特別支援教育に動画を利用!日置節子さんにインタビュー
Facebookグループ「反転授業の研究」には、多くの実践者の方がおり、毎日、様々な投稿がされています。
その中で特別支援教育に動画を利用されている日置節子さんの実践を知り、非常に興味を持ったのでインタビューさせていただきました。
日置さんが担当されているのは特別支援学校の小学部4年生。
5人の児童に対して2人の教師がついているそうです。
日置さんは、知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害の児童を担当されています。
インタビューするにあたり、自閉症スペクトラム障害についての基礎知識を知りたいと思い、以下の記事を読みました。
・自閉症スペクトラム障害の行動特徴(信州大学教育学部)
・よこはま発達クリニック「自閉症について」
・ふぁみえーる「知っておきたい発達障害のこと」
ふぁみえーるさんの記事を引用します。
—- 引用ここから —–
1.相互的な対人関係の障害
人に対して、あるいは社会的な面で適切で相互的な関係を築くことが困難です。具体的には、次のような特質として現れます。
・周りの世界に無関心
・目が合いにくい
・他の子と遊ぼうとしない
・興味のあるものを見せたり、持ってくることをしない
2.コミュニケーションの障害
相手との相互的な意思の疎通をはかることが困難です。具体的には、次のような特質として現れます。
・言語の発達に遅れがみられる
・会話がうまくできない(全くしゃべらない、一方的にしゃべりまくる、話がとぶなど)
・オウム返しが多い
・年齢に応じたごっこ遊びが出来ない
3.想像力とそれに基づく行動の障害(こだわり行動)
思考や行動の柔軟性が未熟であり、こだわりが強いという傾向があります。具体的には、次のような特質として現れます。
・興味のパターンが強く決まっており、没頭する(時刻表や統計への興味。ある一定の物、形、色など物事が同じであることに強くこだわる)
・道順や物事の手順など、決まったやり方があり、融通が利かない(儀式行動)
・奇妙な運動のクセがある(手や指をふる、体をくねらせるなど)
—– 引用ここまで ——
このような一般的な知識しか持たない状態でお話をうかがって大丈夫かという不安を感じつつ、インタビューさせていただきました。
まず、日置さんがiPadを導入したきっかけをうかがいました。
「魔法のプロジェクトという発達障害を持つ子供を支援するプロジェクトがありまして、そちらに応募したのがきっかけです。」
魔法のプロジェクトは、東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクグループが、携帯電話・スマートフォン等の情報端末の活用が障害を持つ子どもたちの生活や学習支援に役立つことを目指してスタートしたものだそうです。
魔法のプロジェクト
http://maho-prj.org/
現在は、特別支援教育に関わる80名ほどの教師にモバイル端末が配布され、実践例をシェアしているのだそうです。
そこで、動画を利用している実践に出会い、自分もやってみようということで応募し、2台のiPadの支給を受け、1年前から動画を使った実践に取り組まれているそうです。
具体的にどのようなことに動画を利用しているのかをうかがいました。
「日常生活の動作を自分でできるようになることを目指しています。たとえば、カバンの中のものを出してロッカーにしまうとか、着替えとか、歯磨きとかです。
自閉症傾向のある子は視覚優位のことが多いので、これまではカードを使って説明したりしていたのですが、カードを動きとして理解できないことがありました。
たとえば、歯磨きをするときに、①前歯に歯ブラシをあてているカード、②奥歯に歯ブラシをあてているカード というようになっていて、それを見ながら歯ブラシを歯にあてることができても、「ごしごし磨く」という行為をすることができなかったりするんです。でも、動画を見ながらだとできるので、動画を利用するメリットを感じています。」
「また、『カバンから中身を出してロッカーに入れる』という動作をできるようにするために、iPhoneを片手に持たせて、動画の動作を真似しながらやらせました。
最初はiPadでやらせようとしたんですが、大きさが大きいので、他の子の注意をひきつけてしまうという問題が出たため、私の使わなくなった古いiPhoneを使ってやらせています。
動画を止めたり、再開したりするのも直観的な動作でできるので、自分ですることができます。最後に「よくできました」というマークが出るようにしています。」
最後のマークは大事なんですね。
「そうですね。できたときのフィードバックはふだんからしっかりかけるようにしています。動画でもフィードバックがかかるようにしています。」
目の前で実際にやって見せるのとの違いはありますか?
「ありますね。たとえば『リンゴを描く』という課題があります。丸を描いて、茎を描いて、赤く色を塗るという課題です。これは、教師が実際にやって見せるよりも動画にしたほうが子供が絵を描くことができます。それで、動画を電子黒板に映してやらせています。」
それは、興味深いですね。なぜなんでしょうか?
「自閉症傾向の子は、どこに注目したらよいのかが分からないことが多いんです。リアルだと情報が多すぎて、関係ないことに注意が向いてしまい混乱するのだと思います。
音声や動きなどの情報を精選して動画を作ると、どこに注目したらよいのかが分かりやすくなるのだと思います。」
「また、動画にすることによって、教師の手が空くので、課題をやっているときにサポートに回れるというメリットもあります。」
モデリングがうまくいくための動画づくりのコツはあるのですか?
「音と映像を単純化することがポイントです。余計なものがあるとそこに注意が行くので、なるべく単純化します。また、動画には、他人がモデルになる、本人がモデルになる、子どもの目線でモデリングする、作業を細かくステップ分けして提示するなどの作成方法があるんですが、動作などの説明などをするときは、他人モデルが分かりやすいようです。」
「ただ、目的によって使い分けています。自閉症傾向の子は初めて行く場所が苦手なので、校外活動などをするときは、あらかじめ動画にとって見せて予習して慣れさせてから行くのですが、 そのときの動画は目線モデルを使っています。」
日置さんが反転授業に興味を持ったきっかけは、どのようなことだったんですか?
「家庭学習との連携について考えていて、反転授業に出会いました。日常生活を送るのですら大変な労力を払っている家庭があるので、そこにさらに家庭学習という形で負担をかけていいのだろうか
というジレンマがあり、宿題を出すことについて躊躇する気持ちがありました。」
「でも、たとえばリンゴの絵を描く課題などを自宅でやってもらって、次に、お友達がまわりにいる環境でも同じことができるかどうか学校でやってみたりするというやり方なら、家庭にあまり負担をかけずに効果をあげられるんじゃないかと思ったんです。それが、反転授業に興味を持ったきっかけでした。実践はこれからで、今、どんなやり方がよいのか勉強中です。」
日置さんのお話には、モバイル端末と動画講義の持ついくつかのポイントがありました。
・動きを説明することが簡単。
・手で持って動画を見ながら、真似して動作をすることができる。
・情報を精選することによって、示したい内容に集中させることができる。
・教師の手が空くのでサポートに回れる。
・教師が動画を作るのが簡単。
・自宅と家庭で同じ動画を使って課題を行うことが可能。
これらのポイントは特別支援教育に限らず、一般的に言えることで、特別支援教育での活動においてより顕著に表れるということなのかと思いました。
障害には様々な種類があり、それをテクノロジーで補完していく工夫にも様々なものがあると思います。
今後も引き続き勉強していきたいと思います。
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