千葉市公立中学校学校教諭 篠崎伸子さんにインタビュー

篠崎さんは、中学生の英語の授業にタブレット端末(iPad)を導入し、アクティブラーニングをやったり、プレゼンテーションをさせたりする授業を展開しています。

また一方で、マレーシアやスリランカの先生と連携して、国際交流学習を行った経験をお持ちです。

篠崎さんが、ICTを使い、このようなエキサイティングな授業をしようと思った背景を知りたくて、篠崎さんにお話をうかがいました。

英語教師になったきっかけ

篠崎さんが英語教師になろうと思ったきっかけは?

子ども時代、漫画ばかり描いて完全に落ちこぼれでしたので勉強がわからない気持ちがよくわかります。どんな子どもでもきっかけさえあれば学び、変わることができると信じています。
また、英語に関しては、中学2年で3人称単数の動詞にsがつくことすら知らない状態でした。中学校を卒業するころ、初めて自分の年齢に近い外国人と話せてから世界が変わりました。その日から英語を話せるようになりたくてラジオ英会話等で学びました。

篠崎さんが教師になった最初のころは、どんな授業をされていたのですか?

とにかく楽しければ、勉強するということをモットーにひたすら楽しく勉強をすることを求めていました。若さと勢いで、比較級・最上級を学ぶときは腕相撲大会をしたり、ALTとも様々なゲームをつくりました。

そのときに、どんな課題を感じていらっしゃいましたか?

きちんと系統だてて学ばせていない。きちんとした学力を身につけさせる必要があると感じていました。

勉強ができなかった自分が大きく変わったという経験から、「どんな子供でもきっかけがあれば学び、変わることができる」という信念を持って取り組まれているところが、篠崎さんの活動の核になっているように思いました。

マッピングを授業に導入

マッピングを導入したきっかけは?

生徒指導が困難な学校にいて、大切なのはどんな環境、どんな子どもにも教えられる技量が必要だと感じました。授業が命で、どんなにまわりが大変でも教科学習ができる教師になりたいと考え、伝統校に異動し英語に関わる仕事なら何でも引き受けて勉強しようと誓いました。実際は、行った先でも生徒指導が大変な時期に研究を引き受けることになりました。生徒指導が困難な中で、すべての生徒を座らせて1時間もたせられる唯一の方法が、手書きのマッピングでした。
手書きと言うのは、ICTが苦手だったのと、時間がない中でフリーハンドで描けて、何にでも応用できる便利な手法だったからです。

具体的には、どのような授業をされたのですか?

下位から上位まで、様々なレベルの子どもたちに英語の読解文をさせるのは至難の業です。そんな時に、絵や写真を入れて吹き出しに入れるセリフを教科書から読解して書かせたり、スピーチを書くためにマッピングをさせました。
すると、できない子は日本語で単語を並べ、できる子は英語でマッピングし、それぞれが絵を描くように自由に取り組めました。

マッピングを導入していかがでしたか?

1時間座って活動ができるようになりました。文字だけのプリントでは取り組まない生徒が取組めるようになったのはメリットでした。攻撃的で勉強をせずに教室を出てしまう生徒がいたのですが、ある日、アフガニスタンで裸で座っている子どもの写真をみてどんな環境かを想像して
吹き出しマッピングに取組ませたところ、とても真剣に取り組みました。自分の小さい妹とダブらせてみていたようで、心配している様子が伝わりました。アルファベットすら書けないその子が、メッセージの欄にNever give up!と大きく書いたのを見て感動しました。
マッピングは思考を引き出したり整理したりそれぞれのレベルとペースで取り組めるのがよいと思いました。

「どんな子供でもきっかけがあれば学び、変わることができる」という篠崎さんの信念が、生徒指導が難しい状況でも、子供の可能性を信じて英語の授業を成立させようという試みにつながり、マッピングというやり方にたどり着いたとのですね。マッピングを導入したメリットとして、それぞれのレベルとペースで取り組め、授業に参加できない生徒を作らなくて済むとという点を上げたところが、篠崎さんらしいと思いました。

※篠崎さんのマッピングの活用についての論文をこちらで読むことができます。「表現力を高める「書くこと」の活動 ―マッピングを活用して― 」

eJournalPlusを使った取り組み

その後、eJournalPlusを授業で使うことになるのですよね。導入するきっかけは、どのようなことだったのですか?

