東京国際大学教授 河村一樹さんにインタビュー

6月27日(金)に実施される第10回反転授業オンライン勉強会でお話いただく東京国際大学商学部教授の河村一樹さんにお話をうかがいました。

河村さんは、2013年12月から1年生を対象としたアカデミックスキルの授業に反転授業を導入し、その様子は朝日新聞でも紹介されました。

朝日新聞の記事はこちら

 

勉強会では、反転授業を体験した学生のインタビューやアンケートを紹介していただきますが、それに先立って、どのような経緯で河村さんが反転授業を導入するに至ったのかをうかがいました。

教育を仕事にしようと思った理由

河村さんの専門は情報教育工学です。コンピュータサイエンスをベースにした情報処理教育のカリキュラム編成および教授法の研究、e-Learningを含む教育(学習)支援システムの開発と評価などを行っています。

教育とコンピューターサイエンスの境界領域であるこの分野に進まれたきっかけをうかがいました。

 

河村さん:私は父が中学校の数学教員で、教育へ進むきっかけになったのは、父の影響があると思います。でも、ストレートに教育分野へ進んだのではなく、最初は、コンピューターの会社に就職しました。でも、やはり、教育が好きだと思い、今の仕事へ移りました。

 

お話をうかがって、教育への情熱と、コンピューター会社で培った知識と技術とが、結びつく場が情報教育工学という分野であったのではないかと思いました。

さらに、教育のどこが好きなのか、質問してみました。

 

河村さん:学生との関係性ですね。人間対人間というか、利害損得を超えた関係というか、そういう関係を学生と築くことができるのが一番の魅力です。企業だと、なかなかそういう関係を築くのは難しいです。

父の仕事を見ていて、毎年同じことをやっていて、何が面白いのかなと思っていたんですよ。でも、実際に教育に関わってみると、学生は毎年違っているので、いろいろな学生と関係性が築けるのはすごいことだと思うようになりました。

 

IT技術を教育に利用するというと、効率やデータのことが最初にイメージされますが、河村さんから出てきた言葉が、「人間くさい関係性」の話であったのが、とても印象的でした。

 

河村ゼミの学習サイクルがすごい!

次に、河村さんに研究テーマについてうかがいました。

 

河村さん:以前から、特に講義中心の科目がうまくいっていないと感じていました。黒板に字を書きまくって説明したり、しゃべりまくって説明しても、教員が満足しているだけで学生が効果的に学んでいないと思ったんです。それで、うまくいかないのはやり方が悪いからだと思い、板書をせずにスライドを用いたり、ネット上で情報提供をしてから話をしたりしたらどうかとか、いろいろやってきました。

 

河村さんの研究室では、どのような研究をしているのかと、河村ゼミのホームページをチェックしてみました。

河村ゼミホームページ
http://www.tiu.ac.jp/seminar/kawamurk/kkzemi/

河村ゼミは、1学年10数名、全体で学生が40名ほどもいます。

河村ゼミでは、教材設計を学ぶための非常に合理的なサイクルができ上がっています。

大学2年生になると、大学の授業でインストラクショナルデザイン(ID)を学び、大学3・4年になると、学生の一部に1年生向けの教材開発がテーマとして与えられ、IDを実際に使ってeLearningの教材開発をします。そして、開発された教材の被験者に大学1年生がなります。

つまり、1年生でeLearning教材を体験し、2年生でeLearning教材の理論を学び、3・4年生で実際に教材開発するというサイクルが出来上がっていて、教材設計を多面的に学ぶことができるように考えられています。

学生が多いため、1年生向けの教材開発を担当する4人以外にも、3・4年生には、様々な研究テーマが割り振られています。これだけの人数に研究テーマを与え、指導をするのは大変なことだと思いました。

僕自身は、大学生時代、指導教官が教育に熱心ではなく、教授との関係性が希薄だったので、指導教官が教育に情熱を持っている河村ゼミの学生さんがうらやましくなりました。

反転授業を取り巻く状況

情報教育工学と授業設計(ID)を専門的に学び、長年、研究されてきた河村さんの目に、現在の反転授業に対する加熱ぶりはどのように映っているのか、興味がわいたので、質問しました。

 

河村さん:文部科学省の大学教育に対する方針が大きく変わり、アクティブラーニングを重視するようになってきました。学習評価の仕方の変化や、大学がポータルサイトを持つことが推奨され、大学教育を変えていかなければならないというトレンドになっています。

従来のやり方では何を教えるのかが中心でしたが、いかに学ぶのかというところが中心になってきています。

また、大学全入時代に突入し、ゆとり世代も大学に入ってきて、一部のブランド大学を除けば、今までの授業では学生がついてこないという危機感があります。その中で、反転授業に注目が集まってきていると思います。

 

なるほど。僕も予備校講師としてずっと壇上でパフォーマンスをやる授業をやってきたんですが、1年ほど前からアクティブラーニング型の授業に挑戦し始めて、「ずいぶん違うなー。難しいなー」と思いながらやっているんですよ。大学の教員は、その変化に対応できるんですか?

