尾木ママの「反転授業批判」について

「反転授業の研究」の田原真人です。

反転授業の是非については、いろいろな方がいろいろな意見を出しています。

僕自身は、教育にITを利用すれば、教育実践の可能性が広がり、これまで解決できなかった課題を解決できるのではないかと期待しています。

最初からすばらしい実践が生まれるというのは難しいので、リスクを管理しながら、仮説と検証をくりかえし、その結果をシェアして発展していくとよいのではないかと思い、実践例を共有できる場の構築に取り組んでいます。

また、実践者の方にインタビューを行い、現場で生み出される知恵を共有するためのメディアになろうともしています。

そのような活動の中で感じることは、現段階では、「現場で生み出される知恵」のほうが、理論よりも先に行っているなということです。

そのため、反転授業に対する批判を読むときには、それが、現場の実情に即しているのかどうかということをポイントとして読むようにしています。

 

少し前に、尾木ママがブログで反転授業についてコメントをしたことが話題になりました。

Facebookグループ内でも紹介され、ディスカッションになりました。

尾木ママの記事はこちら→ 小学生の「反転授業」は間違いです!

 

反転授業を小学生に実施することができるのかどうかという意見は、これまでにもありました。

その多くは、「家庭学習が身についていない小学生が、予習してくるなんて無理じゃないのか」というものでした。

実際、eboardの中村さんの報告などでも、動画の魅力によって予習させるという方法は難しいという話でした。

→ 小学生に反転授業は可能か?実践例から学ぶ

一方、富谷町立東向陽台小学校の佐藤先生の授業では、小学5年生の児童がほぼ100%予習してくるという報告もありました。

→ 富谷町立東向陽台小学校の佐藤靖泰教諭にスカイプインタビューしました

これらから、映像だけで学習意欲を高めるのは難しいが、きちんと授業設計をして、「教室でのグループワークで活躍するために、動画を見て準備してくる」という形で誘導すれば、十分に機能するということが分かりました。

反転授業に対する否定的な意見をもとに、実践例を検討して、成功するための方向性を見つけることができたという点で、とてもポジティブな経験でした。

 

さて、今回、教育評論家の尾木ママこと、尾木直樹さんの記事についても、その意見を検討して、反転授業の理解を深めるための刺激として使わせていただきたいと思います。

タイトルを見ると、「無理だ」ではなく、「間違いだ」と書いてありますので、新たな視点からの批判だと思います。

そこで、何が間違いだとおっしゃっているのかを、ブログ記事から読み取ってみたいと思います。

尾木さんが批判しているのは、あきらかに佐賀県武雄市の取り組みについてです。

上記の記事だけでは、尾木さんの論点が分からなかったので、2014/3/13の次の記事を読むと、もう少し詳しく載っていました。

→ 学校と家庭の役割、予習と復習の特性の「反転」?

 

太字が尾木さんのコメントです。

 

・本当に効果あるのか国立の小学校か一部の小学校で実験してからというのが普通ではないでしょうか!?

武雄市では、武内小学校や山内東小学校で実験してから、全体に導入することになりました。検証が十分かどうかは分かりませんが、尾木さんがおっしゃっているような手順を踏んでの導入になっています。

 

・学校で先生から学び、友達の発表聞いたりしたことを定着させる復習、家庭学習の中に、実は次の予習のヒント・予習効果が潜んでいるのです

・だから、復習をしっかりやれば、学校での新しい学習がよく分かるように教科書は出来ているのです!!

・学校の教師ならこんなこと常識のはず

復習をすれば、それが、次の学習の予習効果を含むという意見で、確かにそのような効果はありそうです。

 

・タブレットを子どもたちが使うのはいいのですが、家で予習するツールとして使うためというのは、無茶苦茶ではないでしょうか?

