「世界と繋がりながら語り合うハイブリッド・ワークショップ」を終えて

「反転授業の研究」の田原真人です。

11月22日に、花巻北高校と世界をZoomで結ぶハイブリッド・ワークショップを行いました。

ハイブリッド・ワークショップというのは、リアルでグループ対話とオンラインのグループ対話を同時に行うものです。

参考記事:Zoomを使ったハイブリッドファシリテーションの可能性

3人の方のインスピレーショントークを聴き、リアル会場とオンライン会場とで同時に3ラウンドのワールドカフェを行いました。

このようなハイブリッドワークショップは、世界でも、まだ事例の少ない最新の取り組みです。その効果を記すことで、後に続く取り組みが出てくることを期待します。

ハイブリッド・ワークショップは3人のファシリテーターの連携が大切

ハイブリッド・ワークショップでは、リアル側のファシリテータ-と、Zoom側のファシリテーター、そして、リアルとオンラインとを繋ぐコネクターの3つの役割が必要となります。

今回は、

リアル側のファシリテーター : 筒井洋一さん

Zoom側のファシリテーター : 田原真人

コネクター : 松嶋渉さん

という役割分担で行いました。

リアル側のファシリテーターの筒井さんが、会場にたいへん和やかな雰囲気を作って下さり、対話が活発に起こっていました。

田原は、Zoom側のファシリテーターとして、音声のミュート管理や、グループワークの設定などを行いました。

3つの役割の中で最も難しい役割がコネクターです。リアルで起こっていることに気を配りながら、オンライン側で起こっていることをイメージし、音声の調整や、ビューの切り替えなどをやっていかなくてはならないため、リアルとオンラインの場創りの豊富な経験が必要となるからです。松嶋さんは、今回のワークショップに備えて、リモートワークジャーニー@萩でハイブリッド・ワークショップを開催し、そこで、リアル側のファシリテーター兼コネクターを体験した上で、万全の準備で今回のワークショップへ臨みました。

参考記事:リモートワークジャーニー@萩でハイブリッド・ワールドカフェ

花巻北高校の会場には60名、オンライン会場には25名が集まり、ハイブリッド・ワークショップとしては大規模なものになりましたが、非常にスムーズに運営することができました。

インスピレーショントークがスタート

主催者の下町壽男さん(花巻北高校校長)が挨拶を行い

このワークショップの軸は、「未来を切り開く子どもたちを創るために、我々は何ができるか」です。

今までは、社会のために、世界のために、子どもがあると考えられてきましたが、それを反転させて、子どものために、社会や世界はどうあるべきかという議論ができれば良いと思います。

と述べ、ワークショップがスタートしました。

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その後、リアル側のファシリテーターの筒井洋一さんが自己紹介を行い、

今日の隠れたテーマは、「●●を越えるということを一緒に体験する」ということです。

1つめは、年代や経験を越えるということ。

2つめは、組織や日頃の常識を越えるということ。

と述べました。

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最後に、Zoom側のファシリテーターの田原真人が自己紹介を行いました。

動画コンテンツが無料で見られる時代における教師の価値は何だろうか?

生徒が、お互いが異なる視点を持つことに気づき、それを共有することで理解の幅を広げていくことができることに気づけば、場に対する価値を感じることができます。

今日は、日本国内、国外からの多様な視点を共有し、学び会う場を共に体験していきましょう。

と、話をさせていただきました。
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その後、Zoomで参加されている方を会場に紹介しました。

ニューヨーク、ニュージーランド、シンガポール、韓国、福岡、長崎、島根、広島、大阪、兵庫、奈良、三重、東京、宮城・・・など、国内、国外から20名の方が参加して下さいました。

最初のインスピレーショントークは、サマンサさん。

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10年間、子どもを強烈にコントロールする毒親だったと言うサマンサさんが、「ありのままを完璧と受け入れる=あり完」へとマインドシフトした結果、子どもがアクティブマインドへ急激に変化していったという体験に、リアル会場もオンライン会場も引き込まれました。

