このような疑問が湧いてきました。

そこで、

まず、自分たちがICTを学習ツールとして使い、オンラインでコラボレーションをし、主体的な学びについての集合知を創造的に獲得するということに挑戦しようではないかというビジョンが生まれてきました。
 
自分たちが21世紀型の社会を体当たりで体験して、そこで得た気づきを、それぞれの現場に反映していこうではないかということになってきたのです。

動画講義だけでも、全く新しいものですから、気がついていない可能性がたくさんあると思います。それを、自分たちで試行錯誤しながら気づきを深め、言語化し、共有してナレッジ化していくプロセスは、僕たちが今まであまり経験してこなかったものです。

FacebookなどのSNSは、人と人とを結び付け、多くのコラボレーションを生み出しています。

5月9日から「反転授業の研究」が実施するオンライン講座の運営チームは13名。その中には、リアルの場で会ったことのない人もいます。

オンラインでのやり取りの中で、信頼関係を築き、チームとして協力して講座を運営しています。

これは、21世紀の仕事の仕方を体現しているものかもしれません。

自分たちが、そういうことにチャレンジすることで、確信を持って子どもたちに21世紀の生き方を伝えられるようになるのではないかと思っています。

動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~
動画講義で学ぶ方法(6)~知識ではなく学び方を教える~

動画講義の作り方を学ぶオンライン講座

動画講義を作成することに興味のある方は、「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」というオンライン講座を2015年5月9日から4週間で実施しますのでこちらをご覧ください。(申し込み締め切り5月7日。定員30名)

動画講義の作り方、動画講義作成に必須な著作権の知識をオンラインワークショップ形式で学びます。

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動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~

「反転授業の研究」の田原真人です。

インターネットが登場し、Googleなどの検索エンジンが誕生したことで、僕たちの知的活動は大きく変化しました。

かつては分からないことがあれば、本を調べたり、辞書を調べたりしていたのが、今は、検索エンジンにキーワードを打ち込む人が多いと思います。これを可能にしているのは、大量の情報がインターネット上にアップされ、その情報が常に更新され続けているという状況です。

「知りたい」という欲求があれば、知識はいくらでも手に入る時代になりました。

また、インターネットは、英語を学ぶ意味を根底から変えました。

インターネットにおける使用言語分布をご覧ください。
 
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こちらのデータを使用しました。

インターネットにおける日本語の使用人口1.10億人に対して、英語の使用人口は8.01億人とほぼ8倍。しかも、日本語の使用者の多くが日本人なのに対して英語の使用者の国籍は多様です。

ある事柄を調べるときに、日本語で検索するのに比べて、英語だと8倍の量を持った多様なソースから調べることができます。

世界の英語使用者の割合は、今後さらに増えていきますので、この違いはさらに拡大していくはずです。

英語のインターネット世界ですでに起こっていること

 
インターネットが「学び」をどのように変えるのか?
 
その近未来を垣間見る経験がありました。

2012年頃、

「日本語だけで情報を入れていてはまずい!」
 
「英語を道具として使えるようになろう!」

と思い、ラングエッジエクスチェンジンジを始めました。14カ国、20人の語学パートナーを作り、英語と日本語を使ってスカイプでいろんなことを話しました。その中で出会った一人が当時18歳のエイン・アネさんでした。

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彼女は、自分をKnowledge Hunterと呼び、貪欲に知識を吸収していました。僕は河合塾で予備校講師を10年以上していたので、東大理3に現役合格するような、いわゆる「優秀な生徒」を見慣れていたのですが、それとは明らかに異質な存在。自分から体当たりで学んでいく勢いがものすごくて、本当にびっくりしました。

エインさんについては、こちらの連載をご覧ください。

彼女は、イギリスの有名なプライベートスクールに通っていたのですが、学校の窮屈さに耐えられなくなり13歳のときに校長室に行き、「学校を辞める」と宣言して学校を辞め、14歳から自分の力で生きています。
 
分からないことがあれば、インターネットで調べ、Khan Academyはほとんどの授業をやり終え、Courseraやedxの授業で学び、自分が学びたいことを自分で次々に学び、体得していきます。

僕が、「こういう面白いものがあるんだよ。」と話すと、「Oh, Exciting!!!」と言って、質問しまくり、次の週までにはいろんなことを調べて、あっという間に詳しくなっているという感じ。
 
また、彼女が「こういう面白いものがあるんだよ!」と教えてくれるものは、ほとんど僕が知らないことばかり。彼女を通して世界がどんどん広がっていきました。

エインさんの存在は、知識が一部で占有されている時代は終わり、知りたいという気持ちがあればいくらでも知ることができる時代がすでに到来しているということを僕に実感させてくれました。

知りたいという気持ちがあれば、本当にいくらでも学べるのだということが、腹落ちしたのです。

アートの才能に恵まれた彼女が、自分にとっての学びとはどんなものかを映像で表現したのがこちらです。

日本語よりも8倍の広さを持つ「英語のインターネット世界」は、知りたいという気持ちに対して十分に答えてくれるだけの広さを持っています。

そこから、エインさんのような人が、これから次々と生まれてくるはずです。

「教える」からキュレーション&コーチングへ

英語の使用人口は、日本語の8倍ですし、英語圏ではインターネットの教育利用が盛んですので、すでに大量の講義動画がYoutubeなどにアップロードされています。
 
講義動画に貼った広告費で生活している教育Youtuberと呼ばれる人たちもいます。

それが成り立つだけのマーケットがすでに出来上がっているのです。

昨年、知り合いのイギリス人からインターナショナルスクールに通う中学3年生の息子のSに数学を教えてくれないかと頼まれました。
 
僕の英語力は、日常のコミュニケーションはできても、数学の講義をできるレベルではないので断ろうかと思いましたが、次のような考えが頭に浮かびました。

英語であれば、Youtubeにありとあらゆる分野の数学の講義動画がアップされているのだから、自分で教える必要はないんじゃないか。

S君に合った動画を選んでコースを作り、それを利用して学べるようにサポートすれば、勉強をサポートできるんじゃないか。

この仮説を確かめたいと思い、週に1度のセッションがスタートしました。

S君のためにMoodleをサーバーにインストールし、そこにAdditional Mathのコースを作りました。そして、シラバスを見て、Youtubeのビデオの中から、分かりやすい動画をピックアップして並べていきました。

1回のセッションは90分間。S君は、僕の隣でノートパソコンで動画を見て、練習問題のところで一時停止して紙に問題を解き、分からないところは僕に質問するようにしました。

しかし、これが、なかなかうまくいきませんでした。

S君が、セッションの時間以外に、自分から動画を見ようとしなかったのです。

数学があまり好きじゃなく、やりたくなかったのです。

この状況で、数学を教えることを続けても、数学ができるようにならないと思いました。そこで、90分のうちの最初の60分を数学、残りの30分をマインドセットに働きかける時間にしました。
 
S君の好きなプロダクトデザインの歴史を一緒に調べたり、有名な会社のロゴの歴史について学んだり、いっしょに楽しみながら学ぶところから始めました。S君はプロダクトデザインについてはすごい情熱を持っていて、好きなことならいくらでも打ち込めるという長所があったので、それをうまく生かせないか、いろんな試行錯誤をしました。

アーティストのスギオカさんや、マスラボの古山さんとスカイプで繋いで英語で対話したり、Wifiの電波を強めるために空き缶で反射板を作ることができるというのを知り、放物線と焦点の関係を説明していっしょに設計図を書いたりもしました。

U理論について動画を見せ、なぜ無駄に見えることをやらなくちゃいけないのかという話もしました。

S君は、だんだんと最後の30分間を楽しみにするようになり、「今日は、何をやるの?」とワクワクした顔で聞いてくるようになりました。

そんなある日、お母さんから、「Sが、自分から友達を誘って一緒に勉強するようになった。これは、今までになかったことです。」という報告が来ました。ちょっとずつ、マインドセットが変わってきているのを感じました。

しかし、ここからが本番でした。S君は、基礎の部分に抜けているところがたくさんあり、ちょっとやったくらいでは点数に反映しない状況でした。

たとえば平方完成とか因数分解とかができないので、微分して最大値や最小値を求めることが出来なかったのです。

サルマン・カーン氏が言っている「スイスチーズのように穴が開いた状態」になっていたのです。

そこで、そういう基礎の部分を補完する動画をYoutubeで探してきて、復習ができるようんなコースを作りました。そして、1つずつ穴を埋めていきました。そうすることで、だんだんと自力で解けるようになってきました。

ここで、S君の行動に大きな変化が生まれました。メールで僕にビデオを追加してくれるように頼むようになったのです。

僕は喜んでビデオを追加していきました。

そして、ついに、苦手分野だった三角関数の章末問題の10問すべてを自力で解けるようになりました。

このときは、むちゃくちゃ褒めました。そして、一番苦手だった分野で全問正解できるということは、全分野をマスターできるはずだから頑張れと励ましました。

質問の質が明らかに変わってきました。

「二項定理の章末問題にあれば、二項定理を使えばいいと分かるけど、テストだとどれを使えばいいか分からないんだけど、どうしたらいい?」

解法選択についての質問が来るというのは、かなり力がついてきた証拠です。

完全に上昇気流に乗りました。

この実験的な取り組みは、ちょっとだけ未来を先取りしている試みだと思います。

英語圏にはすでに十分な量の動画講義があるから、「教える」という行為は動画に任せることができます。

その代り、

・その生徒に必要な動画を選んで並べるキュレーション
・その生徒が自分で学べるようにするコーチング

にエネルギーを注ぐことができます。

エインさんのように自ら学ぶ力が強力な人はよいですが、自ら学ぶ意欲が十分でない場合、うまくそれを引き出してあげる必要が出てきます。

そして、それは、サルマン・カーン氏が言うように、とても人間的な活動なのです。

日本語のコンテンツは、まだ、そこまで揃っていませんから、多くの教師が動画講義を作ってアップロードしている段階ですが、すでに、僕がやっているのと同じような試みもあります。

eboardや、ふるやまんの算数塾、とある男が授業をしてみた、などの動画を使って娘さんの学習サポートをしている小川浩司さんは、フルタイムで仕事をしながら、娘さんに学習の指示を出してサポートしています。

今後は、日本語のコンテンツが増えてきて、可能性が広がっていくのと同時に、英語で学べるだけの力をつけて、英語の学習コンテンツを利用していくという選択をする人も出てくると思います。
 
動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~

動画講義の作り方を学ぶオンライン講座

動画講義を作成することに興味のある方は、「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」というオンライン講座を2015年5月9日から4週間で実施しますのでこちらをご覧ください。(申し込み締め切り5月7日。定員30名)

動画講義の作り方、動画講義作成に必須な著作権の知識をオンラインワークショップ形式で学びます。

doga-side 

動画講義で学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~

「反転授業の研究」の田原真人です。
 
反転授業に関わるようになってからしばらくたち、インストラクショナルデザインを学んでいたときに「キャロルの時間モデル」というものに出会いました。
 

キャロルの時間モデル

すべての学習者は、その人にとって必要とされる時間をかければ、すべての学習課題を達成できる。

J・B・キャロルは、知能(IQ)による個人差の固定概念に対して異を唱え、個人差を「学習に必要な時間と学習に使った時間の差」と捉えました。彼は、学校教育における学力の差というものが、「一定の授業時間内に学び終えなくてはならない」という制約によって生み出されているのではないかと考えたのです。

学習課題をやり終えるのにかかる時間には多様性があるのに、授業時間は全員均一で一定。
 
このミスマッチによって、学べない状況が生み出されているのではないかという指摘には、目から鱗が何枚も落ちました。
 
では、このミスマッチはどこから来ているのでしょうか?
 
