動画を作ると人生が変わる(1)~自分の分身ができた
反転授業の研究の田原真人です。
オンライン講座の運営チームでやり取りをしている中で出てきたのが、
「動画が作れるようになると人生が変わる」
という言葉でした。
一瞬、「人生が変わるは、大げさだろう!」と思ったのですが、僕自身の人生が大きくシフトしたきっかけが、10年前に動画が作れるようになったことでしたので、自分が、どのように動画作成に関わってきて、それによって、どのように人生が変化してきたのかを振り返りつつ、連載していきたいと思います。
様々な種類の動画を作成してきましたので、いろいろな動画の作り方のメリットやデメリットを比較し、みなさんが自分に合った作り方を見つけるためのガイドにもなればと思います。
予備校の物理の授業をネット配信
今から11年前の2005年4月。
当時、河合塾で物理を教えていた僕は、自分の物理講義をネットで配信できないかなと考えました。
その理由は2つ。
・自分が改善を重ねてきた教え方を、もっと多くの人に知ってもらいたい
・ずっと同じことを繰り返し授業をしているのだから、動画でいいのではないかと思った。
予備校では、50-70人ほどの教室で、一斉講義型の授業をしていましたが、ある程度、教え方が固まってくると、同じ授業を繰り返すことになるのです。あるとき、まるで自分が授業を行う機械であるかのような錯覚を覚えました。
まずは、受講してくれる人がいるのかどうかを知りたいと思い、まぐまぐから『たのしい≪たとえ話≫で直感的に分かる物理の考え方』というメールマガジンを発行しました。
このメールマガジンが、大好評で、最終的には3500人ほどの読者を獲得し、まぐまぐで殿堂入りのメルマガとなりました。
そこでは、このようなたとえ話を配信していました。
それまで教室の中で話していたことをアレンジしてメールマガジンで配信していた結果、大きな反響があり、物理をネットで勉強したい人がたくさんいて、その目的も多様なのだということに驚きました。
それで、メルマガ読者向けに物理講義をネット配信することにしました。
でも、当時は、iPadもなかったし、簡単に講義動画を作ることができるツールがなかったんです。
それで、ひたすら自分が授業で話している内容をテキストに打ち込み、図を挿入し、Latexで組版してPDFファイルにして配布しました。
このようなものを、全範囲について合計50講作りました。
1つの講義を作るのに要する時間は、4-6時間。
朝から夜まで予備校で授業をしていましたので、PDF講義を作成する時間は、主に深夜でした。
先に受講料をいただいて、毎週配信ということに決めたので、50週間に渡り、睡眠不足の日々が続きました。
仕事を終えて家に戻ってくると11時。ちょっと休んで12時から3時までPDF講義作成・・・。
そういう日が、週に何度もありました。
30代の体力が余っている時期だったからこそできたことですね。
この講義で学んで、成績がすごく上がったという高校生や、受験生が出てきました。
東大に合格した人も出てきました。
受講者からのフィードバックがたくさん届くので、それに励まされて、なんとか50週間やりぬきました。
今までは、教室で教えなければならないと思っていた自分の思い込みが崩壊し、工夫次第でオンラインで学べる環境を作ることができることに気づきました。
動画講義との出会い
PDF講義を20講くらいまで作ったときに、受講生の方から、
「田原先生、このソフトで講義を作ったらどうでしょうか?」
と勧められたのが、PCレター(現在はThinkBoard)というソフトでした。
教えてもらったWebサイトを訪問してサンプル講義を見てみると、PCの画面をホワイトボード代わりにして、教師が音声で説明しながら手書きの文字を書き込んでいきます。
今でこそ、カーンアカデミーなどでおなじみとなった形式ですが、2005年当時は、そのようなものを見たことがなかったので、興奮しました。
これを使えば、PDF講義ではなく、予備校でやっている講義をそのまま配信できると思ったのです。
それで、PDF講義の受講者に相談しました。
「PDF講義から、PCレター講義に切り替えるのはどうでしょうか?」
PDFに比べて、PCレターのほうが情報量も表現力も圧倒的に上なので、喜んで賛成してくれると思ったのですが、
「PDFファイルを印刷して、電車の中で読みながら勉強しているので、パソコンでしか見れないPCレターだと困ります。」
「私はMacなので、PCレターが見れないので、PDF講義のほうがよいです。」
というような声が返ってきて、結局、50講分を最後まで作り終えてからPCレター講義を作ることにしました。
PDF講義の場合は、予備校の90分の授業の内容を半分くらいに減らして作成していたのですが、完成までにかかる時間は4-6時間。
ところが、PCレターの場合は、講義でしゃべるのと同じことをどんどん話しながら、黒板に書くのと同じようにペンタブレットで画面に書いていけばよいので、90分講義を作成するのに要する時間が120分くらいです。
作業光景は、こんな感じ。
作った講義動画は、このようなものです。
※ThinkBoard形式をmp4に変換し、youtubeにアップロードしてあります。
このやり方に変えて、講義作成に要する時間が、大幅に減りました。
それから何年間も、キャリーバックにノートPCとタブレットを入れ、宿泊先のビジネスホテルで、夜、動画講義を作り続ける毎日を送りました。
当時、僕以外に、毎晩毎晩、動画講義を作っている人は世界中にもほとんどいなかったと思います。
サルマン・カーン氏がカーンアカデミーを始めるのよりも前でしたから。
このようにして、予備校講師として一番脂が乗っている時期の講義を、すべて動画講義として保存することができました。
フィズヨビの受講生はどんどん増え、毎年400名ほどが、僕の動画講義で物理を学んでくれるようになりました。
動画が自分の分身として働いてくれるようになり、自由な時間が生まれたことで、生身の自分は、次のステップへ進むことができるようになりました。
動画講義作成が、僕の人生を大きく変えたのです。
しかし、それは、同時に別のジレンマを生み出すことになりました。
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