反転授業とMOOCs、そして、JMOOC

最近になって、にわかにMOOCs(Massive Open Online Course)の知名度が上がってきたように思う。

そして、10月11日に「日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)」のサービストライアルが、2014年春からスタートするという発表があった。

今日は、反転授業とMOOC、JMOOCとの関係について書いてみたい。

MOOCsの何が新しいのか?

MOOCsというのは、Coursera(コーセラ)、edXUdacityなど、大学の講義配信サービスの総称だ。

大学の講義が無料公開されるのは、これが初めてではない。これまでにも、オープンコースウェア(OCW)と呼ばれる流れがあり、大学の講義がインターネット上で無料で公開されてきた。

大学が講義をYoutubeなどにアップして公開している場合もあるし、大学のホームページで公開している場合もある。また、iTunes Uというアップルが作ったプラットフォームでは、たくさんの大学の講座を無料で受講できる。

このブログを立ち上げた2013年1月には、反転授業についての日本語の情報がほとんどなく、iTunes Uで、Flipped Classroomについての講座を探して勉強して、ブログ記事を書いていた。

「大学レベルの教育を無料で受けられる」ということは、すでに、オープンコースウェアから始まっていたことであり、MOOCsに限ったことではない。

では、MOOCsで新しく始まったこととは何かというと、次のことだと思う。

  • 数週間で完了するコースが設定された。
  • 各コースには宿題が課される。
  • すべての宿題を提出し、コースを完了すると認定証がもらえる。(有料/無料)

この3つのことが、どんな新しいことを生み出すのか、教育・学習という観点から考えてみたいと思う。

コースで学ぶと何が起こるか

MOOCsがスタートして、早速、コーセラを受講してみた。edxやUdacityにはまだ挑戦していないので、ここでは、iTunes Uとコーセラとを比較して論じてみたいと思う。

iTunes Uの講座は、限りなく「電子書籍」に近い。

本棚に講座が置いてあって、いつでもそれを手に取り、勉強することができる。その学び方は、図書館で本を借りて勉強するというやり方の延長線上にある。文章や写真だけで説明するのではなく、動画もついてくるということで、「コンテンツがリッチな電子書籍」といってもよいようなものである。

一方、コーセラでは、すべての講座を自由に受講できるわけではない。数週間という単位で設定された講座の開講期間があり、申し込みの締め切りがある。受講したい講座がある場合は、その講座の募集がスタートするまで待たなくてはならないのだ。これは、iTunes Uなどに比べて不便である。

しかし、コースとして提供することによって生じるメリットもある。

それは、同じ期間に同じ内容を勉強している学習者が世界中にたくさんいるということだ。

同じ内容を一緒に学んでいる人たちとつながれるということが、コーセラによって生まれた状況なのだ。

実際、FacebookやGoogle+には、たくさんのグループが作られ、お互いに分からないところを質問しあったり、参考になるWebサイトを紹介しあったり、あわせて受講するとよい講座を紹介しあったりというコミュニケーションが行われている。

これは、MOOCsによって新たに生じた現象なのではないか。

僕が受講したのは「e-Learningの講座作成」についてのコースだったので、教師や、オンラインスクールなどを立ち上げている企業家などが受講していた。企業家の一人とメッセージでやり取りしながら、キックオフしたばかりのサイトを見せてもらったりした。

彼はインド人で、オンライン家庭教師を世界中に派遣するポータルサイトを立ち上げるために勉強していた。インド人は英語が堪能な人が多く、かつ、人件費が安いので、大卒のオンライン家庭教師を世界中に派遣しようというアイディアのようだった。

FBグループでは、英語でのやりとりになるが、そこに参加しているのは必ずしも英語を第一言語としている人ではない。むしろ、セカンドラングエッジとして英語を使っている人がほとんどである。

iTunes Uでは、英語は、電子書籍の「読書」のためのツールに過ぎなかった。動画もあるので、英語の文献を読む「英語読解力」だけでなく、「リスニング力」も問われるが、それだけのものであった。

しかし、MOOCsによって、世界中の学習者と英語でコミュニケーションをととるチャンスが生まれた。実際に、そのようなコミュニケーションが活発に行われ、コミュニケーションの中から生まれる様々な情報からメンバーは恩恵を受けている。

活発に活動しているグループの生み出す創造性はものすごいものがある。

これは、場合によっては、「講座の価値」を超えるであろう。

その可能性に気づいた人は、「英語」というものを学ぶ意味が、すでに変容してしまっていることに同時に気づくと思う。

「オンラインでコミュニケーションを取れ、グループの一員になれる」ということが、これから必要とされる英語力に含まれてくると思う。

今、そういうことが起こっているかどうかは分からないが、グループがアクティブになれば、当然、スカイプで話したり、Web会議室に集まってディスカッションしたり、というようなことも自然発生するはずだ。

そういうものに誘われたときに、躊躇なく「Yes」と返事して参加できるだろうか?

