「とある男が授業をしてみた」で授業を無料配信する教育Youtuber葉一さんにインタビュー

Youtubeに動画をアップロードし、その広告収入で生計を立てている人たちのことをYoutuberと言います。ゲームや商品紹介などの動画をアップしている人が多いのですが、その中に授業動画を大量にアップロードしている「教育Youtuber」と名乗る異色のYoutuberがいます。

それが、「とある男が授業をしてみた」というサイトを運営する葉一(はいち)さんです。

葉一さんの動画講義は、その分かりやすさと、丁寧な作りによって多くの支持者を集め、多くの生徒が、葉一さんの動画を使って勉強しています。Youtubeのコメント欄には、

めっちゃわかりやすいです!
ほんと助かります!(^-^)

数学が苦手な私にゎホントに助かります…
ストップしたり、わかるまで何度も聞けるのが嬉しいです!

テスト前の勉強で使わせていただきました!ありがとうございます!ほんとに助かります

すごく、わかりやすいです!
これからも、出してください!
いまから、もう一度この動画を見て、勉強してみます!
本当にありがとうございます!

といった感謝のコメントがずらっと並んでいます。

いったいなぜ、葉一さんは、このような活動を始めたのでしょうか?

インタビューさせていただきました。

動画講義を作り始めたきっかけ

動画講義を作り始めたきっかけは?

大学を卒業してから個別指導の塾講師をやっていたんですよ。個別指導塾は集団塾と比べると月謝が高いんです。話を聞いていると、塾に通わせたくても月謝が高くて通わせられないという方が本当にたくさんいらっしゃったんです。勉強から目をそむけてしまっている子もいましたけど、できるようになりたいのに塾に行けないという子もたくさん見てきたんです。それで、何かできないかなと思っていたんです。

ちょうどその頃、Youtubeを見るのが好きだったんで、ここで勉強を配信したらどうかなと思ったんです。無料で何回でも見れるじゃないですか。そしたら、月謝が高くて塾に行けない子でも、好きな時に好きなだけ、子供の意志だけで授業を見ることができるので、そういう子たちの役に立てるんじゃないかと思ったところから始まったんです。

それは、いつごろですか?

2012年の㋅1日から始めました。

そのころは、講義を無料でUPしているという人はいなかったんじゃないですか?

なかったですね。当時アップされていたのは、ほとんどが塾とか教材の紹介で、サンプルがYoutubeにアップされていて、もっと見たかったらこちらへどうぞと誘導するようなものでした。子供たちに対して、「この科目は全部あるよ」というものを作ってあげたかったんです。じゃあ、やろうということで始めました。

簡単に「じゃあ、やろうということで始めました」とおっしゃっていましたが、誰もやっていないことを始めるというのは、とても大きなエネルギーを必要とします。葉一さんの「子供たちのために役立ちたい」という思いの強さが行動の推進力になっているのだと思いました。

主役は板書。自分なんかどうでもいいから邪魔したくない。

動画の作り方には、いろいろな選択肢があったと思いますが、葉一さんの場合は、ホワイトボードに手書きで書いて録画していますよね。あれは、何を使って録画しているのですか?

あれは、普通のホームビデオです。

その形式を選んだ理由は何だったんですか?

黒板がよかったんですけど、黒板を使うとすると、場所を借りなくちゃならなくなるのでお金がかかるじゃないですか。今は、Youtuberとして収入も出てきましたけど、初めて最初の1年間は無収入でやっていたのでお金がかからない方法を考えました。ホワイトボードなら家でできるなと思いました。手書きにしている理由は、とにかく無機質なものにしたくなかったからです。そこには、こだわりました。

なるほど。でも、葉一さんの場合は、自分自身が画面に出てきて、顔を出して、「葉一です。こんにちは。」とか、やらないじゃないですか。無機質にはしたくないけど、自分は登場しないという立ち位置ですよね。そこには、どのような考えがあるのですか?

