コクリ(Co-Creation)で地域創生を進める三田愛さんインタビュー

「反転授業の研究」が本格的に活動を開始したのは2年前。そのときのビジョンは、

オンラインに多様性のある森を育て、そこに実る多様な果実(生徒が主体的に学ぶことができる方法)を収穫して共有すること

でした。

Facebookグループ内でフラットな関係を作って、オープンに対話することにより、集合知を生み出すことができるのかという社会実験を行ってきたのです。

その結果、様々な果実が実り、副産物として、メンバーのマインドセットが次々と変わっていきました。

一人じゃできないことでも、協力すると創造できるという経験は、僕たちにパワーと自信を与えたのです。

その結果、心がどんどんオープンになっていき、グループ内にエネルギーが溢れるようになりました。

このような経験は、僕にとって初めてのものでした。これを言い表す適当な言葉を探していて、「共創(Co-Creation)」という言葉に出会いました。

『U理論』の翻訳者である由佐美加子さんがワークショップの動画の中で、「共創(Co-Creation)」について、「美に触れると元気になる」とおっしゃっているのを聞いて、それが、まさしく自分たちが経験したものだったのではないかと思いました。

→ 「Co-Creationという世界に生き方、リーダーシップ」は、こちらの記事から視聴できます。

その後、社会変容ファシリテーターのボブ・スティルガーさんの『未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう』を読み、その後、スカイプでお話をうかがう機会がありました。

 → Bob Stilger著『未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう』が社会的変容への地図となる

 → 未来は旧システムの周辺部から立ち現れる~共創的教育の芽吹き

ボブさんの著書や、お話の中で出てきた「トランス・ローカル」という考え方には、強く心を動かされました。

旧システムの「ひび割れ」は、システムの周辺部で最初に現れ、そこから新しい未来を創る動きが始まるというのは、まさに僕たちのグループが誕生したきっかけであり、あちこちの周辺部で誕生した「未来を創るコミュニティ」が時代性でシンクロして繋がっていくことで、社会変容が起こる「トランス・ローカル」のイメージは、僕たちの次のステップを指し示すものでした。

ボブさんから、(株)リクルートライフスタイル事業創造部じゃらんリサーチセンター研究員で、ボブさんと共にコクリ!ラボをやっている三田愛さんと話すように勧められました。

三田さんは、少し前に「反転授業の研究」に参加されていて、メッセージのやり取りをしたことがありました。

その後、三田さんが、home’s viの代表理事の嘉村賢州さんの「賢州休みカンパ」企画の応援団長になっているのを拝見して、そのペイフォワードの考え方や活動にとても興味を持っていました。

→ 賢州夏休みカンパ

今回、とてもよいチャンスをいただいたので、自分が今、一番関心があるテーマである「共創(コクリ・Co-Creation)」について知りたいことを、コクリ(Co-Creation)に長年関わっている三田さんにうかがってみました。

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人が本領発揮するような世界が素晴らしい

僕がコクリにたどり着くまでは、結構、長い道のりだったんです。自分の中の屈折している部分を長い時間かけて見つめて、それを解体していった結果、ようやくたどり着いた境地がコクリだったという実感があります。三田さんの場合はいかがだったのでしょうか?どのようにしてコクリにたどり着いたのですか?

私の母が教育者で、人の可能性を引き出して背中を押すのが得意な人だったんです。

その影響で、人が本領発揮するのが素晴らしいとか、すべての人がギフトを持っていて、それが輝く世界が素晴らしいという考えるようになりました。小学生のころから、目がキラキラしている人がすごく好きだったんです。

だから、ずっと、そういうことをやりたいと思っていました。

私は、リクルートでずっと社会人生活をしています。人事領域・事業変革領域にも長くいて、その中でやっていたことは、今から思うと結局、コクリだったんです。

コクリをテーマにしてやっていたわけではないんですが、採用関連とか、企業の人事関連の20人くらいのプロジェクトをまとめていたときも、メンバーがどうやったら最大限輝くか、本領を発揮できるのかという環境を整えることをずっとやっていました。結果的に、業界初の新しい仕掛けを成功させ、関わるメンバーが各自MVPを受賞したり昇進し、より輝くフィールドを自ら創っていきました。

