学びのパラダイムの転換をコミュニティ・ラーニングへ拡張する

オンライン教育プロデューサーの田原真人です。

教える仕事をしている皆さんは、授業をつくるときに、どのような生徒像を想い描いていますか?

今、プロデューサーとして関わっている「YOU∞理論」の講座で、情報を発信していくペルソナを考えるワークをしているときに、ある気づきがありました。

それは、

僕は、かつて物理ができなかった頃の自分自身に対して授業をしている。

ということでした。

自分が乗り越えるのに苦労した「物理を学ぶ」という壁を、予備校の先生に手助けしてもらって超えることができ、そこに大きな感謝の気持ちがあるので、今度は、自分が手助けする側に回ろうということで予備校の講師になったんだなと気づきました。

そして、教える側になり、教え方を工夫しているうちに、自分の思考がどんどん体系化していって、効率よく教えられるようになりました。

学びの原理

ラーニング・ピラミッドで考えると、教えることが一番学習定着率が高いわけですから、毎日、大勢の前で授業をしている予備校講師が、教室の中で一番学習定着率が高い存在なわけです。(ラーニング・ピラミッドの正当性については、様々な考えがありますが、ここでは立ち入りません)

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これを、抽象化すると、このように言うことができます。

自分がかつて超えた壁の手前に立ち止まっている人に対して、自分の経験をもとに手助けしていくと、自分の思考が体系化されていく

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学びの原理からアクティブラーニングを考える

アクティブ・ラーニングというのは、「自分が超えた壁の上から、壁の手前の人が超えるのを手助けすることによって、自分が壁を超えたプロセスを振り返ってメタ化することができ、思考が体系化される」ということを学びの原理に置いているのではないかと思います。

教壇に立って教えている予備校講師の自分が、教室の中で一番学んでいたのであれば、そのような組み合わせを教室の中にたくさん作れば、生徒の頭が活性化し、生徒の思考が体系化されていくのではないでしょうか。

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このとき、教師の役割は、ファシリテーターとして教室全体に目を配り、生徒のマインドを整えたり、学び合いが起こる組み合わせを作ったり、学び合いがうまくいっていないところを支援したり・・・ということになるでしょう。

このやり方には、とても良いところがあります。

アクティブラーニングを実践するとすぐに気づくのは、生徒の思考の癖は様々であり、自分にも生徒と同様に思考の癖があるということです。

自分と似た思考の癖を持つ生徒には、うまくアドバイスできても、自分とタイプが違う生徒にはうまくアドバイスできないこともあります。そのときに、様々な「壁を超えるためのアドバイス」を生徒同士で共有することで、様々な思考の癖を持つ生徒が、壁を超えやすくなるのです。

学びの原理をコミュニティラーニングへ拡張する

アクティブラーニングを通して、学習コミュニティの中に学びの原理が共有されていくと、ファシリテーターなしで自発的に学び合いが進んでいくようになります。

メンバーそれぞれが、自分が助けられそうな機会を見つけ、他の人を手助けすることで、自分の思考を体系化して学んでいくわけです。

壁の前で立ち止まると、あちこちから支援の手が伸びてきて、壁を超えると、支援した側から「学びの機会を与えてくれてありがとう。あなたのおかげで思考を体系化できました」という感謝の言葉が返ってくるという文化が定着すると、コミュニティ全体が学びに溢れて加速していきます。

これが、僕の考えるコミュニティ・ラーニングです。

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コミュニティ・ラーニングが起こっている空間では、できないことがあることは、「恥」ではなく、「他人に学びのチャンスを与える機会」となります。
 
この空間は、Give and Giveが成り立つ空間です。

Give and Giveが成り立つと、学びが泉のように湧き出し、学びは加速していくはずです。

このようなことは、単なる夢でしょうか?

