白板ソフトを開発!坂本勝さん・保代さんインタビュー

「反転授業の研究」の田原真人です。

動画講義を作成する方法には、いくつかのやり方がありますが、PCの画面に手書きで文字を書きながら、同時に音声を吹き込んでいくスクリーンキャストという方法が、その手軽さゆえに、カーンアカデミーをはじめ、多くの動画学習サイトで利用されています。

録画する画面の背景に置くのは、ペイントソフトなどでもよいのですが、スクリーンキャストタイプの動画講義を作っている人たちの間で、ひそかに熱烈なファンを獲得しているのが白板ソフトです。

例えば、動画学習サイトeboardの動画は、白板ソフトを使って製作されています。

なぜ、白板ソフトが熱烈なファンを獲得しているのかというと、手書きの文字や絵を部品として自由に動かすことができるという他のソフトにはない特徴があるんですね。

部品をアニメーションのように動かすだけでなく、マウスでつまんで動かしながら録画することもできます。表現の幅が、パワーポイントのアニメーションなどよりもずっと広いんですね。

「反転授業の研究」が主催して実施した「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」というオンライン講座では、白板ソフトとカムタジアスタジオを組み合わせて動きのある動画を作ることに取り組みました。

受講者は、白板ソフトの自由度の大きさに創作意欲を刺激され、たくさんの楽しい動画を夢中になって作っていました。

僕自身も、白板ソフトを使った動画作成に取り組みましたが、アイディアが次々に湧き、それが形になっていくところに興奮しました。

いったいどのような考えから、このような独特なソフトが開発されたのかを知りたくて、白板ソフトを開発している(株)マイクロブレインの坂本勝さん、保代さんにスカイプでお話をうかがいました。
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電子黒板プロジェクトからはじまった

まずは、開発担当の坂本勝さんにお話をうかがいました。

―― 白板ソフトは、どのようなきっかけで開発したのですか?

勝)農工大といっしょに始めた電子黒板のプロジェクトに以前からやっていたビジュアルシミュレーションのソフトを応用する形で参加したのがきっかけです。

―― そこから、白板ソフトの開発へどのようにつながっていったんですか?

勝)その後、もう一度、電子黒板のプロジェクトを中学校と一緒にやったんですけど、声がかからなくなって、塩漬けになりました。プロジェクトを始めたときには、電子黒板自体が流行っていなかったんですが、これを埋もれさせていくわけにはいかないかなということで、みんなに使ってもらおうということで再びやり始めたんですよ。やりだすと使ってくれる人が増えてきて、それに応じて改善してということになってきました。今はそのサイクルが回って加速していっている感じです。

―― 電子黒板に表示させていたソフトが、白板ソフトとしてパソコンやタブレット端末で使えるようになってきたということなんですね。

勝)はい。そうです。電子黒板というのは、結局はパソコンと繋がって画面に表示させているというものなので、基本的には同じものです。

白板ソフトに感じた独特の感覚は、もしかしたら、「教師が自分で動く教材などを自由に作って電子黒板を使って生徒に教える」という元々の設定から来ているのではないかという思いが頭に浮かびました。そんな思いを抱きつつ、さらにお話をうかがいました。

最初は独特の操作に戸惑うが、慣れると直感的に操作できるようになる

――白板ソフトの一番大きな特徴は、どういう点なのですか?

勝)ウチは、教材が作れたり、動かせたりということが簡単にできるというところがウリなんです。

あれができる、これができるということになると使い方が難しくなるんですけど、それが簡単にできるということと、自由度が高いというところですね。

決められた型にはまった使い方じゃなくて、工夫すればいろんな使い方がやれるぞというところですね。

―― オンラインでワークショップをやったときに感じたのは、使い始めるときの敷居は少し高いんですよ。独特の使い方があるような感じがあって。でも、保代さんが熱心に説明してくださって最初の壁を乗り越えたら、みんな、すごくはまるんですよ。創造性が刺激されて、自分が思い描いていたものがこれを使えばできそうだというイメージが湧くみたいなんです。教師経験10年みたいな方が子どもみたいにはまるのを見て感動したんです。