今から思えば、それは、コクリをやっていたんだなと思います。

実は、高校時代の成功体験(体育祭のプロジェクト)も今思い返すと、コクリでした。多様性あるコアメンバーを集め、各自が本領発揮する環境を創り続け、140人を巻込んでいき、最後は予想していない未来になった。

私はそんなコクリのプロセスが大好きなんです。

屈折と挫折を乗り越えた末に、遠回りしてコクリの考え方にたどり着く僕のような人もいれば、まっすぐにそこにたどり着く三田さんのような方もいるのですね。相手の中の「よい部分」にまっすぐにアクセスして繋がることができるのは、三田さんがまっすぐに進んできたからかもしれませんね。

コクリプロセスで地域創生を目指す

今やられている地方創生の仕事は、どのようにして始まったのですか?

リクルートで働きながら、コーチングの資格を取ったりとか、ファシリテーションを学んだりとかするようになりました。その後、国内外のいろんなところに学びに行くようになり、組織変革をやっている人たち、ボブさん、フューチャーセッションをやっている野村恭彦さん、嘉村賢州さん、U理論の中土井僚さんなど、一線で活躍されている人たちと、学びの仲間になっていきました

その中で自分自身に知見が溜まっていって、5年前にじゃらんリサーチセンターの研究員になったときに、そういう専門と関心を持った自分が、地域のお役に立てることって何だろうと思って研究テーマを考えたときに、表面的な観光政策を研究するのではなくて、氷山の下である、裏の構造にアプローチしたいと思うようになった。しがらみ・縦割り・分断等がある構造や、諦め・恐れ・エゴ等がある個人の意識(メンタルモデル)を変え、地域の人がどうやったら本領発揮して垣根を超えて繋がり、自分たちの力で未来を創れるかということを研究テーマにしたいと思ったのです。

最初は1年ごとの研究プロジェクトとして熊本県黒川温泉の地域創生をフューチャーセッションの野村さんと一緒にやったり、上天草市ではシステム・コーチングを使って津村栄作さんといっしょにやったりとか、和歌山県有田市ではU理論の中土井僚さんとプロジェクトやったりとか、自分の関心がある新しいテーマで地域での実証研究を、信頼する方々と1つ1つやっていたんです。

現在、コクリ!プロジェクトは3フェーズ目なんですが、私が1地域1地域サポートするカタチだと年間5地域くらいしかお手伝いできないから、点を面にしたいなと思うようになりました。
 
ボブさんから、実績も上がっているのだったら、そろそろラーニングコミュニティを作る時期じゃないかと言われて、地域同士が学び合えるコミュニティを創ろうと思いました。私は黒川にガッツリ入っているんですが、黒川の人たちが一生をかけてとりくむ変革の担い手だと思ったときに、彼らを支援し続ける仕組み作りが必要だと思ったんですね。

それで、私個人がずっと入り続けるというよりは、そういう仕組みとしてのコミュニティになったほうがいいなというのがあって、ボブさんといっしょに2年前に「コクリ!ラボ」というのを始めました。現在15地域ほどの人が3-4か月に1度3日間集まり、学び合っています。

(コクリ!ラボ設立の経緯や、目的・内容、参加地域などはこちらをご覧ください
http://jrc.jalan.net/cocre/lab/

今、三田さんが取り組まれている「コクリ!キャンプ」というのは、どんなきっかけではじまったんですか?

 

コクリ!プロジェクトを続けていく中で、国の有識者委員会に入ったりとか、いろんな人と接点が増えていきました。地方創生の流れで、経産省とかいろんな省庁が地方創生を考えていているんですが、有識者会議で物事が決まることに違和感がありました。そこは、全然、コクリじゃないわけですよ。ロの字型で、自分の意見だけを言って、いい面だけを見せようとしてしまう感じなんです。

この中で政策が決まってしまうのはもったいないなと思い、もっとコクリプロセスで本音で未来を創ったほうがいいのではないかと思いました。

この場に地域の現場の人もいたほうがいいから、地域の現場の人と、行政の人も繋がったほうがいいし、都会の人で地域のことを何とかしたいという人もいっぱい出ているけど、地域で頑張っている人と接点がなくて動けないという状況があるから、都会の人と地域の人も繋げていくことができる場を創りたいなと思いました。それで、コクリ!キャンプを企画したんです。

どうして、キャンプにしようと思ったのですか?

