教育システムと社会との不整合をアクティブラーニングは解決できるのか?
「反転授業の研究」の田原です。
反転授業に取り組むようになったことをきっかけに、日本の教育システムや、社会構造について考えるようになりました。
「なぜ、反転授業をやるのか?」
という問いについて考えていくと、どうしてもそこへたどり着かざるを得なかったのです。
工業化社会から知識基盤型社会へ
僕の出身は茨城県の日立市です。
日立鉱山の修理工場としてスタートした日立製作所が生まれた場所です。市内にはヒタチの工場が並び、クラスの友達の父母の多くがヒタチの工場、または、その関連会社で働いていました。
団塊ジュニア世代の僕が受けた当時の小、中学校は生徒数が多く、中学校などは45人クラスが1学年9クラスありました。
校内暴力の嵐が吹き荒れたころで、それを力で押さえつけるために強面の生活指導の教師がいて、学校のあちこちで教師が生徒に体罰を与えるシーンを見かけました。
部活動の先輩後輩の中にも同様の構造があり、先輩が後輩を殴るということも日常的に行われていました。
学校で厳しく言われていたのは、
・時間を守ること
・服装を整えること
・ルールを守ること
・先生に言われたことを、言われた通りにやること
ペーパーテストによる序列化を通して身に付いたのは、
・間違えずにきちんとやること
・作業を素早く完了すること
これらは、考えてみれば、工場労働者として不可欠のスキルですね。
決まった時間に必ず出社し、ルールを守って、間違えずに素早く作業すること。
新しい機械が導入されたときには、マニュアルを理解して、その通りに作業すること。
上司の言うことに疑問を持たずに、従うこと。
このような工場労働者としての在り方は、学校教育と一体化していたのだと思います。
そこでは、個性を伸ばすよりも、欠点を修正することに力が入れられます。
「規格」を満たしていない「部品」が1つでもあると、そこで流れ作業が止まってしまうからです。
このような資質が求められているのは、工場に限ったことではなく、工業化社会におけるヒエラルキー型組織一般に言えることだと思います。
ヒエラルキー型組織では、上から下に一方向的に情報が降りてくるので、それに従順に従うことが求められます。
そのような組織でのふるまい方は、教師が力で抑え込む学校、先輩が後輩に権力をふるう部活動などに適応することで身につけてきたのです。
しかし、グローバル化によって工場は労働力の安い海外へ次々に移転しています。
インド、インドネシア、中国、タイ、ベトナムなどには、たくさんの日本企業の工場が設立されています。
グローバル市場で価格競争をしていくためには、多国籍企業となって、労働力の安い国に製造拠点を移すのが有利だからです。
工場労働者を育成する教育システムに乗って立派な工場労働者になったとしても、働く先の「工場」は、次々と海外移転して減っていくわけです。
実際に、どのくらい海外進出しているのか調べてみました。
※国際協力銀行の資料を基に作成しました。(元データはこちら)
14年間で10%以上海外生産比率が上がり、2017年には約40%に達するという予測がされていました。
製造業を中心に繁栄した日本の社会は、否応なく大きな変化をしつつあります。
しかし、教育システムはかつてのまま「工場労働者」を排出し続けているのです。
日本の社会はどのように変化するのでしょうか?
グローバル化の波が押し寄せる中、多国籍企業に負けないように、より大きく、より強くを目指すのでしょうか?
それとも、価値観を転換して、新しい方向性を打ち出していく人が増えてくるのでしょうか?
そこに外から与えられる「正解」はありません。
誰かが答を与えてくれるのではなく、自分たちで協力して未来を創っていくことが必要になってくるのです。
しかし、工場労働者を育成する教育システムは、「自分たちで協力して未来を創る」ことを教えるよりも、考える力を奪い、生きる力を削いで、レールの上を言われた通りに走る生徒を育てる仕組みを内在しています。
この構造に気づいてから、僕は、大学受験をサポートしている自分の仕事に矛盾を感じるようになり、苦しくなりました。
学びを大学受験に特化してしまうことは、その人の幸せにつながるどころか、むしろ生きる力を削いでしまう結果になるのではないかと思ったからです。
その一方で、アクティブラーニングや反転授業に希望を見出しています。
これらは、教育システムと社会との不整合から来る矛盾を解消する可能性を秘めているからです。
正解を暗記して素早く処理するような学びではなく、分からないことを試行錯誤し、チームで協力して振り返りと気づきを積み重ねながら経験学習を進めていくという学びは、まさに未来を創っていくのに役立つ学びだからです。
そのような学び方で教科学習をすることで、必要な知識を学ぶことと、協力して未来を創ることのできるマインドセットの両方を身につけることのできる可能性があります。
文科省の動き
2020年の学習指導要領について、下村文科相がインタビューに答えていました。
なぜアクティブラーニングが必要なのか?
文科省も、教育システムと社会構造との不整合が問題と考え、教育システムを現状に合うように大きく変更しようとしています。
しかし、その変化が始まるまでに、あと5年あります。
目の前の生徒は、5年間、その矛盾を押し付けられ続けるのです。
社会で価値創造をしている人たちは、試行錯誤を繰り返し、振り返りと気づきを深めながら自分たちで道を創っています。
教室でも、生徒がそれと同じ方法で学んでいくことができれば、自分たちで考えて、未来を創っていく力を育てることができます。
それは、現行の学習指導要領でもできることですし、塾や家庭でもできることです。
大学受験の制約はありますが、アクティブラーニング型授業を通して、自ら学ぶマインドセットを身につけた生徒は、結果として受験も力強く乗り越えてくれるのではないかと思いますし、そこで身につけた力は、大学進学後に大きな財産になっていくものだと思います。
アクティブラーニングのオンライン講座
「反転授業の研究」では、9月1日より、アクティブラーニングスキルアップ講座を実施します。
アクティブラーニングの伝道者として日本全国を回って研修をしている小林昭文さん(産能大教授)を講師に迎え、5週間(途中1週間の休みあり)で、アクティブラーニングの実践をチームで磨き合います。
この講座は、アクティブラーニング型講座になっており、受講者は学習者としてアクティブラーニングを体験し、その体験を自らの実践に生かしていけるようになっています。
詳しい内容はこちらをご覧ください。
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