 

河村さん:ICTを使う必要はないという教員もいますから、なかなか変わるのは難しいですね。トップダウン式にやらないと実現不可能でしょうね。大学がLMSなどのリソースを提供し、ポータルサイトを作り、全教員がやると決めれば、動き始めると思います。FDでアクティブラーニングを体験してもらうプログラムもあります。

 

なるほど。河村さんのゼミでも、アクティブラーニングに取り組んでいるのですか?

 

河村さん:学生の研究で、スマホのクリッカーアプリであるClicaを使った研究があります。

「Clica を用いたアクティブラーニングの試み 」三澤勇太(河村ゼミナール)
http://www.tiu.ac.jp/seminar/kawamurk/kkzemi/

 

Clicaは、第2回の勉強会で鈴木映司さんが地理の授業でのアクティブラーニングに使用していました。

河村さんもおっしゃっていましたが、みんなの前で手を挙げて発言しなくてはならないという状況では出てこないいろいろなレスポンスが出てきます。僕のWizIQを使った講義でもチャットボックスがとても賑やかになり、受講者の考えていることが、これまでよりも分かるようになりました。また、一緒に参加している人が何を感じているのかを共有しやすくなるという効果も感じています。河村ゼミでの研究にも、引き続き注目したいです。

河村ゼミで反転授業を導入したきっかけ

時代の流れや文科省のアクティブラーニング重視の方針など、反転授業を導入するための下地はできていたのだと思いますが、直接的に、河村ゼミで反転授業を導入するきっかけとなったのは、どのようなものだったのですか?

 

河村さん:2013年から、大学の方針で全学部の1年生全員に同じ教科書、同じシラバスで、アカデミックスキルの授業をやることになったんです。どうせやるなら電子化して、学習履歴をとって実証実験できる形でやろうと思いました。それで、研究室の学生とeLearningの教材開発を始め、4月から11月までで開発し、12月にスタートしました。

 

反転授業というと、「動画で予習し、授業でアウトプット」というように、動画を使うイメージが強いですが、河村さんのところでは「eLearningで予習」ということなのですね。

 

河村さん:はい。動画を視聴しただけだと学習履歴が残りませんが、eLearningだと学習履歴がすべてLMS残るので、パワーポイントをベースにした教材とEXCELベースで作成するテストでeLearning教材を作成しました。

 

予習でやる部分と、授業でやる部分との振り分けはどのようになっているのですか?

 

河村さん:アカデミックスキルというのは、ノートテイキング、リーディング、ライティング、プレゼンテーションなどからなります。知識部分はドリルで評価しやすいのですが、スキルの評価をeLearningに取り込めないので、教室で評価するようにしています。知識部分をeLearningであらかじめ学んでおいて、教室でスキルを使ってみるという反転授業になっています。スキルを評価するためには、ルーブリックやポートフォリオなどが重要だと考えています。

[参考:ポートフォリオとルーブリック]

 

学生が予習をやってくるための動機付けは、どのようにしているのですか?

 

河村さん:大学生にとっての一番の動機付けは、「単位を出す」、「成績をつける」ということなので、授業でやったことに対する成績を次の時間に公開しています。また、学生からは、「予習してこなくてもできてしまう内容なら予習しなくなる」という声が上がってきているので、予習してこざるを得ない内容、予習してきた学生が活躍できる内容をを授業でやることも、動機付けとして重要かなと思っています。

 

実際にやってみていかがでしたか?

 

河村さん:生徒の学習状況で目に付いたのは、半数以上がスマホでeLearningをやっているということです。隙間時間を使ってやってきているようでした。PCだと起動して、ブラウザを立ち上げて、IDとpasswordを入力して・・というようにステップが多いじゃないですか。でも、スマホなら紙の教材と同じくらいのステップで作業に取りかかれるので、そっちのほうが手軽でいいみたいなんですよね。

 

学生のほとんどは、PCも持っていると思いますが、PCとスマホの使い分けって、どのようにしているんですか?

 

河村さん:資料を調べたり、レポートを書いたりといったことはスマホじゃできないのでPCでやることにしているようです。彼らなりに使い分けの基準があるようですね。

最後に

河村さんのお話から、河村ゼミのよい雰囲気が伝わってきました。学生としっかり人間関係を築き、学生のリアルな状況を把握しながら実践に取り組んでいる河村ゼミのようなところから、多くの実践者のヒントになるような知見が生まれてくるのかもしれません。

河村ゼミの今後に目が離せません。

 

第10回反転授業オンライン勉強会

テーマ 「生徒が語る反転授業(2)」

日時 : 6月27日(金) 21:45-23:30

場所 : Web教室 WizIQ

参加費 : 無料

第1部 登壇者の発表 21:45-22:45

「アカデミックスキル習得を目的とした反転授業の実践」

東京国際大学 商学部経営学科教授・博士(工学) 河村 一樹さん

株式会社ハンテンシャ代表取締役 加藤大さん

「JMOOC「日本中世の自由と平等」へ参加した生徒の声」

奈良女子大学附属中等教育学校 二田貴広さん

第2部 オンライングループワーク 22:45-23:30

 

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