シミュレーションの教育利用に関心を持った理由(その2)

前回の記事で、シミュレーションの教育利用に興味を持ったのは、「3D物理エンジンの動画を見たのがきっかけ」と書きました。

でも、3Dの教育利用については、以前から興味を持ち続けていました。そのきっかけになったのが、

「アバターと3D空間で主催するセミナー」

との出会いでした。

 

3D仮想空間でアバターを操作し、会議を行う・・・

 

その様子をテレビでやっているのを見て、「これは、おもしろそうだ!」と思って、会社に問い合わせて話を聞きに行きました。

「これで、物理の授業をやったらどうなるんだろうか?」

と思い、2010年4月に、50人の受講生を3D仮想空間に集めて、「東大は物理で差をつけろ」という講演会を行いました。

その様子について書いた記事はこちら↓

3Dアバターによるペルソナ効果を体験

3D会議室でイベント「東大は物理で差をつけろ」を実施

 

2010年のネット環境では、少し時代を先取りしすぎていて、本格的に導入するには至らなかったのですが、ペルソナ効果など、

バーチャルがリアルよりも、教育効果という点で優れている部分がある

ということをはっきりと認識することができたことは、よい経験でした。

 

その後、チャンスがあれば、3D仮想空間を教育に利用してみたいと思っていたのです。

3D物理エンジンのシミュレーション動画を見たときに、3Dアバターで行った物理講演会のことを思い出しました。

Interactive Physicsを使って、シミュレーションの教育利用ノウハウを開発するのと平行して、3Dのバーチャル物理実験室というものにも大きな可能性を感じました。

3D仮想空間で、自由に実験装置を組み立てて、実験ができたらエキサイティングだろうなー

と思ったんです。

 

それで、早速、3Dゲームエンジンの1つであるUnityを訪問してアイディアを話し、開発費の見積もりをしてもらいました。

ざっくり、200~500万円くらいじゃないかという話でした。

Unityの開発環境をPCにインストールし、書籍を右手にどの程度のものが自分で作れるのかサンプルを作ったりもしました。

東南アジアのディベロッパーに頼めばコストを下げられるんじゃないかと思い、Unityの東南アジア担当のエバンジェリストの方を紹介してもらい、スカイプで話をしました。

日本で開発するよりは安いようでしたが、エンジニアを確保して、使いやすいインターフェースを開発するのには、それでも時間とコストがかなりかかりそうだというのが実感でした。

 

2012年になり、物理の電子書籍の製作を始めました。

電子書籍製作のスペシャリストの佐藤勝さんと一緒に、「紙の書籍ではできないことをやらないと電子書籍にする意味がない」ということで、アイディアを出し合って製作しました。

電子書籍ならではの分かりやすい表現というものもたくさん考えたのですが、その中で、一番やりたかったのが、ずっと考えてきた

3Dシミュレーションの組み込み

でした。

 

今後、デジタル教科書の時代になり、デジタル化のメリットは何かという話になったときに、絶対に3Dシミュレーションなどのインタラクティブなコンテンツによる学習効果がテーマになると思ったのです。

だから、その学習効果がどのようなものなのか、自分の電子書籍に組み込むことによって、理解したかったのです。

 

3Dシミュレーション以外の部分の製作は、すべて順調に進みました。2013年の2月には、文章の執筆、Interactive Physicsを使った動画作成が完成し、イラストレーターに依頼したイラストも出来上がってきました。

 

しかし、3Dシミュレーションの開発は迷走しっぱなしでした。

3D物理エンジンを扱っているゲーム会社を回り、設定を固定したシミュレーションの開発について相談して回りました。

・開発費はどのくらいか

・電子書籍に組み込み可能か

の2点を満たすところがなかなか見つからず、時間ばかりが過ぎました。

そんなときに、『HTML5による物理シミュレーション』という本を見つけました。

 

サンプルコードのプログラムを動かしてみると、僕がまさに欲しかったようなものでした。

 

HTML5なら電子書籍アプリに組み込み可能だということで、HTML5による3Dシミュレーションの開発に的を絞り、ディベロッパーを探しました。

 

最初に見積もりをとった会社の出してきた金額が100万円。 頭がくらくらしました。

サンプルコードと同じやり方では、スマホでは速度が遅すぎるので、別のやり方で実現しなくてはならないからコストがかかるとのことでした。

オフショアなら安くなるかと思い、ベトナムの会社にあたったりしましたが、条件で折り合うことができませんでした。

新学期のタイミングで出版したかったので、3Dシミュレーションの組み込みはバージョンアップで行うこととし、3Dシミュレーションなしのバージョンを2013年4月にアップルストアに申請を出しました。

しかし、結果は、リジェクト。

ちょうどそのときに、iBooks Japanがスタートしたばかりで、この内容ならiBooksのほうへ出してくださいと言われました。

でも、iBooksから出せない理由がありました。バージョンアップでシミュレーションを組み込むためには、iBooksでは無理で、アップルストアに出す必要があったのです。

 

電子書籍のリリースにも暗雲が立ち込め、時間ばかりが過ぎていきました。

追い詰められた状況で、突破口を探しているときに、ふと思いつきました。

 

『HTML5による物理シミュレーション』の著者の方に連絡してみたらどうだろうか?

 

それが、遠藤理平さんと知り合うきっかけでした。

遠藤さんも物理シミュレーションを教育に利用する可能性を探していたということで、話がどんどん進み、いろいろな点で協力していっしょにやっていけることになりました。

電子書籍の3Dシミュレーションも、遠藤さんが2,3日で作成してくれました。

半年以上もかかって、どうしても進められなかったことが、遠藤さんに連絡したことによって、わずか数日で解決してしまいました。

先日、アップルストアからリリースすることができた『田原の物理 力学』には、念願の3Dシミュレーションが実装されています。

3d

 

天井からおもりを糸でつるし、水平面で円運動させた後、糸を切断するとおもりはどのように運動するのか?

 

この3次元的な運動を3Dシミュレーションで見ることができます。

画面をドラッグすることにより、好きな角度から運動を見ることができます。

 

開発開始からリリースまで、1年半もかかってしまいましたが、どうしてもやりたかった3Dシミュレーションを実装することができ、『田原の物理 力学』をリリースできました。佐藤勝さんと遠藤理平さんには、本当に感謝しています。

 

しかし、これは、ゴールではなく、ようやくスタートラインに立ったところです。

・シミュレーションによって、どのような教育効果が上がるのか?

・どのようにシミュレーションを利用したら、効果的なのか?

といったことを、今後明らかにしていきたいと思います。

そのための、最低限の準備がようやく整いました。

これからが本番です。

 

10月19日に第1回の「シミュレーション教育利用オンライン研究会」をやります。

まずは、実践例を集めて、ディスカッションし、教育効果を上げるためには何が必要なのかを明確にしていきたいと思います。

シミュレーション教育利用オンライン研究会はこちら

 

 

 

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