「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」の受講者の内橋朋子さんの動画(白板ソフトを使って作成)

勝)他のソフトとユーザーインターフェースが違っているところもあるんです。ひらめきとか思考を妨げないような形にしています。

ボタンも、状態を表すボタンじゃなくて、行為(アクション)を表す作りにしています。

だから、他のソフトと同じように入っていくと違和感があるんですけど、やっていくと、考えていることがビジュアル的にスムーズに表現できるので、いいんじゃないかなと思っているんですけどね。

―― 「ドラッグして外から入る」とか、他のソフトにない操作があるじゃないですか。

勝)それは、苦労したところなんですよ。あれは、現場の意見から出てきたもので、選択したときに枠が出ると枠のほうに気を取られるんです。グラフィックに注意を向けたい訳じゃなくて、動かして考えを深めたいということなので、枠が出ない形で動かしたかったんです。サイズのほうは枠が出るんですけど、移動のほうは枠なしでできるようにしたんです。そうすると、選択は「外からドラッグ」になってしまったんですよ。

―― 解説動画を見たら、ちゃんと説明してくれているのに、僕を含め、参加者の多くは、説明見ないでやりたがるんですよね。それで、よくありそうな操作を手当たり次第にやってみたときに、試行錯誤の中に「外からドラッグ」が入っていないんですよね。(笑) それで、操作を見つけられなくて動画を見ると、そこではじめて「外からドラッグ」という操作だということを知って、そこで覚えたんですよ。それで、白板ソフトのやり方になれると、あたりがついてきて、「こうやればよさそうだ」という感覚でできるようになってきました。直観的にできる感覚がありました。

勝)それが、「ドラッグしてコピーできる」という操作にもつながってくるんですよ。

人が使っているのを見ると、「あぁーー」と思うんですけど、紙ベースだとなかなか伝えるのが難しいところもありますね。

インターフェースや、ボタン、操作などに、開発者の様々な試行錯誤や思いが込められているという話を聞くと、白板ソフトに親しみが強まりました。操作説明には、紙ベースではなく動画が向いているなと思いました。実際、保代さんが、動画で操作を説明してくれたものを見たり、スクリーンシェアしてリアルタイムで操作を見せてくれたりしたのを見ると、すごく分かりやすくて、「できそうだ!」という気持ちになりました。

手書きの部品を、思った通りに動かすことができる

―― 手書きで描いたものを部品にして簡単に教材が作れるものって、考えてみたら他にあまりないですよね。

勝)パワポとかフラッシュでもできないことはないですけど、どちらも編集モードとスライドショーが別々なんです。白板ソフトはそれをミックスしているんですね。編集する行為自体で動画を作ることができるんです。そのへんが、あまりないかなと思います。

―― 部品をつまんで動かしながら、「これがねー」なんて話している様子を、そのまま録画できますもんね。

勝)あれも、小学校で実際に使ってもらって、あの形であれば準備もあまりいらずに簡単に使ってもらえるんじゃないかということで、現場の意見を反映してできたんですよ。

僕たちがやったワークショップの参加者の中には、パワポを使いこなしている人も結構いて、「パワポにできなくて、白板ソフトにできることは何なのか?」という関心の持ち方をしている人が多かったんです。手書きのものが部品としてすぐに使えるということと、手で部品を動かして、それに注目させながらしゃべることができるというところが、パワポじゃできないなーという感想でした。

人工知能の研究が開発に生きている

―― 勝さんが人工知能の研究をしてきた経験は、白板ソフトのどこに生かされていますか?