極端な話をすれば、生徒30人に対して教師が30人いれば、このミスマッチは起こらないわけです。
 
それぞれの生徒が、自分のペースで学ぶことができ、それぞれが学び終えるのに必要な時間をかけて学習課題を達成することができます。

では、なぜ、生徒30人に対して教師が30人いないかというと、それは、生徒30人に対して教師30人の人件費を出すだけのお金を捻出するのが難しいからです。簡単に言うとコストの問題なわけです。

しかし、「生徒30人に対して教師が30人いれば、すべての生徒が学習課題を達成できるのではないか」と考えることは、とても有効です。なぜなら、課題を達成する方法が1つ見つかれば、あとは、ICTなどを利用してコストを下げ、費用対効果のバランスの中で実現可能な方法を探すことができるようになるからです。

カーン・アカデミーが示したこと

僕が動画講義を作って配信し始めたときに感じたことは、

「これは、自分の分身だ」

ということでした。

孫悟空が頭の毛を抜いて息を吹きかけて分身を解き放つかのように、僕が作った講義が、僕の分身としてインターネット回線を通って各家庭を訪問し、それぞれの受講者の理解のペースに合わせて何回でも繰り返し授業をするというイメージが湧いたのです。

これは、いわば、30名の生徒に30人の生徒がついて、それぞれのペースに合わせて学習指導しているかのようです。
 
Khan Academyのサルマン・カーン氏は、動画講義によって、低コストで学習者の多様性に対応できるようになることに気づきました。
 
次のビデオをご覧ください。

Khan Academyの中には、ビデオと練習問題からなるコースがあって、ビデオを見て理解したら、練習問題を解いていきます。
 
練習問題は大量に用意されていて、3-5問連続で正解したら、そのテーマを理解したと見なされてクリアできるようになっています。何回でも気楽に間違えることができ、間違いを繰り返しながら完全にマスターするまで学び続けることができます。分からなければヒントを見ることができ、解説ビデオをもう一度見直すこともできます。

カーン氏は、動画講義の利点として、

教師からのプレッシャーを感じることなく、リラックスした気持ちで、好きなように再生、停止、繰り返しをしながら学ぶことができる。

という点を挙げています。

一斉講義型の授業では、教壇から教師だけが話し、生徒はその話を黙って聞くことが求められます。それは、いわば、生徒の自由な行動を教師が権威などによって押さえつけている空間なのです。カーン氏は、これを非人間的だと言っています。

一方、反転授業にすると、生徒は自宅で教師からのプレッシャー感じることなくリラックスして楽しみながら動画講義で学び、教室でもグループワークなどでコミュニケーションを取りながら学ぶことができます。
 
カーン氏は、反転授業によって、教室を人間的な空間にすることができると言っています。

生徒が主体的に学ぶためには、教師が生徒を管理して押さえつけないようにする必要があります。しかし、一斉講義型の授業は、生徒が黙って話を聞くという態度をすることを前提として成り立つものです。動画講義を導入することによって、教師は生徒を押さえつけなくても良くなり、生徒の主体性を促しやすい環境を作りやすくなるのです。

カーン氏は、決められた時間で授業が進んでいくという従来の学び方に対して興味深い指摘をしています。

従来の教室では、宿題があり、宿題、授業、宿題、授業、それに小テストがあります。理解できたのが70%だろうと、80%だろうと、90%だろうと、95%だろうと、授業は先へと進められます。95%が理解したとしても5%の人はどうなるのでしょう?

0乗が何になるのか知らなくとも、それを基礎とした次の概念を学ぶのです。

自転車の乗り方をそんな風に覚えるとしたらどうでしょう?

はじめに乗り方の説明をして、それから2週間ほど自転車で実習させ、その2週間が終わったら言うのです。

「チェックするぞ。左折に難があるな。きちんと止まれないようだ。君は自転車乗りとしては80点だ。」

そして大きな「可」のスタンプを額に押すと、「じゃあ、次は一輪車だ」と言うのです。

各単元を完全にマスターせずに次の単元に行くと、基礎の部分に抜けている部分がたくさん出てきます。しかし、時間で区切って次へ進むような従来の学び方だと、どうしてもそうならざるを得ないわけです。

また、間違えながら学ぶことの重要性についても、次のように述べています。

私たちのやり方では、数学も自転車と同じように学びます。自転車に乗っては転び、乗りこなせるようになるまで必要なだけ続けます。従来的なモデルでは、実験して失敗したら罰を与えられますが、それは上達への道ではありません。私たちは実験すること、失敗することを勧めています。そしてマスターできると信じてます。

ここには、キャロルの時間モデルにも通じる学習者への信頼があります。

失敗を繰り返すことができ、必要なだけ学ぶことのできる安心・安全な環境を与えれば、学習者は必ず課題に到達できるという信念があります。

カーン氏が示す個別化学習の学習データのグラフは、キャロルの時間モデルの正しさを示しているように見えます。

マイペースの学習というのは、みんなに有用なものです。教育用語では、個別化学習と呼んでいますが、実際教室でやるとすごいものがあります。私たちがこれをやるたびにどの教室でも見られるのは、5日もすると競って上がっていく子どもたちと、もっと遅い子どもたちに分かれます。今までは、ある時点で評価をして、「この子はできる子だ、この子はできない子だ」と言っていました。「別々に扱うべきかもしれない、クラスを分けたほうがいいかも。」でも自分のペースでやらせると、これは何度も目にしていることなのですが、最初のいくつかの課題を学ぶときに時間のかかっていた子どもたちが、それを理解した後、急に上昇を始めるのです。6週間前にはできない子だと思っていた子が、今やできる子になっているのです。そういうことは、なんどもあります。私たちが恩恵を受けている肩書のどれ程が、実際は、偶然にもたらされたものかと思います。

動画講義と、何回でも繰り返せる練習の場を作り出すことができれば、30人の生徒に一人の教師であっても、一人一人の生徒がマイペースで学ぶことが可能になります。そのときに、教師の役割は、生徒の学習状況を把握し、つまづいているところに対して適切なサポートをしていくことになります。

30人の生徒に対して30人の教師がつかなくても、学習を改善できる可能性が見えてきたのです。

カーン・アカデミーは、動画講義がもたらす可能性の1つの例を具体的に見せてくれました。ここには、教育の未来に対するヒントが隠されていると思います。

 
動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~
 

動画講義の作り方を学ぶオンライン講座

動画講義を作成することに興味のある方は、「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」というオンライン講座を2015年5月9日から4週間で実施しますのでこちらをご覧ください。(申し込み締め切り5月7日。定員30名)

動画講義の作り方、動画講義作成に必須な著作権の知識をオンラインワークショップ形式で学びます。

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動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~

「反転授業の研究」の田原真人です。

伝統的な一斉講義型の授業風景を思い浮かべてみましょう。

教師が教壇に立ち、説明しながら黒板に文字や図を書いていますね。

生徒は、それをノートに書き写しています。

生徒にとっては、教師の説明を聞き、黒板に書いてあることを書き写すというのが、長い間、授業を受けるということだったと思います。

動画講義で学ぶようになると、授業を受けるということは、どのように変化するのでしょうか?

記録するためのノートは必要ない

教室でノートを取るのはなぜでしょうか?

一度きりしか受けることのできない授業を書き留める「記録」がノートの一番大きな役割だったと思います。

しかし、動画講義の場合は、何回でも視聴することができるので記録する必要はありません。

学習時間の中で、記録するための時間を取らなくても良くなると、勉強の仕方はどのように変化するのでしょうか?

このことは、僕の運営しているネット予備校、フィズヨビで何度も話題になりました。

「ノートを作るのに時間がかかり、60分の授業を終えるのに3-4時間かかってしまう」ということに悩んでいる受講生に対して、他の受講生からいろいろなアドバイスがありました。

「ノートを作るよりも2倍速で何度も繰り返し見たほうが理解が深まるので、自分はノートを作っていない」

「例題のところで一時停止して、いらない紙に計算して解けるかどうかやってみてから、動画を再生して計算プロセスが同じかどうかを確認しているけど、計算した紙を保存したりとかはしていない。」

「動画講義の要所要所をスクリーンショットを撮って印刷しておいて、そこに、先生の話していることで重要なポイントなどを書き込んで保存しておき、時間があるときに見直している。」

「節の見出しとキーワードをメモしておいて、それを手掛かりに紙に授業を再現していく。再現できないところは、理解していなかったり、覚えていなかったりするところなので、もう一度動画を見て確認し、その後、もう一度、動画を見ないで再現できるかどうかやってみる。」

この他にも、様々なやり方があると思います。

ここに挙げたのは、受講生のそれぞれが、自分なりに工夫したやり方です。

それぞれに個性があるので、ある人にとって良いやり方が、別の人にとってもよいとは限りません。ですので、それぞれが、自分なりに工夫すればよいと思います。

しかし、工夫するときに、考えるべき重要なポイントがあります。

「書き写す」と「アウトプット」の違いは何か?

ここで、テーマになっているのは、「書き写す」と「アウトプット」の違いなのではないかと思います。

この違いは、インプットした情報を、どの程度、自分の頭の中を通して、他の記憶と結び付けたり、再構成したりするなどの加工をしてアウトプットしたかによるものだと思います。

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理解の速い生徒は、授業時間内に教師の話を聞いて理解し、自分の頭で考えてノートを作ります。このようにして作ったノートは「書き写し」ではなく「アウトプット」に近くなります。必要に応じて気づいたことや、重要なポイントなども書き込まれ、その生徒の理解を反映したものになります。

 

しかし、理解の遅い生徒は、授業時間内に理解することが出来ず、しかたなく、黒板をそのまま書き写します。

もちろん、理解の速さだけでなく、学習態度、意欲なども関係してきますので一概には言えません。

 

授業で理解できなかった生徒は、自宅に戻って、教科書と、意味も分からずに書き写したノートを手掛かりにアウトプットを試みるのですが、理系科目ではこの作業が失敗に終わることが多々あります。
 
動画講義を使うと、このプロセスを大きく改善できます。
 
まず、2倍速などでどんどんインプットだけを行います。納得いかない場合は、納得できるまで繰り返します。

 

次に、動画を見ないでアウトプットします。動画の中に出てくる例題を解いたり、式変形を再現したりしてみます。最初からうまくいかないこともあるでしょう。見て分かったと思うことと、自分でできることとは違うことに気づくと思います。

 

再現できないところがあれば、再び、その箇所の動画を見て理解し、再度、動画を見ないで再現できるかどうか挑戦します。

 

ポイントは、

 

見ながら書くという行為をしないようにすること。

動画講義があることで、授業を記録する(=見ながら書く)ことをする必要がないのです。

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見るときは見る。書くときは書く。この行為を分けることで、動画を見るときの集中力を高め、アウトプットに負荷をかけることができます。

アウトプットする量をどの程度で区切るのか、アウトプットのためのヒントをどの程度自分に与えるのかといったことを調整することで、自分自身でアウトプットの負荷を調整することもできます。

 

このように、動画があることによって、脳への負荷が大きいアウトプットを中心に据えて学習することができ、学習効果を上げやすくなるのです。

アウトプットを中心に据えると、インプットのときに「この後、これを自力で再現するんだ!」と思いながら視聴するので、集中力も高まります。学習によい循環が生まれやすくなるのです。
 
動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
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動画講義の作り方を学ぶオンライン講座