アダム・カヘンさんの来日ワークショップに参加したときに、ピピっと来たんです。

アダムさんは、アパルトヘイトやドラッグ問題等、国レベルの複雑な課題を多様なステークホルダーの対話で解決に導くことをされています。その話を聞く中で、これの日本版がやりたい!と思いました。

単なるフォーラムではなく、複雑な課題を、影響力と知恵と情熱があるステークホルダーが集まって話し合う場を創ろうと。

誰もが本領発揮して輝くようであってほしいという想いを持って取り組んでいると、その方向に次々に道が開けて、情報も集まってきて、助けてくれる人も出てきて、ステージが一段一段と上がっていくのだということを、三田さんのお話をうかがいながら思いました。

三田さん自身が、他の人の心にアクセスするのが得意だということだけでなく、軸をはっきりと示しているので、他の人が三田さんに繋がることができるのですね。

 

コクリ!キャンプで影響力と知恵と情熱があるステークホルダーを繋いで未来を創る

三田さんの場合は、ステークホルダーを連れてきて話し合う場を創ることができる位置にいるから、実際に変化を引き起こしていくことができますよね。

気がつけば数珠つなぎで人を紹介してもらって広がっていきました。思いに共感して、人が人を紹介してくれてという感じになっています。

ちょっとティッピングポイントは超えたかなという気がしています。

今、アクティブラーニングも、個人で実践してきた人たちが集まってコミュニティを創っていくというボトムアップのプロセスと、文科省から降りてくるトップダウンの流れの2つあって、この2つの流れは、どのようにうまく融合するのかなと思いつつ、僕たちは、ボトムアップのプロセスを続けています。

三田さんは、ボトムアップのプロセスとトップダウンのプロセスとをちょうど繋げているような役割をしているように思うのですがいかがですか?

意識的にボトムアップと、構造的に力があって影響力のある人を繋げようとしています。やりたいことが、社会のシステム変革なんです。そう思ったときに、一部の人たちがいいというのでは社会は変わらないなと思っていて、地域は国からのお金もいっぱい入っているので国の影響力も強いし、そこを見て仕事しているというのもあるので、そういう人をどうやって仲間に入れていくのかというのは大事だなと思っているんですね。

場面に応じて、行けるギリギリまでチャレンジするという感じなんです。例えば、地域でのプロジェクトだったら、そこの首長さんとかは連れてくることができるので、参加してもらったりしています。

また、地域の中で影響力はあるけど、普通はそういう場に来ない人を連れてくるとかしています。1割くらいなら混ぜても大丈夫だという感覚があります。

場を創るときに、メンバーの属性の割合についてどのように考えていますか?

場を創るときって、2割の人がすごくコミットしていたら、場はうまくいくんですよね。全員が参加者で運営者一人だと、ゲストとホストみたいな関係になって、ゲスト100%だと単なるワークショップになっちゃうんですけど、ホスト側の意識がある人が2割くらいいたら、それだけでうまくいくというのがあります。また「事前:当日:事後が4:2:4の法則」と思っています。通常当日に意識が集中しがちですが、実は事前が4割くらい大事なんです。なので、事前にコアチームを作ったり、意図合わせをしたり、半分参加者みたいな人をどんどん巻き込むようなことをしています。

コクリ!キャンプから、特にコクリ!プロジェクトのフェーズは変わってきているのですが、参加者は多様性とバランスをかなり考えていて、影響力のある人もいれば、、名前は知られていないけど影響力のある人とも普通に話ができるという地域のがんばっている若手とかも2-3割入れたりしています。多様性があると肩書勝負じゃなくなるので、漁師さんとか農家さんとかもいれば、大臣補佐官や、IT系の人やNPOの人もいたり、バラエティに富んでいたら全員がすごいから、上下関係じゃなくなるんです。

あとは、場の創り方で肩書を外せるようにしたりとかしています。

メンバーを選ぶときに、三田さんの中で、このメンバーが集まれば、こんな化学反応が起こりそうだなというのが、暗黙知も含めて、きっとあるんですよね。始まる前から、こんな感じになりそうだというイメージが湧いているんですか?