勝)いくつかあるんです。

1つは、動きがあることが考えることに有効だということです。それで、アニメーションとかが簡単にできるようにしています。あとは、2つ動かしたりとか、3つ動かしたりとかできるというのも教材作成の可能性を広げていると思います。

あとは、図と文字を左右どちらに置くかで、感じ方が違うというのがあるんですよ。だから、位置関係を変えてみて試してみるということが簡単にできるようにしてあります。

思考の流れに沿って部品を移動させたり、部品のサイズ変えたりしながら進めていくと分かりやすくなるので、そういうことを簡単にできるようにしています。

――人工知能の研究をしていたということは、ソフトウェア開発に生かされているだけじゃなく、子どもがどのように学習するのかという学習プロセスに対して学習理論などを背景として考察できるということなんですね。それは、大きな強みですね。

勝)もともとは、人間の学習を研究してきて、機械に何とか同じことをやらせたいというアプローチだったんですけど、機械になんとか学習させようというのをずっとやってきたノウハウを、逆に人間に生かすことになるとは思ってもいませんでした。

――なるほど。おもしろいですね。「文字と画像を左右どちらに置くか」という話も、勝さんが学習理論を学んできたことが背景になって出てきたと思うんですが、そういう面白い話って、他にもあるんですよね。

勝)見せたり、隠したりというのも、そこから来ています。

ボタンを隠すとか、マウスを動かしたときに手のひらを隠すとかというのも、「刺激を減らす」という考えから来ているんです。

小学校の先生といっしょに開発しているので、小学生がどこでつまづくのか、どうしたらいいかという話が上がってくるんですよ。それで、AIの理論に基づくとこうしたほうがいいんじゃないかと言うと、小学校の先生も「それがいいというのは、経験上知っていた」という話になったりするんです。現場の先生の経験と、私が本を読んで勉強したことが結びついたりするので、面白いんですよ。

―― 理論と実践とが結びついて、勝さんが勉強してきたことが、現場の検証されていく感じなんですね。何か具体例はありますか?

勝)学習が苦手な子どもに対して、どんなアプローチをとるかというのが良い例かもしれません。

学習が苦手な子どもに「集中して勉強しなさい」と言ってもうまくいかないんですね。むしろリラックスさせるほうがいいんです。

あとは、不要な情報を極力減らして、必要なものだけにする。

電子黒板に映したものを、生徒がノートに書いたりするときに、最初は、真っ白なところに文字を書いて、「ノートに書いてね」という感じでやっていたんですけど、それよりも、もっとリラックスして書ける方法として、話をしながら出てきたのは、ノートの実物をスキャナーとかカメラで撮って、それを電子黒板に映して、その上に書き込みをするようにするというアイディアです。自分が見ているノートと同じものが電子黒板にあるので、黒板を見て、ノートを見てというときにストレスが減るんじゃないかと考えたんです。

これは、それなりに効果が出た感じでした。

その流れで、ボタンなども隠せるものは極力隠したほうがいいんじゃないかという話になってきたんです。

関係ないものがあると活動のエネルギーがそっちに取られちゃうんですよ。

言ってみれば、勉強しているときに、そばにおいしいショートケーキがあるみたいなものですね。それは、隠しておいて、終わった後に冷蔵庫から出すという形じゃないと集中しにくいと思います。

関係ないものも、情報として入ってきてしまうんです。

だから、情報を減らしつつ、集中を無理やりさせるんじゃなくて、いつも見慣れているものがそばにあって、安心できるような環境づくりが必要だと思います。

――そういうアイディアは、どんなときにでてくるんですか?

勝)先生とざっくばらんに話し合いながら、ああしたらどうか、こうしたらどうか、という話が出てくるんですよ。

思い付きみたいなのも多いんです。その中で行けそうかなというものは試してみています。

試してみるというのが、わりと簡単にできるソフトなんです。

試してみてよければ、もうちょっと先に進めてみたらどうでしょうという感じで。

そういうことをやっているので、余計に時間がかかっちゃうんですよ(笑)。

遠大な目標が、情熱の源

――改善を繰り返しているということは、ソフトの開発に情熱が溢れているということですよね。

勝)そうですね。まだまだ情熱がありますね。やれることは、あるぞという感じですね。

――僕は、今、オンラインの場創りとか、対話などには、どんどん情熱が湧いているんですけど、物理の授業動画作成については、ある程度完成してしまったという感じがあって、情熱が少し下がってきているんですよ。