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動画講義を使った実践者が20-30名集まることで、多くのノウハウのシェアが行われると思います。

それによって、動画講義を使った学びに対する理解もさらに深まっていくと思います。

「リアルの代替でないバーチャル」の探求は、まだまだ続きます。

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動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~

「反転授業の研究」の田原真人です。

僕が動画講義を始めたのは2005年。

当時、スクリーンキャストソフトなどといった便利なものがあることを知らなかった僕は、何とかして自分の予備校の講義をネットで配信する方法はないものかと考えて、「実況講義」というPDFファイルを作りました。

語学春秋社の「実況中継シリーズ」のようなものをすべての講義について作って配信しようと思ったのです。

そして、毎週1講義配信という無茶な計画を立ててスタートしました。

当時は、河合塾などの予備校で講義をたくさん担当していましたから、「実況講義」を作るのはもっぱら深夜。

睡眠時間を削って削って作っていました。

「実況講義」をWebにアップロードをすると、その日のうちに感想のメールが山ほど届くので、それに支えられてなんとか全50講義を作り終えることができました。

ちなみに、「実況講義」とはこのようなものです。

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※画像をクリックすると「実況講義」のサンプルが表示されます。

フラフラになりながら、毎週、「実況講義」を作っていたとき、受講生の一人が「いいソフトがありますよ」と教えてくれました。それが、PCレター(今のThinkBoard)でした。PCの画面をキャプチャーして、そこに音声を加えながらペンタブレットで文字や絵を書きこんでいくことができるもので、それを見たときに、

「これを使えば、簡単に講義を録画してネット配信できる!」

とワクワクしました。そして、「実況講義」50講義を作り終えた後、PCレターですべての講義を作り直していきました。

リアルの代替じゃないバーチャル

僕がThinkBoardの旧バージョンであるPCレターを使い始めたときは、PCレターは、まだ試験販売中で正式リリースする前でした。HPでサンプルを見て、開発者の三栄堂の三上博正さんにメールを送り、その日のうちに契約しました。

メールを送ると、三上さんからは、いつもPCレターで返事が来て、ファイルを起動すると、

「えーー、田原さん、こんにちは。北海道はまだ寒く・・・・」

というように三上さんの声が聞こえてきて、画面に手書きの絵が描かれていたのを、今でもよく覚えています。

その三上さんが、いつも口癖のように言っていた言葉があります。それが、

リアルの代替じゃないバーチャルを目指す。

という言葉。

三上さんのこの言葉に導かれるように、リアルではできないことは何だろうかと考えるようになりました。

理解の速さと動画の再生速度をシンクロさせる

開発者の三上さんと、実践者の僕は、対話を重ねながら、動画講義の可能性について探っていきました。

三上さんがこだわっていたのが倍速再生。PCレターには、2倍速、4倍速の機能が最初から実装されていました。

でも、僕は、最初、倍速再生を使う意味がよく分からず、どちらかというと、自分の講義が倍速で再生されるということに抵抗感があって、その機能をOFFにしていました。

すると、三上さんから、

「田原さん、倍速再生の機能、ぜひ、使ってみてください。」

というお願いと、どんな思いで倍速再生を実装したのかという長いPCレターが届きました。

それを聞いて、はっとしました。

「これは、今まで自分が経験していない初めてのものなのだから、勝手に判断せずに、やってみてどうなるのか試してみよう。」

と思いました。

それで、受講者に倍速再生の機能のことを説明し、試しに使ってみるように呼びかけました。

フィズヨビの年間受講者の数は、100、200、300と増えていきました。彼らがどのように倍速再生機能を使っているのかということを調査してみると、驚くべき結果が出てきました。

・ほとんどの受講生が最初から2倍速で聞き、等速はあまり使わない。
・最初に4倍速で通して視聴して、全体像をおよそ掴んでから、最初から2倍速で聞き直す人もいた。
・受講を始めた最初に、すべての講義を通して2倍速で聞いてから、第1講からじっくり学び始める人もいた。

オフ会で会った受講生の一人から、「田原先生が等速で話しているのを聞くと違和感があります(笑)」と言われたほどです。それほど、ほとんどの受講生が、2倍速で視聴していました。

実際、僕自身も、動画を視聴するときは、ほとんど2倍速再生で視聴します。

みなさんもやってみていただけると分かると思いますが、2倍速は、慣れてくると普通の速さで聞こえてきます。

4倍速だと速すぎて聞き取れないですが、一度勉強した内容であれば、画面の動きと音声を手掛かりに記憶が再生されて内容を辿ることができます。そして、理解が甘いところを見つけて、その部分だけ2倍速、または、等速に再生速度を落として繰り返して聞くということができます。

10年間で、数千人の受講者がフィズヨビで学び、様々な試行錯誤をした結果、自然と次のような学び方が浮かび上がってきました。

  • 1回目は講義を2倍速で視聴し、理解しにくいところは等速に落とし、さらに分からなければ繰り返して聞く。
  • 2回目以降は、講義を4倍速で視聴し、理解が出来ていないと感じたところを2倍速に落として注意深く視聴する。

動画講義を学習に使うようになるまでは、全く想像ができない学び方でしたが、リアルの教室では実現できない、動画だからこその学び方が確かに存在するということを、今では自信を持って言うことができます。

動画は最長でも15分の理由

僕が動画講義を使った実践をスタートして6-7年ほどが経ち、いつしか

「動画講義は5分以内が理想。長くても15分まで」

ということが言われるようになってきました。

その理由として、動画に集中できるのは5分くらいが限界だからということが言われています。

おそらく様々な実験をやって検証された結果だと思いますが、僕は、そんなことを知らずに60分~120分の動画講義を使っていて、受講者は、それを2倍速や4倍速でじゃんじゃん見ていくという使い方をしていたので、「5分以内が理想」に違和感を持ちました。

それで、この違いはどこから来るのだろうかということを考えました。

三上さんとも意見を交換しました。

その結果、出てきたキーワードが

シンクロ

でした。

 

このキーワードに出会うきっかけになったのは、次のような疑問でした。

「小説は1時間でも読み続けられるのに、動画はなぜ5分で集中できなくなるのか」

 

そして、たどり着いた仮説は、

「小説が自分の理解の速度に合わせて読む速度を調整できるのに対して、動画は理解の速度と関係なく情報が一方的にやってくるため、ストレスを感じるから」

というものでした。

 

このように考えると、フィズヨビの60-120分の動画講義をストレスなく視聴できる理由は、

「自分自身で理解の速度と再生速度とをシンクロさせられるため、視聴ストレスが少ないから」

というように説明できます。

 

そ理解の速度と再生速度との間にシンクロが起こると、内容に集中しやすくなり、さらに、動画の内容に魅力があれば没頭しやすくなり、そこから、フロー状態に入りやすくなります。

 

人間は、分かっていることをゆっくり説明されると飽きてしまうし、ついていけない速さで説明されると聞き続けるのが苦痛になります。人間にの脳には、顔ニューロンなど、人間を認識して注意を引きつける機能がありますので、対面で授業を受けているときのほうが、多少のズレがあっても耐えられるのでしょう。しかし、動画の場合は、そのズレが際立ってきてストレスを感じやすいのかもしれません。

 

ストレスを感じながらも動画を視聴するのを我慢できる限界が5分・・・ということなら、動画の長さを5分以内にする理由も理解できます。

 

このように考えると、

・等速再生だけなら、動画をできれば5分以内(最長15分程度)にする。

・15分以上の動画であれば、倍速再生機能を付け、受講者が自分の理解速度とシンクロできるようにする。

というようにまとめられるのではないかと思います。

 

これは、きちんとした検証をしたものではないので、研究者の方にぜひ、検証していただきたいです。

 

Youtubeの動画を倍速再生で視聴する方法

みなさんは、Youtubeの動画を倍速再生で視聴する方法をご存知ですか?

この機能がついてから、Youtubeの動画を視聴するのがとても楽になりました。

やり方は簡単!1分で終わります。

こちらにアクセスして、「HTML5試用版を有効にする」設定をするだけです。

詳しいやり方を知りたい方は、こちらを参考にしてください。

iOSのでも、Swift Playerや、SpeedUpTVなどのアプリを使うと動画を倍速で再生できるようになりますので、試してみてください。
 
 
動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~

動画講義ならではの学び方の特徴をシェア

動画講義を作成することに興味のある方は、「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」というオンライン講座を2015年5月9日から4週間で実施しますのでこちらをご覧ください。(申し込み締め切り5月7日。定員30名)

動画講義を使った実践者が20-30名集まることで、多くのノウハウのシェアが行われると思います。

それによって、動画講義を使った学びに対する理解もさらに深まっていくと思います。

「リアルの代替でないバーチャル」の探求は、まだまだ続きます。

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動画講義で学ぶ方法(1) ~動画講義の長所と短所~

「反転授業の研究」の田原真人です。

ビデオカメラで教室を撮影したり、PCの画面に音声を加えて録画するソフト(スクリーンキャストソフト)を使用したりして、簡単に動画を作れるようになり、さらに、Youtubeなどの動画投稿サイトが誕生したことで、大量の動画がインターネット上にアップロードされる時代になりました。

動画を教育に利用しようと考える人たちが表れたのは必然的な流れだと思います。

アメリカでは、Khan AcademyやMOOCsが誕生し、小学生レベルから大学院レベルまで、様々な講義を無料で学べる環境が揃いつつあります。また、教育Youtuberと呼ばれる教師たちは、日々、多くの動画講義をYoutubeにアップロードし、広告費を得ています。

日本でも、eboardやmanaveeといった動画学習サイトが登場し、動画講義を使って無料で学べる環境が揃いつつあります。また、「とある男が授業をしてみた」のはいちさんのような教育Youtuberも出てきました。マスラボの古山竜司さん(1000本以上の算数・数学動画を作成)や、どんぐり教員セミナーを作成している福島毅さん(200本以上の教員研修動画を作成)のように、個人で大量の動画を作成し、Youtubeなどにアップロードする人も出てきました。

この流れは、これからも加速し続けることは間違いなく、インターネット上に大量の動画講義が蓄積されていくことになります。

では、そのような動画講義を、どのように利用することができるのでしょうか?

私は、動画講義を使った教育実践を2005年から始め、受講生からのフィードバックによって多くの気づきを得てきました。

教室で授業を受けるのと、動画講義で学ぶのとの間には違いがあり、それぞれに長所と短所があります。

動画講義の長所と短所を理解することで、工夫によって短所を補い、長所を生かすことが可能になります。

6回シリーズの記事によって、学習者の視点から動画講義で学ぶ方法を整理していきたいと思います。

動画講義の短所

まず初めに、「動画講義の短所」から考えたいと思います。短所を理解することで、それを改善する工夫も見えてくると思います。

(1)学習から脱落しやすい

動画講義は、いつでもどこでも好きなときに受講することができます。これは、メリットであるのと同時にデメリットでもあります。

教室に通う場合は、その時間は、否応なく授業を受けることになるため学習を継続しやすいですが、動画講義の場合は、いつでも脱落できるため、学び続けるためにモチベーションを維持する工夫が必要になってきます。

(2)その場で質問できない

リアルタイムで教師から学んでいるときは、疑問点が生まれたときに教師に質問して解決することができます。しかし、動画講義ではすぐに質問が出来ません。疑問が解決できないことで先へ進めなくなることもあります。

(3)メンタルサポート

途中で分からなくなっても、教師がサポートしてくれるという安心感があるから学ぶことができるという側面もあるでしょう。しかし、動画講義を使って独学している人の中には、「自分だけで解決できない問題にぶつかって脱落してしまうんじゃないか」という不安を感じる人もいます。そして、その不安から足が止まってしまって脱落してしまうというケースもあります。

動画講義の長所

では、「動画講義の長所」とはどのようなものでしょうか?