そうですね。イメージが湧くまで準備しますね。肩書を外した対話の場に来たことがない人に対しては、コクリ!キャンプはものすごく丁寧に招待していますね。一人一人会い に行って、趣旨とかコンセプトとか、今までやってきた研究のこととか、映像を見せながらかなり丁寧に話しているんですよ。

この場はワーク ショップでもないし、フォーラムでもなくて、肩書を外して、一人の人間として普段言えないことでも言えることこそ意味があって、そういう安心・安全の場な んですよとか。参加者が場のルールに沿ってその場に入れるように事前にかなり準備して当日を迎えるようにしています。

当日、思ったように迎えられるように、人の選び方、人の呼び方をしています。

一人一人会いに行くというのはすごいですね。僕は、オンラインでの場つくりを手探りでやっているんですけど、今までの失敗の経験が後ろ側に積み重なっていて、小さな工夫がたくさん生まれているんです。三田さんのお話をうかがうと、たくさんの経験が蓄積していて、「ここまで準備しないと肩書が外れない」とか、そういうイメージが湧いているんじゃないかと思います。そういうものの積み重ねで、今の形になっているんだなと思いました。

今は、暗黙知になっている部分を見える化したいと思って、まだできていないんです。コクリの中でもシンクタンク部門のようなチームを立ち上げていこうとしていて、コクリのナレッジをオープンにして使ってもらえるようにしたいと思っているんです。

聞かれたら言えるんですけど、自分ではなかなか整理ができないんです。誰かに質問してもらったら出てくるんですけど。

今は、私個人にナレッジが溜まっているので、それを他の人も使えるようにしたいですね。

 

三田さんは、橋を架ける人

僕は、ボブさんの本を読んだときに、ちょうどいいときに、ちょうどいい本を読んだなと言う感覚がありました。社会変容のシナリオを描いてある図があって、橋が架かるというのがあったんです。

変容のパターン

自分たちのフェーズは、新しいことを始めた人たちが、お互いにつながり始めて、そこから新しい何かが生まれつつあるというところだと思います。次の起こることが「橋が架かる」ということなのかもしれないなと思いました。イノベーターとマジョリティの間に橋が架かったときにキャズムを超えて大きな変化が生まれそうなイメージが湧きました。でも、「橋が架かる」というイメージがうまくつかめなかったんですね。どんな人が、橋を架ける人になるんでしょうか?

橋を架ける人というのは、両方にオーバーラップしている人になるかもしれません。

両方にオーバーラップしていると、両方の気持ちが分かるし、どういう言い方をすればこっちの人が興味を持つとか、どういうつなぎ方をすればいいかということが分かるはずなんですよね。そういう人に繋ぐ役割を担ってもらうということになるのでしょうか。

なるほど。今、三田さんは、まさに「橋を架ける人」の役割をしているわけですね。実際にその役割を担ってみて、どのように感じていますか?

繋ぐ役割をしていることで、自分ができる幅が増えてくることもあるし、全部ができるわけじゃないから区分区分で任せていくみたいなこともしています。

私 で言うと、国関係は5年くらい前は全く関わっていなかったんです。霞が関に足を踏み入れたこともありませ んでした。

ただ、じゃらんリサーチセンターは研究機関なので、センター長とかは国の委員に入っていたりするんです。官庁の事業受託もしているので接点 が周りにはありました。私自身も受託事業をやるようになって、少しずつ接点が増えていくなかで、向こうの考え方の特徴がしだいに分かってくるというところがありました。