上記のマッピングを活用したライティング活動を研究として市で発表したところ、翌年に千葉県総合教育センターからコンピュータでマッピングをしませんか、という話をいただきました。5年前ICTは本当に苦手で、携帯のメールすら打てなかったのですが、県総セの協力を受けて授業を展開することにしました。

当時、望月俊男(専修大)先生らによってeJournalPlusというWindows用のソフトが開発され、それを活用したときの学習効果の研究がされていました。ソフトを起動すると、画面の左側に文章が表示されます。そこから、文章をコピー&ペーストで右側に抜き出してナレッジマップを作ることができます。また、ナレッジマップをもとに文章作ることができます。それまでにやってきたマッピングをPCでできるのはすごいと思いました。このソフトは、思考力・判断力・表現力を育成するためのツールで、国語の学力を上げることは確認できていたのですが、英語ではまだ活用されていなかったので、英語の授業でも学力を上げることができるのか検証することになりました。

※eJournalPlusの詳細はこちらをご覧ください。

実際にeJournalPlusを使ってみていかがでしたか?

教科書なら英文の素材が限られていますが、ICTなら素材をいくらでも取り込めるのが大きなメリットだと思いました。このソフトを使うと文
の構成が分かるようになるんです。英文を書くのを助けるために表現集を作ってカテゴリから選べるようにしました。それを右側のレポートエリアにコピー&ペーストするだけでマップを作っていくことができるので、3文くらいしか書けなかった生徒が20文も書けるようになりました。これには、驚きました。

さらに、eJournalPlusにはコメント機能がついているので、他の人が書いた文章にお互いにコメントしていくようにしました。読んでいいなと思ったところはアンダーラインを引き、分からないところには質問をコメントするようにしたところ、Twitterのようにコメントがどんどん続いたりして、生徒が夢中になって取り組みました。

ICTの補助によって、表現できなかったことが表現できるようになり、お互いにコメントしあうという活動が学習意欲を高めたんですね。すごく面白いです。このとき、PCは何台使用していたんですか?

1台のPCを教室に持ち込み、時間を計って生徒が交代で使ってローテーションしました。限られた時間で友達の書いたものを急いで読み、コメントを書き込むので、読む文章の量が増えました。わたしの中では、eJournalPlusは最強のソフトで、私の授業の土台になっています。

※篠崎さんは、eJournalPlusを活用した授業実践が認められ、Microsoft教職員ICT実践活用コンテストで優秀賞を取られました。→リンク

※篠崎さんのeJournalPlusを活用した実践報告をこちらで読むことができます。

「いいと思ったところにアンダーラインを引き、分からないところに質問をする」というやり方は、先日行った小林昭文さんのAL型授業スキルアップ講座でも紹介されていました。安心・安全な場を確保しつつ、お互いにフィードバックを行うことができるやり方として、とても有効だと感じました。

eJournalPlusを導入して授業を行っても、篠崎さんの視点は全くぶれていないのがとても印象的でした。できなかった子が、ICTの補助をきっかけとして学べた、変われたというところに篠崎さんは着目しているんですね。そして、それが、新しいことを学びながら取り入れていく原動力になっているのだと思いました。

iPadを使った授業実践を始める

タブレット端末(iPad)を授業に導入されたきっかけは?

千葉市長期研修生として平成25年度の1年間、千葉大学の藤川研究室にお世話になることになりました。そこで20台のiPadとwifiモデム(WiMAX)を使わせてもらうことになり、自分のクラスでiPadを使った研究授業を行いました。

iPadを授業に使ってみて、どのように感じましたか?

iPadは、eJournalPlusが使えないし、「書く」という作業にはあまり向いていないと思いました。でも、ビデオを簡単に取れるとか、操作が簡単だとか、iPadならではの良さもあると思いました。

どのような授業をされたのですか?

中学3年生の4クラスを対象にして、「日本文化紹介」をテーマにしたポスターセッションの授業を行いました。プレゼンテーションとスピーチの練習にiPadのビデオを使用しました。
授業は5回行い、1回目の授業では、日本文化紹介に必要な言い回し、感情表現を学び、外国の人から見た日本の印象などを聞き取れるようにしました。2回目の授業では、ペアで相手に質問し、相手のことを紹介しました。第3回目は、日本のアニメ紹介をグループで行いました。第4回目は、ポスターセッション準備をしました。インターネットに接続したタブレット端末で発表内容を調べ、写真を取り入れ、書き込みをするなどして、ロイロノートというアプリを使って聞き手に分かりやすいプレゼンテーション資料を作成するようにしました。このとき、練習の様子をビデオに撮って振り返ることで、プレゼンテーションの技術を改善していくようにしました。5回目の授業が日本文化紹介についてのポスターセッションです。ポスターセッションは、次のように3ステップで行いました。
1)ポスターセッション(タブレット)
2) Q&A 発表グループが質問し、聞き手は英語で答える。
3)シェア 聞き手が感想を英語で述べ発表者がそれに答える。

外国の人から見た日本の印象の聞きとりは、どのようにして行ったのですか?