勝)それは、新しいことが増えていないからじゃないですかね。新しいことが講座の中に入ってくると、ワクワク感が出てくると思うんですよ。

完成してくると、もういいやという感じは私もあるんですけど、新しいチャレンジをして、他のところがやっていない何かを入れた講座にしてみて、その反応を聞いてというアプローチをすれば、きっとワクワクするし、もっと工夫してみようという気になると思いますよ。

――確かにそうかもしれないですね。勝さんの場合は、チャレンジが尽きることなく続いているわけじゃないですか。どうやって情熱が続いているんですか?

勝)目標を高くしすぎたので、そうなったんだと思います(笑)。

――目標は、何に設定してあるんですか?

勝)「人は、どうやって学ぶのか」ということを突き詰めるということを目標にしてきたんです。

その流れの中で発展していくと、どうしても、こう試してみたらどうだ、ああ試してみたらどうだ、というのが次々と出てくるんです。

今の環境は、試してみたフィードバックが得られるので、ありがたいです。

それが、大目標にあって、学習効果がどうすれば上がるのかというのも、その流れの中で繋がっているんですね。

いろいろ試してみて、これは効果があったというものが見つかると、大目標に向かって一歩進んだということが感じられてうれしいですね。

―― いやーー、それは、遠大な目標ですね。

勝)そんなことをやっているからダメ!っていう人もいるんですけどね(笑)。

保代)それにずっとかかりっきりですからね(笑)。

―― でも、それが情熱の源ですよね。それがあるから、情熱が尽きることなく続いているんですよね。

勝)それをやるために会社を作ったんです。人工知能の研究を目標にして「マイクロブレイン」という名前の会社を作ったんです。

大目標の話をうかがうと、すべてのことがそこに繋がっているというのが分かりました。そういうお話をうかがうと、応援したい、一緒に仕事したいという気持ちが湧いてきました。

白板ソフト開発者の目から見た反転授業&アクティブラーニング

―― アクティブラーニングや反転授業というのも、学びを改善していこうという一つのアプローチだと思いますが、勝さんの観点からすると、どのように見えているんですか?

勝)いろいろ試すのはいいことだと思っています。

アクティブラーニングや反転授業がどこまでいいかというのは、なかなか結論を出せるようなことではないと思うんですけど、工夫の余地はいっぱいあると思います。

動画で受けた後、ドリル的なことをやって理解を確認できたり、結果に応じて、合格したら次へ進めて、不合格ならもう一度取り組むというような仕組みがあると効果が上がりそうです。

既存のアナログの授業のノウハウからも学べることがあると思うので、それをミックスしていくといいんじゃないかなと思います。

どちらかというと、ハードとかシステムのほうが話題になっていますが、それよりも、学習効果が上がったかどうかを議論しなければいけないと思います。でも、今は、クラウドを使ったかとか、そういう話のほうが前面に出てきているので、まだまだ入り口なのかなと思います。

反転授業をやっている人の中には、いろんな考え方の人がいます。旧来の教育の延長線上で、ICTを使って知識を効率よく習得させることを目標にしている人もいます。でも、僕は、決められたことを正確に処理していくということでやっていける時代は終わりに近づいていると感じていて、教えられたことの前提を問い直して、それを自分たちで乗り越えていける人を育てたいというように思っています。

目標に向かってドリル的に学んで習得するというプロセスは知識の土台として大事なんですが、それだけじゃなくて、他の人の考え方に触れて、自分の考え方を見直して幅を広げていくような学習もしてほしい。そのために、学習者が自分の考えていることをお互いに表現して学び合うということも大切になってくると思います。考えていることを表現するためのツールとしても、白板ソフトは非常に有効なのではないでしょうか。

