山口県立萩商工高等学校 松嶋渉さんにインタビュー

第9回反転授業オンライン勉強会「生徒が語る反転授業」で登壇してくださった山口県立萩商工高等学校の松嶋渉さんにお話をうかがいました。

松嶋さんは、オンラインワールドカフェの実験や、「反転授業をやりたい教師のための授業設計入門」にも参加してくださったのですが、これらの新しい試みに参加してくださるときに、「失敗しても挑戦することが大切」と発言してくださったりしていて、それがとても力になりました。

松嶋さん自身も、複数のプロジェクトを抱えていて、新しいことにどんどん挑戦している様子で、そのバイタリティはどこからやってくるのだろうか。そのような考え方の背景はどのようなものなのだろうかということにとても興味がありました。

また、これまで松嶋さんとやり取りをしていて、「教師っぽくないなー」という印象を受けることが数多くありました。まず、ボキャブラリーがあまり教師っぽくありません。「授業の標準化」「マルチタスク」「レッドオーシャン」「PDCAサイクルを回す」など、ビジネス系の単語が当たり前のように飛び出してくるんです。これは、なぜなんだろうかということにも関心がありました。

というわけで、松嶋さんにお話をうかがうのを非常に楽しみにしつつ、今回のインタビューがスタートしました。

教員になったきっかけ

プロフィールを拝見して、松嶋さんは、大学を卒業してすぐに教師になったのではなく、映画関係、教育系出版関係の仕事を経て、29歳にして商業科教員としてのキャリアをスタートしたことを知ったときに、「教師っぽくない」理由がそこにあるのではないかと思いました。そこで、最初に、会社員を辞めて教師になったきっかけからうかがいました。

松嶋:大学生の時には、もともと教師になることを考えていて、教員免許も取ったのですが、映画に興味がわいて教師にならずに就職しました。その後、教育系出版社では、教材のセールスを担当していたんですが、会社のイベントで、中学生を集めて教えるというものがあって、中学生と接しているうちに、「やっぱり教師になって直接教えたい」という気持ちが沸いてきたんです。

会社という組織から学校へ移って、違いを感じることはありますか。

松嶋:ありますね。利益を追求しない団体というものに慣れませんでした。売り上げ、ノルマ、コストといった考えがないので、行動の仕方がぜんぜん違うんです。教育が非営利であるということの重要性とは別に、活動の生産性についてはビジネス的な視点も必要なのではと思っています。

この回答をうかがって、松嶋さんが、なぜ「教師っぽくない」のかが分かりました。松嶋さんは、ビジネス領域で実践されているものの中で、教育現場でも利用できるものは積極的に取り入れていこうと考えているので、それが、いろいろなところから出てきて、「教師っぽくない」という印象を与えるのだと思いました。

キャリア教育について

このような考えをお持ちの松嶋さんが、キャリア教育に関わるのは、必然的なことのように思いました。

萩商工高等学校では、キャリア教育の一環として「萩LOVEハイスクール」というコラボ企画をやっていて、松嶋さんはこの企画に関わっています。これは、高校3年生が課題研究や総合研究の時間を使い、1年間かけて地域活性化に関するWebサイトを作るという企画です。

生徒は4人グループになり、地元の建築や陶芸などにスポットを当てて紹介するWebサイトを作ります。

情報デザイン科で学んでいるWebサイト製作を、より実践的な形で学ぶことができるのと同時に、思ったように表示されないときの問題解決能力や、クライアントである「萩LOVE」の担当者とのやりとり、取材先の建築家や陶芸家の人とのやりとりを通して、大人とのコミュニケーションの仕方も学んでいきます。

松嶋さんからお話をうかがっていて印象的だったのは、

「主体的にやらないと面白くないし、身につかない」

「痛い目を通した成功体験が大切」

「緊張感がないと身につかない」

という言葉が繰り返し出てくることでした。

「萩LOVEハイスクール」は、松嶋さんの考え方を反映し、生徒には主体的に動くことが求められています。

これまで座学中心で勉強してきた生徒は、最初は取り組み方が受身なのですが、締め切りを設定し、細かい指示を与えないでおくと、自分たちで動かないと進まないことに気づき、主体的に行動し始めるのだそうです。

1年間に4回ほど、クライアントの「萩LOVE」の担当者の方を招いて、その前でプレゼンテーションをさせるんですが、締め切りまでにトップページもスライドもできていなくて発表のときに恥をかくグループも出てくるそうです。

でも、松嶋さんは、「お膳立てして成功させるよりも、自分でやって失敗するほうが学びになる」という考えのもと、どんどん失敗を経験させるのだそうです。そして、最初に失敗したグループが、最後によいWebサイトを作るというケースもこれまでにあったとおっしゃっていました。