僕は、そう思いません。

「反転授業の研究」では、すでに、コミュニティ・ラーニングが起こり始めています。

それを体験した教師の皆さんが、教室を変えていったとき、世界のあちらこちらでコミュニティ・ラーニングが起こり始めるはずです。
 
プロジェクトや組織の中でコミュニティ・ラーニングが生まれれば、その結果として価値創造が起こりやすくなるでしょう。

そうなれば、もっと自由に、もっと楽に、もっと豊かに生きられる社会が現れるのではないでしょうか。

共創(Co-Creation)はパワーを生み出しながら広がっていく

「反転授業の研究」の田原です。

ずっと個人で仕事をしてきた僕が、「反転授業の研究」に関わるようになり、生まれてはじめてコミュニティの運営をしたり、オンライン勉強会を企画したり、インタビュー記事を書いたり、それが何を意味するのか分からないままに、手探りでいろいろやってきたんですけど、その中で、

「もやもやしたところから、自分一人で伸びていくのは難しいけど、他人が媒介になってくれると、それを足場にして伸びていけるようになる」

というパターンと、繰り返し、繰り返し、いろんなレベルで出会いました。

僕の中では、これが、

「共創(Co-Creation)」が起こるメカニズム

なんじゃないかという確信が、日々高まっています。

 

共創が起こると「1+1=美」になる

意味が分からないままに直観に基づいてやっていることに対して、あるとき、誰かが、

「あなたのやっていることは、このような価値がありますね。」

「あなたのやっていることのおかげで、私は助かりました。」

などと教えてくれるときがあります。そのときにはじめて、自分のやっていることの価値を信じられるようになり、その方向に力強く踏み出せるようになるのです。

 

このことに気づいたきっかけの1つが、インタビュー記事でした。

もともとは、オンライン勉強会の登壇者を紹介するために、インタビューをして記事にまとめていたんです。

相手の話を傾聴し、その人のやっていることがどのような価値があるのかということを自分の視点で書いていきました。

すると、インタビューされた側から、「田原さんからインタビューされたことをきっかけに、行動できるようになりました」という声をいただくようになりました。

僕のインタビューが、相手にその人が持つ価値を知らせることになり、

さらに、インタビューされた相手が、僕にインタビューすることの価値を教えてくれたんです。

 

このように、お互いに引き出す関係は、

1+1=2

じゃないんです。

1+1=美

だと思います。

U理論の翻訳者で、Co-Creation Creatorsの由佐美加子さんは、

「美に触れると元気になる」

と言っています。お互いがお互いの力を引き出しあう共創が起こると、心の底から元気が出てくるんですね。

実際、僕は、「反転授業の研究」で、たくさんの人が、意味が分からずにやっている行動に対して「価値」を与えてくれたおかげで、どんどん伸びていくことができるようになり、本当に元気になりました。

 

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共創が起こる「場」には、美が溢れる

1対1の関係ではなく、「場」の中に、お互いがお互いの媒介になるようなつながりが無数に出来上がるとどのようなことになるでしょうか?

自分以外の誰かの媒介となり、その人が伸びていくのを助けようというマインドがコミュニティに溢れたら、すごいことになるのではないでしょうか?

いたるところから、ものすごいエネルギーが溢れてきますよね。

最近、杉山沙奈さんが考えた「後押しシステム」が動き始めました。

これは、自分の周りの誰かに「あなたのやっていることには価値があるからみんなにシェアしてください」と推薦する仕組みです。

お互いが誰かの媒介になっていこうという仕組みです。

自分のやっていることの価値に確信が持てなかった人に、外から価値を伝えることによって、次々と出てくれるようになる後押しシステムは、コミュニティのいたるところで「共創」を引き起こしていくと思います。

「反転授業の研究」に「美」が溢れて、一緒に元気になっていくというイメージが湧いています。

 

共創(Co-Creation)の輪は、エネルギーを生み出しながら広がっていく

「反転授業の研究」を始めた2年前、こんなことを考えていました。

21世紀スキルや学び合いを広めていこうという僕自身は、学び合いの経験を持っていない。

まずは、オンラインコミュニティで学び合いをして、その体験を通して分かったことを、それぞれが教室に持ち込んでいこう

団塊ジュニア世代の僕が受けた教育は、おもいっきりトップダウンの一斉講義型の授業ですし、仕事も予備校講師と自営業だったので、協力する、コラボレーションするということがどういうことなのか、当時は分かっていなかったのです。

でも、体験を通して「共創(Co-Creation)」の原理に出会った今は、確信を持って、その価値を発信できるようになりました。

 