U理論で「相手の靴を履く」という言い方をしますけど、向こう側から見るとこうなんだなということを理解していくというフェーズがありました。

ボトムアップのプロセスに関わっていた三田さんが、トップダウンの側の人たちの考え方を、少しずつ理解していったということですね。

黒川とかに入って、やれることをコツコツやっているうち結果が出てきて、経産省の有識者委員会にゲストで呼ばれて、その結果を映像で分かりやすく説明していて、「ロの字会議だと何も決まらないんですよ。」という話をしたら、「この会議もロの字だね。」という話になったりして、そんなやり取りをしているうち に、有識者委員会に入ってくれと言われるようになり、だんだんと向こうの仲間になっていったという感じだったんです。

私は、できるだけ人と 壁を作らないようにしていて、それを大事にしているので、こっちも想いを話すし、向こうからも個人的な想いを聴くようにしているんです。コクリの原点は、肩書き じゃなくて、根っこの想いにアクセスして、肩書きを超えて、垣根を越えてコクリするというところにあるので、1対1で、関係性を少しずつ紡いでいきました。そうしたら、向こうも、少しずついろんな話をしてくれるようになって、信頼がもらえ、仲間となって、 いろんな人を紹介してくれるようになり少しずつネットワークが広がっていきました。どんな肩書きがある人も“人”なので、“人として”話ができる人がだんだん増えていきました。

橋を架けることができる人というのは貴重な存在だと思います。三田さんの壁を作らずに繋がっていく姿勢を見た人が、三田さんなら橋を架けられると期待した結果、今のオーバーラップしている位置にいるのではないかと思いました。両方の立場の人の想いを理解した上で、それを繋いでいく場を創って、一緒に未来を創っていくというストーリーが、三田さんのやっていることを具体的にうかがって、明確にイメージできるようになってきました。

 

誰かが助けてくれる

三田さんの場合は、想いから行動しているので、いろんな人がそこに共鳴して、助けてくれたり、集まったり、ということが起こっていると思いますが、コクリ!キャンプの運営についてはいかがですか?

コクリ!キャンプをはじめるときに、リクルートライフスタイルの当時の社長に企画を出したんです。その人が育ての親みたいな感じでサポートしてくれたんです。

情熱と知恵と影響力がある人を100人集めてフォーラムをやりたいという話をして、会社の会議室でやりたいと言ったら、「ビジョンは素晴らしいけど、TO DOがなくて、コンセプトがない」と言われて、それで、コクリ!キャンプというコンセプトを考えたんです。

そしたら、「キャンプなのにキャンプファイヤーもないの か」と言われたので、「予算の中で考えるとこんな感じだと思います」と言ったら、「そういうのを一度、度外視して考えなさい」と言われました。それで、すべてを 度外視して、場所も選びなおして、空間デザイナーとか、ビジョンを実現するために必要なものは何かを考えてゼロベースで考え直して企画をして、それに予算 をつけてもらって大きくなったんです。

自分では制約だと思っているものが、本当の制約ではないことがありますよね。予算などもそうかもしれませんね。それは、三田さんのビジョンが社長の心を動かしたからこそ起こったことですね。

私は、妄想と言うか、ビジョンは創るんだけど、具現化するものは何もなくて、そこに対してそれが得意な人とかサポートしてくれて大きくなってきたというのがあるんです。

私は想いでやっているから、会社に対する翻訳機能が甘くて、会社に受け入れられやすいような言い方とかで伝えるのが得意じゃないんですよ。経営層中にそれをサポートしてくれる人がいて、どういう言い方をしたら会社が投資しやすいかを一緒に考えてくれるんですね。

それでアドバイスしてもらって企画書をまとめたりしています。

全部の能力を自分が持てないときに、ビジョンに共感してくれる多様な仲間がいると、その人がどうすればいいか考えてくれたり、繋ぎをしてくれたりします。

三田さんは、周りを巻き込んでいく力がすごいんですね。ビジョンに共感した人たちが、そのビジョンを実現するために必要なことをやってくれて実現してしまう。すべてを自分でやらなくてもよくて、得意なことで貢献し合って協力できるから力が出せる。そんな循環が三田さんの周りでは、いつも起こっているのだなとおもいました。

 

私から我々への変化をどのように起こしていくのか

周りを巻き込んで、動きを生み出していくときって、自分の範囲が、個人レベルから集団レベルへと広がっていくんだと思います。僕もそれを何度か経験しているんですが、いつも直感的にやっていて、まだうまく整理されていません。三田さんは、どのように取り組まれていますか?

