都立両国高校を見学して(上)― フォークダンスのように生徒が動く英語の授業

2014年12月18日、東京都立両国高校に授業見学に行ってきました。
 
そもそも、なぜ、両国高校に見学することになったのか?
 
そのきっかけは、日経新聞の取材記事でした。

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実は、都立両国高校は、僕(田原)の母校なのですが、僕が在学時は、いわゆる都立の低迷時期。全科目で伝統的な一斉講義型の授業が行われていて、いくつかの例外はあったものの、授業に対しては「つまらなかった」という印象が残っています。理論物理学者になりたいと思って高校に入学したものの、高校での授業に失望して学習意欲が下がり、成績は低迷。高校卒業後に予備校に通って勉強の面白さに気づいて学習意欲が復活したという経験がありました。

記事を読んで、あの母校にいったい何が起こって、こんなすごいことになっているのか!という強烈な興味が湧いてきました。
 
次に感じたのが、両国高校の実績が、アクティブラーニングや反転授業の普及の起爆剤になるかもしれないということでした。
 
多くの高校は、アクティブラーニングを導入すると、進学実績を上げられなくなるんじゃないかという不安を感じていると思います。しかし、両国高校が、アクティブラーニングを導入した結果として、進学実績も上がったということになれば、アクティブラーニング導入へ向けて不安が取り除かれ、導入する高校が増えていくのではないかと思います。

そのためにも、両国高校で起こっていることを、自分の目で見て、確かめて記事にしたいと思いました。

フォークダンスのように生徒が動く英語の授業

授業見学をさせていただいたのは、山本崇雄さんの高校1年生の英語の授業。山本さんの授業は、日経新聞で次のように紹介されていました。

わずか50分の授業で、ペアやグループが次々に入れ替わっていく。1つの課題が終わると、生徒の組み合わせが変わる。50分で十数回の課題を与えるため、2回の授業でクラス全員と組むことになる。そして、クラスを団結させて、生徒同士が教え合う「場」に変えていく。「誰かのために学び、教える。そうすると理解の深さがまったく違ってくる」(山本)

いったいどのような授業なのかとワクワクしていると、山本さんとネイティブスピーカーの先生が教室に入ってきました。

山本さんが英語で短く挨拶をすると、いきなり授業がスタートしました。

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最初に行ったのは、『速読英単語』という市販の教材を使って、長文の内容理解と単語の発音確認。

まずは、長文の内容理解が、次のようにして始まりました。

(Step 1) ネイティブスピーカーが長文を1度読む。

(Step 2) となりの人とペアになりジャンケンをし、勝ったほうがメイントピックスを相手に英語で説明する。

(Step 3)チーンとベルが鳴り、説明する側と聞く側が交代する。

(Step 4) ネイティブスピーカーが長文をもう一度読んで発音を確認。

こんな感じで、向かい合って話をしていました。
 
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しかし、ここから、今まで見たことのない光景が展開しました。

まず、黒板に、見慣れない図とGBGB・・・の文字が。

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Gは「Girl」を表し、Bは「Boy」を表しています。

最初に女子が赤い矢印の向きに移動し、ペアが変わります。3分くらいすると、山本さんの声のもと、今度は男子が青い矢印の向きに移動しペアが変わります。

新しいペアになるときには、お互いに「Hello」と声を掛け合い、ペアが交代するときには「Thank you」とお礼を言い、和やかな雰囲気で進んでいきます。

これは、何かに似ている?

そうだ、「フォークダンスだ!」

まさに、目まぐるしくペアが交代するフォークダンスのように授業が展開していくのです。

ワークの内容は、長文のメイントピックスの説明から、英単語に変わりましたが、ペアを次々と変えていく動きは変わりません。

英単語の勉強は、次のように進みました。

(Step 1)ジャンケンして英単語を読む側を決める。

(Step 2)『速読英単語』の指定のページの単語を発音して、相手に聞かせる。

(Step 3)チーンとベルが鳴って役割交代

(Step 4)ネイティブスピーカーが発音を確認

(Step 5)席を移動してペアを交代

単語が終わると、これまでに習ったことの復習として、黒板のスクリーンに文章や画像が表示され、それをペアに対して説明するという時間になりました。

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チーンとベルが鳴ると画面が切り替わり、次のチーンで説明する側と聞く側の役割が交代。

