動画を作ると人生が変わる(6)~多様性が学びに繋がる仕組み
反転授業の研究の田原真人です。
10年前に動画を作り始めたことで、人生がどのように変わってきたのかを連載しています。
動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた
動画を作ると人生が変わる(2)~理解速度にシンクロさせる
動画を作ると人生が変わる(3)~学習環境を整える人になった
動画を作ると人生が変わる(4)~動かすと理解できる
動画を作ると人生が変わる(5)~コミュニケーションを改善する
教師がコントロールしている空間では、生徒は規範に従おうとします。
教師がコントロールを手放すと、はじめて、生徒は自分らしく振る舞うことができるようになります。
各自の自分らしい振る舞いが、自分と仲間の学びにどのように繋がっていくのを理解すると、学びの連鎖や循環が起こりはじめ、ドラマが展開していき、学習コミュニティが生まれていきます。
反転授業の研究のオンライン講座では、いつも上記のようなプロセスが起こるので、それが、自分が運営する物理ネット予備校(フィズヨビ)でも起こせるのか、試してみました。
多様な背景を持った受講者が集まった
5月に物理の学び方を学ぶための2週間の講習会「フィズヨビ講習会(第1期)」を行いました。
受講費は後払いで、受講者が自分が受け取った価値を自分で判断して決めて払うという形式を初めて採用しました。
集まった受講者は、
・東大を目指す高校生
・物理を得意になりたい高校生
・イギリスでインターナショナルバカロレアのコースで学んでいる高校生
・医者を目指している多郎生
・物理を高校で学ばなかった大学生
・働きながら医学部学士編入を目指す人
・医学部再受験のために勉強している社会人
・医学部再受験を目指す看護士
・新しい木造建築スタイルを確立するために大学に入り直そうとしている建築家
・高校時代に物理からドロップアウトしたのでリベンジしたい社会人
・元中学の理科教師
・物理を教える塾講師
・物理を教える高校教師
などなど
物理に対する理解度も、参加の動機も多様な中で、どのような学びを生み出すことができたのでしょうか?
物理の教師である私が何かを教えようと思っても、参加者が多様なので、全員が満足するような講義をすることは不可能です。
ですから、扱う力学の内容について、動画とPDFの資料を用意し、1週間に2問の問題を出し、参加者はそれを解いて写真に撮り、アップロードしていき、お互いにコメントしていくという形式を取りました。
この形式なら、受講者は自分のペースで学ぶことができ、自分の参加目的に応じた行動を取ることができます。
学び方の仕組みを共有したオープニングセッション
オープニングセッションでは、はじめに、私がコルブの経験学習サイクルについて説明しました。
実践 : まずやってみる
経験 : 何かしらの結果が出る
省察 : 振り返って気づきを得る
概念化 : 気づいたことを言語化して新しい実践に繋げる
一人で勉強していると、実践と経験の間を往復するだけになってしまうことが多いですが、グループで一緒に学び合うことで、他の人の考え方に触れることができ、省察と概念化をやりやすくなります。
実践と経験は、各自がマイペースで行う。
省察と概念化は、それぞれの実践からヒントを得て進める。
このように、個人でやることと、集まってやることとを整理したことで、講習会でやるべきことが明確になりました。
その後、「誰かの理解を助けようとして説明するときに、省察と概念化が起こる」と述べ、「助けを求める行為は、誰かに省察と概念化のチャンスを与えること」になるのだから、どんどん助けを求めていこうと呼びかけました。
そして、この学びのメカニズムをグループ全体が理解したときに、自分たちだけで学び合えるコミュニティが生まれるはずだから、それをゴールに設定しました。
導入として話したことは、こちらです。
ドロップアウトしかけた人たちの気づき
Moodleに問題をセットし、受講者がフォーラムに各自の解答をアップし始めました。
勉強が進んでいる人は、早速、問題の解答を作成してフォーラムにアップしましたが、物理の初心者は、当然ながら簡単にはできません。
毎日のように、メールでマインドセットについての話を送っていましたが、直感的にドロップアウトしかけている人が出ている気がして、急遽、Zoomで、お助けルームを開きました。
集まった人たちは、「できる人ばかりで、自分は間違った場所に来てしまったと思い、このままフェードアウトしようかと思いました」と言っていました。
そこで、どんなことを感じているのかを各自が話し、それを共有し、もう一度、学び合いのプロセスについて話し合い、「分からないを発信することが、自分だけじゃなく、周りにとっても役立つ」ということを確認し合いました。
1日1アクションを目標に、とにかく発信するという声が、受講者の中から出てきました。