まさに、「痛い目にあいながら、成功していく」ということを体験させていて、すばらしいと思いました。

また、松嶋さんは、「外部の大人と関わること」が重要だと考えているそうです。「生徒にとっては、親と教師ぐらいしか身の回りにロールモデルがいないので、できるだけ多様な大人を学校に招きいれて、その人の人生について話してもらうことによって、いろいろな生き方があるということを学んで欲しい」とおっしゃっていました。

学習意欲と成長

「萩LOVEハイスクール」があることによって、情報デザイン科で学ぶ内容が実践と結びついてくるので、ふだんの学習意欲を高めることにも非常に役立っているのではないかと思いました。

「萩LOVEハイスクール」をやることで、生徒にどのような変化が生まれるのか、松嶋さんに質問しました。

松嶋:クライアントや取材先にアポイントメントの電話をしたりすることを通して、度胸がついてきますね。もちろん、先方にはあらかじめ、ウチの生徒が電話をするのでよろしくお願いしますということは伝えますが、生徒には、細かいことを教えないんですよ。そうすると、生徒は自分で考えて行動しなくてはならなくなります。大人に対するメールの書き方とかも、意外とすぐに覚えますね。

松嶋:プレゼンテーションも最初は原稿を見ながら小声でぼそぼそと読むだけで下手なんですけど、回を重ねていくと、原稿を見ないで、資料を指しながら説明するようになってきて、成長を感じますね。

プレゼンテーションでは、「萩LOVE」の担当者からダメだしをもらうことが多いそうで、松嶋さんは、それが、教師からダメだしを受けるのとは違った刺激になると考えていて、重要視しているそうです。学校の外の大人が入ることで緊張感が生まれ、その中で失敗しながら行動することが学びにつながるということでした。

アクティブラーニングと反転授業

萩商工は、高校3年生で「萩LOVEハイスクール」があり、実践的にグループワークなどを行いますが、松嶋さんは、1、2年生にも主体的な学びを取り入れたいと思い、3年前からアクティブラーニングをはじめたそうです。

松嶋さんのアクティブラーニングは、予習中心の学習が土台になっていて、生徒はあらかじめテキストを読んでノートにまとめる予習をしてきて、それを前提としたグループワークを教室で行うというやり方で実践されてきたそうです。

家庭学習の習慣が必ずしもついていない生徒に対して予習中心の授業が機能するために、どのような工夫をされていたのか質問してみました。

松嶋:高校1年生の最初、まだ、高校とはどういうところか分かっていないときに、「高校では、予習して授業を受けるんですよ」と話して、そういうものなんだと思ってもらいます。言ってみれば刷り込みですね。そして、うまくいってもいかなくても予習してきてアクティブラーニングするというサイクルを回していき、体にしみこませていきます。結局、予習中心の学習を実践できるかどうかは、授業設計やクラスマネージメントにかかっていると思います。

授業設計やクラスマネージメントがカギというのは、反転授業の実践者が口を揃えて言うことで、同じことを松嶋さんからうかがったことで、確信がさらに深まりました。

次に、反転授業を導入した経緯についてうかがいました。

松嶋:昨年の12月に反転授業のFacebookグループがあることを知り、実践してみようと思いました。完璧に準備してから実践しようとするよりも、不十分でもよいから実践してみてPDCAサイクルを回していったほうがよいと思い、2月に5回の反転授業を行いました。教師だって失敗をすることもあるけど挑戦するという姿を見せるのも大切なことかと思いました。

失敗するかもしれない「危うい場」に生徒を置くだけではなく、自分自身も同じ場に置くことで、社会のあり方や、仕事のあり方というものを背中で伝えるという松嶋さんに、ちょっと感動してしまいました。

松嶋さんが、僕が行っている新しい試みに、すごく共感的に応援してくれるのは、松嶋さん自身がリスクを負って挑戦しているからなんだということがよく分かりました。その姿は、無言のメッセージとして、萩商工の生徒さんたちにビンビンと伝わっているのではないかと思います。

最後に

松嶋さんとお話していて、第8回の勉強会で登壇してくださった教育と探求社の宮地さんから聞いた言葉がよみがえってきました。

「仕事って面白いということを、教えてあげたいんですよ」

一般的に「仕事」という言葉を聞いて、子どもが思い浮かべるのは、もしかしたら、疲れた様子のサラリーマンのような典型的なイメージかもしれません。でも、実際には、たくさんの「面白い仕事」があって、生き生きと働いている人がたくさんいます。そういった「仕事の面白さ」の一端を高校生に体験させることによって、生徒の心に灯がともれば、主体的に学び、行動する大きなきっかけになるのではないかと思いました。

「大人っていいぞ!仕事って面白いぞ!」

ということを身をもって伝えている松嶋さんとお話できて、とても刺激を受けました。

また、松嶋さんがやっている「萩LOVEハイスクール」に大きな可能性を感じました。

萩LOVEハイスクールはこちら

 

 

 

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