MOOCsによって開かれた、大きな可能性にアクセスできるかどうかは、そのとき、「Yes」と返事できるかどうかで決まるように思う。

ちなみに、2年前の自分は、その状況で「Yes」といえる自信が全くなかった。

リスニングも弱いし、言いたいことを英語で言おうとしても口から出てこないし・・・

今までは、それでも困らなかったが、オンラインのコミュニケーションによって個人の可能性が爆発的に広がることを実感して、心の底から危機感を感じて、40を過ぎて、本気で英語を鍛えなおすことに決めた。

英語学習の目標はただ一つ、「国際的なコミュニティーに躊躇なく入っていくことができる英語力と自信をつけること」 これだけである。

スカイプ英会話で変な汗をかきながらフィリピン人の先生のレッスンを受けることから始まり、その後、ラングエッジエクスチェンジで15カ国(台湾、中国、シンガポール、マレーシア、ロシア、イギリス、ドイツ、イタリア、インド、トリニダード・トバゴ、オーストラリア、アメリカ、ルーマニア、エストニア、ベルギー)の人とスカイプでパートナーになりしゃべった。

スカイプってすごいな~って、心の底から思った。

ラングエッジエクスチェンジのパートナーの一人は、インドに住んでいる18歳女子で、向こうからアクセスしてきてパートナーになった。すごいITスキルを持っていて、オンライン教育の会社を起業していた。13歳のときに学校に行く意味を感じられなくなって退学し、Khan Academyで数学やサイエンスを学び、コーセラでファイナンスや経営の勉強していると言っていた。

ちなみに、彼女は、今、僕のビジネスパートナーの一人になっている。

英語の再学習をはじめてから1年経ち、英語でコミュニケーションを取ることに抵抗感が薄れてきたころ、シンガポールのチャイナタウンのIT会社に一人で行き、サーバーを契約してきた。これは、ものすごく緊張したが、同時に大きな自信になった。

その後も、英語が自由に使えないもどかしさを感じながらも、勇気を出して扉を一つ一つ押し開けていくたびに、世界がどんどん広がっていくのを感じた。

その頃から、英語のホームページを見て、メールで問い合わせができるようになった。

「お時間あれば、スカイプでお話うかがえませんか」と提案できるようになった。

シンガポールの出版社に「物理の参考書の出版企画」を持ちかけ、何度もミーティングを重ねた(結局、企画はつぶれた)。

今は、アメリカの大学が提供している有料のオンラインコースでWorld Cafeの運営技術を学んでいる。

LMS上で宿題に答え、Web会議室でメンバー間でビデオチャットしながらライブセッションを行うものだ。

2年前なら、絶対に申し込めなかったと思う。

 

2年前に「Yes」と言えない自分に危機感を感じ、必死で改善に努めた結果、世界が一気に広がった。インターネット+英語によってもたらされる可能性は、体験していない人が考えているより、たぶん圧倒的に大きい。

 

MOOCsは、この大きな可能性への入り口になり得る。

それを感じたければ、コーセラの講義を取り、Facebookグループに入り、そこにいる人と英語でコミュニケーションをとり、そして、勇気を出して、「スカイプしよう!」と言ってみればよいと思う。

そうすると、僕が言っていることが分かってもらえると思う。

 

JMOOCについて

MOOCsを、国際的ネットワークにつながる入り口と考えていた僕にとって、JMOOCのニュースを聞いたとき、複雑な気持ちがした。

コーセラの講義を日本語字幕化していくというニュースもある中で、日本語の講義を日本やアジア向けに配信していくというのは、時代に逆行するような気がしたのだ。当然、出来上がる学習コミュニティーも日本語スピーカーだけになるだろう。

でも、日本語であることによって、同じコースを勉強している人がグループを作って、コミュニケーションをとりながら学ぶという動きに参加できる人が増える。これは、好ましいことだと思う。JMOOCを使って反転授業を行う大学も増えてくるだろう。日本の大学の授業が大きく変化するきっかけになるかもしれない。

その中で、アクティブなグループが持つ創造性に気がついた学生が、どんどん国際的なグループに出て行くようになれば、それはそれですばらしいことなのではないか。

 

今日の記事は、MOOCsのビジネスモデルなどについては触れずに、あくまでも学習者としてどのような可能性が生まれるかという視点で書いた。

ご意見を聞かせていただけるとうれしいです。

 

参考サイト:こちらのサイトが非常に詳しいです。

 

オンライン教育・MOOCsの現状、課題、可能性 ー Courseraで東大の講義配信開始

■実践されている方、実践を検討されている方、反転授業に興味がある方、ぜひ、つながりましょう。

170名が参加!Facobookグループ「反転授業の研究」はこちら

※グループに参加希望の方は、田原までメッセージ下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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