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続いて、花巻北高校2年生のプレゼンが始まりました。遠野から花巻北高校まで1時間半かけて通っているという彼は、「魅力ある遠野の教育へ」というタイトルでお話をしてくれました。

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彼は、地域の魅力や課題を発見するためには自ら体験して学ぶことが重要だが、教師が地域の体験が少ないために十分な総合学習を行うことができないのではないかと述べました。そして考え出した解決策は、次のようなものでした。

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このアイディアについて遠野高校の中学校3校の教員に対してアンケートをとったところ、「斬新なアイディアである」という声が多かった一方で、「プログラムの内容が分からず回答できない」と、先行きの不透明さを指摘する声も多く聞こえたとのことでした。これを受けて、Zoom側のチャットボックスには、次のような意見が飛び交いました。

大人が今どのようなことを学んでいると言えるのでしょうか?そして、それが子供の教育とどう違うのでしょうか?
不透明だからおもしろいのに
先生が言いそうなことだわ
答えの有無もあるのかなぁ
不透明だからこそやろう!って先生を説き伏せて欲しい。
先生というのは、予定調和がすきなので
そうですよねー 不透明ほど尊いものないのに
失敗を恐れていますよね。それが教員のマインドセットであり、メンタルブロックになっているのかも。
ほんとうです。
岩手は県内でも広いから、中学高校だとその地域知らない、って新任の先生多いでしょうね~。
失敗させない 正解主義は 結構 日本で支配的なのです
先生が失敗を恐れてたら、子どもにもそれが感染します
どんな結果になっても、これが実現するだけですごいことなのに。。
まったく同感です。
考えさせられるプレゼンだなー

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予定では、この後、松嶋渉さんのインスピレーショントークの予定でしたが、松嶋さんの直感により、流れを切りたくないということで、ワールドカフェのラウンド1を先にやることになりました。

ハイブリッド・ワールドカフェ

リアル会場では4人組、オンライン会場では3-4人組に分かれ、ワールドカフェが始まりました。

リアル会場では、「えんたくん」という円形の段ボールに紙を貼ったものが用意され、4人の膝の上に載せてテーブル代わりに使いながらグループ対話を行いました。

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オンライン会場では、Zoomのブレークアウトセッション機能を用いて行いました。

ラウンド1の問いは、次のようなものでした。

問1)子どものアクティブさを引き出すために、あなたはどのような関わり方をしたいですか?

15分の対話の後、リアル会場から2名、オンライン会場から2名が感想を共有しました。

仙台の名越さん:「子どもたちのタイプを理解してから、コミュニケーションで後押しをするという意見と、そもそも何をやりたいかが分からないような子をアクティブにするにはどうしたらよいかという意見とが出て、話が噛み合いませんでした(笑)。そういう子たちと共に歩む方法を考えるためにはどうするかということで話がまとまりかけたところで終わりました。」

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2番目のグループ:「びびっときたという体験をどのようにさせるのか。そのために必要なのは「あり完」。体験させたことが花を開かせるのを待つことが大人には大切。だから、教師は、「びびっとくる」素材を提供することが大事だと思います。」

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ニューヨークの森田さん:「合気道や瞑想をやっている人から「あり完」になるためには、自分の感情をありのままに感じられるようになる必要があり、リラックスしていなければならないという話が出ました。子どもがロールモデルに出会う事も大事ですが、大人が自分自身と向き合って、自分自身を受け入れられるようになることが大事だという話でした。」

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ニュージーランドの荻野さん:「ニュージーランドの親は、デフォルトが「あり完」なので、教員がそれをコントロールしようとすると大変です。コントロールするのではなく、それぞれを伸ばしていくのが教員の役割になります。日本の教育の在り方、社会の在り方の枠が、大きな問題になるのかなと思います。どこにボーダーがあるのか、壁があるのかというのが、日本には分かりにくくて、その壁に穴を開けることが難しいことだと感じました。

