動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~

「反転授業の研究」の田原真人です。

僕が動画講義を始めたのは2005年。

当時、スクリーンキャストソフトなどといった便利なものがあることを知らなかった僕は、何とかして自分の予備校の講義をネットで配信する方法はないものかと考えて、「実況講義」というPDFファイルを作りました。

語学春秋社の「実況中継シリーズ」のようなものをすべての講義について作って配信しようと思ったのです。

そして、毎週1講義配信という無茶な計画を立ててスタートしました。

当時は、河合塾などの予備校で講義をたくさん担当していましたから、「実況講義」を作るのはもっぱら深夜。

睡眠時間を削って削って作っていました。

「実況講義」をWebにアップロードをすると、その日のうちに感想のメールが山ほど届くので、それに支えられてなんとか全50講義を作り終えることができました。

ちなみに、「実況講義」とはこのようなものです。

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※画像をクリックすると「実況講義」のサンプルが表示されます。

フラフラになりながら、毎週、「実況講義」を作っていたとき、受講生の一人が「いいソフトがありますよ」と教えてくれました。それが、PCレター(今のThinkBoard)でした。PCの画面をキャプチャーして、そこに音声を加えながらペンタブレットで文字や絵を書きこんでいくことができるもので、それを見たときに、

「これを使えば、簡単に講義を録画してネット配信できる!」

とワクワクしました。そして、「実況講義」50講義を作り終えた後、PCレターですべての講義を作り直していきました。

リアルの代替じゃないバーチャル

僕がThinkBoardの旧バージョンであるPCレターを使い始めたときは、PCレターは、まだ試験販売中で正式リリースする前でした。HPでサンプルを見て、開発者の三栄堂の三上博正さんにメールを送り、その日のうちに契約しました。

メールを送ると、三上さんからは、いつもPCレターで返事が来て、ファイルを起動すると、

「えーー、田原さん、こんにちは。北海道はまだ寒く・・・・」

というように三上さんの声が聞こえてきて、画面に手書きの絵が描かれていたのを、今でもよく覚えています。

その三上さんが、いつも口癖のように言っていた言葉があります。それが、

リアルの代替じゃないバーチャルを目指す。

という言葉。

三上さんのこの言葉に導かれるように、リアルではできないことは何だろうかと考えるようになりました。

理解の速さと動画の再生速度をシンクロさせる

開発者の三上さんと、実践者の僕は、対話を重ねながら、動画講義の可能性について探っていきました。

三上さんがこだわっていたのが倍速再生。PCレターには、2倍速、4倍速の機能が最初から実装されていました。

でも、僕は、最初、倍速再生を使う意味がよく分からず、どちらかというと、自分の講義が倍速で再生されるということに抵抗感があって、その機能をOFFにしていました。

すると、三上さんから、

「田原さん、倍速再生の機能、ぜひ、使ってみてください。」

というお願いと、どんな思いで倍速再生を実装したのかという長いPCレターが届きました。

それを聞いて、はっとしました。

「これは、今まで自分が経験していない初めてのものなのだから、勝手に判断せずに、やってみてどうなるのか試してみよう。」

と思いました。

それで、受講者に倍速再生の機能のことを説明し、試しに使ってみるように呼びかけました。

フィズヨビの年間受講者の数は、100、200、300と増えていきました。彼らがどのように倍速再生機能を使っているのかということを調査してみると、驚くべき結果が出てきました。

・ほとんどの受講生が最初から2倍速で聞き、等速はあまり使わない。
・最初に4倍速で通して視聴して、全体像をおよそ掴んでから、最初から2倍速で聞き直す人もいた。
・受講を始めた最初に、すべての講義を通して2倍速で聞いてから、第1講からじっくり学び始める人もいた。

オフ会で会った受講生の一人から、「田原先生が等速で話しているのを聞くと違和感があります(笑)」と言われたほどです。それほど、ほとんどの受講生が、2倍速で視聴していました。

実際、僕自身も、動画を視聴するときは、ほとんど2倍速再生で視聴します。

みなさんもやってみていただけると分かると思いますが、2倍速は、慣れてくると普通の速さで聞こえてきます。

4倍速だと速すぎて聞き取れないですが、一度勉強した内容であれば、画面の動きと音声を手掛かりに記憶が再生されて内容を辿ることができます。そして、理解が甘いところを見つけて、その部分だけ2倍速、または、等速に再生速度を落として繰り返して聞くということができます。