(1)何度でも繰り返して視聴することができる。

授業を理解するための前提条件を満たしていない場合、生講義を一度聞いて理解することは難しくなります。しかし、動画講義なら、一度聞いてみて分からないときに、そこに登場する用語や考え方について学び、再び動画講義に戻ってくることができます。

また、全体像が見えて文脈が指定されたことで、部分が理解できるということがあります。繰り返して聞くことで部分の理解と全体の理解とがお互いに補い合って理解が進んでいきます。5-6回繰り返して聞いたら腑に落ちたということもよくあることです。

(2)主体的に学ぶことができる。

モチベーションの問題をクリアしている学習者にとっては、動画講義はいつでも好きな時に学べるので、とてもありがたいツールです。スマホやタブレットで隙間時間に学ぶこともできます。自分自身で学習計画を立て、自分が学びたいという気持ちに従って学ぶので、主体的な学びにつながります。

また、動画を視聴しながら、どこが分かっていないのかを自己チェックすることもでき、理解を深めるためのアクションを自分で起こしていくこともできます。

(3)記録のためのノートを取る必要がない。

教室での授業ではノートを取ります。その目的の大部分は教師の授業を記録し、あとで思い出せるようにするためです。

しかし、動画講義の場合は、いつでも繰り返して視聴することができるので「記録するためのノート」は必要ありません。ノートを作るのであれば、「理解する行為を助けるための活動」としてのノートになります。

具体的には、例題演習のときに、一度解説を聞いてから、それを再現できるかどうかを確認するために、問題だけが表示されているところまで戻って一時停止し、自分でノートに解答を再現してから動画を再生してチェックし、気がついたことを書きこむといった具合です。

動画を一通り視聴してからマインドマップを描くのも良い方法です。理解できたところとできなかったところ、覚えているところと覚えていないところが明確になるので、その上で、もう一度、動画を見て、マインドマップを完成させると頭に入りやすくなるでしょう。

かなり負荷が高い方法ですが、キーワードだけを書き止めておいて、授業を白紙に再現していくという方法もあります。

このように、記録するためのノートではなく、理解を深めて定着させるためのアウトプットとしてのノートを作るというのが動画講義では可能になります。

(4)再生速度と理解速度とをシンクロさせる

理解の速度は、人によって様々です。教室での授業は、平均よりも少し理解が遅い学習者に合わせて授業を進められることが多いです。でも、その結果、自分の理解の速度に比べて授業の進み方が遅くて退屈してしまったり、自分の理解の速度よりも授業進度が速くてついていけなくなったりする学習者がどうしても出てきます。

それに対して、動画は、自分の理解速度に合わせて再生速度を調整することができます。

Youtubeのhtml5プレーヤーを使えば1.5倍速、2倍速で再生することができますし、ダウンロードした動画をアプリを使って再生速度を変えることもできます。

2倍速再生でどんどん進んでいって、「ん?どういうこと?」と思ったところは、等速に落として反復して視聴するというようなこともできます。

このように再生速度を変化させて、自分の理解速度とシンクロさせていくとストレスが少なく受講することができます。
 
動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~
 

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動画で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度をシンクロさせる~

パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方

コラボレーションによって生まれたオンラインワークショップ

こんにちは。Facebookグループ「反転授業の研究」を主宰しています田原真人(たはらまさと)です。

「反転授業の研究」は、ICTを利用して学習者が主体的に学べるようにすることに関心がある人たちが、約3000人も集まっているアクティブなオンライングループです。

グループ内から、動画講義を作るための様々なツールの基本的な使い方や、著作権の知識をまとめて電子書籍として販売する「動画作成にチャレンジ!」プロジェクトが生まれました。電子書籍は4月末から、順次、発売していくことになっています。

今回のオンラインワークショップは、電子書籍の執筆者のうち、カムタジアの執筆を担当している横川淳さん、著作権を担当している福田美誉さんの2人、さらに、白板ソフトの開発元である(株)マイクロブレインの坂本保代さんが講師を担当し、「動画作成にチャレンジ!」プロジェクト代表の水沼明子さんと「反転授業の研究」の田原真人が運営を担当します。

さらに、8名の運営ボランティアの方も加わっています。

学習者中心の学びを広げていこうという共通する思いによって、13名のコラボレーションが実現しました。

私は、10年以上前から動画を使った教育実践をしており、動画講義というのは、教育のあり方に革命を起こす可能性を持っていると思うようになりました。

なぜ、動画講義が教育に革命を起こすことができるのか、少し長いですがお読みください。

 

教育におけるコペルニクス的転回

コペルニクスの地動説により、世界の中心は地球から太陽へと移動しました。中心が移動したことにより、世界観が根底から変化しました。

これと同じような変化が、教育の世界で、今まさに起こりつつあります。

教育の中心を、教師中心から、生徒中心へと移動させていこうというのです。

教師が何を教えたのかではなく、生徒が何を学んだのかを中心に据えると、これまでとは全く違った景色が見えてきます。

この中心の変化は、教育に対する考え方を根底から変えてしまうかもしれません。

 

教師中心で考える問題点と解決へのヒント

300年前から、教室の中では、教師が教壇から一方向的に話し、生徒はそれを黙って聞くという授業が行われてきました。

そこでは、生徒の個人差とは関係なく、全員に対して同じ講義が行われ、理解の速い生徒は時間を持て余し、理解に時間がかかる生徒はついていけなくなるという状況が生まれます。

このような授業で生徒に問われるのは、決められた時間内で学習課題を達成することです。教師の話を時間内に理解できる生徒は知能の高い生徒、理解できない生徒は知能の低い生徒と見なされます。そして、疑問を持って深く考える態度よりも、要領よく課題を片付けて次々と進む態度が求められます。

このような知能(IQ)による個人差の固定概念に対して異を唱えたのが、J・B・キャロルです。

キャロルは、個人差を「学習に必要な時間と学習に使った時間の差」と捉え、学校学習モデル(時間モデル)を提唱しました。

キャロルの時間モデル

すべての学習者は、その人にとって必要とされる時間をかければ、すべての学習課題を達成できる。

つまり、生徒一人一人の学習に必要な時間の個人差に対して、それぞれに適した学習時間を与えることができれば、「担当するすべての生徒が、学習課題を完全に習得できるような授業」を実現できるかもしれないのです。

「落ちこぼれ」や「吹きこぼれ」は、教師中心の一斉講義というスタイルが作り出していたのかもしれません。

生徒中心の学習にすることで、それらを解消して完全習得学習への道を開いていくことができれば、それは、まさに、教育の「コペルニクス的転回」と言えるのではないでしょうか?

生徒中心の考え方+ICTが完全習得学習の道を開く

教育の「コペルニクス的転回」を可能にするのICTです。

一人一人の生徒が理解できるまで学ぶのを支援するためにはどうしたらよいのでしょうか?

30人の生徒に30人の教師がついて、1対1でサポートすれば可能かもしれません。でも、学校という場では、現実的には無理ですよね。

そこで注目されているのが「動画講義」です。

教師が自分の「分身」である動画講義を作成すると、どんなことが可能になるでしょうか?

課題達成までに必要な時間には個人差がありますが、各自が自分のペースで理解できるまで動画を繰り返して視聴すれば、学ぶ時間の個人差を解消することができます。

もし動画講義だけですべてを理解できなくても、どこが分からないのかをチェックテストなどで確認できれば、授業中に学び合いや、教師の補足説明をすることによって、クラスの全員を完全習得に至らせることができるかもしれません。

生徒を中心に据え、ICTを組み合わせることで、生徒全員が完全習得学習を行う可能性が生まれてきたのです。

 

あまり知られていない動画学習の威力

動画を使った学習には、あまり知られていない2つのメリットがあります。

1つ目は、教師からのプレッシャーを逃れてリラックスした空間で、自分で動画の再生や停止を操作しながら学ぶことで、生徒が能動的に学びやすくなることです。

カーンアカデミーの創始者であるサルマン・カーン氏は、いとこにスカイプで家庭教師をしていたときに、補助的に動画講義を作成してYoutubeにアップロードしていました。

そして、いとこから、「直接教わるよりも、動画のほうがいい」と言われてしまいました。

動画だと、分からないところをもう一度説明するのを頼む必要もないし、「分かった?」と急き立てられることもないので、落ち着いて学べるのだそうです。

2つ目は、倍速再生や、繰り返しの再生によって、理解のスピードと動画再生のスピードをシンクロさせて、集中力を高めることができることです。

私は、10年前から動画講義を使った学習に取り組んできました。生徒の学習状況を見ると、ほとんどの生徒が講義を倍速再生で視聴していることに気がつきました。

4倍速で全体像を掴んでから、2倍速で最初から聞き直し、分からないところは等速で反復するというように、リアルの講義ではできない、動画ならではの学び方というものがあり、学習者が自分の理解度をモニターしながら動画再生を操作することで、「分からないで取り残される」「分かっているところを説明されて飽きる」といったことがなく、常に集中できる状態を保つことができます。

このような動画学習のメリットを考えると、動画を使うことで、通常の学習よりも課題達成までに要する時間を短縮できる可能性を秘めているのではないかと思います。

 

動画講義作成ができると、授業デザインの可能性が大きく広がる

このように、授業に応じて、臨機応変に動画講義を作ることができると、授業デザインの可能性が大きく広がります。

・動画講義で予習し、教室で学び合いや、完全習得に至る問題演習を行う反転授業

・動画講義で予習し、教室で21世紀スキルの獲得を目指す反転授業

・前提知識の足りていない生徒のために、補習動画を作ってサポート

・理解の速い生徒のための発展的な内容を解説するサプリメント動画

動画を手足のように使いこなすことができれば、その応用範囲は、工夫次第でいくらでも広がっていきます。

 

パソコンを使って簡単に動画講義を作る方法

動画講義には、いろいろな作り方があります。

スタジオでビデオ撮影したりしたり、クロマキー合成したりするような方法もありますが、一番簡単にできるのは、パソコンの画面を録画するスクリーンキャストというソフトを使用するものです。

有名な動画学習サイトであるカーン・アカデミーや、eboardでも、スクリーンキャストを使った動画が作られています。

Khan Academyの動画講義 (カムタジア+ペイントソフト)

eboardの動画総集編(カムタジア+白板ソフト、Web素材など)

探究学舎のtanQcinema(カムタジア+keynote)

 

カムタジアなどのスクリーンキャストソフトを使うと、ペイントソフトなどに手書き文字を書き込みながら説明する様子を録画したり、パワーポイントなどのスライドを使って説明する様子を録画したりすることができます。白板ソフトやパワーポイント、Keynoteなどのアニメーション機能などを使えば、動きのある動画を作ることもできます。また、グラフソフトや3次元描画ソフトなどを使って解説する動画も作ることができます。

パソコンの画面に表示されているものなら何でも録画できますので、Webサイトを背景にしたり、グラフソフトを使ってグラフを表示させたりすることもできます。

本講座では、eboardの動画で背景に使用されている白板ソフトの外に、パワーポイント、Keynote、Webサイトなどを背景にして動画を作成する方法を説明し、それをもとに各自が実際に動画を作っていきます。

講師、運営ボランティア、受講者がアイディアを出し合い、それを共有して学び合うと、4週間で参加者全員が大きくスキルアップするはずです。

 