動画を配信するときに、主役は自分ではなくて板書だと思っているんです。自分なんかどうでもいいんです。板書がちゃんと見やすくなる状態を作りたいし、邪魔になりたくないんですね。「ちょっと見えないんだけどー」という状態を動画の中で極力減らしたいんです。それで、登場しないようにしています。

それって、葉一さんにとっては普通のことかもしれないですけど、自分を商品にしている多くの塾講師や予備校講師にとっては、難しいことですよね。葉一さんは、サイトの名前も「とある男が・・」としているじゃないですか。サイト名も、同様の考えに基づいているんですか?

そうですね。

僕なんか、「田原の物理」ですからね。真逆のスタンスでやっていますね(笑)。

もろですね(笑)。

教師が物理的にも立場的にも「上」に立って教えるというスタンスとは、正反対何ですよね。「下」から支える動画という感じですよね。

そうですね。

最初に「自己ブランディング」みたいな考えに慣れた視点から見ると、葉一さんの動画は、どこがよいか分かりませんでした。でも、みんながすごい高評価なので、これは、評価ポイントが違うんだなと思って、自分の視点を外して学習者の視点から見直してみると、板書がよみやすいとか、講師が板書を隠さないように気を付けているとか、声が聞きやすいとか、口調がやさしいとか、いろいろなところに細やかに気配りして、丁寧に動画を作っているというところが評価ポイントになってきて、良さが見えてきました。

Youtubeにアップした動画は、どのように使われているのか

実際に動画をUPしてみて、葉一さんが想定していたような使われ方がされているんですか?

予想外だったのは、学生じゃない方が見てくれていることですね。社会人の方もいます。すごく多いのは、20-30代の女性で、看護師試験を受ける方ですね。海外在住の日本人の方も見てくださっていますね。このあたりは、ものすごい予想外でしたね。

ネットで配信すると、これが起こるんですよね。僕のフィズヨビでも、高校生をターゲットにして始めたのに、実際は、受講生の半数が社会人ですからね。子供たちは、どんな使い方をしていますか?

いろいろな使い方をしていますね。この動画で先に勉強してから学校で勉強している人もいるし、学校や塾で分からなかったところの動画を探して、補填として見ておこうという使い方をしている人もいます。教科書を全部網羅しているので、そういう使い方も可能になっています。

両親が葉一さんの動画を探してきて勧めるケースが多いんですか?それとも、子供が自分で見つけるんですか?

子供自身が検索して見つける場合もありますし、親御さんが見つけてきて、子供さんに見てみなさいというケースもあります。最近は、子供同士の口コミが増えてきましたし、親御さん同士の口コミも増えてきましたね。あと、「塾の先生や学校の先生から聞きました。」というケースも出てきました。

先生からも推薦があるってすごいですよね。僕も、先週、学校の先生に勧めておきましたよ。公立の中学校とかだと学級内での学力格差が大きいということだったので、「とある男が授業をしてみた」とかeboardとかのことを教えて、「家で見てごらん」って勧めてみたらどうでしょうかと話しました。

ありがとうございます~。

ここにオンラインで講義配信をする可能性の1つが見えていると思います。ある特定のターゲットに向けて講義を作ったとしても、オンラインで公開すると、全く想定していなかった属性の人がその講義を利用するようになります。向こうから探してきてくれて使ってくれるのです。これは、僕の運営している物理ネット予備校でも起こっていることですし、Khan Academyでも起こっていることです。つまり、教育サービスのターゲットにならないロングテール層に、学びのチャンスが生まれているんですね。

動画を使って学べるようにするための工夫

実際にリアルの場で教えるのと動画の違いは、どんな風に感じられていますか?

動画のメリットは、何回でも同じことを繰り返せることですね。これは、教える側にとってもメリットだと思っています。個別指導をやっていたとき、勉強が苦手な子が多く、同じ説明を何回もしなくちゃならないことが多いんです。二日前に教えたことを、きれいに忘れているなんてことがザラにあるんですよ。これって、動画にして繰り返し見てもらっても同じなんじゃないかと思っていました。

あとは、好きなところで止めたり、戻したりして、自分のペースで学べるのもメリットですね。

動画の長さって、どのくらいにしているんですか?