トップダウン式に管理する場合、管理者がパワーを独占し、管理しやすくするために被管理者のパワーを削いでいきます。

被管理者の数が増えると、管理者はもっとパワーが必要になります。

管理者が持つことができるパワーの限界がボトルネックになり、組織を維持できる限界になります。

さらに、パワーを管理者に集中させて組織を維持するために、情報格差や機会格差が利用されることもあります。

 

しかし、コントロールを手放して共創が起こるようにすると、各メンバーからパワーが溢れだします。

百花繚乱に咲き乱れたメンバーの多様性が、組織の創造性の源になります。

このような組織にはボトルネックが存在しないので、シンクロしながら横へ横へ広がっていきます。

「反転授業の研究」に共創が起こり、「美」に触れて元気になった教師たちが、それぞれの教室で共創を引き起こして生徒を元気にしていくと、どんなことが起こるでしょうか?

3000人を超えるメンバーが、それぞれの現場で共創を引き起こしき、それが、さらに派生していったら、どんなことが起こるでしょうか?

夢が広がっています。

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反転授業と民主主義

「反転授業の研究」の田原です。

今日は、ずいぶん大きなタイトルをつけてしまいました。

僕の手にあまる大きなテーマなので、稚拙なことしか書けませんが、このブログ記事をきっかけにして様々な意見が出てきて、よりよいビジョンが生まれることを信じて投稿します。

 

私が「反転授業の研究」で経験したこと

これまでも何度も書いていますが、「反転授業の研究」に関わる前は、私は予備校講師として、自分の成功と、自分が担当している生徒の合格を願って生活していました。

そんな私の考えが大きく変わったきっかけは、「集合知」という考えに出会ったことでした。

もともと大学院で生物物理を学び、複雑系や自己組織化という考えに親しんできた私にとっては、

「対話によって、グループの中に集合知が創発する」

という考えは、とても魅力的なものでした。

それが可能なのであれば、ぜひ、体験してみたいと思って、好奇心に火が着いたのです。

自己組織化現象が起こるための原理は「正のフィードバック」なので、「反転授業の研究」の中で生まれる小さな動きにフィードバックをかけて増幅していくということをひたすら繰り返していきました。

具体的には、

・自己紹介をしてもらう。

・自己紹介に出てきた内容に対して、好奇心を持って質問していく。

・関連性の強そうなメンバーと繋いでいく。

ということを、毎日毎日続けていました。

グループ内での活動量が多い人にオンライン勉強会で登壇してもらい、さらに光が当たるようにしました。

すると、グループの活動がどんどん活性化してきて、グループの人数も、毎月100名を超えるペースで増えていきました。

ある程度、活動の方向性が決まってきた段階で、グランドルールを設定しました。

このグループは、テクノロジーを利用することによって学習者中心の学びを作り出していこうと考えている人が、対話を通してアイディアや理解を深めていこうというグループです。

多様性のあるメンバー間の対話により、自己組織化的に集合知を得ることを活動の目標にしています。

また、メンバーが協力し合って集合知を得ることを体験することにより、21世紀型スキルを磨くための自己研鑽の場でもあります。

「究極の反転授業」のような唯一の解を目指すのではなく、活発な対話が繰り広げられることによって、それを養分とした豊かな生態系が生まれ、「多様性のある森」が育った結果、それぞれにとって有益な果実が実るというイメージで運営しています。

【グランドルール】

自由でオープンな対話が行われるために、最低限のルールを設定します。(ルールについての意見もお願いします)

・知識レベルや社会的地位などによらず、平等に対話すること
・相手を誹謗中傷しないこと(意見の違いはOK)
・他の部分のコメントと関連するときは、リンクを張ること
・できるだけ対話に参加すること

※相手の意見に対して違う意見を述べるのはOK。その意見を言っている相手の属性について批判するのはNG。
NG例:「学生のあなたには分からないと思いますが・・」
※話の前提を確保するために、必要な情報はリンクを張って共有してください。
※対話の量と質が閾値を超えたときに、自己組織化が起こります。