10年間で、数千人の受講者がフィズヨビで学び、様々な試行錯誤をした結果、自然と次のような学び方が浮かび上がってきました。

  • 1回目は講義を2倍速で視聴し、理解しにくいところは等速に落とし、さらに分からなければ繰り返して聞く。
  • 2回目以降は、講義を4倍速で視聴し、理解が出来ていないと感じたところを2倍速に落として注意深く視聴する。

動画講義を学習に使うようになるまでは、全く想像ができない学び方でしたが、リアルの教室では実現できない、動画だからこその学び方が確かに存在するということを、今では自信を持って言うことができます。

動画は最長でも15分の理由

僕が動画講義を使った実践をスタートして6-7年ほどが経ち、いつしか

「動画講義は5分以内が理想。長くても15分まで」

ということが言われるようになってきました。

その理由として、動画に集中できるのは5分くらいが限界だからということが言われています。

おそらく様々な実験をやって検証された結果だと思いますが、僕は、そんなことを知らずに60分~120分の動画講義を使っていて、受講者は、それを2倍速や4倍速でじゃんじゃん見ていくという使い方をしていたので、「5分以内が理想」に違和感を持ちました。

それで、この違いはどこから来るのだろうかということを考えました。

三上さんとも意見を交換しました。

その結果、出てきたキーワードが

シンクロ

でした。

 

このキーワードに出会うきっかけになったのは、次のような疑問でした。

「小説は1時間でも読み続けられるのに、動画はなぜ5分で集中できなくなるのか」

 

そして、たどり着いた仮説は、

「小説が自分の理解の速度に合わせて読む速度を調整できるのに対して、動画は理解の速度と関係なく情報が一方的にやってくるため、ストレスを感じるから」

というものでした。

 

このように考えると、フィズヨビの60-120分の動画講義をストレスなく視聴できる理由は、

「自分自身で理解の速度と再生速度とをシンクロさせられるため、視聴ストレスが少ないから」

というように説明できます。

 

そ理解の速度と再生速度との間にシンクロが起こると、内容に集中しやすくなり、さらに、動画の内容に魅力があれば没頭しやすくなり、そこから、フロー状態に入りやすくなります。

 

人間は、分かっていることをゆっくり説明されると飽きてしまうし、ついていけない速さで説明されると聞き続けるのが苦痛になります。人間にの脳には、顔ニューロンなど、人間を認識して注意を引きつける機能がありますので、対面で授業を受けているときのほうが、多少のズレがあっても耐えられるのでしょう。しかし、動画の場合は、そのズレが際立ってきてストレスを感じやすいのかもしれません。

 

ストレスを感じながらも動画を視聴するのを我慢できる限界が5分・・・ということなら、動画の長さを5分以内にする理由も理解できます。

 

このように考えると、

・等速再生だけなら、動画をできれば5分以内(最長15分程度)にする。

・15分以上の動画であれば、倍速再生機能を付け、受講者が自分の理解速度とシンクロできるようにする。

というようにまとめられるのではないかと思います。

 

これは、きちんとした検証をしたものではないので、研究者の方にぜひ、検証していただきたいです。

 

Youtubeの動画を倍速再生で視聴する方法

みなさんは、Youtubeの動画を倍速再生で視聴する方法をご存知ですか?

この機能がついてから、Youtubeの動画を視聴するのがとても楽になりました。

やり方は簡単!1分で終わります。

こちらにアクセスして、「HTML5試用版を有効にする」設定をするだけです。

詳しいやり方を知りたい方は、こちらを参考にしてください。

iOSのでも、Swift Playerや、SpeedUpTVなどのアプリを使うと動画を倍速で再生できるようになりますので、試してみてください。
 
 
動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~

動画講義ならではの学び方の特徴をシェア

動画講義を作成することに興味のある方は、「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」というオンライン講座を2015年5月9日から4週間で実施しますのでこちらをご覧ください。(申し込み締め切り5月7日。定員30名)

動画講義を使った実践者が20-30名集まることで、多くのノウハウのシェアが行われると思います。

それによって、動画講義を使った学びに対する理解もさらに深まっていくと思います。

「リアルの代替でないバーチャル」の探求は、まだまだ続きます。

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