「反転授業の効果は試験の点で5%アップ」について

2013年9月18日にTech ClunchにGregory Ferensteinが投稿した記事が、世界中の教育関係者に注目されている。

記事のタイトルは、

The Flipped Classroom Boosts Grades 5%. Why That’s As Big As We Can Expect.

(日本語版はこちら)

 

反転授業(Flipped Classroom)を使用した結果、テストの点数が5%上昇したという内容の記事で、ICTをに関わる人にとっては非常に勇気付けられる結果である。

しかし、記事を詳しく読んでみると、いくつか疑問がある。

まず、5%という数字が、どのような条件で比較研究された結果なのかが記事からはよく分からない。

原典をあたってみようとしたが、「Academic Medicine誌とThe American Journal of Pharmaceutical Educationに載る予定」ということで、Gregory Ferensteinが、発表前の研究を研究者から説明されてこの記事を書いたということのようだ。

記事には、研究論文の投稿先がAcademic Medicine誌とThe American Journal of Pharmaceutical Educationという薬学教育系の雑誌であることと、「薬学部の学生の場合、反転授業を受けた者の方が講義型の学生よりもやや結果が良かった。」とあるので、5%という数字は、薬学部の学生に対して行った調査ということのようだが、その後、高校生や大学生へのタブレットの普及率の話が続き、比較研究の条件がはっきりしない。大学生向けの授業ということであれば、教授が動画講義やパワーポイントを使ったスクリーンキャスト動画などを作り、予習としてあらかじめ受講させておき、教室での活動をディスかションや実習中心にしたということであろうか。

 

記事中で、Gregory Ferenstein氏は、しきりに「5%というのはすごい」と強調するのだが、その数字が出てきた背景が分からない以上、5%という数字だけを取り上げて評価することは、現段階では難しい。研究発表が公開されるのを待ち、改めて検討したいと思う。

 

さて、5%という数字を除けば、オンラインと対面教育を組み合わせたほうが、オンラインだけ、または、講義だけよりも学習効果があるということは、以前から言われていることである。

その根拠となったのが、2009年に出されたアメリカの教育省の研究結果である。

現在は、2010年に改定された報告書を見ることができる。

これは、アメリカ政府がオンライン教育に予算を使うべきかどうかを調べるために、オンライン教育の学習効果を調査したもので、K-12(幼稚園から高校生まで)を対象に、2002-2005年に行われた調査を中心に分析し、さらに、2007-2009年の調査を考慮したとある。

この報告書は、反転授業の推進をサポートする証拠のように扱われているのだが、この報告書では、「反転授業(Flipped Class)」という言葉は、一度も使われておらず、あくまでもオンライン学習の学習効果を調べているというものだということである。

この報告書についての東大の山内教授の記事を引用する。

—- ここから引用 —-

報告書のExecutive Summaryから主要な知見を引用します。

・対面状況よりも、一部または全てオンライン学習を受講した学生の方が成績が高い。
・オンラインと対面を組み合わせた教授は、対面だけ、オンラインだけよりも効果が高い。
・オンラインが対面よりも効果が高い理由は、学習時間が延びたからである。
・効果は内容や学習者の特性に依存しない。

—- 引用ここまで —-

注意すべきは、これらの研究報告の元になるデータは、Khan Academyなどの現在のEdTechを用いたものではなく、一時代前の「オンライン教育」を用いた結果だということだ。

現在のEdTechをフル活用した反転授業が、旧来の講義型の授業に比べてどれだけの学習効果を上げるのかを示した報告書を、僕はまだ見たことがない。

だからこそ、Gregory Ferenstein氏の記事にある研究の条件を正確に知りたいのであり、論文の公開を冷静に待ちたいと思う。

 

 

 

 

 

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