コクリでは、自分ゴトからみんなゴトという言い方をしています。

共に夢を見るというのが大事だなと思っていて、共に北極星を作るという言い方をしたりしています。

みんなで見た夢だったら、みんなごとになるし、それを一緒にかなえたくなるから、出せるものを出したくなると思うんです。

自分ゴトのマイストーリーとか、自分の根っこの想いを自分自身が気づくということがまず大事で、気づいたものをシェアし合うというところを一番大事にしています。

具体的にはどのようなステップを踏むんですか?

まず、根っこの思いを掘り起こすために、AI(アプリシエイティブ・インクアリー)を使ったインタビューをすることが多いです。

インタビューシートを用意して、結構、時間をかけて、2人ペアで片方40分くらいかけてやったりします。

コクリキャンプのような時間がないときは、一人最低8分くらいですね。そのときは、インタビューシートを使わずに、前に問いを書いてやります。

インタビューの内容は、自分が人生で一番、本当に生き生き輝いた瞬間を思いだしてもらって、それがどんなシーンかというのをありありと話してもらいます。

自分は、なぜ、そう動いたのか。相手から自分はどういう役割だと思われていたのかなど、問いの項目は内容によって変えています。

その後、自分の根っこの思いは何ですかという質問をしたりすると、自分はこんなことを大事にしていたのかということを気づいてもらえたりするんです。

地域だったら、地域に関連したみんなゴトになるような質問を入れています。例えば、「あなたがこのまちに生まれて育ってよかったなと思うことはなんですか」と質問すると、まちに対する思いが出てくるじゃないですか。

相互インタビューの中で、自分が何に突き動かされているのかという内発的動機が確認でき、聴いた人が証人になります。

聴いてもらったという安心感もあって、それを交換したというのもうれしいんですよね。

次のステップで、それを他己紹介するんですよ。

6人グループとかだったら、2人組でやったものを他の4人に紹介してあげるんです。他己紹介すると、語り直しが起こります。他の人に自分のストーリーを話してもらうのはすごくうれしいんです。残りのグループメンバーにも共有できるしということで、一気に場の温度が上がるんですよね。

そこまでやると、自分の根っこの想いに気づき、かつ、関係の質が上がるんですよ。

それができると、北極星ができるための土台が整ったということになります。

自分が何のために生きているかが明確になり、この人たちと一緒なら考えたいという関係になり、その人たちの素晴らしさも分かったということになって、じゃあこの仲間でどんな未来を創りたいかということをやるんです。

北極星の作り方には、いくつかのやり方があるんです。ふつうにブレストしてもいいですし、思いついたことを直接書き出していってもいいですね。そうしていくと、みんなゴトの未来が出てきます。

一番良くやるシンプルな方法は、未来におけるステークホルダーごとに長期と短期の未来を出し合うんですね。例えば、コクリ!プロジェクトだったとしたら、地域の人、企業の人、行政の人、リクルート、コアメンバーとかというのを出して、さらに、「私」という項目も出します。

そして、その主語にとっての長期と短期の未来についてそれぞれが考えます。長期は3年後でも10年後でもいいです。短期はプロジェクト終了の3月に設定します。まず、長期から考えます。例えば10年後にしましょう。

「私」にとって、10年後、やることなすことすべてうまくいったときにどんな未来が最高の未来かというのを書きます。続いて、地域にとっての10年後、行政にとっての10年後・・書いていきます。

書いたものを、「私にとって」というところだけでみんなで共有するんです。そうすると、みんながなんとなく思っていた妄想の未来が場に出るので、みんなの共有ビジョンができるんですね。