基本的には15分以内です。人の集中力が続くのは15分って、よく言われているので、15分以内で作るようにしています。

動画で配信するときは、生徒のモチベーションの管理って難しいと思うんですよ。そこに対して、アプローチしたりしていますか?

一時期、すごく悩んでいたんですが、結論としては、リアルほどのモチベーションの管理は望んじゃいけないと割り切りました。ただ、できることは2つあると思っています。1つは、メールで子供たちの相談に乗って気持ちを軽くしてあげるということです。やり取りの中で、「頑張ろうと思います」となってくれる子も多いです。もう1つは、純粋に「この授業は分かりやすい」と思わせることです。それができれば、絶対、モチベーションが上がると思います。だから、全部の動画を丁寧に作っています。

今ぐらい知名度が出てきたら、相談に応えるって大変じゃないですか?

超~大変です(笑)。以前は100%返していたんですが、今は、30-40%しか返せなくて。それでも、1日2時間とか相談メールに返信していたりするんですよ。相談に関しては、勇気を振り絞って書いてくれた子が多いので、できるだけ返しています。体が1つしかないので、ぎりぎりですけどね。

メールの文面を見ると、どんな思いでメールしてきたかって分かるじゃないですか。それは、なかなか無視できないですよね。

そうなんですよね。中には「自分で考えなよ!」と突き放したくなるメールもありますが、中には、本当に重い相談もあったりするんですよ。そういうのは無視できないですね。そういうときは、睡眠時間を削ってでも返しますね。

僕がすごいなと思うのは、重い相談をメールで送るというのは、「この人だったら受け止めてくれそうだ」というふうに思っているわけじゃないですか。授業で顔を出しているわけでもないし、今は、「はいちのだらだラジオ」をやっていますけど、それまでは、授業動画を見ているだけじゃないですか。その関係性の中で、「この人に相談してみよう」と思われるというのは、なぜなんですか。

「はいちのだらだラジオ」は、去年の年末から始めて、40回以上やってきて、その中で、自分が悩んでいる姿とかも全部話すんですよ。こういうことに悩んでいて、こういう壁にぶち当たっている。子供たちに、「悩みながらでも立ち止まらないで頑張っていけば、何か変わるんだよ。」ということを、自分の姿で見せたいんです。これは、動画活動の方針の1つになっているんです。たぶんですけど、ラジオを作るようになってから、人間味のところが伝わりやすくなった気がしています。

僕は、自分の人間味をネットで表現するのにメルマガを使っているんですが、声のほうが、圧倒的に感情が伝わりやすいと思いました。葉一さんは、関係性として、絶対に上に立たず、横とか斜め上にいる感じなのです。「僕もおんなじなんだよ。頑張っているんだよ。」という感じが、活動全体からにじみ出てくるんですね。

横とか斜め上の立ち位置を取る理由

生徒の上に立たないって、先生属性になると難しくなるじゃないですか。ついつい上に立って教えてしまいたくなる場合が多いと思うんです。どういうことを考えて、その立ち位置にいるんですか?

塾講師をやっていたときに、先生にはいろんな色があって、自分にはこのスタンスが一番合っていると思いました。上から言うよりも、ちょっと斜め上というか、横っていうか。励ますときには斜め上ですが、基本的には横にいて話を聞いてやりたいスタンスです。これが、自分にとって一番心地よいスタンスなんです。

でも、このスタンスを取っていると、結構、叩かれるんですよ。

え?叩かれるんですか?