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松嶋さんのインスピレーショントーク

その後、リアル会場とオンライン会場の両方とも、グループメンバーのシャッフルを行い、3人目のスピーカーである松嶋さんのトーク「地域×学校×ICT」が始まりました。

情報の授業を、ICTを活用して地域と結びつけていく松嶋さんの授業は、様々なところで注目されています。その一方で、「それは、松嶋先生だからできる授業ですね。」「その授業は、趣味ではないか」と言われているのだそうです。それに対して、「生徒のために・・」というのは、もしかしたら生徒依存であり、「趣味です」と言ってしまって良いのではないかと思っているとおっしゃっていました。

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ワールドカフェ第2、第3ラウンド

ワールドカフェの第2ラウンドの問いは、次のようなものでした。

問2)組織を超える学びをどのように可能にしていきますか?そこにオンラインはどのような役割を果たしますか?

15分程度のグループ対話を行い、次のような声が出てきました。

1グループ目:「子どもたちを見ているということが大事なのではないか。主役が子どもたちであるということを忘れずにいれば、私たち大人、組織がみんなで協力できるのではないか。学校だと、「子どもたち」というように複数になり、1人のときと見る目が変わるが、主役を忘れずにいれば、連携がうまくいくのではないかという話になりました。」

福岡の和田さん:「学校の先生って保守的で、組織を越えて繋がることに対して、最初はとても怖がっていると思います。でも、花巻北に集まっている先生方が、Zoomで簡単に繋がれるんだという体験をまずはやってみるということが大事なんじゃないか。オンラインに来てねというよりは、こうやって押しかける。あちこちにこうやって押しかけていけば、体験してくれた人たちの間にどんどん広がっていくのではないかな。そういう「オンライン黒船襲撃」というのを考えました。」

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再び、グループメンバーを交代し、最後の問いについて考えました。最後の問いは次の通りです。

問3)未来からの使者である生徒の将来をどのように創っていきますか?

13分間のグループ対話の後、リアルとオンラインからの声を共有しました。

1番目のグループ:「渦は自分たちで創っていくものであり、私たちは生き様を見せていけば良いのだ。」

ロナさん(高2):「私は、担任の先生が大嫌いです。その理由は、「仕事は思い通りにならない。仕事は楽しくないよ。楽しくないのが仕事なんだからしょうがない。」といつも言っているからです。私の周りには、その影響を受けている生徒もいます。そういう大人からガードしてくれる大人のサポートが子どもの未来に繋がっていくのかなと思っています。」

島根から八坂さん:「私が子どもだった頃は、突出して何かができているけど、ダメダメなところもあるという大人がたくさんいたんですが、今は、すべてができなくてはいけないという育て方になっている気がしています。1つでも得意なことがあれば見えてくるものがあると思うので、バランスの取れた大人に育てようとしなくても良いのではないかと思います。」

シンガポールから若林さん:「昔だったら誰もが分かるようなはっきりしたレールが敷かれていて、誰もが同じ方向に進んでいけば良い将来があったが、今はそんな時代ではない。私たちのグループでは、いろんな選択肢があって、しつけをしたり、背中を見せてガイドするのが大人の役割になるのではないか。全くの放任だとうまくいかないかもしれない。例えば、甘いものを食べすぎてはいけないというしつけがあって、食べたらどうなるという問いかけをして選択肢を示してガイドするというのが大人の役割になるのではないかという意見が出ていました。」

ハイブリッド・ワークショップを終えて

今回のような、多様な視点から、お互いに学び合っていくような場を約80名のみなさんが体験したということに大きな価値があると思いました。

このワークショップが実現できた背景には、ICT技術の進歩と同時に、この3年間でお互いに育んできた信頼関係のネットワークがあります。

ワークショップが終わってから、多くの縁のありがたさをしみじみと感じました。

同時に、今回のワークショップでの出会いから多くの創造のサイクルが回っていくはずだという確信を持ちました。

「オンライン黒船襲撃」を、今後もあちこちで展開し、組織を越えた繋がりによって、お互いのメンタルモデルに変容を起こしながら未来を創り出していければと思っています。

みなさん、楽しみながら、共にやっていきましょう!

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