自治医大の淺田義和さんにインタビュー

2月の反転授業オンライン勉強会でお話してくださる予定の自治医大の淺田義和さんにインタビューさせていただきました。

淺田さんのことを初めて知ったのは、Facebookグループ「反転授業の研究」での自己紹介でした。

—— ここから引用 ——-

みなさま、はじめまして。自治医科大学の医学部、メディカルシミュレーションセンターに勤務しております、淺田義和です。

元々は工学部出身で安全工学をテーマに扱っていたのですが、安全→医療安全→医療安全のためのシミュレーション教育→教育手法→成人教育、インストラクショナルデザイン、eラーニング というような流れで、現在は

・シミュレーションセンターでの業務(心肺蘇生講習のインストラクション、教育の質評価、シミュレータの開発、etc.)
・医学教育センター(eラーニングやeポートフォリオを主体)

といったあたりをメインの仕事として抱えております。
※現在、熊本大学の教授システム学専攻でも科目等履修生として学んでいるところです。

反転授業の形式については、授業にeラーニングを取り入れるようになり、単なる宿題(復習)としてのeラーニングだけでなく、「授業の予習的なeラーニング+教室では実践演習」というような形式を実践できるよう、関心を持ち始めています。

特に医学部の場合、シミュレーションのような実習を伴う形式も必要になるので、知識の取得は予習としてeラーニングで、授業時間(教員がいて、器材が使える時間)は少しでも多く実践に・・というような配分を行うにもいいかな、と感じているところです。

また、「反転授業」という視点とは少し変わるかもしれませんが、大学生レベルの教育になってくると、「教える」ことよりも「学ばせる(自ら学んでもらう)」ことを促進するために、どうやっていけばよいか・・というあたりも、現在の課題の1つです。

よろしくお願いいたします。

—– 引用ここまで —–

この自己紹介を読んだときに、

「医学部でシミュレーション???」

と、ちょっと混乱しました。理工学部出身の僕にとっては、シミュレーション=コンピューターシミュレーションという印象が強く、

「コンピューターシミュレーションの教育を医学部でやっているのか?」

と誤解してしまったのです。それで、質問すると、医学部では、下の画像のような人形を使って心肺蘇生トレーニングなどを行っていて、それを、シミュレーションと呼ぶのだということを教えていただきました。

こちらから画像をお借りしました

淺田さんは、授業をするために心肺蘇生トレーニングの講習を受けたときに、その講習でインストラクショナル・デザイン(ID)が使われていたのをきっかけに、IDに興味を持ち始めたのだそうです。

そして、IDを学ぶために熊本大学大学院教育システム学専攻の科目履修生になり、『教材設計マニュアル』の著者でもある鈴木克明教授の講座でIDを勉強されているそうです。

 

先日、お話をうかがった北九州市立大学の山崎進さんに続いて、鈴木克明教授の名前が登場し、いよいよ、僕も、『教材設計マニュアル』で勉強したいという気持ちが強まってきました。

この講座は、すべてeLearningで学ぶことができるので、教育業界で働いている人が、働きながら学んでスキルアップをすることができます。

熊本大学の教育システム学の講座について、淺田さんに感想をうかがったところ、

「僕が、大学院に通っていたときに出された課題と比べても、課題の内容が重いので社会人経験とか、仕事で教育やっているとか、そういう人じゃないと厳しいかもしれません。」

とのこと。逆に、ある程度、実践した経験がある人であれば、その経験に照らしながら、深く学べるということかと思いました。

 

ここまで話していて、僕には、素朴な疑問がわいてきました。

「自分は、一応、教育業界で20年近く働いてきて、eLearningの仕事も10年近くやってきているのに、どうして、これまで、IDというキーワードに出会わなかったのか?」

という疑問です。この問いを、淺田さんにぶつけてみました。

淺田さんは、

「自分も2010年に自治医大に入り、冬にIDのことをはじめて知ったけど、それまでは、知りませんでした。まだまだ認知度が低いと思います。反転授業などをきっかけに、新しいやり方を探すと、そのときにIDに出会うのだと思います。」

と言っていました。

昨日、教育工学に詳しい別の方にお話をうかがう機会があり、その方にも同じ疑問をぶつけてみると、

「日本には、教育学と教育工学の間に深い谷があるんですよ。」

という答が返ってきました。それを聞いて、自分が探していた答が見つかった気がしました。

生物物理学会に所属していた僕は、当時、生物学会との間の深い谷の存在に嘆いていたので、その言葉の意味がよく理解できました。

反転授業のように、予習、テスト、授業を効果的に組み合わせる方法を探る場合、IDの方法論は、おそらくとても役立ちます。

組織の間に横たわる谷を、個人レベルでネットでつながって、どんどん超えていく機会を作ろうという気持ちが強まってきました。

 

次に、淺田さんの実践について、具体的にうかがうことにしました。

淺田さんは、IDを用いている講義を2つ紹介してくださいました。

1つ目は、心肺蘇生シミュレーションの講座です。

人形を使ったワークで、触ったり、体を動かしたり、スキルアップしたりということにできるだけ時間を使いたいということで、講義部分は予習として各自にやってもらうという反転形式で行っているそうです。

