動画講義で学ぶ方法(1) ~動画講義の長所と短所~
「反転授業の研究」の田原真人です。
ビデオカメラで教室を撮影したり、PCの画面に音声を加えて録画するソフト(スクリーンキャストソフト)を使用したりして、簡単に動画を作れるようになり、さらに、Youtubeなどの動画投稿サイトが誕生したことで、大量の動画がインターネット上にアップロードされる時代になりました。
動画を教育に利用しようと考える人たちが表れたのは必然的な流れだと思います。
アメリカでは、Khan AcademyやMOOCsが誕生し、小学生レベルから大学院レベルまで、様々な講義を無料で学べる環境が揃いつつあります。また、教育Youtuberと呼ばれる教師たちは、日々、多くの動画講義をYoutubeにアップロードし、広告費を得ています。
日本でも、eboardやmanaveeといった動画学習サイトが登場し、動画講義を使って無料で学べる環境が揃いつつあります。また、「とある男が授業をしてみた」のはいちさんのような教育Youtuberも出てきました。マスラボの古山竜司さん(1000本以上の算数・数学動画を作成)や、どんぐり教員セミナーを作成している福島毅さん(200本以上の教員研修動画を作成)のように、個人で大量の動画を作成し、Youtubeなどにアップロードする人も出てきました。
この流れは、これからも加速し続けることは間違いなく、インターネット上に大量の動画講義が蓄積されていくことになります。
では、そのような動画講義を、どのように利用することができるのでしょうか?
私は、動画講義を使った教育実践を2005年から始め、受講生からのフィードバックによって多くの気づきを得てきました。
教室で授業を受けるのと、動画講義で学ぶのとの間には違いがあり、それぞれに長所と短所があります。
動画講義の長所と短所を理解することで、工夫によって短所を補い、長所を生かすことが可能になります。
6回シリーズの記事によって、学習者の視点から動画講義で学ぶ方法を整理していきたいと思います。
動画講義の短所
まず初めに、「動画講義の短所」から考えたいと思います。短所を理解することで、それを改善する工夫も見えてくると思います。
(1)学習から脱落しやすい
動画講義は、いつでもどこでも好きなときに受講することができます。これは、メリットであるのと同時にデメリットでもあります。
教室に通う場合は、その時間は、否応なく授業を受けることになるため学習を継続しやすいですが、動画講義の場合は、いつでも脱落できるため、学び続けるためにモチベーションを維持する工夫が必要になってきます。
(2)その場で質問できない
リアルタイムで教師から学んでいるときは、疑問点が生まれたときに教師に質問して解決することができます。しかし、動画講義ではすぐに質問が出来ません。疑問が解決できないことで先へ進めなくなることもあります。
(3)メンタルサポート
途中で分からなくなっても、教師がサポートしてくれるという安心感があるから学ぶことができるという側面もあるでしょう。しかし、動画講義を使って独学している人の中には、「自分だけで解決できない問題にぶつかって脱落してしまうんじゃないか」という不安を感じる人もいます。そして、その不安から足が止まってしまって脱落してしまうというケースもあります。
動画講義の長所
では、「動画講義の長所」とはどのようなものでしょうか?
(1)何度でも繰り返して視聴することができる。
授業を理解するための前提条件を満たしていない場合、生講義を一度聞いて理解することは難しくなります。しかし、動画講義なら、一度聞いてみて分からないときに、そこに登場する用語や考え方について学び、再び動画講義に戻ってくることができます。
また、全体像が見えて文脈が指定されたことで、部分が理解できるということがあります。繰り返して聞くことで部分の理解と全体の理解とがお互いに補い合って理解が進んでいきます。5-6回繰り返して聞いたら腑に落ちたということもよくあることです。
(2)主体的に学ぶことができる。
モチベーションの問題をクリアしている学習者にとっては、動画講義はいつでも好きな時に学べるので、とてもありがたいツールです。スマホやタブレットで隙間時間に学ぶこともできます。自分自身で学習計画を立て、自分が学びたいという気持ちに従って学ぶので、主体的な学びにつながります。
また、動画を視聴しながら、どこが分かっていないのかを自己チェックすることもでき、理解を深めるためのアクションを自分で起こしていくこともできます。
(3)記録のためのノートを取る必要がない。
教室での授業ではノートを取ります。その目的の大部分は教師の授業を記録し、あとで思い出せるようにするためです。
しかし、動画講義の場合は、いつでも繰り返して視聴することができるので「記録するためのノート」は必要ありません。ノートを作るのであれば、「理解する行為を助けるための活動」としてのノートになります。
具体的には、例題演習のときに、一度解説を聞いてから、それを再現できるかどうかを確認するために、問題だけが表示されているところまで戻って一時停止し、自分でノートに解答を再現してから動画を再生してチェックし、気がついたことを書きこむといった具合です。
動画を一通り視聴してからマインドマップを描くのも良い方法です。理解できたところとできなかったところ、覚えているところと覚えていないところが明確になるので、その上で、もう一度、動画を見て、マインドマップを完成させると頭に入りやすくなるでしょう。
かなり負荷が高い方法ですが、キーワードだけを書き止めておいて、授業を白紙に再現していくという方法もあります。
このように、記録するためのノートではなく、理解を深めて定着させるためのアウトプットとしてのノートを作るというのが動画講義では可能になります。
(4)再生速度と理解速度とをシンクロさせる
理解の速度は、人によって様々です。教室での授業は、平均よりも少し理解が遅い学習者に合わせて授業を進められることが多いです。でも、その結果、自分の理解の速度に比べて授業の進み方が遅くて退屈してしまったり、自分の理解の速度よりも授業進度が速くてついていけなくなったりする学習者がどうしても出てきます。
それに対して、動画は、自分の理解速度に合わせて再生速度を調整することができます。
Youtubeのhtml5プレーヤーを使えば1.5倍速、2倍速で再生することができますし、ダウンロードした動画をアプリを使って再生速度を変えることもできます。
2倍速再生でどんどん進んでいって、「ん?どういうこと?」と思ったところは、等速に落として反復して視聴するというようなこともできます。
このように再生速度を変化させて、自分の理解速度とシンクロさせていくとストレスが少なく受講することができます。
・動画講義を使った学び方(1)~動画講義の長所と短所~
・動画講義で学ぶ方法(2)~理解速度と再生速度とをシンクロさせる~
・動画講義で学ぶ方法(3)~ノートの役割が変わる~
・動画講義を学ぶ方法(4)~学びの個人差を乗り越える~
・動画講義で学ぶ方法(5)~「教える」からキュレーション&コーチングへ~
動画講義の作り方を学ぶオンライン講座
動画講義を作成することに興味のある方は、「パソコンで作る!カンタン動画講義の作り方」というオンライン講座を2015年5月9日から4週間で実施しますのでこちらをご覧ください。(申し込み締め切り5月7日。定員30名)
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