【メンバーに求められるスキル】

・自己と他者のメンタルモデルの違いを認識し、その違いによって断絶するのではなく、そこから多角的な視点を獲得し、創造へつなげること。

・相手の話をよく読み、良質の問いによって、相手の言いたいことを十分に引き出すこと。

参考「どんぐり教員セミナー」
http://www.linkandcreate.com/#!untitled/cl5d

【主な探求テーマ】

・動画授業の作り方
・授業設計
・アクティブラーニング
・探究型学習
・参加型組織、学習する組織
・ファシリテーション

誰もが、お互いを「●●さん」と呼び合うようにし、自由に対話が起こるようになると、様々なコラボレーションが起こるようになりました。

そして、あることに気がつきました。

自分の長所は分からないが、人の長所は良く見える

ということです。

オンライン勉強会の登壇者にインタビューをするようになり、相手の話を傾聴し、それをインタビュー記事にまとめ、そのときに、私が気づいた相手の長所や、実践に対してどんな価値を感じるのかということを書いていったところ、それが相手にポジティブな影響を与えるのだということに気づいたのがきっかけでした。

また、他の人からのフィードバックによって、自分自身も自分の強みに気づくことができ、行動力がどんどん増してきました。

そのことに気づいてから、積極的に気づいたことを相手に伝えるようになりました。

私だけでなく、グループの多くのメンバーがそのような行動を取り始め、グループ内の活動に参加する人が、どんどん元気になっていくという状況が生まれてきました。

信頼関係のネットワークが広がると、

自分には苦手なことがあるけれど、それが得意な人もいるから、協力すればやりたいことができる

と考えられるようになりました。

そして、実際、何かやるごとに、多くの人が手を挙げてくれてチームができ、協力し合って学び合いのコミュニティが出来上がるようになりました。このような経験を繰り返すごとに、協力すれば価値を創造できるという自信が生まれ、希望が湧いてきました。

「対話によって、グループの中に集合知が創発する」ということに好奇心を抱いて始めた活動でしたが、実際にやってみると、予想以上のものでした。

単に集合知が創発するだけでなく、そこに関わった人たちが元気になり、場合によっては生き方に大きな影響を与えるようなインパクトを与えたのです。私は、この経験によって人生観が大きく変わってしまいました。

『U理論』の翻訳者である由佐美加子さんは、次のように言っています。

「美に触れると元気になる」

これは、私たちの経験を端的に表しているものではないかと思います。

 

教室に集合知を創発させれば元気になるのではないか

このような人生を変えるような強烈体験をしたことで、1つの考えが浮かぶようになりました。

教室に集合知を創発させれば、子どもたちが元気になるのではないか

そのために必要なことは、次のことだと考えています。

(1)教師が権威を手放し、生徒の主体的な活動にフィードバックを与え支援していくこと

 

学校→教師→生徒 というトップダウンに管理が降りてくる状況では、生徒はお互いに孤立し、主体的に行動したり、協力したりすることができません。

管理を強める教師が恐れるのは、生徒の「勝手な行動」であり、生徒の力を弱めて、教師が思うとおりに行動するようにしているわけです。

第7回反転授業オンライン勉強会でお話しくださった組織コンサルの鈴木利和さんは、次のように言っていました。

「このときに、フラットな関係というのが大切。権威がいるとその意見を聞いてしまうんだけど、フラットな関係で権威がいないと、『えー本当?』となって、自分で調べてみようということが起こるんです。だから、その可能性に期待しているんです」

「フラットな関係という前提がないと、集合天才はおきないんです。」

教師が管理を手放し、生徒の主体的な学びを促すファシリテーターになって学び合いを起こしていくのがアクティブラーニングであり、アクティブラーニングを効率的に行うために知識のインストールを教室外に置く方法が反転授業です。

ここでは、教師の役割が教室を管理する「壇上の賢者」から、生徒の主体的な学びを支援するファシリテーターへと変化するのです。

(2)暗黙知→形式知→集合知

一人では解けない問題をチームで協力することで解くことができたり、一人では実現できないプロジェクトなどを、チームで協力して実現できたりという経験は、生徒の生き方に大きな影響を与える強い経験になるはずです。