千葉大のEnglish Houseで留学生にインタビューして動画を作っています。複数の学生から、出身国、日本に来て驚いたこと、将来の夢、などパターンを決めてインタビューをし、ロイロノートにまとめ、自分のFB英語サイトに必要なインタビューをアップして使っています。
https://www.facebook.com/groups/528411697209748/

これを主にリスニング教材として使っています。ベールを被っているイスラムの学生が出てきた時は、宗教や文化の違いについても触れることができます。

マッピングにずっと取り組んできた篠崎さんが、ロイロノートを活用するのは、とてもよく分かります。あれも、いわばマッピングのアプリですよね。授業内で生徒同士のビデオ撮影は、どのように行ったのですか?

毎時間、授業の最後10分の中で、「1分間」の英語でスピーチを行い、ビデオに収録し、仲間と振り
返りをするという活動をしました。ビデオで撮るとよく分かるので表現力が伸びます。プレゼンの5つの要素である1)アイコンタクト、2)声の大きさ、3)態度、4)ハート、5)ゼスチャー、に注意を払わせて、生徒同士でお互いに気づいたことをフィードバックしながら練習させたところ、人前でも堂々と話せるようになってきました。

ビデオで撮るというのは、スピーキングやプレゼンのスキルを上げるのにとても効果があるんですね。マッピングが書くことを目的にしていたのに対し、今回は、話すことやコミュニケーションを取ることがテーマになっていると思いますが、このような授業をしようと思った理由はどんなことだったのですか?

私がとても影響を受けた本で、『SPEAKING OF SPEECH』という本があります。この本で学んだことが、ずっと私の中にあって、授業でやってみようと思いました。

実際にやってみて気づいたことはありましたか?

タブレット端末を使った語学の授業として大阪大学の岩居弘樹先生の先行研究がありました。(参考リンク

岩居先生のドイツ語の授業では、ドラゴンディクテーションを使って発音練習をしていたので、私の授業でも挑戦してみたんです。しかし、これが大失敗。わたしの授業ではクラスにiPadが20台だったので二人で1台を共有するという形だったのですが、これだとパートナーのことが気になってしまい「まちがうのが嫌」という意識が生まれてしまいました。また、英語を思ったよりもちゃんと拾ってくれないんです。また、WiMAXだけだと接続が弱いと感じました。Wifi環境で、一人一台じゃないと難しいということが、実際にやってみて分かりました。

手書き→PC→iPadと道具が変わっても、篠崎さんがマッピングという手法を使い続けているのが、とても印象的でした。マッピングは英文を作ることを助けるだけでなく、思考をまとめることもでき、そのまま、プレゼンの原稿にもなるので、非常に効果的だと思いました。

※篠崎さんのタブレット端末の活用についての論文をこちらこちらで読むことができます。

国際交流学習に取り組む

篠崎さんは、前任校で国際交流学習に取り組んでいました。海外の教室と連携して勉強することによって、どのようなことが起こるのかうかがってみました。

国際交流学習に興味を持つようになったきっかけは?

東大とマイクロソフトが開発したeJournalPlusを使った縁で、マイクロソフトのグローバルフォーラムに参加することができたのです。タイでアジアの先生方と5日間、ポスターセッション、ワークショップ、学校参観などを通し交流しました。それまでアジアの方と接することが少なかったのですが、どの先生も片言でも英語を通じさせよう情熱、また思いやりに魅了されました。となりのスリランカブースの先生方は、私が日本からきて一人でポスターを設置しているのを見て手伝ってくれたり、甘い手作りのお菓子をくれたりしました(笑)。
さらにワシントンDCで今度は世界中の国の代表の先生方と5日間交流をもちました。授業の概念が全く異なる国が多くあり驚きの連続でした。
その出会いから、facebook Skype等で交流が始まりました。

海外の取り組みとして、どんなものが紹介されていたんですか?