10秒くらいおきにチーンとなり、画面や役割が次々と交代していきます。

授業中は、スクリーンにタイマーが表示され、作業の残り時間が見えるようになっていました。
 
生徒同士が話すときには、BGMがかかり、山本さんが話すときにはBGMが切れるというようなメリハリもありました。

外から見ていても、生徒の頭の中が、真っ赤に活性化しているのが目に見えるような光景でした。

ここまで見ていて、大きな気づきがありました。

僕が中学から大学まで英語を学んできて、誰かに向かって英語を話す機会というのがほとんどなかったということです。単語を覚えるときには、部屋でぶつぶつと念仏のように唱えていた記憶があります。

でも、山本さんの授業では、英語を口に出すときには、いつも誰かに向かって語りかけているのです。自分の英語を聴く相手がいつもいるのです。これは、大きな違いだと思いました。

また、単語の発音を覚えるときには、最初にネイティブの発音を聞いて真似をするのではなく、自分で発音してみて、あとからネイティブの発音を聞くという順序になっていました。自分の発音が間違っていたという経験を通して学べるようになっているのかなと思いました。

それが可能になるために、間違ってもいいからアウトプットすることが普段から奨励されていて、生徒の間に浸透しているのではないかと思いました。

ここまでで約20分。

時計を見て、まだ20分しか経っていないのかと思いました。それほど密度が濃い時間が流れていたのです。

学び方を自分たちで選択するグループワーク

授業の後半は5-6人でのグループワークが始まりました。写真が並んでいるワークシートが配布されていて、それを見ながら説明できるようになるのがゴールだということを、繰り返し確認していました。

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その後、画面に次のようなものが表示されました。

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山本さんは、この中のどの方法を使って学ぶのかをグループで話し合って決めて、その方法を使ってグループで協力して練習するように指示しました。

これまでは、教師も生徒も英語しか使っていなかったのですが、相談のときになってはじめて生徒が日本語で話し始めました。

「どれにする?」

「もう一回やろう。たくさんやらないとうまくならないよ。」

などの声があちこちから聞こえてきて、生徒たちはやり方と役割を決めて、熱心に練習し始めました。

自分たちでやり方を選択するというのは、主体性を引き出すのに役立つ方法なのではないかと思いました。

僕が見て回った感じでは、英語の内容を絵に直していくという方法を取っているグループが多いように思いました。一人が英語を読むと、残りのメンバーがそれを自分なりに手際よく絵で表していく様子は見事でした。

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残り5分になったところで、再び机を戻してペアになり、パートナーに向かってグループで練習した成果を発表しました。写真を相手に見せながら、英語で説明していき、その後、役割を交代しました。お互いに2つの良かった点をフィードバックするということもしていました。

これを続けていたら間違いなく力がつくはず

僕が見学した日は、期末試験後で、普段の授業よりも10分間短い40分間の短縮授業でした。

しかし、授業の密度が濃いため、90分間の授業を見学したかのような疲労感がありました。

40分間のほとんどの時間、生徒がアウトプットし続ける英語の授業というのは、初めてでした。

これを何年間も続けていれば、間違いなく本当の英語力がつくはずだという実感がありました。

両国高校は、中高一貫になり、僕が見学した高校1年生のクラスは、中学から上がってきた生徒と、高校から入ってきた生徒が混じり合っているクラスでした。

高校から入ってきた生徒は、この授業についていけるのかという疑問が湧き、授業が終わった後に、山本さんに質問したところ、

「最初はもちろん戸惑いますが、中学から上がってきた生徒に引っ張られて、半年くらいすると完全についていけるようになります。」

とのことでした。

また、生徒が抵抗感なくアウトプットできるようにするために、どのような工夫をしているのかをうかがうと、

「授業の中で、できる、できないはほとんど見えません。分からなければ援助するのが当たり前の雰囲気ができてきています。また、授業で必ず失敗する場面を作っているので、間違えて当たり前という雰囲気も大事だと思います。」

という返事が返ってきました。

山本さんが、常に笑顔を絶やさずに前に立ち、生徒が間違えながら学んでいくのを見守っている様子を見て、教室が安心安全の場になっているからこそ、生徒が安心してトライアル・アンド・エラーをすることができるのだと感じました。

最後に、山本さんの次の一言が、僕の中に残りました。

「今まで、それぞれのやり方でマスターさせるということをやっていたんですが、今日初めて、生徒たちにやり方を選ばせることに挑戦したんです。」

生徒の主体的な学びを引き出すのは、教師の主体的な学びであることを、改めて確認することができました。

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