結構、言われますよ。動画の中で、最後に「見ていただいて、ありがとうございました。」で必ず終わるんですけど、「先生が、ありがとうございますというのはおかしくないですか」とか言われたりしますね。先生は上の立場と思っていらっしゃる方は、そういう意見なんだと思うんですけど、自分は、なんで感謝を言うのかというのも、こだわりがあって言っていることなんです。まあ、そのこだわりを伝えたところで、けんかになっちゃうんですけど。

「先生がありがとうというのはおかしい」というのは、教育のパラダイムシフトのポイントだと思うんですよ。僕が予備校講師のときには、カリスマ性をまとえなかったタイプなんですけど(笑)、立場的に、教壇というステージに立って、マイクを付けて70人とかに向かって一方的に90分間話すわけですよね。そのときには、構造上、上に立たざるを得なかったんですよね。でも、動画にしたことで、生身の自分がそこから降りられたんですよ。授業はもう動画にしてしまっているから、ある意味、自分と切り離して、生徒が学習するための素材として、もう一人の自分がそれを使うという感じなんです。今は、Web教室に受講生を集めてオンラインで反転授業をやっているんですが、そこでは、完全にファシリテーション役で、とにかく生徒がアウトプットできる場を作ってモチベーションアップすることに集中できるんです。それをやるようになって、背負っていたものを全部おろして、学習者が勉強できるように裏方に徹することができるようになったんですよ。関係性も、上じゃなくて、斜め上とか、横に降りてくることができました。僕にとっては、こっちのほうが、居心地がいいし、楽しいんですよ。

葉一さんの活動を見ていると、コンセプトがすごくブレずにはっきりしているから、すべての活動がつながっているんですよね。「とある男」というサイトのタイトルも、動画に自分が登場しないことも、動画の最後に感謝を述べることも、ラジオも、すべて一本の線の上に乗っているんですよね。これが、メッセージがきっちり伝わっている理由の一つなんじゃないかと思いました。

コラボレーションについて

知名度も上がってくると、コラボレーションの誘いとか来ませんか?

今は、来ますね。

現状では、一人でサイトを運営しているじゃないですか?コラボレーションについては、どのように考えていらっしゃいますか?

基本的に、受けるものは受けるというスタンスです。今年の自分の方針が、「知名度を上げる」ということなんです。コラボしたら、知名度は上がるじゃないですか。なので、体が足りる範囲であれば、コラボはしています。いろいろな塾で使っていただいたりしています。

eboardさんとか、manaveeさんとか、コンセプトが近い活動も出てきていると思いますが、葉一さんは、それらの動きに対して、どんな印象を持っていますか?

目指しているところは、似ていると思います。教育格差や地域格差を両者とも出されているので、気持ちとしては、お互い頑張りましょうという感じです。

良質の動画講義をインプットのための素材として使い、リアルの場にいる先生がコーチ役として勉強をサポートするという方法は、今後、大きな可能性があると思います。そのような可能性を、葉一さんの動画が生み出していると思います。

葉一さんが考える日本の教育の姿

「はいちのだらだラジオ」で、いつか情熱大陸に出たいと話していましたが、情熱大陸についてうかがっていいですか(笑)?今やっていることのモチベーションって何なんですか?

今、この瞬間、がんばれるのは、毎日もらえる子供たちからもらえるコメントですね。それがなければ、絶対に心が折れてやめてますもん。

あとは、情熱大陸もそうですけど、何年かあとに、教育がこう変わっていてほしいというコンセプトがあって、日本がそうなっている姿を妄想すると頑張れます。変えていかなければならないと本気で思っています。

葉一さんが考えている何年か後に変わっていなければならないという日本の姿って、どのようなものなのですか?

現在は、公教育や塾というお金を払って学ぶという二本柱で支えていると思います。でも、これからは、それじゃ成り立たないですし、今でもすでに崩壊気味だと思います。manaveeさんとか、eboardさんとかもそうですけど、無料で子供たちが選んでできる教育という3本目の柱が立たなければならないということを本気で思っています。manaveeさんとか、eboardさんとかは、団体になっていますよね。団体を作るというのはハードルが高いと思うんです。自分もそう思っていたんです。その点、自分がやっている教育Youtuberというのは、好きなときに始められますし、日本のトップYoutuberのHikakinさんのおかげで、Youtuberという言葉もだいぶ浸透してきたので、2020年までに、子供たちが、「お前、誰の授業見てんの?」「俺、あの人見てんだけど。分かりやすいよ」みたいな会話が普通にされているような世の中にしていたいんです。そのためには、教育Youtuberで生計が成り立つんだということを、モデルとして自分が見せないといけないと思っています。