動画講義作成には、著作権の基礎知識が不可欠

スクリーンキャストを使った動画は、パソコンの画面をそのまま録画できますので、様々な資料を使って動画を作成することができますが、そのとき問題になるのが著作権です。

資料などを動画に使用するときに、どのようなことに注意しなければならないのか。

動画を公開するときにどんなことを守らなければならないのか。

著作権についての基礎知識があることで、トラブルを避けることができます。

本講座では、動画の作成と公開に必要な著作権の知識もお伝えします。また、動画作成に利用できる著作権フリーの画像、Web素材などもご紹介します。

著作権の知識があることで、安心して動画を使った実践を進めていくことができるようになります。

 

これまでになかった新しいオンラインの学び方

本講座は、はじめての人でも、簡単にPC画面に音声を加えるやり方で動画講義を作ることができるようになるための4週間のオンライン講座です。

講座開講中の土曜日にビデオ会議室を使ったリアルタイムセッションを行います。リアルタイムセッションでは、講師がビデオチャットで登場して課題の説明を行った後、受講者のみなさんも一人一人ビデオチャットで登場し、自己紹介や、前の週の課題の感想を話し、他の参加者からのフィードバックを受けます。

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※写真は「AL型授業実践者のためのスキルアップ講座」のときのものです。

課題の詳しい内容は、動画講義で説明されますので、受講者はそれを見ながら、各週の課題に取り組み、動画を作成し、Youtubeにアップロードします。

※Youtubeに動画をアップロードしたことのない方も大丈夫です。アップロードの仕方も詳しく解説します。

※Youtubeの公開ステータスと「限定公開」にすれば、URLを知らない人はアクセスできないので、練習のために作成した動画は「限定公開」でアップロードします。

Youtubeにアップロードした動画を、MoodleというLMS(Learning Management System)の掲示板に貼り付けて、参加者同士で共有します。

Moodle内では、受講者と運営ボランティアの5-6名の混成グループをいくつか作り、グループ内でお互いの動画に対してフィードバックを送り合ったり、参考にしあったりします。他のグループの動画も参考にすることができます。

Moodle内のグループは、毎週メンバーをチェンジするワールドカフェ形式で行います。

その他に、週に1度、オンラインの雑談部屋を開きます。まじめなリアルタイムセッションとは違って、飲み物を用意して、リラックスした気分で参加する雑談部屋では、笑い声が溢れ、本音トークが飛び交います。授業実践に取り組む中で生まれる悩みを雑談部屋でシェアすることで、意外な解決策が見つかることもあります。
 
雑談部屋があることで、参加者同士の交流が深まっているようです。

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※写真は「AL型授業実践者のためのスキルアップ講座」のときのものです。

様々な運営上の工夫を重ね、「反転授業の研究」が主催するオンライン講座は、オンライン講座としては奇跡的に脱落者が非常に少ない講座となってきています。

それは、オンラインであっても、「会っている」「参加している」という実感を感じることができるからかもしれません。

その結果、これまでの講座では、講座終了後も受講者同士の関係性が継続し、多くのコラボレーションや、オンラインの学習コミュニティが生まれています。また、また、オンライン講座の受講者として参加した方が、講師、運営、運営ボランティアになっていくという循環も生まれています。

まとめ

  • 教師中心から、学習者中心の学びへのパラダイムシフトが起こっている。
  • 学習者中心の学びをデザインするのに、動画講義は役に立つ。
  • 動画を臨機応変に作成できるようになると、授業デザインの自由度が増す。
  • 動画は、生徒の学びの個人差に対応するのに役立つ。
  • スクリーンキャストソフトを使うと、簡単に動画講義を作ることができる。
  • 動画の作成と公開には、著作権の知識が不可欠である。
  • 動画講義の作り方をオンラインで学び合うことで、一緒にスキルアップできる。
  • 動画講義の作り方を継続して学び合うオンラインコミュニティを作る。

 

講師紹介

スクリーンキャストの使い方を担当!

yokogawa

横川淳(コムタス進学セミナー 物理・化学講師)

(プロフィール)
京都大学大学院理学研究科博士課程修了(専攻:X線天文学)。博士(理学)、気象予報士。広島県呉市の学習塾「コムタス進学セミナー」で物理と化学を担当。自分が担当するクラスへの予習・復習用の動画を作成し、提供している。動画はもはや授業のインフラ。

ブログ「カガクのじかん」http://d.hatena.ne.jp/inyoko/
著書「気楽に物理」http://www.amazon.co.jp/dp/4860643070
  「身につく気象の原理」http://www.amazon.co.jp/dp/4774172278/

(メッセージ)
誰も出勤してこないうちに教室の隅っこで初めて動画を撮った日のことを、昨日のことのように思い出します。そのときはまだ「スクリーンキャスト」という概念も知らず、聞ける人もいない状態でした。ただ自分の授業に横たわる問題を解決するには動画しかないと思い、iphoneのカメラでパソコン画面を撮影するという奇抜な方法で動画を撮り始めたのです。

その動画は画質は悪く、音声は貧弱で、しかもファイルサイズは大きいという、どうにも使いにくいものでした。今ではもうお蔵入りとなっていますが、それでも当時は「授業を担当する先生が作った動画」ということから、生徒は特に違和感を表明することもなく利用してくれていました。

その後、「カムタジアスタジオ」というソフトの存在を知りました。最初は独特の操作感に戸惑いましたが、慣れると急激に動画作成の効率が上がり、動画を実戦投入するケースが増えてきました。今では動画を特別扱いすることなく、多数ある授業ツールの一つとして自然に活用できるようになりました。

本講座ではスクリーンキャスト(パソコン画面をそのまま録画するソフト)の使い方のサポートを担当します。カムタジアスタジオは、30日間無料試用ができる上、録画後の編集機能も強力で手軽に使えますので、お勧めします。私が最初「とっつきにくいな」と思ったポイントは全てマニュアル(文書と動画)にしましたので、受講される皆さんにはスムーズに動画作成に取り組んでいただけると思います。むしろ皆さんがスクリーンキャストのことなんてすぐ忘れてしまって、動画本体の方に意識を集中できるよう、サポートしていきたいと思います。

このオンラインワークショップの特徴として、「受講生と講師の垣根が低く、一方通行ではない学びが得られる」ということが挙げられると思います。私は今まで受講生として2回、アシスタントとして1回、運営ボランティアとして1回参加してきました。そのたびに参加者の間で起こる「学びの渦」に巻き込まれて楽しい思いをしてきました。今回は何が起こるんでしょう。とても楽しみにしています。

白板ソフトの使い方を担当!

坂本保代

坂本保代(株式会社マイクロブレイン)

(プロフィール)

1990年人工知能を得意とする株式会社マイクロブレイン(白板ソフトの開発会社)を夫と友人の3人のメンバーで設立。簡単操作でコンテンツが作成できるツールの開発を行う。2000年頃は、携帯電話で動画が見られるようになり、子供でも簡単に動画作成できる時代が来ると思い、第3回ベンチャー甲子園にて「子供からコンテンツ配信~研究」で、アイデア賞受賞。しかし、当時はまだパソコンも遅く快適な環境ではなく、夢を語った時より約15年ワークショップや個人活動での稲城市子ども体験塾等の講師経験を経て、現在の「スーパーキッズ」代表に至る。
○教え子の子供作品「稲城の観光PR動画」夢の実現の第一歩です。
https://www.youtube.com/watch?v=UxL0_14LBkU

昨年、ICT活用の苦手な先生に、白板ソフトを教える機会があり、自分で教材作成出来るようになると「坂本さんのおかげで夢が叶ったわ!」と笑顔で感謝されました。動画と一緒に教材作成や問題も作り、参加した皆様の笑顔が見たいと思います。

白板ソフト http://www.mbrain.com/wb/index.htm
ブログ http://hakuban.blog19.fc2.com/
株式会社マイクロブレイン http://www.mbrain.com/

動画講義の作成&公開に必要な著作権の知識を伝授!

福田美誉

福田美誉

(プロフィール)

1976年生まれ。東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻修了後、千葉幕張の気象情報会社や仙台市内のITベンチャー企業に勤務し、約10年間システムエンジニアとしてWebシステム、サイトの制作に従事。2011年より大阪梅田の教育サービス系企業に勤務。2013年4月に教材開発者に転向後は、情報教育や統計・データ分析の教材開発、テキスト執筆、オンラインサービス運営を中心に取り組んでいる。
 
今回の講座では、「著作権の知識を覚える」というよりも、「著作権を意識して教材制作を行う」ことを目標としています。講師を務める私も、受講する皆さんとフラットな関係で一緒に学び、スキルアップしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

「動画作成にチャレンジ!」プロジェクトを主宰

水沼明子

水沼明子

(プロフィール)
ラーニングデザイナー(日本eラーニングコンソシアム)

日本女子大学理学部数学科を卒業後、地元で就職。4年ほど会計関係のプログラムを組む仕事をしたのち、実家の母が亡くなり退職。その後10年間は、家族が次々と病気で入院・手術、自宅療養、亡くなるということの繰り返しでした。知識や物事を吸収するのに適した、 頭も感性も柔らかい20代から30代を家ですごさなければならなかったのは、他人から見れば勿体無いと思うかもしれません。確かにもっと勉強したかったという気持ちはありますが、他人が得られない経験をしたことをプラスだと考えたいです。(でも、そうですね、若いうちに修羅場をくぐったのが良かったのか悪かったのか。。) 次に、塾を開き10年ほど塾教師の経験を積んだのち、自分で勉強がしたくなり塾をやめ、 この間に始めたインターネットでの活動から、TwitterやFacebookでのグループ活動に参加。2011年後半からはFBグループ「みんなのデジタル教科書教育研究会」広報担当として、活動を始めたばかりのデジ教研のお手伝いをしました。ここで様々な貴重な、でも面白い経験をさせていただきました。 また、Twitterで知った「DAISY」をTogetterにまとめたものを、日本で一番最初に電 子書籍として編集し公開。このTwitterでのつぶやきを本にすることを許可してくださった河村宏さんは、今も夢を追って世界を飛び回っている私の尊敬する方です。   

『DAISY』河村宏さんの呟きのまとめ http://p.booklog.jp/book/35908

そして今私は、放送大学大学院情報学プログラムに在籍。研究テーマはeラーニングや学習コミュニティなどです。

最後に、去年5月にメンバーを募りスタートさせた「動画作成にチャレンジ!」プロジェク トですが、「反転授業の研究」FBグループから多才なメンバーが集まり、それぞれの才能を活かした本作りが現在進められています。 今回のコラボ企画で多くの方が動画作成の著作権の知識を持ち、楽しく動画作りの技術を身につけられることを、心より願っております。

オンラインでの学習コミュニティ創りに挑戦中!

tahara

田原真人(オンライン教育プロデューサー)

(プロフィール)

早稲田大学理工学研究科物理学及び応用物理学専攻博士課程中退後、物理の予備校講師に。河合塾などで10年以上教える。『微積で楽しく高校物理が分かる本』など著書9冊。2004年から物理ネット予備校(フィズヨビ)を立ち上げ、動画講義やMoodle、Web会議室を使ったオンライン教育に取り組む。オンラインでの反転授業、ワールドカフェ、ワークショップ、ダイアログなど、オンラインでの場創りに取り組んでいる。

(メッセージ)