そのために必要なのは、一人一人の試行錯誤を共有することです。

共有するためには、言語化して説明する必要があります。

たった一人で技能を磨くだけであれば、暗黙知を蓄えるだけでも十分かもしれませんが、集合知を発生させるためには、それぞれが蓄えた暗黙知を、言語化して相手に伝わるような形(=形式知)にする必要があります。そうすることで、それぞれの気づきが共有され、お互いにヒントを与え合って学び合いが促進されていきます。

暗黙知を言語化するために有効なのは、好奇心を持ってお互いに問いかけることです。

そして、集合知を創発させるために必要なのは、自分と違う考えの人から学ぼうとする姿勢です。

アクティブラーニングや反転授業を通して、このような経験をした人は、意見が異なる他者を競争相手と考えるのではなく、協力して価値創造する「共創相手」と捉えるようになります。

ここに根本的な視点の転換があります。

孤独から解放され、元気になるメカニズムがあるのです。

 

「競争・民主主義」から「共創・民主主義」へ

鈴木利和さんにインタビューしたときに、印象に残る言葉がありました。

集合天才があると信じるということは、民主主義を信じるということです。

反転授業の話をしていて、「民主主義」という言葉が出てきたのが意外だったので、強く印象に残っています。

団塊ジュニア世代の私が、「民主主義」という言葉を聞くとすぐに連想されるのが「多数決」という単語です。

小学生のとき学級会があり、机をコの字にならべ、何かの議題について話し合い、時間が来ると議長が多数決を取るという記憶が蘇ります。

そして同時に、反対意見に決定して文句を言うと、議長役の学級委員から、

「民主主義なので、多数決に従ってください!」

と言われた光景が思い浮かびます。

これは、同世代の多くの小学校の教室で繰り広げられた光景なのでしょうか?

しかし、鈴木さんの口から出てきた「民主主義」とは、これとは異質のものです。

学級委員長が言っていたのを「競争・民主主義」、鈴木さんが言っていたのを「共創・民主主義」と呼んで区別することにすると、この2つは、同じ「民主主義」という言葉を使っていますが、ベクトルの方向性が全く逆向きです。

 

「共創・民主主義」は、集合知を創発させることを目標とし、多様性を創造の源にします。

お互いが自分の考えの土台となるメンタルモデルを動かす覚悟を固めて、お互いの意見を傾聴していくとカオスが起こります。

そのカオスの中で、各メンバーが暗黙知を蓄え、それを言語化して共有し、集合知を創発させていったとき、すべてのメンバーの力が集約し、一人一人では到達できないゴールへ到達することができます。

このとき、異質な考えは、アウフヘーベンを起こしていくためのエネルギーになるのです。

 

一方、「競争・民主主義」では、「共創」ではなく「競争」の原理によって動きます。

意見が異なる相手は戦うべき敵であり、自分の意見を通すことが目的になります。

話し合いの目的は、相手を言い負かして、迷っている人を味方につけていくことになり、すでに多数を占めている側は、話し合いの最後に行われる多数決によって勝利を得るのを待つのみです。

話し合いは、少数派に対して「民主主義なので、多数決に従ってください!」と結論を押し付ける単なる儀式になり、少数意見に属するメンバーには無力感が漂います。

 

私たちが望んでいるのは、どちらの「民主主義」なのでしょうか?

「共創(Co-Creation)」は、そこに関わったすべての人に自信を与え、元気にしていきます。

自分たちに価値があると信じられるようになり、自分たちが生み出すものを共有することで生きていけるという実感を得ることができます。

私は、アクティブラーニングや反転授業が広まり、多くの教室で共創により集合知が生まれるようになり、教師や生徒のマインドセットが変わっていったときに、「共創・民主主義」が生まれるということを信じています。

変容型ファシリテーターのBob Stilgerさんは、『未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう?』の中で、「トランスローカル」という概念を紹介しています。

これは、

ローカルのコミュニティが物語を紡ぎ、それがお互いにつながったときに社会変容が起こる

というものです。

教室は1つのコミュニティです。

学校も1つのコミュニティです。

それぞれの現場で学び合いが起こり、共創によって集合知が生まれるという体験を共有し、それを自分の言葉で語っていったとき、インターネットがそれらの物語を繋ぎ、メタレベルでの物語を生み出していくはずです。