教育Youtuberのロールモデルとしての自覚があって、教育Youtuberという存在をムーブメントとして増やしていこうということなんですね。

はい。そうなんです。ゲームとかそういうジャンルだけじゃなくて、教育という真面目な分野でもやっていけるということを見せれると思うんですよ。Youtubeに詳しい方とお話ししたときに、ゲームや商品紹介に比べて、教育という真面目な分野だということで、Youtubeのほうで広告の収益率が高く設定されているらしいんです。それで、再生回数の割に収益が高くなるということになっているみたいなんです。

子供たちからはお金をもらわないで生計を立てるというのが葉一さんのコンセプトなので、広告モデルということになるんですね。

そうですね。

広告モデル以外で、第3の柱というコンセプトを維持したまま、収益化するというアイディアはありますか?

それは、すごく模索しています。塾で使っていただくというところが少しずつ出てきて、そういうところからも多少は収益も上がってきています。でも、できれば、Youtubeだけでも、ここまで行けるんだよというところを見せたいです。

Youtuberという制約の中でも、これだけできるんだというところを見せることで、Youtubeに講義動画をUPしていこうという人が増えればということですね。

そうですね。あとは、実際に先生になろうという人も出てきていて、そういうことを言ってくれたりするので、うれしいですね。教育が全体として盛り上がっていくといいですよね。

教育Youtuberって、今、他にもいるんですか?

教育Youtuberという名前を作ったのは自分なのですけど(笑)、教育関係では、ほぼ、皆無だと思います。

葉一さんには、教育に対して明確なコンセプトとビジョンがあって、様々な活動がそのコンセプトに沿って行われています。教育の第3の柱を実現するために、教育Youtuberを増やしたい、そのために、教育Youtuberで生計を立てられることを示したいというように、いろいろなことがコンセプトに沿って一本の線でつながってきます。このようなブレない姿勢ですべてが貫かれていることが、葉一さんの活動の特徴だと思いました。

講演会を開いて、子供たちと交流したい!

知名度が上げるという目標も、教育Youtuberという存在を増やして、教育の第3の柱を作っていこうという目標につながっているんですね。

そうですね。あとは、講演会とかをやりたいんですよ。子供たちとリアルにつながってみたいんです。たとえば、ある県に行って、その近くに住んでいる動画を見てくれている子供たちと会って、勉強じゃなくてもいいんですけど、交流をするというのをすごくしたいんです。そのためには、知名度が上がらないと、その県に行っても二人とかしか集まらなかったりしたら、できないじゃないですか。だから、ある程度の知名度がほしいと思っています。

それが、たとえば1-2年後の目標として、Webのミーティングルームに集まってもらって、そういう交流をするというのはどうですか?

Webのミーティングルームは使ったことがないんですよね。できますかね。

30人でも100人でも集まれますよ。今度、説明しますね。

「とある男が授業をしてみた」の知名度は、確実に上がってきています。Facebookグループで聞いてみたところ、子供に見せて勉強させているという親御さんからのコメントが多数ありました。動画は作った分だけ蓄積していきますし、口コミでも広がっていきます。一方で「動画を使って学ぶ」という学び方も広がってきているので、相乗効果が起こり、近いうちに閾値を超えて一気に広がる可能性が十分にあると思います。

自分にとって教育というのは恩返しなんです。

葉一さんもその一人だと思うんですが、内発的動機で立ち上がってくる人ってすごいなと思うんですよ。そのモチベーションは、どこから来るんですか。

自分にとって、教育というのは恩返しなんですよ。恩返しっていうのは一生かけてするものなので、死ぬまでやっていくだけですね。自分にとってはモチベーションが切れるということはないです。

そういうものが、教育を変えていく力の核になっていく気がするんですよ。

自分よりも分かりやすい授業ができる人って、何人もいると思うんですよ。ただ、動機がそこにあって、子供たちのためにというモチベーションが高いという点では、こういう仕事をしている人の中で絶対に負けないと思っているんです。そこで負けちゃったら、ダメなんです。だから、これからも続けて頑張っていきます。

「恩返し」というのは、葉一さんの活動の根底にあるものだと思うんですが、それには、どのような意味が込められているんですか?