実習では、学生は最初から実習に入り、チェックリストを手に持って、実習項目をクリアしたらチェックを入れていくというやり方で進めていくのだそうです。クリアしたかどうかは、人形に判定機能があったり、インストラクターが横で確認したり、ということで判別されるとのことでした。

学生は、予習してこないと実習が進められないので、ちゃんと予習してくるとおっしゃっていました。

 

2つ目は、大学1年生向けのIDについて教える講座です。

こちらの事例では、どのようにIDを使って講座を設計したのかを、詳しくうかがいました。

まず、IDとは何か?こちらの図をご覧下さい。

こちらから画像をお借りしました。

授業を設計するときには、最初に、

①出口(目的)
②入口(現在地)
③出口への到達をどうやって調べるか

という順に考えるのだそうです。

淺田さんは、講座の目的を、

「医学部の学生は、将来、いろいろなところで教える側に回るので、自然な形で教え方を学んでほしい。それから、そのやり方を、自分の学習にも利用できるようにしてほしい」

と考えていて、「教えあう・学びあうというやり方があることを知り、使えるようにする」ということを出口に設定したのだそうです。

そして、入口については、「これまで、授業と言えば9割以上は座学という経験をしているはずなので、『授業=座学』だと思っているというのが、スタートラインです」とおっしゃっていました。

この入口と出口の間のギャップをつなげるために、どのように学習をデザインするかが、インストラクショナル・デザインだということのようです。

出口への到達度のチェックとしては、Moodle上の小テストとレポート課題によって測定したのだそうです。レポート課題のテーマは、「他の授業をID的に分析して、ここがよかった、ここが悪かった、自分ならこうしたいといった意見を書け」というもので、レポートを読んで、淺田さんはある程度の手応えを感じたとのことでした。

次に、IDの用語に当てはめながら、淺田さんがどのように授業を設計したのか、うかがっていきました。

【ニーズの分析】学生は、効率的な教え方、学び方を知りたいと思っているはず。

【デザイン】何もないところからはじめるよりも、自分の体験を思い出させたほうが導きやすい。

「大学に入るまでに楽しかった授業、つまらなかった授業を挙げよ。」

【開発】授業でやるともったいないから、Moodle上に自分の体験を投稿してもらう。→ Moodleの設定

【実装】授業の最初に、Moodleの投稿を吸い上げて、学習意欲がどのようにして出てくるのかを話す。そのときの学習者に合わせてオーダーメイドで授業を作ることができる。その後、クリッカーを使ったり、4-5人でディスカッションさせたりする。

【評価】Moodle上でのチェックテストと、課題レポート「他の授業をID的に分析して、ここがよかった、ここが悪かった、自分ならこうしたいといった意見を書け」によって、IDが使えるようになっているかを見る。

IDの一般的な説明を読んでも、IDとは何かがピンとこなかったのですが、淺田さんの実践例を当てはめながら、淺田さんの思考過程をたどっていくようにすると、だいぶ分かりやすくなりました。

最後に、淺田さんが、授業を設計する上で、工夫している部分は何かをうかがいました。まずは、予習について。

「大学生に予習させようとする場合、何も工夫しなければ、やってこない人はやってこない。だから、最初は、『予習してこないと成績が下がるよ』と言ったりして、半強制的に予習させて、授業の開始3分後に予習確認のための小テストをやる。そして、予習をやってよかったと思えるような授業をしてあげる。」

この流れは、なるほど!と思いました。さらに・・

「僕は、学生が寝たいと思わない授業をしたいと思っています。寝たら損すると思ってほしい。学生に受身に聞かせっぱなしにしないで、クリッカーつかったり、学生同士の対話を入れたりして、最後の3-5分くらいには、授業の感想文を書かせて、それを、次の授業の最初に紹介しています。」

淺田さんは、予習のMoodleの投稿にもコメントを入れたりしているそうなので、オンラインや、感想文を通して、学生とのコミュニケーション頻度が多いんですよね。自分のコメントや感想文を授業で紹介してもらったりするのも、モチベーションが高まる効果があると思いました。

「学生の好奇心を刺激して、おもしろいと思ってほしい。今まで意識していなかったことが意識できるようになると、それっておもしろいよねーっていう感じです。」

最初に、ちょっとだけ強制を入れて予習させて、予習してよかったと思える授業をして、授業の中で好奇心を刺激して、最終的には、講義内容の面白さを伝えるところまで持っていく・・・この一連の流れが論理的に考えられているところが、とても興味深かったです。

淺田さんのお話をうかがって、インストラクショナル・デザインの重要性、有効性がよく分かりました。

そして、まずは、自分自身がIDを学んで実践に生かし、その有効性を自分の実践例、自分の言葉で伝えていきたいと思いました。

 

※Facebookグループの人数が800名を超えました。どなたでも参加することができます。参加希望の方はこちらからお願いします。

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