その共有ビジョンに対して、実現するために3月までには何をするのが大事かということで、また、出していくんです。そうすると具体的に見えるんですね。

次に、それをするために何がレバレッジ(てこ)になるのかというのをブレストしていくんです。

そうすると地域の人は、こういう人を仲間に入れるのが大事なんじゃないかとか、国の人はもっとこうしたほうがいいんじゃないかとか、もっと集まれるようなプラットフォームを作ったらいいんじゃないかというようなレバレッジが見えてくるんです。

私は講演で、次のコクリ!5ステップを紹介しています。

1)種火をつける。根っこの想いに気づく。
2)関係の質を上げる。垣根を超えて繋がる。
3)北極星を共に創る
4)まずやってみる。一歩踏み出す。
5)すべてから学ぶ。→ 1)へ戻る

このサイクルを回していると、みんなゴトになるんです。

なるほど。かなり具体的ですね。三田さんから見て、「反転授業の研究」は、どうするとコクリ!が起こりやすくなると思いますか?

もしかしたらですが、テーマがあるだけに、テーマドリブンになりがちかもしれないかなと思います。一見、遠回りかもしれないけど、テーマに限らず、その人の想いを話せる時間があったりすると、結局、テーマに結び付くかもしれないし、本当は、こんな人だったんだ、そんなすばらしさがあったんだというのが分かった上でテーマを話すのと、いきなりテーマを話すのとは違うので、そうすると違う突破口が開けるかもしれないなと思いました。

三田さんが話してくれたコクリ5ステップを、「反転授業の研究」の共創へ役立てることができれば、何かを生み出せそうな気がして、ワクワクしました。三田さんが指摘してくださったように、「実践」というレベルで共有するだけじゃなく、「想い」の部分を掘り起こすと違う突破口が見えてくるかもしれません、貴重なヒントをいただきました。

コクリと自然農法の共通点

三田さんは、最近、スコットランドのエコビレッジ「フィンドホーン」に行かれたじゃないですか。Facebookの投稿で、パーマカルチャーについての話を読んだ記憶があります。僕たちも、いろいろやっていくとエコシステムのようなものにたどり着いているんですよ。社会から設定された指標じゃなくて、自分から何かをやっていくということを考えたときに、生き物としての自分というところに戻るんですね。教育が、工場モデル的なものじゃなくて、自然農法とか、パーマカルチャー的なもののメタファーで語られるようになってきて、自然農法をやっている農家のようなポジションで教師が生徒に関わっていくというようなイメージを抱いているんです。土を耕すということが、マインドセットを変えるとか、根っこの思いに気づくということに対応するのかもしれません。三田さんの中で、パーマカルチャーはどのような位置づけなのですか?

フィンドホーンに限らず、コクリ!でやっていることって、土づくりとか、農業で例えることが多いんですよ。いい土を作ると、勝手に生命力が溢れていくと考えているんです。実をたくさん収穫したいがために化学肥料をどんどん入れていくと、短期的には収穫が増すんだけど、土が痩せていって、結局は持続可能にならないということをずっと言っていて、だから、いい土を作るんだということは、コクリ!にコンセプトの1つではあるんですね。

最近、コクリ!ラボのメンバーで言っているのは、コクリ!でやっているのは自然農法だということなんです。それで、いろんな活動を自然農法のメタファーで語ったりしています。

フィンドホーンに行かれて、いかがでしたか?

フィンドホーンでは、パーマカルチャー自体も実践されていました。私がすごく学んだのは、本当に愛に溢れた空間で、人も植物も物もすべて愛されているということです。物にも名前がついているんですね。車とかにも「トム」とか書いてあるんですよ。

本当に全部に丁寧に愛をかけて、その中でそれぞれのエネルギーが、最小パワーで最大になるようにということがすごく考えられていて、エネルギーがちゃんと受け取れるような空間設計がされているんです。

植えてもいないのに種が落ちて勝手に生えてきてジャガイモが取れてというように自生している植物があったりとかして、手間をかけずに自然と育つような仕組みを入れているようなんです。