自分は、中学生のときにいじめを受けていて、人間不信になりました。それで、鬱状態みたいになってしまっていたんです。高校のとき、ある数学の先生と出会って、その影響で自分が変わることができたので、これはすごいと思って、自分も教師になるために教育学部に進みました。

教育実習に行ったときに、授業中だったのに屋上に女の子3人がいたんですよ。普段は、そういうときに声をかけられないんですが、そのときは、普通に声をかけに行ったんです。そしたら、彼女らは、保健室登校している子たちで、そのうちの一人は、自殺未遂をして、数ケ月前まで入院していたんですね。話していくうちに、自分のある部分とシンクロしたのかもしれないんですが、この子たちのために教育実習の2週間を使おうと思ったんです。

それで、単位がとれるギリギリまで授業出ましたけど、あとはずっとサボって、その子たちと話をしていたんですよ。

自殺未遂をしていた子は、親御さんが開業医の方で、すごくお忙しい方だったんです。あるときに、お母さんのご飯を最近食べたことがないというので、朝4時に起きて、その子に弁当を作ることにしたんです。おいしくなかったんですけど(笑)。それを食べてくれて、すごく喜んでくれたんです。それをきっかけに、お母さんが気づいてくれて、すごく久しぶりにお弁当を作ってくれたんです。そのあと、その子がお弁当を作ってくれたりとかしたんですね。それで、お別れするときに、「もう自殺未遂しないから。絶対、私、生きていくから。」って言ってくれたときに、自分が人のためになるんだということが分かって、自分の中ですごく変わったんですよ。自分も、実は、自殺未遂とかをしていたので、そこから、自分も自殺未遂をしなくなって、ぐだぐたしていた自分がそこで死んだんです。

あの出会いがなければ、今、こうやって頑張っていられないですし、もしかしたら生きていないかもしれないので、あのときもらったきかっけは、一生かけても返さなければならないと思っています。その子たちは、もう成人しているんですけど、教育というのが一番好きだから、今、勉強している子たちに恩返ししたいというのが、今の自分のモチベーションです。

そういう背景があって、葉一さんからは、言葉や表情の一つ一つから、強さというか、覚悟というものを感じるんでしょうね。すごく穏やかそうな方なのに、ある種の迫力があるんですよね。

そうですね。そこに関しては、腹はくくっていますね。

葉一さんにインタビューさせていただいて気がついたのは、一見すると穏やかそうな雰囲気を醸し出しているんですが、ときどき、ものすごいオーラを出してくることです。これは、何なんだろうと思いながらお話をうかがっていたのですが、最後までお話をうかがって、それが「覚悟」から生まれるものなのだということが分かりました。

第3の柱を立てることが恩返しになるというゆるぎない覚悟があって、すべての行動がそこから導き出されているんですね。だからこそ、「とある男が・・」というタイトルも、動画に自分が登場しないことも、動画の最後に感謝を述べることも、教育Youtuberと名乗ることも、すべてが目標に向かって見事につながっているのです。これには、本当に感動しました。

葉一さんが引き起こすムーブメントに「反転授業の研究」も、何かしらの形で関わっていくことになると思います。

[参考リンク]
とある男が授業をしてみた
はいちのだらだラジオ

※葉一さんにコラボレーションや仕事の依頼で連絡を取りたい方は、こちらのアドレスにメールを送ってくださいとのことです。haichi_4_leaf@yahoo.co.jp

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