白板ソフトで思いを伝える

――この間やった「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」で、ラーンネット・グローバルスクールに通う中学2年生の青木航平君が参加してくれたんです。この学校では、探究学習をやっているんですが、モーターを失敗しながら作っていて、「これは、6号機です。ようやく回り始めました。」なんて言っているんです。講座に参加した動機が、モーター作りについての動画を作って、Youtubeで公開して、この面白さを周りに伝えたいということだったんですね。

勝)コイルのものを見せていただきましたけど、素晴らしかったですね。あれは。

まさに、動画で伝えるということをやっていましたね。

――青木君は、説明動画を白板ソフトで作れるんじゃないかと思って、それをモチベーションにして動画作成に取り組んでいたんですよ。

自分のアイディアを誰かに説明したいということで、それを動画にして、公開して、フィードバックをもらうという活動を考えたときに、白板ソフトの自由度というのが、すごくこの活動とフィットするなと思ったんです。

勝)私も、コイルの動画を見て思いました。若い人はすごいなというのは変だけど、プレゼンのルールに囚われていないですからね。線が太くても細くても、それがバラバラでもいいという感じで、ダイレクトに思いを伝えるじゃないですか。それが、すごいなーと思ったですよ。

――こういう学び方は、日本ではまだまだ一部でしかやっていないですけど、これが広がっていくと面白くなるなと思っているんですよ。

勝)あれは、面白いですよ。

あれは、あのやり方じゃないと伝わらない部分があると感じたですよ。新たなコミュニケーションの道具として使われていましたよね。

――そうなんですよ。一種のコミュニケーションですよね。

勝)人とのコミュニケーションと言うのもありますけど、作ったものを自分で見て感じるというやり取りもできますよね。

文章で書いたりするのとも共通しますけど、自分で作ったコイルの動画を見ると、それを見て感じることがあって、自分に対するフィードバックになってくると思いますね。

コミュニケーションツールでもあり、思考のツールにもなり得ると思います。

青木君が作成した電磁石の動画はこちら

人工知能の研究者の視点から見た教材作成

――オンラインのワークショップなどで、白板ソフトを使うと面白いと思っているんです。そのときに、ソフトの使い方を説明するのを手伝ってもらったり、ワークショップのアイディア出しを一緒にしてもらったりしてコラボレーションができるといいなと思っているんです。

単に白板ソフトを使わせてもらうというよりも、勝さんの経験とか知恵を貸してもらったほうが、価値が高いんじゃないかという気がしてきているんです。

勝)それは、あるかもしれませんね。教育の専門家ではないんですけど、違う切り口で、お役に立てるかもしれませんね。

――講師をやれる人というのはたくさんいると思いますが、勝さんのような視点を持っている人はほとんどいないので、アドバイザーなどで入ってもらって、発表の動画などに対して、「ここを動かしたほうが、注目してもらえますよ」みたいなコメントをしてもらったりすると、作る側としても面白くなると思うんですよね。「動かす」ということの意味とか、効果とかが分かれば、もっと工夫ができるようになりますよね。

勝)物理とかは、動かすと頭に入りやすいみたいですよ。

たとえば、ねじ回しを使っててこを説明するときに、握りの部分は太くて、先は細いから、下の部分は動く量が少ない代わりに大きな力が出るんだよということを、矢印で説明するだけじゃなくて、動かしてやると理解がしやすいんですよ。

止まっているものを、何枚か用意して、1番、2番、3番・・と見せられて理解するよりも、動いているものを見て理解するほうがストレスが少ないと思うんですよ。

――そうですよね。考えてみれば、僕の授業って、黒板の前でジェスチャーで示していることが多かったんですけど、これで、どこまでイメージが伝わっているだろうかって心もとないですよね。腕も2本しかないから、3つ以上のものを同時に動かせないし。

勝)地球と月なら、地球と月の絵が描いたものに棒をつけて動かすだけでもずいぶん違うんですよ。でも、そういうモノを準備しなければならないのでたいへんなんですよ。でも、白板ソフトなら、あまり準備しなくても同じようなものができるんです。