彼らは、パーマカルチャーを単なる農法として捉えていなくて、人が持っているエネルギーがちゃんと出るような仕組みをハードとソフトで両方整えているんです。彼らは、「ソフトテクノロジー」という言い方を半分ジョークで言っているんですけど、ソフトテクノロジーとして、アチューンメントというものがあるんです。それは、ワークショップする前後とか、農作業する前後とか、人が輪になって手を繋いで、目を閉じて、一人の人がガイドしながら、自分と繋がったり、地球と繋がったりということをやるんです。そういうことをちゃんとやって、自分と地球とがちゃんと繋がってから場に入るということをちゃんとしていたりします。

他にも瞑想の時間があったり、彼らが「ソフトテクノロジー」と呼ぶ仕組みが、いっぱいあるんですよね。

ハードの仕組みとして、汚水が3日間バクテリアの中を通ると、泳げるくらいの水になるようになっていたりとか、人が無駄にお金をたくさんかけなくてもそんな水に戻るという仕組みを、大学と連携したりしながら作っていたりします。そういうのが実践されているコミュニティのような感じでしたね。

フィンドホーンの土産話に、ラブインアクションという言葉があるんです。すべて「愛から行動する」ということなんですけど、ガーデニングとか、クッキングとか、お掃除とかを、全部、ラブインアクションでやるんですね。

私はガーデニング担当をしたんですけど、まず、アチューンメントして、植物とコミュニケーションをして、単に草取りをするというんじゃなく、たとえばバラにエネルギーがいくように周りの草を取るみたいな感覚なんです。抜いた草もコンポストに堆肥として戻るから循環をするわけです。今はどこを抜くべきかは植物が知っているから、コミュニケーションを取りながらやるとか、いつも愛から行動するんです。終わった後は、農具とかをきれいにしてから、アチューンメントして終わるという感じでした。

全部が愛から動いているという感じでした。

いやー、興味深いですね。僕もずっと前から有機農法とか自然農法に興味があって、ブログにも自然農法と教育の関係を記事に書いたりしていました。

→ 農業生物学者から教わったこと

自然農法の福岡正信さんが「放任」と「自然」の違いについて語っていて、これが、教育の分野とも通じる話で、とても興味深いんです。福岡さんの『わら1本の革命』にもじって記事を書いたことがあります。

→ 「反転授業 動画一本の革命」~オセロをひっくり返していく

福岡さんは、一度、果樹園を自然に任せようと思って放置したら、枝があちこちに伸びて重なってしまい、果樹園全体がダメになってしまったそうなんです。それは、周りが狂っている状況で放置しても「自然」にならないということなんです。じゃあ、「自然」とは何かということを追い求めて、彼は、「自然型」というものにたどり着くんです。僕の理解では、「自然型」というのは、生き物の自己組織化的なプロセスが最も効果的に起こるような状況だと思います。彼はそれを長年の試行錯誤の末に把握して、最初は支援しながらそこにもっていって、そのうち、自律的に動くようになるということなんじゃないかと思うんです。パーマカルチャーも植物と動物と人間の関係が、うまく循環するようにデザインされいていて、最初は手をかけるかもしれないけど、そのうちにほとんど手をかけなくても回りだすようなものだと思います。それが、福岡さんの言う「自然型」のイメージとすごく近いんです。

自然型とかパーマカルチャーに接すると、人間と動物と植物とがコクリしているということを感じて、由佐さんが言うように「美に触れると元気になる」という状況になるんじゃないかなと思いました。僕たちは様々な常識を社会システムからインストールされていますが、共創(コクリ)こそが宇宙の摂理だということにリアリティを感じることができると、これを人間関係とか社会に広げていけばいいんだなという確信を持ちながら生きられるようになるんじゃないかなと思います。

インタビューを終えて

ボブ・スティルガーさんの本を読んだときに出会った「トランス・ローカル」という考え方は、単なる理念ではありませんでした。

三田さんやボブさんたちのチームは、地域創生のコミュニティを繋いでいて、まさに、「トランスローカル」を起こすことで社会システムを変化させようとしているのです。

志を同じくする者として、この流れに何かの形で加わっていきたいと思います。

コクリ!プロジェクトのやっているコクリ・キャンプ、皆さんも、ぜひ、注目していてくださいね。

→ コクリ!キャンプ

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