メタレベルの物語が生まれ、それが共有ビジョンになったとき、「競争・民主主義」から「共創・民主主義」への相転移が起こるかもしれません。

私は、「反転授業の研究」に関わるようになり、教育に関わる多くの人と接し、一緒に協力して活動し、多くの素晴らしい体験を共有し、自分たちの力を信じることができるようになりました。

 

共創によって未来を創っていく人たちの輪が広がっていくことを信じています。

 

 

 

反転授業と単なる予習との違いは何か

反転授業とは、「動画講義を宿題にし、教室では学びあいやグループワークなどの発展的な活動をやる」というものです。

これを見ると、

「結局、予習して授業に臨むということじゃないか」

という感想を持たれる方がいらっしゃいます。

何か違うんだよな~と思いつつ、その違いをはっきりと言葉にできていなかったのですが、Facebookグループでやり取りをしているうちに、頭の中が整理され、単なる予習と反転授業との違いを言語化することができました。

思考の土台になったのは、東向陽台小学校の佐藤先生の事例と、近大付属高校の芝池先生の事例です。

お二人とも、反転授業を導入する前から、学びあいや協働学習に取り組まれていました。

そして、学びあいや協働学習の時間を確保したいということで、反転授業に取り組まれたのです。

佐藤先生のクラスでも、芝池先生のクラスでも、生徒は基本的に100%予習して授業に臨みます。

つまり、基本的に全員が動画講義を見てくるのです。

予習100%を実現している秘訣は、「動画講義の魅力」とかではなく、クラス運営能力です。

教師と生徒との信頼関係をベースにして、学ぶ姿勢を整えているから100%予習してくるのです。

 

ここまで考えて、疑問がわきました。

佐藤先生や、芝池先生は、反転授業を導入する以前から、「教科書を読んでくる予習」を生徒に課すことは可能だったのです。

彼らのクラス運営能力なら、全員に教科書を読んでノートにまとめてくることを予習として課すことができたはずです。

しかし、それをやらずに、タブレット端末が導入されて、はじめて「予習が宿題」になったのはなぜだろうかと思ったのです。

 

ポイントは、「教科書を読んでもわからないけど、先生に説明されると分かる」という点にあると思います。

佐藤先生の言語活動を重視した学びあいや、芝池先生の問題演習を中心とした協働学習を行うためには、内容について70%くらいの理解がベースになると思います。

ところが、教科書を読んでノートにまとめてくるやりかただと、たとえば、30%程度の理解しかできないのではないでしょうか。(一部の、優秀な生徒は、教科書を読んだだけで十分な理解をすることができると思いますが・・・)

そうすると、結局、教室で、もう一度、講義をしなくてはならなくなり、学びあいや協働学習の時間を作ることができなくなるのだと思います。

 

ところが、動画講義の場合は、「先生が説明している」わけなので、教室での講義と同じように理解度を70%程度まで上げることが可能です。

すると、教室では、5分程度の確認の時間を取るだけでよく、学びあいや協働学習に入ることができるのです。

学びあいや協働学習の時間を確保するという目標は、「教科書を読んでくる予習」では達成できず、「動画講義による予習」によってはじめて達成できるのです。

つまり、これまで教室で教えるしか方法がなかった「理解度を70%に上げる」ということが、動画講義によって教室外に置くことができるようになった。それによって生まれた教育のイノベーションが、反転授業なのだと思います。

 

「結局、予習して授業に臨むということじゃないか」

という意見には、今後は、

「従来の予習では、理解度が低いため、教室で結局、授業をやらなくてはならず、グループワークの時間を確保できなかったが、動画講義で予習させることによって理解度を上げることができるようになり、教室で最初からグループワークをできるようになったという点が、大きな違いです。」

と回答しようと思います。

 

 

●Facebookグループ「反転授業の研究」では、514名のメンバーがアクティブに活動しており、様々なコラボレーションも生まれています。

参加希望の方は、こちらから追加申請してください。

反転授業(Flipped Classroom)の概要

New York Timesは、反転授業(Flipped Classroom)に利用することのできるコンテンツを配布しており、さらに、それを使った学習方法の提案を行っている。