Facebookグループ「反転授業の研究」を主宰し、反転授業の多くの実践者にインタビューをしてきました。その中で動画講義の意味や、授業設計やファシリテーションを学ぶ重要性などに気づき、オンラインのワークショップを実施してきました。学習コミュニティを広げていくために、オンラインワークショップの運営ノウハウも積極的に受講生の皆さんにシェアしていきたいと思います。また、動画講義を使った実践は10年以上続けていますので、そこから得た気づきも積極的にシェアしていきたいと思っています。この講座では、運営と全般的なテクニカルサポートを担当していますので、ご不明な点があれば、田原までお問い合わせください。

運営ボランティアのみなさん

今回の講座では、前回に引き続き、授業に協力してくれるボランティアを募集しました。この講座は、講師陣と運営ボランティアとが意見交換しながら作っています。運営ボランティアが入ることで、「教える側」「教わる側」という固定化した枠組が崩れ、講座にダイナミズムが生まれると思います。

運営ボランティアの皆さんは、自らの成長を大切にするマインドセットを持っている方ばかりです。運営ボランティアの皆さんとの交流も、この講座の価値の1つだと思います。

江藤由布(近大附属高・教諭)

kuramoto

LEAFモデルで英語教育を変える、江藤由布です。LEAFとは、教科書に依存しない、生教材、オールイングリッシュ、アクティブラーニング、反転学習の頭文字をとったものです。わたしにとって動画は二つの役割を持ちます。一つ目はLEAFモデルを支える屋台骨として。動画があるから、反転学習が可能になり、動画として一斉講義部分を押し出すことで、教室でしかできない学習形態が可能になります。もう一つは、自分の情熱を不特定多数の人に伝える手段として。現在ブログを配信していますが、人の心に訴えることができるのは、やはり動画の方です。ですから、「こんなことを伝えたい!」という強い想いが沸いた時は、動画で語りかけます。今回は、ボランティアスタッフとして関わっていますが、体験的に学んで来た事を、体系立てて学べるということで、ワクワクしています。みなさんとお会いするのを楽しみにしています。Let’s learn together!

LEAFモデルで英語教育を変える

遠藤良仁

遠藤良仁

看護大学の教員をしています。看護師の基礎教育や免許取得後の継続的な教育のあり方や方法に興味があります。模擬的に臨床場面を再現して学ぶシミュレーショントレーニングからインストラクショナルデザイン、そして反転授業へとたどり着きました。現代の看護職の生活や状況にあった学習支援の方法を模索しています。今回動画講義ワークショップへボランティアで参加し、少しでも多くのことを吸収したいと考えております。よろしくお願いします。

 

倉本文子(日本語教師)

倉本文子

みなさま、こんにちは!ボランティア参加の倉本と申します。
カイ日本語スクールという日本語学校に勤務していて、昨年7月から反転授業の研究のグループに参加させて頂いています。
 1年の間、田原さんやグループの皆さんの精力的な実践や日々の有益な情報から多くのことを学び、刺激を受けました。「Explain Everythingで作る動画」と「反転授業のためのインストラクショナルデザイン」のオンライン講座にもお世話になって、仕事や授業のやり方が想像以上に大きく変化していると感じています。
 バージョンアップした動画作成講義がまた実施されると聞いて、日頃の恩返しになればと思って手を上げました。昨年の学びの成果として、職場で本格的に動画を使った反転授業プログラムの開発に入りますので、一緒に学びを広げていけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!

塚原 大輔

塚原 大輔

今回ボランティアをさせていただきます塚原大輔です。私は看護師で現在はより専門性の高い看護師を養成するための学校で専任教員をする傍ら社会人大学院生としてICTと対面型のブレンド型授業をテーマに研究を行っています。まだまだ駆け出しで分からないことばかりですので皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。よろしくお願いします。

ギュンター知枝(徳島大学共通教育センタードイツ語講師)

ギュンター知枝

京都市立芸術大学音楽学部卒業(声楽専攻)
卒業後ドイツに留学するも入学前に結婚、出産。
そのまま7年間ドイツに住む。
ドイツ在住中から通訳としての活動を開始。

1995年どうしても日本に住みたかった主人に説得されて家族で日本へ。
それ以来、派遣などで会社員をしながら細々と通訳の仕事を続けていたのが認められて2011年より徳島大学共通教育センターにてドイツ語の非常勤講師に就任。

2013年秋に「反転授業の研究」Facebookグループに参加してから、仲間の活動やオンライン勉強会にインスパイアされて自らの授業改善を始める。

2014年度は物語や詩を書く、ドイツ人とクリスマスカードを交換など、output中心の授業に挑戦し、ウェブ単語帳Quizletや、ウェブ掲示板サイボウズLiveなどICTを取り入れた自宅学習を導入。時々簡単な動画を作成したりもし始める。

2015年度は、学生に、変化が急速化する社会に対応して学び続ける人になってもらうために「 学ぶ事を学ぶ」授業を計画中。

2014年度に続き33名と、語学にしては人数が多めのクラスなので、何とか動画で説明時間を短縮したいと考えています。

私も、水沼さん率いる「動画作成にチャレンジ!」プロジェクトのメンバーです。

皆さんと一緒に試行錯誤しながら大いに悩む、学びの同志的ポジションから講座を盛り立てていきたいと思っています。

松嶋渉(山口県立萩商工高等学校 情報デザイン科長)

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山口県の公立高校で教員をしています。教科は商業で主に情報系(プログラミングやWebデザイン)の授業を担当しています。

反転授業は昨年2月に始めて科目や単元に合わせて数回実施しています。授業動画作成ではPCではCamtasiaやThinkBoard、Screencast-O-Maticなどを使用し、タブレットではiPadのExpiainEverythingを使用して作成しました。2月に行った反転授業の感想は生徒同士のインタビュー形式にして撮影しiMovieで編集しました。
現在は萩商工高校の情報デザイン科で「キャリア教育×ICT×地域活性化」をテーマにしたPBLを行っており、今年度はkintoneを利用した「学校を越えた強いチーム作り」を目指して取り組んでいますが、その取り組みのまとめもiMovieで編集しようと考えています。

今回はボランティアスタッフとして参加いたします。受講生の皆さんの助けになれるように取り組んでいきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

松本梓

matsumoto

(プロフィール)
病院勤務薬剤師

長崎出身。薬学部の大学院を卒業後、福岡の病院で薬剤師として勤務。
専門分野は緩和医療で、緩和薬物療法認定薬剤師取得済み。

「臨床から私が経験して学んできたことを、必要としてくれる人の元へ届けたい」
そんな想いから、教育に興味を持ち始め、FBグループ「反転授業の研究」に出逢い、過去2回オンライン講座を受講。
時間や場所の制約を受けにくいオンライン講座の魅力にはまる。

また、オンライン講座で出逢った素晴らしい先生方に触発され、2015年、自身が学んだことを、届ける場として「Medical Flat Project」を立ち上げ、医療をもっとオープンでフラットにするための活動を展開していく予定。

(メッセージ)
運営ボランティアは初めての挑戦になります。
初めてオンライン講座を受けるときはとても緊張しましたが、その経験を生かして、今度は学びのサポートが出来る事を嬉しく思います。
動画作成はほとんど経験したことがありません。
みなさんと一緒に1から学べることを楽しみにしています。

Ein Ane

Ein Ane

I am Ein. Masato’s workshops interest me because it connects to learners & educators all around Japan. The atmosphere also interests me because all the learners and educators share Masato’s free spirit. This time, I am connecting with a different motive. I am going to hunt for educators & learners to connect them to a platform so that educators can share their knowledge and learners can learn freely.

自由な考え方はここにいる人たちみんなシェアしてるから、Masatoのワークショップはいつも面白い!日本のいろんなところにいる教育者と学習者たちとConnectして、ただみんなでKnowledge Hunterになることもとっても素晴らしい。今回は作りたいことがあります。教育者たちが自由に自分のKnowledgeシェアできるところ作りたい、いろんなところにいる学者とかKnowledge Hunterたちは自由にSandbox environmentで学ぶことできるため。

ワークショップ形式で学ぶオンライン講座

この講座は、解説動画、Moodleでのフォーラムセッション、Gotomeetingによるリアルタイムセッションを組み合わせて、4週間のオンライン・ワークショップ形式で行います。毎週、動画の作成法や、ソフトの使い方、著作権の知識などを2―3つ学び、学んだことを利用して、短い動画を作成して提出していただきます。

【受講に必要な知識】
  • 解説動画やマニュアルを見ながら、ソフトの操作や、Webサイトの操作などをすることができる。
【受講前に準備していただきたいもの】

(1)Webカメラとマイク

リアルタイムセッションでは、各自がビデオチャットで参加しますので、Webカメラとマイクをご用意ください。

※Webカメラがなくても講座に参加可能ですが、ご用意いただいたほうが、より参加度が高まり、楽しめると思います。

(2)パソコン

Windows、または、Macのパソコンをご用意ください。以下で使用するソフトが動作可能であることを、あらかじめご確認ください。

(3) スクリーンキャストソフト

以下のいずれかをご用意ください。

高度な編集機能を備えたプロ仕様のスクリーンキャストソフトです。30日間の無料体験版(機能制限なし)がありますので、無料体験版を使用してワークショップに参加することも可能です。音声の大きさを後から調整して揃えたり、撮り直すことなく画面の画像を修正したりする機能は、大量の動画講義を作成&管理していくときに役立つ機能です。

※カムタジアスタジオはwin版とmac版があり、機能は似通っていますが、インターフェースが多少異なります。本講座で提供するマニュアルはwin版のものですので、できればwin版をご用意されることをお勧めします(mac版でも機能的にはほぼ同じことができますので、mac版では参加不可能ということではありません)

  • Bandicam(有料/無料体験版・Win)

Bandicamは、低スペックのパソコンでも安定して動作するのが特徴のシンプルなスクリーンキャストソフトです。無料体験版では作成できる動画が10分以内であることや、ロゴが表示されることなどの機能制限があります。編集機能はありません。

Screencast-O-maticは、世界中の多くの教師が反転授業の授業動画に使用しているスクリーンキャストソフトです。無料版は作成できる動画が15分以内という制限がありますが、通常の使用方法であれば、無料版でも十分だと思います。編集機能はありません。

(4)動画の背景に使用するソフト

作成したい動画講義に応じて、各自でご用意ください。

手書き文字や、簡易アニメーションなどを簡単に作成できるソフトです。eboardの動画講義の背景に使用されています。開発元の(株)マイクロブレインがマニュアルを提供し、使い方のサポートをします。Windowsのユーザーは、無料版をインストールしておいてください。

定番のスライドソフトです。スライドをめくりながら解説する動画を作成するときに便利です。アニメーション機能を利用して様々な動画を作成することも可能です。

定番のスライドソフトです。スライドをめくりながら解説する動画を作成するときに便利です。アニメーション機能を利用して様々な動画を作成することも可能です。

  • ペイント(無料・Win)

Windowsに標準で付属しているペイントソフトです。テキストを入力したり、手書き文字を書いたり、絵を描いたりすることができます。

ペイントと同様の機能を持つペイントソフトです。テキストを入力したり、手書き文字を書いたり、絵を描いたりすることができます。

(5)手書き文字や絵を入力するためのデバイス(オプション)

手書き文字や絵を入力したい場合は、ペンタブレットなどをご用意ください。ペンタブレットは、主に次の3種類があります。

※ペンタブレットなどをお持ちでなくても、講座に参加可能です。

  • ペンタブレット・・・PCの画面を見ながら、手元のタブレットに専用ペンで文字や絵を書いていく形式。安価だが慣れが必要。
  • 液晶ペンタブレット・・・液晶画面に、専用ペンで文字や絵を書いていく形式。使いやすいが、やや高価。
  • Windowsタブレットなど・・・画面に直接、専用ペンで文字や絵を書いていく形式。書きやすさなどは、製品によって異なる。
【第1週】自己紹介動画の作成

【目標】

  • 自作の資料を背景にスクリーンキャストソフトの画面録画と音声入力ができる。
  • 出来上がった動画をyoutubeにアップロードできる。
  • 著作権に触れない素材の選び方や引用の仕方を選択できる。
【第2週】操作説明動画の作成

【目標】

  • Webサイトやソフトの操作を解説する動画作成を通じて、スクリーンキャストソフトで動画作成する際の疑問点の有無を明確にすることができる。
  • 著作権に触れない動画の配信方法が選択できる。
【第3週】講義動画の作成

【目標】

  • 白板ソフト、パワーポイント、Keynoteなどのソフトの操作説明を参考に、自分が使用するソフトの基本操作をすることができる。
  • 各ソフトを操作し、それをスクリーンキャストで録画して講義動画を作成し、Youtubeにアップロードできる。

 

【第4週】各自の授業で使用可能な動画講義を作る
  • 講座で学んだことを参考に、各自が授業で使用可能な動画講義を作ることができる。
  • 背景にするソフトの機能と説明内容とを関連させることができる。

 

この講座を受講すると

  • パソコンを使った動画講義の作り方を学ぶことができます。
  • 著作権を守って動画を作成したり、公開したりするための知識を学べます。
  • 講師、他の受講者、授業協力者から動画講義作成のヒントを得られます。
  • オンラインでの学び合いを体験することができます。
  • 動画講義作成について相談し合える仲間を作ることができます。

Q&A

Q Gotomeetingのリアルタイムセッションに参加できない日があるのですが大丈夫ですか?