1週目の振り返りセッションでは、
「中途半端なものを、中途半端なままで出す」
「途中で分からなくなったら、そこまでのものを出せば、誰かがヒントをくれる」
「不完全なものを出しても大丈夫という安心感が大切」
といった気づきを共有することができました。
ブレークアウトセッションで、コミュニケーションを十分にとったことも、学び合いをするための安心安全の場つくりに役立っていたと思います。
学びが爆発し始めた第2週
2週目に入り、受講者の活動量が一気に上がりました。
ドロップアウトし始めていた人が、不完全な解答を出し始めたことで、場がぐるぐる回り始めました。
教える、教わる、他の人の考えを参考にする、励ます、励まされる、提案する・・・
自分のどんなアクションが、他の人のどんな学びに繋がるのかが、だんだんと見えてきて、それぞれが、よさそうだと思うことを自由にやり始めたのです。
学びが勢いよくグルグルと循環し始めました。
他の人が考えたことにヒントを得て、別の人が図を描いてみる。
それを見た別の人が、さらに、発展させた考察をする。
そんな相乗効果が生まれてきました。
例えば、次のような問題を出しました。
この問題に対して、外力Fを大きくしていったときに、作用線の様子がどのように移り変わっていくのかの考察し、図にまとめて整理する人が現れました。
その様子を見ていて、これをアニメーションで示せたら分かりやすいだろうなぁーと思ったので、先日、住ノ江さんに教わったやり方でKeynoteアニメーションを作り、受講者に示しました。
アニメーションにすると断片的な理解が統合され、理解が一気に深まるんです。
しかも、ちょうどよいタイミングで、ちょうどよいものを出すというのが大きなポイントだと思いました。
十分に疑問が熟しているときに、その疑問に答えるようなものを見せることができたときに、学びが深まるのだと思います。
そのためには、スピード感が大事で、手軽に思った通りのものを作ることができる必要があります。
受講者の反応を見て、ビジュアル教材の使い方をよく理解できました。
感動のフィナーレ
第2週の振り返りセッションは、豊かな収穫の場となりました。
第2週には、あきらかに不連続な変化が多くの受講者に起こりました。
不連続な変化は、「気づくこと」によって起こります。
気づくためのヒントが場に溢れていたからこそ、不連続な変化が起こりやすくなったのです。
そして、そのことをみんなが理解したからこそ、場にエネルギーを一緒に投げ込んでくれた仲間に対する感謝が溢れ、感動的なフィナーレになりました。
ブレークセッションでは、どのルームも笑い声が溢れ、楽しそうに話をしていました。
そして、ここで学んだことを生かして、この仲間で学びを続けていくことを確認し合っていました。
反転授業は「学び方を学ぶ」ためのもので、それがうまく機能すると、教師がいなくても、自分たちだけで学び合える状況になります。
教師にとっては、生徒が独立した学習者になることこそがゴールなのではないでしょうか。
多様な背景を持った参加者が集まり、その多様性が視点の多様さを生み出し、物事を多面的に見て気づくことができる豊かな場を生み出しました。
そして、違いが学び合いのエネルギーになり、多くの不連続な変化が起こりました。そして、みんながエンパワーされて元気になりました。
こんな場を創りたかったんだという実感がありました。
僕の中にも、作りたかった現実を出現させてくれた受講者に対する感謝が溢れました。
僕自身も「助けて」を言う
分かりやすい価値を掲げて、それを販売するというやり方では、このような場は生まれません。
人は、体験したことがないことをイメージするのが難しいのです。
だから、フィズヨビ講習会の価値を伝えることに、僕は、とても苦労しています。
そのことを正直に話し、価値を体験したみなさんの力を貸してほしいと伝えました。
多様性のある場での学びは、各自が受け取るものも様々なので、受講料を自分で決め、まだ、体験したことのない人に価値を伝えるという意図で、講習会に対して感じたことを書いて下さいとお願いしました。
参加者の方からいただいた感想の一部を紹介します。
◆hk246さん
学校ではできない理想的な学びができた、これに尽きます。年代や理解度、目指すものなど、置かれた環境がばらばらな人たちが集まって共に勉強し、助け合うことのできる場はそうそうないと思います。
分かる人が分かっていない人に教え、またみんなで同じ問題について「学び合い」をすることで共に理解が深まり、全体がレベルアップすることができているのだと感じました。
また、雰囲気もとても良かったため問題を解いてアップするだけでなく、質問したり答えたりし易かったです。
このような学習ができればと思っていたので、今回の講習はとても楽しく有意義なものとなりました。次回も参加させていただきたいと思います。ありがとうございました!