なぜ、無茶苦茶なのかがよく分かりませんでした。これは、今後、補足していただける機会を待ちたいと思います。

 

尾木さんの記事を読んでいて、もしかしたら、尾木さんは、理科と算数の全時間で反転授業を実施するというように誤解されている可能性があると思いました。

実際には、教師や生徒の負担を考えて、単元を限定しての導入になるはずです。東向陽台小学校の佐藤先生の実践でも、算数の比例反比例の単元だけに反転授業を導入していました。

尾木さんが指摘されている「旧来の教育のよさ」を維持しつつ、一部の単元に対して、新しい試みを行うという取り組みをし、実際に教育効果を測定して比較することができれば、教育業界全体にとって有意義なことなのではないでしょうか。

また、東向陽台小学校の佐藤先生によると、一部の単元に反転授業を導入したことで、他の単元や科目への取り組みやコミュニケーションの取り方に変化が見られるようになったそうです。

同様のことが、武雄市でも起こるのかどうか注目です。

 

この件について、実際に武雄に入り、教師とディスカッションしながら教材を作っている古山竜司さんに話をうかがいました。

—–  古山さんの話 —–

TBSの報道、そして尾木ママのブログにより反転授業って結局何なの?みたいなものが曖昧になってきたので補足しておきます。

反転授業がいい、悪いという議論には私は興味がありません。先生方が必要だと思うものを使える環境にすることが、私のミッションです。

あくまで私の私見ですので、武雄市、ワオは関係ありません。

武雄市は市内全11小学校で、5月から反転授業を実施。
対象学年は3年〜6年の算数と理科
すべての授業を反転にするわけではなく、
各単元から2〜3コマ反転学習として実施。
イメージとしては、各科目週に1回、そして月に4回くらいです。
ですので、算数と理科なので、週に2回、月に8回くらいでしょうか。
動画の時間は5分〜10分

タブレットを長時間すると視力の影響があるんじゃないかと考えられる人もいると思います。ですが、これだと一日長くて10分程度の動画ですので、それほど問題はないと思います。

次に教材についてですが、これは塾や出版社に丸投げをしているわけではなく、
基本的には先生方の教案を元に動画をつくりこんでいくという共同作業です。
もちろん、完成するまでに先生方のチェックが入ります。

これまでの公開授業(11月、1月)では、子供たちの反応としては、

動画が分かりやすかった。
家で動画をみて学校にきて復習できるので楽しい。
など肯定的な意見です。

先生方も、子供たちが事前にどれくらい理解しているのかを把握しながら指導できるので役に立つなどの意見を頂きました。
一方で、やはりしんどい子にはタブレットの動画は難しいという意見もありました。

そして、反転授業の目的が小学校〜大学ではかなり異なるということです。
反転授業というと家で予習してきて、しておかないと授業についていけないというようなイメージがあるかと思います。

しかし、武雄では、予習をしてきた上で、分からなかったところや難しかったところを話し合いや学び合いで解決していく!というところに力をおいています。

動画をつくるときにはもちろんどんな生徒でも分かるように非常に丁寧につくります。ですが、そのときに、分からなかった子がいたとしても、その習熟度はチェックすることができ、理解度に応じて授業を組み立てることができます。

こればかりはやってみないと分からない部分もあります。生徒にとっても先生方にとっても初めての試みです。いろいろな問題がでてくるかもしれません。

でも、反転授業をすることによって、私は研究授業での子供たちのキラキラした目が忘れられません。すごいなぁ。ITの力で子供たちがどんどん発言し、いろいろな物事を考える力がつけばいいのになと思うのです。

反転授業じゃないと力はつけられないの?というとそうではないでしょう。しかし、この授業スタイルを使うことによって、子供たちの学力や教員の養成につながるのであれば積極的に利用していくといいと思います。

私は、反転授業を利用すれば、生徒も先生もハッピーになると思うのでコンテンツを一生懸命つくっています。

—– ここまで——

 

現場は、常に進化しています。

僕は、その現場の声を抽出して広める拡声器の役割をしたいと思っています。

その中から、お互いに参照しあって改善する流れが出てくればいいなと思っています。

 

 

 

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