A リアルタイムセッションは、翌日以降、録画動画が見れるようになりますので、そちらで確認していただくことができます。

Q パソコンが苦手ですが、サポートはしてくれますか?

A 運営の田原がテクニカルサポートを担当します。Moodleの使い方や、Gotomeetingの使い方の説明が分からないときは、いつでも相談してください。接続トラブルについても対応します。ソフトの使い方については、担当者がサポートします。

Q 動画講義を作るのは初めてなのですが、申し込むことはできますか?

A この講座は、はじめて動画講義を作る方を対象としていますので、大丈夫です。

Qリアルタイムセッションには、iPadから参加できますか?

A Gotomeetingは、iPadやiPhoneから参加可能です。あらかじめアプリをダウンロードしておく必要があります。詳しくは、こちらをご覧ください。

受講者へのプレゼント

toku1 電子書籍「はじめてのカムタジアスタジオ」


本講座の講師を務める横川淳が執筆した電子書籍です。プロ仕様のスクリーンキャストソフトの定番であるカムタジアスタジオは高機能ゆえに、初めての人は操作に戸惑う面もあります。初めて使う人がカムタジアを使えるようになるための電子書籍です。本講座のテキストとして使用します。

toku2 電子書籍「動画作成にチャレンジ―著作権―」


本講座の講師を務める福田美誉が執筆した電子書籍です。動画講義を作成する際に押さえておかなければならない著作権の知識をコンパクトにまとめてあります。本講座のテキストとして使用します。

toku3 オンラインワークショップをするためのノウハウ


ビデオチャットとLMSを連携させて、オンラインで勉強会やワークショップをやっている田原真人が、運営のノウハウを資料にまとめてプレゼントいたします。

様々なツールを実際に試した結果、分かったことや、リアルのワークショップとは違ったオンラインの難しさを解消するコツなど、あなたの活動を広げるのに役立つノウハウです。

お申込み

講座名:パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方

申し込み締め切り:2015年5月7日(木)

定員:30名 (定員に達し次第、締め切ります)

開講期間:5月9日~6月6日

※約4週間の講座期間中にGoToMeetingによるリアルタイムセッションを4回行います。

リアルタイムセッションの日程:

5/9(土) 21:30-23:00  オープニング&自己紹介、第1週「自己紹介動画の作成」の説明

5/16(土)21:30-23:00 第1週振り返りと第2週「操作説明動画の作成」の説明

5/23(土)21:30-23:00 第2週振り返りと第3週「講義動画の作成」の説明

5/30(土)21:30-23:00 第3週振り返りと第4週「各自の授業で使用可能な動画講義を作る」の説明

この他に雑談ルームを4回開催します。

受講料:30,240円(税込)

 

お申込みは終了しました
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オンラインで学びあい!「神アプリExplain Everythingで 超簡単に動画講義を作る方法」

「反転授業の研究」の田原です。

僕は、反転授業の試みがうまくいくかどうかの鍵を握るのが「オンラインでの学びあい」ではないかと考えています。

その理由は、次の通りです。

 

理由1 リアルの場では「少数派」である実践者たちが孤立しないで、つながることができる。

「反転授業」という言葉は、最近になって認知されるようになったとはいえ、実際に実践しようと思ったら学内に実践者を見つけるのは難しい状況です。実践者の「密度」が小さいので、リアルの場で出会うのが難しいのです。

反転授業の実践に必ずしも肯定的でない集団の中で、一人で実践を進めていくことは大きなエネルギーを必要とします。孤独感も感じる場合があるかもしれません。

しかし、オンラインで集まると、そのような状況が一変します。

すべてのメンバーが「反転授業」に関心を持って自分から集まってきた方たちで、実践に対するモチベーションが高いです。

実践に意欲を燃やしている人が、自分以外にもたくさんいることを日常的に感じることができれば、大きな推進力が生まれると思います。

「反転授業の研究」は、すでにそういう場になりつつあります。

新しく一歩を踏み出す人が、次々に出ています。

 

理由2 実践を広く素早くシェアできるので、改善のスピードを上げることができる。

オンラインで学びあうメリットの2つ目は、スピードです。

リアルの場で研究会を行う場合、セッティングの労力が大きいし、物理的に集まれる人も限定されます。

しかし、オンラインであれば、日常的に非同期でつながることもでき、また、物理的な制約なしでリアルタイムセッションをすることができます。

このことによって、多くの実践例やアイディアに触れることが可能になり、すでに、そこから新しいアイディアが生まれています。

相互参照によって、実践のアイディア、改善のアイディアが生まれるのです。

「反転授業」が盛り上がっている今は、教育・学習に新しい風を吹かせるチャンスです。

注目されている間に、実績を上げて、この動きを一時的なものとせず、確固たる流れにしたいです。

そのために重要なのは実践-改善サイクルのスピード。

そのスピードを生み出すのは、お互いの経験を広く素早くシェアすることだと思います。

 

オンラインの学びあいは可能か?

「オンラインの学びあい」に重要性を感じ、どうすればそれがうまくいくのか考えはじめました。

参考にしようと思ったのは、ワールドカフェ、OST、学習する組織など、組織を機械ではなく生命体と見なす手法です。

そんなとき、ワールドカフェのホスティングスキルを学べるオンライン講座があることを教えてもらい申し込みました。

ワールドカフェの考え方を学びたかったのと、オンラインでの学びあいがをどのようにデザインしているのか、運営法にも興味があったのです。

受講料が高かった(約7万円)のですが、僕にとって重要な2つのことが学べるのならと思って受講しました。

 

講座は、まず、Go to meetingというビデオチャットシステムによるリアルタイムセッションから始まりました。

講座に申し込んだのは30人ほど。アメリカ、イギリスからの参加者が半数ほどで、残りは、世界中から参加していました。日本人は僕一人でした。参加者のプロフィールを見ると、組織改善のコンサルなどをやっていて、手法の1つとしてワールドカフェを取り入れたいと考えているという人が多かったです。

リアルタイムセッションでは、一人ずつ英語で自己紹介をし、なぜ、この講座に申し込んだのかを1-2分でしゃべりました。

「この人たちと一緒に学ぶんだ!」

という気持ちが盛り上がってきました。

 

講座は8週間完結で、最初の3週間は参考文献の読み、課題をフォーラムに提出するというものでした。

たとえば、「ワールドカフェの哲学について、印象に残った部分を引用し、その理由を書け」といった課題が出ました。

僕の英語力が十分でないこともあり、本を読んでもよく理解できない部分が結構ありましたが、なんとか課題を書き終え、締め切り前に提出しました。

フォーラムは5つのグループに分かれていて、同じグループ内のメンバーには、お互いにコメントしあうことができました。

僕の提出した投稿にも早速テーブルメイトからコメントがつき、「その考えは、自分にはなかった。面白い」「私があなたの考えの中で好きなのはこの部分だ」などと書いてもらったのは、モチベーションアップにつながりました。僕も、他のテーブルメイトの投稿へ、同じようなコメントを入れました。

勉強になったのは、その後です。

同じグループのメンバーの投稿、そして、他のグループの投稿も読んでいきました。

すると、自分では気がつくことのできなかったたくさんのことに気づくことができました。

たとえば、参考文献の中で、ワールドカフェがどのように自然発生したのかということが、物語風に書いてあったのですが、僕は、その部分をスルーしていたんですね。

でも、メンバーの一人が、「ワールドカフェは、人間が頭で考えて設計したものではなく、自然発生したものだから、人間の本能的な振る舞いと強く結びついているんだ」とコメントしているのを読んで、「そうだったのか!!!」と、その部分の重要性を感じることができました。

このような経験は、その後も続き、グループで学ぶことがとても有効であること、そして、それがオンラインでも十分に可能であることを確信することができました。

 

Facebookグループから「講座」を生み出す

Facebookグループには、現在800名を超えるメンバーがいて、毎日、すごい量の投稿がされています。

投稿を見ていると、その中には、

・ニーズに対する情報・・・こんなものがあったらいいな!

・スキルに対する情報・・・こんなことができます!

が、多数含まれています。

スキルを持っている人でチームを作って講座を作成し、ニーズに応えていくことで価値が生み出せると思います。

メンバーにはそれぞれスキルとニーズがありますから、あるときは講師、あるときは受講者と、役割を変えながら学んでいくことができれば、より深い学びが生まれるのではないかと思います。

オンライン講座の運営には、ワールドカフェのオンライン講座の受講経験が生きると思います。

実践とフォーラムでの学びあいを中心に据え、それが効果的に進むようにサポートしていきたいと思います。

 

第1弾!「神アプリExplain Everythingで超簡単に動画講義を作る方法」

オンライン講座の第1弾として、以前から要望のあった動画作成講座をリリースします。

この講座も、Facebookグループから「浮かび上がってきた」ものです。

まず、ニーズが浮かび上がってきました。

「動画講義の作り方講座とかあったらいいな」という投稿に、たくさんのレスがつき、同じような考えを持っている人がたくさんいることが分かったのです。

Explain Everythingを使いたいという希望が多いことも分かりました。

次に、講師役も浮かび上がってきました。

佐賀・武雄市の反転授業の教材を、メンバーの古山竜司さんがExplain Everythingで作成していたのです。

さらに、ICTに詳しく、グループワークも実践している桑子研さん、やはりICTに詳しく、非常に分かりやすい解説記事を書く横山淳さんにも加わってもらい、僕を含めて4人のチームを結成しました。

これらの皆さんは、反転授業オンライン勉強会で登壇してくださった方たちで、お話をうかがって、スキルもあり、信頼できる方だということがよく分かったので、迷わずお願いすることができたのです。

その後、FacebookやWizIQを使ってミーティングを行いました。

4人の力を結集した結果、仕事はどんどん進み、一人では到達できないクオリティになりました。

ここでも、協働作業の威力を感じることができました。

このような試みが成功し、様々なコラボレーションが生まれることで、教育に関わる多くの方たちが「協働作業の威力」を実感するということにも意味があるのかもしれないと感じました。

 

Facebookグループから生み出された、記念すべき最初のオンライン講座への申し込みはこちらです。

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サポートの質を維持するために50名限定とさせていただきます。

 

反転授業の予習動画は10分~15分が適切?