グローバルフォーラムでは、各国代表の先生方の様々な取り組みを学び合い教育の多様性を感じました。中でも、Willie Smits氏のDeforest Action projectに感銘を受けました。インドネシアの森は焼き畑で自然破壊が進む中、氏はオラウータンを保護し自然に返すために以下のような活動を行いました。他国の学校・生徒に参加してもらい、それぞれの国からそれぞれの生徒が衛星からネット上で分割された自分の土地を管理します。観察し、自然の生態、人々がなぜ焼き畑をするのか、その解決策を考えました。実際に生徒たちは、インドネシアの森のフルーツでジュース工場をつくれば商品を保存、出荷できそれで生計を立てられるのではないかと提案しました。現地に住む人たちに呼びかけ、日本で言うJA(農協)のような組織がつくられ、子どもたちが設計まで考えたジュース工場がつくられました。結果として、現地の人たちもこれにより生計が立てられ焼き畑をせずに、自然が取り戻されました。これを聞いて、ICTとは子どもたちを国を越えて教育に巻き込み、共に考え、行動にうつさせる力があることを実感しました。
https://www.facebook.com/deforestaction
http://dfa.tigweb.org/
その他にも、マレーシア、オーストラリア等ではKoduのようなゲーミフィケーションとプログラミングを兼ねた授業を展開しており、それらを通して国際交流をしていました。子どもたちの思考力がかなり身につく、生徒の動きがドラマチックにかわるよ、という話でした。http://www.kodugamelab.com/
他にもヨーロッパの国で、科学の授業で、殺人事件をグループで検証する授業などがあり、21世紀スキルを重視する教育に、教育の根本的なとらえ方の違いを感じました。

国際交流学習をどのようにして授業に取り入れたのですか?

マレーシアとスリランカの先生と協力して行いました。個人情報の管理等が厳しく、生徒の顔を出すようなSkypeは市として望ましくないとのことから、アジアの先生方のFBのクラスページをクラスで見せたりしています。Skypeはテキストチャットのみ使いました。
また、イラストが得意な生徒がアニメを描いてマレーシアの学校に送ったりしました。

アジアの国と交流している理由は?

時差が少なく、英語は第2外国語であるもの同志、構えずに会話がしやすく、また身近に感じます。

生徒に変化が生まれましたか?

生徒のプレゼンテーション能力が向上したのと、ICTがあると生徒が、自分から活動しようとします。

意識や学習意欲、将来の目標などの点で、生徒に変化はありましたか?

今まで、将来は緒方貞子さんのように国際社会で貢献できるようになりたいという生徒がいたり、スリランカの学校から奈良公園について教えてほしいと言われて調べたり、靴も十分でない生徒が自分たちで学校をつくる様子を見せたり、他国、特にアジアの国が身近に感じられるようになったようです。
私自身、20年以上この仕事をしていますが、ALTはアメリカ、オーストラリア、イギリスなどスタンダードな英語しか触れてきませんでした。アジアは時差も少なく、リアルな国際交流をするにはよいのではないかと考えています。

篠崎さんに、国際交流学習のパートナーを見つける方法を教えていただきました。

Skype in Classroomにアクセスすると、国際交流学習に関心のある様々な国の先生とつながることができます。また、国際交流学習に関するFBグループを立ち上げていますので、関心のある方はアクセスしてみてください。→ 国際交流学習の研究

篠崎さんのすばらしいところは、「どんな生徒でも学べる、変われる」という信念に基づいて、授業を工夫するために篠崎さん自身が学び続けているところだと思います。苦手意識があるというICTに取り組んだり、大学院に研究しに行ったり、海外の教室とつないだりと、篠崎さんが意欲的に学び、世界が広がる度に授業が変化し、さらに工夫するために学ぶというサイクルが出来上がっているのです。そのサイクルを長年にわたって回し続けた結果、学びと経験が何層にも積み重なって、今の授業が出来上がっているのだと思いました。また、篠崎さんのように、教師が失敗を恐れずに挑戦する姿を見せることが、何よりも、その背中を見ている生徒にとって重要な学びになっているのではないかと思います。そして、このサイクルは、今も回り続けているので、今後の篠崎さんの授業改善にも目が離せません。

生徒間の学力差が大きかったり、生徒指導上の問題があって授業をすることが難しいと感じている教師にとって、落ちこぼれを作らずに、生徒のレベルやペースに応じて取り組める篠崎さんの取り組みは、非常に参考になるのではないかと思いました。

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