山本崇雄著『はじめてのアクティブ・ラーニング 英語授業』レビュー

オンライン教育プロデューサーの田原真人です。

2014年の12月に母校、両国高校を訪問し、授業見学をしてきました。

そのときに見学させていただいたのが、英語科の山本崇雄さんの授業でした。

授業見学のレポートは、下記の記事をご覧ください。

都立両国高校を見学して(上)― フォークダンスのように生徒が動く英語の授業

都立両国高校を見学して(下)― 教師の主体的な学びが生徒の主体的な学びを促す

山本さんの授業を見ていて、すごく印象に残ったのが、ペアを変わるたびに、相手に挨拶したり、お礼を言ったりするということでした。

ここには、なぜ、ペアやグループで学ぶのかということの本質にかかわるテーマが隠れているように思いました。

この度、山本さんが出版した『はじめてのアクティブ・ラーニング 英語授業』では、授業で行っている活動の背後にある考え方が種明かしされています。

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何を目的にしてアクティブ・ラーニングをやるのかを明確にし、その目的と様々な活動をリンクさせていくというところに、山本さんの授業の真骨頂があるのではないかと思いまいます。

山本さんの著書、『はじめてのアクティブ・ラーニング 英語授業』を読み、英語のアクティブラーニングの実践と、その背後の考えについて気が付いたことを書き連ねていきたいと思います。

ちなみに、僕のコメントも、表紙の裏に載せていただいています。

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自立した学習者を育てるためのアクティブ・ラーニング

本をめくると、一番最初に、

「自立した学習者を育てるためのアクティブ・ラーニング」

という言葉が、目に飛び込んできます。

また、英語のアクティブ・ラーニングを次のように定義しています。

①英語の「学び方」を能動的に英語で学ぶ活動

②英語を使って多様な考え方を能動的に学んだり、自分の考え方を表現したりする活動

このように、自分にとっての授業の目的、自分にとってのアクティブ・ラーニングの定義を作ることは、AL型授業を実践していく上で、非常に重要なことだと思います。

これには、2つのメリットがあると思います。

1つ目は、生徒と常に共有していくことで、生徒が、日々の活動を大きな目的に結び付けやすくなるというところです。

2つ目は、教師にとって、授業のやり方を試行錯誤するときの指針になることです。定義と目的が明確になっていれば、そこに照らすことで、授業実践を磨き上げていきやすくなるのです。

試しに、山本さんの目的が達成された状況の教室を思い浮かべてみます。

すべての生徒が「自立した学習者」であり、

英語の学び方を習得しており、

英語を使って多様な考え方を能動的に学ぶことができ、

かつ、学んだことを英語で表現することの重要性を理解している状況。

そのとき、教室で教師の役割とはどんなものになるのでしょうか?

生徒は自分たちで学び始め、それぞれが自分に合った学び方で学びながら、お互いに自分の考えを表現したり、お互いから多様な考え方を学び取ったりし始めるでしょう。

僕が見学した、山本さんの「教えない授業」では、まさにそのような状況が実現していました。。

山本さんは、前でタイムキーパーとしてベルを鳴らしたり、目標を確認したりするだけで、生徒が自分たちで協力し合いながら学びあっていました。

山本さんは、第1章で受験対策についても述べています。多くの教師が、授業をアクティブ・ラーニングに変えたら、受験対策が弱くなるのではないかと心配しているからです。

しかし、大学受験をゴールにせずに、それを通過点にしてその先も役立つ英語力をつけていくということは、同時に受験を通過できる力が自然に身についていくということでもあるのです。今後、「話す力」を測るスピーキングテストが受験に導入されるようになれば、普段から英語で表現することを鍛えている生徒たちは、さらに力を発揮することになるでしょう。

実際に授業見学した僕の印象は、「これを続けていけば、間違いなく英語力は伸びるだろうな」というものでした。授業における生徒の活動量が多く、生徒の頭の中が、まさに「アクティブ」になっているような授業だったからです。

すぐに取り入れられる授業の工夫

第2章、第3章では、英語のアクティブラーニングの具体的な実践方法が紹介されています。

1つ1つの方法の説明では、実際に使用しているワークシートなども公開され、具体的にやり方が説明されています。

さらに、冒頭で述べた目的との関係性が、いたるところに登場します。

方法+その背後の狙い

という組み合わせが、この本を価値あるものにしているのではないかと思います。

?たとえば、「ペアワーク」のところでは、活動の終わりに「Thank you」とパートナーに感謝の言葉を言うように指示したり、相手の良いところを発見するように指示したりするということが、大切なことだと言われています。

これは、生徒がクラスを自分の居場所だと感じることができたり、自己肯定感を高めたりすることに役立つと考えられているからです。

それは、「発音の学び方」にもつながってきます。ここでは、「教師がモデルを示す前に、生徒自身に発音させてみる」ということが提案されています。これは、間違いを恐れずに英語を話す態度を育てることが意図されています。間違いを恐れないで行動できるためには、教室が安心安全の場になっていることが必要なので、ペアワークでの大切にしてくることと深く関連してくるのです。

さらに、「勉強法の共有」では、各自が気づいた学びの本質を惜しげもなく披露していくことで、救われる生徒が出てくることが紹介されています。

ドリカムプランの産みの親の和田美千代さんは、アクティブラーニングの本質を、「互恵・共創・集合知」と言っていましたが、山本さんの授業でも、その精神が全体に広がっています。

自分だけで学ぶよりも、耳を傾けてくれる相手がいて、自分とは違う考え方を披露してくれる仲間がいて、そこに自分も貢献していくことで自己肯定感を高めながら学ぶことができるということに気付いたときに、自分も相手も生かしながら学ぶことができる自立した学習者になっていけるのではないでしょうか。

山本さんの授業には、そこへ向かっていくための様々な工夫が凝らされているのです。

生徒による授業

山本さんの「教えない授業」は、授業の一部を生徒に任せたり、教科書の内容を生徒だけで学ばせたり、というように、生徒の力がついてくるにしたがって、教師はコントロールを手放していきます。

そして、究極のコントロールの手放しが、生徒による授業です。

山本さんは、次のように語ります。

いつか授業全体を生徒に任せてみましょう。教師のコントロールを離れたとき、はじめて主体的な学びが生まれます。そして、この主体性は10年後、20年後の生徒の生きる力へとつながるのです。

山本さんの授業は、いろんな工夫がされていてすごいです。

でも、一番すごいところは、覚悟を決めてコントロールを手放すマインドだと思うのです。

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