New York Timesの記事をベースに、反転授業(Flipped Classroom)の概要をまとめた。

 

反転授業(Flipped Classroom)とは、

【自宅】 動画やE-Learning教材などの教育コンテンツを用いて学習する。

【教室】 教師のサポートの下で、仲間との共同作業により、発展的学習、練習、研究を行う。

という教育法である。

 

旧来のやり方は、

【教室】 教師が講義を行い、知識を与える。

【自宅】 反復練習などを行う。

というものであり、反転授業が旧来の教育法と違うことは、「教室での学習」と「自宅での学習」の順番をひっくり返してしまったことである。

 

教師は、反転授業のための予習用教材を、動画、podcast、パワーポイントのようなITテクノロジーを用いて自分で作成する場合もあるが、Webから入手できる教材を利用する場合もある。

自分で教材を作るときに役立つサイト

  • Teacher Tube ・・・Youtubeに似た動画投稿サイト。教育系に特化している。
  • Show Me app ・・・ iPadアプリ「ShowMe Interactive Whiteboard」によって簡単にコンテンツを作成し、アップできる。しゃべりながらiPadに手書きで文字を書き込んでいき、それらをすべて保存することができる。
  • voice recording tool ・・・Vocaroo, Audio Pal, Voki などの音声コンテンツ作成サイトが紹介されている
  • Screencastle・・・PCの画面動画を録画し、Webにアップすることができるサイト。「screencast」というキーワードで調べると、同様のツールが出てくる。

既存のコンテンツを利用するのに便利なサイト

  • Vi Hart ・・・ノートへ手書きを動画で撮影しているもの。内容は数学。学校のカリキュラムに沿ったものというよりも、数学の面白さを追求している。英語のスクリプトもあり。運営者は、現在、Khan Academyのスタッフとして働いている。
  • Khan Academy・・・3800以上のビデオがあり、小学生から大学生まで学ぶことが出来る。ビルゲイツ財団が出資している非営利団体で、Khan氏がすべての講義動画を作成している。1つの動画は10~15分くらい。学習の進度や順番が分かるようにシステムが作られており、反転授業に利用しやすいような工夫がされている。
  • Teaching Channel・・・教師が教え方を改善するのに役立つ動画を中心に、数百個アップされている。
  • Youtube EDU・・・Youtubeにアップされている大量の教育系ビデオ講義がまとめられているページ
  • Openculture.com・・・大学が公開している無料講義のまとめサイト。講義をそのまま録画、録音したものが多いため、1つのコンテンツの録画時間が長い。語学系のコンテンツも充実している。

生徒にとってのメリット

  • 自分のペースで勉強できる。
  • いつでも、何度でも復習できる。

教師にとってのメリット

  • 生徒の理解度やスキルにばらつきがあるクラスで教えるときに、個別サポートに時間を使うことができる。
  • 教師の役割が「Sage on the stage (舞台の上の賢人)」から「Guide on the side」へ変化する。
  • 同じ説明を繰り返す代わりに、それをビデオで撮影してしまい、エネルギーを個別指導に当てることができる。

反転授業の運営について、教師間で多くの情報が共有されている。

  • Flipped Classroom

 

スタンフォード大学における反転授業の導入状況

  • 3つのコンピューターサイエンスのクラスをオンラインで受講できるようにした。
  • 最初の4週間で、30万人の生徒が申し込みがあり、講義動画は、100万view、提出された宿題の数は、10万人分
  • この成功から学んだこと
  1. ビデオ講義が、生徒を引き込むこと。
  2. 短いコンテンツのほうが、長い(1時間以上)コンテンツより、集中力が維持できるという点でよいこと。
  3. 才能のある学生は、自分で先へ進むことができるので飽きずにすむこと。
  4. 受動的にビデオを見るだけでは不十分で、練習や宿題を課すことが学習に不可欠であること。(単に評価するだけではなく、考え方を思い出したり、文脈に応じて当てはめたりして、理解を深めることが重要)
  5. テストによって、その単元をマスターした生徒が、教師の指導スケジュールに合わせて足踏みすることなく、先へ進むことができること。

 

参考サイト

Five Way to Flip Classroom with the New York Times

The Flipped Class Network