◆寺本さん
力学の理解が深まりました。質問をしたり、質問に答えたり、他の方の答案をみたり、他の方の議論を読んだりすることで、理解が深まったように感じます。
◆マッスルきたむらさん
建築関係の仕事をしている社会人のものです。
高校の時に物理は完全に落第し、物理からは目を背けて生きてきました。しかしながら、業界の構造自体も、新築から維持管理の時代へと変わって来はじめ、物理(特に力学)とは無縁ではいられなくなってきました。
そこで、今回一念発起し、物理の苦手意識をなんとかしたいという思いで、フィズヨビ講習会に参加しました。
しかしながら、勢いで参加はしてみたものの、参加メンバーが大学受験希望の方や物理の先生という強者ばかりでした。初回の時点で、「失敗した。場違いだった。」と思い、2回目からは不参加のつもりでいました。
しかし、2回目の前日に、ふと前回の動画を見なおしてみたら、「この講習会は、参加者が多様でバラバラあればあるほどサイクルが回りますよ」というメッセージがあり、「ひょっとしたら、自分の落第体験や引っかかっているところを共有できたらメッセージの意図がわかるかもしれない」と思い直し、しぶしぶながら参加しました。
参加してこの話を共有したら、「その気持ちや考え方わかる」と、とても暖かく受容してもらったことで、とても楽しくセッションを終えることができ、いつの間にか、物理の問題に向き合っている自分がいました。
それからは、少しずつ自分の不完全な解答をアップし、参加者のみなさんにフォローしてもらうことで、また次に進めるという好循環が生じました。
こうして3回目の直前になんとか、1題が完答できたことで、「もうこれで物理とも向き合える」という自信ができあがり、とても楽しい状態で終えることができました。
今後も、この繋がりが維持できる仕組みになっているので、挫折することがあっても助けてもらえるという安心感がこの講習会でできあがっていました。
とても画期的な講習会で、今はワクワク感でいっぱいです。ありがとうございました!
今後も、この講習会がさらに大きく進化していくを願っております。
「反転授業の研究」と「自分の場」を往復する
今回のフィズヨビ講習会を成功させることができたのは、「反転授業の研究」のオンライン講座の体験があったからです。
そこで様々なチャレンジを重ねながら学んできたことを生かし、さらに発展させてフィズヨビ講習会を実施しました。
僕だけでなく、多くの人が、「反転授業の研究」での学びを、各自が作っている学び場へ生かして発展させています。
そして、その体験を、「反転授業の研究」が運営するオンライン講座に持ち寄ってくれることにより、さらに進化しています。
各自が実践と経験を積み重ね、オンライン講座に集まって省察と概念化をすることで、お互いに気づきを深め合い、成長しているのです。
ここでも、個人での学びと、集まっての学びとの間の循環が生まれているのです。
信頼関係で繋がり、学び合うことのできる仲間は、何物にも代えがたいほど貴重なものです。
6月に実施するオンライン講座「iPad/iPhoneで作るカンタン動画作成」でも、多くのドラマが起こることでしょう。
僕達は、この学び合いの循環の中に、多くの人たちを誘うことができたらと思っています。
今回、新たな学びの仲間と出会うことができるのを心から楽しみにしています。
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