反転授業のための予習用動画を作るときに、何分くらいのものを作ったらよいのでしょうか。

実際に作られている動画講義の時間を元に考察してみましょう。

 

Khan Academy や Courseraなどの動画を見ると、15分以下ののものがほとんどで、20分を超えるものはほとんど見かけません。学習者が集中できる時間はせいぜい15分までというように考えているのだと思います。

15分で説明できるのは1トピックなので、1動画で1トピックを説明する形式になっています。

Khan Academy の場合は、その後に、練習問題がついていて、動画で説明した内容を理解しているかどうかを問題演習で確認し、5問連続で正解したら先に進むことができる仕組みになっています。

このようにスモールステップで進む形式の場合は、1動画1トピックで簡潔に説明するものがよいようです。

 

アクティブラーニングなどのグループワークを中心に据える場合、説明を詳しくしすぎないのが重要だそうです。実際、小林昭文先生の授業では、最初の10分ほどでパワーポイントなどを使って完結に内容を説明しています。横山北斗先生にお話を聞くと、重要なことは教えるのではなく、グループワークの中で生徒が自分で発見してほしいとおっしゃっていました。この観点からすると、動画講義を作る場合は15分以内になるでしょう。

 

このような観点からすると、「やっぱり、動画は10~15分が適切だ!」という結論になりそうですが、これとは全く違い、長時間の予習動画を作っているケースもあります。古文の反転授業をされている甲斐資子先生の動画講義は、20分~45分です。上記の観点からすると、「長すぎて、受講者の集中力が持たないんじゃないのか」と思われるかもしれません。

しかし、ある程度の長さを持たせることによって、全体像を把握させたり、ストーリーをつかませたりさせることもできます。甲斐先生は、動画講義を「予習」と位置づけずに「配信授業」と読んでいます。動画講義の中で重要なことはすべて伝えて、動画でしっかり学ばせるという位置づけになっています。

 

●スモールステップ形式 → 1動画1トピックに区切り、分かりやすく説明する。

●アクティブラーニングを元にした予習動画 → できるだけ簡潔に短くする。説明は意図的に不十分にすることもある。重要なことはグループワークで自分で発見させる。

●甲斐先生の「配信授業」 → 重要な内容を伝えている特別な「授業」という位置づけなので、授業と同じくらいの長さになり、授業と同じクオリティを目指す。

 

というように、反転授業のための予習動画といっても、やり方が違えば、役割が違ってきて、最適な時間も変わってきます。

でも、多くの方は、「45分の動画講義を受けるのはつらい」と思うのではないでしょうか?

実は、ここには、秘密があるのです。

甲斐先生の使っているThinkBoardには、2倍速再生、4倍速再生が機能としてついています。2倍速で聞けば、45分の講義といっても、実際には23分くらいで聞き終えることができます。

2倍速で聞いて、ちゃんと理解できるの?と思うかもしれませんね。

MITの学生にMOOCsの授業を倍速再生で受けさせて、理解度が下がるかどうかをテストした研究があります。

第6回【識者インタビュー】 デジタル家庭学習の最先端 ~世界の論文調査から~ より引用)

—- ここから引用 —-

MOOCsの中には、授業を倍速で視聴できる機能を持つものがあり、MITの学生がMOOCs方式の授業を倍速で視聴した場合、授業の理解度は落ちなかったとMITの研究で明らかになっています。つまり、オンライン授業を倍速で視聴すれば授業時間が短縮され、学習者はより多くのことを学ぶことができます。

—- 引用ここまで —-

実は、僕も甲斐先生が使っているのと同じThinkBoardを9年前から使用しています。

9年間の間に、数千人の生徒が2倍速・4倍速再生をどう使ったらよいかという試行錯誤をしてきました。

倍速再生の使い方、ノートの取り方など、e-Learningの効果的な使い方についてのノウハウを9年かけて蓄積してきました。

 

その結果、もっとも効果的だと思われる動画講義の受け方は、

「分かるところは、2倍速で進み、分からないところが出てきたら、等速に戻してその部分だけを反復し、理解できたら先へ進む」

というものです。

 

どうして、このやり方がよいのか、ずっと考えていて、気づいたことがあります。

それは、「インタラクティブ性があると飽きない」ということです。

ビデオを見ながら寝てしまうことはあっても、ビデオゲームをしながら寝てしまうことはありませんよね。

インタラクティブ性があると、頭が活性化して、学びやすい状況になるのだと思います。

この場合は、自分の理解度に合わせて、最適な速度を選択したり、分からないところを反復したりする行為をすることで、受身にならずに動画講義に取り組むことができます。これが、インタラクティブ性と似た効果を生み出しているのだと思います。

 

実は、僕の講義ファイルは、甲斐先生のよりもさらに長く、60分~120分です。

しかし、受講者からは、講義が長すぎるという声は上がってきません。

「2倍速で何回も何回も繰り返して聞いています」という声が届きます。

オフ会で会ったときに、「田原先生が、等速で話しているのが違和感があります(笑)」と言われるほどです。

 

このように、動画講義だけをとっても、まだまだ掘り下げていくと、いろいろな可能性が出てくると思います。

今後も、実践例を中心に紹介していきたいと思います。

 

 

■10月7日のオンライン勉強会では、反転授業やアクティブラーニングを実践されている先生が、実践例を紹介してくださいます。

オンライン反転授業はこちら

 

■実践されている方、実践を検討されている方、ぜひ、つながりましょう。

Facobookグループ「反転授業の研究」はこちら

※グループに参加希望の方は、田原までメッセージ下さい。

 

 

 

 

動画講義作成について

反転授業研究会の中西先生のブログへのトラックバックです。

トラックバック先の記事はこちら

 

この記事を読み、今後、動画講義を作ってみたいという方も増えてくると思い、僕がやってきた環境について書こうと思いました。

僕がオンラインで講義配信をはじめたのは2004年です。

あっという間に9年間が過ぎました。

そのころは、ScreenCastという言葉も知らず、講義配信をする方法を試行錯誤していました。

その中で出会ったのが、

ThinkBoard (そのころは、PCレターという名前でした)

物理ネット予備校の講義は、今でもこのソフトを使って製作されています。ソフトはWindows用のものなのですが、動画変換コンバーターがあるので、必要に応じてmp4ファイルに変換して配布しています。

ソフトの使い勝手は非常によく、文字を書くときに字が遅れたり、切れたりしないのでストレスを感じずに講義を作ることができます。

僕の場合は、WacomのIntuos 3というペンタブレットをつなぎ、ヘッドセット(USBタイプ)を接続して、しゃべりながら講義を作成しています。

人によっては、画面に直接各タイプのほうが使いやすいかもしれませんが、慣れてしまえば、ペンタブレットで違和感を感じなくなります。

Intuos 3は、大きいので、持ち歩いて使い方を説明するような場合などは、Bambooシリーズを使っています。こちらでも問題なく使用できます。

 

ThinkBoardの欠点は、動画変換に時間がかかることです。

僕の場合、反転授業用の予習動画ではなく、予備校の授業全体をそのまま講義ファイルとして作成しているので、1講義の長さが60分~120分と日上位長いです。それを変換するときには、やはり60分以上かかることが多いです。

その点、最初から動画で作成してしまえば、変換にかかる時間を短くできるので、手軽に動画作成できると思います。

ただ、一方で、ThinkBoardの使いやすい点は、編集機能が非常に強力だというところです。

講義をモジュール化しておいて、使いまわすこともできます。

ただ、その際、音声レベルにばらつきがあると、講義として聞きにくいことになるので、編集するときにmp3gainというフリーソフトを使って、音声レベルを平滑化するようにしています。

田原

E-Learning教材に教師の「顔」は必要か

E-Learningのための教材を作る場合、3つの場合があると思う。

1)動画講義

2)ScreenCast(PCの画面を録画したもの)

3)Webプログラム

Webプログラムは、開発に時間と労力がかかりすぎるので、とりあえず、ここでは、考察の対象外とし、動画講義とScreenCastを比較したいと思う。

動画講義形式は、東進衛星予備校や、河合塾マナビスなど大手予備校が採用している形式である。

最初は、予備校の教室での授業をそのまま録画していたが、最近は、生徒のいないスタジオで撮影する場合が多い。

私も河合塾マナビスの講座を担当したことがあるが、3つのカメラが3面の黒板の前に固定されており、それらを切り替えながら撮影していた。動画の撮影技術と編集技術を持った人が必要で、機材の運搬や、スタジオ(教室)の確保などコストはかかるが、教師側としては、普段やっているのとほとんど同じことをやればよいので教材作成にかかる負担は少ない。

一方、ScreenCast形式は、PCにペンタブレットとマイクセットをつないで、机に座って教材を作成することが可能である。Kahn Academyの講義も、この形式で作られている。

私は、物理ネット予備校の全講義をThinkBoardというソフトを使って製作しているが、そのほとんどは、自宅の机に座って作成したものである。講座作成に要するコストと労力はかなり低くなる。

自分の姿が生徒に見えないので、ジェスチャーを使った説明などができなくなるのは少し不便で、普段の授業とまったく同じようにするというわけにはいかないが、背景に問題や図を表示させて、そこに書き込んでいくということができる点は、黒板よりも便利である。これは、問題の解説などのときには、非常に便利だ。

ここまでは、教師側の立場から述べてきたが、講義を使って勉強する生徒側の立場では、どちらがよいのだろうか。

「反転授業の研究」という勉強会では、教師の顔があったほうが、教師に親しみが沸くという意見があった。

誰しも経験があると思うが、先生が嫌いになったり、先生に反感を持ったりすると、その先生が教えている教科を勉強する気がなくなってしまったりすることがある。先生に対してよい印象を持つ、さらには、信頼関係を構築するということは、学習効果を上げる上で重要な要素であろう。

また、ScreenCast形式で講義DVDを作っていたら、「眠くなる」という読者からの意見があったため、講師の顔の動画を丸くくり貫いて表示させるようにしたアルス工房の参考書の例も興味深かった。

乗用車のフロントを顔に似せていることからも分かるように、人間は「顔」を、無意識的に重要なものと見なす傾向がある。顔は注意を引き付ける効果を持つのだ。

では、顔を講義に出していない講座は、生徒の注意を引き付けられないのだろうか。

また、生徒からの共感や好意を受け取ることができず、信頼関係を結ぶことができないのだろうか。

私は、それは、別のもので総合的に補うことができると考えている。

教師のキャラ、価値観などが、情報として十分に示されていて、あらかじめ教師に共感と好意を持っている場合は、講義に顔があるかどうかは問題ではなくなるであろう。

むしろ、その場合は、画面が見やすい、集中しやすい、倍速再生が使えるなど、ScreenCastのメリットが出てくるのではないだろうか。

教育において、生徒と教師との間に好意的な関係性が結ばれることが、教育効果によい影響を与えるのは、おそらく間違いない。

だから、好意的な関係性、信頼関係が結ばれることが重要で、顔は、そのために役立つひとつの要素であるが、不可欠なものではないということではないだろうか。

十分な「共感空間」が構築されている場合は、あえて講義の中に「顔」を持ち込む必要はないが、限定された接触機会の中で共感や好意を得るためには講義中に「顔」を出すことは有効な手段であろう。

(田原真人)