ジェスチャーよりも伝わる量が多いと思います。

――教材作成に対する新しいチャレンジができそうな気がしてきました(笑)。

勝)やっている本人が楽しいと思ったら、それが伝わりますよ。

――教師が教材作成を楽しんでいると、「これを見せてやろう!」という勢いが出てくるから、授業にワクワクが溢れてきますよね。

勝)理科の授業で、教科書を読んで学ぶよりも、実験を見せたほうがおもしろかったりするじゃないですか。それと同じように、シミュレーションを作って、どうなるのか考えさせてから見せたりすると、楽しさが伝わりそうですね。

「動く絵本」のワークショップで、白板ソフトの楽しさを広げていく

坂本保代さんは、「動く絵本」のワークショップを3年前から実施していて、昨年からは、子どもたちをチームに分けてアクティブラーニング形式を導入しているそうです。ワークショップについて保代さんに伺いました。

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――動く絵本のワークショップはどこからはじまったんですか?

保代)シミュレーション&ゲーム学会というものに入っているんですけど、そこで声がかかって、慶応大学で行われたワークショップコレクションというものに参加したのがきっかけです。

子どもでも使える白板ソフトの使い方って何かなと思ったときに、「動く絵本」だったら簡単にできると思ったんです。

でも、すごい人数だったので、一人20分くらいで、その時間内に、使い方の説明と制作をやらないといけなかったので大変でした。

子どもたちが楽しんで作ってくれて、しかも、Youtubeに動画をアップできるということで、とても喜んでくれました。

その後、稲城市の広報誌でボランティア講師というのを募集していたので、「動く絵本」をやりましょうかと言ったら、ぜひやってほしいということで、稲城市城山学習館でやることになりました。今年で3年目です。

――もう3年も続いているんですか。どんな風にやっているんですか?

保代)小学3年から6年を対象にしていて主にWindows版タブレットを使った動画コンテンツを作成する体験学習です。タブレットでお絵かきをして、その絵を切り取り、切り取った部分を動かしながらお話を録音することで、簡単な動く絵本が出来ます。

去年は、「学びのイノベーション」フォーラムで東京大学にて行われた、アクティブラーニングのワークショップに参加し、一部分ですが、小学生でも有効であると思われる「学びあい」の要素を取り入れました。

子どもたちに担当を決めて、教え合いをしたんです。子たちのアクティブラーニングの感想は「人に教えるのって難しいけど、分かってくれたら嬉しかった」「最初は難しくて、恥ずかしかったけど、楽しかった」と好評でした。

今年は、はじめて親子参加のワークショップをやろうと思っています。

今まで、トータルで5回やっていて、補習もやったりしています。

――補習というのは、子どもがはまってしまって、完成させたいって頼んだりするんですか?

保代)そうなんです。 作品の完成後の発表会で自信を持たせるために練習の時間にも使いました。

――子どもは、どこにはまるんですか?

保代)自分の書いた絵が動いて、自分の声で物語が進んでいくのがうれしいみたいです。本当に、できた瞬間は、自然とにっこりしちゃうんですよ。

Youtubeにアップするとか、ということよりも、自分が思っているものができたという喜びが大きいみたいです。ちょっとしたものづくりの喜びですかね。

――動いているのを見ると、この動きを、表現の中のどこに使おうかって考えるじゃないですか。あの思考は、面白いですよね。機能と表現をどう組み合わせるのかを考えるというのは。「こんな動きをするんだな」というのを他の人の動画とかで見て、「さて、これを、自分の表現のどこに使ったら面白いかな」って考えるんですよね。僕は、重なっている波が3つに分かれるというところにアニメーションを利用で来たら、「おぉぉ、自分が思った通りに表現できた」と思ってうれしかったんです。機能と表現がうまくはまったときに、頭の中に喜びの化学物質が出る感覚がありました。

保代)そういう楽しみを感じてほしいと思って、一番簡単なのが、動く絵本だったんですよね。

子供向けの外に、主催:関東経済産業局及び八王子8Beat「認知症&ITのハッカソンで、チームでアプリでは白板ソフトを使って自分史を作るという提案をしました。(チームで特別審査員賞受賞)

認知症があまり進んでいない方を対象にして、覚えた方が、やり方を他の高齢者の方に教えていくようなシステムを作りたいと思っています。

子どもでも高齢者の方でも使えるということで、そういうこともできないかなと思っているんです。

――それは、おもしろいですね。自分の大事なエピソードを語るときに、自分の描いた絵が動いてセリフがつけば面白いですよね。

保代)はい。高齢者向けのほうも、これからやっていきたいんです。

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白板ソフトを使った創作の楽しさの正体

白板ソフトを使った創作の楽しさについて、勝さんが説明してくれました。

―― 自分が創ったものが動くと、何が楽しいんでしょうね。

勝)不思議なのは、自分がシナリオを考えて、その通りに動いても、その通りに動いたものを見て感じることは、自分が思っていたものと違っていたりするんですよね。こんな風に見えるのか!って。

作った本人がびっくり!みたいな感じのところがあるので、それでさらに、こう変えたらどうだろうかって繋がっていくんですよね。

―― そう考えると、プログラミングとも似ていますね。

勝)ああ、似ていますね。最初にこんな風にしたらこんな動きをするだろうと思ってやってみると、その通りに動いたんだけど、ちょっと自分が思っていたのとは違う見え方をするなみたいな感じで、変えてみたりするので、似ていますね。

白板ソフト開発のゴール

――白板ソフト開発のゴールは、どこに設定されているのですか?

勝)会社の目標である「人は、どうやって学ぶのか」を理解することは、遠大なので終わらないのですが、白板ソフトのほうは、「白板ソフトを使って、みんなが教材を自分の考えで作って、その教材がお互いに流通し合う」というところまでを目指しています。

――そうすると、コミュニケーションという側面もありますね。みんなが作って、使い合うということも含まれるんですね。

勝)教師だけじゃなくて、子どもたちも自分たちで作ったり、ある程度出来上がったものに対して、自分の考えを追加して作ったりとかできるようにしたいなと思っています。

そのためには、まず、いろんなマシンで動かなきゃということで、動くマシンを増やしているところです。それは、時間だけの問題なので、時間かければ終わると思います。

動くマシンが終わった段階で、どうやってコミュニケーションツールとして使うかというところの工夫をしていくと思います。

対話が未来を創る可能性

――僕が好きな言葉に「使い方の発明」というものがあるんですよ。ユーザーが、白板ソフトのいろんな使い方の発明をしてくれると面白いんじゃないかと思うんです。ソフトの機能としては時間をかければ完成しますよね。でも、それが理想とされているような使われ方をするためには、そうやって使ってくれるユーザーが増えてくる必要がありますよね。そのあたりは、どのように考えているのですか?

勝)セミナーなどをやりながら、使った人の声を聞いて、コミュニケーションツールとしてどのような機能が必要かというのを、動きながら、考えながらやれたらなと思っています。

――今思ったんですけど、白板ソフトのファンのコミュニティとかがあればいいですよね。

二人)それは、よく言われるんですよ。

――コミュニティの中で、いろんな使い方のノウハウが溜まってくるし、学び合いで、みんなが真似し合って進化していくというのも起こると思うんですよね。

勝)ただ、その分、いろんな質問とかも飛んできて、それに対応できないんじゃないかという恐れもあるんです。

――ああ、それは、よく分かります。僕も実は、フィズヨビ生のコミュニティをやるといいなと思いつつ、でも、同じように質問とか要望とかがどんどん来るんじゃないかというのを恐れて5年くらい躊躇していたんですよ。

勝)分かります。特にエンジニアタイプの人は、そういうの得意じゃないんですよね。

――「ウチは小さい会社で、開発者一人でやっているので、質問などになかなか対応できないので、学び合いで解決してください!」って先に言ってしまうというのはどうでしょうか?そうやって、オープンにしてしまえば、「坂本さんにお手数かけるわけにはいかないから、自分たちで解決しようよ!」という流れも出てくるんじゃないかと思います。マニュアルとかも、お二人はやること一杯で手が回らない状態だと思うので、コミュニティで「忙しいので、誰か作ってください!」って頼んで、自発的に作られていって、作った人がコミュニティの中で感謝されていくというようになるといいですよね。

保代)そこまで言っちゃってもいいのかなって思ったり。でも、それができたらいいですね。

――お願いしたら申し訳ないんじゃないかというのが、一番のメンタルブロックなんですよね。でも、白板ソフトの動画マニュアルを作ることを通して、白板ソフトの使い方をマスターしようと思っている人もいるはずだし、「動画マニュアル作成チーム」みたいのができてきたりするかもしれませんよね。そのときの坂本さんの役割は、

「うぁー、すごい!」

「助かりますーー」

とか、喜んでくれることで、そうすると、作る側もうれしいから、やりがいが出てきますよね。全部自分のところで抱えなくちゃいけないと思うとできなくなってしまうことを、逆回しにしていくと可能性が出てきますよね。フィズヨビでは、それを乗り越えるために、受講者との対話から始めたんです。コアな白板ソフトユーザーと対話してみると、今まで無理だと思っていたことに、意外な解決策が出てきて、未来へ繋がっていくような気がします。

ペイフォワードが生まれたコミュニティは、どんどん拡大していくという現象が世界中で起こっていて、僕の周りでもそういう現象がまさに起こっています。

「白板ソフト」のビジョンに共感して応援してくれる人が集まり、ペイフォワードの文化がコミュニティ内に生まれるといいですよね。

二人)そうなると、いいですね。

インタビューを終えて

坂本勝さん、保代さん夫妻へのインタビューは、非常に楽しく、笑いが絶えませんでした。あっという間に90分が過ぎました。

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この楽しさは、いったいどこから来るんだろうかと思いながら、お話をうかがっていたんですが、勝さんが、

「人は、どうやって学ぶのか」ということを突き詰めるということを目標にしてきたんです。

とおっしゃったときに、その理由が分かりました。お二人の「志が高い人が発する独特のオーラ」に僕の心が反応していたんだと思います。

いろいろなマシンで白板ソフトで動くようになった後は、それをどのように使って学ぶのかという「使い方」の開発フェーズに入ってくると思います。

学び方には、教師から教えてもらうということの外に、自ら学ぶという学び方があります。

コミュニティ内で、各メンバーが自分の考えを表現すると、それをお互いに参照し合って自分の考えを磨き、さらに理解を進めていくという学びの渦を生み出せるようになります。

考えを表現することによって、暗黙知を外に出して共有することができるようになり、共有することによって集合知が生まれるようになっていきます。

白板ソフトは、考えたことを簡単に自由に表現できるツールなので、言葉による学び合いを超えた学び合いができるのではないかと思いました。

そのような学び合いを理解することは、「人は、どうやって学ぶのか」を理解することへ繋がっていくと思います。

白板ソフトを使った学び合いコミュニティを作るための障害は、

・ユーザーが抱く恐れ「ソフトの使い方が分からなくて、使えなかったらどうしよう」

・開発者が抱く恐れ「たくさんの問い合わせが来て忙殺されることになったらどうしよう」

という両者の怖れかもしれません。

でも、これらを、対話によって乗り越えると、ユーザーと開発者は信頼をベースとした協力し合える関係になれると思います。

坂本さん夫妻とお話して、未来へ繋がる大きな可能性を見ることができました。

(株)マイクロブレインのホームページはこちら

※今回のインタビューで触れることができなかった様々な機能については、「スナック・ネル第29回営業」のグーグルハングアウトで坂本勝さんが解説している動画がとても参考になります。驚くほどいろいろなことができます。

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